Coolier - 新生・東方創想話

にゃんにゃんぱらだいす

2016/03/26 12:34:11
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1.
 青娥娘々は邪仙である。そのことは既に幻想郷の多くの住人にとって周知の事実であるのだが、では邪仙とは何なのかと問われた時にはっきりとした返答を返せる者は少ない。大抵の者は青娥が使役しているキョンシーを槍玉に挙げて死者を操るなんて冒涜的だなどと寺子屋の教師が道徳の授業で生徒に眠りに誘っていそうな類の講釈を垂れてお茶を濁す。
 青娥にはそれが不満だった。青娥は芳香を大切にしていると少なくとも自分では信じていたし、芳香を盾代わりに使うことはあるとしても後でちゃんと直してあげている。青娥は自分が邪悪であると謗られることには何の抵抗も無かったが自分と芳香の関係を悪し様に言われるのは少しだけ不快だった。そもそも、普通の人間は死んだら土に埋められたり、燃やされたりする。その扱いはまさしく生ゴミに対するそれであり、肉体を美しい状態で保存する行為が冒涜的ならゴミのように死体を捨てる行為は一体何なのか、と。
 そんなことを考えながら目の前に転がる血塗れの肉塊を見下ろしていると背後に人の気配を感じた。青娥はゆっくりと、名残惜しそうに肉塊から視線を離し、振り向いた。
「これは青娥殿、しばらく振りであるな。こんな処で何をしておられるのかな?」
 物部布都が首を傾げて青娥に問いかけてきた。
「布都様こそ、どうしてこんな貧民区域なんかに」
「青娥殿に会えるかと思ってな」
「はい?」
「散歩していたら風に流されて独特な香りが漂ってきてな。青娥殿の香りかもしれんと匂いを辿ってきたのだ」
「布都様は犬ですか。というか私、そんなきつい体臭してます?」
「死臭だよ、し・しゅ・う」
 布都は鼻の頭に人差し指をトントンと当てた。
「ああ成程。ってそれは私じゃなくて芳香の臭いでしょう」
「そうだったな、よく一緒にいるものだから勘違いしていた。まあこうして実際会えたことだし結果おーらいというやつだな」
 布都の浮かべている薄ら笑いに青娥は鼻白んだ。今までの発言が全て青娥を揶揄するための嘘だったのではないか。彼女の含みのある表情を見ているとつい疑いたくなってくる。
「時に青娥殿、先程より気になっていたのだがそこの死体は何だ?」
「あらあら、布都様ったらひどいわ。芳香のことが分からないなんて」
 布都は膝をついて肉塊と化した芳香の姿をまじまじと覗き込む。そして何を思ったのか地面に散乱した腸を手に取ってそれが本来あるべき場所、芳香のばっくりと裂けたお腹の中に押し込もうとした。
「こんな状態で分かるものか。原形を留めておらんではないか。どこぞの妖怪にでもやられたのか?」
「いいえ、里の人間ですよ」
「刃物の傷に殴打痕、確かに人間にやられたようだな。芳香殿が唯の里の人間に負けるとも思えんが……」
「あの男、結局最後まで何が言いたいのか要領を得ませんでしたけど芳香に恨みがあるようでしたわ。まるで親でも殺されたかのような剣幕で」
「殺したのか?」
「ただの比喩ですよ。心の優しい芳香がそんなことする訳ないでしょう? でも万が一、私の命令の遂行する上で障害物を排除するということはありえますからね。芳香に反撃を禁止して男の気の済むようにしてあげたんです」
 青娥も布都の隣に座り込み、芳香の潰れた柘榴のような頭部を人差し指でつついた。
「そしたらまるで親の仇みたいに手酷く芳香を虐めて。ああ、可哀想な芳香ちゃん」
「殺したのか?」
「ただの比喩ですよ。心の優しい芳香がそんなことする訳ないでしょう? 私は芳香ちゃんを信じます」
 青娥は心外そうに眉をひそめて続ける。
「でもあの男も最後には泣きながら逃げていきましたわ。さぞやいいストレス解消になったことでしょうねえ」
 布都は馬鹿にするように鼻を鳴らすと、芳香のはらわたから手を放して立ち上がった。
「自力で復活できないのか?」
「これだけ損傷が激しいと私が直接直してあげる必要がありますね。それも修復に数時間はかかりそう」
「では芳香殿を連れて久方振りに我等の処で夕餉でも食していかんか?」
「今日は色々と忙しいので遠慮しておきますわ」
 青娥はやんわりと断った。しかし発言してすぐに後悔した、安易に遠慮などという曖昧な表現を使うべきではなかったと。
「遠慮は無用だ、我等と青娥殿の仲ではないか。太子様も心配しておったぞ、たまには顔を見せるとよい」
 案の定遠慮という言葉だけ自分の都合のいいよう切り取って布都が青娥に手を差し伸べてくる。どうせ何を言っても連れていかれることになるのだろう。青娥は諦めて一つため息をつきその手を借りて立ち上がった。手と手が触れる瞬間にべとついた感触が掌に広がる。何かと思って掌を開いてみるとその正体は布都の手に付着していた芳香の血液だった。
「しばし待たれよ」
 そう青娥に告げた布都は前方の地面に数枚の呪符を撒き、呪文らしき文言を短く呟いた。すると、札の直上の空間が捻じれだす。周囲に見物人がいたならばその空間が異常な光の屈折によって虹を放っているように見えたことだろう。今日は今にも泣きだしそうな雨雲が空一面に広がり太陽を負い隠していたため辺りは薄暗く、光は鮮やかに周囲を照らす。じきに虹のような光は消え去り、仙界への扉が開かれた。
「お見事、成長されましたわね」
 青娥が布都に賞賛の言葉を贈ると布都は不機嫌そうなしかめ面をしてみせる。だがその口の端が抑えきれず僅かに緩んでいるのを見て青娥は微笑ましく思った。
「まあ我ももう一人前の仙人であるからな。これ位はできて当然だ」
 布都は不自然に抑揚を抑えた声で言ってそそくさと仙界への扉をくぐっていった。扉の前には青娥とぐちゃぐちゃの芳香とが二人ぼっちで残される。青娥は芳香の身体を中身がこぼれないように慎重に持ち上げて背負った。耳元の芳香の口からかすかに呻き声が漏れてくる。芳香はどれだけ身体を壊されようが脳に著しい損傷が与えられない限りは意識を失うことはない。仙術と呪符を行使して腐った脳の働きを無理矢理復元する、それがキョンシーの駆動原理なのだ。
「豊聡耳様とご飯を食べて少しお話したら直してあげるからそれまで良い子にしてるのよ、芳香」
 青娥は肩にもたれた芳香の頭部に語りかけ、仙界への扉を跨いだ。全身を同時に色々な方向に引っ張られるような独特な感覚に見舞われた後、青娥と芳香の肉塊は神子たちの住まう仙界へと移動した。
 飛鳥時代風の屋敷が目の前に現れる。砂利と石畳が敷き詰められた地面に、区画で区切られて所々草木が点在しており、仙界たる空間の外周には塀が設けられていてその先には色のない空が壁紙のように張り付いていた。
 青娥は中途半端な懐古主義と機能主義が混在するこの空間が苦手だった。というより、仙人の作る仙界というものそのものが嫌いだった。だから青娥自身はあまり仙界を利用しない。自分の創造した世界に端が、自分がすり抜けられない壁が存在することがたまらなく嫌だった。
「屋敷の傍に青娥殿のために建てた離れがある。そこに芳香殿を置いた後、風呂にでも使って身体の血を洗い流してくるとよい。終わった頃には夕餉の準備もできておろう。案内するのでついてまいれ」
 青娥を待ち構えていた布都は青娥に背を向け足早に歩き出した。青娥はその後を追って歩き出したが、芳香を背負いながらの分歩調は遅く、青娥と布都の距離は徐々に離れていく。布都はそのことに気づく様子もなくどんどん先へ進んでいった。二馬身ほど距離が開いたところで青娥は布都を呼び止めた。
「布都様、もう少しゆっくり歩いてください」
「ん? おお、すまんすまん」
 首だけ振り向いて布都は立ち止る。青娥が追いつくと今度は横に並んで歩きだした。
「そうやっておんぶしているとまるで親子みたいだな」
 布都が笑顔で言った。青娥が首を捻ると芳香の割れた頭から前頭葉が顔をのぞかせているのが目に入った。
「もうずっと一緒にいるんですもの、家族みたいなものかもしれないですね」
 青娥の言葉に布都の顔から表情が消えた。
「意外だな、お主にとってそれは唯の道具ではないのか」
「え?」
「芳香殿は魂の抜けた唯の抜け殻ではないのか?」
「…………」
 青娥は押し黙る。その沈黙を布都はあっさりと破った。
「着いたぞ、青娥殿。どうだ、中々立派な作りだろう。霊廟にあったお主の研究用の部屋の書物は全てこちらに移しておいた。では我は修業があるのでこれで失礼するぞ」
 目の前の建物を指差しながら言うと布都は小走りで離れていった。

2.
「それで、何か御用ですか?」
 神子との会食の場、一通り料理に手を付けたところで青娥は神子に尋ねた。
「ん、用など何も無いですよ?」
「豊聡耳様が私のことを心配しておられると布都様に伺ったのですが」
 青娥の言葉に神子は目を細めた。その反応の意味が図りかねて青娥は首を傾げる。
「いや、布都らしいなと思ってね。私は青娥のことは何も心配してない、布都に青娥の話も出していない。貴女が困る所なんて想像もつかないですから。心配しているのは私じゃなくて布都。私の話を出したのは布都なりの照れ隠しでしょうね」
 青娥は頭の中に恥じらう布都の姿を思い浮かべようとしてみた。だが現れるのは不敵な笑みを浮かべた自慢げな顔とか無表情で相手を見下すような目を向けた顔とか顔全体で疑問符を浮かべたようなしかめ面とかろくでもないものばかりだった。
「布都様が照れ隠し? まさか」
 青娥が答えると神子は声を上げて笑った。
「ふふ、貴女が布都のことをどんな目で見ているか大体分かりましたよ、布都が普段どんな風に貴女に接しているのかもね」
 青娥はこれ以上その話題で会話を続けたくなくなったので、目の前の料理に次々に手を出していった。節制を旨とする仏教徒とは違い魚類や鹿肉などをふんだんに使った豪勢な料理。ただどこぞの桃色仙人とは違い青娥は食事にはあまり関心が無い。その場では美味しいと思っても食べ終わった瞬間、青娥の頭の中から食事に関する記憶は消去されてしまう。以前にまともな食事を摂ったのがいつだったかと考えてはみたものの全く思い出せなかった。
「それにしても屠自古様の料理は美味しいですね」
 だからこの発言も取り敢えず料理の感想でも言っておけば話が逸れていくだろうというそれだけのものだった。
「彼女は昔から料理が上手だったけど、私たちが復活してからは特に熱心に厨房に入り浸っているよ。きっと料理を食べさせる相手がいることが嬉しいんでしょう」
 神子はそう言ってから緩んでいた表情を引き締め、話題を切り替えた。
「それはそうと、仙界に来てからの貴女と布都の話を聞かせて貰いました。布都が失礼なことを言ったようで申し訳ありませんでした。別に何か含みがあるという訳では無くて、純粋に魂の無い芳香に人間としての思考が残されているのか疑問だっただけでしょう。あまり悪く思わないでやってください」
「別に気にしていませんよ、その位」
 青娥は自分用に出された杯を一気に空にすると立ち上がった。常人なら一口で泥酔状態になるような強い酒だが仙人はその程度では倒れない。
「ご馳走様でした」
「そういえば布都と貴女の話を耳にしている時に思い出したんですが、貴女は仙人となった父親に憧れて仙人になったと言っていたね」
「はい」
「仙人になって父親に会うと誓ったとも聞いた。だが、その後父親に関する話は一切無かった。貴女は結局父親に会えたんですか?」
 青娥は満面の笑顔でこう返した。
「ええ、会えましたわ」

 青娥が去って少し経ってから神子は声を発した。
「布都、いますか?」
「は、ここに」
 布都は返事と共に戸を開けて室内に入ってきた。
「先程の話、聞いていましたか?」
「はい」
「青娥に言った通り、君の芳香に関する発言は少し無遠慮過ぎたと思いますよ。率直さは美徳ではありますが矛先を誤れば刃にもなるのです」
「申し訳ありませぬ。しかし私には芳香殿がどういった存在であるのかどうしても掴みきれないのです。太子様から見て、芳香殿に心はあるのですか」
 神子は笏を口元に当てて瞑目する。
「分からない」
 布都は神子の言葉に狼狽した。神子からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったからだ。
「太子様の能力を用いれば分かる筈では……」
「人間はある意味で非常に精緻なからくりです。何かを手に持つというごく単純な動作でさえ、指先、手首、肘、肩などにある各種関節、筋肉が関わってくる。そしてそれら全てに適切な指令を一瞬で下しているのが脳です。その機能は頭のお札に書かれている単純な指令では代替できる筈もない。つまり芳香の脳は腐っていても仙術と呪符によって無理矢理ある程度の機能が保持されている。だから私には彼女の欲の声が確かに聞こえます。お腹が減った、眠い、そんな極めて原始的で単純な欲求。加えて身体を動かすために必要な指令を送るだけの意思。それを心と呼ぶなら彼女には心がある。でも私には彼女からそれ以上のもの、感情と呼べる水準の欲を感じ取ることができないのです」
「つまり、芳香殿への青娥殿の思いは完全に一方通行ということですかな?」
「どうでしょうかね。彼女には最低限の欲が残されている。ならば普段はそれだけでも、何らかの拍子に感情が蘇えることが有り得ないとは言えない」
 布都は更に神子に問いかける。
「青娥殿が芳香殿に拘る理由は何なのでしょうか。彼女程の仙人ならキョンシーなど容易に作れる筈、使い捨てにした方が効率的なのでは」
「いいですか、布都。どんな人間も本当の意味で何にも頼らず生きていくことはできません。何かしらの拠り所が必要なのです。私にとっての布都と屠自古が、青娥にとってはきっと芳香だったのでしょう」
「しかし、もし芳香殿が空っぽの存在であったら……」
「彼女は拠り所を失うかもしれませんね」
 布都は顎に手を当てて熟考する。神子の思考を邪魔しないよう黙って待った。それから数十秒考えてから布都は口を開いた。
「……ならば我等が青娥殿の拠り所となれたら良いですな」
 布都の言葉に、神子は一瞬目を見開く。だがすぐに平静さを取り戻し、神子は右手を伸ばして布都の頭を軽く撫でる。布都はくすぐったそうに軽く身体を縮こまらせたが逃げようとはしなかった。
「そうですね」
 頭を撫でられている布都にはそう返した神子の瞳に浮かんだ憂いの色は見えなかった。

3.
 青娥は思う。肉親の情とは不思議なものだ。血の繋がりなどとよく表現されるが、実際には人間の設計図とでも呼ぶべきものが父親と母親から半分づつ受け継がれる遺伝という現象が血の繋がりの正体らしい。一度産まれてしまえば親と子を繋ぐものなど実在しない。母子の絆は臍帯、いわゆるへその緒が切られるまでのもので産まれた時点で子と親は断絶される。父親に至っては最初から繋がってすらいない。そんな絆を人は後生大事に抱え続ける。
 だから肉親の情が下らないなどと断じるつもりは青娥にはない。繋がりが実在しないからこそ血の繋がりは他の何でも代替し得ないかげがえのない絆なのだ。
 青娥は目の前で仰向けになった芳香に対する施術の準備をしていた。芳香は長机を即席の施術台として寝かせておいた。動かせない身体に飽きたのか芳香は眠っているようだった。キョンシーの修理において一番大事な道具は糸。青娥は糸を通すための針を懐から取り出した。針穴の部分には呪符が巻いてある。キョンシーは高い再生能力、正確には復元能力を有しているので、糸で傷口を縫い合わせてしまえば勝手に傷は消えていく。ただし、その際に注意しないといけないことは糸が異物と認識され、復元の途中で排除されることだ。
 青娥は自分の左腕の二の腕辺りに針を突き刺した。鋭い痛みに一瞬身体が硬直した後、すぐに針を傾けて自分の体の外に向けて突き出した。針の先に持ち手を移してそのまま引き抜く。すると血で塗れた針の根元、針穴の部分に赤く細い糸が通っている。その糸は青娥の傷口と針を繋いでいた。青娥は針を芳香の割れた頭部に刺しては抜き、刺しては抜きを繰り返して傷口を縫い合わせ始めた。針を進めるに従い青娥の傷口の糸も伸びていく。先述の理由で糸は人体の組織から生成されたものでなくてはならない。と同時に、芳香の組織から糸を生成しようにも彼女自身の復元能力が邪魔してできない。だから他者の生体組織から作られた糸が必要になる。
「待っててね、芳香ちゃん」
 初めて自分の身体を材料に使った時には糸を生成する際の激痛に一日がかりで休み休み直していったものだが、今ではその痛みにも慣れ、淀みなく針を通していける。本当は新鮮な死体を用意して糸の材料にする方がずっと楽なのだが、自分の身体を使うのが青娥なりのこだわりだった。青娥は鼻歌交じりに芳香の傷口を糸で結んでいった。

 施術開始から半刻ほど経った頃、裂けた腹から覗く内臓を修復し、飛び出た部分を正しく収納して腹を塞いでやれば修理は完了といった所だった。
「せーが」
 青娥の目の前の肉塊が声を発した。
「あら芳香、起きたのね」
「くそう、身体が動かん。せーがの言いつけを守らねばならんのに」
 青娥は芳香を強く抱き締めた。まだ縫い合わせていない芳香の傷口が開き、どろりと血液が溢れだして青娥の服を赤く染め上げる。
「いいのよ芳香。修理が終わったらまた私の為に働いてね」
 青娥の言葉に、身体を起こそうとじたばたしていた芳香の全身が弛緩した。青娥は芳香の腹に空いた赤黒い穴に手を突っ込み、臓器の元の形状を意識しながら糸を通していった。芳香にとって痛覚はほとんど無いに等しい。それでも腹の中の掻き回されるのには異物感を感じるようで青娥が手を動かす度に身体がビクンビクンと痙攣している。そんな芳香を見て青娥は可愛いと思った。芳香の口が開いたり閉じたりして呼気が漏れているのに気づき、青娥は芳香が何か声を発しようとしているのを悟る。青娥は一旦手を止めると、予想通り芳香が声を発した。
「なあ、せーがよ。私の中には何がつまっている?」
「どうしたの、急に変な質問なんかして」
 芳香は虚ろな瞳で天井を見つめている。
「あいつが、えーっと、だれだっけ、そうだ、布都だ。布都が言っていた。私はぬけがらだと。私がぬけがらだというならば、この身体の中に残されたものは一体何だ?」
「キョンシーとは精神を司る陽の気である魂と肉体を司る陰の気である魄の内、魂が抜け出て魄だけが残された状態とされているのよ」
「……」
 青娥の教科書的回答に対する反応はなかった。おそらく何も理解できていないのだろう、青娥はそれ以上言葉を重ねることはせずに作業に戻る。おおよその修復が終わったため、内臓を元通りに詰め直していく。手で腸を掻き分け、その最奥を覗くと肉塊の中から目玉が浮かび上がってきた。目玉はせわしなくその瞳を動かし、青娥の視線と交わったところでぴたりと静止する。青娥はその深い水底に横たわっているような黒色に吸い込まれるような感覚に襲われ……。
「せーが、どうかしたのか」
 芳香の言葉で青娥は我に返った。目玉などどこにもなかった。あるのはただの内臓と血と肉、それに骨だけ。青娥は自分に言い聞かせるように芳香に返事を返した。
「何でもないわ」
 そう、何も無かったのだ。
 
「ふっかーつ!」
 縫合が終わった芳香が勢いよく立ち上がって叫んだ。青娥はパチパチと拍手する。
「これで命令を遂行でき……、あれ? 私は何を命令されていたんだっけ」
「そろそろ頭のお札の効力が弱まってるのかしら。後でお札は交換してあげるけど、とりあえず今は私の護衛をお願いしようかしら」
「了解した」
「じゃあこの不愉快な空間から早く出ちゃいましょう」
 青娥は布都に連れてこられた時に使った扉の辺りへ向かって歩き出す。傷が直りきってない影響か後を追う芳香の歩調は少したどたどしかった。芳香に合わせて青娥は少し歩調を緩める。
「おい邪仙」
 そう青娥を呼び止める声が聞こえてきた。
「屠自古様、こんな時間にお散歩ですか?」
「ここから出ていくのか?」
 屠自古は青娥を睨めつけながら聞いてくる。といっても特別怒っている訳ではないだろうと青娥は理解している。屠自古は青娥のことを毛嫌いしているらしくいつもそんな感じなのだから。
「屠自古様が寂しいと仰るのでしたらいつまでもお傍にいますよ」
 屠自古は青娥の冗談に顔を歪めて不快感をあらわにした。
「とっとと失せろ、太子様に厄介事を持ち込む前にな。だがその前にお前に一つ質問がある」
「何ですか?」
「神霊廟にあったお前の研究用の書物を一通り確認した。太子様と布都が眠りに就いてから随分と長いこと尸解について調べていたようだが、一体何を研究していた?」
「何か起きた時のため、万全のアフターケアを期すのは当然のことですわ」
 青娥はそう言うと手に持った呪符を前方に突き出した。呪符が宙に張り付き、仙界に来た時の扉が出現する。
「待て、お前一体何を企んでる?」
「貴女達を害するようなことは何も」
 屠自古は青娥を引き留めようと手を伸ばした。が、青娥はその手をすり抜けるように扉の向こうに消えていった。芳香も後に続き、閉ざされた扉の前に屠自古だけが残される。
「馬鹿野郎が」
 屠自古は宙を掴んだ手を握りしめ、独り呟いた。

4.
 雨が降っていた。身体を一瞬でずぶ濡れにする土砂降りでもなく、かといって心地良い霧雨でもないごく普通の小雨。無数の雨粒が青娥の身体に降りかかる。芳香は敵から青娥を守ってくれるが雨からは守ってくれない。
「雨宿りできる場所を探さなきゃね、芳香」
 芳香はぽかんと口を開けて空を見上げている。その口の中に雨粒が入る度に反射的に口が閉じられ、また少し経つと口が開いて、という動作を繰り返している。
「この間泊まった家がこの辺にあったかしら」
 青娥は記憶を頼りにその家に向かって歩く。戻ってきた通りを出て東側の通りにあったはずだ。その家はだいぶ前から空き家になっており、青娥は時々その家に泊まらせて貰っていた。何でも行方不明になった家主の悪霊が出ると噂になって放置されているのだとか。青娥は悪霊の存在を感じたことはない。噂に便乗して人間を驚かそうとする妖精なら住み着いていたのだが。
 突き当たりの路地を右に曲がって家のある通りに入り、家の前まで来た青娥に傘を差して近づいてくる人影があった。着物を見るに女性のようで、その彼女のお腹は異物を腹に入れたかのように丸く膨らんでいた。どうやら身重らしいと青娥は思った。
「あなたを探していたの、仙人さん」
 女は傘から顔を覗かせて青娥に言った。目に深いクマができており、瞳はぎょろぎょろと忙しなくあちこちを動いていて定まらない。傘を強く握りしめ過ぎて傘を持つ手から赤味が抜けている。女が精神的に不安定であることは明らかだった。
「どうしてここを?」
 青娥は柔和な表情を作って尋ねた。
「あなたを探しているうちに夜中にこの家に入るあなたの姿を見たっていう人に会ったの。それからは毎晩この辺りで見張っていた」
「何故私を探していましたの?」
「あなた、私を覚えていない?」
 青娥は女の顔を見つめてみる。しかし覚えはなかった。
「あなたから子供を授かれるようになる薬を買ったの」
 その話を聞いて青娥は思い出した。幻想郷に来た当初、青娥は気まぐれで仙人の薬を人間に格安で販売する慈善事業を行っていた。その中に不妊で悩む女性のための薬もあったはずだ。つまり目の前の女は薬の買い手の一人だったのだろう。
「夫の家を追い出されると思って私は必死だった。何か謂れのない罰を受けているような最悪の気分だった。だからあなたの薬を飲んで子供を授かった時は本当に嬉しかった」
「おめでとうございます」
 女は笑顔で祝福の言葉を投げかけた青娥を一瞬睨みつけ、傘を忙しなく揺らす。傘から飛ぶ水飛沫が青娥の頬を打った。
「それからおかしな夢を見るようになったの。夢の中で私は赤ん坊で母親のお腹の中から出てくるの。母親の近くには父親がいて、でもそれは私が全然知らない誰か。私にはこの夢がお腹の中の子が見ている夢だと分かってる。ねえ仙人さん教えて、あなたの薬には何が入っていたの?」
 女は傘から手を放して青娥に掴みかかった。
「私には分かるの! お腹に入っているこれは私と夫の子じゃない! あなた一体私の身体に何を入れたの!?」
 芳香が女の首を片手で掴んで持ち上げて青娥から引き離した。
「芳香、殺しちゃ駄目ですよ。お腹の子供も傷つけないようにね」
「了解した、せーが」
 芳香は女の首を折らない程度に掴み続けた。しばらく女は暴れていたが呼吸ができずにじきに意識を失った。青娥は芳香に命令して入ろうとしていた空き家の中に女を寝かせた。
「お子様をお大事に」
 青娥は呟くと空き家から外に出た。
「芳香」
 青娥は何となく芳香に声を掛けてみた。
「何だ?」
「寒いわ……」
「そうか?」
 青娥は濡れた身体を自分で抱き締めるような仕草をした。芳香はそんな青娥の様子に不思議そうに首を傾げていた。全く今日は厄日だ、あそこに行かなければ、青娥は神子の夢の始まりの場所へと思いを馳せた。そう、尸解の儀の舞台である大祀廟へと。

5.
 命蓮寺の地下にある大祀廟、神子と布都が眠り屠自古が守っていたその場所には彼女たちの知らない青娥だけの秘密の空間が存在している。それは小さな家のような空間だが、家と呼ぶのに必要とされる基本的な要素が失われている。端的に言えば出入り口が無い。夢殿へと続く通路の壁の一画にただ切り取られた空間だけが隠されている。
 青娥は壁に描かれた模様の微妙な不規則性を目印に入り口となる地点を見つけだした。芳香に周囲の見張りを言いつけてから彼女は頭に差してある壁抜けの鑿を抜き、壁に弧を描くよう振るう。鑿の描いた軌跡をなぞるようにして壁に切れ目が入り、円形の切れ目が完成すると同時に円周に吸い込まれるように中心部の壁が消失していった。壁の向こうで暗闇が青娥を待ち構えている。青娥は深呼吸を一回してから壁を跨ぐようにして足を踏み出した。青娥の背後で穴が塞がっていき、生温い熱気を帯びた心地良い闇に包み込まれる。それと同時にこちらに近づいてくる静かな足音が聞こえてきた。
「おかえり、せーが」
 聞き馴染みのある声とともに明かりが灯された。
「たたいま、屠自古様」
 青娥は微笑んで返事をした。
「今食い物を用意してやるから待ってろ」
 彼女はそう言って部屋の奥へ向かっていく。青娥はその背中に喋りかけた。
「食べてきたのでお構いなく」
 反射的に言ってからその発言があらゆる意味において無価値なものであることに気付いた。どうせ出てきた食べ物を口にすることはないし、そもそも彼女に言葉は届かないのだから。彼女は何も聞かない。自分を実験材料のように扱った主の言葉も、自分を裏切って亡霊にした仲間の言葉も、自分に都合の悪い言葉全てを遮断するために耳を塞いでしまったから。
 青娥は台所の手前にある部屋の戸を開けて中に入った。部屋の中までは屠自古の点けた明かりは届ききっておらず中は暗かったが、構わず部屋の奥の壁際まで進んだ。
 キョンシー関連の道具を保管しておくのに使っている小さな棚の引き出しの一つを開いた。中には芳香のお札の効力が切れた時用のスペアが入っている。青娥は中から数枚取り出して懐にしまった。
 続いて、その棚の左隣にある人の背丈ほどの高さはあろうかという大きな衣装棚の引き戸に触れる。そのまま取っ手に手を掛けてゆっくりと引き戸を開いた。
「ただいま、お父さん」
 青娥は中に入っている首から上の無い死体に向かって挨拶をした。父親への挨拶はこの場所を訪れるときの青娥の習慣になっていたが、それでも毎回引き戸を開くたびに父親との再会の場面が想起された。日本より遥かに広い大地を抱く国の山奥、切り立った岩壁の並び立つ山頂付近で、深い深い霧の中を進んでいった先に現れた死体の群れ。それらは岩壁に磔にされて飾られており、どれも首から上が無かった。その中に父親が大事にしていた腕飾りを身に着けた死体があった。霧の向こう側からハリネズミのような針が全身にびっしりと生えた牛の妖怪が現れ、そして……。
「誰だ、せーがか?」
「神子様。どうしましたの? そんな所でうずくまって」
 声の発生源は部屋の隅に座り込んでいた。入ってきたときには暗くて存在に気が付かなかった。青娥が引き戸を閉じるとその音に反応して怯えた小動物のように一層縮こまった。青娥は彼女の目前に腰を下ろす。彼女は自分の手で顔を覆っていた。その指は忙しなく動き、自身の眼に食い込み、引っ掻き、傷つけ、眼球から血の涙が零れだしている。
「あらあら、またそんな風にして」
 青娥は彼女の手を掴んで眼から引き離した。彼女は瞳を固く閉ざして下を向いた。彼女は何も見ない。彼女は自分が政治権力の頂点に立つために築いた屍の山を見ようとしない。ただ彼女の業績への賛辞だけに耳を傾けるために目を潰してしまう。
「せーが、怖い」
「大丈夫ですよ。ここにはあなたが目を覆わなければならないものなんて何もないんですから」
 そう言い残して青娥は神子の元を離れ部屋を出て、反対側の部屋に入った。
「布都様、調子はどうですか?」
 青娥は明かりを点け、中にいる人影に声を掛けた。彼女は碁盤を前にして座り、盤面を静かに見つめていた。青娥も布都の対面に座り、盤面を覗き込む。前ここに来たときに青娥が白石を打った手から布都の黒石一手分だけ進んでいる。
「ふむ、そうきましたか」
 青娥にとって彼女の一手は予想外のものだった。一見活路の無い一手に見えるが彼女は青娥より囲碁が強かったし、何より青娥が来るまでの間ずっと次の一手を考えているのだ。無理に潰しに行っても逆にやり込められるだけだろうと判断して誘いに乗らず別の局面を睨んで白石を置いた。
「布都様、今日外で私が尸解に関して何を研究していたのかと聞かれましたの。悪巧みをしていると疑われてしまったようです。全く心外ですわ、何も邪なことなんて考えていないのに」
 彼女は口元に手を当てて次の一手を考えている。
「私はただ尸解で変化した肉体を元の死体に戻す方法を編み出していただけですのに」
 通常、尸解の法では依代となる物体に魂を宿らせると物体が自分の姿になる代わりに屍は物体へと変化する。だが青娥は神子と布都の屍が、彼女たちの抜け殻が欲しかった。屠自古の屍だけでは意味がなかったから。
「もしかしたら近いうちにこの場所を暴きにやってくるかもしれません。その時は屠自古様と神子様が大きな物音を立てないよう気を付けさせてくださいね。音さえ漏れなければこの場所が見つかることは無いかと思いますので」
 彼女は小さく頷き、彼女の額に張られた呪符が一緒に揺れる。彼女は黒石を握ると次の一手を放った。
「今日は他にも嫌なことがありましたの。頭のおかしな男が芳香ちゃんを苛めたり、頭のおかしな女が妄言を吐いたり、どうしてこう嫌なことは重なるんでしょうね」
 彼女は何も言わない。自分が滅ぼした物部の一族への言葉も、自分が裏切って殺した同志への言葉も、彼女が崇める主君への言葉も、彼女の口から紡がれることは無い。ただ沈黙だけが彼女の世界に対する意思表示だった。
「どうして何も仰って下さらないんですか?」
 青娥の問いに布都は青娥の後方を指差した。彼女の指差す先にあったのはいつだったか豊聡耳様に試作品と言って渡された四猿の置物だった。神子は寿命を延ばすグッズとして販売する予定だと言っていた。左から順に目を塞いだ猿、口を塞いだ猿、耳を塞いだ猿と並び、右端には網を持って笑う猿の人形が佇んでいる。「逃さざる」の猿がまるで自分を嘲笑っているかのように感じて青娥は目を逸らした。布都の碁石を打つ音に反応して盤面に目を戻す。
「どうしたの? 怖い顔して」
「料理できたぞ」
「神子様、屠自古様」
 青娥は彼女たちに囲まれた。お皿が差し出されたので受け取ってみると、皿には腐った肉と腐った野菜の炒め物が載せられていた。料理をしたいという要望を聞き入れて前回来た時に差し入れた食料は当然の如く食べられる状態ではなかった。青娥は皿を脇に置いて近づいてきた二人に両手を差し伸べた。二人はそれぞれ右手と左手を手に取って握りしめる。その手は心なしか暖かく感じられた。
「せーが」
「せーが」
 二人の優しい言葉が聞こえてくる。青娥が碁盤越しに対面するもう一人に目を向けると、彼女は澄んだ瞳で見つめ返してきた。
 そうだ、ここが私の拠り所、私の帰るべき場所なのだと青娥は思った。どれだけ嫌なことがあっても、どれだけ孤独を感じても、彼女たちは全てを洗い流してくれる。彼女たちは全てを受け入れてくれる。
 家族の絆、それはとても美しくかげがえのないものだ。だが同時にそれはとても脆く儚い。かつて青娥はその糸を辿って父親に会いに行った。しかし糸は一介の妖怪によって容易く食い千切られてしまい、辿る道標を失った哀れな仙人だけが独り残された。
 だから青娥は家族の絆よりももっと強固で、朽ちることのない繋がりを求めた。彼女たちとの絆が死によって分かたれることはない。彼女たちはずっと青娥の傍にいてくれる。彼女たちの脳を機能させている仙術が、彼女たちを動かす額に取り付けられた呪符が、身体の腐敗を防ぐ薬液が、私と彼女たちを繋ぐ絆なのだと青娥は感じていた。

 それから少し経って、身体の震えが繋いだ右手を通じて伝わってきたのを感じ取り、青娥は我に返った。
「どうかしましたか、神子様?」
「誰か、外にいる」
 青娥は怪訝に思った。神子復活後の大祀廟は特に封鎖されておらず、入ること自体は可能だ。しかしこんな夜更けにこんな場所に来る人間がいるとは思えなかった。
「その人の様子は分かりますか」
「壁を叩きながらこっちに近づいてきている」
 反響音で壁の向こうが空洞かどうか調べるつもりだと青娥は理解した。相手は明らかにこの空間の存在を知っている。青娥はこの場所のことを誰にも話していない。にも関わらず相手はそれを知っている。そんな相手がいるとすれば……。
「豊聡耳様」
 彼女が屠自古からの報告を受け調査の為にここに来て、青娥たちの出した物音を聞き取りこの空間を察知したという可能性は十分ある。青娥は部屋の入口に当たる箇所に移動し、壁に耳を当てる。続けて瞳を閉じて耳を澄ました。最初は何も聞こえなかったがしばらくそのままでいる内に壁が叩かれる微かな音を耳が拾い上げた。その音は着実に大きくなっていき、足音まで聞こえ始め、そして突然音が止んだ。青娥は壁から耳を放して向こう側に問いかける。
「豊聡耳様ですか?」
「青娥、君はいつまでそんなおままごとを続けるつもりだ?」
「……」
「君にとって彼女らは飽きたら捨てる唯の玩具では無かったのか?」
 押し黙った青娥に向こう側からの声は続ける。
「本当はとっくに分かっているんだろう? 君が心から求めているものはこんな滑稽な人形劇では絶対に得られないってことに。君が作り上げたこの箱庭は君が嫌っている仙界と本質的には何も変わらない」
 青娥は壁抜けの鑿を振るう。青娥と声の主を隔てていた壁が取り払われ、互いに向かい合う。そして目の前の肉塊に笑顔を見せて告げる。
「私はあなたのそういう所が大好きだったわ。でも同じくらいそういう所が大嫌いでもあったのよ」
 青娥は肉塊の頭部に手を伸ばし、頭に張り付けられた古い呪符を剥がした。すると肉塊の身体から糸が切れたように力が抜け、崩れ落ちそうになる。青娥は肉塊を抱き留めた。左手に力を込めて身体を支え、右手で懐から新しい呪符を取り出して肉塊の頭部に張り付ける。
「青娥……。せーが……」
「ねえ、覚えている? 私と初めて会った時のこと。あなたは私に素敵な歌を送ってくれたのよ」
「せーがと? 歌? 何だっけ、思い出せない。頭がぐちゃぐちゃで何も出てこないぞ」
「そう。いいのよ、あなたはそれで」
 青娥は右手も肉塊の身体に回し、両手で華奢な身体を抱き締めた。芳しい香りが青娥の鼻腔をくすぐる。懐かしさすら感じるような甘い腐臭だった。
「いいこ、いいこ。ずっと、そうやって、私だけの可愛いお人形さんでいてね」
 青娥は芳香の耳元に優しく囁きかけた。芳香の首が反射的に小さく縦に振られるのを肌で感じ、青娥は言葉にし難い幸福感に包まれた。
自由奔放な青娥もいいけど、しがらみから逃れることができない青娥もいいよねという発想で書きました。青娥は意外と少女趣味な所が残っていたりすると個人的には嬉しいです。主題が芳香がらみとそれ以外で若干絞り切れなかった印象があるのと、読みやすい文章が書けなかったのが心残りですが、少しでも青娥の可愛らしさが表現できていれば幸いです。
余談ですが最後のシーンはタイトル通り二人称を「にゃんにゃん」にするつもりだったのですが読んでいてギャグにしか見えなかったのと、演出上の都合で「せーが」になりました。
kudan
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
こういう愛を必要とするにゃんにゃんのが好きです