Coolier - 新生・東方創想話

地を這う生き物・2

2016/08/06 22:03:08
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 博麗神社に続く、長い長い石階段を上る。 今日が招待状に書かれていた3月3日の御燈の日になる。 私と共にこの八雲一味の招集に参加しようと言い出した友人は別の口から参加することになった。 どうやらこの事態に一人で参加しようと考える間抜けは私一人だけだったらしい。ほかの人間たちは、自分たちが使える思い思いの方法で私兵や用心棒を使い博麗神社への道を確かなものにしているらしい。わたしを誘った友人の一人は、そういった里の権力者が募る用心棒の一人としてすでに境内に到着しているはずだった。薄情な奴だと少しは思ったが、博麗神社の石階段を少人数で上がろうとする人間は余程の妖怪退治の手練れか自殺願望の持ち主だ。
 私はどっちなんだろう。もちろん、妖怪退治の腕前を卑下している気持ちはないが、私はこの御燈への参加に対して、今の生活から逃げ出したいという気持ちがあったのかもしれない、それはこの石段を上っている最中に妖怪に襲われてやられてしまうかもしれないという結果を含めてだ。どこへいくにも普通の人から卑下されて、臭い場所で日銭を必死に頭を下げながら得ることに心底うんざりしていた。今着ているものだって、とてもお祭りの場に行くようなきれいな一張羅ではない、汚泥の匂いがする、妖怪の食欲ですら減退させる、そういう衣装だ。

 「そうなのかー?」

 目の前に、見目麗しい、金細工の化身のような少女が現れた。私は一瞬で理解した、この少女が私を殺そうとしているおぞましい妖怪だと。それは人間を食べるという妖怪らしい目的からか、それとも死体をもてあそびたいというこれも妖怪らしい嗜虐的嗜好のためかはよくわからない。
 今まで登ってきた階段を振り返ると、三十間はあるだろうか、ここで足を滑らせて落ちるだけで人間の私の体は耐えられないだろう。
 境内の上では、にぎやかな和太鼓と、時折めでたげな歓声と花火があがる。
 いま空を幻想の少女たちのように飛び回れたとしたらどれほど救われただろうか。
 私は狭い石段に這いつくばり、手斧と鉄くずを詰め込んだラッパ銃を取り出した。




『地を這う生き物』




 どーん・・・ドーンとめでたげな花火の音が立て続けに響いた。
神社の境内で今までにないほど、人間たちが歩き回っている。私は境内に姿を出すことができないでいた。
「うおぉおおお・・・」
 隣で魔理沙がほほを紅く染めながら神社の戸からその様子を私と一緒に眺めている。
「どうよ今の気持ちは?」
「どうって…」
 境内を埋め尽くす男たちの目的は、どうやら私を手に入れるためだというのは知っている、じゃあ私はどうすればいいの?
 とそのぐらい浮かれる程度にはいい気分だったのは間違いない。
「やばいわ」
「だよなぁ」
 藍が彼らに酒などをふるまって歩き回っている。いま藍から酒を受け取っている男は誰だろう?
「あの人が気になるの?」と紫が私に笑いかけながらいう。
「いや、そういうわけじゃないけど」
「あの男は・・・里の貸しをやっている処の息子よ、かなーり悪いこともやってるわね」
 そういうのを私にあてがう精神性はどうなってんのよと思う。もうちょっと素性のいいやつを選べ。
「霊夢、今回あの場にいる連中は、自分の身体能力はもちろん、社会的立場や経済力全てを含めたあらゆる方法でこの場所にやってきてるわ」
 なにもそこまでしなくてもいいのでは?
 里の集会場に私が行けば済んだことではないだろうか?
 そういうと、紫は「ふっふっふ」と変な笑い方をして私の頭を撫でまわす。
「ここに集まる前にも彼らの中で闘争があったし、そしてこちらもそれを認めているの。そのくらい博麗の巫女の伴侶を選ぶというのは幻想郷で重要な事なのよ」
「別に、大したことないわよ、こんなの」
「姫様、まだそんなことを・・・」
 この集まりの発案者であるかぐや姫ご本人様はどうやら私の大失態を期待していたらしく、境内に収まりきらないほどの男の群を見てぷりぷりと怒っているようだった。
「ほーっほっほっほ!」
 そんなふてくされている月の姫、蓬莱山輝夜に幻想郷賢者八雲紫は「ねぇ今どんな気持ち? 貴女が今これをやって何人集まるかしらねぇ?」などといって大いに煽っていた。
「うーん、けどなんで人間だけなんですか? 地獄や天界にもお触れを出したんですよね?」と霊界にお住いの妖夢が不思議そうな顔をしている。
「ふんっ、そういう本当にお偉い連中は博麗の巫女なんて眼中にないのよ!」
 その言葉を火蓋にして紫と輝夜の取っ組み合いの喧嘩が始まった。ついでに妹紅が一緒になって輝夜をぶちのめし始め、鈴仙が止めに入ろうとしてメタメタにやられ始めた。
「いや、そうでもないさ」
 境内で接待をしていた藍がどこからともなくやってくる。「例えば」と境内の端に何人かのお供を連れた屈強そうな侍らしき風貌の男を指さす。
「あれは、天狗山の天狗で、かなりの神通力の持ち主だ…いまは人間の恰好をしているが…」「むろん、天狗山の中の地位も相当なものだ」と付け加える。
 どうやら、そういうやつがあの中にかなりの数いるらしい。藍が外に出てあれこれ連中の世話を焼いていたのはそういう連中がどのくらいいるのかというのを見定めるためだったらしい、私が思っていたよりも私の価値というものはなかなかに上等なものだったようだ。なんというか、実にはしたないことではあるが、得も言われぬ恍惚感のような現実離れした感覚だった。
「今日は顔合わせだ、これからふるいにおとしていく」
「最後の一人までな」と藍が無表情にいった。
「霊夢の顔が見れるのは数名というところかしら、そこからは貴方が決めるのよ、霊夢」
 顔をあざだらけにしていなければけっこういいセリフを紫が微笑みながら言う。どうしてアンタはちょいちょい事を台無しにするんだろう?
 ふと、鳥居に人影がぽつりと現れる。この集会は朝から始まっていたが、もう昼を過ぎて夕方になろうかというこのころになって、やってくる人影もある。
「ああいうのもいるのかよ」
 魔理沙がその人影を笑った。ゴテゴテした荷物をたくさん持ち歩いているようで、一見すると浮浪者のような様子だ。藍がその人間に酒をふるまうために外に出ていく、藍は式だから、やってきた参加者の様子を見てくる指示を受けているために、それがどんな相手でも例外はないらしい。
「さて、そろそろ全員そろったようね」
 紫は、私に奥に行くように言ってから外に出て行った。









「お集りの皆さま!」
 あれがかの有名な幻想郷の支配者か。私はようやく鳥居を潜り、へたり込みながら一番遠くから彼女の姿を見た。私の知っている限りでは、妖怪というのは美しければ美しいほど危険だ。さきほどであった金細工のような少女の妖怪も怖気がするほどの端正な顔立ちだった。そして遠くにいる幻想郷の支配者はそれをさらに上回る、常識はずれの美しさで、さきほどざわめきだっていた連中も息をするのも忘れるほどに静まり返っている。
「どうぞ」
 突然現れた女性にお椀を一つ渡される、匂いから察するに酒らしい。その女性も同様に正気を失うほどの美しさがあったが、妖怪退治の習慣がその様子をまともに見ることを拒んだ。
 やはり博麗神社は危険な場所だ。
 黙って受け取り、賢者の声に気をやられないようにするので精いっぱいだった。
 周囲を見渡すと、やはりといった具合で、ほとんどの男が口をぽかりと開けて彼女たちの演説に耳を傾けている。心ここにあらず、酒になにか入っているのかもしれない。ここには里の運営を任されているような重要な人物たちもいるので、まさか殺しはしないだろうが、もしかすると八雲一味は彼らを骨抜きにする理由でこうした集会を開いたのかもしれない。
 あるいは、単に彼女たちの色気にやられているだけかもしれなかったが。
「どうぞ」
 また、酒を手渡してきた女性がささやきかけた。どうやら飲むまでは帰らないらしい。見た目は美しいが、機械仕掛けというか、人間の心とはおよそかけ離れた、人形のような女だと感じた。
「どうぞ」
 ここにいる男たちはこの酒に口をつけているものらしい、どうも死にはしないようだ。もしかしたら、彼女たちの木偶にされるかもしれないと思ったが、ままよと意を決して酒を飲み込んだ。酒を一気に飲みこむが、別段うまい酒という以外は変わったものではない。 周りの連中が骨抜きになっているのは、女たちの美しさにやられているだけらしかった。
「どうぞ、お楽しみください」と一礼しその女性はふっと姿を消す。
 さっと周囲の様子を伺うと、骨抜きになっていない、まともな顔をしている連中と目が合う。目深にかぶった帽子で視線から逃れた。どうやら男の方にも人間でない連中がごろごろいるらしい。なるほど博麗神社が妖怪神社などと言われている理由が良くわかった。こんなところに目的がなければくるものか。
 
 日が暮れる前に里に帰らなければならないが、今日は、この場にいる用心棒や妖怪退治達にまぎれていけばどうにかなるだろう。










 私以外の友達は、境内に出て男漁りを始めた。確かにいい男ばかりなんだろう。
 けどなんで私はこんな薄暗い神社の奥でじっとしてなきゃいかんのだろうか。私はじっと耳を澄ませて外の様子を探った。

 魔理沙や妖夢、咲夜、鈴仙、まだ独り身の連中は気兼ねもないのか男たちにそれぞれ声をかけられている。彼女たちの声色を察するにまんざらでもないらしい、わたしはとんだ道化だ。既に家庭に入っている連中、早苗、慧音などは私と同じ部屋にいて札に興じている。
「ぼうずか・・・」
「やったわ!」
「霊夢、はやくめくれ」
「はいはい」と言われた通り札をめくる。
「次は大富豪しましょう!」
「だいふごう?」
「外の世界の人気のカードゲームですよ」
「ほほう」
 と呑気に遊んでいる。
紫と藍は何やら難し気な話をしている、というより物騒な話だ。

「あれは面倒ね」
「殺しましょうか?」
「いえ、今回の趣旨はそういうことじゃないわ、けど態度が悪いようなら殺しましょうか」

 八雲一族が思うよりも私は彼女たちの事をよく知っている。彼女たちは汚い、短絡的方法で物事を解決する傾向がある。
 どうやらあの参加者の中に私と近しくなると都合の悪い人がいるらしい。そういう人にはぜひ残ってほしいと思った。
 本当なら申し訳なく思うべきなのかもしれない、私が目的でやってきたばかりにあの妖怪共に目を突けられる奴がいるのだ、しかし、私もこのイベントに相当毒されているらしく、あのうさん臭い八雲一味をぎゃふんと言わせるようなやつもまだこの幻想郷にいることがそれなりに愉快だった。

「ていっ! 革命!」
「ああああぁ~・・・」
 慧音があと一枚残った札を眺めながら崩れ落ちた。弱い手札も使い方によっては最高の手札を下すことができるというゲームらしく、なるほどこれは面白いゲームだと思う。
「さぁさぁさぁ! 霊夢さんの牙城をくずしますよぉ!」
「はい革命、あがり」
「ほぎゃあ!」
「はーっはっはっは! ざまぁみろ!」
 慧音が復活し残った一枚を地面にたたきつけた。
 王様のカードだった。

「れーいむ」
 紫がにっこにこ顔でやってきた。先ほどの物騒な話をしていた声色とは真逆だ。彼女がそういう声色を私以外に使うところをきいたことがないというのは、誇るべきことなのだろうか。あまり認めたくはないが私が母親と言われて連想するのはやはり紫しかいなかった。
「なに」
「一週間後にまたやるわよ!」
「なにを」
「一週間でもっと絞り込むってこと」
「だから、気になるのがいたら今のうちに言って」と私の母親代わりは隣に座る。
「里の青年団の団長あの人? けっこう男前」
「おぉ! あれは私の教え子でな!」
「いや、里の男は全部お前の教え子だろ」
 紫はにっこにこして私の話を聞いている、こういう顔をしているときは紫が思い通りの事になってない時の顔だ。
「まぁ、紫が出て行ったときにすごいデレデレした顔になったのはむかつくから却下」
「あらあらあら、残念ねぇ」
 今度は紫は満足そうに微笑む。これは私がいいことをした時の反応だ。
「顔を合わせないとよくわからないわ」
「じゃあ、ある程度人数が少なくなるまで絞るわ」
 それが言いたかったのだろう、紫は仕切たがるのだ。何かにつけて。
「私に任せて、それでいい?」
「いいわよ」といつものように肯定してあげるとしばらく彼女の機嫌はいい。
 そういう付き合いだ。紫は私のご機嫌を伺っているといつも言うけれど、実際は逆だと私は思っている。
 少女が人形を着せ替えて遊ぶように、紫は私を思い通りにすることが何よりも楽しいもかもしれない。
 そして、わたしはそれがいいと思っている。もしも、紫が昔に私を拾っていなかったらと想像するときがある。
 紫にはそういう絶対に逆らえない部分で恩がある。だから紫が悪いことをしていてもわたしはどうのこうのと文句を言うつもりはない。紫はきっと私がそのことを知らないと思っているだろう、先ほどの会話も聞かれているはずがないと疑いすらしていない。
「霊夢」
「なによ」
「一週間は外出禁止ね」
「はー!?」
「だって任せるって言ったじゃん」と紫は事もなげに言う。やはりこいつに何かを任せると私が碌な目に合わない。
「だってぇ、あの連中がどんな手で霊夢に近づいてくるかわからないじゃなーい?」
そりゃそうかもしれないけど、一週間外出できないというのは退屈ではないだろうか。
「いつもおまえ神社でゴロゴロしてるだけじゃん」
「魔理沙黙ってて」
「天の岩戸みたいなものよ、麗しい姫はおいそれと野獣共の目には晒されぬものなの!」
 紫はばっさぁと髪を震わせて感極まったように叫ぶ。うん、まぁ、紫がこの催しにひどく熱心なのはよく伝わってくる。よっぽど楽しいらしい。
「んーまぁ、藍のいう人間じゃないメンツがほんとにいるとしたら、里の連中なんかには勝ち目無さそうだよな」
「私の教え子に勝ち目なしかー・・・」
 慧音ががっくりと肩を落としている。なにかこう、教え子が他所の連中に負けることに不服がある様子だ、私はあんたの生徒の教材じゃないんだけどね。
「天神や大天狗、地獄の大妖怪・・・ここまでくるとちょいと霊夢には不釣り合いと言う気もしなくもないんだぜ」
「そんなことないわ!」
「口を慎みなさい!」とばちこんと紫に張り手をくらって魔理沙が昏倒した。妖夢と鈴仙がすかさず介抱し始める。
 しかし、あまりに人間離れした奴と連れ添いになる可能性が濃厚というとさすがの私も不安になる。一応は私も人間の女だからあまりに歳の差があったり、価値観の違いが激しすぎたら困るのではないだろうか。
「霊夢さんがそんな心配するなんて、今回は本気なんですねぇ」
「霊夢、お前がそんなまともなこと言うなんて…」
 こいつらは私をなんだと思っているのだろう。ものすごく失礼だ、私は普通の幼気な少女なのに。
「幼気な少女はその日の気分で諏訪の神様をメタメタにしたり、地獄の鬼たちを破滅させるほど痛めつけたりはしないんだよなぁ」
「そういう霊夢さんみたいに強い人が人間にもいればよかったんですけどねぇ」
 
 紫は今回集まった連中も一週間後また集まるときには十分の一くらいになってしまうだろうといった。
「どうやるの?」と聞くとただ、神社に集まるだけだといった。
 ただそれだけでも強い力の神であっても脱落する者が出るらしい。日を変え、時間を変え集まる時間を変えれば空を飛べない地を這う男たちは、真に強いものしか残らない。
私たちは普段頻繁に夜に宴会をすることなど当たり前だが、集まるメンツは吸血鬼や冥界の管理者、日本で最も強い鬼、唐の国を傾けた邪悪な仙人たちといった具合だ。
「人間はいないのかしら?」
 私は、別に期待していたわけではないけれど紫に言ってみた。
「えぇ、一人も」
「仕方ないわね」

 境内に集まった男たちのほとんどが、惚けながらふらつく足取りで帰って行った。紫は今日は彼らを無事に里に返してあげるらしかった。その様子をこっそりのぞいていると、ときたまにしっかりとした足取りで歩いていく人たちもいる。そういう人たちからはとても強い神通力、妖力、霊力、そういうものが発散されているのを感じる。 きっとあの足取り確かな人々に私はもらわれるのだろう。

「あれ?」

 その足取りのなかで、きびきびと歩く人がいる。それがとても目立って見えたのは、そういう足取りの人は、華麗な服に身を包んでいたり、立派な連れが何人もいて、物持ちが立派な剣を預かっていたり大きな傘を日よけに携えていたりとそういう様子だったのに、その一人だけは、まるで浮浪者のような恰好をしていたからだ。
 つかの長い帽子を目深にかぶり、長い厚手の肩掛けの中にはなにかたくさんの荷物があるように見える。顔はほとんど見えない。背を曲げて目立たないように歩いているが、大きな体格をしている。

 その青年がこちらを見たような気がした。

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neo
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事もなげにルーミアを突破していた男性に痺れました
非常に面白かったです
9.80名前がない程度の能力削除
次作への期待を込めて(ry
11.100名前が無い程度の能力削除
期待しかない。