Coolier - 新生・東方創想話

流れ星が消える時まで

2016/06/30 05:31:36
最終更新
サイズ
3.84KB
ページ数
1
閲覧数
1124
評価数
3/12
POINT
690
Rate
11.00

分類タグ

 
 その日は月も出ていなかったので、四等星だってよく見えたことを覚えている。煌き燃え尽きてゆく星たちが、なんとなく、あの子に似ている気がする。
 今夜は、魔理沙との天体観測会だ。天体観測といっても、流星群を眺めながら、それに混じって落ちてくる星のカケラを集めているだけなのだけれど。一応デートの括りに入れたいものだ。
「なあアリス」
 夏の生ぬるい風とともに頼りなさげな声が聞こえてきた。彼女は私の前だといつもこうだ。自信はないし、泣き出すし、すぐ感傷的になる。だから私は、特別声音を変えるわけでもなく、静かに返事をした。
「なあに」
 魔理沙は、琥珀色の瞳にうっすら涙を溜めていた。それから何故か微笑んだので、目尻からぽろりと涙が地面に落ちた。私は見なかったことにしようと思い、眩いばかりの星たちに視線を移した。魔理沙の言いたいことは分かっている。けれど、私だって同じなのだ。ただその事象に触れようとしないだけで。
「私たち、あと何回こんな風に夏を過ごせるんだろうな」
 魔理沙は目を袖で擦ってから、夜空を見上げた。私もつられて上を向くと、少し風が出てきたせいか雲が流れてきていた。


「よし、大体集まったな。これで新しいスペルカードの実験ができる」
 どこか空元気のような気がしたけれど、彼女が笑っているのならそれでいいと思った。
「お疲れ様。私も今度の研究に使えそう。じゃ、帰りましょうか」
「あっ、そうだ、持ってきたものがあるんだ」
 そう言って魔理沙はベストのポケットから何かを取り出した。それは紫と黄色で、縦の紙を捻ったような形状をしていた。
「線香花火、もらったんだ。二本しかないけど、やらないか?」
 思わず嘆息をつきたくなる。
「あのね、魔理沙。花火には火薬が入っているのよ。危ないでしょう」
 まるで子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。昔の魔理沙だったらきっと、「子ども扱いするな!」と怒っていただろう。けれど最近は、私がこういう口調になると魔理沙はにこにこしだすのだ。
「魔理沙って、甘えん坊さんよね」
 今までの魔理沙を思い出していると、思わず笑みがこぼれる。
「アリスだけだ」
 すると、さっきまでへにゃへにゃしていた子どもが、突然真剣な眼差しで私を射抜いた。
「甘えるのも、泣くのも、弱いところを見せられるのは、アリスだけだ」
 私は返事をする代わりに、魔理沙の手を取った。驚いたようにこちらを見つめる彼女が可愛くて、絡めた指先に少し力を入れた。


「魔理沙マッチなんて持ってるのね」
 取り出したマッチを、慣れた手つきで花火に火を移そうとしている魔理沙。
「ああ、パイプを吸うときに使うからな」
 そういえばそうだった。魔理沙はこう見えて喫煙者なのだ。私の前では一切煙草の香りをさせないので忘れていた。
「ねえ、禁煙しない?」
 不意にそんな言葉がこぼれた。
「どうだろうなあ、一人で実験している時とか、口寂しくてつい吸っちゃうからなあ。ああっ、アリス、火種が落ちる」
 
 ぱちぱちと、線香花火が音を立てて短い命を燃やす。オレンジ色の玉が、今にも落ちそうに膨らんでいる。
「……落ちちゃった」
 それ見ろとばかりに火種が地面へと落ちていった。
「ふふん、ここは魔理沙さまの出番だな」
 豪語するだけあって、魔理沙の線香花火は随分と長い間輝いていた。
 その後ちらちらと雨が降ってきたので、天体観測(あと線香花火?)会は終了となった。
「今夜はうちに泊まるんでしょう?」
 自然にそう尋ねる。
「そうさせてもらうよ」
 はにかむ彼女は、可愛らしかった。
 
 私はあと何回、魔理沙に会うことができるのだろう。
 夜中の間ずっと私は考えていた。今まで何も期待せずに魔理沙と付き合ってきた。どうせ、すぐに死んでしまうのだと、諦めていた。でも、私はもっとあの子と一緒にいたい。こんな気持ちを抱くのははじめてのことだった。


「というわけで、同居しない?」
 眠りから目覚めた魔理沙にひとしきり説明を終えて、私はそう言った。
「死ぬまで一緒ってことだな。断る理由なんてない」
 窓辺に下げている風鈴がちりんちりんと鳴っている。
「好きだよ、アリス」
 まっすぐで、無垢な告白がくすぐったい。これから始まるのだ。私と魔理沙、二人で一つの人生が。

「とりあえず煙草はやめましょうね」
 そう言うと魔理沙は笑って、
「アリスが毎日キスしてくれたら考えてもいいよ」
 なんて言うので、いたずらごころが芽生えてしまう。そっと魔理沙の肩に手を置いて、接吻をかましてやった。
「おっ、おま、アリスっ」
「どう? 煙草やめる気になった?」
 魔理沙は頬を林檎のように赤く染め上げてから俯いて、小さく頷いた。
ご読了感謝致します。


twitter (@numakoharu)
桜野はる
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.410簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
線香花火のような儚い運命に対して、諦めるでもなく抗うでもなく、あるがままを受け入れ、その中で最善を尽くそうとする。
切ないながらも前向きな作品だと思った。
それ故、いわゆる寿命ネタを扱っているのだが、そこには不思議と悲愴感がなく、読後の後味がとても良い。

ただ、ひとつ欲を言えば。
作中では省かれてしまったが――魔理沙が目覚めてから、アリスが同居を提案する過程も読みたかった。
8.100南条削除
話に熱中してしまいました
いずれ終わることはわかっているけど、まだもう少しだけ
そんなアリスの心情が切なく、2人を応援したくなりました
しんみりとしつつも希望が消えきってない感じが面白かったです
9.100大根屋削除
とても素敵なお話でした
短いながらも魔理沙の可愛らしい仕草と、アリスの魔理沙を見る優しさが垣間見えてとても心地の良い読了感でしたね