Coolier - 新生・東方創想話

人魚鍋

2016/02/02 03:19:37
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自身の屋台がマンネリ化しているとミスティアは思っていた。
八つ目鰻を色々と料理してきた。川魚もいくつか扱ってきた。串打ち三年、割き五年、焼き一生などと言われる難しい蒲焼きはしかし、百年も掛ければ鳥頭の己でも、里の最高の料理屋をも凌駕する焼き加減ができるようになっている。
それだけ色々を極めたからこそ、ミスティアの屋台といえば幻想郷で最も舌の肥えた連中――殷や天竺、本邦の王をたぶらかした際に、最高権力者にしか味わえぬような山海の珍味を散々味わってきた九尾の狐だとか、あるいは生まれてこの方五百年にもわたって贅沢と豪奢の限りを尽くしてきた吸血鬼の貴族だとか、一度仮死して、墓所の深淵でのみ味わうことができる古の食物を食したような尸解仙だとかにご愛顧いただいているのである。
異変解決の宴の仕出しといえばミスティアに頼む、そういうレベルにまで達した、しかしお値段はりいずなぶる(ミスティアには意味がよくわかっていないが、香霖堂の店主が最近外の本で覚えたらしく、したたかに酔った後に褒め言葉として連呼していたのですっかりミスティアも覚えてしまった)。下は妖精、上は大妖怪まで、皆がやってくる屋台がミスティアの店なのだ。
しかし、困ったことにマンネリである。ここ三年ほど、屋台のメニューには新しいものが並んでいない。何しろ、ミスティアの店は大妖御用達の店である。そうなってしまうと、中々気楽に新規メニューを作るわけにもいかないのであった。
蒲焼きや煮物、和物や羹や鮎飯など、屋台で出す料理の仕込みを一通り終え、ミスティアが考えているところに、奇妙な影がやってきた。薄暗がりのその異様な影――身の丈は8尺、獣のような魚のような、異様この上ない見た目――を見て、ミスティアは戦慄したが、すぐに屋台の提灯で照らされた姿を見て納得した。
狼じみた女性が、下半身が魚の女性を肩車しているのである。なるほど、下半身が魚であれば、陸では負う者がなければそうそう動けるまい。
狼女が魚女を屋台の腰掛けに下ろすと、二人は蒲焼きを二串に白和え、それから銚子を頼んで、飲みながら妖怪の地位向上について打ち始めた。リグルに会わせれば話が合うかもしれないな、とミスティアは少しだけ考えた。
「ええっ、お前、同族を食べるの!?」
狼女がぎょっとしたような叫び声を上げたので、つられてミスティアもそちらを見る。
「いやあね、違うわよ。霧の湖にはもうちょっと下等な人魚がいるの。希少だからめったに口にできないけど、それを食べるのは最高よ」
「ううん……人間が猿を食べるようなもんかねえ。ぞっとしない」
「あんなに美味しいのに。見た目はちょっと人間似の鯰だわ。もっとも、本当に希少なのが辛いわあ。養殖できないかしら」
それを聞いていたミスティアの頭に天啓が走った。





「人魚鍋……?」
魔理沙が久しぶりにミスティアの屋台に飲みに行くと、新しくそんな張り紙があった。人魚鍋一人前が八十銭。屋台にしては少々高いが、それ以上に気になったのはその名前だった。
人魚の鍋である。八百比丘尼の頃から、人魚を食えば不老長寿と美貌、そして魔力が得られるというのは有名な話だ。
不老長寿はまぁ、いい。美貌も自身は十分持っている。だが、三つ目は話が別だ。魔力というものは何よりも魔法使いに必要なものだ。そのために魔法使いは茸や薬草や毒物、宝石や獣の死骸、その他ゾッとするようなものを飲んだり、食ったり、体に巻き付けたり、煎じたり、傷口になすり込んだりする。そのために魔法使いはいずれ不治の病にかかるし、そうでなくても行動の奇矯さは孤独を生む。
だが、そんなものよりもずっと効率的に魔力を得る手段がある。まず妖怪のような強い力を持った存在を食うこと、ついで同族――人間を食うことだ。吸血鬼や人をよく食らう高位の妖怪が強烈な力を持っているのは、とても恐れられているから、というだけではない。魔力の源になる人の血肉をよく食うのだから、もとより強力な魔力に更に磨きがかかるのだ。
もちろん魔理沙は人喰いなど試したことがないし絶対試したくないが、妖怪の方だと、一度歳経たイノシシを鍋にして食べたことがある。それからしばらく、自分の魔力は爆発的に上がった。あのレーザーの出力たるや。
「おい、ミスティア」
暖簾をかき分けると、なんともいい香りが鼻をくすぐった。八つ目の匂いだけではない。魚のような、獣のような、その両方のいい部分を足し合わせたような匂い。口中に思わずつばきが湧いて出る。
「人魚鍋くれ。あと酒」
「あら、いらっしゃい……人魚鍋? どうして……ああ、魔理沙は魔法使いだったわね」
「そうなんだよ。ああいったものを食べるのは魔力がつくんだ。早く出してくれないか」
急かす魔理沙に苦笑しつつ、ミスティアは椀にたっぷりと鍋の中身をよそう。
「これ、皆さんに大人気なのよ。最初に食べて頂いたのは紅魔館の門番さん。美味しいって、あの人のお墨付きよ」
「美鈴が? あいつはいいもん食ってるからな。楽しみだぜ」
葱と牛蒡、それから鯰のような魚と、豚肉のような肉を柳川風に仕立てた椀が魔理沙の前に置かれた。腹が減っていたこともあって、魔理沙は一心不乱に椀の中身を食べた。醤油と味醂で甘辛く煮こまれた「人魚鍋」は美鈴のお墨付きに違いなく美味で、魔理沙はおかわりを二杯もした。これまで食べたことがない、まるで深い底から何かが湧き上がってくるような、なんとも背徳的な味。なるほど、これを食った八百比丘尼が自身の業を悔いたというのも頷ける。
腹一杯になり、料金を払って、店から暇乞いをして箒にまたがっていると、みるみる魔理沙の体中に力が湧き上がってきた。
「うわあ! 効いてきたぜ! さすがは人魚の肉だ!」
景気づけに一発、紅魔館で弾幕勝負でもするか。魔理沙は箒を最大出力にして、紅魔館の門番の元へ飛んでいった。





「今日はまた、随分気が入ってますね。いつもより随分と気が巡っているみたい」
美鈴が自身のことを目を丸くして見つめるので、魔理沙はいい気分になった。
「へへへ、そうだろうそうだろう。何しろミスティアのところで人魚鍋を食べてきたんだ。気合も魔力もばりばりさ」
「えっ?」
美鈴がおかしな顔をした。
「おかしいな、魔理沙さん、いよいよ人間を辞めたんですか?」
「はあ? 辞めるわけないだろ? どうしてそんなことを聞くんだ? ははあん、私の魔力が妖怪並だってか?」
そう得意気に言う魔理沙に対して、普段の快活そうな表情を、苦いものを含んだようなものに美鈴は変えた。
「その……人魚鍋ってのは、人間の肉と、鯰を柳川風に閉じたものなんですよ。本物の人魚は高くて、屋台じゃ使えないから、人肉と魚で……人魚という」
魔理沙「カニバリズムって意外と悪くないな」

初投稿です。五年位前に別名義で黒歴史を一作投稿したことなんてありませんでした。
種族:魔法使いと職業:魔法使いって、ミスティアじゃなくても勘違いすること多くありませんか。
多分みすちーの屋台には人間用と妖怪用の料理がふたつあるんじゃないかしら。妖怪用にはアミルスタン羊肉たっぷり。

追記:アドヴァイスを頂いて、少しだけ改稿を加えてみました。

>>2さん
少し描写を付け加えてみました。
とかげまん
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コメント



0.720簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
てっきりわかさぎ姫が食べられたのかと思いましたよ。でもよく考えればわかさぎ姫だけなら数に限りが出るでしょうし、人気メニューにはなり得ませんよね。それにしても、魔理沙は堕ちましたか。
2.90名前が無い程度の能力削除
とてもスマートでいい感じ。
魔理沙がアミルスタン羊を食べたときにちょっとした反応があれば、より完成度が増すと思います。
自分の魂を覗きこむような味ですもの。
4.90名前が無い程度の能力削除
ほのぼのした導入部から見事に引きずり込まれました。これ系だと両脚羊っていうのもあるみたいですね。
5.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気もあって面白かったです
8.100名前が無い程度の能力削除
 これは面白い。
9.90名前が無い程度の能力削除
最後に一言二言でドキッとさせるのが良いですね
少し前に「飲んだ人の好みの味になるジュース」ってネタがあったんですが、あちらは「妖怪も来てるんだしそりゃあ…」って感じでオチが見え見えだったのに対して、こちらは人魚と言う単語からまさかの…
ショートショートとはかくありたい物ですな
12.100名前が無い程度の能力削除
こういうブラックなのは好きです。
13.100名前が無い程度の能力削除
こういうブラックなのは好きです。
15.無評価名前が無い程度の能力削除
悪趣味
16.50名前が無い程度の能力削除
「本当に食べてしまったのか?」
19.100名前が無い程度の能力削除
しっかり伏線を張った上でのオチ。おもしろかったです。
ただ、後書きの魔理沙の言葉は不要かも。
25.100名前が無い程度の能力削除
立派な魔法使いになったよ!
やったね魔理ちゃん!