Coolier - 新生・東方創想話

素敵な青をもう一度!

2016/08/05 16:33:30
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 戦わずして勝つ。
 
 なんて素敵な響きだろうか。
 致命的な敵対を避け、あらゆる力を受け流し、一切の傷を負わずして、勝利の蜜を杯に戴くのだ。
 暴力などという古臭い蛮行ではなく、知性の効率的な行使こそが、栄冠への最短路なのだ。
 
「くそっ、やりやがった。抵抗を確認。追うぞ椛」
「扱いはどうします?」
「そら敵性判定よ。撃ってきたんだからな。信号弾用意。色種は――」

 もっとも、最短路に行ければの話だが。

「……どうしよう」



   素敵な青をもう一度!
 


STAGE1:窮鼠を噛む



 今日も今日とて炎天下。
 肌と同時に意識も焼かれる、真夏の昼間。

 そんな中、風と退路を求めて妖怪の山を飛び回っているのが、私ことナズーリンである。

 二重の意味で熱に浮かされ、山の近くを夢中で探索し続けて、気が付いたら九天の滝だ。
 麓の哨戒部隊は寝ていたのだろうか。あるいは、よほど私の存在感が希薄なのか。

「止まれ! 逃げるんじゃない!」
 
 そこまでなら、私への小言と麓の部隊の減俸だけで済んだはずだった。
 
 だが忍び足で脱出を始めた私は、突然かけられた誰何の叫びに、心臓が吹き飛ばんばかりに驚いた。
 暑さと焦りで冷静さを失った私は、考えるより早く弾幕を放っていた。そこに居た2人の白狼天狗に向かって。

 とっさとはいえ、暴力などという蛮行を行使するからこうなる。反省したまえ私。

「信号弾。監視塔より応答ありました。増援来ます」
「了解。おい止まれって! 無駄に足掻くな暑いんだから!」

 最近になって有線電信を導入したという噂も聞いている。増援の到着は、私の想定以上に早い可能性が高い。
 攻撃を加えた以上、捕まったらただでは済まないだろう。

 川の水面スレスレを這うように飛行する。被発見率を下げる為の飛行法だ。
 既に見つかってはいるが、高度を取るよりはマシだろう。

「追い込みを頼めますか? 私が狩ります」
「了解……思い出した。あいつ確か、命蓮寺の鼠だ」
「通りで線香臭いと」

 背中に冷たい感覚が走り、とっさに身体を右に振る。過去居た私の位置に弾幕が降り注ぎ、思わず頭を手で庇う。
 こうなってしまっては、不本意ながら反撃を考えなければならない。
 
 このまま進めば自警団の拠点があるので、捕まりたくなければ、どこかで方向転換をする必要がある。
 だが、後ろの彼らがそれを許すまい。逃げるのは得意だが、飛んでいるだけで成功するほど、世の中は甘くない。
 
「やるしかないか……ペンデュラム!」

 ペンデュラムを握り、妖力を送り込む。
 空間に青い輝きが奔り、複数の正八面体……巨大なペンデュラムを投影、実体化する。
 それを私の後方に配置。哨戒員の攻撃を防ぎつつ、妖弾で応戦する。

「撃ってきた。やる気か?」
「ヤケじゃないですかね」

 本来ダウジングの道具として、宝の所在を探るペンデュラム。
 しかし、か弱いこの身の上だ。魔術的・妖術的な戦闘用端末としての機能……つまり、護身具としても運用が出来る。
 
「……面倒な物を。私は結晶をどうにかするから、そっちはそのまま続けてくれ」
「了解」

 一際重くなった弾着音に肝を冷やしつつ、タイミングを伺う。

「いい加減投降してください。今そうすれば、夕食頃には開放しますよ」

 背後から聞こえる、事務的で平坦な声音。
 どうだか。下手をすれば年越しソバも有り得る。

「君らが引けば、お八つ時に間に合うんだがね」
「冗談でしょう」

 眼前に大玉が着弾し、豪快な水柱で視界が埋まる。目潰しのつもりか?
 ペンデュラムが取りこぼした大玉が続々と川を叩き、私の身体が水柱に隠されていく。
 水柱の隙間から川沿いを覗く。見えたのは緑色の集合体。

 これはチャンスだ。
 飛沫に紛れて左へブレイク。強引に変針し、川沿いの森に突入する。
 地形を這うように飛びながら、後方を確認する。
 
「ふん、せっかちな兵隊め」

 あのまま地道に追っていれば、増援と合流できただろうに。欲を出すからこうなる。

「あとはこのまま森を……お?」

 唐突に視界が開け、視界に空色が飛び込んでくる……森はどこへ行った?
 振り返って確認すると、やはり。深い森だと思い込んだそれは、余りにも小さかった。
 そして、己が浅慮を嘆く間も無く、遠くの空に見えた影が、時間切れを告げていた。

「即応部隊……早いな」

 麓の方から飛んでくる4つの影。連絡を受けて急行した増援だろう。
 相手は、正規の戦闘訓練を受けた4人と2人。
 それと対峙するのは、戦闘の不得手な鼠が1匹。

 だから言ったのに。平坦な声で、そう囁かれたような気がした。
 
 ロッドを握り直し、軋むペンデュラムに鞭打って、最大数を出現させる。
 クソッタレ、天狗がなんだ。下水育ちの根性を見せてやる。

「かかって来たまえ! 全員まとめて、肥溜めに叩き込んでやる!」

 戦わずして勝つ。なんて魅力的で、遠い言葉だろうか……。







「ちょ、ちょっと! どうしたのそれ!? 大丈夫!?」
「まあ……一応」

 寺の門で出迎えた響子が声を張り上げる。
 まあ無理も無い。戦場に迷い込んだか、ならず者にマワされたか。そうでもなければ、こうはなるまい。
 我ながら、よくぞ突破したものだ。奇跡と呼んでも異論は出まい。

「メディーック! メディーック!! ナズーリンが死んじゃうー!!」
「縁起でもないから止めてくれ」

 ただならぬ内容の叫びを聞いて、寺の住人がワラワラと出てきた。
 ああ、無理をしてでも自宅に戻るべきだったか。

「なっ、ナズーリン! どうしたんですかその格好は!」
「ああ、血が、傷が。一体何があったのですか!?」

 ほとんど泣きそうな顔で駆け寄るご主人と聖。
 疲れと痛みで結構クラクラするのだが。ここはぐっとこらえる。私にも意地があるのだ。

「いやなに。ちょっと下手をしてね。傷薬を貰おうとここに」
「まずは手当をしなくては」
「さあナズーリン行きますよ」
「いやあの。自分で」
「「駄目です!」」

 ほとんど引きずる形で連行される。こういうときは強引なんだからなぁ。
 そんな私を見て、一輪とムラサが近寄ってきた。

「随分とまた派手に。痕が残らないといいわね」
「そう祈ってるよ」

 妖怪なら例え深手を負ってもすぐに再生するが、私は妖獣だ。
 回復こそ早いが、傷跡が残る可能性も有る……顔には残らないで欲しいな。

「うわぁ、痛そう。一体何とどうすればこうなるの?」
「ちょっと、オオカミ相手にはしゃいでしまってね」

 おおかみ。と、2人は復唱し、顔を見合わせ、私の姿を見て言った。

「メニアック?」
「あんたも好きねえ」
「子供に見せられないツラにしてやろうか」

 もっとも、そう言われても仕方の無い姿ではあるのだが……。







「うーわー。すごっ。ボロッボロじゃん」
「『ダウザーのやんちゃな小娘』じゃのう」

 広間でご主人から手当てを受けていると、今度はぬえとマミゾウが顔を出した。

「ええい、見世物じゃないぞ。あっちいけ」

 強制的に手当てを受けさせられている身では、追い返すのもままらない。
 あまり見られたい姿ではないんだぞ。

「うわ、こっち側も凄い。もっと身体を大事にしてくださいよ。ナズーリン」
「わかっているよ。何、次はしくじらないさ」
「しくじる以前の段階で、賢将の字に相応しい立ち回りをして下さいと言っているのです」
「……はい」

 正論過ぎて何も言えない。
 
「すげえ、寅丸がナズーリンに説教してる」
「幻想郷は今日でおしまいかもしれんのう」
「そ、そこまで言うコトないでしょう!?」 

 私の頬に絆創膏を押し当てながら、ご主人は続ける。

「最近、あなたが傷を作ってここに来る回数が増えた気がしますよ」
「それは、今更のような気がするがね。元より、そういう役回りだし」

 探し物というのは存外、危険が多い。擦り傷、切り傷の類は珍しいものじゃない。
 
「それはその、申し訳ないというか。なんというか」
「寅丸は甘いなぁ。もっとエラソーにすればいいのに」
「そうもいきませんよ」

 ぬえに苦笑いを返すご主人。
 それを見た間マミゾウが、ぼそりと言葉を付け加える。

「もっとも。コキ使ったら立場的に後が怖いかもしれんのう」
「うん? どういう意味かね?」
「そういう意味じゃよ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 あれ? こいつ私の正体に気がついてない? 鍋か? 毛皮か?
 いや、その判断は早計だ。下手に行動すると危ない。
 ……いつでも山に埋められるようにはしことうかな。

「ねえ。それってもしかして、マジの宝石?」
「ああ、本物だよ」

 ぬえが指差したのは,、首から提げているペンデュラムだ。  
 首紐を解き、ペンデュラムをぬえに差し出す。

「触って平気なの?」
「かまわないよ。私だって、ベタベタ触ってるしね」

 特殊な表面処理をしているので、触るくらいは問題ない。処理の仕方は企業秘密だ。
 ぬえは青い光を湛えるペンデュラムを手にとって、珍しげに眺め始めた。

「パライバトルマリンという宝石だ」

 鉱物学的には、トルマリンのカラーバリエーションでしかない。
 だが本来なら拒絶しあう二種の元素が、奇跡的に結びついて生み出した青は、あまりにも美しかった。
 それゆえ、独自の名称を授かるまでに至った宝石なのだ。

 青系と緑系で色が分かれるが、私のペンデュラムは青系だ。

「はぁー、へぇー」
「何度見ても綺麗ですねぇ」
「ここまで鮮やかな青は、わしも初めて見るのう」
「この宝石はかなり新しいからね」
 
 存在自体が希少なせいもあるだろう。
 美しさからくる圧倒的需要に対し、産出量は雀の涙。
 今ではダイヤよりも高値がつく。モノによっては、年収を丸ごと奉げる必要がある程だ。

 自慢をさせていただくが、このペンデュラムは大きさも美しさも、年収クラスの逸品だ。
 そんな物をどうやって手に入れたかは、まあ、機会があれば語るとしよう。

「これ幻想郷で買えるかなぁ」
「うーん。奇跡的に店頭に並んだとしても、気軽には買えないだろうね」

 宝石が希少な幻想郷では、なおさらだろう。

「……マミゾウを毛皮にして売ったら買える?」
「確実に足りない」
「マミゾウは安い女だな」
「皮ァ剥いで人体模型にしてやろうか」

 ハサミを握るマミゾウを見向きもせず、ぬえはペンデュラムを眺め続ける。

「しかし意外だな。こういうの好きなのかい?」
「な、なによ。悪い?」
「いや、君も存外に少女だなと思ってね」
「どういう意味だよっ」
 
 ばきり

「ばきり?」
「なんだ、今の音」

 何かが壊れた、いや、割れた音だろうか。

「……石が割れたような音じゃのう」
「ああ、丁度そんな感じの音……おい、ぬえ。どうした?」
 
 その表情は、絶望。
 この世の終わりを見たかのような、闇より暗く、そして凍えるように震える眼。
 それは、部屋の中央。彼女が肘をついていた、長机に向けられている。

 茶色い机に、白い薬箱。 

 そして、青い、たくさんの――。

「ああ、ご主人。どうも疲れているようだ。机が青いく光っているように見えて」
「ええ、ナズーリン。私も疲れが溜まっているようです。その青い輝きが、石の欠片に見えるんです」
「いや、わしも老いたかのう。その青く煌めく石の欠片。ぬえの手から零れ落ちて見えたのじゃが」

 全員がある意味、縋るような気持ちでぬえを見る。
 ぬえは私を見返して、小さく、掠れた、消え入りそうな声で呟いた。
 
「……ごめんなさい」

 一瞬、眼の前が真っ暗になった。

「こ、こんな。こんな馬鹿なことが……」
「あの、わたし、ちがくて。そんなつもりなくて。わざとじゃなくて」
「お、落ち着いてください。落ち着きましょう。こういう時こそ奇数を数えるのです」
「ええい。おぬしこそ落ち着かんか。おい鼠の。その振り子、相当扱き使ってきたんじゃろ?」

 はた、と正気に戻る。

 ぬえは仮にも大妖怪。確かに、そこらの人妖とは比較にならない力を持っている。
 だが鬼ならともかく、ぬえは怪力を掲げる類の妖怪ではない。
 
「……ずっと酷使し続けていたな、確かに」

 石は硬いが、脆い。
 壊れるときは、割とあっさりと逝ってしまうものだ。
 まして曰くも謂れも無い、若い宝石だ。
 妖力漬けの毎日は、少々酷だったのもしれない。

「どうやら、君のせいでは無い、かもしれない」
「ほ、ほんとに」
「そう言っただろう。安心したまえ、君を責めたりはしないさ」
「な、何だよもう。びっくりさせてくれちゃってさぁ」

 ホッとした笑顔でムクれる大妖怪。器用なヤツだな。
 しかし、砕け散ったペンデュラムは紛れもない事実なわけで。
 
「……流石に直らないですよね。これじゃあ」
「ああ。ここまで砕けてしまうとね」
「お主のことじゃ。予備は用意してあるんじゃろう?」
「ある事はあるんだが……」

 無色透明。ガラス製の多面体。曰くも謂れも無い、安価な量産アクセサリーだ。 
 使えないことは無いが、長くは持つまい。
 どちらにせよ、新たな本命を探さなければ、仕事に支障が出る。

「仕方ない。探してくるか」
「何を言っているんですか。自分の身体を見てくださいよ」
「私は妖怪ではないが、人間でもないよ。これくらいの怪我はすぐに治る」
「しかし……」

 ご主人もかつては妖獣だった身だ。治りの早さは良く知っているだろう。
 
「こんな田舎で見つかんの?」
「ここは幻想郷だ。田舎とはいえ、不思議な宝石の一つや二つは、期待してもいいだろう」

 砕けたペンデュラムを袋に包み、ロッドを梱包する。

「でもナズーリン。無理はしないでくださいよ? 絶対ですよ?」
「安心したまえ。この状態で無茶をするほど勤勉じゃないさ」

 ひとまず自宅に戻り、装備を整える。
 宝石に縁のありそうな場所を巡り、可能であれば、砕けたペンデュラムの再利用も模索する。
 まあ、こんなところか。

「では、私はこれで」

 宝石とは結構な大物だ。気分が高揚しているのがわかる。

「いってらっしゃい」
「気を付けるんじゃぞ」
「てらっさー」

 玄関の戸を開き、まずは自宅へと飛び立ち。

「うらめしやー!!」

 飛び立ちたい。

「どお? 玄関を開けた瞬間を狙った驚愕の方向に私の腕がッ!」
「君はもう少し空気を読みたまえよ……」

 さっそく現れた敵の腕を極めながら、幸先の悪さにため息を零す。
 もうひと捻りしたら、改めて自宅へ行くとしよう。 






 
 翌日の早朝。目を覚ますと、そこは床だった。
 いまいち思い出せないが、恐らくは家に着いてすぐ旅立ったのだろう。夢の世界に。
 ここまでの疲労困憊も久しぶりだ。全身痛いが、奇妙な清々しさを感じる。

 今から風呂を沸かすのは面倒だ。ぱぱっと服を脱ぎ、全身をタオルで拭う。
 
 包帯等は外してしまった。
 既に大半が治りかけているし、まあ大丈夫だろう。

 おろしたての夏服に袖を通し、朝食のパンとチーズに舌鼓を打つ。
 そしてトドメのワインを……いや、流石にはしゃぎ過ぎだな。
 
 ベルトを通し、小物用のポーチと、分割式のダウジングロッドを提げる。
 
 装備はこんなものでいいだろう。探索より交渉がメインとなる可能性が高いだろうし。
 それに、ただでさえ暑いんだ。軽装のほうがいい。

 最後に尻尾に籠を乗せて、一匹のネズミを呼び寄せる。

「参謀、行くぞ」

 この妖鼠は、いつも尾の籠に乗っている右腕的存在だ。
 名前こそ参謀だが、実際には部下を引き連れ活動する現場指揮官。頼りになる男前だ。

 さて、本日はまず紅魔館に行こうと思う。行くのは今回が初めてだ。
 決して評判はよくないが、一番宝石を持っていそうな場所でもある。行くしかあるまい。

 参謀が籠に乗ったことを確認し、外へ出る。
 日差しは強く、風は無い。それでもここは、無縁塚は涼しいのだ。
 だが外はそうもいかない。

「……出たくないな」

 いつもより、少しだけゆっくりと飛びながら、無縁塚の外を目指す。







 太古の時代において、神とは力であったという。
 その通りだと、私は後半だけに同意する。

 太古の時代より、今に至るまで。そう表現すべきではなかろうか。

「……あっつ」

 お天道様とかいう曖昧な邪神が、青い空に横たわり、地上に暴威を振るっている。
 全てを焼き尽くす暴力を前に、雲は隠れ、風は逃げた。
 旅人から皮まで剥ぎかねない夏の日差しを、一時的にでもどうにかしたい。
 
 いま向かっているのは霧の湖だ。

 紅魔館のすぐ近くにある湖で、日中は濃霧に覆われている。
 陽の光は遮断され、水辺もある。約束の地と言っても過言ではあるまい。

 そこでまずは小休止だ。そうしないと暑くて死ぬ。  

 やがて、視界が徐々に白く染まっていく。
 歓喜と安堵を感じつつ飛び続け、見えてきたそれに、思わず声が上ずった。

「ついたぁ……霧の湖」

 湿度こそ高いが、陽の遮られた水辺というのは、やはり涼しい。
 ついでに水浴びでもしたい所だが、ここは存外に来客が多いのがネックだ。

「あれー? 久しぶりじゃん。 なんだっけ、ナス的な」

 例えば、湖から漂ってきたこの妖精のように。

「ナズーリンだ。以後、間違えないように」
 
 氷の妖精チルノ。
 妖精としては規格外の力と、それらしい無鉄砲さを併せ持つ彼女には、以前ちょっとした依頼を請け負ったことがある。
 しばらく顔も姿も見ていなかったが、相変わらず元気のようだ。

「せっかく来たんだし遊ぼうよ」 
「いや、悪いが今日は用事があってね」
「あたいの誘いを断る程の用事……荒廃した世界を救う旅とか?」
「君の誘い重すぎだろ」

 世界の命運とかくれんぼを天秤にかけるんじゃないよ。
 
「ペンデュラムが壊れてしまってね。代わりになる宝石を探している最中なんだ」
「ふーん。じゃあそれでいいや」
「どういう意味だ?」
「宝石探しゲーム」
「あのなチルノ。これは遊びじゃないんだ。私の仕事に直結する事なんだよ」

 商人が算盤を壊れたままにするだろうか。
 武人が槍を折れたままにするだろうか。
 
 必需品さえ準備できない仕事人なんて、笑いのタネだ。
 私の生業は探し物。ペンデュラムはまさしく、仕事の必需品なのだ。

「宝石が見つかればいいんでしょ?」
「それも穏便に」
「オンビンはわかんないけど、あたいが手伝うからには百億万パワーでソッコー見つかるって」
「しかしだなぁ」

 仮に戦闘がメインであるならば、快諾しただろう。

 規格外と呼ばれる地力。
 数多の強敵と渡り合って蓄積した経験と感覚。
 不死身が故の、ためらいや恐怖心の希薄さ。
 
 戦闘弱者の私にとっては、心強い助っ人となる。

「まずはどこを探すの?」
「紅魔館だ」

 しかし今回は探し物だ。最悪、足を引っ張られることにもなりかねない。

「よっしゃーカチコミだ! 行くよナーズリン!」
「ナズーリンだ」

 これ以上の面倒は避けたいのだが……なんか手が冷たいな。

「って、コラ引っ張るんじゃない! 一緒に行くなんて言ってないぞ!」
「心配しないで! あたいが全部終わらせてやるって!」
「それはどっちの意味で言ってるんだ!?」

 駄目だこりゃ。聞いちゃいない。
 だから妖精は苦手なんだ。交渉が意味を成さないから。

「……騒がしい氷嚢を手に入れた、ということにしておくか」
「ゆきーのしんぐん♪ こーおりをふんで♪」

 せめて彼女との遭遇が、不運の前兆でないことを祈ろう。

 

STAGE2:赤より紅い宝石



「――といった事情でね。権限のある者と交渉させて頂きたい」
「そしてソイツをあたいが凍らす。あたいは最強だから」
「テロ計画かな?」
「逮捕しちゃっていいよ」

 紅魔館の正門前。
 私はどこぞの泥棒と違って、強行突破なんて事はしない。
 まずは入館許可。というわけで、堂々たる門構えを守護する妖怪、紅美鈴と交渉の真っ最中だ。
 
「まあ話はわかったわ。咲夜さん……あー、メイド長に話してくるから待っててね」 
「頼むよ」

 小走りで館の中へと向かう門番。  
 ひとまず、庇で作られた日陰に身を隠す。

「頼む……早く戻ってきてくれ」

 いまだ風は吹かず、気温は上がる一方。
 私が美味しく茹で上がるのも時間の問題だ。 

「うへー。暑くて溶けそうー」

 隣ではチルノが同じように茹だっている。やはり、彼女が居る側は少し涼しいな。
 ちょっと近づいてみる……おお、空気が冷えている! さすが氷の妖精というべきか。
 もう一歩、もう一歩。

「あの、ナズリコフ。狭いんだけど」

 気が付けば、チルノに寄り添う形となっていた。
 ああ、なんと冷たい。彼女は天の遣いではなかろうか。

「私はナズーリンだ。そんなことより」
「何よ」
「君を抱きしめたい」
「どうしたの急に!?」

 急にというか、急を要するというか。 

「なーんて、夏はいつもの事だけどさ。暑くなると皆あたいを抱きに来るんだよねぇ」
「大変だな。仕事料でも貰ったらどうだい?」
「へーき。抱いた後は大体の奴がお礼くれるから」

 なぜだろう。妙にいかがわしい感じがするぞ。

「お待たせー。直接来てもらっちゃった」
「メイド長の十六夜咲夜です」

 戻ってきた門番の隣には、この暑さにも関わらずメイド服をキッチリ着込んだ女性、十六夜咲夜が居た。

「ナズーリンだ。よろしく」
「あたいだ。よろしく」
「話は伺いました。まずは応接室にご案内致しますわ」
「お邪魔するよ」 
 
 門をくぐると、出迎えたのは咲き誇る夏の花達。
 その広さは花壇というより小さな花畑であり、自然の物とはまた異なる、煌びやかな美しさだ。

「綺麗な庭だ。ここの庭師は腕がいいんだな」
「その言葉。帰りに美鈴……門番に伝えてあげてください。きっと喜びますわ」
「彼女がこれを?」
「自信作だそうです」

 格闘技と居眠りの達人と聞いていたが、造園の技術もあるとは。多才な妖怪だ。

 花園を抜けると、木製の巨大な扉にたどりつく。
 メイド長が扉を押すと、雰囲気のある軋み音を立てながら、ゆっくりと開いていく。
 開いた扉の先に見えたのは、豪奢なエントランスホール。

「まさに、といった感じだな」

 紅い絨毯や煌びやかなシャンデリアを筆頭に、西洋貴族を体現したかのような空間だ。
 掘っ立て小屋と寺を往復する身としては、眩しさに目がくらみそうだ。
 同時に期待も膨らむ。これなら、選り取りみどりかもしれないな。

 エントランスに恥じない、格調高い応接室に通される。

「チルノ。話の間は遊びに行ってて構わないよ」
「遠慮すんなって」
「して欲しいんだがね」

 メイドか門番にチルノを預けておくべきだったか。
 そうこうしているうちに飲み物が用意され、対面に座ったメイド長が話をはじめた。

「さて。宝石類を御所望ということでしたね」
「ああ。種類は問わないが、可能な限り質の高い物を手にしたい」
「失礼ですが、お支払いのほうは」
「ひとまずの用意はあるし、これが限度でもない」

 腰に下げた皮袋をテーブルに置く。私が集めた貴金属の類が入っている。
 持ち運びやすく、なおかつ価値の分かり易い物を選んで持ってきた。
 不足なら、自宅にも用意がある。私の言葉に嘘はない。

「ではさっそくだが、宝石を見せていただきたい」
「ありません」
「ん?」

 おかしいな。今この人、無いって言ったような気がした。

「もう一度聞くが、宝石を見せていただきたい」
「ですから、ありません」
「……無いの?」
「はい」

 嘘だといってよメイド長。

「厳密には、当家にある宝石は日常的に使用する装飾品などに使われていて、お売りできないのです」
「えーでもさー。前にココ来たとき、めっちゃ余ってるって言ってた気がするけど」
「それは紅魔郷の時の話です」
「頼むから紅霧異変と言ってくれ」

 かの異変の後に何があった? 
 宝石類を失うような、あるいは手放さざるを得ないような損害が出たのだろうか。

「ご存知かとは思いますが、物を直すという行為には、対価が必要です」
「まあ、当然だね」

 言うまでもない。資材、人材、消耗品……大なり小なり、出費や消費が発生するのは当然といえよう。

「妹様の開放によって、姉妹喧嘩による破壊が増えました」
「話には聞いているが、さぞや熾烈なんだろうな」

 破壊と運命を司る吸血鬼同士の正面衝突。始まってしまえば止められないだろう。
 その原因が例えプリンやケーキでも、周囲の惨状には愛らしさの欠片もあるまい。

「魔理沙とパチュリー様の戦闘も豪快に行われますし」
「たまにマスタースパークが壁をブチ抜いてくるよねー。あれ派手だから好き」

 高速・高火力を掲げる泥棒を、実力行使で撃退する。
 七曜を極めた魔女が投射する憤怒と弾幕は、筆舌に尽くしがたい物となるだろう。

「宴会や天界の異変では、館内での戦闘が頻発しまして」
「らしいね」
「あたいもやった」

 ただでさえ無遠慮な連中が、異変解決という大義名分を手に入れた。
 館の中であっても、配慮の類は期待できまい。

「メイド長。何が言いたいんだね」

 単純なことです。そう前置きして、彼女は結論を述べた。

「……半壊が常の館に、そのたびに修繕費を必要とする館に、果たして宝石類がまともに残るでしょうか?」
「申し訳ない」
「ごめんなさい」
  
 半笑いのメイド長に、私やチルノだけでなく、参謀までも頭を下げる。
 よくわからないが、そうしなければいけない気がしたのだ。  

「まあ本音はこれくらいにして」

 そこは嘘でも冗談だと言って欲しかった。

「紅魔館本館にはありませんが。図書館にならあるかもしれません」
「確か、パチュリー・ノーレッジだったか。そっちの主は」
「はい。持っていても不思議ではありませんわ」

 七曜を自在に操り、賢者の石さえ生成してみせる稀代の魔女。
 そして、紅魔館最強の変質者でもあるという。

 伝聞だけで判断するのは愚の極みだが、それでも、控えめに言って会いたくねえ。
 しかし、有力候補の一角だ。スルーする訳にも行かない。

「案内いたしましょうか?」
「頼むよ」
「あの湿っ暗いトコに行くの? あそこは冒険し甲斐があるんだよねー。トラップとかモンスターとかいるし」
「ダンジョン扱いされているが」
「しかも高難易度ですわ」

 サラッと肯定されてしまったが、図書館に行くんだよね? 大丈夫だよね?
 応接室を出て地下に降りると、ほかの部屋より二回りは大きな扉が見えてきた。

「失礼いたします」

 メイド長が扉を押すと、軋みながらもゆっくりと開かれていく。
 魔女が蓄えた知の領域。
 果たして、どんな世界が広がっているのだろうか。

「パチュリー様。お客様です」
「失礼するよ」
「あたい参上~」

 そこは想像以上に広大だった。
 薄暗く、くぐもった空間に聳え立つは、無数の本棚と、無造作に詰まれた本の塔。
 整えても整えきれない、といった雰囲気の乱雑さは、溢れんばかりに蓄えられた知識の象徴にも見える。
 
 そしてそれらの大半は、普通ではないモノなのだろう。
 これでも神に仕える身の上だ。魔法に造詣が無くとも判る。本の香りに紛れて漂う、邪な力。

 魔導書とはよく言ったものだ。
 魔の導きに手を伸ばし、その手管を以って魔を自らに導き、消化と昇華を成し得るロクデナシ。
 それが魔女と呼ばれる者達なのだろう。感服するが、真似はしたくない。

 だから。

「粉ァーッッ!」
「パチュリー様落ち着いて!」
「快楽まっしぐら!」
「クスリは逃げませんからどうか冷静に!」

 机の上の白い粉を、鼻から吸引しようと暴れる少女。
 アレもきっと、魔を導く重要な儀式に違いない。

「メイド長。あの白い粉は」
「鼻詰まり解消の薬ですが」

 なるほど。
 病弱だと聞いているし、おそらく鼻炎の類なのだろう。

「しかし、なぜ鼻から吸引を」
「鼻詰まりを解消するのですから妥当でしょう」

 確かに。
 幻想郷では普及していないが、鼻に薬液を噴射するタイプの鼻薬もあるからね。

「だが明らかに、欲求過剰に見えるのだが」
「陸に打ち上げられた魚が暴れるのは当然ですわ」

 いやまあ。
 言いたいことは分かるが、もう少し例え方に気を使ってあげたらどうだ。

「何アレ。危ないクスリでもヤッてんの?」
「言わないようにしてたのに……!」

 タブー中のタブーに触れやがった……。
 いや、あれは鼻薬だ。そうに決まっている。メイド長もそう言っていたではないか。

 そう自分自身に言い聞かせていた時、暴れる魔女殿の傍らに居た、黒服の少女がこちらに気がついた。

「あ、咲夜さん。ごめんなさい、気がつかなくて」
「粉ァ!」
「図書館にお客様よ」
「ああ~この一発の為に生きてるわぁ~」
「こ、これは失礼しました!」

 魔女殿がうるさいが、それに構わず黒服の少女が自己紹介をはじめた。

「パチュリー様の使い魔で、当書斎の司書を勤めさせて頂いております。小悪魔です」

 小悪魔? ああ、真名隠しか。
 黒い司書服に紅い長髪。人懐っこい笑顔と、甘く爽やかな声音。
 背中と頭の黒翼が例え白であっても、おそらく違和感は無かっただろう。
 
「私がこの書斎の主よ。見苦しいところを見せてしまったわね」
「本当にね」
「最高にロックだった」

 今更キリッとして見せる魔女殿、パチュリーがそれに続く。
 先ほどの狂乱が嘘のように、静かな佇まい。
 ……この段階で会っていれば、知的で美しい魔女であると認識できたのに。惜しい人だ。

「で、一体何の用? 下らない用事なら帰って欲しいのだけど」
「宝石を捜している。可能限り質の良い物を。貴方なら持っているかも知れないと、案内を受けてきた」
「ふうん……宝石ねえ」
「支払いの用意もあるし、用が済めば早々に立ち去ろう。いかがだろうか?」
「いかだろうが?」

 ふむ、と顎に手を当てて思索する魔女殿。
 
「あることにはあるわね。小悪魔」
「はい、お持ちしますね」

 司書が飛び去ると、魔女殿はおもむろに一冊の本を取り出し、読書を始めてしまった。

「興味なし、といった感じだな」
「まあ、実際ないからね」
「あたいはこのお菓子にめっちゃ興味ある」
「よろしければどうぞ」
「って、うわ。いつの間に」

 そこには紅茶と菓子が載ったトレーを持つメイド長の姿が。
 例の時間停止能力だろうか。まさしくタネ無しの手品だ。
 
「では、私はこれにて」

 そして一切の音も立てず、静かに消え失せる。
 まったく、寺の連中にも見習って欲しいものだ。いろんな意味で無理だけど。

「しかし凄まじい数の本だな。一体全体、何冊あるんだか」
「一億万冊ぐらいじゃん?」
「実は、私達も把握できてないんですよ~」

 小箱を片手に戻ってきた小悪魔が笑顔で答える。

「次から次へと本が増え、未踏査エリアが顔を出す。そんな感じなので、完全な把握はまず無理です」
「ほとんど魔境だな」
「相違無いかと。あ、これが宝石の箱です。いいですかパチュリー様」
「構わないわ」

 主の承認を得て、小箱の蓋が開かれる。
 目に飛び込んできたのは、鮮やかな紅色。
 チルノと共にそれを覗き込む。

「ルビーか」 
「キレイだなー」
「ピジョンブラッドなんて、よく手に入ったな」 

 非常に鮮やかな赤色のルビー。それをピジョンブラッドと呼ぶ。
 世界で唯一の採掘場所が情勢不安の為、市場に出回る数は少ないと聞く。

 美しさも素晴らしいが、しかも大きい。
 このままペンデュラムにしたら、大きすぎるくらいには。

「聞いておいてなんだが、買い取ってしまっていいのか?」
「まあ、お寺の関係者なら平気じゃないかしら」
「……どういう意味だ」
「魔女が持つ宝石なんて、いわくがあって当然。でしょう?」

 机に組んだ両手に顎を載せて、薄く妖しく微笑む魔女殿。
 素敵な笑顔だ。まったくもって憎たらしい。

「そのルビーは正確には、ピジョンブラッドにされたルビー。言葉通りの本物を使ってね」

 鳩の血は、魔術に用いられると聞いたことがあるが……。

「まさか〝着色〟したのか」
「そう。質の悪いルビーを、大量の鳩の血と魔術で染め上げた、本物を使った偽物」
「君がこれを?」
「製作者は不明。これをプレゼントされた女性は、夜通し血を吐き続けて死んだそうよ」

 買ってく? と小首を傾げる魔女殿。
 魔女はやはりロクデナシだ。呪いの宝石を売りつけようとするとは。
 いや、買う前に詳細を言うだけ優しいか。
 
「こんなに綺麗なのにアブナイ宝石なんだ。変なの」
「美しいものには棘があるものさ。なあ? 麗しの魔女殿」
「そうね」

 意味も無く遠い目をして、無駄に髪をかき上げる魔女殿。
 美しく舞う紫髪が実に憎たらしい。控えめに言って引っ叩いてやりたい。

「他に宝石は無いのか?」
「粗悪品でよければ」
「呪いのルビーは粗悪では無いのかね」
「美しさはご覧の通りじゃない。それに呪いだって、貴方の愛で解けるかもしれないし」
「心にも無いことを」

 厄介払いで金も入る。いいこと尽くめだろう。向こうにとっては。
 ともあれ。有力候補は駄目だった。次はさて、どこに行こうかな。 

「では、宝石を所持していそうな場所に心当たりは?」
「宝石ぐらい、どこにでもあると思うけど」

 貴族の感覚って恐ろしい。

「宝石といえば、やっぱあたいん家に行くしかないね」
「どうせ氷しか無いだろうに」
「うん」
「うんって君」

 氷を宝石と、まあ例えられなくもないが、流石に溶けてしまう物を常備は出来ない。

「じゃあ永遠亭なんてどうですか? お姫様がいるくらいですし」
「永遠亭か……」

 実はまだ行った事がない。
 あそこに頼るほどの怪我や病気はしてないし、薬は行商が売りにくる。
 迷いの竹林も、宝探しには不向きな場所だ。
 一度はやってみたいのだが……攻略するには、それこそ長期休暇を貰わないと時間が足りないだろう。

 話が逸れた。
 とにかく、次の目的地としては悪くない選択肢かもしれない。

「流石は魔女殿の司書、といったところか」
「ありがとうございます! 役立ち上手の小悪魔です!」

 嬉しそうなドヤ顔で胸を張ってみせる小悪魔。
 彼女はもう少し、自身の種族が何であるかを自覚すべきではなかろうか。

「さて、そろそろお暇させてもらうよ」
「あたい達のオイトマを喰らって無事だった奴はいないよ!」
「必殺技じゃ無いから」
「道中気をつけてくださいねー」

 再度読書に没頭を始めた魔女殿と、笑顔で手を振る小悪魔に手を振り返し、図書館を後にする。
 扉を出てすぐのところに、メイド長が待っていた。

「いかがでしたか?」
「残念だが空振りだったよ。代わりに永遠亭を紹介してもらった」
「そうでしたか。あそこはココ以上にアレなので気をつけてくださいね」
「嘘だよね?」
「門までご案内しますわ」
「ねえちょっと」

 帰り際、門番に庭の素晴らしさを伝えたところ、とても喜んでくれた。
 隣に居たメイド長も少し嬉しそうに見えたのは、気のせいではないだろう。 

 二人に礼を言い、紅魔館を後にする。
 ひとまずは涼を得るべく、湖の近くまで戻ってきた。

「で、次はどこにいくの?」
「話を聞いていなかったのか。永遠亭だ」

 迷いの竹林を抜けた向こうにある。巨大な日本風家屋が永遠亭だ。
 欠けた満月の異変の首謀であり、現在は診療所としても機能している。

 先述の通り、永遠亭は迷いの竹林の中にある。
 誰もが十中八九迷うとされるこの竹林。
 ここを根城にする妖怪も多く、まさに危険地帯だといえるだろう。

 この竹林を踏破する最も安全な手段は、藤原妹紅、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐの何れかに案内を頼むこと。
 後者二人に頼むには色々と難易度が高いので、基本的には藤原妹紅に頼む事になる。

「まずは案内の依頼か」
「よっしゃ! 次行ってみよう!」

 人里離れた彼女の庵には、少々の時間がかかる。
 たどり着くが先か、私が熱中症になるのが先か。
 ……早く秋にならないかなぁ。



STAGE3:仏の金剛の鉢



「うおっ。まさか客が来るとは。しかも鼠と妖精だなんて」
「……ここは藤原妹紅の庵の筈だが」 
「いかにも。俺様がもこたんでゲス」

 囲炉裏の前に胡坐をかき、ご飯を書き込む黒髪の少女が、よく分からないキャラを真顔で演じている。
 なぜ因幡てゐが、妹紅の庵に居るんだ。

「また皮を剥かれたいのか。因幡の素兎」
「いやーケダモノー! か弱い幼女を幼女と幼女がぁー!」
「チルノ。台所から包丁を」
「ナスターシャ。クール、クール」

 このクソ暑い中を飛んで来てみれば、不法侵入者から性犯罪者扱いだ。
 そりゃ、刃物の一つも持ち出したくなる。

 もし私でなくムラサ辺りだったら、速攻で碇の下敷きだぞ。
 そして吐くまでフィッシュ&チップスを食わされて、喉が潰れるまでジェーン年鑑を朗読させられるだろう。
 私など穏健派もいいところだ。

 あと、強く主張させて頂きたいのだが、私は決して幼女ではない。

「暑いのはわかるけどさぁ。そんなカリカリしなさんな。足りてないんだよ。カリホルニウムがさ」
「そんなもんが足りててたまるか」
   
 中性子の発生源を日常的に摂取できるほど、私の身体は頑丈じゃない。

「改めて問うが、君は何故ここに? 藤原妹紅はどうした」
「焼き鳥屋なら人里に行ってるよ。私は小腹が空いたから、勝手にレストランしてる」
「……神代から生きるご老体が、よもや一般的なモラルさえ体得していないとはね」
「あんたこそ、ゴミ漁りが趣味って聞いたけど、まさか民家にまで手を出しに来るとはねえ」

 胡坐をかき、味噌汁を手にニンマリと嗤う老兎を睨みつける。

「ここへは案内の依頼をしに来ているんだ。不法侵入者の君が何を言うか」
「ゴミ漁りも否定しときなよ。趣味に興じる暇があるなら、たまには直の上司に会ってあげなよ?」

 ……あれ? コイツも私の正体に気が付いてない? コイツを材料に鍋でもするか?
 いや、素兎は私の事自体を大して知らないはずだ。
 私の内面から溢れ出る威厳を汲み取ったのだろう。そうであってくれ。

「それはともかく、案内人が不在とは。弱ったな」
「ナズ―ンは探し物が得意なんでしょ? じゃあ正解の道も探せるんじゃないの?」
「ナズーリンな。そう上手くはいかないんだ。悔しいことに」

 道が分かれば迷わない、というのは整備された道の話だ。
 迷いの竹林は同じ風景が延々と続く。なので、行きたい方角に進むための目標物が、事実上存在しない空間となっている。
 しかも、土地そのものが僅かに傾斜している為、まっすぐ歩くことさえ困難だ。

 そして、身も蓋もない話ではあるのだが……竹林自体が、何らかの力の影響下にあるようだ。
 あそこではダウジングも役に立たないし、各勢力の実力者達でさえ、案内人に頼っている状態だ。
 竹林を包む何か。それは生半可なモノではないだろう。

「しかしまあ、随分と派手に怪我したねぇ」
「もう治りかけさ。君の所の薬には世話になったよ」
「そりゃどうも。辛かったら逃げるとか、誰かに相談するとかした方が良いよ」
「いや虐待とかじゃ無いから」
 
 怪我が治るのを待つべきだったかな。変な誤解が広まってしまわないことを祈ろう。

「で、永遠亭に入院とか? 緊急じゃないと断られると思うよ」
「いや、実は宝石を探していてね。永遠亭にあるかと思って訪ねるつもりなんだ」
「宝石……なんでまたウチに?」
「先に紅魔館を訪ねたんだが、そこで紹介されてね」
「ふうん。まあ、無いってことは無いと思うけど」

 手を合わせてから、空の食器を片付ける素兎。
 そういえば、こいつも永遠亭の住人じゃないか。 

「丁度いい。君が案内してくれ」
「出来ないけど」
「報酬も出すよ?」

 そういいながら、革袋から金を出して見せる。
 一応、個人的に計算した額だ。

「妹紅を待てばいいじゃん」
「ハクタクの所に行ってるんだろ? いつ戻るかわからない」
「じゃあ、提示の二倍ね。交渉ナシで」
「喜んで」

 あからさまに、マジかよコイツ、といった表情を浮かべる素兎。
 自分でもどうかとは思うが、まあ必要経費と割り切ろう。

「成金の小娘とかタチ悪いわ……」
「失礼な。コツコツと貯め続けた金だぞ。遊び惚けてる老婆より、だいぶ健全だと思うがね」
「おまけに生意気と来たもんだ」
「よく言われるよ。おいチルノ、そろそろ行くぞ」
「へーい」

 飾られていた竹細工で遊んでいたチルノを呼び戻す。
 ひとまず、案内役も得られた。後は永遠亭に向かうだけ。

「おっと。二人なら四倍だよ?」
「それは通らないぞ。交渉ナシ、と言ったのは君じゃないか」
「ちっ、余計なコト言わなきゃ良かった」

 そう言いながら彼女は手で招く。

 少々不安だが、彼女は詐欺師である以前に、最古参クラスの妖怪だ。
 古い者ほど、契約や約束を大事にする者が多い。
 そして彼女は詐欺師であるが故に、それらがいかに重要であるかも理解している。
 
 まあ、駄目なら駄目で、二人がかりで畳んでしまえばよかろう。







「説明を! 説明を要求するぞ素兎ッ!」
「むしろ私が聞きたいよ!」

 途中までは順調だった。
 たわいも無い雑談に花を咲かせながら進む、実に穏やかな時間だった。
 彼女を疑った事を恥じつつ、軽快に歩を進めていたのだ。

 だが今は、必死の形相で全力疾走している。

「ねーアレなんなのー! あのでっかいの!」
「「知るかッ!!」」

 名状も形容もしがたい巨大な化け物に、私たちは追われている、
 巨大なゴリラに触手と鱗をポン付けしたようなヤツ。
 鱗の隙間から粘性のある液体をとめどなく流しているのは、そういう趣味なのだろうか。

 触手を振り回し、全身の鱗を輝かせ、鱗の隙間から半透明の液体を垂れ流すデカいゴリラが、鼻息荒く二足歩行で追いかけてくるのだ。
 しかも、こちらの攻撃が全く効かない。悪夢と呼んでもなお不足だろう。

「おっかしいなぁ。竹林にあんなの居たっけか」
「よそ者じゃないのか?」
「なんでもいいでしょ! やっつけちゃえばさ!」

 チルノが冷気を集め、私たちと化け物の間に山型の巨大な氷塊を出現させた。
 なるほど、足止めか。道は狭く、両脇はひたすらに竹の群れ。当たろうが避けようが、どちらにしても速度は落ちる。

「止まったところをコテンパンにしてやるんだから!」
「いやいや、逃げるぞチルノ」
「チャンスは有効に使わないとね」
「何言ってんの!? そんなことじゃ最強になれないよ!」

 そんな中、化け物は氷との相撲を選択したようだ。
 氷めがけて突進してくる姿が見える。
 
 そしてついに氷と化け物がぶつか……。

 えっ? うそでしょ、あああッ!? 

「「「と、飛んだァーッ!?」」」

 触手鱗ゴリラから翼が生えた。
 それも天使の如き純白の六枚翼。

 これ以上属性を増やしてどうするんだ略してゴリラ。
 両腕を広げた無駄に神々しいポーズが、私達の腹筋を潰しにかかる。

「見るなよ……ふっ、ふふ。絶対後ろ見るなよ……!」
「い、いやもう遅いし……! ブフッ、ヤバイ、息できない……!」
「うおー! 超カッコイイあのゴリラ!!」

 駄目だ、笑っちゃって上手く走れない。

「ま、まずい。追いつかれる」
「ナーリンなんで半笑いなの?」
「おい素兎。どうにかして奴を止めないと」
「……鈴仙ちゃん!?」

 唐突に、誰かの名を叫ぶ素兎。
 彼女の目線の先には、何も居ないように見える。

「おい、どうした。近くに仲間がいるのか?」
「永遠亭から。あの子とは、遠くからでも会話できるんだ」

 鈴仙……永遠亭の月兎か。確か、波長を操れると聞いたことがある。
 遠隔会話もその力でか? 便利な能力だ。

「いや掃除はやるけどさ。今は助けて欲しいんだって。嘘じゃないからマジだから!」
 
 鈴仙の声は私には聞こえないが、まあ、大体何を言っているかわかる。

「早くしないと装甲触手戦士ゴリエンジェルに……い、いやふざけてなくて!」

 これは、色んな意味で埒があかないな。

「素兎。私と変われるか?」
「そのほうが良いっぽいね……」

 素兎がその旨を伝えると、私の耳元で声が聞こえた。

『えーっと。お寺の鼠よね?』
「早速だが手際よく行くぞ。正体不明の化け物に追われている」
『あ、てゐの話ホントだったんだ』
「全高3メートル以上。ゴリラに似ているが、多数の触手と全身に鱗。正体不明の液体を全身から分泌し、背中に翼が六枚生えている」
「なにそれこわい」

 いや、ココまでくるとむしろ笑えるぞ。

「鱗と、おそらく分泌液もある種の鎧となっているのだろう。私達の攻撃は通らない。おそらく言葉は通じず、明確にこちらを襲う意志がある」
『ROG……じゃなくて、わかった。なんとかする。永遠亭に向かってまっすぐ走って』
「わかった。よろしく頼む」

 すると、声は聞こえなくなった。
 不思議な感じだが、とにかく、鈴仙の言葉をてゐに伝える。

「永遠亭に向かえと言っていた」
「おっけー。んじゃ、もうちょっと走ってもらうよ」
「駄目だー! 全然効かない! 何なのあのゴリラ!」
「チルノ、無駄な抵抗はやめたまえ」
「んもー! 超悔しい!」

 またしても徒競走だが、希望がある分、幾分か改善されたといえよう。
 その代わり、そろそろ息が上がってきた。

「お、おい。まだ着かないのか」
「もっ、もうすぐ」
「危ない!!」

 唐突なチルノの叫びに、反射的に頭を下げる。
 何かが頭の上を通過したように感じた。

「いっ、今のは!?」
「触手だよ! もうちょっとで耳チョンパだった!」

 チルノの言葉に内心青くなった。
 もう、触手の射程内に入ってしまっている。 
 
「子鼠! あんた何かいい感じのアレとか無いの!? バリア的な!」
「そんなものあればとっくに……あ!」

 そうだ、予備のペンデュラム!
 どこまで耐えられるかは解らないが、その場しのぎぐらいにはなる筈だ。

「やってみるか、ペンデュラム!」

 ペンデュラムを握りこみ妖力を送り込む。
 すると空間に白い輝きが――。

 パリン。

「あっ」
「え、ちょっと。どうしたの?」

 握った手を、ゆっくりと開く。
 
 そこには、注いだ妖力に耐え切れず、砕け散ったガラス雑貨の姿が。

「……えへっ」
「ナニ笑ってんのお前!? 意味ありげに叫んだと思ったら、ガラス割っただけって!」
「しっ、仕方ないだろ! 予備での戦闘は想定してなかったんだ!」
「予備の意味ないじゃん! 賢将って書いてバカって読むわけ!? そのゴミをお守りに特攻して、一発キメられてこい無能大将軍!」

 こ、コイツ。言いたい放題いいやがって。

「そ、そういう君は何もしないのか! 君自身が何かやってから罵りたまえよ!」
「うえっ? あっ、じゃ、じゃあやってやるよ。とっておきの切り札を見せてあげるさ!」
「その意気だ。さあやりたまえ」
「くっ、喰らえ! あの、みっ、三つ葉の! クローバァーッッ!」

 素兎が脂汗を流しながら取り出したのは、まごう事なき三つ葉のクローバー。
 せめて四つ葉を出してくれよ。

「ああ、素晴らしい切り札だ。それならきっと奴を倒せるね。雑草片手に儚く散って、竹林の肥料となりたまえ。口ばかりの老害ウサギめ」
「こ、この竹林で私に喧嘩売ろうって――」
「二人とも危ない!」
「「うおッ!?」」

 同時に叫んで、同時にジャンプ。
 罵りあいなどお構い無し。今度は触手が脚を狙ってきた。

「さっきから何で私らばっか狙われんの?」
「いやほら、あたい最強だからさ。オーラ的なアレがさ」
「妖獣フェチなのかねぇ」
「あるいは体温に反応するとかな」
「体温に執着するケモミミフェチのロリコンゴリエンジェル……」
「底なしの業だな」

 というか、対象が私達なの分かってるよね? 不味いよね?

「こ、このっ。勝負だゴリラ!」
「だからチルノ。逃げることを優先したまえ」
「若いっていいねぇ」
「そんなこと言ってる場合じゃないって! ほら!」

 素兎と共に振り向く。
 そこにはもはや、手が届きそうな距離まで接近していたゴリエンジェルの姿。

「こんなに近くに……!?」
「お、終わったかな?」
「何で効かないんだよー!」

 至近距離から放たれる氷弾をものともせず、ゴリエンジェルの手が迫る。

「あーッ! 鈴仙ちゃん早くー!」
『お待たせ。今どうなってる?』

 2人同時に虚空を見る。間一髪で鈴仙の手も届いた!
 しかし、もはや猶予は無い。

「もう限界だよ! 早くして!」
「何でもいい! 今すぐヤツを止めてくれ!」
『了解』

 次の瞬間、ゴリエンジェルの胸に穴が開いた。鱗は砕け散り、血が宙を舞う。
 さらにもう一発が、同じく胸に着弾。奴は呻きながら足を止め、傷口を抑えてよろめく。
 
「ヒューッ! いいぞ鈴仙ちゃん!」
「よし、いけるぞ!」
「なんでコッチは効くの!?」

 このまま、続けざまに攻撃すれば倒せる。そう私は確信した。 
 念のため呻くゴリラからさらに離れて、とどめを待つ。

「こっちを見なさいゴリラ!」

 だが、撃たない。
 いつの間にか傍まで来ていた鈴仙は、ゴリエンジェルを挑発しはじめた。

「お、おい。そんな悠長なことを」
「ねーなんであんたの攻撃は効いたワケ!?」
「後で教えてあげるから。ホラこっち見なさいよ!」

 チルノをあしらい、さらにゴリエンジェルを挑発する。
 しばらく胸を押さえて唸っていたが、ついに奴は鈴仙の方を見た。

 すると、奴に異変が起きた。
 眼球は狂人の如く揺れ、空気を奪われたかのように苦しみ悶え、そして泡を吹きながら倒れ伏してしまった。

「れ、鈴仙。何をしたんだね」
「まあ、波長と精神をチョチョイとね」

 離れた相手をチョチョイで狂死とは、いやはや恐ろしいな。

「鈴仙ちゃーん! マイハニーエンジェール!」
「暑いから抱きつかないでよー」
「いや、実際助かったよ。流石だな」
「まあ私にかかれば、これくらい余裕だわ」

 フフン、とドヤ顔で髪をかき上げる鈴仙。
 頼もしいが、なぜかチルノと姿が被る。

「ねーなんであんたの弾だけ効いたのー」
「そうだ、今後の参考に聞かせて欲しいな」

 至近距離で、連続的に放たれる氷の弾丸。
 それさえ通じなかったゴリエンジェルに、なぜ彼女の弾は効いたのだろうか。

「大した事はしてないわ。氷弾より重い弾丸を、氷弾より高初速で撃ち出したってだけ」
「それだけか」
「それだけよ。だからこそ、対処が難しい。馬鹿には余計にね」

 単純であること。それあ大きな優位点と成りえる。
 その理由も単純。余計なものが余計にあったら、非効率だ。危機的状況においては特に。

「つまり、あたいはもっと最強になる必要がある、と」
「まあ、そういうことかな」
「よっしゃ! まずは腹筋からだ! うおお!」

 腹筋でどうにかなるとは思えないが……。
 とりあえず、君がやっているのは腕立て伏せだ。

「で、攻撃が通じるのに何故トドメを刺さなかった?」
「撃つのもタダじゃないの。残念なことに」

 そう言って鈴仙は、赤くなった両手の指をみせた。

「私だって指を壊したくないからさ。通じるなら、狂わせた方が早いし」
「なるほどな」
「それで、えーっと、永遠亭に用事があるの?」
「ああ、そうだった。実はだね」

 用件を伝えようとした矢先、素兎が間に割り込んできた、

「待った。先に報酬を出しなさいよ」
「がめついな」
「追加で欲しいくらいよ。アイツのせいで散々な……ひっ!」

 素っ頓狂な声を上げる素兎。目線の先には。倒れ伏すゴリエンジェル。

 今更何を驚くことが。
 そう言おうとした矢先。私もまた、悲鳴をあげそうになった。

「う、動いてんだけどコイツ……」

 胸部を穿たれ、精神を侵されたハズのゴリエンジェル。
 そいつが、今まさに、立ち上がろうとしている。

「どうなってんのさ! 身も心もブッ壊したんじゃないの!?」
「大人しく伏していればいいものを……!」
「まだ腹筋終わってないんだけど!」
「波長が元に戻り始めてる……何なのコイツ」

 ならばもう一度。
 膝立ちで此方を睨むゴリエンジェルに、鈴仙は再び狂眼を向ける。

 その時、双方が同時に動いた。

 腕のように太い触手を、口から伸ばすゴリエンジェル。
 素早く胸元に指を構え、弾丸を連射する鈴仙。

 放たれた弾丸は迫る触手を粉砕し、奴の顔面の鱗を叩いて消えた。

「あーもー! 指痛いって言ってるでしょ!」

 手をバタつかせて顔をしかめる鈴仙。
 一方、奴は立ち上がり、両腕で自らの身体を抱えるようにして震え始めた。

「ちょっと、何か嫌な予感がするんだけど」
「顔伏せてるから眼は無理ね。うう、指腫れちゃう……」

 鈴仙がしぶしぶ構えると、ゴリエンジェルがその両腕を解き放った。
 氷塊を超えた時の様な神々しいポーズをとると同時、奴の全身から無数の何かが飛び出した。

 ゴリエンジェルが鱗の隙間から垂れ流していた、分泌液。

 それらは私達に散弾のごとく襲い掛かる。
 反応の遅れた私達は、迫り来る大量の液体を、ノーガードで被る羽目になった。

「……子鼠。あんた、めっちゃかかってるよ」
「……素兎。残念だが君もだ」

 暑い中全力疾走して、あげく謎の液体だ。私も素兎も、豪雨の下に曝されたかのような風体となり果てていた。
 しかもこの分泌液、僅かに粘性があるらしく、最高に気持ちが悪い。

 当のゴリエンジェルは、全てをやりきったかのような表情で倒れ伏していた。
 最後の一撃というわけだ。どうかこいつが地獄に落ちますように。
 
「あれ!? 何で鈴仙ちゃんにはかかって無いの!?」
「いやほら、自分の波長をチョチョイと」

 それ私達にも使って欲しかった。

「チルノ。その氷の盾は」
「最強のあたいは防御も最強なのだ」

 つまるところ、間抜けは私と素兎だけというわけだ。
 ……野生があったら還りたい。
 
「二人とも大丈夫? かぶれとか、痛みとか無い?」
「今のところは無さそうだが、そんなことより」
「なんていうか、精神的にキツイわ」
「お、お風呂沸かしてくるね」

 駆け出していく鈴仙の後に続いて、のそのそと歩き出す私と素兎。

「ねえねえ。急いだほうがいいよ」 
「チルノ。すまないが、今君の相手をする気力は」
「いやだって、2人とも服めっちゃ透けてるし」

 自分の姿を見て、素兎の方も見る。
 まるで豪雨の下に曝されたかのような……。

「きっ、急に走りたくなったぞ素兎!」
「そっ、そうね! 運動は健康にいいものね!」
「あたいもー!」

 3人同時に走り出す。顔の温度が急上昇していくのが分かる。
 まさか薄着がアダになるとは、もう散々だよクソッタレ。

 ここが迷いの竹林なのが、せめてもの慰めか……。
  






「ゴリエンジェルの体液でその穢れ無き肢体を余すところ無く汚されてしまった私達は」
「何か引っかかる言い方だな……」

 まあそんなわけで汚れを流すべく、素兎と共に永遠亭で風呂に入っている
 ヒノキをふんだんに使った贅沢な造りに、2~3人同時に入っても十分に余裕のある広さ。
 まして小柄な私達だ。広すぎて勿体無さすら感じる。実に気持ちが良い。

「まったく。宝石を買いに行くだけでこんな目に遭うとはな」
「むしろ幸運さね。姫様と焼き鳥屋のタイマンに巻き込まれたら、ベッドのお世話だったかもよ?」

 湯を指先で躍らせながら、他愛も無さそうに素兎は言う。
 不死者同士の殺し合いなんて、絶対に巻き込まれたくない。それこそ、命がいくつあっても足りやしないだろう。

「……そんな所を、よくもまあ行き来できるね」
「慣れよ慣れ。ていうか、そもそも竹林は私のモノだし。私に弓を引くバカはそう居ないよ」

 生ける神話であるとはいえ、その身は小さく華奢な少女。
 鍛えた技能は健康管理と舌先三寸。手にした異能は幸運のお裾分け。
 そんな素兎が、どんなペテンを駆使して迷いの竹林を手にしたのか、気になるところだ。

「そうであるならば、君にとってこれは、憂慮すべき事態かな?」
「まあねぇ。私はあんなヤツ、見たことも聞いたことも無かったし」

 あれほどのイロモノ、それも見敵必殺の習性を持つ化け物に、古参である素兎が遭遇しないわけも無い。
 恐らくは余所者なのだろうがが、何処から来たのか、という疑問が残る。
 
「なーんか変なんだよねぇ」
「アレを変だと思わないほうが変だよ」

 いや、チルノはカッコイイと言っていたな。
 最強たるもの、感性も一味違うという事なのだろうか。

「そうじゃなくてさぁ。何て言ったらいいのか……うーん」
「煮え切らないな」
「貴方らしくないわね。今更遠慮するようなタチかしら」
「遠慮じゃないよ。お師匠みたいに脳の周りは早くな、な!? お師匠!?」
「うわっ! なんだ!? いつの間に!?」

 素兎と私の間に、いつのまにか女性が一人。
 タオルで纏めた髪は銀。となれば。

「や、八意永琳か?」
「そうよ。初めまして」

 月の頭脳とまで謳われた、天才薬師。
 副業で医者をやれる辺り相当ではあるが、彼女にとっては細事なのかもしれない。
 以前魔理沙が『永琳はガチでヤバイ』と言っていたが。どういう意味だろうか。

「怪我人は無理しちゃ駄目よ」
「ああその、善処します……いや、そんなことよりもだな」
「い、いつの間に入ったのさ」
「二人が抱き合いながら熱い口づけを交わし始めた辺りかしら」
「老眼鏡買ってきなヤブ」
「虹色の薬もだモグリ」

 おい。幻想郷の知識人はこんなのしか居ないのか。おい!

「ところで、貴方達が被った例の液体だけど」
「あ、解ったの?」
「ええ。毒性の類は無いから安心していいわ」

 ホッと胸を撫で下ろす。
 風呂で流したとはいえ不安だったのだが、これで一安心だ。

「やはり、アレは保護液のような物だったのかな」
「まあ唾液だし、そう言って差し支えないわね」

 なに? 今なんて言った? 

「あの、いま唾液って」
「そうよ。大量の唾液を全身から流していたの。身体の保護目的なんだろうけど、変わった体質ね」

 つまりアレか。私たちはゴリエンジェルの唾液を全身で。

「……いやありえない。ホントありえないから。ちょ、もっかい身体洗おう」
「……そうしよう。そうすべきだ。可及的速やかに。徹底的に」
「終わったら宝石見せるから、鈴仙に声を掛けてね」

 永琳の言葉に生返事を返しつつ、石鹸を手に取る。
 チルノから話を聞いたのだろうか。いや今はそんなことはどうでもいい。
 今はこの身体を清めることだけに集中しよう。
 そうでないと泣きそう。ホントに。







「あ、ナイジェリア。やっと出てきた」
「ナズーリンだ。絶対ワザと言ってるだろ君」

 風呂から上がると、チルノと参謀、それに鈴仙が待っていた。
 
「随分長く入ってたのね」
「ま、まあね」

 譲れない戦いというものがあるのだ。知ってしまった以上、洗わないわけにはいかない。

 風呂から上がって驚いたのだが。服が洗濯済みで、しかもちゃんと乾いていた。
 いくら長風呂とはいえ、そんな時間は無かったハズなのに。
 少し遅れた上がった素兎にそれを尋ねたところ。

『なんで乾燥まで終わってんの……怖ッ……』

 と慄いていたので、それ以上の詮索は止めておいた。私だって命は惜しい。

「さて、ようやく本題だ」
「やっとボス戦ね。腕が鳴るわ」
「すぐそこの部屋にお師匠様がいらっしゃるから」

 チルノと共に、鈴仙が示した襖の前まで行く。

「失礼するよ」
「どうぞ」

 襖を開くと、畳張りの部屋に机が一つ。そして、座布団に座る永琳の姿。

「来たわね。じゃあ、早速はじめましょうか」

 机の上に置かれたのは、複数の小さな宝石達。
 トパーズ、サファイア、エメラルド……茶色い机が色鮮やかに飾られていく。

「姫のアクセサリにでも、と思ってたんだけど、結局使わなくてね」
「スゲー。綺麗なのがたくさんだ」
「ああ、質は申し分ないね。しかし……」

 余りにも小さすぎる。これではペンデュラムへの転用は難しい。

「申し訳ないが、これらは小さすぎて用途に合わない」
「あら残念。それじゃあ、早々に切り札を出しましょうか」
「切り札?」
「ええ。これ以上の宝石は、おそらく他に存在しないでしょう」

 それほどのものが、幻想郷に?
 思わず生唾を飲み込む。

「それは、是非ともお目にかかりたいね」
「あたいも見たい!」
「ふふ、物欲しそうな顔しちゃって。それではとくとご覧あれ」

 机に出されたモノを見て、流石に目を疑った。

「これは……鉢、でいいのだろうか……?」

 永琳が両手で机に置いたそれは、形状は鉢のような形をしている。
 だが、その全体が透き通り、輝きを放つ鉢を、私は知らない。

「すげえ……これ絶対強い……」

 まさしく、チルノの感想がすべてを物語っている。
 綺麗とか、汚いとか、上品とか、下品とか。
 そんな貧弱なワードをすべて吹き飛ばす『強さ』がそこにあった。
 
「そう、仏の御石の鉢をモチーフに作った総ダイヤの鉢。その名もブディストダイヤモンドよ」
「御釈迦様に謝りたまえよ……」

 いやまあ、確かに光り輝いてるけどさ。
 神のご威光だと主張するには、成金趣味にもほどがある。

「これホントに全部宝石なの?」
「そうよ。人工ダイヤだけどね。流石の私も苦労したわ」

 そりゃそうだろうよ。
 幻想郷では……いや、例え外の世界でさえ、こんな巨大なダイヤはそうそう作れまい。
 少なくとも、薬師のやることでは無い事は確かだ。

「あー、その。申し訳ないが」
「分かってるわよ。ちょっと見せたかっただけ。そもそもこれは」
「永琳いる!?」

 豪快な音とともに襖が開かれる。
 そこには、見知らぬ黒髪の少女。
 
「輝夜。はしたないわよ」
「あ、あら。ごめんなさい。お客様がいらしてたのね」

 輝夜? 彼女が蓬莱山輝夜か。
 かぐや姫その人だと言われているが……本当なんだろうか。

「ブディストダイヤモンド、返してもらえる?」
「ええ、どうぞ」
「よし。それでは、お騒がせしました~」

 今度は静かに去っていく姫君。
 アレを一体何に使うのだろうか。まさか、食事の用意ということはあるまい。
 
「今日は早めに帰ったほうがいいかもね」
「どうしてだい?」
「輝夜が殺し合い始めるから」
「あ、ああー。なるほど……もう妹紅が帰ってきたんだな」

 恐らくあの金剛鉢は、スペルカードのモチーフなのだろう。
 あるいは私のペンデュラムのように、戦闘用端末としての機能があるのかもしれない。

「あの強いの何に使うの? 殴るの?」
「君じゃあるまいし。あの姫君がそんな事するかね」
「すごいわよ。血が間欠泉のごとく吹き出るから」
「やってんのかよ」

 傷だらけの少女が鉢を握り、怨敵の脳天に狙いを定め、セットアップからのスリークオーター……。
 痴情のもつれという言葉が浮かぶのは、得物のせいか?  

「では忠言どおりに、お暇させて頂くよ」
「そうしなさい。うどんげー?」
「お呼びですか?」
「帰り道を送ってあげて」
「わかりましたー」

 またしても未収穫か。ううむ、これは難航しそうな予感がするな。
 
「それでは、失礼するよ」
「また殺人鉢見せてねー!」
「ええ。怪我や病気で来ないことを祈ってるわ」

 鈴仙の案内で、今度は玄関を目指す。
 遠方から聞こえる戦闘音に冷や汗をかきつつ、鈴仙に尋ねる。

「君は、行商にも出てるよね? 宝石のありそうな場所とか、心当たりはないかね」
「紅魔館はもう行ったからね!」
「うーん、里の装飾品店くらいしか……あ」

 何かを思い出した鈴仙が顔を明るくする。

「心当たりがあるのか」
「こないだの異変で会ったヤツが宝石っぽい名前だった。へカーティア・ラピスラズリ」
「その人は、宝石に由縁が深いのかね?」
「わかんない。地獄の女神だって言ってたけど」
「……流石にそれはなぁ。違う気がするよ」 

 3人で頭を捻っていると、素兎がこちらに向けて駆けて来た。

「ちょっとちょっと子鼠! まだ報酬貰って無いんだけど!」
「あーすまん。すっかり忘れていたよ」

 約束どおり、提示の2倍を渡してやる。
 
「まいどー」
「次があったらまた頼むよ」
「ぜってーやだ。それより」

 渡した貴金属をしまい込みながら、素兎は私を見つめた。
 子供のように大きな眼と、老人のように底の深い瞳で。
 
「それより、何かね?」
「……この後、欲しいモノが見つからなかったとしても、帰れる時に帰っときなよ」
「元より、心がけているよ。私は臆病者なんでね」
「いーや。あんたみたいのは絶対やらかす」
「では、今日でその絶対は終わりだな」
 
 素兎は更に何かを言いかけたが、頭を掻きながらそれを止めた。

「生意気な上に減らず口ときた。あんたが怪我や病気でここに来ますように」
「その時は割引してくれたまえ、ご老体。じゃあ鈴仙、よろしく頼むよ」
「じゃーなーうさぎのダンスー」
「その呼び方やめて」

 さっさと行けと手で払う素兎に、満面の笑みで手を振ってやる。こういう方がかえって効くのだ。
 あとは、帰り道に何もないことを祈るばかりだ。
 


STAGE4:正体不明の青い石



 無事に竹林を抜けた私たちは鈴仙と別れ、湖で小休憩を取っていた。

「さて、この後はどうしようかな」
「とりあえず水浴びしてきていい? ナズーリンはお風呂入ったからいいけど、あたいもうベッタベタなんだよ」
「だからナズーリン……あ」

 思わずチルノの方を見る。
 口に手を当て、流し目でこちらを見るチルノは、笑いを堪えているようにしか見えない。

「おい。やっぱりワザとだな? おいチルノ」
「あっははは! ケンショー敗れたり!」
「ぐぐ……」

 引っかかったのは私の油断だ。自身の間抜けに異議は唱えまい。

「負けたよチルノ。さすが、最強の妖精といったところか」

 そう言いながら、彼女の頭を撫でてやる。

「ふふーん。褒めたって氷しか出ないあたいのほっぺを掴む意図が掴めにゃああああ」

 チルノの冷たく柔らかい頬を引っ張ってやる。
 強くはやってないから痛くはあるまい。

「大人をからかうんじゃないよ」
「いやあんたどう見たってオトナにはみえにゃあああ」

 何度でも主張させていただくが、私は幼女じゃないし、子供でもない。

「まあいい。さっさと行ってきたまえ。私はここにいるから」
「へいへい」
「そういえば、水着とか持って来てるのかい?」
「家近いからそっちで着替えんのー」

 鼻歌を歌いながらどこかへと飛び去るチルノ。
 ……チルノの家ってどんな感じなんだろう。やはりカマクラなんだろうか。
 
 いや、そもそも妖精って、服とかどこから調達してくるんだろう。
 金を持ってるとは思えないし、作れそうも無い。あるいは、服も込みで妖精という存在なのだろうか。 

「あたい帰還! やっぱ水着は涼しいね!」

 そこには青い水着を纏ったチルノが立っていた。
 実に涼しそうだ。私も持ってくればよかったかな。

「さっそく湖に向けて突撃ー」
「あまり長居はしないからな……ん?」

 チルノが向かう湖の中、何かが通ったような気がした。
 いや、確実に居る。今まさに何かが浮上しようとしていた。

「チルノ! ちょっと待て!」
「氷精! 水浴び一番乗り!」

 小さな身体が宙を舞う。
 彼女の足が地面を蹴ったとほぼ同時、水面下の何かが正体を現した。

「もしかして影狼さん? それとも蛮奇ちゃん?」
「最強! アイスフェアリーキーック!!」
「んぼっ!?」

 そのどちらでもない者の見事な飛び蹴りによって、何かは再び湖へと沈んでいった。

「チルノ。お前何を蹴った?」
「湖にわかもと姫っていう人魚が住んでるんだけど。そいつを」
「強そうな名前だな」
「わかさぎ姫ですっ」

 抗議の声とともに浮上してきたのは、頭にたんこぶを作った少女。
 青い髪に縦ロール。耳の代わりにヒレが生えている。

「もー。ひどいじゃない」
「メンゴ」
「それで、えっと。あなたは?」
「これは失礼。私はナズーリンだ」
「私はわかさぎ姫。よろしくね」

 互いに挨拶を交わした後、何かを思い出したらしいチルノが、手を打ってわかさぎ姫に言った。

「そうだ! わかさぎ姫って綺麗な石いっぱい持ってたよね」
「え? ええ。趣味で集めてるから」
「ナズーリン。もしかしたらさ」

 なるほど、紛れて一つ、ということも有り得るか。
 
「すまないが、そのコレクションを見せてもらえないか」
「あら、貴方もそういうのが好きな人? ちょっと取ってくるね」

 そう言ってわかさぎ姫は水中へと消えていった。

「チルノ。ナイスだ」
「まあ、さすがはあたいといったトコロね」

 そう時間もかけずにわかさぎ姫は戻ってきた。

「おまたせー。これが私のコレクションよ」
「年季の入った箱だな。開けていいかい?」
「どうぞ」

 さっそく蓋を開けてみると、様々な種類の石が綺麗に並べられている。

「どう? あった?」

 変わった模様。美しい形状。どれも興味深くはある。

「確かに綺麗だが、宝石は無いな」
「もしかして、何か探してたの? お役に立てなくてごめんなさい」
「ああいや、気にすることは無いよ」

 いい人なんだが、それ故に調子が狂う。
 私の周りに変なのばっかり集まるせいだ。

「はてさて、どうしたものかな」
「もう有りそうなトコ無いの?」
「あるにはあるんだが……」

 それは、妖怪の山。
 先日喧嘩を売ったばかりの場所である。

「私の馬鹿……! 何故あそこで撃ったんだ……!」
「よくわかんないけど、元気だせナズーリン」
「うーん。山がダメなら、あとは地下かしら?」
「モグラの知り合いって居たかなぁ」

 嘆く私の耳に、重要なワードが飛び込んできた。
 すっかり忘れていた。大勢が住む町と、実力者の集う屋敷がある場所。
 
「チルノ。出発するぞ」
「え!? ま、待ってよ。どこに行くつもりなのさ」
「地底だよ。地底」

 最近になって交流が解禁された場所だ。。
 孤島状態だったあそこなら、あったモノが外に流れた可能性も低い。

「でも地底って、すごく危ない場所って聞いたわよ?」
「進んで行きたい場所ではないが、仕方あるまい」

 地上との交流も徐々に緩和されつつある。
 その状態も多少の改善はなされている、そう信じよう。

「さあチルノ。日が暮れる前に地底へと」
「水浴びしてからね」
「ああ、そういえばまだだったな……」

 霧の立ち込める湖で、水と戯れる妖精と人魚。
 私はしばらくの間、ファンタジーの詰め合わせのような光景を眺めることになった。
 もっとも、黄色い声ではしゃぐ2人に、字面に感じる神秘性は一切無かったけれど……。







 日が傾き、夕方に差し掛かった頃。
 私たちは大きな穴と対峙していた。

「ここが地底の入り口?」
「そうだ。基本的には、ここから出入りする」

 幻想郷の某所にある、地上と地底を繋ぐ正式なルート。
 他にも道はあるが、そちらは色々な意味で保障されていないので論外だ。

「地底はここ以上に喧嘩っ早いぞ。大丈夫かね?」
「むしろ上等じゃん。全部倒して天下とってやるんだから」

 勝てるかどうかの心配ではないのだが。

「よし、それじゃあ行くぞ」
「突撃っ!」

 その中はろくに明かりも無い、暗い洞穴。
 しかも、かなりの下り坂だ。躓いたら、悲惨なことになりかねない。
 かといって、飛べば安全と言えるほど広いわけでもない。

 霊夢と魔理沙はここを飛んで、土蜘蛛と釣瓶落としを撃退したというから驚きだ。本当に人間なのかあいつら。

「……居ないといいなぁ。どっちも」

 ありがたいことに、その後誰にも会うことなく、下り坂の終点にたどり着いた。

「日頃の行いが良いからかな?」
「あたいに感謝してよね」 
「え?」
「あっ、見てあれ。何かめっちゃ光ってる」

 チルノが指差した先に、緑色の光が見えた。
 目を凝らすと、橋のようなものも見える。
 旧都と風穴の境目に、橋姫が守護する橋があると聞いたが、あれだろうか。
 近づいてみると、緑色に淡く輝く川と、赤い端の欄干が姿を現した。ビンゴだ。

「綺麗だなー。何で光ってるんだろ」
「なんでだろうな」

 光る川を堪能しつつ橋を渡ろうとしたところ、橋の中央に誰かが居るのが見えた。
 欄干に気だるげにもたれ掛かる金髪の女性。となれば、一人しか居まい。

「この橋の橋姫か?」
「そうだけど」

 目線だけこちらに向けて答えた橋姫こと水橋パルスィ。
 随分お疲れのようだが、何かあったのだろうか。

「渡ってもいいかな」
「地上から来たのよね。一応、目的を聞かせて」
「仕事に使う宝石の調達に伺ったのだが」
「宝石……何でわざわざ、地底なんかに来る必要があるワケ?」

 目的を告げた途端、表情を険しくする橋姫。
 なにか怪しまれるようなことを言っただろうか?

「別にいーじゃん渡るくらい。ケチケチしないでよ」
「ここが普通の橋ならそうするけどね」
「地上で要求を満たす物が無かったので、地底に来ただけだ。それ以上でも、それ以下でもないよ」

 やましいことなど何一つ無い。私が望むのは健全な売買のみだ。
 しかし彼女は腰に手を当て、特大のため息を吐いて言った。

「帰んなさい。行き来が解禁されたからって、フリーパスってワケじゃないの」

 ……妙だな。警告されたり、弾幕ごっこを挑まれることはあるが、逆に言えばそこまでだと聞いた。
 通行を拒絶されるような事例は、今のところ聞いたことが無い。

「私達を拒む理由を説明したまえよ。君が番犬ではなく、守護者であるのなら」
「諦めの悪い女は嫌われるわよ」
「はっはっは。橋姫が言うと説得力が違うね」
「……ヤマメもキスメも、肝心な時に居ないんだから。自由でいらっしゃって、妬ましい限りだわ」

 橋姫の白い指が自身の片目に触れる。
 現れたのは、その緑眼を黒ずませたような、毒々しい色の呪符が2枚。

「本当に喧嘩っ早いな。地底のは」
「あんた達のおかげでね」
「ふん、やったろーじゃん。ソッコーで凍らせてやるんだから」

 ま、まさかあの程度の煽りでカードを出すとは。
 チルノも、集めた冷気からカードを顕現させた。ちょっと待ってくれ。

「ちょっと待てチルノ。橋姫も、カードを収めたまえ。謝るから、なっ?」
「ならさっさと――」
「はいはーい。そこまでー」

 橋姫の隣に突然、人が降ってきた。しかも逆さ釣りで。
 なぜか裾が捲れない茶色いワンピースと、邪悪さと古臭さを纏った金髪の少女。
 覚えがあるぞ。この雰囲気。

「君、土蜘蛛か? まだ残っていたとはね」
「あれ、私の事知ってるの? 随分と古株なんだねぇ」

 少し嬉しそうに笑う彼女の耳を、パルスィが容赦なく捻りあげる。

「どこ行ってたのよ。私にばっかやらせておいて」
「いだだだ! 頼まれたのはパル子だろう? なんで私までやらにゃならんの」
「立て替え続けた酒代を、働いて返せってのよ」
「でも私って、糸より重いもの持ったことないから労働はちょっと」
「建築屋が何をほざいて……」
「悪かった。謝るからその釘はしまっておくれ……違う私の耳にじゃなくてッッ!」

 耳の穴から五寸釘を叩き込まれた土蜘蛛は、地上に落下し、白目を剥いて痙攣を始めた。
 
「……なんだこの茶番は」
「あたい眠くなってきた」

 事を終えた橋姫は、満面の笑みでこちらへと向き直る。

「ごめんなさいね。待たせちゃって」
「ああいや。その、な。君も大変なんだな」
「わかってくれるのなら、帰って欲しいのだけど」
「まあまあパルスィ。通してあげなって」

 なおも突っ張る橋姫に、のっそりと起き上がった土蜘蛛が口を挟んだ。復活早いなコイツ。

「この二人が心配なのは分かるけどさ」
「いや、そういうのじゃなくて」
「それに今思い出したけど。古株の方は多分、仏教徒達が話してた探し屋だろ?」

 仏教徒……ああ、そういえば皆は昔ココに居たんだったな。

「多分そうだろうね。私はナズーリンだ」
「そしてあたいはチルノだ」
「私はヤマメ。こっちはパルヴァライザー」
「お前の悲鳴で永久に成長し続けてやろうか」
「悪かったから二本目はしまっとくれ」

 橋姫が耳に添えた釘をやんわりと離させて、土蜘蛛は続ける。

「あれの仲間なら、そう下手な真似はしないだろうさ。こう言っちゃ何だけど、ちょっと過保護だよ」
「……そんなつもりじゃないけど。わかったわよ、通すわよ」
「それはありがたい」

 よくわからないが、お許しが出たようだ。
 だが、このままサヨナラ、というわけにもいかない。

「しかし、何故こうも渋っていた? 橋姫は基本、忠告はしても干渉はしないと聞いていたが」
「宝石を捜しにきた、ってところがちょっとね」
「何かまずかっただろうか?」

 交易に制限をかけるような法は無いはずだし、宝石シンジケートの類があるとも思えない。

「最近、大きくて綺麗な宝石が見つかってね」
「私の拳よりでかいし。何より、色がすごい。あんな鮮やかな青は初めて見たねぇ」
 
 土蜘蛛の言葉を聞いて私は、とっさに布袋を取り出した。

「もしかして。こんな色かい?」

 中に入っている砕けたペンデュラムを二人に見せる。
 すると、驚いた顔で頷きあった。

「これだ、この色。そっくりだ」
「何であんたが……?」
「これは昔に地上で手に入れたものだ。君たちの言う宝石とは、恐らく別物だよ」

 パライバトルマリンがここに? 有り得るのか、そんなことが。
 しかも、ヤマメの言うことが本当なら、間違いなく世界最大だぞ!
 
 ……いや、冷静になろう。実物を確認するまでは、詳細不明の石に過ぎない。
 それでも、鼓動は高鳴り、口の端が持ち上がっていくのが分かる。

「話の腰を折ってすまないね。それで、その宝石の何が問題なんだ?」
「宝石が、って言うより。それを見物してる野次馬が変なのよ」
「光物なんて金券くらいにしか思ってない連中が、妙に感じ入った風に眺めててねぇ」

 ふむ、妙といえば妙だが……懸念するほどの事だろうか。
 転売した金で何を買おうかと、空想に耽っているだけかもしれないし。

「えー? 綺麗な宝石を綺麗だなーって見てて、何がおかしいのさ?」
「……皆がお嬢ちゃんくらいキレイだったら良かったのになぁ」
「えへへ、聞いた? あたい美人だって」

 赤らんだ頬に手を当てて、緩んだ笑みを浮かべるチルノ。
 てっきり、あたいは最強だから当然、とか言うものと思っていたが。
 チルノも女の子なんだなぁ、うんうん。

「まあとにかく、その辺が気になってて。宝石目当てって理由だったから追い返そうとしたのよ」
「だったら最初からそう言ってくれれば」
「引いてくれた? 本当に?」
「……いや、すまない。君の対応が正しいな」

 間違いなく引かなかったな。
 むしろ、俄然興味が湧くだろうね。

「ま、詳しいことはさとりに聞いて。多分、あんたなら歓迎されるから」
「そうかい? まあ、早めに寄らせてもらうよ」

 何か引っかかる言い方をされたが、まあいいか。

「では、今度こそ行かせて貰うよ」
「その前に、お金出しなさい」
「おいおい。通行料が要るのかい?」
「違うわよ。あんた、旧都のお金持って無いでしょ」
「あ、そういうことか」

 そうか、人里とは通貨が違うのか。
 うっかりしていた。危うく文無しで街に入るところだった。

「助かったよ。橋姫が為替までやってるとはね」
「旧都にも為替屋はあるんだけどね……なんか成り行きで私もやらされてるのよ」
「本当に苦労してるな」
「頑張れパルマシ。あたいは応援するぞ」
「パル子はこう見えてお人よしだからねぇ」
「はぁ……暇な蜘蛛女が心底妬ましい」

 無事、地底の通貨を手に入れた私とチルノは、土蜘蛛と橋姫に見送られて、橋を後にした。
 いよいよ、旧都に入ることになる。
 平穏無事に事が済みますように。町の喧騒が近づく中で、私は小さくため息を吐いた。







「ナズーリン。キュウトって超賑やかだね」
「ああ。話には聞いていたが、これほどとはね」

 旧都の、おそらく主道であろう道を歩く私とチルノは、その熱量に呑まれそうになっていた。
 その活気と威勢は、人里を遥かに凌ぐ勢いだ。同時に、横道から漏れ出る薄暗さもまた、人里よりも黒そうだ。

「参謀、頼む。自由にやって構わないが、くれぐれも気を付けて」

 参謀に頼んだ仕事は、現地の鼠との接触と懐柔だ。
 地上と違って、ネズミ達とのコネクションが無いからだ。参謀以外の直属の部下も地上に居る。
 なので、最初から始めなければならない。
 味方を増やすのは大事なことだ。地道な活動の積み重ねこそが、成功への鍵となる。

「それじゃあ早速いくんだよね?」
「ああ、善は急げだ。早急に向かうとしよう」
「いざ!」
「夕飯を食べに!」
「ナズーリーン!?」

 心底驚いたといった風で叫ぶチルノ。
 何かおかしなこと言ったかな?

「どうしたの? 大丈夫? 保険証持ってる?」

 なぜ不安げな顔で通院を勧めてくるんだこいつは。

「い、いや。単純にお腹が空いただけだよ。私も君も、お昼を食べていないじゃないか」
「そ、それもそうね。め、珍しくボケたのかとてっきり……」
「何を言っているんだ君は。お、あの店なんて良さそうだ」

 ごく普通の食事処だ。初めての街で、奇をてらう必要はあるまい。
 何より、店先の張り紙の内容が気に入った。暖簾をくぐり戸を開ける。

「らっしゃいせー」

 カウンターとテーブルに客がちらほら。どうやら混み時を避けられたようだ。運がいい。
 テーブルに座り、お品書きを広げる。

「冷たいのってどれ?」
「この辺かな」
「じゃ、あたい冷やし中華ー」

 選ぶの早いな。それじゃあ私は……。

「すみません。注文を」
「あいよ」
「まず、冷やし中華。それから、チャーハン大盛りとチャーシュー麺。あと餃子と野菜炒めと卵スープ。それからデザートの餡蜜を……チルノも食べるかい?」
「た、食べるけど……」
「じゃ、餡蜜二つで」
「お嬢ちゃん、お節介かもしれねえが……食べきれるのか? ウチのメシ、結構ボリュームあるぞ?」

 もちろん、承知の上だ。
 選ぶ決め手となった店先の張り紙で、量の多さを宣伝していたからね。

「抜いた昼食分も腹に収めたくてね。安心してくれ。こう見えて結構食べるんだ」
「食べ切れねえから金返せ、ってのはナシだぞ?」
「むしろ、残したら詫び料を払うよ」

 怪訝な顔で厨房に入っていく店員。
 まあ、このナリではそう言われても仕方が無いか。実際あちこちで言われるし。

「いっぱい食べるんだね。意外だわ」
「そういう君こそ、私は大食いだと思っていたよ」
「そお? まあ、たくさん食べるトキもあるけど、今日は別にいいかなーって」

 そういえば、妖精はそもそも食事が要らないのか。
 こればっかりは、羨めないな。私としては。

「食べ終わったら、そうだな。ひとまずは例の宝石を見に行くか」
「楽しみだなー」
「餃子とスープおまちー」
「来たか。いただきます」

 運ばれてきた餃子は、なるほど大きい。
 一口食べてみると、味も上等だ。うん、実に素晴らしい。他の料理も期待できそうだ。

「あたいもギョーザ食べていい?」
「構わないよ」
「はい残りの注文全部おまちー」
「も、もう出来たのか。早いな」

 あっという間に、美味しそうな獲物でテーブルが埋まる。
 それでは改めて、いただきます。
 
「はあー。ホントにめっちゃ食うんだね。スゲー勢いでごはんが減ってく」 
「食費が嵩むのが難点だがね」

 私にとって最大の幸運は、どれだけ食べても太らない点にある。
 それを寺で自慢したた一輪に、それだけ食べても大きくは成らないのねと言われ、頭から白旗が生えた。

 時が経てばやがて大きくなる。そう思っていた時期が、私にもありました。
 
「童顔はともかく……せめて背か胸のどちらかが大きければ……」
「眉間がグランドキャニオンになってるよ」
「デキるオトナは深みが違うのさ。すいません。デザートまだですか」
「もう全部食べたの!?」
「もう全部食べたのかよ!?」

 米粒一つ、スープの一滴も残してはいない。当然のマナーだ。

「美味しかったから、余計に箸が進んでね」
「ナズーリン超強ええ……」
「お嬢ちゃんマジパネェな……」

 チルノと店員が、畏怖と驚嘆の混じった顔で私を見る。
 口だけの女ではないと理解して頂けたようだね。

「ところで、一つ聞きたいんだが。最近青い宝石が見つかったとか」
「あーアレか。本屋のヤツが拾って見世物にしてるぞ。俺は見てないけど」
「橋姫が、その宝石に懸念を抱いているようだが。何か妙な噂を聞いたことは?」
「いや、綺麗だって話は散々聞いたが……悪い話は聞かねえな」

 フムン。橋姫の言う通り、具体的な何かが起きている訳では無いか。
 彼女が気にしすぎなのだろうか……いや、やはり自分の目で確かめるべきか。

「見に行くなら急いだほうがいいぞ。あそこはそろそろ閉まる頃だ」
「それはまずいな。チルノ、食べ終わったかい?」
「あたぼうよ」
「店を出て右に行けば、案内の看板が立ってるから」

 よし、では今度こそ行くとするか。

「ごちそうさま。美味しかったよ」
「ごちそーさまー」
「ありゃっしたー」

 会計を済ませて外へ出る。いよいよ、宝石とご対面だ。

「えーっと。右に行くと看板が、うわぁ」

 十字路の中央にそれはあった。
 大きな板に『究極の大秘宝を公開中! すぐそこ!』と大きく書かれている。
 板を囲むように着けられた電飾や、桃色の丸文字。何故か添えられた煽情的な女性の絵。
 そして余白に書かれた、おそらく店名であろう『夜のケモノ館』という名前。

「……チルノは置いていった方がいいのか?」
「今更それは無いでしょ!?」

 いや、看板だけで全てを判断するのは良くない。うん。
 どのみち、今更置いていくなんて不可能ではあるのだが。

「冗談だよ。行こうか」
「もー」

 矢印の方へと向かうと、すぐに人だかりが見えてきた。
 二重、三重と重なった取り巻きはざわつきながら、中央にある何かを凝視している。
 しかし人垣は分厚く、高い。何があるのかはさっぱりだ。

「飛んで上から見ちゃおうよ」
「確かにそれなら見えるが……」
 
 同時に私たちも見られてしまう。具体的にはスカートの中とか。
 
「仕方ない。チルノ、羽をしまえるか?」
「どうすんの?」
「突っ込め」
「よっしゃー!」
 
 氷の六枚羽を宙に溶かして、チルノが人垣に突入する。
 私もその後に続く。

「どいたどいたー!」
「うわっ! 冷てえ!」
「何だ何だ?」

 思ったとおり、人垣に隙間が出来た。
 チルノの放つ冷気は、そばに居るだけで冷たく感じる。
 まして密着すれば、相当なものだ。無視はできまいよ。

「フッ。あたいが歩いた場所が道となるのさ」
「さすがだチルノ」

 そしてとうとう最前列にたどり着いた。
 高鳴る鼓動を感じつつ、人垣の中央、ガラスケースに収められたそれを見た。

 とても大きな、青い宝石。
 
 空色とも、海色とも呼べそうな、透き通るような青。
 少し歪な部分もあるが、その大きさは男の握りこぶしくらいはある。、
 薄汚れた裸電球の下で上品に輝くその宝石は、至上の美しさを放っていた。
   
「すっげー綺麗……」
「ああ……綺麗だな……」
 
 辺りを見渡せば、粗野な出で立ちの妖怪達が、感じ入った目で宝石を見ている。
 観衆達は、時折周囲と言葉を交わし、そしてすぐに宝石へと目線を戻す。
 
「あれやっぱり、ナズーリンが持ってたのと似てない?」
「……違うな」
「そーなのかー。へへっ、これ言ってみたかったんだよね」

 違う。どうも違う。
 宝石ではなく、観衆の表情だ。あれは、美しい宝石を鑑賞している顔ではない。
 目を細め、遠い何かを見るような顔は、恐らく……。

「おーい。もういいだろう。そろそろ仕舞うぞ」

 パンパン、と手を打ちながらあわられたのは、作業用の前掛けを着た男。この店の者だろうか。

「いいじゃねえか! もっと見せろよ!」
「そうだそうだ!」
「もう閉店時間過ぎてんだよ馬鹿。ほら散った散った」

 店員の促しに、しぶしぶ帰路に着く観衆達。
 私達はこれで帰るわけにはいかない。

「忙しいところ申し訳ないが、宝石について聞きたいことがある」
「先に言っとくけど、拾ったのは旧都の郊外で、今のところ売る気はないぞ」
「ははは。随分と聞かれたようだね」
「耳タコもいいとこさ」

 ため息を吐きながら店先を片付ける男は、突然、私のことを見つめ始めた。
  
「私の顔に何かついてるかね」
「いや。あんたもしかして、地上の妖怪か?」
「そうだよ」
「この後。古明地のところに行ったりしない?」
「一応その予定だが」

 これはおつかいクエストの予感がする。
 多少の事は構わないが、たらい回しは勘弁して欲しいな。

「コレをさとりに渡してくれないか。あいつが予約してた本でね」
「こ、この店の本なのかい?」
「そらウチは本屋だからな。ちょっと特殊だけど」

 渡された本は雑誌サイズで、ピンク一色の大きなブックカバーが掛けられていた。

 夜のケモノ館が発行する、ピンクのカバーが掛かった本を、見ず知らずの女性に届けさせる。
 これって、セクハラになりませんか?

「さとりのヤツ何買ってるんだ欲求不満なのか馬鹿なのか」
「ねーオッサン。これ何の本?」
「フッ。お嬢ちゃんにはまだ早いさ」
「最強のあたいに早いことなどあるものか! 必殺パーフェクトスチール!」
「あ、こら!」

 私の手からピンク本をまんまと掠め取ったチルノは、一切の躊躇無くその扉を開いて見せた。

「って、なにこれ? 写真?」
「君には早いと言われただろう!?」

 怪訝な反応を示したチルノから、再度本を奪い返す。
 その時、意図せず中身が見えてしまった。これはしょうがない。不可抗力というやつだ。
  
「こ、これは」

 それは動物達の写真集だった。
 犬猫、兎。狐狸、鼠。妖怪では無く、ごく一般的な動物達の写真がたくさん載っている
 そして偶然にも鼠のページが開かれ、ついうっかり見てしまった。

「ちょ、ちょっとコレは……いやらし過ぎでは……」

 まだ年若い雌鼠が、あられもない姿で写っている。
 今更そういうコトに過剰反応するほど若くは無いが、この手の本は地上に無いので驚いてしまった。

 えっ、あっ、そんなことまで? いったいこの娘は何を考えて……あああっ! 

「妖怪鼠がそう言うなら、ウチの本も上出来だな。フフフ」
「……地底の妖怪が、とんでもない変態だって事は分かったよ。この変態」
「ありがとうございます」
「動物の写真なんて見てもなー。つまんないよ」

 そうだ、それでいい。君はそのままでいてくれ。
 しかしあれだな。さとりのところへ行くのが怖くなってきたな。

「まあ、本はちゃんと届けるよ。宝石は明日も展示するのかね?」
「営業日は必ず展示するつもりだ」
「そうか。また来るよ」
「本のほうも是非買ってくれ」
「死に腐れ」

 なぜか上機嫌な店員に若干の恐怖を抱きつつ、地霊殿を目指す。
 
 あの店員は、今のところ売る気は無い、と言っていた。
 しかし、宝石を金券としか見ていないという、橋姫の言葉が本当なら、そうもいかない。
 見世物としての賞味期限が切れ次第、売り払ってしまうか。
 あるいは、有力者や金持ちが買い取りに動くことも考えれられる。
 もし加工されてしまったら、ペンデュラムへの転用は困難になるだろう。

 モタモタしてはいられないが、あの宝石は何かがおかしい。
 土蜘蛛も橋姫も、さとりが詳細を知っていると言っていた。
 橋姫は何かを頼まれているみたいだったし、どのみち、さとりに話を聞いてみないことには、動きづらい。
  
「ここまできたのに、随分と先の長いことだ」
「でも今度はちゃんと良さそうな宝石あったじゃん。だったらもうすぐでしょ!」
「前向きだなぁ」

 いや、私が少々後ろ向きだったかもしれない。
 そうだな。もっと希望的に考えなければ。

「君を連れてきたのは正解だったかもね」
「でしょー?」

 無邪気に笑うチルノに笑みを返し、見えてきた大きな屋敷へと歩を進めた。 



STAGE5:青色の行方



「ようこそ地霊殿へ。ナズーリンさん。チルノさん。例の宝石の話ですね?」
「あ、ああ。そうだ」
「そうだそうだ!」
「『この娘かわいいな。いくらだろ』ですか。ふふふ、非売品ですよ」
「思ってねえよ」

 ステンドグラスが鮮やかな、地霊殿のエントランス。
 紅魔館と同様に西洋風の造りだが、あちらよりは内装が大人しく、不気味だ。

 それ以上に不気味なのは、眼前の少女、古明地さとり。
 ジットリとした眼でこちらを見やり、ニマニマと笑うその姿は、実に覗き屋らしい雰囲気だ。
 この思考も読まれているんだろうが、構わない。どうせ向こうも私に対して、ロクな印象を持ってはいまい。

「しかし、ここだけ妙に暑くないか?」
「あたいちょっと溶けてきた」
「真下に炉がありますからねぇ。この時期は本当に大変ですよ」

 Tシャツにハーフパンツな格好なのはそのせいか。エントランスの雰囲気と絶望的に不釣り合いだが、仕方あるまい。
 『地獄の軍団』とデカデカと書かれたTシャツの柄は、もう少しどうにかならなかったのか。

「夕食はお済みのようですから、早速お話に入りましょう。チルノさんはベッドを用意しますよ」
「へっ? な、なんでさ」
「眠たいんでしょう? 無理はよくないですよ」
「何でわかったの!?」
「最強ですから」

 会心のドヤ顔をキメるさとりに、強敵登場とばかり睨むチルノ。
 眠そうな子供を煽るんじゃないよ。大人げない。

「お燐。チルノさんを案内してあげて」
「はいはーい。妖精さんこっちだよー」
「お前はいつか倒す! 真の最強であるこのあたいがッ!」

 指を差して吠えるチルノを見送る。
 私はまず、頼まれ事を済ませるか。例のピンク本をさとりに渡す。

「これを渡すように頼まれたんだが」
「あら、ありがとうございます。楽しみだったんですよね」

 そう言いながら、表情を変えずにその場でページをめくり始めた。

「す、少しは恥じらいの一つでも見せたらどうかね」
「おや、動物の写真集を見るのに、恥じらいなど必要で?」
「……いいから、早く話に入ろう」
「可愛いですねえ」

 今私の方を見て言っただろ。

「さあこちらですよ。ついてきてください。可愛いねずみさん」
「お前いつか噛み殺してやるからな」

 案内されたのはバルコニーだ。
 荒涼とした風景の遠くに、煌びやかな旧都の明かりが見える。
 これはこれで、趣があるかもしれないな。

「お気に召したようでなにより。どうぞ座ってください」

 お言葉に甘えて席に着くと、コーヒーが出され、角砂糖のポットを手にしたさとりが微笑む。

「お砂糖はいくつですか?」
「白々しいヤツだな」
「つれないですねぇ」

 私の好みどおり、1つも入れずに自分の席に着くさとり。
 ちなみにさとりは4つくらい入れていた。多すぎじゃないか。

「甘党なんですよ。さてさて、どこからお話しましょうか」

 マドラーをまわしながら思索するさとり。
 こちらの様子を伺う、というよりは、言葉通りどう話すかを迷っているようだ。

「察しがいいですね。目玉とコード要ります?」
「いらんわ」

 互いに一口コーヒーを啜ったところで、いよいよ本題に入った。

「結論から言うと、あれはクロです。何らかの力を持った宝石。あるいは、宝石ですら無いかもしれませんね」
「宝石では無い? どういうことだ?」
「特に深い意味はありませんよ。誰かが鑑定したワケじゃなさそうですので」
「そういえば、具体的な種類の話は一切出なかったな」
「まあ、アレが何だろうと構いません。重要なのは、アレに何ができるのか、ですから」
 
 私からすれば大問題なのだが……ひとまずは、無言で話を促す。

「アレを見る連中。貴方も妙に思ったでしょう?」
「ああ。あれは美しい宝石を見る目ではない。そうだね?」

 目を細め、遠くを見るかのような顔。
 かつて、全てを奪われたご主人の隣で、幾度と無く見たあの表情だ。

「そうです。あれは、昔を懐かしむ懐古の表情。正確に言うなら――」
「――あの頃に戻りたい、願望の表情かな」
 
 いわゆるノスタルジーというやつ。
 郷愁という感情は、誰もがどこかで抱くものだ。
 だが美しい宝石を観て、誰もが一様にその表情を浮かべるのは少々奇妙だ。

「彼らは一体、何を懐かしんでいるんだ?」
「地上ですよ。空色とも海色とも呼べる青に、かつて地上に居た頃を想起しているようです」
「なんだ、思ったより健全じゃないか。この地底では見れない色だろうし、懐かしむのも無理はあるまい」
「そこなんです。その健全な郷愁が、問題を起こしているんですよ」

 どういうことだ?
 思い出に耽って何もしない者が増えたとか。

「それなら、まだよかったんですがねぇ」

 二杯目のコーヒーを注ぎながら、さとりは話を続ける。

「あの宝石が展示されるようになったのは、二週間くらい前でしたか」
「そ、そんなに前なのか?」
「確か妹の服を新調させた次の週だったから、大体それくらいですね」

 てっきり数日前だと思っていたが……それであの人だかりとはね。

「展示されて少し経った頃から、地上に行こうとする妖怪が激増しましてね。今までほとんど居なかったのに」
「まさか、アレの影響で?」
「時期的に無関係とは言えないでしょう。思っていた以上に、地上への思い入れがある者が多かったようですね」

 地底に下りた全員が、地上に中指を立てた者とは限らない。
 中には、後ろ髪を引かれていた者もいたのだろう。

「地底から地上へ行くことを許したのは、通して良いと判断した一部の妖怪だけです。誰も彼も通すわけにはいきません」
「そうだったのか?」
「上で面倒起こされると、それこそ面倒なんですよ」

 心底面倒くさそうに呟くさとり。こいつはこいつで、気苦労が多そうだな。

「水橋さんに通させないようお願いしたのですが、戦闘になった例も少なからずありましてね」
「それは、弾幕ごっこではなく?」
「通行を拒否したら、二の句も無しにヤッパを抜いたそうです。まあ返り討ちにしたようですが」

 穏やかじゃないな。
 交渉する手間すら惜しみ、障害を斬り伏せてでも地上へと。
 それほどに想いは強く。といえば聞こえは良いが。狂気や強迫観念といった単語を想起せずにはいられない。 

「今はまだ対処できています。しかし、大挙して地上へ押し寄せる事態になると、困ってしまいますね」
「そうなったらどうする」
「お空に焼き払ってもらいますよ」

 例え焼かれても、妖怪なら死にはしまい。
 だがそれはそれで、別の火種になりかねない。ただでさえ、緩和は区別されているのだ。

「実は宝石の公開後に、地上に出た者が既にいまして」
「おいおい大丈夫なのか?」
「まあ彼一人くらいなら。見ませんでしたかね。デカいゴリラに鱗と触手をポン付けした感じの」
「あいつかよ!」

 見たどころか追い回されてヨダレぶっかけられたわ。
 素兎が存在を知らなかったのも、違和感を感じていたのも合点がいった。

「鱗甲触手兵ゴリエルが迷惑をかけたようですね。申し訳ないです」
「あだ名までニアピンとは」
「彼、ロリ系ケモミミ娘で10発はイケるタチでして」
「いかん。鳥肌立ってきた」

 私達の予想、大体当たってしまっていたのか。寒気までしてきたぞ。
 これ素兎に伝えたほうがいいのかな……いや、地底と永遠亭で戦争になりそうだからやめとこう。

「まあゴリエルはただの変態ですんで。貴方には悪いですが、まだ彼でよかったとも言えます」 

 不本意だが、その通りだな。
 もしかすれば、人里に躊躇なく切り込むようなヤツが出てきてしまう事も……。

「大いにありえます。ここは『旧地獄』であって『元地獄』ではない。そこに住まうものは、責め苦の必要な罪人ばかりですから」
「少数ならともかく、多数が地上で何かをやらかせば、地上と地底の関係悪化は避けられないだろうな」
「……実は近々、地上の偉いさんがお忍びで来るんですよ。一応、交流という理由で」

 なんて最悪なタイミングなんだ。もし何かあれば、もはやどうしようも無い。

「何かあったら、その時責められるのは委託管理人の私なんですよねぇ。あーやだやだ」

 わざとらしくため息を吐き、肘をついてマドラーをくるくると回すさとり。
 気持ちはわからんでもないが、みっともないから止めたまえ。

「まあ状況が状況だし、訳を話して回収すればいい」
「簡単におっしゃいますがね。あんなに大きくて綺麗な宝石を、易々と手放すワケがないでしょう」
「あれが地底に深刻な影響を及ぼすと、分かっていてもかね」
「ナズーリンさん。あの宝石の価値ってどれくらいのものと思いますか?」

 あれの価値? そんなもの、途方もあるまい。
 正体不明とはいえ、外の世界でいえば億は下るまい。まして宝石の希少な幻想郷。その値はさらに跳ね上がる。

「真面目に交渉するならば、莫大な対価を要求されるでしょう。私などでは賄えないレベルの」
「ある意味、当然かつ正当な要求だね。しかも、呑まなければ君は終わる」
「私を嫌う妖怪は山ほど居ます。これを利用して私の排除にかかるかもしれません」
「君がここを出ていくことを条件とするとか?」
「お前の死が対価だ、くらいは言いますよ。どちらにせよ邪魔者は失せ、懸念は消える。実に美味しい話です」
「……交渉自体が地雷とは、面倒な話だ」

 少なくとも、まともな交渉は極めて困難だろう。
 となると、とれる手段は限られてくる。

「では、どうするつもりなんだ」

 私の問いにさとりは、へらっと、非常に俗っぽい笑みを浮かべてこう答えた。

「太古の昔から、今に至るまで。神とは力だそうじゃないですか」

 おいおいおい。ムリヤリ奪う気満々じゃないか。

「そんなことはしません。平和的な対話の後、彼らはきっと喜んで差し出してくれますよ」
「果たして何本の指が落とされることやら……」

 委託管理人って書いてヤクザとも読むとは知らなかった。

「平和的な交渉をするのは本当ですよ?」
「……本当に?」
「まあ無理難題を吹っ掛けられたら、こちらも語気を強めざるを得ないでしょうけどね」

 その無理難題も一応正当だって話だったじゃないか。
 やっぱ最初からそのつもりなんだろうなコイツ。

「とはいえ、それでも隠し通す可能性も十分にあります。そこで、貴方には保険になって頂きたい」
「保険?」
「宝石の保管場所を、ダウジングで探って欲しいのです。店員の心にその情報はありませんでした。保管の権限が裏方にあるのかもしれません」
「万が一の場合、強引に接収できるように、かね?」
「まあ、解釈は人それぞれです」

 他にどういう解釈ができるというんだ。

「当然、報酬も出しますよ。回収に成功したら、あの宝石あげます。地上の妖怪なら影響ないでしょうし」
「事の共犯者になれと?」
「まさか。依頼するのは保管場所の特定だけです。その後あそこで何が起きようと、貴方には関係の無いこと。でしょう?」
「しかし……」

 良くて脅迫。悪くて暴力。どう転んでも、平穏無事とはいくまいよ。
 私が依頼されたのは情報の提供。彼女はああ言ってるが、間違いなく共犯者だ。
 そういう事に首を突っ込みたくは……。

「あ、突然ですが紹介します」
「さとり様ー! 呼びましたかー!」
「呼びましたかー?」

 バルコニーにやってきたのは、二人の少女。
 片方には黒い翼。もう片方には猫の耳。

「ペットの霊烏路空と火焔猫燐です。お燐はさっき見ましたよね」
「何もかもを焼き尽くす黒い鳥でーす」
「地底の運び屋キャットマンでーす」
「よ、よろしく」

 このタイミングで核カラスと火車って、こいつ……。  
 
「おとなしい顔して、ゲスいことを……」
「よく言われますよ」
「しかしだな。どんなに脅したところで、今の私にはできないよ」

 私自身がロッドを持ってウロウロすれば、さすがに怪しまれる。
 部下のほとんどは地上だし、唯一連れてきた参謀も、協力者集めに奔走している。

「なるほど、確かにおっしゃる通りです」
「参謀がいつ帰ってくるかは私にも分からないし、協力者が集まるかもわからない。こんな状態では」
「あら可愛い。部下の方ですか?」

 さとりが突然、不思議なことを言い出した。
 もしやと思い足元を見ると、そこには参謀が居た。

 なんだか胃が痛んできたぞ……。

「や、やあ参謀。どうだった。なに? 集まらなかった? それは残念で」
「ふむふむ、ほう、30匹も協力者が。それだけいれば、十分に任を果たせますね」

 ああ、なんて優秀な私の部下……感動のあまりお腹まで痛くなってきた……。

「もう一度聞きますが、やってくれますよね?」
「ハイ、ヤラセテイタダキマス」
「ありがとうございます。そう言って頂けると信じておりました」

 素兎の懸念が現実となってしまった。帰りたい。
 火車はなんでちょっと残念そうなんだよ。拒否したら何する気だったんだコイツ。

「そらもう、あたいの趣味の全てを受けきって貰うつもりだったよ。うへへ」
「何でお前が心読んでるんだよ……」

 そう言った彼女の邪悪な表情ときたら、ゴリエンジェルが本物の天使に見える程だった。 
 まだ寺の脳筋どもの方がマトモだよ。早く終わらせて帰りたい。

「さて、協力者の同意も得ましたし。行きましょうか」

 そう言って彼女は席を立つ。
 幼子なら寝る時間だし、大人とていい顔をする時間ではない。
 だが、後ろめたいことをするには、それなりに都合がいいだろう。

「参謀。早速だが、揃えた鼠を集結させておいてくれ……顔色が悪いって? まあ、ここは暗いからね」

 痛む胃と腹を黙殺し、残ったコーヒーを流し込む。
 強い酒を持ってくるべきだったと悔やみつつ、のっそりと席を立った。






「くわぁ……あふ」
「別に眠かったら寝ててよかったのに」
「いや、あたいはもうバッチリぱっちりだし」

 ここはさっきの店から、少し離れた家の陰。
 こっそり事を行うのに、店の真ん前に居る意味は無いからね。
 
 すでに参謀達は店内に入り、宝石の場所を探っている。
 後は上がってきた情報を、後ろでビスケットを齧りながら待機しているさとり達に伝えるだけだ。
 やる事ないのはしょうがないけど、ピクニックシートはちょっとくつろぎ過ぎじゃないかね。

「そう言わないでくださいよ。あとでビスケットあげますから」
「さとりさま。もう無くなっちゃった」
「お空食べすぎ」

 それにしても、急造の部隊とはいえ遅いな。
 日常的に出し入れしているモノだ。保管は厳重だろうが、妙なところには置かないハズだが。

「中で何かあったのか……?」
「ねえ、ナズーリン。あれ、サンボーじゃない?」

 チルノが指差す先には、夜道を駆ける小さな影。間違いなく参謀だ。

「遅かったじゃないか。どうだった?」

 彼の報告は、どこか困惑の混じったものだった。
 中に居る妖怪達が、静かに慌てている。
 不審に思い、捜索を中断して報告に来た、と。

 慌てている理由は分からなかった様だが、何かあったのだろうか? 

「気になりますね……ちょっと、行ってきましょう。お2人はここに居てください」
「わかった。気をつけてくれ」

 さとりとペット達は店へと向かった。

 しかし、静かに慌てている、というのが気になるな。
 単に夜だから声量を落としたのか? まあ、あり得る話ではある、
 トラブルの原因を知られたくなかった? 商店だし、評判に関わるかもしれないからね。
 
 あるいは、宝石に何かあったのだとしたら……?

「ねえ、ナズーリン。もう帰ってきたよ」

 チルノが指差す先には、夜道を駆けるさとりの姿。え、何で走ってるの?

「早かったじゃないか。どうした、そんなに慌てて」
「もしかしてトイレ?」

 さとりはその荒い吐息もそのままに、必死の形相で私に詰め寄り、搾り出すような声で言った。

「なっ、ナズーリンさん、ダウジング。至急ダウジングを」
「ダウジング? どういうことだ?」
「いっ、今店主に聞いたら。宝石が、宝石が盗まれたって」
「ぬッ!?」
「すまれた!?」

 どこのどいつだ、面倒を起こしたバカ野郎は。細かく砕いて部下の餌にしてやる。

 分割式のロッドを組み立てて、ただちにダウジングを試みる。
 あの宝石を思い浮かべ、意識を集中させる。
 ロッド持ってその場でゆっくりと一回転する。すると、とある方角で反応があった。

「橋の方角だ。地上に出るつもりなのか」
「あ、それならいいです。面倒ごとが自動的に片付きますし、一人くらいなら問題ないでしょう」
「待て待て待て。それは私が困る! いくぞチルノ!」
「お、おう!」

 さとりが宝石を回収し、私に報酬として渡すから、大手を振って受け取れるのだ。
 しかし、回収前に宝石が脅威で無くなれば、依頼は無効だ。私が宝石を手にする正当性が無くなってしまう。
 犯人が地上に出る前に、なんとしても阻止しなければならない。

「橋姫が止めているとは思うが……」
「ねえ。あいつら着いてこないけどいいの?」
「そのうち来るさ」

 しばらく飛ぶと淡い緑色の光と、赤い橋が見えてくる。
 橋の上には、行きの時と同じように橋姫が佇んでいた。

「橋姫!」
「あら。用は済んだの?」
「ついさっき、ここを抜けようとしたヤツが居なかったか!?」
「あー。やっぱ何かあったんだ」
 
 心底面倒くさそうに頭を掻く橋姫。
 彼女の足元を良く見ると、簀巻きにされた何者かが居た。

「こいつだけ、何言っても引き返さなくてさ。面倒だから縛っちゃったのよね」
「例の宝石を、こいつが盗み出した可能性があるんだ」
「なんですって?」
「あの宝石は、見た者に地上を想起させる力があるそうだ。郷愁に駆られ、ここの住人が地上に押しかけかねない」

 転がっている妖怪の猿轡を外し、問いかける。

「なので回収が決定した訳だが。君、宝石を持っているんだろう?」
「い、言っている意味が……よくわからないな」
「今ならお咎めなしで済むよ。正直に言いたまえ」
「し、知らないね」

 どもりながら目線を逸らし、口笛を吹く簀巻きの男。
 これが怪しさの基本だと、教科書に載せてやりたいな。

「素人なら、どうせこの辺に……」
「違う! そんな所には無い!」
「おや? 何だねこの木箱は?」

 この大きさ、重さ。あの宝石が入ってるとしか思えない。

「宝石とか入ってないから! 本当だから!」
「チルノ、やりたまえ」
「鼻の穴に霜が降るごとく!」
「お前何したの!? 鼻水止まらないんだけど!」

 鼻から大量の液体を垂れ流す男を放置し、箱を開ける。
 そこにはやはり、あの鮮やかな青が、緩衝材とともに入っていた。

「やれやれ、これで一安心だな」
「それ、どうするの?」
「私が貰う事になっている。地上なら問題ないだろうってね」
「ふうん。まあ、解決したならそれでいいわ」

 そう言うと橋姫は、チルノのオモチャと化した男に強い口調で問い詰めた。

「それで。コレを盗んで地上に行って、何をしでかすつもりだったワケ?」
「何って、何もしないさ。その宝石は、元々俺が見つけたんだ」
「往生際が悪いわね」
「ほ、本当だ! 俺が見つけたんだが、借金のカタに持ってかれちまったんだよ! 大事な商売道具だってのに!」

 あの宝石をカタにって、コイツどれだけ借金を重ねてたんだ。

「ん? いま、商売道具って言ったか?」
「こいつ装飾職人なのよ」

 ああなるほど。それなら話の信憑性も上がる。

「真面目に仕事してりゃいいのに、博打なんかするから。イカサマしても勝てないヘタクソなのに」
「自分で稼いだ金で何しようが勝手だろ!」
「それで仕事に支障が出てるんだから世話ないわよ」
「い、一応あの宝石での仕事は済ませた後だから、問題は無いさ」
「えっ?」

 今コイツ、さらっと重大な事を言わなかったか?

「この宝石で、仕事をしたのか? 装飾職人の君が」
「ああ。その宝石、ちょっと抉れてるだろ? その部分だけカットして使ったんだ」
「宝石の一部が、まだ旧都のどこかにあるってワケ?」
「そうかもしれないな」

 ということは、それも回収しないと話は終わらないって訳だ。
 やれやれ。どうやら、残業が必要のようだね。

「どこの誰に作ったんだね?」
「おいおい。人を簀巻きにしておいて、その聞き方は無いんじゃないかな?」

 なぜか得意げな顔で譲歩を要求する男。
 こいつ、自分の立場わかってるのか。

「君ごときに割ける時間なんて無いんだ。肉屋の店先に並びたく無ければ、さっさと吐きたまえ」
「これ以上面倒かけようってなら、呪い殺すわよ。グズグズしてないで言いなさいよクズ」
「なんだ、この胸の高鳴りは」

 どうしてこの人ちょっと嬉しそうなの? ナズーリンわかんない。

「橋姫。君の自宅に肉切り包丁は」
「錆びたのなら有るけど」
「素晴らしい。特上の歌が聴けそうだ」
「わかった! 言う、言うから! こ、古明地こいしだよ!」

 それって確か、無意識を操るとかいう……厄介な。
 輪をかけて奔放だと、こころの奴から聞いている。近くに居てくれればいいが。

 こいしは会った事が無いから、イメージし辛い。宝石を対象にダウジングを試みる。
 しかしロッドは、ここにある、大きいほうの宝石に反応してしまう。
 落ち着いて。もっと精密に、鋭敏に……。

「それ本当なの?」
「正確にはさとりが妹の服を新調したんだが、服屋に装飾について相談されて、この宝石をカットして上着につけたんだ」
「ずいぶん奮発したのね。さとりの奴」
「いや、借金の返済をそれで」
「あんたいつか内臓抜かれるわよ」

 よし、反応あった! 微弱だが、旧都の方角に反応がある。こいつは運がいい。

「橋姫。こいしは旧都に居るようだ」
「じゃあ、さっさと捕まえないと……」
「ナズーリンさん。宝石は回収できましたか」

 色々な意味で良いタイミングで現れたのは、他でも無い古明地さとり。
 ペットを引き連れて悠々とご登場である。

「このとおりだ」
「これで一安心です。約束通りあげますよ、それ」
「俺のだって言ってるだろ!?」

 そうだ。この問題はどうする?
 しかしさとりは表情を変えず、のた打ち回って抵抗を表現している男に、第三の目を向けた。

「ふむ、ほほう。先日居酒屋で? 金貸しの食事にこっそり犬の糞を? あらあら、そんなに混ぜちゃってまあ」
「ご自由にお持ちください」

 男は一瞬で抵抗を止めた。こいつ何やってんだ本当に。

「まさしくクソ野郎だな君は」
「嫉妬じゃなくて軽蔑ね。あんたに相応しいのは」
「今日からお前は、ハナタレウンコマンだ!!」
「やーい! ウンコマン!」

 なぜかチルノとお空まで加わって、四方から罵りを受ける男は、なぜか非常に満足げだった。
 その光景を静観していたお燐が、苦笑いをしながら呟く。

「ゼイタクなサービスだねぇ」

 おい、それはどういう意味だ。ナズーリンわかりたくない。

「いや、そんなことよりだ。さとり、君の妹が例の宝石の一部を所持している」
「こいしが?」
「新調した上着に装飾として付いているそうだが、覚えは無いか?」
「……あのボタンみたいなやつですか。キレイだなーとは思ってましたが、アレそうだったんだ」

 間の抜けた表情で答えるさとりだが、思いのほか深刻な気がするぞ。

「つまり宝石の公開前から、旧都の住人は宝石を知らずに見続けていた可能性があるぞ。少なくとも、彼女は今地底に居る」
「もしこいしが、上着を受け取ってからずっと地底に居たとすれば、タイムリミットは想像以上に近いですね」
「……あのーさとり様。もう来ちゃったかもしれないです。それ」

 青い顔をしたお燐が指差したのは旧都の方角。
 旧都と橋の間の荒野に、土煙が上がっているのが見えた。

「何ですかアレ? 良く見えませんね」
「あ、あれ妖怪だ! 妖怪がいっぱい走ってきてるよ!」

 お空が叫ぶとほぼ同時に、私も見えた。一心不乱に荒野を駆ける、大勢の妖怪達の姿が。
 彼らの咆哮が、私達の耳に届く。

『いざ! 地上へ!!』

 いかん。タイムリミットだ。

「ちょっとちょっと。めっちゃ来てるじゃないのよ。ヤマメ! 仕事よ起きな……居ねえし!」
「さとりさま! やっちゃっていいよね!?」

 お空が上着のボタンを外し、首から提げたペンダントを胸元に押し付ける。
 赤い光とともにペンダントが肥大化して身体と融合し、全身に装備が装着された。
 例のヤタガラスの力か。

「派手にやっちゃ駄目ですからね?」
「わっかりました! ヤタ様! 私に力を!」
「お空。それぺタフレアのカードですよね。私の言ったこと聞いてました? ねえ、ちょっ、ヤタさん止めて!」

 なにやら騒がしいが、私は次の行動に移らなければならない。

「さとり。ちょっといいかい?」
「あんましふざけてるとっ。 このままシメてローストにっ」
「ぐおおお。宇宙が、宇宙が見えるよぉォ」
「おーい」

 サードアイのコードを用いて、頭一つ分は大きいペットの首を絞めるさとり。
 なかなか楽しそうだが、眺めている暇は無い。

「さとり。火急の用なんだが」
「え? ああ、失礼しました。なんでしょう?」

 お空の首を絞めたままこちらを見るさとり。
 そこは止めてやれよと思ったが、今ちょっと忙しいので。

「連中への対処は君達に任せて、私とチルノでこいしを探しに行くよ」
「それなら、私も行きましょうか? あの子は」
「知っているよ。なに、探し物は得意でね。君はここで、ペットを見ていたほうがいいだろう」

 見るというか、看取るというか。
 白目を剥いて痙攣するお空を視界に入れないように提案する。

「わかりました。気をつけてくださいね。何をするか分からない子ですから」
「ウチの脳筋どもで慣れてるよ。行くぞチルノ」
「がってんでい!」

 すでに迎撃を始めたお燐や橋姫を飛び越えて、迫り来る妖怪達を素通りし、旧都へと急ぎ戻る。
 ダウジングの反応は変わらず旧都。まだあの中に居る。

「ところで、あたい達は何すんの?」
「見えないヤツを見つけ出して、上着の飾りを回収するんだ」
「あーなんだっけ。追いはぎってヤツ?」
「……まあ、そういう解釈の仕方もあるな」

 帰ったらしばらくは、寺で善行を積んだほうがよさそうだ。
 複雑な気持ちを抱いたまま、旧都へと侵入した。



STAGE6:サブタレニアブルー



 夜の旧都。
 商店や民家は静まり返り、居酒屋の提灯や、いかがわしい雰囲気の店が町に明かりを残している。
 夜行性の町だと思っていたので、この静けさは少々意外だ。

「どこにいるのかなー。って見えないんだっけ」
「認識できないといった方が正確だな……さて、ここからが問題だ」

 ダウジングの手順は人それぞれだが、私はロッドを方角を見極める道具として使っている。
 対象との距離もある程度は測れるものの、ピンポイントで狙いすますだけの精度は出せない。私もまだ未熟だな。
 なので、目標物に近づいたらペンデュラムに切り替えるのが常套なのだが……今回は、すべてロッドで探すしかない。

「ここだ。ここにいる」
「どこ?」
「……この道のどこか」

 比較的広い直線の道。
 この道のどこか、くらいまでしかわからない。思った以上に精度が……くそっ。

「古明地こいし! この道沿いにいるんだろ!? 大事な用があるから返事をしろ!」

 返答はない。
 そもそも、聞いているかもわからないが。

「耳も透明になってて聞こえないんじゃない?」
「さっき言ったろ。透けたり消えたりしているのではなく、見ることが出来ないんだ」
「よくわかんないけど、触ったりはできるってこと?」
「ん……そうだな。触ったことを認識できればの話だが」

 そこまで言ったところで、ふと思いついた。
 要は、どこに居るかが分かればいいんだ。
 その位置を点ではなく、面や立体で掴めないだろうか。

「チルノ。なんここう、吹雪っぽいヤツとか出来ないか?」
「できるけど」
「この道にぶっぱなしてくれ」

 こいしという障害物は風を乱す。当人の姿は認識できなくとも、そこまでは干渉できまい。
 雪や氷でその乱れを視認できれば、という考えだ。確証はないが、やってみよう。

「いいけど、いいの? 結構キョーレツだけど」
「この際、多少の損害はやむを得まい。やってくれ」
「よっしゃー!」

 カードを顕現させ、羽を広げて構えるチルノ。
 機会は一瞬。時間をかけると、上空か脇道に退避されてしまう。
 さて、上手くいくといいが。

「雪符『ダイアモンドブリザード』!」

 宣言と同時に、無数の小さな氷塊が烈風に乗って飛んでいく。そのいくつかはベンチや置物に傷をつけていくが、見なかったことにする。
 私は上空から、道に沿って飛んでいく。奇妙な所は無いか? 氷塊が弾けていたりとか。

「ナズーリン! どお!?」 

 駄目だ、見つからない。
 もう避けられてしまったか?
 
「そろそろ切れるよ!?」
「くそっ。この方法は失敗……ん?」

 目に付いたのは、道に立った看板だ。
 木で出来た簡素なつくり。動かしやすいように固定もされていないが、しっかりと立っている。

 烈風に晒されているにも関わらず。

「そこだ。看板の影!」

 スペルカードの効果が切れる。静寂を取り戻した地上へ降り、看板の裏に手を伸ばす。
 何も無い空間で、何かに触れた。そう感じた時には、少女の姿がすでにあった。
 手を見ると、薄緑色の髪が乗っている。

「くすぐったい」
「古明地こいしだな?」
「え……うわ。久しぶりだ」

 久しぶり? 初対面のはずだが。
 彼女の上着を確認する。正八面体の青い宝石が3つ。確かについている。

「こいし。単刀直入に」
「お姉ちゃんの新しいペット?」
「違う。いいかね、君の」
「じゃあ私のペットにならない? 貴方くらい可愛ければ、お姉ちゃんにも自慢できそう」
「ならない」
「えー」

 人の話を聞かない子供が多くて困るよ。
 彼女の肩に手を添えて、もう一度。

「さとりに頼まれて、君の上着の宝石を回収しに来た。地底の存続に関わる物でね。すまないが」
「一発ヤラせてくれ?」
「んなワケ無いだろうが」
「逆に聞くけど、どうして無いって信じればいいの?」

 こいしの反論を聞いて、自分が深刻な判断ミスを犯したことに気が付いた。
 彼女からすれば、唐突に見知らぬ妖怪から『お前の上着の宝石をよこせ』と姉の名で要求されるわけだ。
 
 強盗以外のなんだというのか。
 私の話が真実であるという証明と保証を、一体誰が出来るだろうか。

「さとりを連れてくるべきだった……バカか私は……」
「ナズーリン! どうなったのさ!」
「わあ。ペット候補が二人も」

 いかん。空っぽとスッカラカンが出会ってしまった。

「そこのあんた! あんたの上着のアレを最強のあたいにアレしないと超ヤバい的な感じの勢いなのよ!」
「頼むから考えてから喋ってくれ」

 もはや何を言っているのか分からんぞ。
 ところが、チルノの放った暗号めいた叫びを聞いたこいしは、奇妙なところに反応を示した。

「最強……妖精さんは最強なの?」
「もちろん。幻想郷で一番最強なのが、このあたいってワケよ」
「ふうん。じゃあ、こうしましょ」
 
 こいしは奇妙な拳法のようなポーズをとって言った。

「私と。最強の称号を賭けて勝負だ!」

 こころ、聞こえるか。今私は非常に怒っているぞ。

「上等じゃん。さっきから追っかけられたり半端だったりで、ステルスが溜まってたのよね」
「ストレスな」

 くそう。どいつもこいつも暴力に訴えようとして。
 もうちょっと穏便に話をしてもらいたいものだ。

「貴方達が勝ったら、上着でも下着でもプレゼントするわ」
「いや、そこまではいらん」
「私が勝ったら二人とも、私のペットになってね」
「戦利品の重さに偏りがないかね」
「その賭けのったわ! 全裸で帰るトキを楽しみにしてなさい!」
「乗るなって!」

 私はただでさえ装備に不備があるんだぞ。
 チルノが場慣れしているとはいえ、この勝負は余りにも……。

「ナズーリン!!」
「なっ、なにかね」
「女は、諦めが肝心ッッ!」
「妖精さん良いコト言うね」
「でしょ?」

 駄目だ。完全にやる気になっている。
 例え私が頑なに拒否しても、こいつらの事だ。勝手に始めてしまうに違いない。
 
 やるしかないのか。 

「……いいだろう。2枚だ。負けた後でやっぱり無し、なんて許さないからな」
「あたいも2枚。氷のオブジェになる心の準備はおっけー?」
「じゃあ私は、4枚でいいよね。こういうの久々だなぁ……それじゃ、しよ?」

 こいしの姿が消え失せる。決闘開始だ。

「やったるぞー!」
「チルノ。ここは不味い。上がるぞ」

 上昇する私達を追うように、弾幕が展開される。
 シンプルだが、極めて濃密な弾幕。

「いた! あそこだ!」

 弾幕の起点にこいしが居るが、能力自体は発揮されているようで、しっかりと見据えないと見失ってしまいそうだ。 

 こいしの弾幕が低速の粒弾から、高速のアーモンド型弾へ変わった。
 隊列を組んで迫る高速弾は、濃度を失っていない。回避に必死で、チルノとも引き剥がされてしまった。 
 
 私も弾幕で応戦し、チルノも氷弾とレーザーを撃ち始めた。
 とはいえ、2人がかりで撃っても、こいし1人分を満たすかどうか。
 
 能力云々以前に、単純に火力で負けている。火力は弾幕の美しさにも関わる重要な要素だ。
 勿論それが全てでは無いが、苦戦を強いられるのは間違いないだろう。

「このっ、チョーシくれてんじゃないわよ! 冷符『瞬間冷凍ビーム』!」
「待て! そんな無鉄砲に撃っても……いや」

 むしろ合わせよう。無鉄砲を無駄にはするな。

 チルノから強烈な冷気を纏った三条の高出力レーザーが放たれた。
 触れた弾幕を瞬時に凍らせ、それらを引き連れながら、こいし目掛けて突き進む。

 私もポーチからカードを抜き、宣言。

「捜符『ゴールドディテクター』」
 
 金色のレーザーを四方八方に放つ。
 それはある程度飛んだ後、炸裂して金粒弾をばら撒いた。

 こいしはレーザーを回避。
 その後に続く氷弾と金粒弾も、何事もないかの如く、悠々と避けていく。

「もういっちょ!」

 チルノが第二射を放つ。
 
 こいしは自身の弾幕を止め、空中でおもむろに膝を抱えた。
 抱えた足の下をレーザーが通過し、背景へと消えていく。

 レーザーの起こした突風をそのまま受けて、こいしは膝を抱えたまま、ふわふわと宙を舞う。
 ろくな回避運動を取っていないにも関わらず、氷弾も金粒弾も彼女を捉えられない。

「どうなってんだアイツは……」
「どうだっていいよ! 次は絶対当てるし!」

 チルノが第三射を放つべく、両手に冷気を収束させる。

 せめてもの援護になればと、ディテクターの効果範囲を狭めるべくこいしを注視する。 
 未だ体育座りでくるくると舞う彼女の、膝を抱えた白い指に、四角い何か――。
 
「――カードか!」
「今度こそっ!」

 放たれる第三射。
 こいしの頭上をレーザーが通り抜けると同時に、私とチルノのカードが光を失い、大気に溶けて消えていった。
 
 それと入れ替わるかのように、こいしの手にしたカードが青色に輝いた。
 
「抑制『スーパーエゴ』」

 こいしから、カードと同じく青い光が広がっていく。
 そしてハート形の弾が私たちを取り囲むように、そして引き寄せるように展開されていく。
 弾幕自体の回避は容易いが……。

「な、なによこれ。避けたらどんどん近づいて……」
「どこかのタイミングで引かないと詰むな」
「その前に、あたい達が当てちゃえばいいって!」

 そう言ってチルノが氷散弾を放つが、こいしは膝を抱えたまま避け続ける。
 
「あたいそろそろプッツンしそう」
「チルノ。クールだクール」
「あいつ座ってんだから当たるでしょフツー! ていうか座ったまま弾幕ごっこってどうなの!?」

 宙に浮いた状態での体育座りは、果たして座っていると言えるのだろうか。

「いやそんな事より、そろそろ引くぞ」
「うぎぐぐぐ」

 こちらも弾幕を放ちつつ、背後に回り込む弾幕の隙を伺う。まだ距離はある、焦る必要はない。
 どうやら半分パターンのようだな……よし、引けるタイミングは覚えた。

「よし。チルノ、同時に……あれ?」

 弾幕が無い。
 私たちを包囲していたハート弾の群れが、きれいさっぱり消失している。

 思わずこいしを見る……おかしい。明らかに距離が近過ぎる。こんなに接近していたはずは無い。
 弾幕の構成だけじゃなかった? 無意識に干渉され、知らずのうちに接近させられていたのだろうか。
 
 体育座りを解いたこいしの右手から、光を失ったカードが消失。
 そのままくるりと手首を回して、2枚目のカードを出現させた。
 
 くそっ、この距離はまずいぞ!

「記憶『DNAの瑕』」
「ペンデュラ……あッ!?」
「ナズーリン!」

 左腕とあばらに衝撃が走る。
 私の身体は大きく右へと吹き飛んで、私が居た位置を螺旋状の弾幕が駆け抜けていった。
 鈍い痛みの方を見ると、チルノがしがみついているのが見えた。
 どうやら助けてくれたらしい。

「ボサッとしてちゃ駄目だよ!」 
「す、すまん。助かったよ」

 なおも暴れる螺旋から距離を取り、態勢を立て直す。
 それにしても、ペンデュラムは砕けたというのにあの言葉。こうも諦めの悪い女だったか私は。

「ナズーリン。腰の袋が光ってるけど」
「何を言って……」

 砕けたペンデュラムが入った布袋を見る。
 彼女の言うとおり、袋の口から青い光が漏れ出ていた。

「……まさか」

 腰から布袋を外し、袋の中を覗き込む。
 強烈な光が眼に飛び込んできた。

「目が! 目が焼ける!」
「何やってんの!? こっち!」

 眩んだ視界に悶えていると、チルノが私の手を握って引いた。

「真面目にやってよ!」
「ち、チルノ。ペンデュラムが使えるかもしれない」
「あれ? 壊れちゃったんじゃないの?」
「壊れている、はずなんだが……」

 ペンデュラムは砕けたままだが、放つ光は砕ける前のそれだ。
 妖力を込めていないのに何故光る? 
 何らかの理由で使えるようになったとして、正常に機能するか疑わしい。 

 だが、こうしている間にも宝石が放つ光は増していく……どうやら、宝石の方はやる気らしい。

「そうだな、やるか」

 宝塔を除けば、私の最大火力はこのペンデュラムが生み出すのだ。
 それを使えるのなら……この際、正常だろうが異常だろうが構うもんか。

 螺旋が飛んでこなくなった。こいしの二枚目は尽きたらしい。
 今がその時か。破片を袋から取り出して、手に握りこむ。

「一か八かだ。頼むぞ、ペンデュラム!」

 ありったけの妖力を注ぎ込み、ペンデュラムを空間に投影させる。
 いつもならば、正八面体が最大5つ。今は、どうなる?

 青い輝きが、私の正面を覆い尽くすほどに広がっていく。
 そして顕現したのは、青くて歪な、無数の欠片。

 仄暗い地底に、薄く広く展開し、青い輝きを放つそれらはまるで……。

「……空みたい」

 惚けたように呟いたこいしが代弁してくれた。
 地底の空。もしそれがあったのなら、こんな感じになるのだろうか。

「おおー! めっちゃキレイ!」
「砕けたまま投影されたのか……? 自分で言うのもなんだが、なんて数だ……」
「いいなー。おうちのエントランスに飾りたい」

 その気持ちはよくわかる。美しさの面では優勢に立てたかな?  

「スカイブルーのジュエリー達が、釣り下がる死体を美しく彩ります!」  
「勘弁してくれ」

 こいつの場合本当にやりかねないのが怖い。
 
 さて、美しさは申し分なし。後は、どれほどの火力を投射できるかが問題だ。
 代替として、高感度ナズーリンペンデュラムのカードを取り出す。テストはできないが、やってやるさ。

「視符『高感度フラグメントペンデュラム』」

 飾り気の無い名前になってしまったが、即興なので許して欲しい。
 小さな小さなペンデュラム達に妖力を注ぎ込むが、思うように浸透しない。数が余りにも多すぎる。

「いけない、ぼおっとしてた。弾幕しなくちゃね!」
「邪魔はさせないよ!」
「おっと」

 3枚目を取り出したこいしに、チルノが吶喊する。
 こいしはカードの発動を一旦止めて、サードアイのコードを伸ばす。
 コードはまるで鳥かごのようにチルノを包み込み、拘束してしまった。

「あんなのありか!?」
「ありだったよ、こないだは」

 動けない私と、囚われのチルノ。
 こいしはまず眼前のカモを落とすべく、どこからとも無くナイフを抜いた。

「まずはひとりだね」

 コードを引き寄せ、ナイフの刃先を向ける。

「妖精さんなら刺さっても平気で――」
「勝ってもないのに油断するのは」

 こいしの言葉を、よく通る幼い声が遮った。

「妖精のせいなの」

 向けられたナイフに添えられたのは、光り輝くカードと、チルノの不適な笑み。

「凍符『フリーズアトモスフェア』!」

 彼女の周辺温度が急速に低下し、彼女の周りに有るもの……サードアイのコードが見る見るうちに凍結していく。

「えっ、えっ、なにこれ。コードが戻らない」
「ナズーリン! やってやったぜ!」

 凍った檻の中で親指を立てるチルノ。
 
「あたいは気にせず撃ちまくれ!」
「この際だ、遠慮はしないぞ」
「氷ってこんなに硬いっけ? このっこのっ」

 こいしは今、その動きを大きく制限されている。
 最大にして、最後のチャンスだ。逃すわけにはいかない。

「いくぞ!」
「やってやれ!」
「ちょっと待ってぇ!」

 ようやく浸透しきった妖力を開放。ペンデュラム達が一斉に射撃を開始する。
 
 無数の破片から放たれる弾幕。それはもはや暴風のようだった。
 視界が埋まるほどの空色の群れが、こいしとチルノに殺到する。

 ただでさえ枷を科された状態では、まともな回避運動も出来まい。
 彼女ならコードをナイフで切断することも考えられたが、凍結していては切れないだろう。

「頼む。落ちていてくれよ……」 

 これほどの端子と弾幕を維持するのは、流石につらい。カードの効果より先に、私の妖力が底をついてしまう。
 通常の半分にも満たない時間でカードは消失。
 それと同時に、握りこんでいたペンデュラムの破片もまた、砂のようになって地底の空へと消えていった。

「……今までありがとうな」

 役目を終えたペンデュラムに礼を呟き、こいしが居た方へと目線を向ける。
 しかしそこには、こいしとチルノの、予想と期待に反した姿があった。

「なんだあれ……氷の球?」

 恐らくチルノは、やり過ぎてしまったのだろう。
 コードに纏わり付いた氷が更に成長し、球形の檻を氷のボールにしてしまったらしい。
 その中には、頭を抱えるチルノの姿。
 ボールは、少女が身を隠すには十分な大きさがあり、表面には無数の弾痕。
 
「策士、策に溺れる。だっけ? おかげで助かっちゃった」

 ボールの後ろから声が聞こえる。
 明るく、愉しげで、どこか空虚な少女の声。

「……ボールが盾になったのか。悪運の強いヤツだ」
「もうカードは使い尽くしたよね? 降参する? 私強いから、そうしたほうが良いと思うよ」

 冗談じゃない。降参したら彼女のペットだ。降参などという選択肢はあり得ない。
 と、言うより。降参の必要は無いんだよな。私の想像があっていれば。

「どうしたの? 黙っちゃって? 返事をしないとカード、発動させちゃうよ?」
 
 線が面に、檻がボールに変化するほどの凍結力。
 だとすれば、だ。

 彼女の声を無視して、ボールの裏へと回り込む。

「ごめんください」
「あっ、やっ、覗いちゃだめ」

 らしくもない焦りの声も無視して、ボールの裏のこいしを眺める。
 
 コードの先のサードアイ。
 そこから身体へ伸びる側のコード。
 コードの巻きついた腰と、コード接続先の両足。
 ナイフと両手。
 
 その全てが、氷に包まれている。
 
「ご、ごきげんようですわ」
「まあ、そうだろうな。線を面に変えるほどの冷気だ。こうなるのも不思議ではない」
「でもこの状態だってカードの宣言はでき……ねえ、何で靴脱いでるの?」

 知性の効率的な行使こそが、栄冠への最短路。

「君だって、服が汚れるのは嫌だろ?」

 だが先人はこうも言った。急がば回れ、と。

「さっ、『サブタレイニアンロー」
「賢将! ナズーリンキーック!」
「ジュブッ』」
 
 私の華麗なる飛び蹴りが背中に炸裂。 
 蹴られた勢いでボールに額をぶつけたこいしは、ボールと共にふらふらと墜落していった。







「ひどくない? ひどいよね。弾幕一発当てれば済む話なのにね」
「ひどい、間違いなくひどい。こーろーしゃのあたいごと落とすなんてさ」
「わ、悪かったよ。ちょっとテンション上がっちゃってね」

 見事勝利を飾った私は、こいしとチルノから叱られていた。
 反論の余地が無いので、ここは素直に謝っておく。 
 
 二人に頭を下げていると、私の身体を何者かが上ってきた。参謀だ。
 何せ急だったもので、例の店の近くに置いていってしまったのだ。

「ん? よしてくれ、照れるじゃないか」
「サンボーは何て言ってるの?」
「カッコよかったってさ」
「照れるなー! もっと褒めていいのよ!」

 チルノが参謀の頭を指先で撫でまわす。ちょっと嫌がってるからほどほどにな。
 次は彼の頬を突きながら、思い出したかのように私に尋ねた。 

「そういえばさ。ペンデュラムってどうなったの?」
「粉々になって消えてしまったよ」
「そっか……寂しい?」
「ああ。愛着があったから、ちょっとだけね」

 出来れば、何らかの形で再利用してやりたかったのだが。
 あるいは……それも無粋なのかな? 物の気持ちが分かるほど、私は出来のいい妖怪じゃない。

「あ、あのさっ。あたいよくわかんないけど、その、きっと良いコトあるって! ねっ!?」
「ふふふ。優しいんだな君は」
「別にそういうんじゃないけどさ」

 くすぐったそうに佇むチルノの頭を撫でてやる。
 その身を挺してくれたペンデュラムの為にも。この勝利を忘れないようにしよう。

「さて、弾幕ごっこにも勝ったことだし、そろそろ帰ろう。流石に疲れた」
「あっ、ネズミさん」
「ここらで失礼するよ、こいし。次はテラスで会いたいものだ。行くぞチルノ」

 すっかり忘れていたが、私は怪我人なのだ。これ以上無理をして、悪化したら困る。
 
 しかし、身体の疲労に反して、心のほうはどこか爽快だった。
 弾幕ごっこの格上相手に勝利したからだろうか。たまには、こういうのもいいかもね。

 私は呆としているこいしに背を向け、地上へ向けて歩き出した。



▽ 



「いや、あれ? ネズミさん?」
「ちょっとナズーリン?」

 なんだい。人がクールに去ろうとしているのに水を差して。


「「上着の宝石は?」」


 あっ。


「ナズーリーン。それじゃなんの為に弾幕ごっこしたのか……大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
「可愛いなぁネズミさん。やっぱり私のペットにならない?」
「どうしたのしゃがみ込んで。お腹痛いの? ナズーリン?」

 ……地獄があったら服したい。







「へぇー。大変だったんだねぇ」

 ペンデュラム探しから帰った次の週。私は小傘と共に、寺の縁側でお茶を飲んでいた。

「大変だったよ。なんせ家に着いて気がついたら、次の日の夜だったからね」

 あの後、こいしの上着から宝石を拝借し、橋へと向かった。
 夥しい数の妖怪が地に伏して、橋ではさとり達が虫の息。何度倒してもゾンビの如く復帰して大変だったらしい。

「あ、これ地底のお土産だ。ぜひ食べてくれ」
「やった、ありがと。えーっと、ヤタサブレ? これ真っ黒だけど何味なの?」
「おこげ味」
「失敗作!?」

 ところで、本屋と職人だが。さとりが職人の借金を肩代わりしたらしい。
 その金額と、本来の返済期限を聞いて私は目眩がしたよ。あの職人、よく殺されなかったな。
 
 職人は自業自得だが、本屋は借金のカタと宣伝道具を兼ねた宝石を『何者かに奪われて』相当お冠だったそうなので、代わりを立てたんだそうだ。
 本屋は、宣伝は十分に出来たし、大金が返ってくるならと、ひとまずは落ち着いた。
 装飾職人は、相当な額の借金が無くなり大喜びしていた。

 だが彼は気が付いているだろうか。もっとも厄介な連中に借りが出来たという事に。
 
「もぐもぐ。おこげって、お米のおこげかぁ。どう作ればこの味になるんだろ」
「ああ。店員も驚いていたよ」
「ホントに食べて大丈夫なんだよね!?」

 地上に戻ってから、チルノとはすぐに別れた。
 事が済んで落ち着いたからか、お互いにドッと疲れが出てきたのだ。

『これも遊び場を甘く見た報いか……!』
 
 雌伏の内に果てたようなセリフを残して、挨拶もそこそこに去ってしまった。
 今度改めて礼をしないとな。

「まだ見てなかったけど、それが新しいペンデュラム?」
「ああ。今度は予備も作ったから、以前より負担は減るだろう」

 私の胸元には、例の宝石を使ったペンデュムが輝いている。つい先日出来たばかりだ。
 
 正体不明で、ある種のチャーム持ち。そんなものを常備するのはどうなんだと、今更ながら自問自答したものだ。
 これの正体を知る術は恐らく外の世界か、妖怪の山にしかないだろう……ほとぼり、いつ冷めるかな。冷めたら鑑定に行きたい所だ。

 ひとまず、今のところ問題は無い。なあに、多少のアレは捻じ伏せてやる。遠回りするならトコトンやろう。

「しかし、なぜ砕けたペンデュラムが反応したんだろう。希少とはいえ、普通の宝石だというのに」
「その宝石は、もう普通のモノじゃなかったんだよ」
「なに?」
「ダウザーの大将が、ずっと頼ってきた宝石だもの。きっと、最後までナズちゃんの助けになりたかったんだよ」
「……そうかな」
「私が言うんだから間違いないよ。羨ましいなぁ、ちょっとだけ」

 付喪神は優しい笑顔で茶を啜った。
 そうであるなら、少しは心が軽くなるというものだ。
 
「よし。ロッドもペンデュラムも揃ったし、いよいよ行くとしよう」

 怪我も完全に治りきった。もはや懸念する事項は存在しない。
 ならば、行動あるのみだ。

「今度は何を探しに行くの?」
「探すというより挑むだな。これさ」

 一枚の紙を渡す。宝のありかが描かれた地図だ。
 小傘はわくわくした表情で、折りたたまれた紙を開く。

「ふむふむ、『胃腸粉砕! 超絶大盛から揚げ定食タイムアタック! 挑む者は遺書を書け!!』……ナズちゃん?」
「これで心おきなく挑戦できるな。無理だと煽った店主に目に物を見せてやらねば」
「……ナズちゃん大丈夫? お医者さんに説明できる?」
「だからなんで!?」

 私の手を握り、心の底から心配している小傘に思わず叫んだ。
 食事を取って何が悪いと私が言い。ボケる為に身体を張らなくてもと小傘が言う。

 すれ違いの果てに話が決まる。どちらが正しいかは、決闘で決めようと。
 
 空へと上がり、枚数を告げる。
 傘を担ぐ小傘に対しロッドを構え、ちらりと一瞬、胸元に目線を向ける。
 そこには空色のような、海色のような、鮮やかな青色の宝石が在る。

 私はそれを握り、その名を叫ぶ。

 空間に青い輝きが奔り、複数の正八面体を投影する。
 投影され、妖力によって実体を得た巨大ペンデュラム。
 
 それは美しく、頼もしく、先代に恥じない輝きを放っていた。
こんにちは。もしくは初めまして。もふもリストです。

素敵な青をもう一度! いかがでしたでしょうか。
前作より楽しい作品になっていれば幸いです。

これほど長い作品を作るのは初めてで、何かと大変でした。
ナズーリンとチルノのコンビ、ありそうで無いんですよね。結構合うと思うのですが。

至らない点がありましたら、遠慮なく仰っていただければと思います。
それでは、最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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コメント



0.590簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
あ~いいですねぇこれ!バトルあり笑いあり、エンターテインメントの王道ですな。
作品におけるチルノの功績が凄まじい。ストーリー上でもそうだし、会話のテンポを倍は良くしてる。
7.90絶望を司る程度の能力削除
飛び交うACネタに腹を抱えました。青いイレギュラーとはチルノの事だったか……。
面白かったです。
9.80奇声を発する程度の能力削除
とても楽しめました
11.100名前が無い程度の能力削除
これは面白い!
12.100名前が無い程度の能力削除
ナズーリンとチルノの掛け合いが絶妙で読んでて楽しかったです!
オレもお空に罵倒されてえなあ
14.100名前が無い程度の能力削除
さわやか、かわいらしい、元気がいい
三拍子そろったいい作品でした!
17.80名前が無い程度の能力削除
冒険もの、と言うかあちこち巡るロードムービー好き
20.100名前が無い程度の能力削除
楽しく見させて頂きました。
21.100名前が無い程度の能力削除
チルノとナズーリンの掛け合いがとても良かった!
22.100名前が無い程度の能力削除
最高!