Coolier - 新生・東方創想話

時差手紙

2016/04/06 00:33:36
最終更新
サイズ
3.74KB
ページ数
1
閲覧数
1085
評価数
4/10
POINT
580
Rate
11.00

分類タグ

拝啓

 お元気ですか、なんてありきたりな言葉で始めてはみるけれど、あなたのことだからきっとそっちでも元気でやっているのでしょうね。私もようやくあなたのいない生活に慣れてきたし、ここで一つ近況報告をしようと筆を持ちました。らしくないなんて笑わないでね、これくらいしかあなたに連絡する手段が思いつかなかったのよ。ちょっとは苦労したんだから、ちゃんと読んでよね。
 さて、こちらはすっかり春になりました。春というかむしろ初夏ね。一気に暑くなってきちゃって、コートなんて着て外に出ちゃったら汗をかくほどよ。そっちにも季節の概念はあるのかしら、サクラは同じサクラなのかしら、秘封倶楽部としてそんなことも知らないままでいるわけにはいかないわ。今度聞かせて頂戴ね。
 そうそう、春になったし私も新生活っていうのを始めてみたの。なんとまあ私も立派な社会の一員ってわけ、びっくりよね。カップルの見る美しい夜景の一部として、毎日馬車馬の如く働いているわ。私の変わり果てた姿をあなたに見せられないのが残念よ。あなたでも私だって気づかないかもね。なんて、冗談よ。私は私のままだわ。それに、あなたなら私がどれだけ変わっても気づいてくれる、そうでしょう?
 長々と書いたって仕方ないからこれくらいにしておくけれど、最後にこれだけ。
 私はちゃんと幸せだわ、だからあなたも幸せにね。
 それじゃあ、またいつか会いましょう。

敬具



***



拝啓

 お手紙ありがとう。まさかこんなサプライズをもらうなんて思っていなかったから、手紙が届いたときはとても驚いたわ。すっかり連絡が遅くなってしまったけれど、お返事を送るわね。
 こっちにもサクラはあるわよ、ちょうど今この手紙を書いているのもサクラの木の下なの。そっちにあるサクラよりずっと大きくて、そして妖艶な咲かないサクラの下でね。でもそうね、季節の概念はあるからいつかこのサクラも咲くのかもしれないわね。その姿を見たいような、見たくないような。ねえ、サクラは咲かなくても十分に美しいと思わない?春の陽気がなくても、花が咲かなくても、春は春、サクラはサクラだと思うの。あなたがあなたで、私が私であるように、ね。
 そっちは新生活?随分とお忙しそうで大変ね。私はのんびりきままなスローライフを送っているわ。寝て、起きて、また寝て、時々神社でお酒を飲んだりして…時間はゆったりとしていて、いつ過ぎてしまったのかも曖昧な、心地よい毎日を過ごしているわ。毎日大変な社会人様とは違って、こっちは楽なものよ。ご愁傷様!
 まあでも、これだけ何にもないとあなたと過ごした忙しい日々をよく思い出すわ。また時々、こうして手紙を頂戴よ。それとも忙しい社会人様には、そんな時間ないのかしらね?
 さて、最後になったけれど、私も幸せよ。気の合う仲間もできたし、さっきも書いた通り、理想の生活を送っているし。そっちのことが酷く恋しくなることもあるけれど、思い出として私の中にずっと残っているし。どこへいっても、どんなに変わっても、私もあなたも秘封倶楽部。それだけは何があっても変わらないわ。
 あなたもその後の人生、幸せに生きてね。それだけが、私の今唯一の望み。
 それじゃあ、またきっといつか、あなたに会いに行くわ。

敬具



***



 長い間放置されていたのだろうボロボロの手紙を大事そうに抱え、一人の女性が真新しい便箋をポストに投函していた。サクラに囲まれたそのポストは、手の中の手紙と同じく随分と年期が入っており、長い間〝忘れ去られていた〟ことが伺える。
 彼女は、たった一通の手紙を出すためだけにこのポストを探し当てたのだろう。
 そしてこのポストはこのたった一通の手紙だけを守って、ずっとここに立っていたのだろう。
 誰しもに忘れられ、この手紙を書いた本人でさえ忘れてしまうまで、ずっと守ってくれたのだろう。
 きっとそれはこちらの一瞬、しかしあちらの千代。その時間に女性は静かに目を閉じて、そっと思いを馳せた。

「ありがとう。ちゃんと届いたわ。」

 新しい手紙を投函し終えた女性はそっとポストを撫でると、黒い隙間へと消えていった。


 その手紙がまた人々の記憶から消えたのは、一瞬であり、千代の時間が経った、未来の話。










〝あーもうやっと見つけた!こんなところにポストがあるなんて誰が分かるっていうのよ。まあ、知られてたら困るんだけど。…これでよし、後は届くのを待つだけね!全く、明日も仕事だっていうのに、早く帰って寝なきゃまた遅刻しちゃうわ。…って、え?これって…まさか、返事?〟
人からもらった手紙はどんなものでもとっておいてしまうタイプの人間です。
昨日引き出しをあけると中学時代に授業中にもらった手紙が出てきました。
可愛らしいメモ用紙に一言、「授業中ゆらゆら揺れるのやめてくれない?」と書いてありました、大変申し訳ありませんでした。

閲覧ありがとうございます、精進していきます。
珠理
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.230簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
良いと思います。想像が掻き立てられますね。
3.70名前が無い程度の能力削除
マーベラス
4.80奇声を発する程度の能力削除
良いですね
5.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい