Coolier - 新生・東方創想話

月の兎はなぜ地上に舞い降りたのか

2016/07/15 23:32:54
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 八月も終わりにさしかかった頃の事。秋はまだ来ない。でもキノコは採れる。それなら秋がくる前に秋を先取りしよう! という趣旨で、その日秋姉妹の二人はキノコ狩りに興じていた。まだ青々と生い茂る山の草むらをかき分けて、二人は朝からキノコを探し続けているのである。

「ねえ、穣子。本当にキノコなんてこの時期に生えてるの?」
「生えてるわよ。キノコは一年中生えてるものなの!」

 静葉はあまりやる気がない様子で、穣子が茂みをかき分けている様を上から眺めている。穣子に頼まれて木の上に生えているキノコを探しているのだが、到底まともに探しているようには見えない。

「ちょっとねーさん! なんか見つかった?」
「ええ、カラスの巣なら見つけたわよ。何か宝石のようなものがあったみたいだけど……」
「カラスじゃなくてキノコよ! キノコ!」

 穣子は少し怒気を含めて言い放つ。どうやら我が姉からまったくやる気を感じられないせいで些か気が立っているらしい。

「まったく、穣子ったらそんな怒っていたら見つかるものも見つからないわよ?」
「ねーさんこそきちんと探さないと見つかるものも見つからないのよ!」

 ずっとこんな調子なので二人とも収穫はほとんどない状態である。このままではただの晩夏の散策で終わってしまう。そんな危機感を募らせていたそのときだ。

「穣子。こっちに来なさい」

 急にまじめな口調で静葉が穣子を呼ぶ。穣子が呼ばれるままにその場へ近づいてみると、そこには白い小さな塊が地面に点々と散らばっていた。

「んー。何かしらこれ……白くて丸い……。兎茸(※ホコリタケのこと)かしら。それにしてはなんか……」

 怪訝そうな表情で穣子はその白い塊を手に取る。指で摘むと程良く弾力があり、もちもちとしている。それを見ていた静葉が穣子に告げた。

「それただの団子よ」
「だと思ったわよっ!」

 穣子は思わず団子を思いっきりぶん投げると姉に向かってまくし立てた。

「ったく、はじめから知ってて呼んだんでしょ!? 期待しちゃったじゃないのよ! あのね! 団子じゃなくてキノコよキノコ! もう何度言ったら……」
「穣子。何か聞こえない?」
「え?」

 姉の言葉に穣子が口を紡ぎ耳をそっとすませると、ひゅうひゅうと口笛とも風ともつかないような音が聞こえる事に気付く。どうやら何かが近くにいるらしい。音の方へ近づくとその正体が明らかになる。それは兎だった。橙色の服を着た兎が気持ち良さそうに眠りこけていたのだ。

「なんでこんなところに兎がいるのよ?」
「野生の兎とは違うようね」

 静葉はその兎に近づきしゃがみ込むと肩を揺らした。しかし起きる気配はない。

「なんか随分とぐっすり寝てるみたいねー? 放っといていいんじゃないの?」
「いえ、そうもいかないわ。もしこの子が永遠亭の兎だとしたら縄張りを破っていることになるもの。万が一の事を考えると起こしてあげるのが得策よ」
「そうやってまた面倒ごとに巻き込まれるのは正直勘弁してもらいたいんだけど……」

いかにも関わりたくなさげな穣子を後目に静葉はその兎を再び起こそうと肩を強めに揺らした。

「んん……?」

 ようやく目を覚ました兎は眼をこすりながらぼーっとした様子で静葉を見る。

「気持ち良さそうに寝ていたところ起こしてごめんなさいね。あなたは……」
「おい! その子から離れろ!!」

 突然大声が響き渡ったかと思うと頭上から鈍器のようなものを持った別の兎が静葉に襲いかかる。そしてその兎が振り下ろした鈍器のようなもの――杵が静葉の後頭部を捉えると、身体ごと跳ね飛ばし、彼女は近くの木へと体躯を激突させてしまう。

「ちょっ……ねーさん!? やろー不意打ちなんて卑怯な……!!」

 穣子は弾幕を張って応戦しようとする。

「お、私とやる気? 悪いけど負けないよ? ためらいなく撃つ!」

すかさず相手の兎も弾幕を展開させようとする。

「やめなさい。二人とも」

その声で我に返った穣子が振り返ると、派手に飛ばされたはずの静葉はけろりとした様子で、すでに立ち上がっていた。それを見て兎は思わずたじろぐ。

「なかなかいい一撃だったわね。でも私には効かないわ。こう見えても神様だもの」

 そう言って静葉が不敵な笑みを浮かべるとその兎は杵を構えて啖呵を切るように言い放った。

「か、神様? はったりも程々にしなさいよ! そんな威厳のない神様なんて居るわけ無いじゃない! 一発で倒れないならもう一発お見舞いするまでよ! さあ、覚悟しなさい!」
「まったく血の気の多い兎さんね……」

 少々呆れ気味の静葉に向かって兎は飛びかかり杵を振りかざすが、静葉は素早く相手をくぐるようにしてかわす。

「あ、こいつ!」

 振り向きざまにその兎が杵でなぎ払おうとした時、静葉の手が彼女の腕を捕まえ、払うような動きを見せると、彼女の体躯はもんどりを打つように宙を舞う。そして気がつくと地面に大の字になって倒れていた。

「何? 何……!?」

 静葉は何が起きたか理解出来ずにいる彼女を見下ろすようにして言い放つ。

「同じ手が二度も通用するわけ無いでしょ」

そう言って彼女が不敵な笑みを見せると、脇で傍観していた穣子が続ける。

「ねえ、あんたさー。もうそこらへんにしときなさいよ。姉さん怒らせると怖いのよー?」

 その二人の気配からようやく察知したのか兎は観念したように目を閉じてため息をついた。

「はぁ……。よりによって地上の神様に遭遇しちゃうなんて、本当私ったらなんて運が悪いのかしら……こうなったら仕方ない。煮るなり焼くなり鍋にするなりすればいいわよ……っ!」

 先ほどまでの威勢の良さはどこへ行ったのか。彼女は半べそすらかきだしてしまう。その時、終始様子を眺めていたもう一匹の橙色の兎が初めて口を開いた。

「……もー清蘭。落ち着きなさいよー。あなたが勝手に仕掛けて自滅したんでしょうにー。因果応報よー? 巻き込まれる方の身にもなってよね?」
「鈴瑚ぉー。だってぇー……まさか本当に神様だったなんて思わなかったんだもん…うぅ…」

 清蘭と呼ばれた兎が大の字のままぐすぐすと涙声を出し始めると、鈴瑚と呼ばれた兎はそんな彼女の前にやって来てどかっとあぐらをかいて座り込む。おっとりとしていそうな見た目や口調に反してどうやら度胸は据わっているらしい。

「……ま、というわけなんですよ。すべてはこの子の勘違いです。どうかこの子のご無礼を許してもらえませんか? 罰なら何なりと受けますから……どうかこの通り」

 そう言うと鈴瑚は両膝をつき二人に向かって土下座をして見せる。普段から慣れているのか、その一連の動きは実に流れるような様ですらあった。思わず穣子は呆気にとられてしまう。一方の静葉は口元に手を当てて土下座している鈴瑚を眺めていたが、やがて「ふむ…」とつぶやくと彼女へ話しかけた。

「……鈴瑚と言ったかしら。顔を上げなさい。あなたはそこの青い兎の仲間なのね?」
「はい。いかにもこの子は私の知り合いです。良い奴なんですけど、少しばかり血の気が多いのが玉にキズでして、本当申し訳ございませんでした」

 鈴瑚ははきはきとした口調で静葉に告げる。どうやら当たり障り無い態度でこの場を切り抜けようとしている様子だ。構わず静葉は話を続けた。

「さっき、そこの兎さんは私たちを地上の神様と呼んだわ。ということはあなた達はもしかして月の兎なのかしら」
「はい。いかにもその通りです。私たちは月の兎。所謂、玉兎というものです」
「ええ、月の!? 月の兎がどうしてこんなとこに!?」
「いやぁ。これにはちょっとした理由がありましてね……」

 思わず驚きの声を上げる穣子に対し鈴瑚は思わず苦笑しながら告げた。それを聞いた静葉が二人に告げる。

「ふむ。なるほど。面白そうね。それじゃその理由は場所を変えて教えてもらいましょう。あなたたち私たちの家へ来なさい」

 その言葉を聞いた二人は表情を曇らせる。その様子を見て静葉は不敵な笑みを浮かべた。

     ・
     ・
     ・
     ・

「……ふーん。んで、あんたらは月に帰んないでここに残る気なの?」
「ええ。だって地上にはおいしい食べ物たくさんありますしー。ほら、この梨とか」

 テーブルで頬杖ついている穣子にそう言ってむぐむぐとテーブルの上の梨をついばむ鈴瑚。さっきまでのまじめそうな雰囲気はどこへやら。おいしい物を前にして素の姿が現れてしまったというところだろうか。実に幸せそうな表情を浮かべている。
 
 話によると二人は、上司の命令で地上へ偵察へ来ていたところ運悪く博麗の巫女と遭遇し、二人の居た基地は壊滅してしまったという。そしてかねてから今の生活に不満を持っていた二人はこれを好機として月には戻らず、このまま地上に移り住むことにしたというのである。

「しかしさー。移り住むったって……アテあんの?」

 穣子の質問に対し、鈴瑚は口の中の梨を咀嚼し飲み込んでからのんびりとした口調で答える。

「ないですけどー。ま、何とかなりますよ。ほら清蘭もいるしー」

 そう言うとのんきな笑みを浮かべて再び梨を啄む。思わず穣子は呆れてため息をつく。

「ったく……あんたらさー。そうは言うけど、ここでの生活、あんまり甘く見ない方がいいわよ? こう見えて結構色んな事が絡まっていて大変なんだからね?」
「そうなんですか? ま、どんな大変な事があっても月での生活に比べれば多分どうって事ないですよー」

 穣子の忠告も意に介さずと言った感じで梨を貪り続ける鈴瑚。よほどおいしいらしい。いったい今まで月でどれほど悲惨な生活をしてきたというのだろうか。穣子は気にはなったがそんな幸せそうな彼女の姿を見ていると質問する気も失せてしまった。

 その頃、家の裏では静葉と清蘭が薪割りをしていた。杵を振り回しているだけあってか、力仕事は得意なようで、いとも容易く彼女は薪を割っていく。

「悪いわね。手伝わせちゃって」
「構いませんよー。さっきのお詫びの意味もありますしー」

そう言って清蘭は静葉が台に置いた薪を軽やかに割っていく。

「そう言えば、神様」
「なにかしら?」
「さっき鈴瑚を見つけたときどうしようとしたんですか?」
「あぁ。起こしてあの山から離れさせようとしたのよ」
「え? それはまたどうして?」

 思わず手を止めて質問する清蘭に静葉はふっと笑みを浮かべて答えた。

「この幻想郷においては妖怪達が、それぞれ縄張りを敷いてるの。兎達は永遠亭周辺の竹林一帯が縄張りに当たるわ」
「永遠亭……もしかして八意様ですか?」
「ええ、彼女が纏めているわ。……そう言えば彼女も月から来たんだったわね。知り合いなのかしら?」

 静葉の問いに清蘭は真顔で答える。

「知り合いも何も……あの方は元上司ですよ。今では裏切り者扱いですけど……」
「……あら、それじゃここでの生活はどうするの? 兎の一派はあなたにとっての裏切り者。でもその他の場所では他の妖怪が黙ってないわよ」
「それは、どういう意味です……?」

 その言葉に思わず顔を青ざめさせる清蘭。静葉は話を続ける。

「あなた達が地上でとれる行動はざっと述べると三つ。一つは永遠亭の一派に入れてもらうこと。もう一つはどこに属さず野良妖怪として暮らすこと。最後はやっぱり月へと戻ること」
「そんな……せっかく地上来たんだからもう月での下っ端生活なんかには戻りたくない! でも、だからって今さら八意様の元に下るのも……野良妖怪になるのはそれはそれで心許ないし……」

 ぶつぶつと独り言を言いながら彼女は頭を抱えている。だいぶ葛藤しているようだ。その様子を見つつも静葉は冷静に告げる。

「いずれにせよ。あなたはここでの生き方を選ぶ必要があるわ。もちろん、今私が言った以外の道もあるわよ」
「そんな急に言われても思い浮かぶわけないじゃない……」
「あら、何もあなた一人で決める必要ないのよ。あなたにはだんごさんが居るでしょ?」
「だんご……あ、鈴瑚のこと?」
「ええ、あのだんごウサギさんは見所があるわ。きっといい道を選んでくれるわよ」

 そう言って静葉は唖然としている清蘭に対してフッと笑みを浮かべた。

 その後、清蘭達は姉妹からお土産をもらうと山へ帰っていった。二人を見送りながら穣子がふとつぶやく。

「なんか月の世界って大変そうねぇ……」

 静葉が告げる。

「どこも一緒よ。……住めば都って言うでしょ。」
「……そういうもんかしら?」

 いまいち腑に落ちない様子の穣子を後目に静葉は遠く空を見つめる。その視線の先にはぼんやりと浮かんだ三日月が見えていた。

     ・
     ・
     ・
     ・

 二月ほど経ち、秋もすっかりと深まった頃。静葉は幻想のブン屋こと射名丸文の家へ遊びに来ていた。静は時折、こうやって彼女の元を訪れ世間話に興じているのである。

「……ところで静葉さん聞きました?」
「何かしら?」
「これですよ」

 と、言いながら文はさっと彼女一枚の写真を渡す。その写真には移動式の屋台で甘味を売る割烹着姿の少女の姿があった。

「今、里で話題なんだそうですよ? この甘味屋さん」
「へぇ……」

 静葉はその写真の少女に見覚えがあった。それもそのはずで、うまく変装こそしているが、それは紛れもなく先頃に会った月の兎、鈴瑚であった。

「文はもう取材してきたの? ここへ」
「いえ、まだですけど?」
「そう、ならこれから行ってみない?」
「え、それは大歓迎ですけど……珍しいですね。静葉さんがこういうのに興味持つのは。一体どういう風の吹き回しです?」

 不思議そうな表情を見せる文に静葉は不敵な笑みを浮かべ告げる。

「食欲の秋ってやつよ」

 件の屋台は里の外れにあった。秋も深まり時折寒風すら混じる里の外れだというのに朝から既に人だかりが出来ている。子供はもちろん、カップルとおぼしき若い男女や、井戸端会議に勤しむ御婦人達。更には大きな編みかごを背負った老婆の姿もある。団子やあんみつ、果実のジュースなど皆思い思いの甘味に舌鼓を打っている様子だ。

「随分賑わってるわね」
「噂通り、盛況のようですね」

 二人は早速、屋台へ近づく。一応変装をして里の者たちには気付かれないようにしている。新聞記者である文はともかく静葉は神様だ。神様が易々と人前に顔を出すのは気が引ける。それに神様と知られた瞬間、村の人々に注目されてしまう。表立って目立つ事は苦手なのだ。

「はい、いらっしゃい! どれにしますか?」

 笑顔で接客に当たる鈴瑚は静葉達の正体には気付いていない様子だ。二人は適当にフルーツパフェなるものを頼み、早速口に入れる。

「おぉ」
「これは」

 その味に思わず二人は声を上げる。たちどころにほのかな甘みと果実の酸味が口の中に広がり、思わず口元がゆるんでしまう。なるほど。これは確かに人気が出るのも頷ける。

 文は今すぐにでも突撃取材をしたい様子であったが、この混雑の中では営業妨害になってしまう。とりあえず二人は客が少なくなるのを待つことにした。しかし、待てども待てども客足は収まる気配はない。

 しばらくして太陽が真上に来る頃ようやく人の波は収まり、二人は再び彼女に会うことが出来た。すぐさま文が取材を申し込むと彼女は快く受け入れてくれる。そして三人は妖怪の山にある文の家へと場所を移した。

「いやー突然の取材申し込みで驚かせて申し訳ございません。あなたのお店の評判を聞きましてこれは是非新聞の記事にしなくてはと思いまして」

 その言葉を聞いた鈴瑚は思わずにやっと笑みを浮かべる。

「それは光栄だねぇ。お店を開いた甲斐があったってもんだよ。こうやって天狗さんの取材の申し込みまでもらえるなんてね」
「では早速ですが取材をはじめさせてもらいますね……」

 二人の様子を静葉は遠目からイスに座って眺めていた。彼女はあえて自分の正体をまだ明かさないままでいる。文の取材の邪魔になってしまうと思ったからである。

 ふと彼女は目の前のテーブルにあった新聞に目がいく。その新聞には月の兎が地上へ侵攻してきたこととその兎の基地が巫女によって壊滅したことを告げる記事が書かれていた。その新聞は文の作ったものでは無い様子だったが、それなりに細かく顛末が書かれていた。

(へぇ……文以外にもこんな記事を書ける天狗が居るのね。「花果子念報」聞いたこと無いわね)

 静葉がその新聞を手に取り詳しく読もうとしたとき、二人の取材が終わったらしく鈴瑚が帰ろうとして席を立つ。静葉が呼び止めると鈴瑚は怪訝そうな表情を浮かべたので、すかさず静葉が正体を現すと彼女は思わず目を丸くさせた。

「あれ、神様? どうしてこんなところに」
「あなたの様子が気になったのよ。鈴瑚。どうやら頑張っているようね」
「いやー。おかげさまで何とかやっていけそうですよー」
「それは何よりだわ」

 二人のやりとりを見て文は驚きの表情を見せる。

「あややや。二人とも知り合いだったんですか?」
「まぁ、色々あってね」
「その節はお世話になりましたー」
「通りで珍しく静葉さんが取材に乗り気だったわけですね」
「そういうことよ。ところで文、お願いがあるんだけどいいかしら?」
「え、なんですか?」
「これから私が話すことは記事にしないでちょうだい。約束できるわね?」
「え? あ、はい。わかりました。静葉さんが言うのならば……」

 そう言って文は手帳とペンを懐にしまう。それを確認して静葉は鈴瑚に問いかけた。

「そういえば、もう一人の子。清蘭だったかしら。彼女はどうしたの」
「あ。あの子なら月に帰るって……」
「あら、それはまたどうして?」
「んー。やっぱり地上の生活に馴染めないってさ。一応、数日前まで一緒に過ごしてたんだけど」
「そう。それは残念ね」
「残念だけど、まー。あの子が選んだ道だし私がどうこう言うものでもないしねぇ」
「それもそうね。でもそんな簡単に月に帰れるものなの?」
「あ、それね。私たちの基地に抜け道みたいなのがあるから。そこ通ればいけるのよ」
「あら、案外簡単なのね」
「ちょ、ちょっと待って下さい? 二人ともどういうことです? さりげなくただならぬ会話をしてるように聞こえるんですが……?」
「あら、文ったら言ったでしょう? だからこの会話はオフレコだって」
「いや、それはわかりますが、せめて説明くらいしてくれても罰は当たらないかと」
「それもそうね」

 静葉は不敵な笑みを浮かべるとこれまでの経緯を説明する。それを聞いた文はたちどころに表情を一変させた。

「……これもしかして相当大事なのでは?」
「あらそうかしら?」
「そうですよ! だって、例の月からの侵略事件の張本人がここにいるって事ですよね? しかも地上に残って生活をすると!?」
「うん、まーそうことになるね。私はあくまで尖兵だけどさ」

 そう言うと鈴瑚はテーブルのもてなし用の和菓子をモグモグと啄む。至ってのんきな様子である。

「文ったら約束を破って記事にでもするつもり?」
「いやいやいや、こんなの記事に出来ませんよ! この方の正体が大天狗に知られたりでもしたら大事になりますし、永遠亭の一派も黙ってないでしょう! ましてや私が色々と面倒なことになりますもの」
「そうね。下手すればあなたがこの子を匿っている逆賊扱いにされるわね」
「まったく、静葉さんったらなんて事に巻き込んでくれるのですか。いい迷惑ですよ本当……」

 頭をかく文に静葉は告げる。

「私はあなたを信用してるのよ? 文」
「……まったくずるいんだから、もう。それで私にどうして欲しいんです……?」

思わず一瞬敬語でなくなってしまう文だが、どうやら本人は気づいていない様子だ。構わず静葉は続けた。

「そうね。私のわがままに付き合ってもらえるかしら?」
「といいますと?」
「この子の基地に行くの」
「それは構いませんよ。でも基地なんかに行ってどうするつもりなんです?」
「さっきこの子が言ったでしょ? 基地から月にいける抜け道があるって」
「……もしかして静葉さん? あなた……」
「そう、月に行くのよ」
「本気ですか!?」

 静葉の言葉に驚きの声を上げる文。一方の鈴瑚は「おやおや」といった感じであまり動じる様子はない。

「前から行ってみたかったのよ。ほら月には都があるんでしょう? 都に紅葉でもちりばめようかしら」
「ちょっと鈴瑚さん……。こののんきな神様に何か言ってやって下さいよ」
「んー……ま、神様だから大丈夫なんじゃない?」
「あなたに聞いた私がバカでした……」

 思わず頭を抱える文へ静葉が告げる。

「確かに付き合ってとは言ったけど、別にあなたは行かなくてもいいのよ? 流石にこれ以上あなたを巻き込むわけにはいかないもの」
「うんうん、確かにあいつ等、地上の妖怪さんには厳しいからねぇ」

 静葉の言葉に鈴瑚は口をむぐむぐとさせながら腕組みをして頷く。

「それはそうと早く行きましょう。思い立ったら吉日よ。日が暮れちゃうわ」

 居ても立ってもいられない様子で静葉は足早に出て行ってしまうと、続けて鈴瑚も文に向かって一礼し、静葉を追いかけるように家を出て行ってしまった。

「まったくもう……」

 一人残された文はそう呟くと思わず頬を膨らませた。

    ・ 
    ・
    ・
    ・

「……あの天狗さん結局ついてこなかったねぇ」
「仕方ないわ。あの子もあの子で色々大変なのよ。察してあげてちょうだい」
「わかるわー。みんなそれぞれ大変なんだよねぇー」

 等と言いながら二人は妖怪の山の頂上へと向かっている。

「あ、見えてきた。あの湖のほとりだよ」
「へぇ、こんなところにあったのね」

 二人が基地――正確には基地跡に入ると中は瓦礫の山と化していた。巫女の襲撃で壊滅したとは聞いていたが、あまりにも酷い有様である。さすがの鈴瑚も複雑げな表情を浮かべている。何か思うものでもあるのだろう。

「ごめんなさいね。ここはあなたにとっては酷な場所だったかもしれないわね……」
「しずかに。何か聞こえない?」

 そう言うと鈴瑚は耳をぴくぴくとさせる。言われて静葉も耳を澄ませると確かに奥の方から何やら物音が聞こえてきている。更に良く聞くとそれは弾幕を張り巡らせる音と破壊音であった。

「月への抜け道の方からだわ」
「行ってみましょう」

 二人が急いで基地の奥まで行くと何者かの弾幕が張り巡らされている。誰かが交戦中のようだ。二人が更に近づくとその正体が分かった。一人は清蘭だ。既に彼女は服もかなりぼろぼろの状態で劣勢の様相である。もう一人は静葉が初めて見る顔で、その手には何やらもやもやした物体が携われている。携わっていると言うより手のひらに浮いていると言った方が正しいかもしれない。その雰囲気からして並の妖怪ではないことがすぐにわかった。

「くっそー! なんであんたが私を狙うのよ!?」
「あなたのためよ? 清蘭さん」
「ったく、わけわかんないわよっ!」

 清蘭は半ば自棄気味に弾を乱射させるが、その妖怪にはかすりもしない。

「やれやれ……理解力のない子はこれだから困るわね」

 その妖怪は呆れたというより人を小馬鹿にするような表情でその手の得体の知れない物体を掲げる。するとその物体からおびただしい弾幕が放たれ次々と清蘭へ襲いかかる。

「このやろー!」

 清蘭は満身創痍になりながらも弾幕を避けるがその分厚い弾幕に徐々に押され気味となってしまう。

「このままじゃあの子まずいわね。助けにいく?」

 静葉が問いかけるまもなく鈴瑚は懐から白い玉のような物を取り出したかと思うと、おもむろに口に含み咀嚼させる。そして飲み込むと素早く弾幕を展開し放った。それは静葉が思ったよりも強力な弾幕で、妖怪が放った弾幕を次々と相殺していく。

「あらあら……他にも居たのですか?」
「……その子から離れてくれないかな。ドレミーさん」

 鈴瑚が二人の間にはいるとドレミーと呼ばれた妖怪は、例の人を小馬鹿にした表情を浮かべて鈴瑚に告げた。どうやら二人は顔見知りの様子だ。

「離れるも何もこの子が私に近づいてきたんですよ?」
「ううぅ……鈴瑚ぉ……それに神様。……どうしてここに?」
「まぁ色々と事情があってさ……」
                                       
 鈴瑚が清蘭の元へ駆け寄ると力つきたのか彼女は倒れ込んでしまう。

「神様ですって……?」

 清蘭の言葉を聞いたドレミーは訝しげな表情で静葉に目を向ける。静葉は表情一つ変えずにドレミーの顔を見返す。

「……これはこれは地上の神様ですか。私はドレミー・スイート。一言で言えば夢の世界の住人です。以後お見知り置きを」

 そう言うと彼女は静葉に向かって仰々しく一礼をする。

「あら、ご丁寧にどうも。私は秋静葉。一言で言えば秋を司る神様よ。あなた見たところ、さてはバクね?」
「あら、ご名答です。流石神様ですね」
「その風貌見ればだいたい想像つくわ。それよりどうしてバクなんかがこの子を襲ってたのかしら?」
「この子は月に帰るには穢れ過ぎたのですよ。穢れは月の民にとっては大敵ですからね」
「だから排除しようと?」

 静葉の問いにドレミーは首を横に振りながら答える。

「いえいえ、滅相もない。追い返しただけですよ。ただし単に追い返すだけだと、事情が飲み込めてないこの子のことです。また懲りずにやってくるでしょう。そこで……」
「とことん痛い目に遭わせて月に戻りたい気持ちをこの子から消そうとしたと?」
「ま、平たく言えばそういうことです。言葉でわからない子は身を持って覚えさせるしかありませんからね」
「性格悪いのね」
「そんなことありませんよ? これが私なりの優しさなんです。もし、この子がこのまま月へ帰ったらほぼ間違いなく消されます。まぁ、運良く消されないにしても今まで通りの生活はまず出来ないでしょう」

 ドレミーはふと倒れている清蘭を一瞥すると続ける。

「それに私は元々夢の世界の住人。こちらの世界では仮初めの姿であり能力はかなり制限されます。さっきの弾幕も密度こそありましたが、威力そのものは大したことありません。それこそ蚊に刺されるような程度。彼女があそこまでボロボロなのは単に彼女が弱いからで……」
「いいかげんにしろ!」

 突然珍しく怒気を含んだ鈴瑚の言葉があたりに響く。

「……さっきっからいちいち癪に障るのよねぇ。穢れているのと、この子の強さは関係ないよ?」
「いえ、関係ありますよ。弱いから穢れてしまったんです。そう言うあなたも穢れてしまっているんじゃないですか? 鈴瑚さん」

 そう言って例の挑発的な表情を浮かべるドレミーに対し鈴瑚は真顔で見返すと彼女に告げた。

「そうね。でも私は地上へ残ることに決めたのさ。月なんかよりもよっぽど楽しいからね。食べ物もおいしいしみんないい人だし。言っとくけど月での生活に未練はないよ。少なくとも事情もロクに説明しないで戦地へ赴かせるような上司はいないだろうしね」
「あら、誤解を招くような言い方は止めて欲しいですね。そもそも私はあなたの上司ではありませんよ?」
「でも今回の一件に絡んでいたのは間違いないでしょ? 月の都をあんな事に出来るのは夢を操れるあなたくらいしかいないわ」

 鈴瑚の言葉を聞いたドレミーは一瞬だけ眉をぴくりと動かす。

「……ほう。どこで情報を仕入れたのか知りませんが、少なくとも今回の件に関しては黙っていた方が身のためだと思いますよ。ただでさえあなたは目を付けられてますから。心当たりあるでしょう?」

 今度はドレミーの言葉で鈴瑚の顔が一瞬ゆがむ。

「いくら結果オーライだったとはいえ、上司の命令に背き、侵入者を勝手に私のところへ案内した。これは重大な違反行為です」
「そんなのもう関係ないね。さっきも言った通り、私は月に帰る気は無いよ」
「あなたがそのつもりでももしかしたら月から刺客が来るかもしれないですよ?」
「そんなの知ったこっちゃ無いわね。脅しても無駄だよ。私の道は私が決めるから」

 思わずドレミーはため息をつく。
 
「やれやれ忠告のつもりだったんですけどねぇ」
「大きなお世話よ。そんなことより私が言いたいのは、私の大事な戦友を傷つけた上に貶した事さ。例えあなたでも許さないよ」
「ほう。どうするおつもりです?」
「こうするのさ」

 鈴瑚は再び丸い物体を口に含む。その様子を見てドレミーが呟くように告げる。

「団子を食べる度に強くなる……あなたのその能力、前から興味がありましたよ。なるほど、友の敵討ちですか。面白い。ではその能力の力。とくと見せてもらいましょう」
「言われなくてもそのつもりさ。月兎の意地って奴を見せてやるよ」

 二人は既に臨戦態勢であり、いつどちらが仕掛けてもおかしくない状況である。静葉はその様子を眺めながら気絶している清蘭を連れて安全な場所へ避難する。
 間もなく弾幕が展開される音と轟音があたりに響く。どうやら始まったようだ。轟音が響くと同時に辺りがミシミシと震動する。

「……こんなところでドンパチしたら、ここ崩壊するんじゃないしら」

 静葉の心配をよそに二人は弾幕の応酬を繰り返している。今のところ両者とも一歩も引く様子はない。現実世界とは言え、大妖怪のバク相手にひけを取らない戦いをする鈴瑚はやはりただ者ではないのかもしれない。

「うぅ…?」

 その時、辺りの騒々しさのためか、清蘭が目を覚ます。彼女はぼーっとした様子で辺りを見回している。状況がよくわかっていない内容だ。

「あら、気づいたの?」
「神さまぁ……」

 清蘭は涙ぐんだ目で静葉に抱きつく。

「あなた、一応兵士なんでしょ? そんなんでどうするのよ」
「だって怖かったんだもん」
「もう。仕方のない子ね。ほら、見なさい。鈴瑚があんたの敵討ちしてるんだから」
「……えっ?」

 静葉の言葉を聞いた清蘭は、はっとしたした様子で鈴瑚達の方を見やる。

「なんで? あいつ関係ないのに……」
「戦友を傷つけたから、だって言ってたわよ」
「え……」

 呆然と見つめる清蘭の目線の先には戦い続ける鈴瑚とドレミーの姿があった。依然として二人の力は拮抗している。

「……予想以上ですね。あなたのその能力」
「それはどうも。あんたに誉められるなんて光栄だね」

 鈴瑚は弾幕を繰り出しつつ団子をかじる。それを見たドレミーが例の表情で告げた。

「一種のドーピングのようなものなのでしょうが、あなたの力には変わりありませんものね」
「いちいち癪に触るわね。その物言い」

 鈴瑚は続けざまに弾幕を繰り出す。ただでさえ狭くて逃げ場がない場所なのに鈴瑚の弾幕は的確に彼女を追いつめていっている。ドレミーは防戦一方とばかりに弾幕を避け続けている。それを見た静葉が思わず呟いた。

「あの妖怪さん。さっきから弾も出さずに鈴瑚の弾幕をひたすら避けてるわ。……何かを企んでるようね」
「あ、まさか……!」

 静葉の言葉に心当たりがあるのか清蘭は慌てたように口に手を当てる。その時、弾幕を避けきったドレミーが口を開いた。

「さて……鈴瑚さん。あなたの団子は残りいくつですか?」

ドレミーの問いかけに鈴瑚はチッと舌を鳴らし彼女を見据える。

「どうやら切れたようですね。確かにあなたの能力はなかなかのものですが、肝心の団子が切れてしまえばそれまで。さあ、今度はこちらからいきますよ!」

 ドレミーはここぞとばかりに高威力の弾幕を構築させると次々と展開していく。

「ふん。避けきってやるよ!」

 しかし威勢のいい言葉とは裏腹に鈴瑚は徐々に被弾していってしまう。どうやら弾を避ける速度も落ちてしまっているようだ。

「まずいわね。」

 戦況を見つめていた静葉が呟くと、清蘭が懐から何かを取り出す。

「鈴瑚! これ使って!」

 清蘭は取り出した物を鈴瑚に向かって投げる。それを受け取った鈴瑚は思わず目を丸くさせた。それは団子だった。しかもただの団子ではなく果物の果実か何かを混ぜ込んだデザートのような団子だったのだ。

「清蘭……! これって……」
「そう! あんたが餞別にくれた団子よ! もういらないからあんたに返すわ! 
「いらないって……?」

 困惑の表情を浮かべる鈴瑚に清蘭は決心したような表情で告げる。

「私、決めた。やっぱり地上に残るよ! ごめん鈴瑚。……怖かったのよ。今までと、まるっきり違う生活がさ。月での生活は確かに悲惨だったのかもしれないけど、一応後ろ盾はあったわけだしその点では安心出来てた。でもここじゃそうはいかない。こないだ、そこの神様に言われたのよ。生きる道を選ぶ必要があるって。私、ずっと考えてた。考えたけど答えが出なかった。だから一度月に帰ろうと思ったの。私がわがままだったわ。本当にごめん!」

 ばつが悪そうに何度も頭を下げる清蘭に鈴瑚は微笑みながら告げた。

「気にしなくていいのよ。私は清蘭がどんな道を選ぼうとそれを支持するつもりだったわ。だから月に帰るって言ったときも特に引き止めはしなかったのよ。……でもあんたがそうしてくれるのならうれしいわ。ありがとう清蘭! あんたの気持ちしっかり受け取ったよ!」

 そう言って鈴瑚はその手の団子を口に放り込むとドレミーを見据え、弾幕を構築するとドレミーにめがけて放った。彼女たちの弾幕はドレミーの弾幕を次々とかき消していき、やがてドレミー本体へ到達する。

「ふふふ……良い仲間に恵まれましたね。うらやましい限りです」

鈴瑚の弾幕を目の前にしたドレミーは笑みすら浮かべて、真っ正面から受け止めたと思った瞬間、辺りはまばゆい閃光と轟音とともに激しい衝撃が辺りを襲う。そして衝撃と閃光が収まった時には彼女の姿はなく、辺りには焼け焦げた臭いだけが残っていた。

「やった……?」

清蘭はぽつりと呟くと、肩で大きく息をしている鈴瑚の方へと向かう。清蘭の気配に気づいた鈴瑚はそっと顔を向けると親指を立てて笑みを浮かべた。

「ありがとう! 鈴瑚……」

と、その時だ。突然地響きが辺りに響き始める。

「いけない。今の衝撃でここが潰れそうだわ」
「げっやばい!? 逃げなきゃ!」

 三人は一目散に外へと逃げ始めるが既に入り口は瓦礫で埋まってしまっていた。

「どうしよう!? よし、ここは私の弾幕で蹴散らして……って、きゃー!?」

 清蘭がスペルカードを取り出そうとした瞬間、更に大きな地響きが辺りを襲い、彼女は体勢を崩してしまう。

「清蘭……!」

 鈴瑚がとっさに手を取り、清蘭は何とか起きあがる。振り返ると今まで逃げてきた道も今ので埋まってしまっていた。もはやここまでと思ったその時だ。

「離れてて下さい!」

 次の瞬間、ぱぁんという炸裂音と共に入り口の瓦礫が吹き飛ばされる。その先にはなんと文の姿があった。

「さあ、早く逃げて下さい!」

 言われるままに三人は基地から脱出する。完全に崩れていく基地を後目に静葉が呟くように文に言う。

「文ったら結局ついてきてくれてたのね」

 静葉の言葉に文は扇子を仰ぎながら答える。

「当たり前じゃないですか。あそこまで言われて行かないわけにはいきません。それこそ新聞記者の名折れです。まぁ……無駄骨でしたけどね」
「ふふ。無駄骨だったのは私も同じね。結局月に行けなかったし。でもまぁあの二人にとっては良かったんじゃないかしら?」

 そう言って静葉はふっと笑みを浮かべる。その視線の先には物憂げそうに基地跡を見つめる清蘭と鈴瑚の姿があった。

   ・
   ・
   ・
   ・

「えー。そんなおもしろいことあったのー? 私も混ぜて欲しかったなー」

 今までの経緯を聞いた穣子は不満そうに頬を膨らますと床に寝そべった。

「あなたどこかに出かけてていなかったでしょ?」

 そう言って静葉は一連の記事が書かれた新聞を穣子の顔に落とす。

「わっぷ!? 何すんのよー!」

 穣子は新聞を剥ぎ、思わず静葉をにらむが彼女は意に介せずといった調子で告げた。

「たまには新聞でも読んでみたらどう?」
「いらないわよ! こんなの読んだら夢見が悪くなるもの」
「あらあら、文が聞いたら悲しむわね」
「別に良いでしょ。今いないし」
「って思うじゃない」
「え、どういう意味……?」

 静葉の言葉に穣子が思わず顔を上げたそのときだ。突然後ろから穣子は頬をつねられる。

「いだだだ!?」
「酷いじゃないですかー。穣子さん」
「はなひてよぉー。あひぁー!?」
「イヤです。私の新聞をそんな風に言うなんて、いくら穣子さんでも許したくありませんので」
「いふぁい! いふぁいっ……!?」

 文はジト目で穣子の頬をつねり続けている。呆れた様子で二人の様子を眺めていた静葉が文に問いかける。

「……ところで文。あの子達の様子はどう?」

 静葉の問いに文は、きりっとした笑顔を浮かべて答える。

「あ、はい。結局二人で一緒に甘味屋を続けることにしたそうですよ。相変わらずの繁盛ぶりでした」
「それはよかったわ。私もそれが一番良いと思ってたからね」
「ただ、どうやら竹林の兎達が二人に目を付け始めているそうです。もう一悶着ありそうな予感がしますねぇ」
「そう。……ま、大丈夫でしょう。あの二人ならきっとうまい具合に乗り越えられるわよ」
「はい。私もそう信じます。それに騒ぎになったらそれはそれで記事に出来ますしね」

 そう言うと文は不敵な笑みを浮かべる。

「ま、そういうことね。あ、そうそう。例の奴は買ってきた?」
「おっと。忘れてました。もちろんですよ」

 文は懐から紙包みを取り出してテーブルに置いた。そのときだ。

「隙あり!」
「……あっ!?」

手が離れた隙に穣子がふりほどくと勢い余って文は床に転んでしまう。すかさず穣子は足蹴りをお見舞いする。

「いたっ!?」
「おかえしよ! この出歯亀性悪天狗!」
「なんて酷い言われようでしょう。そっちがその気ならこっちも負けませんよ?」
「おーし。望むところよ! 表へ出なさい! 神様の威厳ってのを見せてやるわ!」
「ふふん。幻想郷最速の私に勝てるとでも思いですか? いいでしょう。受けて立ちますよ」

ぎゃーぎゃーと喚いている二人を後目に静葉が紙包みを解くと中から紫色の果肉のソースがかかった団子が現れる。早速口に入れると程良い酸味と甘みが口の中に広がっていく。

「……まったく。いいコンビね」

 賑やかに庭で弾幕ごっこに興じている二人には目もくれず静葉は床に投げ捨てられている新聞に目を向けると思わず満足そうに微笑む。

 そこには満面の笑顔で接客をする清蘭と鈴瑚の姿があった。
このあと後日談みたいなの投稿する予定です。
バームクーヘン
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