Coolier - 新生・東方創想話

たからものいろいろ

2016/06/06 09:28:42
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 たぶん、普通はゴミとして捨てられてしまう物だ。
 綺麗な石とか、何かのネジとか、ガラスの欠片とかの、色々なガラクタたち。特にお気に入りなのはビー玉。そういうキラキラした物を拾い集めては、少し錆びてザラザラとした手触りになったクッキーの空き缶に、大切に仕舞ってある。別に何かに使う当てがあるわけでもなく、たまに缶の蓋を開けて中身を眺め、うへへと笑うだけ。
 お空の、宝物。
 お燐には「そんなもの集めてどうすんのよ」なんて言われるけれど、そう言うお燐だって、毎日せっせと猫車を押して遠くまで出掛けている。今日だって朝早くから元気良く飛び出していった。


「あっ、綺麗っ」
 洞穴の近くには、ゴオゴオと物凄い音を立てて風が吹き抜けている。お空は下に光る物を見付けて、翼を畳んで飛び降りた。濡羽色の髪が、本物の翼とは入れ違いに翼のように広がって、着地に少し遅れてバサッと落ちる。
 地霊殿周辺の地面は乾いているが、この辺りは湿っぽいようだ。水分を含んだ黒っぽい土の地面。その上に、キラリと光る物がある。
「……ふわぁ」
 思わず、溜め息が零れる。
 光る物の正体は、指輪だった。シンプルなデザインの白金のリング。よく思い描くような、大粒の宝石が乗っているようなものではないにしても、これは本当に宝物。

 ……………………

 あれ? 声?
 こてんと傾げた首を、そのまま巡らす。

 …………それ、私の。

 聴こえた。確かに。
 蚊の鳴くような声と言われそうな、本当に小さい声だった。
「それっ、私のだから!」
「にゅへっ!?」
 存外、すぐ近くにいた。
 ちょうど地面の落ち窪んだ所にいたから、背丈の高いお空の目線からは死角になっていたのだった。
「うん、ごめんね」
 とりあえず謝るお空。
 小さな声の主は、ツインテールが可愛い小さな女の子だった。その子は体躯だけでなく、なんだか仕草まで小動物的で、桶の中から這い出すように出した体を目いっぱいに使って、お空に取られまいと必死に指輪を隠している。
「だいじょうぶよ。取らないわ」
「……私が先に見付けたんだもん」
「ええ、うん。分かってるわよ。安心して」
 本当は、指輪が欲しかった。でも、こういう時にどうしたら良いかぐらいは知っている。それに、惜しいと言えば惜しいのだけど、お姉さんぶるのと引き換えになら、悪くないような気もするのだ。
 お空はしゃがんで目線を合わせると、その子が安心するように何度も言い聞かせた。その甲斐もあって、しばらくすると警戒を解いてくれた。その子はキスメという子で、二人は友達になった。

 ──だって、この子は……


「ねぇ、見て見て。綺麗でしょう?」
 弾んだ声で言って、お空はポケットから取り出した王冠をキスメに自慢する。この日に見付けたのは指輪だけではないのだ。ちなみに王冠とは、要するにあれのこと、ビール瓶等の蓋で、王冠栓と言う。
 キスメは桶から顔を覗かせて、お空の手の中をじっと見ている。少しすると、引っ込んだ。
 こういう性格の子らしい。駄菓子を買えるくらいのお小遣いは貰っているから、通りまで連れて行こうと思ったのだけれど、混雑が駄目なようで、結局、誰も通らないような物陰に、お空は腰を下ろしている。
 指輪はキスメの桶の中には入らなかったから、お空が背負って運んで、近くに置いてある。
「私ね、キラキラしたものが好きなの」
 キスメの反応が、聞いているのか聞いていないのか分からないものだとしても、そもそもお空は言葉のコミュニケーションなんて必要としていなくて、無口なキスメの僅かな変化から返事を読み取ることもお手の物だった。キスメの態度は臆病な小動物を思わせた。
「クッキーの缶に仕舞って、たくさん集めてるのよ。今度、それも見せてあげるわ」
 実はその缶は、ちょっと歪んでしまっているせいで、開け方にはコツがいるのだとか、そんなことを。
 喜々として、無邪気に。
 上気した頬は赤らみを帯びて。
 頭の後ろで結った髪を振り乱しながら、少し大げさな身振り手振りを交えて熱っぽく語る。
 もうすっかり、お空は出会ったばかりの女の子と打ち解け合って、あけすけな笑顔を振り撒いていた。宝物の話ができるのが嬉しかった。
「……赤いの、好き」
 ぽつりと、キスメ。
「ふ~ん、赤いのねぇ」
 うんうん、分かる分かると、お空。

 それから。

 随分と長い時間、話し込んでいた。
「私、そろそろ帰らなきゃ」
 お空はぴょんと立ち上がると、スカートの後ろをぽんぽんと叩いて土埃を払い落した。
「またね」
 お別れの挨拶。
 また今度会う約束もした。その時は、お互いの宝物を寄せ合って見せっこする。今から楽しみで、わくわくした。
「またね……ん、キスメ?」
 キスメが桶の中に引っ込んでしまったので、お空は様子を窺う。
 しばらく考える風に桶の中に潜っていたキスメは、おもむろに指輪をずずずっと引き摺って引き寄せると、その、指輪の付いた部分をちぎちぎと引きちぎって、お空の方に差し出した。
「うにゅ?」
 お空は一瞬、きょとんとしてしまった。
「……あげる」
「えっ……良いの?」
「……うん、あげる」
 こくんと、キスメは頷いた。
 キスメがそう言ってくれたことが指輪以上に嬉しくて、お空は胸がいっぱいになった。
「ありがとうっ」
 お空の笑顔が眩しいという風にキスメは目線を下げてしまったけれど、俯いたその顔は、照れているようにはにかんでいた。




 家に帰ったお空は、さっそく宝物を宝箱に仕舞う。
 するとそこに、ちょうどお燐も帰ってきた。今日もお燐は、猫車いっぱいに死体を乗せている。この後、燃料用の良いやつと悪いやつ、観賞用、工作用、焼却炉行きのダメなやつと、色々に仕分けされる。そうしている時のお燐の顔はだらしなく緩んでいて、とても楽しそう。死体が、お燐の宝物だ。

「……ん? “手首”じゃないか。それ、どうしたんだい?」
 お燐は怪訝そうに言う。お空が死体を拾って来ることは珍しい。
「えへへっ、お友達ができたの」
 と、答えになっていないようで、でも相手の察しさえ良ければちゃんと答えているような微妙な返事。

 指輪は、指に嵌まっていた。
 当然、手首の先にはあるべき全身もあったのだが、キスメが手首から先を引きちぎって、お空に渡してくれたのだった。
 Tシャツとジーンズという活発そうな服装をした若い女性だった。普通に地獄に堕ちてくる罪人とは様子が違うから、別ルートだと思われた。おおかた、興味本位で古井戸でも覗き込んだのだろう。井戸とかの穴は、どこだか分からない場所に繋がっていることがあるから、よく気を付けないといけないのに。
 その人の表情は恐怖と苦痛に彩られていて、その首はきっかり180度回っていた。万力のような強い力で絞められたものと思われるが、手首の関節を外して引きちぎる程度の腕力があれば、首を捻って折り、縊り殺すことも容易だろう。
 キスメの宝物は、人間の首。
 まあるくて真っ赤なコレクションは、特に、苦悶の色が濃ければ濃いほど上等な物なのだと、キスメは嬉しそうに話してくれた。

 あやうくお空がキスメの宝物を横取りしてしまいそうになった時、キスメは、自分の獲物だと言う風に必死に死体を守っていた。その姿、その臭いに、お空は気付いたのだ。
 この子とは、きっと仲良くなれる。

 ──だって、この子は、お燐に似た臭いがするから。

 キスメからは、お燐に似た臭いが漂ってきた。それは、お燐のそれから硫黄の臭いと肉の焼け焦げた異臭を取り除いて、代わりに、湿った澱みの底で饐え腐った異臭を足したような、新旧の入り混じった血臭だった。


 なんかこう、ヘッドロック? みたいな感じで、グキッと。
珈琲味のお湯
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コメント



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4.100名前が無い程度の能力削除
皆とっても妖怪ですね
いいですねこういうの
11.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり人外だなぁ。特に地底のキャラは
12.90ばかのひ削除
とても良かったです