Coolier - 新生・東方創想話

地を這う生き物・3

2016/08/12 00:13:14
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狩人にとって、標的の力を見誤る事は決してしてはならない事だが、ルーミアは今朝その決してしてはいけないことをやってしまった。命があるのは、運が良かったからだろう、しかし妖怪にとって幻想郷で人間を襲うことというのは、極めて安定した食料の獲得方法であり、幻想郷は妖怪にとっての楽園、襲う相手が博麗の巫女や魔術師、僧侶といった特殊な相手でなければ、人間がコメを炊いてそれを食うような気軽な気分でありつけるものではあった。
 一見して浮浪者のようなそれに襲い掛かると、浮浪者はトランペットのような口径の銃をルーミアの鼻先一寸で撃ちだした、間近で花火がさく裂したかのような衝撃と耳鳴りがして視界は真っ黒になった。しまったと思い逃げようと身をひるがえした時に、
風を切り裂くか、大きなものが通り過ぎるか判別のつかない音がして、ルーミアの右腕と右足の感覚がおかしなものになった。 しばらく石段の上で動けずにあがいていたが、ルーミアには見えなくなってしまった浮浪者のような人間は、ぶつぶつと不明瞭なことを呟いて、その場を去っていった。
 ルーミアが後々なぜ死ななかったのだろうと考えていると、やはり曲がりなりにも神社の領域で殺しをすることが良くないとその浮浪者が考えたのではないだろうか? という考えに至った。 めちゃめちゃに破壊されたルーミアの顔から視力が戻ると、ルーミアの右腕と右足は途中からなくなっていた、ルーミアはそれを拾い上げて

 しばらく人間を襲うのはやめておこうかな

と、ちぎれた腕と足をつなぎなおして、ふらふらと森の中に消えていった。




『地を這う生き物』



博麗の巫女、霊夢がかぐや姫の伝承よろしく幻想郷中の男どもに「私を手に入れたいものは来い」というお触れを出したのが1週間前。実際に出したのは八雲紫ではあったが、計画の開始当初、この企画の発案者であったかぐや姫本人様からは長い永遠の命の中で、せめてもの慰みとして「博麗の巫女ごときが赤っ恥を描くのが見てみたい」という至極控えめな娯楽を期待していたのだが、幻想郷中の権力者が種族問わずに博麗神社に集まった。
 現在はその二回目、一回目に博麗神社にやってくるのがやっとだった連中は、博麗神社の途中で何らかのトラブルに見舞われたか、そもそも諦めたのかといった理由でいなくなっていた。
あれほど境内に満杯だった男の群もいまは20名かそこらといったところだろう。
「ふんっ、まぁ二回目ともなれば人数なんてこんなもんよね」
「だが顔ぶれはスゴイな」
 月の姫輝夜と里の権力者の上白沢慧音もとい森近慧音はこっそりと参加者たちの顔ぶれを眺めていた。どういった経緯で連れてこられていたのか森近霖之助は奥様に無理に連れてこられて所在なさげに博麗神社の隅で縮こまっていた。
「霊夢がこの・・・その、集まりをしていると聞いたときは、その、耳を疑ったけど、うまくいってるようで安心したよ」
「やめて! だから違うのよ!」
 初恋の人の前で珍妙な立場に立たされている霊夢は、久しぶりにその人にあえてうれしいのか恥ずかしいのかそれともちょっぴりだけの寂しさと悔しさが混じっているのか、おおよそはそういう気分だった。
 境内に来ているのは、地獄の上役だとか、大天狗の一味だったり、天界のお偉いさんだったり、普段は絶対にお目にかかれないとてつもなく偉い連中だった。
「人間がいないね」
「まぁ霊夢にはこれはこれで合っている気がするぜ」
「どうせ妖怪巫女だし」と魔理沙が付け加えると、霊夢が魔理沙を蹴りまわし始める。
「うむ、一回目で人間はほとんど骨抜きになってしまったからな」
「骨抜き? ・・・まさか何か薬でも盛ったのか!?」
 霖之助が驚愕していると、慧音がそれをやんわり訂正した。
「いや、紫や藍の色香にやられたらしい」
「・・・?」
「殺してほしいんですの?」
「僕は何も言ってない」
 霖之助が実に不思議そうな顔をしていると紫が今までに見た子もない笑顔で霖之助に迫る。慧音がふんっと鼻を鳴らして、
「まぁ、うちのはそういう審美眼はあるからな」そう言う。
 やおらに慧音と紫が取っ組み合いのけんかを始める。キーキーと声をあげながらお互いの顔に詰めをひっかけ合いながらごろごろと神聖な神社の祭壇に突っ込んだりして祭具を破壊していた。
「叩き出すわよ年増共!」
 高価な祭具を破壊されて怒り狂った霊夢が幻想郷の支配者をぶちのめし始める。途中で止めに入ろうとした旦那様は吹き飛ばされ、したたかに体を打ち付けて気を失っていた。
「なあ紫、もう人が来る気配もないし、もういいんじゃないか」
 集まってもらった権力者の皆様には女どもがお酌や料理を運んでかるいキャッキャウフフをしていただいて帰ってもらうという、見方によってはこの上なく失礼なことをして今日は帰っていただくらしい。 現在は深夜だが、参加者の中には明らかに疲労困憊しているものもいる、なぜ博麗神社にやってくるだけでそんなに疲れているんだと少女たちは不思議だったが、幻想郷では職業戦士としての適性が基本的に男よりも女のほうが圧倒的に上なのである。なにせ、なんのリスクもなしに自由に空を飛べるし、ほぼ無限の魔力が備わっているからだ。けれども、幻想郷では日本の古い習慣、旦那様を敬うという習慣はいまだに生きているので、博麗の巫女を嫁に迎えるというやつはそれはもう破格の能力を持っていなくては様にならないのである。
「まだ、到着していない参加者がいるんだ」
藍が無機質で極めて精緻な声で言う。藍はどうやら参加者の詳細を完全に把握しているようだった。
「最後にやってくる奴なんて見込みないんじゃないか」
 魔理沙が調理されたごちそうに手をまだ付けられないのかと口をとがらせていると、鳥居の元にちらりと人影が現れた。
「到着したようだな」
 少女たちがどっと戸の隙間に視線をなだれ込ませると、一様に深いため息をついた。
「まーたあの浮浪者か」
「霊夢、あれどう思うよ」
 霊夢がようやくのっそり視線を向ける、霊夢は実はその浮浪者のことが気になっていた、それは好意という意味ではなく、他の参加者と比較して何かしら異質な存在だったからだ。そして現在集まっている参加者の中で唯一の人間だった。
「さぁ…」
 霊夢がなんとも言えずにいると、紫がさっと戸を開けて外に出て行った。
「お集りの皆さま!」






 石段の上で、空を飛び回る天狗らしき妖怪達に襲われてしまった。天狗は幻想郷で出くわす可能性のある妖怪の中では最も出合いたくないものの一つだった。天狗の動きは人間の目で追うことができないし、膂力は弱くとも30人力はある最悪の妖怪だ。彼らに襲われたらまず命はない。一週間前にいた参加者の中に天狗の幹部らしきものがいたのだろう、きっと彼らは私を殺すように手下に指示を出したに違いない。彼らのような雲の上の連中からしたら私のような汚い仕事をしている人間などが博麗の巫女とかかわりになるのが許せないのかもしれなかった。
 私は、この招集で博麗の巫女や八雲一味に顔を覚えてもらい、この生きているのか死んでいるのかわからない、そういう生活から抜け出したいだけだ。
 今日無事に出席できれば、おそらくは八雲一味に顔を覚えてもらうことができると思っていた。そうすれば、「俺は八雲と知り合いだ」などと里で吹聴してもっとましな生活ができるだろう。いままで私を見下していた連中を見返すこともできる。だから他の立派な参加者と敵対したいというわけではないし、むしろそういうエライ連中にも顔を覚えてもらいたかったのにこんなことになってしまった。私は外の世界から流れてきた、薄い頑丈な糸を杜にある木々にこっそり張り巡らせた、当然その間天狗妖怪には殴り飛ばされたり、剣で切り付けられた理と散々な目にあったが、ありがたいことに、彼らは得物をなぶることが何よりも好きだった。服に着込んできた頑丈な皮の服が刃物を肉に深く食い込むことを防いでくれる間に天狗を誘い込むように糸を張り巡らせた。彼らが私にとどめをさすその時に、糸をぎゅっと縛り上げると、彼らの手足がころっと落ちた。
 後で思うに、やはりとどめを怠るべきではなかったけれども、残念ながら神社の領域で生き物を殺すことは博麗の巫女に不敬ではないだろうかと思い、私はその場から逃げるように鳥居をくぐった。境内を見渡すと、私を含めても参加者は20名、わたしはほっと息をついた、おそらくあの神社の中から八雲や博麗の巫女が私を見ているだろう、これできっと顔を覚えてもらえた、次に会合があっても参加はしないけれども、今日無事に帰ることができたら、もう会合には参加しないつもりだった。



「怪我してるみたいだな」
「そうみたいね」
 私は神社の中からその浮浪者の具合を意識を澄ませて探ってみた。やはり、普通の人間らしい。足の運びや香りから察するに、大きな刃物、重たい鉄砲をいくつも持ち歩いている、それに服には鉄や火薬のにおいが染み付いている。妖術や魔術を使うたぐいの人間ではないらしい。
「ねぇ、紫あれはどんな人?」
「・・・里の妖怪退治よ」
「へぇー」
 あまりたくさんのことをしゃべる気にはならないらしい。
 紫は明らかに不機嫌になっていた、こういう時の紫はとても冷たい目で顔もお面のように固くなる。わたしは母親代わりの紫が否定するような行動をする気はないし、さすがにあの浮浪者のような男を身近に置く気はなかった、だから紫に言った。
「私もあんなのを旦那にする気はないわよ、ただ変でしょ? あんなの」
「そう? そうなの? まぁ人間だから霊夢も人間のほうがいいかなぁ~っとちょっと思ったけど」
 紫は「別に私は霊夢が言うならいいのよ」とやおらに口が軽くなる。
 幻想郷では色々な人間が妖怪の被害に困っている、大きな、普通では解決不能な妖怪の仕業を解決する際は博麗の巫女やそれに近い能力を持っている妖怪退治が出張ることになるが、こまごまとした妖怪の被害を処理していたら博麗の巫女は寝る間もない、そういうわけで里のあまり表ざたにならないところではそういう妖怪退治や汚い仕事を生業にしている人間もいる。
 なぜそういう表ざたにならないのかというと、やはり里にも世間体というものがあって、家で妖怪騒ぎがあったなどという話が出ると始末が悪くなる。そこで表を出歩けないような身分の人間に金を払い妖怪にけしかけるということが昔からある。ふつう知識も道具もない人間が妖怪に挑めばそれは死ぬので、そういうことをしている人間は死んでもしょうがない人間しかいない、つまりは里の鼻つまみ者たちだった。
 いま鳥居の元で神社の方を伺っている浮浪者のような人間は、その手の人間ということらしかった。
「あ~、いるいる。貧困街の近くの通りだとよくいるよな…」
 魔理沙は明らかに嫌悪感を示している。魔理沙も大概お嬢様なのでそういう話題には敏感なのかもしれなかった、もしくは浮浪者のような不潔な人間が嫌いな清潔な女の子ということかもしれない。
「あれが霊夢がお目当てできてるのかと思うとぞっとしないよな」
 その場にいる一同が「うへぇ」と顔を悪い意味で崩している。だが、私は妙な気持だった。昔私が紫に拾われていなかったら、私はどうなっていたんだろう?と時折夢想することがある、それは誰にも言ったことがないが、もしそうだったとしたら、私もあんな境遇だったのかもしれない。だから私は彼女たちと一緒にことさらにあの浮浪者のような風貌の男を貶める気にはなれなかった。
「だが、腕は確かなのかもしれんぞ」
と、慧音は言う、神様も疲労困憊する程度の道のりを人間の身でやってくるのだから腕はいいのだろう。私が見るところ、私たちに備わっているような超常的能力は無い様だ。参加している動機がどうあれそういう危険な道中をどう進めばいいかという心得はあると思う。
「自警団も最近は腑抜けが多くてな」慧音は彼に仕事を与えたいとでも考えているのだろう。
「まぁ、他のメンツと比べると確かにあんまりだから、私の方から言っておくわ」
「度胸に免じて、お仕事も紹介してあげましょうかね」と紫が言う。 
 
 ものすごく妙な言葉だった。紫は普通、紫が私以外の人間にそんなことをするはずがない。
 紫が人間に対して「努力に免じて」とか「頑張ったからご褒美に」などと前置きしたらそいつは大抵ひどい目に合う、言葉にするなら「努力に免じて痛みなく殺してあげる」とかそういうことを言うやつだ。紫がそういう自分にどこまで気が付いているのか知らないが、現に藍にお金を持たせて運ばせている。つまり次からは来なくてもいいよということだろう。ちなみに普段の紫なら、「じゃあ藍、適当に追い返しておいて」というのが模範解答だ。
 人間のことなど路傍の石程度にしか思っていないやつがなぜそこまでするのか、私は紫の意図とは裏腹に興味が出てきた。その浮浪者は藍と二言三言話し合い、今来た道を帰っていく。かなり失礼で高慢なやり方だと思う。
 紫が外に出て他の参加者と話をしている間、私はこっそり魔理沙に囁いた。
「ねぇ魔理沙」
「ん?」
 魔理沙もなにかにやにやしている、魔理沙を親友だと思うのは、こういうところだ。似たような考えに至ったのだろう。
「わたし今神社の外からでれないのよねぇ」
 次で会合は最後だ、つまりこの1週間は私はここを動けない。あの浮浪者はもうここにやってくることはないだろう。
「そうだな」
「霧雨魔理沙は、いまお店のご令嬢なの? それとも裏街道まっしぐらの魔女なの?」
「霧雨魔理沙はただの魔女じゃない、大魔導士魔理沙さまだぜ」
「じゃあ、やっぱり物事の裏側にも詳しいわよねぇ」
「まぁな」
 やっぱり、幻想郷の不穏な空気は見逃せないぜ、魔理沙はそういいながら三角帽子をかぶって空高く舞い上がった。
 魔理沙があんな悪い笑顔をしているのを見るのはいつぶりだろう。異変を解決したのももうずっと昔だ、私たちはこういうよくわからない物事が目の前にやってくるのを待っていたのかもしれない。









 金貨が20枚はあるだろうか、こんな大金を見るのは初めてだった。つまり私は大成功したということだ。もうこれだけで里の表で長屋を借りることもできるし、別の仕事を始めることもできるだろう。前に家族が健在だったときにやっていた家業を再開するのもいい。ふと、空を見上げると、魔法使いの少女がこちらを見ていた。確かに彼女のような存在からすれば、私などはよほどの珍獣だったに違いない。ものめずらしかったのだろう、
 少女が空から降ってきて、すたっと私の前に立った。
「よぅ」
 一見すると金髪碧眼の美少女だ。
 稗田家が編纂している書物には英雄の欄にある霧雨魔理沙という魔法使いだろう。博麗霊夢の相棒で、威圧感から相当高位の魔法使いであるのはよくわかった。これはいよいよ運が向いてきた。そう思ってどんなおべんちゃらを使おうかと思っていたら、カラダから力が抜けていくのが分かった。英雄を目の前にして気が抜けたせいだろう。確かにさっきまで天狗連中にけたぐり回されていて、あちこち折れていたし刃物で切り付けられていた。

「おーい?」

私の顔を覗き込む少女の顔が見えて、視界がどんどん暗くなっていった。

 
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neo
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
やおらに慧音と紫が取っ組み合いのけんかを始める。キーキーと声をあげながらお互いの顔に詰めをひっかけ合いながらごろごろと神聖な神社の祭壇に突っ込んだりして祭具を破壊していた。

「詰めをひっかけ合い」になってます。

続き楽しみにしてます
2.100名前が無い程度の能力削除
wktk
5.80名前が無い程度の能力削除
誤字の多さが難点ではあるが、オチが凄く気になる話なので、是非とも完結まで突っ走って貰いたい。
とても面白かった。
8.80名前がない程度の能力削除
次回に期待してこ(ry
10.100名前が無い程度の能力削除
面白いぞ!!