Coolier - 新生・東方創想話

厩火事

2005/10/28 10:06:47
最終更新
サイズ
9.52KB
ページ数
1
閲覧数
269
評価数
10/60
POINT
2870
Rate
9.49
はて、『夫婦喧嘩は犬も食わない』なんて言葉がありましてね。
いやはや、そんな喧嘩、誰だって止めたかねぇよ、なんて思っちまいますがねぇ。

とあるところにとても働き者の従者がおりましてね。
料理洗濯家事親父・・・・・・あ、親父は違いましたな。
ともかく家のことなら何でもござれの御人がいまして。

ある日その従者がとある神社に訪れましてな?

「あら、どうしたの、藍。こんな深夜に」
「うう、聞いてくれ~、霊夢~・・・紫様ときたら・・・・・・」

と、まぁ手ぬぐいを涙でいっぱいにしてきてね。

「私は喧嘩相談窓口じゃないんだけどね・・・で、どうしたの?」
「それが、今朝のことでな・・・・・・」

私は油揚げが好きでな、久々に紫様が朝から起きていて私も嬉しかったんだよ。
だから昨日作りたての油揚げで味噌汁とお稲荷を作ろうとしたんだがな。
紫様ときたら「それはお昼でいいから朝は煮物がいいわぁ」って。
それで私がこう言ってやったんだよ

『こんな朝に起きてお昼に起きていられるわけが無いでしょう』

って。
そしたら寝起きで機嫌が悪いのにさらに拍車がかかって

『うるさいわね。私が食べたいって言ったものは出しなさい。
 私の命令は黙って聞いていればいいの』

って。
それでもう私もカチンときてしまって

『そんなもの、朝から出せるわけないじゃないですか!!』

「そんなに言うなら自分でやってください!!って」
「つまらない喧嘩ね」
「いや、それだけじゃないんだ」
「まだあるの?」
「実は今日は忙しくてな、西行家のお蔵の掃除を手伝っていたんだがな」

知っての通りの大屋敷だ。
蔵の大きさも半端じゃなくてな。

「それにくわえてあの庭師が怪我をしてしまっていてな」
「まぁ、そういうことなら、あなたが行くしかないわね」
「だろう?」

しかも一世一代ほどの大掃除だというものを一人でだ。
相当な時間がかかってしまって、帰るのが七時すぎになってしまってな。
くたくたで帰ってきてみれば紫様は何が不満なのか青筋立てて

『一体どこを遊んできているの?』

って、いきなりこれだよ。

「私がぶらぶら遊んでいるわけないだろう!!」
「私に言われても」
「だからもう悔しくて悔しくて」

『誰のおかげでこんなだらだらと生活できてると思っているんですか!!』

って。
でも紫様も伊達に幻想郷を担う者ではない。負けずに

『何を生意気言ってるの!!この狐!!』

って、言うもんだから、私も

『この年増!!』
『スッパ!!』
『三年寝太郎!!』

って。

「何?今度は面づくし?貴方達ってば妙なことで喧嘩するのねぇ」
「妙なこととは何だ、こっちは真剣なんだぞ」
「まぁ、それでどうしてわざわざ私のところまで来たのよ」
「ああ、今度という今度こそ式の契約を切る」
「うん、それがいいわ。そうそう、そういえば」

この間の秋の日のことだったわ。
たまたまマヨイガを通ったからあなたたちの家を寄ってみたわ。
そしたらあなたが偶然いないときに紫ったら何をしてたと思う?

お膳の上にまるまる一切れの油揚げと一人前の刺身が置いてあったわ。
その横には銘酒という銘酒が二本も空になっててね。

まー、私が許せなかったのはその御酒が『水道水』だったってことだけど。
どう?あなたが居ないときにこっそりとつまみ食いしていたのよ?
しかもあなたの好物の油揚げに刺身をごっそり。

別に食べるなって訳じゃないけどね、せめて藍が帰ってきてから食べるとか。
もし私が式を取ったとしたら・・・・・・なんて考えたら、ねぇ。

そうそう、式としての契約は切ったほうがいいわ。
うん、そのほうが藍のためよ。

「いっそ私の式にならない?」
「・・・・・・そういわれても、何も紫様が油揚げやお刺身を百人前誂えたわけじゃないし、
 一斗樽からにしてひっくり返ってたってわけじゃないし・・・。お酒の一本や二本ぐらい、
 他人のお前がそんなに言わなくても・・・・・・」
「・・・・・・あなた何しに来たんだっけか。確か契約を切るとか言ってたのはあなたよ?」
「そりゃあここに来たのは別れる覚悟なんだがな・・・・・・」

好いて好かれて、好かれて好いて一緒になったようなものだからな?
おいそれと別れられるもんじゃないんだよ。
紫様も私よりずいぶんと長生きしてるけど、いつも心配で心配で・・・・・・。
もし私がいなくなってふらふらしている間に・・・・・・

「新しい式でもこしらえたら悔しいだろう?」
「やれやれ・・・・・・よくしゃべるわねぇ。私が一言しゃべるたびに二十も三十も。
 そりゃあ喧嘩になるはずだわ・・・・・・」
「けどな?こんないい主は他にはいないってぐらい優しいときもあるんだよ」
「今度はのろけ?いい加減にしてよ・・・・・・」
「そう思うと今日みたいに憎らしいこともあるんだよ。もう私はあの人の了見が分からなくって」
「まぁ、そう言われても困るんだけどね。紫の了見が分からないって言うけど
 あなた、もうかれこれ付き合い始めて何年になるっていうのよ。私に分からないものが
 私に分かるわけが無いじゃない。ま、いいわ。あなたにそんなにくよくよされたら
 神社にお賽銭がますます来なくなるわ。ここはひとつ、紫の心をためすとしましょう」
「一応、お賽銭って入れる人いるんだな」
「五月蝿いわね・・・・・・こほん。とある東方の国にハクタクという学者がいてね?」

それは大層な知識人でね、山の奥にひとつ庵を拵えてそこに住んでいてね。
ある日、近くの里まで降りていて、その帰りのこと。
見れば庵に前々から居候していた者が顔を涙でいっぱいにしているではありませんか。
一体どうしたんだ、と尋ねれば、こう答えたのよ。

『ついうたた寝をしてしまって、大事にしていた本にうっかり私の火が着いてしまって』

気付いて、一生懸命消火したけど全然駄目で家まで丸ごと燃え尽きてしまった、と。

『ごめん・・・・・・慧音が大事にしていたのに』

と何度も謝る居候を前にハクタクはこう答えた。

『それよりも妹紅。怪我は無かったか?』
『大丈夫・・・・・・元々不死身だし・・・でも家が・・・・・・』
『家なら気にするな。それよりも妹紅が無事であるかということの方が大事だ』
『慧音・・・・・・』
『妹紅・・・・・・』

うふーん、あはーん。

「それからと二人はいつまでも末永く暮らしているとか居ないとか。
 ところがこれとはまったく反対のお話もあってね」

これまたとある東方の国に、てるよ姫というお姫様がいてね。
その人のコレクションの中に大層珍しい鉢を持っていたの。
とてもとてもお金では量れないほどの価値のある代物、下っ端には運ばせたりはしない。
というわけでいつも身近にお側にと書いて、側近に運ばせたのね。

ところが運の悪さ、運命の無さというものはどうしようもないもので。
屋根裏倉庫の階段から降りようとすれば、新しい靴下、ぴかぴかに磨かれた床。
ツルッと足を滑らせて、そのままズドドドドドって階段を滑り落ちてしまった。

すると姫が目の色を変えてすっ飛んできて

『瀬戸物を壊してない!?鉢を壊してない!?』

と、三十六回言ったそうな。
側近は壊しちゃならないと、身体でかばったから、鉢は何事もなく無事だった。

『いいえ、鉢は何とも・・・・・・』

すると、てるよ姫は

『そう・・・・・・それはよかったわ・・・』

と、たったそれだけ。
すると側近は翌日

『しばらく研究に専念したいと思い、しばらくお暇をいただきます』

とだけ言って部屋に引きこもってしまった。
しばらく経って部屋から出てきても、大層機嫌を悪くしていた。

当然ね。
階段から豪快に滑り落ちて心配の言葉の一つも出てこないんだから。

『永琳~、ちょっとこっち手伝ってくれないかしら』
『ふーん』
『えーりんー』
『つーん』
『・・・・・・えーりん!えーりん!助けて、えーりん!!』
『ぷいっ』
『うう・・・・・・』

「つまり何か紫の大事にしているものを壊してみなさい。もし紫があなたじゃなく
 大事にしているものばかり気にしていたら、もう駄目ね。あきらめなさいよ。
 でももし、あなたの指一本、爪一枚でも尋ねたら、しめたもの。
 心のスキマに真実があるって証拠よ。藍の一生がかかってるんだから、やってみなさいよ」
「うーん、霊夢の言うことなら、やってみようかなぁ・・・・・・。でも紫様は大事なものは大体
 スキマにしまってあって、あるといえば台所に紫様愛用の茶碗ぐらいしか」
「あら、ちょうどいいじゃない」
「でもそんな大したことの無い茶碗だし、いくらなんだってそんな茶碗と私のからだじゃ
 一緒になるわけが無いし・・・・・・どう考えたって私のからだのことを心配すると思う」
「すると思うって、だから、そこを試すんでしょう?」
「うーん、そういうものなのかなぁ・・・・・・茶碗のほうも結構大事にしてるしなぁ。
 絶対安心できるってものでもないし・・・・・・うまくハクタクの庵ならいいんだけど、
 何かの拍子でてるよ姫の鉢になったら困るしなぁ・・・・・・じゃあ霊夢こうしてくれ」
「うん?何?」
「一足先にうちへ行って、紫様に、茶碗のことじゃなくて、きっと身体のことを
 聞くようにって言ってきてくれ」
「そんなインチキしたら、本心が分からないじゃない」
「霊夢、取りあえず本心なんてどうでもいいから・・・・・・」
「やれやれ、あなた未練がたらたらでいけないわ。いい?帰ったら裏口からそっと
 家に入る。きっとあの年増のことだわ、まだ怒ってるだろうから、よく謝って、
 それからすぐに夕飯の用意をするの。そのときにその茶碗をうっかり滑らせたふりをして
 壊しちゃうのよ。これで紫の気持ちが分かるはずよ。思い切ってやってみなさい。
 また困ったんなら来てもいいから」
「う、うむ。わかった。思い切ってやってみる。いろいろすまなかったな。霊夢」
「いいのよ、ちょうど暇してたところだったし」





うーむ。私は何年も生きているというのに少ししか生きていない霊夢は賢いなぁ。
それにしても紫様がハクタクの方ならいいんだけどなぁ。

「ただいま戻りました・・・・・・紫様、怒っていらっしゃるんでしょう?そんな難しい顔して」
「別に怒っているわけじゃないわ。藍ったら、ぷいっと機嫌を悪くして飛び出したっきり
 何時間も帰ってこないんだもの。私はあなたと夕飯を食べるために待っていたのよ」
「え?紫様、私とそんな食事したいんですか?」
「当たり前じゃない。私ったら朝も昼もなかなか起きていられないじゃない。
 ちゃんと揃って食べられるって言ったら晩ぐらいでしょう?日に一回はちゃんと
 皆揃って食べたいわ」
「何と・・・紫様、ハクタクじゃないですか~」
「何?ハクタクって」
「いえいえ、では早速茶碗のほうに取り掛かるとしますか」
「茶碗???って、こら藍、まだ支度も出来ていないのにそんな茶碗なんか出さなくても」
「いいじゃないですか、別にお茶碗ぐらいでそんなお気になさらなくても」
「別に今すぐご飯にしようって訳じゃないし、それ気に入ってるんだから」
「嫌ですねぇ、紫様。さっきまでハクタクかと思ったらもうてるよ姫ですか」
「ちょ、ちょっと。藍、あなた変よ?・・・ああ!!何そんな台所でステップなんか踏んで・・・」

がっしゃーん!!

「ああ~・・・・・・だから言わんこっちゃない!!割っちゃって、もう!!大丈夫!?
 怪我してない?足の指に当たらなかった??破片そこに落ちてるから気をつけて。
 ・・・・・・ちょっと、ぼんやりしてどうしたのよ。熱でもあるんじゃないかしら・・・・・・」
「ゆ・・・・・・ぐすっ、紫様・・・・・・ぐすん」
「あらあら、一体どうしたっていうのよ・・・・・・いきなり泣き出して」
「これが泣かずにいられますか・・・・・・紫様、そんなに私のからだが大事ですか?」
「当たり前じゃない。もしあなたに寝付かれてみなさい」






「怖くてとてもじゃないけど、寝ていられなくなっちゃうわ」





お粗末。
さて、お話の題材にさせていただきまして、『厩火事』。
落語のお話の一つです。
きっかけがドラマ「タイガー&ドラゴン」なのは秘密。

結局のところ紫様は藍が居てくれるからこそ、一日十二時間も寝て、
ぶらぶらして、ぼけーっとしていられる、というわけでして。
唐々素
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2070簡易評価
3.80名前もない削除
この後は泣いて怒って御狐様家出ですかな(笑) 
やぁまったく、秋も深いにお熱いことでw
9.70名前が無い程度の能力削除
厩火事ですか。昔、落語研究会に所属してこの話をしていた身としては懐かしい作品です。
元は飲兵衛な男とその妻の話なんですよね。その再現の程もなかなかで(笑)
12.90削除
こいつぁいいオチだ(笑)
16.80名前が無い程度の能力削除
お後がよろしいようでwww
20.70名前ガの兎削除
ちょw
なんでこんなに配役に違和感がないんだ?
21.80hangon-反魂-削除
文章の味がたまりません。口溶けの良い料理のようです(謎
24.70七死削除
台詞の運びもうまいもんだねぇw
25.90無限に近づく程度の能力削除
まぁお熱い
41.90名前が無い程度の能力削除
うふーん、あはーんて。
42.80点線削除
この期に及んでまだゆかりんに期待してる藍がかわいいなぁ。