Coolier - 新生・東方創想話

微睡む夢のような

2016/06/29 23:13:49
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 授業の終わりを告げるチャイムで少女――宝珠ぬえは目を覚ました。
 机に突っ伏せたせいで上がった前髪を手櫛でときながら、ぬえはみみずが遊んでいるノートと真っ白な教科書を片付ける。
どうも日本史、というか歴史の教科は眠くなる。話を聞いているだけなのだがどうも瞼が垂れ下がってくる。先生の授業が必要なのかどうかがぬえには分からない。
授業を受けていなくても家でちゃんと勉強をしていればテストの点数は取れているので、やはりぬえには必要のない授業なのだろう。
 寝ぼけている頭は、授業の最初のうちに出てきた源頼政という単語をうっすらと覚えている。先生が言うには昔の弓の名手らしい。
HRが始まっているが、担任にバレないようにまだ消えていない黒板を携帯のカメラを使って写して、ぬえは手帳に源頼政が登場する教科書のページを記して、帰宅後の勉強の計画を立て始める。
とりあえず今日は八時くらいまで帰れないから、ご飯食べてお風呂入ってそこから三時間くらい勉強してその後は体調次第。そんなことを考えながらぬえは手帳に勉強する教科を書き込んでいく。
 ぬえは今日の放課後に予定が既に入っていた。そのため勉強の計画は少しハードなスケジュールになっている。

 HRも終わり、生徒たちが帰り支度や部活の準備を始めている。ぬえもそれにならうように帰り支度を始めていたが、ぬえの方にやってくるクラスメイトが一人。
「ぬえちゃーん、一緒に帰らない?」
 ぬえが顔を上げると、そこにはクラスの学級委員を務める女の子が鞄を抱えて立っている。
彼女とぬえは一緒に勉強を教えあったりする仲で、テストの点数も常に上位に位置する。
「ごめんね、今日用事あるんだ」
「そうかー、じゃあ一人で帰ることにするね。また今度!」
 神社まで一人かぁ、という声を聞き流しながら、ぬえはもう一人のクラスメイトを待っていた。
「ぬえー、帰れるー?」
「いいよ、もうちょっと待ってて」
 ぬえに話しかけた少女は鬼神正邪。
少しぬえより身長が低く、可愛らしい容姿をしている。しかし性格が最悪で、クラスメイトからはまず近寄られない。
そんな彼女ではあるが、彼女とぬえは付き合っている。

 正邪は自分の気持ちに素直になることが非常に苦手で、男子には悪態ばかり付いていた。
そして友達がみんな離れていく中、悪態をついても軽く受け流すぬえと仲良くなるにつれて、そちらの方へ流れていったというわけで。
凄い苗字ではあるがむしろ体は華奢な方で、性格だけは鬼人なんだけどな、とよく男子にからかわれている。
 二人が付き合っていることは、二人以外まだ誰も知らない。

 ぬえの帰り支度も終わり、学校から出た二人は制服のまま、電車で少し離れたショッピングモールへ繰り出していた。
「ぬえは何かしたいことある?」
「んー、今は甘いもの食べたい気分」
「うへぇ、私は普通に何か食べたいからフードコートかな」
「そうしようか」
 付き合っているとは言うものの、特にこれといった進展はない。
正邪から告白されたので驚いたぬえはそのままオッケーしてしまったのだが、正邪自身もこの感情が友達としてなのか恋人としてなのかよくわかっていない。
ただぬえは勉強はできるし見た目もよく、正邪と違い男子から人気もある。恋人として好きなことに気付いた時に先に男子に取られていては癪なので先に告白しただけだったりする。

 チョコのクレープを食べながら日本史の教科書とノートを開くぬえと、ポテトをつまみながらぬえを眺める正邪。
二人は一つの机を挟んで、ただただゆっくりと時間が過ぎるのを感じていた。
「……どうしたの、そんなに見て」
「別に―、何でもない」
「あとで構ってあげるから、今はちょっと待っててね。あんたに勉強教えないといけないんだから早く詰め込まないと」
「頼んでないし……」
 バツが悪そうにポテトを食べる正邪だが、ぬえがそれに追い打ちをかける。
「私が教えなかったらあんた進級できるかすら怪しいでしょ」
「ぐぬぬ……」
 すると正邪は思いついたかのようにポテトを一本持って、ぬえの方に差し出して。
「……ん」
ぬえは少し微笑んで、ポテトを正邪の手からそのまま食べると、
「うん、おいしい。ありがと」
笑顔で、言った。
 その破壊力は正邪には少し強すぎたようで、机に突っ伏すと、うん、と言って動かなくなってしまった。

「よし、このくらいでいいかなー、正邪、いこっか」
 30分ほどが過ぎて、ぬえが帰り支度を始めるが、正邪は突っ伏したまま。
「……寝てる?」
正邪の返事は無い。そしてぬえの口角は少しずつ上がっていく。
 少しだけ残っているクレープを全部食べてしまって、ぬえは寝ている正邪の頭を机越しに撫で始めた。
性格とは反対に思ったより手入れされているのか、指の間に潜り込む柔らかな髪が心地良い。
正邪の頭を撫でるなんてことはしたことがなかったぬえは、そのギャップに少し戸惑いつつもしばらくの間撫で続ける。
「…ん……」
「あっ、ごめん……」
 正邪が起きてしまったので咄嗟に手を離そうとしたぬえだが、急に伸びた正邪の手によってそれは阻まれる。
「……もうちょっと」
「……わかった」
 いつもより素直な正邪に驚いたが、すぐに笑ってぬえは机に伏せた正邪の頭を撫で続けた。

 トレーを返してゴミを捨てて、二人はまたあてもなく歩き出した。
アパレルショップをいくつか回るが、二人は服を買うくらいのお金を持ってきていない。
回るだけ回って試着を繰り返すが、そろそろいい時間になってきた。
「時間も時間だなぁ……プリクラ撮って帰ろっか?」
「ぬえがそうしたいなら何でもいい」
「じゃあプリクラね」
 二人はシックな服を取り扱う店を出ると、そのままゲームセンターへ向かった。

「あっ、このぬいぐるみかわいい」
 そう言ってぬえは、腕に抱えれるサイズのクマのぬいぐるみが入っているUFOキャッチャーの前で足を止めた。
それを見た正邪は財布を出すと、
「ほらどいて。取ってやるよ」
「取れるの?」
「まあ見とけって」
1回200円のそれに正邪は500円を突っ込み、3回の挑戦権を獲得した正邪は、慣れたようにUFOキャッチャーを動かしていく。
仰向けになっているクマの頭を鷲掴んだが、一瞬だけ持ち上がったもののそのまま頭を落としてうつ伏せになってしまった。
「あぁ、惜しい」
「うつ伏せにひっくり返したかっただけだからいいんだよ」
 そして正邪はひっくり返したことによって生まれた胴体と頭の間のスペースにアームを差し込む。
クマはそのまま持ち上がり、そしてそのまま、クマはゴールの穴の中へ――落ちる。
「やった!凄いじゃん正邪!」
「私にやらせりゃこんなもんよ。100円分余っちまった」
鼻を伸ばして胸を張る正邪には目もくれず、ぬえはぬいぐるみを輝いた目で見ている。
少ししょぼくれる正邪だったが、すぐにぬえが正邪の腕を掴んで、
「それじゃあプリクラいこ!」

 UFOキャッチャーの残り回数をクマが取りにくい位置に移動するように動かして消化した正邪とぬえはそのままプリクラコーナーに向かった。高校生が入れなくなる時間の一時間ほど前に来たため、何人かが並んではいたがすぐにプリクラの台に入ることが出来た。
「じゃあさっきのお礼にこっちは私が出しとくね」
「いいよ別に」
「いいから」
そういってぬえを押し切り正邪は勝手に200円を入れてしまった。
「もー、これじゃお礼にならないじゃん」
「そんなぬいぐるみすぐ取れるしお礼なんかいいって言ってんじゃんか」
 頬を膨らませるぬえだったが、正邪がその頬の空気を押し潰してしまう。
「ほら早く」
「わかったってば」
正邪は先に入ってしまったので、ぬえが素早く200円を入れて後に続く。

「美白とナチュラルでいいよね」
「わからないから適当でいいよ」
 ぬえが設定している間、正邪は荷物をまとめる。そして撮影のカウントダウンが始まったそのとき。
「はい笑ってー」
 ぬえが後ろから正邪に抱きつく。
「ちょっ、何してんだよ!」
「お礼よお礼ー」
「こんなんお礼じゃねぇよ!」
そうこう言ってる間に1枚目の撮影が終わる。
機械が『次は大人っぽく』などと言っているが、そんな声はもちろん正邪の頭に入らない。
「マジでやめろって」
「いいじゃん、私正邪の彼女でしょ?」
「それとこれとは話が違う!」
正邪がぬえを振り払おうとするが、ぬえは正邪から抱きついて離れない。
「違わないよ、私は彼女だから彼女に抱きつくの。おかしい?」
「おかしくは……ないけどさ……」
「だから合法。はい笑ってー」
 二枚目のシャッターが切られるが、正邪は気が気ではない。
振り払うことだけに集中していると、ぬえが正邪の顎を、自分の方へ向けて。
 そして、時間が、止まった。

 既に月が登り始め、すっかり夜も更けてしまった。
帰り道の電車に揺られながら、二人は横に並んで駅に着くのを座って待っていた。
「今日楽しかったねー」
「……まあまあかな」
「それはよかった」
少しの沈黙の後、ぬえは鞄から教科書を取り出して。
「最近日本史寝てて全然分からないんだよねー」
「あー、私も。源頼政だっけ、鵺を落としたっていう」
「そうそう、弓の名手――だって――」
 弓の名手――?源――?鵺――?
 どこかで聞き覚えのあるその単語から、ぬえの中の何かが呼応するように、奥深くから呼び起こされる。
ぬえの頭に、いつかの記憶が、少しずつ流れ込んでくる。
あいつは京にいて、それで――
私はいつもの通り、とても深い、深い京の闇夜を飛んでいて。そこをあいつに弓で落とされて、それで。
いや、私は人間で、でも昔は人間じゃなくて。
その後、どうなったんだっけ。そこで暴れたけど、私は生かされて――
妖怪、鵺、平安の時代。源頼政。京の都。だから、私は妖怪で――?
人ではなかった時の記憶、人間から畏れられていた時の記憶。
毎日気ままに暮らしていて、人間は私を畏れて近寄らなくて、好き勝手やっていて。
あいつ――?どうして、あいつが源頼政で、私は平安を生きていて――?
違う、私はここにいて、つい十数年前に、生まれたばかりで。それで。
――戻らなきゃ――――
『――え―――ぬえ――』
「大丈夫?」
「あー、うん。ごめんごめん。大丈夫だから」
 ぬえは視線を感じて、頭を少し押さえながら、窓の外を見て。
誰もいなかったはずだけれど、一瞬だけ、誰かと目が合った気がした。
「どうかしたの?」
 正邪が心配そうな顔でこちらを見ているが、ぬえの意識は正邪へ向いていない。
「ううん、何でもないから」
 ぬえの頭の隅には、あるはずのない記憶がぐるぐると渦を巻いていた。
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コメント



0.270簡易評価
6.100南条削除
ところ構わずイチャイチャしおってバカップルめwww
面白かったです
8.100評価する程度の能力削除
今更だけど続編期待