Coolier - 新生・東方創想話

静葉の日

2016/04/28 23:36:00
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いくら月日が過ぎようと、この日だけは特別だ。


私は青々と空に手を伸ばす樹木の影に入り、すべすべとした幹に己のからだを預ける。

ちょうどよく地面がくぼんでいる。

私は「彼」に抱かれるような格好で座り込んだ。

両手を合わせ、開く。

現れたのは本だ。一冊の古書。本物ではない。かといって、偽物でもない。

これは想い出だ。私の持つ宝物。私の想いなのだから、私の視た歴史でしかないのだから、そこに真実は無い。

ここにあるのはただ一遍、私の語る物語だ。

私は頁をめくる。数多の人間との出会いがあった。

皆、生きていた。懸命に生きていた。

懸命に生き、そして、死んでいった。貴人も奴隷も、賢者も愚者も。

百代の過客の通った後に、私は何かを得ただろうか。

最後の頁で、私の手は止まった。

指が頁を撫でる。この文字。毛先の払い一本一本だって、忘れはしない。

私はそっと、そうっと、硝子細工を扱うように一語一語を声に出す。

そうして、胸がじんわりと熱く、切なくなるのを感じて、くすりと笑った。涙がこぼれる。甘くとろとろとした愛しさが溢れ出る。

ああ。ああ。

最早言葉すら無く、心の震えるがままとなっていた私を、誰かが見つめていた。

穣子だった。彼女は呆れたように微笑んで、くっと下を向いた。

次の瞬間、彼女は気障ったらしい笑みを浮かべたまま、静かに私に話しかけてきた。

昔、誰かが何処かでそうしたように。

「かつて故人がその美しさを讃えた宓妃とは、貴方のようなお方なのでしょうね」


そう、これがはじまり。私という物語は、ここから始まった。

だって、

「ちはやぶる――」

神はいつだって、人に恋するものなのだから。

「おめでとう、静葉」

もし、そう呼ぶ日があるとしたら。
今日が、私の誕生日だ。
静葉さんの日なので。
くしなな
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