Coolier - 新生・東方創想話

私を探して・7

2005/10/26 02:56:49
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私は体をゆっくりと起こした。
寝不足だった為、熟睡してしまったらしい。
携帯を取り出して現在の時間を確認する。
……三時……
熟睡かと思ったら、寝ていた時間は少なかった。
まだ外も明るい。

そろそろ携帯の電池が切れる。
多分、今日明日の内に。
どうでもいいけど。
ここにいる限り、時計の代わりにしかならない。
分刻みで予定が入る事もない。
焦る必要はどこにもなかった。

家を見回してみる。
この家に、時計はなかった。
妹紅はまだ寝ていた。
私ももう少し寝ようかな。
体を再度横に倒す。
今度は浅くてもいいから、夢を見たいと思いつつ。

……まどろみながら、私は声を出さずに笑った。
夢なんか、見てもしょうがないな。
だって既に…………。






「おーい、帰らなくていいの?」

誰かに呼びかけられている。
よく寝たし、起きてもいいか。
薄目を開けて相手を確認する。

「おはよう」
「もう、暗いけど。おはよう」

妹紅に挨拶をして体を起こす。
十分な睡眠が取れたお陰で、寝起きにしては体調がいい。
いつもこうだと助かるんだけど。

「今、何時?」
「わかんないけど、外は暗くなり始めてるよ」

そう言えばここって時計ないんだっけ。
夢見心地で確認した気がする。

「ええと」

……五時半か。
あれから二時間以上も寝てたんだ。

「あんた、一人で帰れる?」
「えっ?」

子供じゃないんだし、帰れ……るよね?
むむ、私は外の様子を確認する。
……おおぅ!
いい感じで日が沈みかけてる。
さっきから妹紅の話をほとんど聞き流してたけど、暗くなってるとか言ってた気がする。
時間も五時回ってるし、もうすぐ夜じゃん。

「泊まっていい?」
「いいけど、慧音が心配するよ」

心配……してくれるかも。
探しに来ないようなことを言ってたけど、それは私が迷わないという確信があったから。
その確信が揺らげば心配もするだろう。
そろそろ慧姉も家に帰る頃だし、

「どうしよっか?」
「……送ってこうか?」
「嬉しいんだけど、迷惑じゃない?」
「変なところに気使うのね」
「そう?」
「家に泊まろうとする方がよっぽど迷惑よ」

それはそうかも知れないけど。
ここは幻想郷。
夜は妖怪の時間で危ないんじゃなかったっけ?

「外、危なくない?」
「全然」
「そうなの? 妖怪は?」
「私に敵う妖怪なんて、この辺にはいないし」
「そんなに強いの?」
「伊達にこんな所で隠居生活してないわよ」

……ああ、そうかも。
近くに誰もいない所で一人暮らししてるんだもん。
ここだと外にいるのと変わらないか。

「じゃあ、頼もうかな」
「一名様ご案内~」
「無い袖は振れないよ」
「そういう時は保護者に請求するから」
「なら構わない」
「ちょっと待ってて」

私が家を出ようとすると、妹紅に呼び止められた。
彼女は台所に行って、何かごそごそ漁っている。
次に姿を見せた時には……

「何、その籠?」
「余った筍」
「……いいけどね」

初めて会った時と同じ格好をしていた。
だから、髪の毛汚れるって。
気にしてないならいいけどさ。






「……熱くない?」
「別に」
「ふーん」

私も特に熱いというわけではない。
そんな気分なだけで。

「燃えたりしないの?」
「しないみたいね」
「便利だね」

夜なのに、妹紅の周囲は昼のように明るい。
エンジェのライトを付けずにすむから楽でいい。

「いろいろ聞いてみたい事があるんだけど」
「順にどうぞ」
「……やっぱりいいや」

驚くことでもないか。
ここは超常現象が当たり前の世界。

「ある人が、『燃え盛る筍職人』て言ってたよ」
「誰が言ったの?」
「プライバシー保護の為秘密」

背中から炎の羽が生えればその通りだと思った。
丁度、筍背負ってるし。

「あんたのそれも楽しそうだね」
「下り坂だと特に」
「今度貸して」

ここだとエンジェは大人気だ。
私としては、飛べるのならいらないんだけど。

「いいけど、変わりに背中に乗せて」
「……いらない」
「がっかり」

集落の入り口が見えてきた。
妹紅が居てくれたからか、妖怪に襲われる事も無かった。
彼女は入り口の近くまで来ると、羽を仕舞って地面に降りてしまう。
かっこいいのに、勿体無い。

「何で仕舞うの?」
「村の中で威嚇してもしょうがないでしょ」
「崇め奉ってくれるかもよ」
「あれは、大していいものじゃないよ」

人生経験豊富な人だ。
教祖様っていいイメージがないけど。
外の世界に毒されてるから?

「せっかくだから乗って……みない方がいいかもね」
「いいのなら、乗りたい」
「多分後悔するよ」

私は言いながら、妹紅をサドルに座らせてみた。

「ちょっと動かないでね」
「?」
「……絶対に髪の毛巻き込まれる」

地面に付くような髪の毛をしてれば、当たり前だった。

「欠陥商品?」
「責任転嫁だと思う」
「ばりあふりーな時代だよ」
「そんな言葉よく知ってるね」

分かりにくいが、恐らく逆切れに入るのだろう。
平然と言われるとそんな感じには見えない。

「アレって、慧音じゃない?」
「……見えるの!?」

辺りはすっかり暗くなっている。
妹紅が羽を生やしているときはそれなりに見えたけど。
今は目が慣れていない分、余計暗く感じる。

「見えないから、適当に言ってみた」
「妹紅が言うとホントっぽく聞こえるから、次は止めて」
「おーい、遅かったな」

…………

「凄く似てると思うよ」
「よく分かったね」

自分の隣から声がすれば誰でもわかる。
ただ、声だけはそっくりなのでかなり焦った。
この辺の人は皆、声を変えることが出来るのだろうか?

「私もそれ、出来るようになる?」
「弟子入りしたいの?」
「間に合ってます」
「優遇するよ」

私と妹紅は相変わらずのローテンションで村に入っていった。






坂道を登りきると、慧姉の家が見えてくる。
今日は家の前に人型のシルエットがあった。

「おーい!」
「ねぇ、妹紅」
「何?」

私はその人に呼びかけられた辺りで、妹紅に話しかけた。

「この人が、『燃え盛る筍職人』発祥の人」
「なっ! ちょっと待て」
「……慧音って、私のことそういう風に見てたんだ」

妹紅はいつも通り抑揚のない声をしている。
その替わりに、目を細めて慧姉をじっと見ていた。
これは下手に怒るよりよっぽど怖いかもしれない。

「違うぞ、妹紅」

慧姉は何か弁解があるらしい。
私の予想より遙かに落ち着き払っているところが不気味だ。

「私はこいつに言わされただけだ!」
「えっ?」
「…………」

それは流石に無茶苦茶だと思うんだけど……。
しかし妹紅には効果があった。
慧姉の替わりに今度は私が睨まれてしまう。
私と妹紅は今日が初対面でしょ。

「今まで妹紅の事なんて知らなかったから」
「言われてみれば……慧音、どう言う事?」
「そうだな、妹紅も偶には家に上がっていったらどうだ?」

慧姉め、強引に話題を変えてきたな。

「久しぶりだし、お邪魔する。
 詳しいことは中で聞かせてもらうから」

ナイス、妹紅!

「……歴史を食うしか……」

んっ?
今慧姉がもの凄いことを口にしなかった?
全てを力で解決するような、そんなニュアンスだった気がしたけど。

「慧姉、さっき何か言いませんでした?」
「何のことだ? 
 それよりも遅かったじゃないか。これでも心配したんだぞ」
「それについては素直に謝ります。
 ところで、アレは私の聞き間違いじゃないですよね」
「慧音。これ、筍持ってきた」
「ああ、いつもすまんな」
「私も野菜貰ってるし」

くっ、妹紅に邪魔されてしまったか。
……おや?
いつの間にか妹紅の機嫌が直ってるような……?

「もう夕飯も出来てるぞ。
 お前もそんな所に立ってないで早く来い」
「むぅ、何か釈然としないものがあるんですけど」
「……つまり、お前はご飯がいらないんだな」
「わーい、慧姉のご飯だぁ」
「楽しみだね」

夕飯を人質に取られてしまっては大人しく引き下がるしかない。
まぁ、大して気にすることじゃない……と思う。
私は首を傾げつつ、二人にやや遅れて家に上がった。





いつもの食卓に今日は妹紅がいる。
大きくは無いちゃぶ台の上に、三人前のご飯が並ぶとやや狭かった。
しかし、私を含めそんな事を気にする人はいないようだ。

「それでは、いただきます」
「「いただきます」」

相変わらず私と妹紅の息はバッチリだった。

「何で声が揃うんだ?」
「何で?」

慧姉の疑問に、妹紅まで一緒になって聞いてくる。
私に聞かれても分かるわけがない。

「見えない糸で、私たちは繋がっているんですよ」
「何、本当か?」
「それは絶対にないよ」

少しぐらい話を合わせてくれても罰は当たらないのに。
一蹴されてしまった。

「安心したぞ。私を捨てて浮気したのかと思った」
「えっ! そういう仲だったの?」
「私も初耳で驚いた」

言いつつ、全然驚いてるように見えない妹紅。

「花婿募集中じゃなかったの?」
「誰が?」
「妹紅が」
「それはもう打ち切った」
「どう言う事ですか?」
「私との愛が確立されたわけだ」
「慧音、熱があるんなら横になってた方がいいよ」

慧姉撃沈。
ちゃぶ台の彼方へと沈んでいく。

「それ、もらっていい?」
「ん? ああ、いいぞ」

もう立ち直ってるし。

「ありがとうございます」
「お前にはやらん」

うわ、差別された。

「じゃ、妹紅の方からもらいます」
「……私から取れると思ってるの?」

妹紅の瞳が輝く。
取れるものなら取ってみろということらしい。
その挑戦、受けて立つよ。

「……もらった!」
「甘いよ」

ひょい。

「くっ」
「まだまだだな」
「あー! 慧姉それ私のでしょ」
「既に私のものになっている」

私と妹紅の抗争に、慧姉まで参戦してきた。
そっちがその気なら、私も本気を出すしかあるまい。

「ふっふっふ」
「何を笑っている?」
「……これも美味しいね」
「あっ、妹紅! それまでやるとは言ってないぞ」
「もらいます!」
「おっと、子供騙しだな」

妹紅に注意を引いてもらう作戦は読まれてしまったか。
一筋縄ではいかない。

……よく考えると、このままでは妹紅の一人勝ちになるんじゃないの?

「……」
「……」
「?」

慧姉と一瞬視線が交錯する。
彼女も今の危機的状況を察したらしい。
お互いに意思の疎通は図れた!

「そこだ!」

慧姉の箸がフェイントをまじえつつ、妹紅に襲い掛かる。
妹紅は冷静に箸の軌道を追い、ギリギリまで引き付けてから近くの皿を軽く手前に引っぱった。

カツッ。

「何してるの?」
「くっ、駄目だったか」
「慧姉、後一歩です」
「そうだな……って裏切ったな!」
「んー? 何のことですか?」

私は慧姉の所から見事奪取に成功していた。
元より、妹紅からおかずが奪えるとは思っていない。
という訳で、始めから慧姉狙いだった。

「ふふふ、中々いい度胸じゃないか」
「あはは、隙だらけでしたよ」
「二人とも落ち着いて食べたら」
「「!?」」

この後も、私と慧姉が牽制している間に何度も取られてしまう。
結局、妹紅の一人勝ちで夕飯は終わった。
私たち、もしかして自爆してただけ?





「慧姉~、お風呂に行かなくていいんですか?」

洗い物をしているところに呼びかけてみる。

「何故だ?」
「だって妹紅が入ってるんですよ」

一番風呂は妹紅に譲ることになった。
私と慧姉が遠慮しまくったからだ。

「だから、私が行ったら不味いだろう」
「…………」

確かにそうなんだけど。
まぁ、いいか。
慧姉は手にノートを持って居間に戻ってきた。

「……日記、ですか?」
「ああ」
「そんな物付けてるなんて初めて知りましたよ」
「いつもはお前が風呂に入ってるときに書いてるからな」

慧姉は左手で頬杖をつきながら、日記をパラパラと捲っていく。
ここからでは何が書いてあるかまでは見えなかった。
日記を付けること事態は大して不思議には思わない。
マメな慧姉なら確かにあり得る。
しかし、何故わざわざ絵日記なのだろうか?

「どれどれ?」
「こら、何をしている」

覗き込もうと身を乗り出したら、ノートを引っ込めてしまった。

「気になるじゃないですか」
「だからいつもお前がいるところでは書かなかったんだ」
「何で今日は出したんです?」
「妹紅の前だと有無も言わさず取られそうな気がするからだ」

その点において、私は妹紅より信頼されているらしい。
確かに相手の秘密を無理に聞くような事はしない。
問答無用で見ようとしたけど。
気になるけど、今回は諦めよう。

「なんで『絵』日記なんですか?」

私は見ないように、横を向きながら聞いた。
取り合えず、壁に掛かっている時計の秒針を目で追って行く。
目のやり場に困っただけで意味はない。

「ん~、遊びだな」
「絵、描けるんですね?」
「上手いかどうかを別にすればな」

カリカリと鉛筆の音がする。

「お前は日記を付けたりしないのか?」
「愚問ですね」
「安心しろ、聞いてみただけだ」
「だと思いました」

一日たりとも付けたことはない。
それどころか、付けようなどと思ったことさえない。
続くわけないし。

「絵のところだけでも描いてみるか?」
「……私の絵を理解できる人は、稀ですよ」
「尚の事書いてみてくれ」
「勿体無いから嫌です」
「笑いの種ぐらいにはなるんだろう?」
「ははは、そんなことないですよ」

ハイセンスすぎて中々理解者がいないのは困り者だ。
もしかしたら、時代を先取りしすぎなのかもしれない。
ン十年後に生まれていれば、きっと天才になれた。
っといつものように自分を慰める。

「さってと」

ここにいてもすることがないので、私は立ち上がった。

「どうした?」
「お風呂に入ってきますね」
「まだ妹紅が入ってるぞ」
「だから行くんじゃないですか」

ニヤニヤ。

「成る程。では私も行くとしよう」
「もちろん冗談ですよ」

間髪いれずに答え、そして座る。

「そ、そのぐらい分かっていたさ」
「遠慮せずに入ってきていいですよ」
「い、いや。妹紅に迷惑が掛かるからやめておく」
「それじゃ、私の時もやめてくださいね」
「何を訳の分からん事を……」

慧姉は「ふぅ」と溜息をつきながら、しれっと言い放ってくれた。
何で私の時だけこんなに積極的なの?
勘弁してよ。



何とか慧姉を先にお風呂に入れることに成功した。
んで、ここにいるのは私と妹紅の二人。

「今日、泊まってくの?」
「いつの間にかそんな流れっぽいね」

雰囲気はしっかりお泊りモードだった。
私と慧姉が妙な譲り合い(?)をしていたので、それなら妹紅に一番に入ってもらおう、という辺りから。
そして、妹紅も当たり前のように風呂場に向かった。

「今から帰るのも面倒だし……」
「夜道の美少女の一人歩きは危ないから?」
「良いこと言うね」
「慧姉みたいなのが出たら危ないもんね」
「……どういう意味?」

妹紅は軽く首を傾げた。

「まぁ、いろんな意味が含まれてる」
「大体分かるような気もするよ」
「実はモコタンも苦労してるとか?」
「それなりに」

彼女は私を一瞬睨んでから、相槌をうった。
さりげなく言ったつもりなのにばれてしまったようだ。
モコタンでもいいじゃん、と心の中だけで主張する。

「あんた、どうせ外から来たんでしょ?」
「そうらしいよ」
「いつからこっちにいるの?」
「え、んーと」

いつからだっけ?
大分経ってる気がするんだけど。
えっと、幻想郷に来て紅魔館に泊まったのが一日目。
この村に来たのが二日目。
子供たちとかくれんぼしたのが三日目。
初めて授業をしたのが四日目。
慧姉に妹紅の所までお遣いを頼まれたのが五日目……それが今日。

「……こっちに来てから、もう五日も経ってた」
「このままこっちにいるの?」
「一応は帰るつもりでいる」

そろそろ友人が心配する頃かもしれない。
私がよくサボる事は皆知っているけど。
それでも一週間近く、連絡もなしに顔を見せないことはなかった。
もし家の人に五日間も行方をくらませてるなんてばれたら、警察沙汰になってるかもしれない。
家族とは必要最低限の連絡しかいつも取っていないので、その可能性が低いのは救いだった。
やっぱり学校に行ってないのが一番の問題。
…………
いいや、どうせ考えてもここにいる限り何も出来ないし。
せいぜい言い訳を考える事ぐらい。
気が向いた時にでも慧姉にいつ帰れるか聞いてみよ。

「早く帰れるといいね」
「慧姉次第らしいけど、なんとかなるよ」

私は気楽にそう結論付けた。





カリカリカリ

部屋に鉛筆の音が響く。
私は呆然としながら、鉛筆の先を目で追っていく。
鉛筆は止まることなくノートに黒い軌跡を残していった。

「二人とも偉いねぇ」

傍らで、感心しながら眺めていた妹紅が呟いた。

「ま、まぁ。私はほとんど見ているだけ……かも」

私が妹紅と話している間にも、鉛筆は進んでいく。
昨日からそうだったけど凄い速さ。
しかも正確。

カリカリカリカリカリカリ

「…………」

手が掛からなくて楽と言えば楽なのだが。
偶にはケアレスミスの一つでもした方がいいんじゃない?
私がひがんじゃうよ。
多分、言っても聞こえないぐらい集中してるけど。

「……よし、出来たぞ」

そこで走り続けた鉛筆が漸く止まった。
持ち主が、合っているか聞きたそうに私を見ている。

「あーあ、全部正解しちゃってますよ」

思いっきりひがんでいた。
そりゃあ、私だって今教えているのぐらいは簡単に出来ますよ。

「やはり、お前は嫌そうなんだな」
「察してください」

でも、慧姉みたいにちょっと教えてもらっただけで完全解答する自信はない。
はっきり言って無理。

「何でそんなことしてるの?」
「私の精神安定の為」
「らしいぞ」

慧姉の後に私もお風呂を貰った後、算数の予習をしていた。
範囲は、明日私が子供達に教えるところまで。
理由はさっき妹紅に言ったとおり。

「あんた、ホントに慧音の仕事手伝ってたんだね」
「信じてなかったの!?」
「信じてたけど、足を引っ張るの間違いだと……」
「意外なことに教えるのは中々上手いぞ……意外だが」
「不思議だね」
「…………」

何で慧姉は『意外』を二回も言ったのだろうか?
しかも不思議って。
私の印象ってそんなに悪いのかなぁ?
それとも意外性があるって事でいいのかな。

「何? そんなにじろじろ見て」
「別に」

妹紅が私の方をじっと睨んでいる。
しかし、直ぐに視線を慧姉に移した。

「ねぇ、慧音。私も仕事手伝ってもいいよ」
「えっ!?」
「妹紅に手伝ってもらうほど困ってはいない。
 確かに助かるがな」
「国語は得意だよ」

妙に推しの強い妹紅。
それに慧姉と話している時も、何度も私の方をちらちらと睨んでくる。
……もしかしてこれは。

「妹紅には大変なんじゃない?」
「やってみなくちゃ分からないよ」

どうやら私に対抗意識を燃やしているらしい。
私の何に対してかは、よく分からない。

「そこまで言うのなら、妹紅もやってみるか?」
「やる! 古文なら出来る」

……古文?
あの漢字がいっぱい並んだりするやつの事?

「それなら、明日は見学してもらっ「ひいぃぃーーー」

私は全力で壁端まで逃げた。
そして威嚇するように妹紅を睨みつける。

「どうしたの、アレ?」
「気にするな。いつもの病気だ」

少しは気にかけてくれても……
私は静々と元の位置まで戻った。

「お前はいきなり何が気に入らなかったんだ?」
「古文嫌い!」
「国語は得意な方じゃなかったか?」
「慧姉は分かっていません。アレは外国語です」
「…………」

私は断言した。
だって教科書に何書いてあるか分かんないんだもん。
あんなの現代人の私には必要ない。

「それは我侭じゃないのか?」
「繊細なんですよ。
 それに、得意とか苦手とかがあること事態我侭なんだからいいんです」
「私が古文を教えてあげようか?」
「それなら慧姉に歴史を習う」
「教えて欲しかったのなら早く言ってくれれば」
「比較の話ですよ。どっちも嫌です。
 だから嬉しそうに歴史の教本を出さないで下さい」

嬉々として教本をちゃぶ台に並べる慧姉を注意する。
ってどこから出したの?
まさかいつも携帯してるとか。

「じゃあ、どっちがいいの?」
「なんで二者択一になってんですか!」
「そこまで言ってくれるのなら、私と妹紅で交互に教えてやろう」
「ああぁー、既に聴いてないー!」

落ち着いて話を進める文系二人に囲まれて、私は必死に叫び続ける。
きっとここが村の外れに建っていなかったら、苦情が来た。











腹から声を出すことを意識しながら、子供たちに教本の内容を説明していく。
昨晩の猛抗議で、多少声が嗄れてしまっていた。
喋ることに苦労することはないが、どうしてもかすれてしまう。
後で子供たちに詳しいことを突っ込まれると、内容が内容だけに恥ずかしい。
「勉強が嫌で駄々をこねてました」とは言いにくかった。

黒板に向かい例題をやってみせる。
今日は前のように、慧姉が圧力をかけてくるような事はなかった。
二回も同じことを習っているのだから、余り身も入らないのだろう。
眼鏡は掛けているが。

(落ち着け、落ち着け)

それでも私は、常に自分に言い聞かせている。
そうでもしなければ、冗談でなく怪音を出してしまいそうだった。
勢い余って、割ったチョークの本数は片手では収まらない。
直線を引こうとしても、

カッカカカカカ、ポキッ。

妙に綺麗な点線になってしまう。
途中で折れるけど。
てか、今ので何本目?

「はぁ、はぁ。それじゃあ問題が出来たら、私か慧音先生に見せてください」

慧姉のときはため息で、今度は息切れ。
もう少し穏やかな授業は出来ないものだろうか。
私は教室の後方で、慧姉と並んで座っている人の所まで見回りついでに歩いていった。
授業中、この人は表情一つ変えずにずーっと私を観察していた。

「少し、力が入りすぎだと思うよ」
「分かってるよ、そのぐらい」

誰の所為で、何本のチョークが犠牲になったと思っているのか。
チョークに謝れ。
ついでに私にも。
いやいや、逆だよ!
私に謝ってからチョークだった。

「私なら、あれよりはうまく出来る」

思いっきり断言してるし。
妹紅が教壇に立つときは重いっきり睨んでやる。
一昨日と今日、私が受けたプレッシャーを思い知らせてくれる。
……嗚呼、これからは妹紅対策もしなければいけないのか。

「妹紅、これからは一時間目終わったら帰って」
「私の分のお弁当は?」
「ここにあるぞ」

隣で聞いていた慧姉が口を挟む。
今はそんな事は聞いてない。
本当に聞いていたのか怪しいが、きっと聞いていた。
だって眼鏡が光ってるもん。
ボケるタイミングを計っていたに違いない。

「なら外で空でも眺めてて。終わったら呼ぶから」
「妹紅だけ仲間外れは可哀想じゃないか?」
「私もそう思うよ」

くっ、今の私の状況を楽しんでいる人が約二名。
特に慧姉は人事だと思ってるから性質が悪い。

「どうしろと言うんですか?」
「我慢しろ」
「根本的に、妹紅が睨まなければいいんだけど」
「それは無理だよ」
「先生ー!」

何故?
むしろ、睨まれる理由の方がないじゃん。

「そんなに私を苛めて楽しい?」
「被害妄想だよ、やましい事でもあるんでしょ?」
「先生ー!」
「私は開き直ってるから、やましいことなんてないよ」
「おい、そんな事より呼んでるぞ」

いや、ちゃんと聞こえてるけど。
私の心の平穏の為には行かない方がいいような気がひしひしと……

「今日の私の仕事は終わりました。慧姉、ゴー!」
「職務怠慢で家から叩き出すぞ」
「可及的速やかに、問題を排除してきます」

私はシュタッと敬礼の真似事をしてから、子供のもとへと向かう。
外の世界に帰る代わりに、仕事を手伝っていたんだった。
例の子供が気に食わないからといって、ふざけてばかりはいられない。
まぁ、軽くあしらって上げよう。
世の中、君が思ってるほど甘くはないのだよ。



「ふあー、今日も一日お疲れ様でしたー」

私は脱力しながら慧姉に挨拶をした。
あー、今日も私は頑張ったよ。

「何を言っている、まだお昼だぞ」
「今日の分の体力は使い切りました」
「お前は燃費が悪いな」
「三時間チャージ、十秒キープが基本ですから」

授業が終わり、私と慧姉はお弁当を食べている。
ついさっきまでは、妹紅も一緒だった。

「私の気のせいでしょうか? 少し騒がしい気がするんですけど」
「賑やかで楽しいな」
「そうとも言えますね」

今度から新しい先生になる予定の人は、子供達と一緒に遊んでいる。
ああ、もう!
埃が舞うだろう。
まだ私たちは食べてる途中なんだから。
微笑ましい光景なので声には出さないけど。

「いつからここはお弁当持参になったんですか?」

子供達の大半は、家に帰らず私塾にお弁当を持ってきていた。

「一昨日のお前の『何でも質問コーナー』が楽しかったらしい」
「じゃあ、昨日からお弁当を持ってくるようになった、と?」
「そういうことだ。昨日はお前がいなかったから、皆歓喜の涙を流していた」

人気ないなぁ。
でも私が子供達の不満を買えば、その分慧姉は頼りにされる。

「ふっ、憎まれ役は必要だと思いますよ」
「強がってるようにしか見えないぞ」
「そんなことないですよ」

私はぷいっとそっぽを向く。

「冗談だから安心しろ」
「分かってましたよ。でも不安になるような冗談は勘弁です」
「ああ、悪かった。お詫びにお前の弁当を貰ってやろう」

言いながら、私のお弁当に箸をのばしてきた。
それは何のお詫びのつもり?
私はお弁当を箸の射程外に非難させる。

「意味分かりませんから」
「私に渡せば分かるかもしれないぞ」
「どんな境地ですか!?」
「それを自分で見つけるのも、また修行だ」
「大体慧姉が作ったんだし、慧姉のお弁当と同じじゃないですか」
「甘いな。それが人のところにあると、美味しそうに見えてしまうのだ」

そういう物なのか?
私と慧姉が話しに花を咲かせているうちにも、妹紅を囲む輪は大きくなっていく。
お弁当を食べ終わった子から順番に巻かれていってるらしい。
……いつか踏まれるな。

「慧姉、割と本気な質問してもいいですか?」

私は遊んでいる輪を眺めながら、言葉とは裏腹にいつもの軽い調子で聞いた。

「夕飯の献立か?」
「って、何で分かったんですか!?」
「そろそろ聞かれる頃だと思ったんでな。それでどうする?」
「しかもこっちで決めてよかったんですか?」
「だがこちらにも都合がある」
「つまり私に選択肢はないんですね」
「正解だ。褒美に玉子焼きを貰ってやろう」
「あげません」

私は最後に残しておいた玉子焼きを口に運ぶ。
お弁当も食べ終わり、私は立ち上がった。

「それじゃあ、私も巻かれてきますね」
「ああ……明日だから、準備ぐらいしておけ」
「そうですか、分かりました」

私は慧姉に返事を返してから、妹紅と子供達の元へと向かった。




元の世界に帰れる日を知った今日。
私は再びその話題には触れようとしなかった。






スランプの中を迷走中のchocoです。
どうも自分の作品に首を捻ってしまいます。
早く脱出しなくては。
とか言いつつ、なんとか七話目も出来ました。
相変わらず完成度が落ちているような気が……(溜め息)


ここまで来ると、一話目を出したころが懐かしい。
オリキャラは出るし、それが主人公だしで、酷評が一杯来るんだろうなと思っていました。
目安として1000点いかなかったら、ハクタク様に頼んで無かった事にしてもらおうと、本気で考えていました。
そんな感じで投稿してみたら……嘘! どうしよう。
嬉しかったんですけどね。
1のコメントで書いたとおり、その後の展開が白紙な事を考えなければ。
正確にいうと4までは頭の中にありましたが、そこまでです。
完璧に「無かった事に」を前提の見切り発車でした。
取り敢えず5は勢いに任せて書くことにして、6辺りで漸く最終的な結末が決まるということに。
かくれんぼぐらいからスランプ気味だったんで自業自得です。

ごめんなさい、すいませんでした。


今まで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。
残すところ後一話。
ちょっと……かなり長くなりそうですがよろしくお願いします。
choco
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コメント



0.1830簡易評価
1.無評価たまゆめ削除
続き物は完結まで、てんをいれないタチなので,フリ-で失礼します。
応援してます。
24.60床間たろひ削除
ん~俺がこのシリーズを好きなのは、何のかんの言っても「私」というキャラ
が好きだから。
「私」というキャラの、のんびりまったりいまそがり、大胆不敵で悠々自適
優しくないのに冷たくない、厚顔無恥で爽やかライチなところが好き。

だから、最後まで「私」というキャラの物語であって欲しいなぁ……

これはあくまで俺の願い。chocoさんの思うままに自由に書いてくださいな。
のんびりお待ちしておりますよ~