Coolier - 新生・東方創想話

プレシャス・ヴァカンス(後)

2015/12/31 16:05:21
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 ―――5―――

 歪な棒だった。黒い、ぐにゃりと曲がった、金属の棒。穂先に装飾されたハートのような刃が特徴的。
 それによって薙ぎ払われた魔女は壁に激突し、床に崩れ落ちた。そうして咳込み、恨めしそうにその事件の犯人を睨みつける。

「乱、暴ね……! げっほ、折角療養していたのに……」
「貧血で倒れたんでしょ? 血の補充は出来た?」
「血飲み子と一緒にしないで……」
「あっははは!」
 
 黄金の髪に血を湛えた瞳、そして虹色結晶を垂らす黒い蔓の翼を持つ吸血鬼――フランドールは笑った。それは顔を覆って天を見上げて、声量も気にしないほどツボに入ったらしかった。
 小悪魔が大慌てで魔女の元へ駆けつける。立とうとするのもやっとの魔女に手を貸して立ち上がらせ背中を擦るが、魔女の手がそれをやめさせた。

「私はいいから、速くこの事態を伝えなさい」
「は、はい……!」

 咳払いで息を整えて、パチュリーはフランドールと対峙する。

「うーん。こんな世界でもいろいろ壊せるものね。てっきり無理かと思ったわ、全部止まっちゃってるから」
「そうね、止まってないのかもね……」
「だーいじょうぶーパチェー? そんなに痛かった? ごめんごめんごめんなさい。別にパチェを殺す気はないから安心して?」

 吸血鬼は拍子抜けするほど明るい声音と可愛らしく小首を傾げる動作で魔女に謝罪する。毎度思うがこの吸血鬼、完全に前後の感情や行動と言動が一致していない。
 長年彼女のカウンセリングをしてきた魔女でも、その不安定性には慣れることは決してないだろう。
 まるで賽子だ。どの目が出るか、運次第。

「もーさー。いい加減うんざりしてたんだよねー。本を読んでもお菓子を食べても棺で寝続けても、日に日に疲れていく一方でさ~。疲れが貯まるというか、精神的な活力が目減りしていくというか。イライラするね、これ」
「生理みたいね」
「残念。初潮も来てないのよね、これがさ」

 永遠に来ないけど。と吸血鬼。
 来るようにしてやろうか。と魔女。

「いや~ん。パチェが私を孕ませようとしてるわ。こんな小さな女の子を無理やりだなんて、鬼畜外道も極まれりね」
「……いい加減その軽薄な口調を止めてくれないかしら。一々虫唾が走って困るわ」
「ふん。怒ればいいじゃん。私だって怒ってるのよ。でもそれを抑えて、抑えるために馬鹿やってるって、気付いてるでしょ?」
「だから咲夜を壊すって? 冗談じゃないし、付き合うつもりもない」

 パチュリーは持っていた本を開いて文末を指でなぞった。それが鍵だった。
 文章が魔力の輝きを灯す。書き込まれた文章は式となって宿る精霊を叩き起こし、術を作る。パチュリーは本のページを吸血鬼に向けた。魔力の輝きは溢れ、そこから3つの火球が飛び出す。両手で抱えてるくらいに大きな火炎の弾丸が、火の粉と燃える音を置き去りにするように高速で吸血鬼に飛来する。

「あはっ」

 しかしそれは、人間に対しては速くても吸血鬼に対しては遅かった。軽やかなステップで一歩、二歩、三歩。それだけで迫り来る火球の三連星を躱してしまう。火球は壁に激突し爆発するが、魔女によって仕込まれた防壁によって損害はなかった。無論、眠っている者達にもだ。

「出来れば暴れずにいて欲しいのだけれど。ここで貴女の攻撃からこの子たちを守れる防御壁を築くにはかなりの時間がいるから」
「ふ~ん。まぁ大丈夫だって、私、まだパチェみたいに上手く弾幕出せないから」
「だからってその捻じり曲がった時計の針をブンブン振り回すのはやめて頂戴」
「答えはNO」

 取り付く島もない。
 
「あ、でもでも。振り回したりはしないよ。失敬しちゃう。一撃で決めるわ」

 そう言って、切っ先を十六夜咲夜に向ける。
 眼差しが鋭いものに変わる。そこには強固な意志が宿っている。それを看破した魔女だったが、直後くるくると回された棒に視線を奪われてしまった。吸血鬼は黒く自身よりも長い棒を巧みに操り、達者なパフォーマンスを披露する。
 
「振り回してるじゃない……」
「あらやだ。これは失敬」

 どすり、とその棒を床に立てる。重々しい音だ。魔女を薙ぎ払ったその棒は黒く、所々曲がり、直線ではない。まるで子供が何処からか拾ってきた木の枝を剣のように振り回しているかのごとく、その様は幼い。けれどその木の枝は恐ろしい破壊を生む重量と、何より禍々しい形をしていた。
 吸血鬼曰く、レーヴァテイン。
 世界を焼き、勝利を齎す、悪神が鍛えた、木の枝の剣。

「ま、そこで大人しくしているなら痛いことはしないわ。ビークワイエット。さながら劇を見る観客のように、ね?」
「残念ながら、私も役者なのよ」

 今度は本から銀の剣を錬成する。柄を握りしめ、慣れないながらもそれを吸血鬼に向けた。

「万年筆より重い物は持たない主義だったんじゃなくて?」
「これは物じゃない、魔法よ。それも、悪童をお仕置きする取っておきの魔法」
「おーこわい。じゃあ一丁指南いただけるかしら? 引き篭もりの魔女剣士さん」
「残念だけど心得はないわ」
「じゃあなんで出したの?」
「言ったでしょう? お仕置きするためだっ……て!」

 吸血鬼が目を見開いて驚愕する。
 最初に動いたのはパチュリーだった。全身を屈め、関節の動きをフルに加えた上で吶喊、吸血鬼との距離をあっという間もなく詰め込み、銀の剣を下から振り上げた。
 それは、彼女と親しかった吸血鬼の意表を突くには抜群の事態だった。
 防御する暇もなく、魔女の攻撃は少女の服を切り抜く。だが、それは魔女の見立てとは微妙に違っていた。両断する深さを狙ったが、踏み込みが浅かったらしい。
 しかしそれは半分だけの正解だった。どんなに意表を突いた攻撃でも、吸血鬼は反応できていたから。だからこれは魔女の運動不足が招いた不運もあったが、吸血鬼の戦闘経験も深かったのが、もう半分の正解だ。
 反射的に退いた一歩によって、無意識的にこの攻撃を回避できたのだ。
 それが、どれだけ慣れていた者からの攻撃であったにせよ。
 どれだけ素早い攻撃だったにせよ。
 自身の不死性を過信していたにせよ。

「よっと、危ない危ない……」

 吸血鬼は破けた服を左手で抑えながら後ろに跳んで距離を確保する。予想外ではあったが、魔女のあまりにらしくない機敏な動きに面白さのほうが勝っていた。

「びっくりした。いきなり俊敏になるなんて、そういうのはカラスの特権じゃない?」
「特権は引きずり下ろすために存在する。既得権益は解体して公平に分配しないとね」
「魔術を使った肉体機能の強化か……たしか、人里の僧侶が使うんだっけ?」
「魔法であれば、私が使えない道理はない」

 知識の魔女はフランドールへシニカルな笑みを向ける。
 対して吸血鬼も同様に皮肉げな笑みでパチュリーに答えた。

「慣れないことはしないことね、顔が引きつっているよ」
「挑戦することを忘れた時、思考する生命体は死ぬ」
「無理をする生き物ほど早死する者はいないわ」

 フランドールは牙を剥いて、獰猛な笑みを浮かべた。それは吸血鬼というよりも、もっと別の暴力的な存在を意識させた。彼女の感情が昂ぶっているのだ。

「一曲踊っていただけるのかしら? 魔女のお嬢さん」
「代わりに子守唄を聞かせてあげるわ。吸血鬼のお嬢さん」

 吸血鬼が跳んだ。その足と膝、体格からは想像もできないような脚力を持って、魔女に飛来する。きゃらきゃらきゃらと、吸血鬼の持つ虹色結晶がけたたましく笑うように鳴った。吸血鬼は空中で体を前転させつつ、その遠心力を上乗せして剣を振り下ろす。魔女が剣で受け止めるが、剣撃が耳を劈き、吸血鬼の力が剣を通して魔女に伸し掛かる。
 例え筋力を魔術で高めたとしても、元が非力な魔女にその攻撃はまだ重い。膝をつき、なんとか堪える。

「無理しない方がいいんじゃない?」

 吸血鬼はせせら笑う。力の差は歴然かもしれない。
 だが魔女は諦めない。ここで屈するほど弱くはない。
 銀の剣を傾け、黒い枝を受け流す。体勢が崩れた隙を狙って薙ぎ払うが、吸血鬼は身を屈めて躱す。流された剣を振り上げるが、魔女の剣が受け止める。
 払い除け、振り返せば、向こうが防ぐ。幾度かの剣撃の末に、二人は剣を弾きあって距離を取った。

「確かに眠くなってきたわ。退屈すぎて」

 どれだけ筋力をあげようと、身体能力で吸血鬼に勝てるはずがない。殊更呼吸器官に難のあるパチュリーにはこれしきの運動でさえも負担となっていた。
 ぜぇぜぇと喘ぐ中で、魔女は考える。吸血鬼を黙らせる最善の一手を。
 目を閉じて、思考に光を手繰る。手繰る。手繰る……。

「………」

 もちろん、そんな物は思い浮かばなかった。

「おやすみ。良い夢を」

 そんな声に目を開けば、眼前に吸血鬼の愛らしい顔が迫っている。その時だけはフランドールの顔から獰猛さも消え失せ、ただただ慈悲だけが宿るような微笑みが浮かべられていた。どうしてそんな笑みを浮かべるのか分からない。分からないが多すぎて、魔女は唇を曲げて笑みを浮かべた。
 黒い枝が、魔女の体を横薙ぎで強かに打つ。
 衝撃に耐え切れず、パチュリーは地面へと倒れこんだ。最初ほどの威力はない。それでもダメージは大きい。背中を曲げて大きく咳き込む。

「パチュリー様!」

 離れて見ていた小悪魔が叫ぶ。パチュリーの元へ駆け寄ろうとして、一度フランドールに目を向けて踏みとどまってしまうが、すぐにまた走り出した。
 
「大丈夫ですか!」
「げほっ、ごほ!」

 咳きが続く。小悪魔は懸命に魔女の背中を擦った。それを見下ろしながら、フランドールはやれやれと肩を竦めて言う。

「ね、もう分かったでしょ? わざわざ体を強化して、慣れない剣なんて錬成しなくちゃいけないほどで、弾幕だって張れない。魔力だって十分に補給できない。こんな制限された世界で、魔女が吸血鬼に勝てるわけ無いでしょ」

 魔力を上手く使えない。この世界では地力が物を言う。

「だからもう任せてくれていいよ、パチェ。私が全部終わらせてあげる。パチェに出来ないこと、私ならしてあげられるよ。だから我慢しなくていいの。苦しまなくていいの。ゆっくり休んで、寝て、起きたら済んでいる話にしてあげるから」

 そうして微笑みを掛けてくる。まるで天使のような慈愛に満ちた笑みだ。その笑みを湛えているのが吸血鬼だというのだから、全くお笑い草だった。
 魔女はその天使を辛うじて見上げる。そして、恨めしそうな目で睨む。

「そんなの誰も、望んでないわ……!」
「望もうと望まずとも、そうなるべきなの。私は破壊者。全てを壊せる怪異。その力を持ってこの歪んだ世界を正常な形に戻してあげる」
「やめ……ぐ!」

 止めようと声を発して、胸裡に痛みが走る。息が詰まる。妖怪とて痛みはある。
 それこそ吸血鬼や蓬莱人のような不死性はない。傷が見る見る再生するような能力は、悔しいことに魔女はない。先の戦闘で、魔女の内外には損傷があった。魔力によって修復を試みるが、時間がかかりそうだった。
 吸血鬼は歩み出す。天使の笑みを携えて、時を止めた人間へ向けて、さながら死神の鎌のごとく黒い枝の穂先を向けながら。

「きっと、お姉様も美鈴も手が出せないわ。だって貴女が大切なんだもの。それなら私がやるべきでしょう? ねぇ咲夜」

 咲夜は答えない。
 代わりに、パチュリーを介抱していた小悪魔が間に入った。フランドールの足は止まった。

「やめてください!」

 声も、全身も震えている。まるで子鹿のようだった。可愛らしい反抗。そんな感想が浮かんでは消え、しかし愉快さで覆われていた不愉快さが、フランドールの中で再び滞留し始めた。いい加減止められるのも嫌になってきた。

「どきなさい小悪魔。貴女はパチェの介抱をしているべきよ」
「どきません! 妹様がその剣を引くまでは!」
「どうして? 皆咲夜の所為で弱ってるんだよ? 妖怪に闇夜は必須。それをそこの人間は分かってないみたいだから、教えてあげなくちゃいけないのよ?」
「殺してはいけません!」
「子供ね、小悪魔。我々はいつかは別れる運命にある。それがちょっと早まっただけのことよ? だから大人しくしていないさい」
「ダメです! だって、だってそんなことは……! お嬢様も望んでいません!」

 小悪魔の目が、怯えきった姿の中で唯一振れない決意の宿る瞳が、フランドールを真摯に見つめていた。
 フランドールの中の不愉快さは気化したガソリンに似ていた。それは、彼女の中でエネルギーとなる燃料である。そのガソリンの噴出が、小悪魔の言葉によって加速した。

「はぁ?」
 
 心底不愉快な表情でそう漏らし、それから溜息を付いて、フランドールは小悪魔を見返した。

「――退け――」

 暗い、まるで地鳴りのような重たさを持つ声が響く。
 紅玉に煌めく瞳が、縦長に細められた暗黒の瞳孔が、小悪魔に向けられる。
 その目と声だけで、小悪魔の中に固められていた決意や意志が崩壊した。

「あっ……」

 力が抜ける。思わずその場にへたり込み、目を逸らすように俯いてしまう。悪魔は上位には逆らえない。怪異の中に潜む、生物的な無意識の恐れが、小悪魔を守るようにそうさせた。
 その姿に、吸血鬼は満足いったように微笑む。まるで幼い子供の勇気を湛える母親のような笑みで、一歩二歩と小悪魔に近づき――その横を素通りした。 

「優しい小悪魔。頑張ったね小悪魔。偉いよ小悪魔。可愛らしい、今度一杯可愛がってあげるから、今はパチェを心配なさい」

 通る間に優しく囁かれた言葉はするりと小悪魔の耳に侵入する。脳内で反響し、弾かれたように地べたを這いながら、小悪魔は魔女の元へ向かう。そうしてやって来た小悪魔の顔には、ひどく悲しみに歪んでいた。魔女は悔しさに歯を擦り合わせる。
 静かになったホールに、フランドールの羽の結晶が打ち鳴らす小気味よい音だけが響いていた。
 やがて、彼女は咲夜の前にたどり着く。

「遅くなってごめんね、咲夜」

 十六夜咲夜は答えない。 
 
「皆が困ってるよ、咲夜。どうしてこんな事をするの咲夜。貴女、お姉様のメイドじゃない。主人を困らせるなんて、いけないわ。悪い子ね、咲夜」

 十六夜咲夜は答えない。

「ねぇ、どうして寝た振りをするの、咲夜」

 十六夜咲夜は、答えない。

「……な~んて、まぁ言うだけ無駄か」

 フランドールは肩を竦めて諦めるような笑みを浮かべる。あるいは破壊神が与えた最後の勧告だったかもしれない。さて、と気を改めるように言って、フランドールは黒い剣を両手で大きく振りかぶった。

「最後だから言うけど、私咲夜のこと大嫌いだったんだ」

 そう告げて、フランドールは剣を思い切り振り下ろす。


 
 ―――6―――

 小悪魔が起こった出来事を理解できたのは、それが起こってから一息ほどの時を要した。
 まず鈴の音が聞こえた。
 それからフランドールが吹っ飛んだことに目が奪われた。
 彼女は真っ直ぐにかつ高速で、まるで十六夜咲夜から弾かれるように吹き飛ばされ、ホール入口の扉より上部の壁に激突した。
 それからすぐに咲夜に目を移す。けれどそこに立っていたのは十六夜咲夜ではなかった。 
 
「間に合ってよかった……お二人共、大丈夫ですか?」

 紅い髪の妖怪――美鈴だった。
 視線をフランドールの方から外さず、彼女が聞いてくる。格好は左手を挙げ、右手で拳を作っていた。恐らく左で棒を受け止めて右拳で吹っ飛ばしたのだと小悪魔は察する。

「ごほ……相変わらず、来るのが遅いのよ」
「すみません。何分鈍い感覚がさらに鈍ってしまって。小悪魔、平気?」
「は、はい……」
「そう。よかった。じゃあパチュリー様をよろしく」

 言い終わるのが先だっただろうか、フランドールがゆっくりと床に降り立った。

「いたた……美鈴。酷いわ、いきなり割り込むなんて」
「申し訳ありません妹様。でも妹様だって酷いですよ、私の……獲物を、横取りしようとしたんですから」

 言葉を選んで〝獲物〟と表現したが、ちょっと違和感が残ると美鈴は言って後悔した。役目とか食事とか、もうちょっと理性的な方で言い表したかった。

「出来るの? 貴女に」
「そうでなければ貴女の前に割り込みはしません」
「出来ないでしょう、貴女には」
「そうだとしても、妹様にはお譲りしませんよ」

 不愉快そうに眉を顰めて、フランドールは美鈴を睨む。美鈴は基本的に、フランドールに対して肯定的かつ甘い。それは機嫌を損ねると困るのが少し、あとは大半がフランドールの行動に不利益がないからだ。
 フランドールの行動というと破壊に目が行きやすいが、実はそうでもない。普段は静かに、読書やお茶やゲームを楽しみ、それらを望む程度。破壊活動は滅多なことでは起こらない。だから美鈴もフランドールには滅多なことでは怒らない。
 けれどそんな美鈴がフランドールに意見したということは、彼女が怒りを抱いているという証拠だった。

「だったら貴女は、誰になら譲るのかしら?」
「これまた意地悪な事をおっしゃる……そうですね、望まれるならお嬢様ですかね」
「なら尚更私がやるべきだわ」
「危ないです。壊れてしまいますよ」
「知らなかったの? 最初から壊れているのよ」

 瞬間、吸血鬼は妖怪の前に迫っていた。黒い棒を素早く振りかぶり、横に薙ぐ。美鈴はそれにしっかりと反応し、すぐさま足を広げてそれを腕と肩で受け止めた。鈍い音が響く。彼女の髪が風で横に流れるが、勢いで体が浮くようなことはなかった。
 美鈴は当てられた枝を掴み、フランドールの力に対抗して、その穂先を上に向けてずらして行く。

「変な技っ……!」

 フランドールからしてみれば、勢いを吸収されたような奇妙な手応えが残り、その奇妙さに歯噛みする。

「私としては妹様のお力をずらすことで精一杯ですけどね」
「そう? 私としては流されてるようにしか思えないんだけどね」
「流れを変えるのは得意なのかもしれません」

 美鈴が思い切りフランドールを押し返した。フランドールもそれに合わせて跳び、膝をついて着地。その顔には笑みが浮かんでいた。戦いを好む者の、凄みの滲む笑みだ。
 吸血鬼が疾駆する。美鈴の直前で踏みとどまり、それまでの慣性を乗せて黒枝を突き出す。美鈴は穂先を躱し、枝の胴を掌底で叩いて軌道を逸らした。そのまま枝を掴み引き寄せる。フランドールとの距離を限界まで切り詰めた所で、美鈴は思い切り吸血鬼の頬を叩いた。

「いった……!」

 思わずフランドールはそう声を漏らした。彼女にしてみれば久しぶりに感じた、鮮烈な痛みだ。頬を叩かれるのも数年ぶりで、思考と行動に空白が生まれた。呆然とした表情で頬を抑えながら、フランドールは美鈴を見上げる。美鈴の眉は怒りで傾いていた。

「どうして叩かれたか、お分かりですよね?」
「え、えと……」

 言い訳を考えてしまう。まるで歳相応の子供だった。頬を叩かれたことで、無意識でも気持ちが子供にまで退行してしまった。けれどすぐにフランドールも正気に戻る。

「分かってるけど。分かってないのは美鈴の方なんじゃない?」
「ええ分かりません。妹様も教えてくれませんし」
「美鈴だって教えてくれないじゃん。おあいこでしょ」
「そうですね。おあいこです。じゃあ妹様、頬叩いていいですよ」

 そう言って美鈴は頬を突き出してくる。フランドールもその頬を叩いた。小悪魔はその速度を捉えることができなかった。吸血鬼の力によって首が吹っ飛ぶようなことはなかったが、美鈴の頬がほんのりと赤みを帯びる。

「……気が済みましたか」
「済むわけ無いでしょ」

 視線が美鈴とフランドールの間で激突する。
 吸血鬼の紅い目が、妖しく光る。魅了の眼光。

「――退きなさい――美鈴。これは命令よ」
「退きません」

 ただし美鈴には効果が無い。

「今すぐこれを収め、お鎮まりください」
「それはいくら美鈴の意見でも聞けないなぁ」
「そこをなんとか。このままではお嬢様も悲しんでしますよ」
「まーたその話か」

 フランドールは枝を捨てて下がる。距離をとって、うんざりしている顔を美鈴に向けた。

「みーんなお姉様お姉様ってさぁ。好きすぎでしょ、お姉様のこと」
「妹様ほどではありませんがね」
「だったらどうして私の言葉が聞けないの? 私、これでもお姉様の事を思ってやってるんだけど」
「お嬢様との望みと違うのであれば、思ってやっているからといって通るわけではありません」
「だーかーらーさぁ……」

 自分でもよく我慢したな、とフランドールは自分を褒め称えたい気分だった。
 けれどフランドールの怒りは、ついに限界を迎えた。

「分かってないのはそっちじゃんッ!!」

 その怒声は大気を揺らし、小悪魔が身を竦ませる。

「アイツのため? アイツの望み? ハハッ、大層なこと言って引き延ばそうとしてるけど、でもその結果がこれじゃない! 馬鹿な奴ら、美鈴もパチェも小悪魔もお姉様も! みーんなバッカじゃないのッ!」

 誰も言い返せない。これが所詮延命であることは、言わずとも皆が分かっていた。それでも改めて指摘され、それを自覚し、自戒する。

「魔女は魔法も使えず、その使い魔は主を守らないし、気を使う妖怪は気が利かない! 吸血鬼だってずっと棺桶に入って、まるでミイラ! こんな体たらくでどうやってこの異変を解決するっていうの!」

 それとも、と吸血鬼はその時だけ微笑みを浮かべて愚者たちに問いかける。

「皆で一緒に消えるのが、お姉様のお望みなのかしら?」

 違う。と美鈴は思った。けれどそれが自分の感情に基づいているのか、しっかりとレミリアの思考を追った末のものであるのかは、判別できなかった。
 フランドールの叱咤が一番心に刺さっていたのは、美鈴であった。
 美鈴は考えていた。一緒に消えるのが最善じゃないかと。
 一緒に消えてやるのが、せめてもの手向けじゃないかと。
 せめて自分だけは、一緒に消えてあげよう、と。
 
「そんなの、私は許さない!」

 そう。きっとそれは許されない。

「私、お姉様が嫌いなの。知ってるでしょ? だからお姉様の思い通りになんてさせてあげない! 全部ぶっ壊してあげる! だから美鈴、お願い、そこを退いて?」

 フランドールの甘えるような声が、美鈴の耳からするりと侵入し、反響する。
 もう悩むことはない。任せてほしい。そうすれば楽になれる。そんな気持ちにさせる言葉で、悪魔は人を誑かす。心を溶かして啜るのだ。
 美鈴は握っていた黒枝を地面に落とす。その対応にフランドールは満足気な笑みを浮かべた。説得が通じたと思ったのだろう。
 だが直後、美鈴は両手を滑らかに動かして、その指先を吸血鬼へと向けた。
 
 構えたのだ。拒絶の意思を、フランドールへ向かって。

「残念ながら妹様。それは無理なお願いです」
「あー……」

 フランドールは上を向いて気の抜けるような声を吐く。
 彼女にとってはもう最後の譲歩だった。ここまで我慢出来たことに驚愕を禁じ得ないくらいだ。これほどの怒りを溜め込んだのは、本当に久しぶりだった。およそ二ヶ月の間、棺桶に閉ざされた中で相当の鬱憤が溜め込まれていた。

「ほんっと、うるさいなぁ……」

 その堪忍袋の尾が、ついに切れる。

「うるさいうるさい、うるさいなァ! あああアァァァ―――ッ!!」 

 

     絶叫。



 癇癪を起こした子供なんてものではない。この世の者ではない存在が発する、人の心を萎縮させ恐怖の水底へと突き落とす轟音だ。常人が聞けば足が竦み、力は抜け、どんな絶望よりも鮮明に傷跡を残す叫喚。
 小悪魔やパチュリーでさえ、フランドールを見る目が揺れた。
 遠く、未だチェスの駒を弄ぶレミリアにも、その絶叫は届く。
 そしてそれに直面した美鈴は、けれど静かに構えを崩さない。

「どいつもこいつも私の邪魔ばっかりしてさァ! 聞きたくもない戯言で囀ってさァ! 何様のつもりなのかしら! ああもううんざりする! ほんッとうんざりするッ!」

 フランドールは両手で顔を覆う。そして徐ろに自身の顔に爪で縦傷をつけていった。突発的な衝動による自傷行為だ。
 血がまるで涙のように頬を伝い溢れていく。
 その形相は憤怒に歪み、染め上げられていた。

「やっぱり私は邪魔なんだ……! 私がいるから迷惑してるんだ……! 私が何かするのが間違いなんだ……! くそ、くそくそ! そんなの認めない! 私は正しいんだ! 私がやるんだ! 誰にも邪魔させない!」

 吸血鬼は右手を美鈴に向ける。その右手は全てを破壊する吸血鬼が、そう称される所以。

「美鈴さん!」

 思わず、小悪魔は叫んだ。
 あの能力の威力は、共に研究した魔女の侍従たる彼女もよく知っていた。問答無用で対象を破壊出来る。あの右手に〝目〟が召喚されれば、もう逃げることは出来ない。
 それを知っているだろうに、美鈴は動かない。
 世界が、如何にしても動かなかった世界が、震える。
 微細な振動が、地面と空気を震えさせる。
 膨大な魔力が世界を揺るがしていた。

「めいり~ん? 最後に言い残すことあるぅ?」

 フランドールの顔は笑っていた。血の涙を流しながら、苦痛を抑えるように。
 はやくその苦痛を開放したくてしょうがないだろうに。つくづく感じる慈悲の深さに、美鈴も笑みを浮かべるしか無かった。同じように、彼女を慈しむような思いが溢れてくる。
だから美鈴は優しく笑って、助言した。

「後頭部にお気をつけ下さい」
「はぁ? 意味分かんない」

 フランドールの手の中へ、虚空から生まれた光が集まり、消えていく。何かの〝目〟を掴もうとしている。この世界で能力が使えるということに、これには魔女も驚愕するしかない。時の拘束すらも打ち破るほどの魔力が渦巻いていたのか。
 こんな状態の能力発動は見たことがない。これまでよりも強大な威力を発揮するかもしれない。
 それこそ、一線を越える、魂ごと捻り潰せるほどの力を。
 世界が揺れる。光が集まり続ける。その中心点が、一際大きく瞬いた。
 
 パァン――と何かが弾けるような音が響き、その場にいる者たちに甲高い耳鳴りを齎した。
 
 それと同時にフランドールが大きく仰け反った。まるで頭を殴られたような仰け反り方だ。それを、足を一歩引くことで、吸血鬼は後ろへの転倒を防いだ。
 光の収束が止み、世界の振動が鳴りを潜める。
 何が起きたのか理解できなかった小悪魔は、構えを解く美鈴と安堵の一息を吐くパチュリーの姿に、困惑を極める。
 疑問を口にしようとした時、仰け反っていた吸血鬼の口から小さく声が漏れた。

「いったぁ……」
「大丈夫ですか? 妹様」

 美鈴が、いつもの調子で心配するように声を掛けた。フランドールは天井へ上げていた顔を美鈴に向ける。痛そうにおでこを抑えながら、その顔にはもう怒りはなく、それどころか感情というものの気配すら感じられなかった。

「うん、大丈夫。ごめん。おはよう美鈴」
「はい、おはようございます妹様」
 
 とりあえず危機は去ったのだと、恐怖に震えていた小悪魔の心は強引にそう結論付けた。



 ―――7―――

「あーひどい。いつも思うけどこの切り替わり方は酷いわ」

 先ほどの気迫も完全に消え失せ、フランドールはおでこをさすりながらぼやく。
 難局が去ったことを確信し、小悪魔は立ち上がろうとするが、力が抜けて立ち上がれずにいた。それを察し、美鈴が駆け寄り、手を差し伸べてくる。

「大丈夫、小悪魔?」
「すみません。私は大丈夫ですから、パチュリー様を……」

 言いかけたところで、小悪魔はフランドールがパチュリーの元へ向かい、彼女の立ち上がりを補助しているさまを見て言葉を止めた。それから申し訳無さそうに美鈴の手に捕まり立つが、足が震えて覚束なかった。美鈴は彼女を抱き上げて、近くの椅子に座らせた。

「すみません。重ね重ね……」
「うぅん、こっちこそごめん、遅れちゃって。連絡がなかったら気づかなかったわ」
「それにしても、あのフランドール様は一体……?」
「あ、そっか。小悪魔は知らなかったっけ。あれはあの方の……うーん、相棒というかなんというか」
「人格でいいよ、それか魂の片割れみたいな。小悪魔もごめんね、大丈夫?」
「あ、は、はい……」

 小悪魔の近くで、美鈴たちは立ったまま対面する。座っていることを恥じる小悪魔だったが、今しばらく足に力は入りそうになかった。

「ん~、折角出てきたはいいけど、私が出来る事ってほとんど無いよね」

 フランドールが腕を組みながら言う。しかし美鈴は首を振った。

「そんなことはありませんよ。妹様のお知恵があれば、この異変も解決できることでしょう」
「知識の魔女を前にしてお世辞を言わなくてもいいのよ美鈴。実際私の〝表の方〟は考えてあのざまだからね。思い込みが激しくてさ。まぁそこが可愛い所なんだけど」
 
 自賛するのね、と魔女が毒を吐く。
 自我だからね、と吸血鬼は水に流す。

「けれど妹様、三人寄れば文殊の知恵、情報の共有者は一人でも多いほうがいいでしょう。どうか我らにお力をお貸しください」
「うん、もちろんそのつもりだよ。知恵の方は微力だけどね」

 平坦な物言いだった。感情の起伏というのが、声音からは全くと言っていいほど感じ取れない。それが今のフランドールの状態であった。
 小悪魔は困惑していたが、それに気付き、フランドールが表情を変えずに声をかけてくる。

「びっくりした?」
「え、ええ、それは、まぁ……」
「今までもちょいちょい出てたんだけどね、小悪魔は大体図書館だから合わないか。咲夜とも合ってないんだけどさぁ。私、この状態じゃ外でないし。まぁとにかく、私は〝表〟と違って乱暴も暴走もしないから。むしろそういうのを抑えるのが私の本質なの。セーフティみたいなね。だから私のことはフランドール・リバースもしくは裏フランとでも呼んで?」
「え、えっと、裏フラン様、ですか……」
「貴女に裏も表もないでしょう」

 困惑する小悪魔に、魔女が口を挟んで助け舟を出す。

「じゃあ第八のフランドールで」
「貴女の場合、たまたま冷静になってるだけってのがしっくり来るわよ」
「とりあえず妹様、いえ裏妹様、私達はお嬢様のところへ行きましょう」
 
 話を進めるべく、美鈴がそう提案するとフランドールも頷いた。しかしこれにパチュリーが言葉を引き継ぐ。

「私達も行くわ。霊夢の検分は終わったし、そろそろ本格的に事態を解決しなくちゃいけないでしょう」
「分かりました。お嬢様は正面テラスにおられます」

 美鈴が先導して歩き出す。パチュリーたちもそれに続くが、フランドールは歩き出さなかった。

「……美鈴」

 フランドールの呼びかけに、美鈴が振り返る。彼女は感情の宿らない瞳で、けれど真っ直ぐに美鈴の目を見て声をかけてきた。何事かと振り返るパチュリーたちに目もくれず、フランドールは射抜くように美鈴を見つめている。

「……何でしょうか?」
「さっき言ったよね。譲るならお姉様だって。でもそれ、絶対やっちゃダメだって、分かってる?」
「もちろんですよ。やるなら私がやります」
「今からでも遅くないよ。私がやってあげる。どうせ、壊れてるし」
「ありがとうございます。やっぱり妹様は優しいですね」

 どちらも視線を外しはしない。二人だけの疎通、言外の意志すらも汲み取って、それを言葉として、明らかにしていく。
 フランドールは優しい。ともすれば、この紅魔館の誰よりも。美鈴はそれをよく知っていた。だのに彼女の持つ力が〝破壊〟というのは、全く皮肉な話だ。

「でもそれではお嬢様が悲しみます。それは私が嫌です」
「私、美鈴が消えるのも嫌だな」
「大丈夫です。フラン様にはお嬢様がおられる。パチュリー様がおられる。小悪魔や妖精、そして幻想郷の方々が。百年経てば、私のお墓に酒でも注いでください」
「百年は長いなぁ」
「じゃあ二十年くらい? 寂しければ魔理沙と霊夢にお会いになってください。きっと溢れるくらいの活力をもらえます」
「頑固だなぁ」
「妹様ほどではありませんよ」

 その言葉を聞いても、フランドールは笑わない。けれどきっと、笑っているのだろうと美鈴は思った。フランドールは振り返り、咲夜の方を向く。

「そっか。じゃあ美鈴、色々任せるね――」

 それを最後に、フランドールはあっさりと崩れるように、地面へと倒れてしまった。



 ―――8―――

「遅かったじゃない」

 美鈴たちがレミリアの待つテラスへやってきた。彼女はそれを笑みで迎え入れるが、すぐに怪訝な表情へと変貌させる。

「酷い顔だな」
「……すみません」

 誰もが沈鬱な表情でその場に立っている。唯一座っていたレミリアの表情からも笑みが消え失せる。

「で、状況は」
「私から説明するわ」

 パチュリーが進み、レミリアの対面へと着席する。顔に影は残っているが、それでも進めなければならないという苦みが滲んでいた。
 フランドールの暴走と、その顛末。
 それを黙って聞いていたレミリアは、パチュリーと同じように苦さを滲ませた表情で溜息を吐いた。
 
「ひとまず、みんなご苦労様。大変だったわね」
「全くね。ここ数時間で色々起こりすぎよ」
「異変の解決なんてこんなもんだったろう?」
「まぁね」

 吸血鬼と魔女の軽口を耳に通しながら、美鈴はずっと頭の中で自責の念と向き合っていた。
 思い出す――フランドールが倒れるその様を。
 彼女は他の者と同じような攻撃を受けたに違いない。
 攻撃と言っていいのかもわからない。それにはまるで予兆がない(感じ取れないだけかもしれないが)。どうすれば防げるか分からない。
 フランドールを霊夢の隣に寝かせ、検分をパチュリーと小悪魔に任せていた間、美鈴はずっと咲夜を見ていた。
 
 またやってしまったという後悔の念が、その時の美鈴の胸中には渦巻いていた。

 霊夢の時、そしてフランドールの時。どちらも美鈴が止めに入ったことで生じた結果だ。もしも止めなければ、こんな事にはならなかっただろうか。そう考えると心が重くなる。

 フランドールがレミリアにとってどういう存在であるのかを知らない美鈴ではない。

 もちろんそれは咲夜も同様だ。故に、フランドールが倒れてしまった今、被疑者である咲夜の意志がますます分からなくなってしまった。
 美鈴はフランドールから取り上げた黒枝を拾い上げて、その穂先を咲夜へと向けた。その行動に声を上げる小悪魔だったが、パチュリーがそれを制し事態を静観させる。フランドールから事を託された美鈴がどう動くのか、それを止める権利はないとパチュリーは考えていた。

 けれどその時の美鈴の胸中に、使命や大義といった崇高な物は宿っていたなかった。

 あったのは、あわよくば自分も眠れないだろうかという、甘えた考えだった。
 敵意を向ける。そうすれば、意識を失い全てが終わった後に目が醒めるのではないか。全てを夢のように終わらせることが――逃げることが出来るのではないか。
 依然として動かない咲夜を鋭く睨み、美鈴は張りぼての敵意を向け続けた。
 しかし意識が遠のくことはない。
 目を瞑っても、いくら待っても睡魔はやってこない。
 握りしめた黒枝の重量だけが、美鈴の手と腕に鈍い感覚を残していた。
 
 やがて美鈴は、その黒枝の穂先を地面へと突き刺す。

(――あぁ、くそ)

 ここに来て自身の覚悟が揺らいでいることを感じ、後悔と罪悪感が倍増する。
 頭が重い気がして、黒枝に額を当てた。ひんやりと冷たい。その冷たさで頭が覚めないかと思ったが、そんなことはなかった。
 しばらく頭を預けて、霊夢やフランドールの言葉を反芻する。

「本当にやれるの? 一応同僚でしょうに」

 出来ないかも。

「色々任せるね――」

 勘弁して下さい。

「私がやるよ。それが主の務めという奴だろう?」

 最後に思い浮かべた言葉――レミリア・スカーレットの言葉。
 なんて頼もしいのだろう。なんて魅力的なのだろう。
 自分が逃げ出したいからという情けない理由で、主を頼ろうとしている。これじゃあまるで子供だった。
 情けなさなすぎて、笑えるほどだった。

(どうすればいいんだろ……)

 美鈴は完全に霧の中を彷徨い歩いている。もう抜け出すことは出来ないかもしれない、それ程に深い霧の中だ。霧が彼女の体に纏わりつき、足取りを重くしていく。足を止めて立ち竦んでも、重さは増えていくばかり。
 結局美鈴は、魔女の検分が終わるまでそうして頭を悩ませ続けていた。
 その悩みはレミリアの元へ戻った今でも晴れることはない。

「まさかフランまで倒れるなんて、予想外だったわ」

 レミリアは肘掛けに置いた腕で頭を抑え、声には疲労が浮かんでいた。しかし思いのほか怒りは宿っていないようだった。魔女は意外そうに眉を吊り上げる。
 しかし、ここにいる全員が油断していた。この空間で過ごして二ヶ月、ずっと活動できるのだから被害は及ばないと思っていた。その前提が崩れ去り、各々の中で少なからず焦りが生まれていた。

「眠る瞬間を見れたのは僥倖ね。本当に、影も形もない攻撃だったわ」
「正直攻撃と言っていいのかすら分からないがね」
「我々が不利益を被っているのなら、それはすでに攻撃なのよ」
「問題は、その攻撃とやらが誰からどうやって繰り出されているかだが……」

 魔女も一つ、重い溜息を吐いた。
 彼女たちの中での容疑者筆頭――十六夜咲夜の存在が、気を重くさせている。
 咲夜はレミリアの従僕であり、紅魔館のメイド長。時を操る能力と共に彼女は幻想郷でも広く認識されており、何度か異変解決へも出向いている。
 夏の昼で止まった世界。見えない攻撃。犯行を連想させるには十分だった。

「とうとう決めるべき時が来た、ということね」

 パチュリーが言う。その場にいる者達の視線が、彼女に集まる。

「咲夜を殺すか生かすか。まず決めなければならないのはそこよ」
「いきなりだな」
「いいえレミィ、私達が今論ずべき点はそこのみ。さぁ、決断なさい」

 視線が移り、今度はレミリアに集う。「だからいきなり過ぎるって……」というぼやきも沈黙に飲み込まれてしまった。まぁ魔女が言うのだから間違いはないのかもしれないという諦めが、反論の意志を折れさせる。
 それからしばらく、レミリアは唸った。ん~、と悩んでいた。
 彼女の思考を妨げようと声を出すものはいなかった。
 
「……咲夜はさぁ、私のこと恨んでると思う?」

 悩みの果てに零れた質問に、パチュリーと小悪魔は驚いたと目を見開いた。美鈴だけは、視線を揺らして床を見てしまう。

「あ、ありえませんよ! だって、あの咲夜さんですよ?」

 思わず声を荒らげたのは小悪魔だ。彼女もこの館で働いて、相応の時間がある。咲夜のことは小さな子供時代から知っている。ゆえに彼女が主たるレミリア・スカーレットを恨む事などありえない。それを疑うことは彼女への冒涜だ。

「そう、小悪魔はそうなのね。パチェはどう思う?」
「ありえるわよ」

 即答だった。小悪魔が思わずえっと声を上げる。魔女の返答は素早く、また確信に基づいたような硬さが宿っていた。

「それも十二分にね。だって考えてもみなさい、人間であるあの子をこんな薄暗い館に閉じ込めて扱き使って、それだけで恨まれる理由には足りるでしょう? それにレミィの我が儘さも加えれば、軽く倍はベットできるでしょうね」
「言ってくれるな親友」
「それにフランドールは眠らされたわ。今まで私たちが眠らなかったのは、何らかの理由があるからだと思っていた。温情か、はたまた逆に縊り殺すためだったか。けれどフランが眠らされたということは、少なくとももうそのどちらでもない。わかってるでしょうレミィ。フランは貴女の妹なのよ」

 魔女は知っている。レミリア・スカーレットがこの世で最も愛している存在がフランドールであることを。そこには何人も断つことのできない、古い家族の血が結ばれているのだと。それが脅かされている。よりにもよって、彼女が信頼する唯一の従僕の手によって。
 フランを取るか、咲夜を取るか。
 パチュリーは言外にそう言っているのだ。レミリアは不愉快そうに眉を顰める。

「で、でもだからって、そんな素振りは……!」
「それに――あの子は元が元なだけに、むしろこちらの方が自然であると言えるわ」

 小悪魔の言葉を塗り潰すように、低い声音でパチュリーはそう締めくくった。鋭い視線が小悪魔に向けられ、彼女はそれ以上言葉を紡げなかった。

「あんまり従僕をいじめるなよ」
「貴女ほどではないわ、レミィ。ねぇ、貴女もそう思っているんでしょう?」 
「…………」

 魔女と吸血鬼は沈黙した。貫く視線を放つのは魔女、それを避けるように逸らしたのは吸血鬼だった。その視線の先に、美鈴が立っている。言われなくても美鈴には理解できた。お前はどう思う?
 美鈴は目を閉じて考える。

(恨んでるなら)

 きっと、その恨みは巨大だ。
 この世界が、その感情の値を物語っている。
 終わらない夏。暮れない昼。停止した棺。
 吸血鬼を殺すための世界。
 見えない攻撃。意識外からの接触。
 条件は揃っている。動機も十分。

 十六夜咲夜の笑顔が浮かぶ。そうして過ごした、今までの時間。

 その全てが偽りであるならば、彼女はやはり人間よりも強い。
 化け物じみた人間だ。
 強大な能力と、感情。それらを抑え込む精神力。
 それとも、元より人間にはこういった力があるのだろうか。
 妖怪が、人間どもから逃れたように。
 十六夜咲夜にも、人間らしい部分があるのだろうか。妖怪を憎むという、光の面影が。
 
(……でも、そうでないなら?)

 ここまで揃っていて、何を信じればいい。
 この二ヶ月で、何を見てきた。
 二ヶ月。

「二ヶ月、か……」

 美鈴がそう呟くと、他の三人が彼女に注目した。何かを期待する目、疑う目、笑う目、向ける目はそれぞれだ。でも、誰もが声を掛けたりはしない。
 美鈴からしてみれば、それはただ単に思考を声に出して再確認してみたに過ぎない。けれどいざそうすると、頭の中にそれは鮮明に響いた。
 二ヶ月。この止まった世界が始まった期間。
 最初は終わらない夏を楽しんだりもした。永遠の休暇を手に入れたような高揚感。それはやがて焦燥に変わり、諦観へと落ちていった。
 思い返せば。

(意外と短かったな)

 そう。
 十六夜咲夜と過ごした期間から考えれば、なんて事はない一幕だ。
 一瞬だ。
 比べれば、考えるまでもないかもしれない。
 根拠としては弱い。
 でも自分を納得させるには十分だった。

「……うん。ありえませんね」

 言葉にしてしまえば、すんなりとそれを受け止めることが出来た。
 それが彼女の出した結論。

「ほう。どうして?」

 吸血鬼の問に、妖怪は笑った。本当に自分の主は、他人を困らせるのが好きらしい。根拠が薄いことも見抜いておいでだ。だから美鈴は言った。

 十六夜咲夜はレミリア・スカーレットを恨まない。 
 完璧で瀟洒な従者の二つ名は伊達ではない。
 過去に何があろうとも、その者はその命尽き果てるまで、主に忠誠を捧げる。
 それが悪魔の狗なのだから。
 
「そういう風に、育てたでしょう?」

 そう締めくくると、吸血鬼は声を上げて笑った。
 恥ずかしくはない。馬鹿にされている気もしない。
 一頻り笑って、落ち着いたら、レミリアは軽い溜息を吐いた。
 
「そうだな」

 吸血鬼はなおも笑っている。妖怪の肩から、荷が下りる。

「お前が育てたんだ、間違いない」
「いいえそれは違います」

 美鈴はすぐに否定した。まさか否定されるとは思ってなかったのか、レミリアは驚いた顔をする。

「私達が、でしょう?」

 それを聞いて、吸血鬼の顔に再び笑みが戻る。けれど今度は闇の指す魔物の笑みだった。凄惨な、血も凍るほどの暗い笑み。

「あぁ、そうだったか」
「えぇ、そうですよ」

 なら、これは決まっている話だった。
 いや、最初からこうなる運命だった。
 運命の女神は、最初からずっと微笑んでいるのだから。

「じゃあそうだな。可愛い私達の娘を助けようか」

 全員が頷く。異論はない。

「はいパチェ、何か策を出してくれ」
「なんであるって決めつけてるのよ」
「あるんでしょう? まさかここ一ヶ月図書館に籠って、解決策の一つも思い浮かばなかったとあっちゃあ、動かない大図書館の名が嘘になるわ」
「もちろんあるけどね」

 それでも、とパチュリーは拍手して場を仕切りなおす。

「まずは現状を把握しなければならないわ。各々この世界についての思いつくことを列挙しなさい。はい小悪魔」
「私ですか!?」

 いきなり指名されて驚く小悪魔だったが、すぐに唸って答えを考えだした。

「時間が昼で止まっています」
「そうね。他には?」
「感覚が鈍ります」
「そうね。他には?」
「つまり犯人は時間操作能力者!」
「平凡ね。はい次」

 小悪魔は項垂れた。
 指名されたのは美鈴。咲夜が犯人ではないことを前提に、疑問を口にしていく。

「そもそも本当に時間が止まってるんですかね?」
「ふむ、と言うと?」
「私は時間が停止した世界を見たことがないので分からないんですけど、この世界って水とか、間接的であれば魔法とか、普通に使えるんですよね」
「あぁ!」

 小悪魔は盲点だったとばかりに声を上げるが、魔女は予想通りだったようで、美鈴の答えには意地悪そうに笑みを深めるだけだ。
 確かに美鈴の言うとおり、この世界では、水遣りも、水を沸かすことも、魔法を使って連絡を取り、間接的に攻撃することもできる。

「それで?」
「もちろん、これだけで否定出来るわけでもないです。単にこの一帯の空の時間だけを止めている可能性もありますし。でも今回の被害者は全員眠っていますよね? これ、咲夜さんの能力っぽくないと思いません?」

 もし咲夜が犯人だとすれば、眠らせるという手段はらしくない。

「能力的に出来ないからでしょう」
「では他の手段で? それこそパチュリー様に答えをお聞きしたい話ですね」

 美鈴が笑みを浮かべながらそう言うと、パチュリーも一度表情を驚いたように崩した後、笑みで返した。

「そうね。では助言を与えましょう。被害者の体に傷、薬物の類は見られなかったわ。それで、他には?」
「霊感が鈍るというのも変な話です。しかも体内の霊力は知覚できるんです。だのに触れているはずの周り、世界の霊力が、まるで察知できない。どうしてでしょうか?」
「そういう世界なんでしょ」
「それを言ったらおしまいですよパチュリー様」

 でもいい着眼点ね、と最後に小さく、魔女は妖怪を褒めた。
 レミリアの方を見遣ると、彼女は苦笑してしっしと手を振る。はやく話を進めろということらしい。
 そろそろ頃合いだろう。パチュリーは咳払いし、答えを明かしていく。

「美鈴の言うとおり、咲夜を犯人でないと仮定するならば、この世界の時間停止は紛い物ということになるわ」
「というと?」
「一つ、世界は完全に停止していない。何故なら風はないのに川から水が引かれ、察知できないのに魔力を行使でき、いるはずのない精霊を従属させることが出来るから」
「やはりそうでしたか」
「一つ、この辺りを二ヶ月も時間を停止させれば外界にも異変が生じる。でも霊夢の話からそれらは認められなかったのでしょう? もしあの空一帯だけを停止させているとしたら、私達の感覚が鈍る理由がなくなる。そもそも咲夜の能力に時間停止をあれだけ継続させるスペックはないわ」
「出揃ってきましたね。他にはありますか?」
「一つ、眠っている者は皆無傷である。これは魔法が使われた何よりの証拠。そして咲夜は魔法使いではない」

 以上を持って、十六夜咲夜の犯人説は棄却される。
 
「で、誰が犯人なの?」

 吸血鬼が結論を急かすが、そこは説明好きの魔女、嫌らしそうな笑みを浮かべた。存外、探偵役がお気に入りらしい。

「勿体ぶるな」
「どうして? 推理は物語の華でしょうに」
「残念ながらこれは推理小説じゃないんだよ。解決編はスマートにいくのが私の信条なの」
「え~」

 ぶぅっと頬を膨らませる魔女の、なんと愛らしいことか。その顔に小悪魔は悶え、美鈴は苦笑し、レミリアは呆れ返った。

「ふん、レミィは先に犯人を暴くページを見るタイプね」
「ケースバイケース……で、犯人は誰なのよ、安楽椅子探偵の魔女さん」
「犯人は〝悪魔〟よ」

 さらりと探偵は告げる。だから思わず誰もが言葉を止めた。
 美鈴とレミリアは小悪魔を同時に見る。必死に首を振り否定する小悪魔。次いで、美鈴はレミリアを見る。レミリアも首を振って否定する。

「別に小悪魔やレミィや比喩表現で言ったわけじゃないわ」
「では誰何ですか?」
「私も知らない」

 その返答に、他の三人が首を傾げる。

「種族が悪魔だ、ということよ」
「はて、これまたどうして?」
「この世界、時間停止でないなら何だと思う?」

 そこまできて、あぁ、と小悪魔は得心がいったように手を合わせた。時間停止ではなく、犯人が悪魔。ここまで材料を与えられれば、同族である小悪魔が思考を出口に導くには十分だった。

「〝幻覚〟ですか」
「そう。これは錯覚の世界。偽りの夏を、私達は見せられているだけ」
「幻影結界ってことですか? でもそんな力を使う者で、私達にこれだけのことをしてくれる人なんていましたっけ?」
「新参者か、あるいは封印されていたか……何にせよ懲らしめてやる必要があるわ」
「幻覚だという根拠は?」
「一つ、時間停止ではないのに夏が続くとして、考えられるのがそれだから。
 一つ、被害者が外傷もなく眠りに落ちるのは精神干渉系の魔術である可能性が高い。幻覚と平行して使えるという点では可能性が高まる。それに眠らされた被害者が汗をかいていないのは夏の暑さが幻覚で、眠らされている被害者に幻覚を見せる必要がないという説明ができる。
 一つ、私達が世界を錯覚しているのであれば、霊感が鈍ることも頷ける。さらに言えば外に張り巡らされている空間の捻れ、あれもなんて事はない。検知した者の方向感覚を狂わせれば捻れを演出できるわ」
「あぁ、だから外側が見えるんですね」
「錯覚だけどね。外からは霧が漂っていたんでしょう? それがこの世界を映し出す境界線なんだわ」

 霧で覆ってしまえば、中ではどんな風景も映し出せる。
 光がなくなっても光が降り注ぎ、風がそよいでも届くことはない。

「さすがね、パチェ。で、犯人はどこにいるのかしら?」
「そんなのは決まっているでしょう」

 悪魔が犯人で、その姿は見えない。
 ならどこかに隠れている?
 魔女は引き篭もっている間に館の隅々を小悪魔に調べさせていた。その報告にそれらしき者はいなかった。
 ただ、唯一の場所を覗いて。

「さぁ行きましょうか。この錯覚の世界で唯一、本当に止まってしまった者の元へ」

 そこが真実の在処なのだと、魔女の笑みは雄弁に語っていた。


 
 ―――9―――
 
「結局、延命でしたか……」

 パーティーホール。小悪魔はスクロール型の魔導書を開いて咲夜の周囲に敷いている。魔女はそれを指揮。館の主とその作業を眺めていた美鈴はそんな風に声を漏らし、そしてそれを吸血鬼が聞き逃すはずもなかった。

「気にするな美鈴。世の中往々にしてそんなものだ」
「いやはやここまで清々しいと、最早言葉も出ない次第です」

 霊夢の選択が、実は正答であった。そんな事実を突きつけられれば、やはり博麗の巫女はレベルが違うなと脱帽せざるを得なかった。
 
「過程はどうであれ、我々は今真実の前に辿り着いたのだ。結果が全てさ」
「慰めにもなりませんよ。恥ずかしい体験は脳裏にこびりつく」
「あら、私は別に恥ずかしくはないわよ」

 作業を指示していたパチュリーが振り返る。彼女もまた、フランドールを止め事態の延命を図っていた。美鈴と同じ行動を取ったというのに、美鈴とは違うと彼女は言う。

「だってあの時はまだ、レミィが決断できてなかったでしょう?」
「それを言うなよ親友。まるで私が優柔不断のようじゃないか」
「そう言ってるけど伝わらなかったかしら?」
「恥ずかしい話は誰もが聞きたくないものだ」
「じゃあ、まぁ、みんな恥ずかしいということで、手を打ちましょうか」

 苦笑しながら告げる美鈴の締めに、二人も釣られて苦笑した。

「それに、私はあの子との約束を守っただけだしね」
「約束ですか?」
「他愛ない約束」

 私がもしもお姉様の迷惑になりそうだったら、その時はよろしくね――。

「姉を思う妹様との、可愛らしい約束」
「準備完了しました!」
「ご苦労様」

 小悪魔が下がると、パチュリーは持っていた魔導書の1ページを開き、文末を指でなぞる。するとそこから銀の光が溢れ、次いで刃が儀礼用の紋様を描きながら短剣を構築していく。細いいくつかの刀身が文様を描き、空洞を作り、刃先へと収束している。その刃を摘んで、パチュリーは柄を美鈴へと向けた。

「破邪の短剣……なんて、そんな効果もないけど」
「お嬢様、試してみます?」
「なんでよ! 痛いでしょ!」
「冗談です」

 差し出された柄を握り、美鈴はそれを受け取ると、手に馴染ませるように手遊びする。これがまた流れるような手捌きであり、最後にそれを大きく上に投げて、回転しながら落下してきた短剣の柄を背中に回した手でキャッチした。
 見世物としても成立するような見事なナイフジャグリングに、吸血鬼たちも感嘆の声を漏らして、小さな拍手を送った。
 
「う~ん、刀子なんて久しぶりすぎて、手元が狂わないか心配です」
「じゃあレミィでテストしてみたら?」
「もうその流れはいいでしょ!」
「冗談よ」

 美鈴は短剣を放り上げてはキャッチし、感触を馴染ませながら咲夜と対峙する。

「本当に私がやるんですか?」
「おいおい美鈴、ここにきて尻込みか?」
「訂正しますね、私がやっちゃっていいんですか?」

 パチュリー・ノーレッジは、犯人が悪魔であると主張する。
 そしてそれは十六夜咲夜に憑依しているのだという。
 古来より悪魔は人を惑わせて、大抵は取り憑くのが仕事である。そうして魂を乗っ取り、喰らい、人間に成りすましたり、呪いを振りまいたりする。そして社会に混乱を起こしていく。
 恐怖が満ちれば、腹が満ちる。力が増す。そうすればさらに多くの魂を喰える。
 自然の摂理。
 本来の習性。
 十六夜咲夜の周囲の時間は停止している。そしてその内側に悪魔はいる。
 
 それを叩き起こすのが、美鈴の承った役目だった。

「いいんだよ。オードブルくらいは譲ってやるさ」
「メインディッシュも譲ってくれたらやり甲斐も出てくるんですけどねぇ」
「図々しい下僕がいたものだ」
「主に似るという話は本当のようね」
「「似てない(ません)」」

 ジャグリングを止め、美鈴は短剣の刀身を怪訝な表情で見つめた。

「これで本当に起きてくれますかね?」
「あら、私の事を信じてないの?」
「あはは、何分気が利かないもので」
「大丈夫さ美鈴。七曜の魔女に失敗はない。何故なら既に99の失敗が積まれているからな」
「なるほど、なら起きるでしょうね」
「失敗は語らないのが私の流儀なのだけれど」
「秘密を暴く吸血鬼がいてもいいだろう?」
「御大層な趣味だこと」

 肩を竦めて溜息を吐いて、魔女は指を美鈴に向ける。美鈴はナイフを突きつけられた気分になった。

「狙いは任せる。どこに当ててもいい。目覚ましを鳴らしてあげなさい。魔力波動はあの子の停止空間に関係なく悪魔を叩き起こしてくれるわ」
「なるほど」

 一度放り上げて、横に薙ぐようにして柄を掴む。それから勢いを止めずに刃先を動かして、それを咲夜へと向けた。

「では、異変解決と参りましょう」

 吸血鬼と魔女と妖怪に、暗い暗い、闇の者の笑みが浮かぶ。
 美鈴が短剣を投擲する。そのフォームは、十六夜咲夜ほどではないにしろ美しく、どこか力に満ちて荒々しい。その瞬間をスローで見れるならば、短剣が曲線を流れるように滑り、そして妖怪の手を離れ、回転しながら一直線に人間の頭へと向かう様がありありと見てとれただろう。
 刃は空間を切り裂きながら、曲がることはない。

 くるくると、まるで時を刻むように。

 項垂れた十六夜咲夜の、その銀髪を整える純白のカチューシャに向かって。



 その刃が触れる――。

 ――そして弾かれる。



 時間の停止した存在に攻撃は通用しない。

 空間を切り裂けなければ停止時間への干渉は不可能だ。

 怜悧な金属音が、余韻を引きながら残響する。
 弾かれた短剣はそのまま軌道をずらして後方へと跳んでいき、地面へと突き刺さる。後にはその短剣が残した音だけが満ちるはずだった。
 
「あっ!」

 息を呑むような瞬間だったが、それでも小悪魔は声を発してしまう。
 十六夜咲夜のカチューシャ――美鈴の投擲したナイフ触れた場所――に、黒い亀裂が走ったのだ。
 その亀裂は蠢き、闇の霧を吐き出しながら、やがて一つの紅い虹彩を持つ目を剥き出した。
 否、一つではない。一際大きな目の周りに、いくつかのまばらな大きさの目玉が浮かび上がる。
 ひと目で分かる。異形だと。

「ふふん。真犯人のご登場だ」

 咲夜の後ろで風景が歪む。まるで陽炎のように蕩け、その向こうから巨大で古ぼけた天象儀が現れた。

「あれって、確かパチュリー様が倉庫から引っ張りだした天象儀ですよね?」
「あー、分かった。そういえばあれの制御板に下級悪魔が封入されていた気がする」
「はいパチェが真犯人だー」
「犯人が揚々と探偵をするとは炎上必至の結末だと思いまーす」
「冤罪よ。弁護士を呼んで、こちらには反論の余地がある」

 十六夜咲夜の時間が動き出した。
 最初は手、そして足。立ち上がり、顔を上げる。未だ眠っているかのように瞳を閉じて入るものの、ミニスカートから除く足や半袖の腕、手、そして顔に黒い文様が走る。

「うわ~お、完全に〝悪魔憑き〟って感じですね」
「あれっぽくない? ミストバーン」
「あぁ似てますね。私は生憎光の闘気が使えませんが」
「こんな時まで漫画の話をしないで。小悪魔!」

 パチュリーが叫ぶと、小悪魔は手に持った魔導板の画面に浮かんだボタンをタッチする。すると黄昏色の光のヴェールが咲夜の周囲に展開した。

「この結界は一方通行、10分ほどで解除されるわ。それまでに決めなさい」
「了解です」

 美鈴が結界の中に入っていく。

「美鈴、私の分まで取るなよ」
「善処しまーす」

 結界内。一対一。咲夜と対峙し、美鈴は抱拳礼で挨拶する。

「よろしくお願いします」

 一言告げて抱拳礼を解き、掌を滑らかに振るい、美鈴は構えた。
 十六夜咲夜はそれまで動かなかったが、彼女が構えた瞬間にピクリと肩を浮かし、額に浮いた瞳がぐりぐりと動き出し、それが美鈴を捉えた。
 動くまでに刹那もない。次の瞬間には美鈴の目前に数十のナイフが迫っていた。
 だがその次の瞬間には美鈴が消え、咲夜の目前に迫っていた。
 投擲されたナイフがバラバラに飛び散り、時間軸のずれたナイフの残像が結果へと到達して霧散する。
 懐に入った美鈴は脇に据えた両掌を伸ばして掌打を放つ。それは咲夜の腹筋を捉えた。

「よっと」

 美鈴からしてみれば、それは軽く小突く程度の力。ほんの小手調べだ。
 咲夜が後方へと吹き飛ばされ結界に衝突するほどの威力が、果たして小手調べかと言われれば、常人では首を傾げる話だ。
 まるで磔刑のように衝突した咲夜だったが、異形の瞳が再び激しく蠢動し、ふわりとその体が重力から解放される。地面へと降り立つと、彼女は指の間に柄を挟んで、八本のナイフを美鈴に振りかぶり投擲するが、それを美鈴は全て手で弾き飛ばした。そしていつの間にか現れていた九本目の指で挟んで止めた。

「能力は使えるみたいですね」
「魂魄侵食かしら……拙いわね、剥離が大変そう」
「早くしないと乱入しちゃうぞ美鈴」
「仰せのままに、我が主様」

 指で挟んだナイフをするりと口から胃に仕舞いこんで、美鈴は歩き出す。
 咲夜が持っていたナイフは左右の太ももに下げるホルダーに四本ずつ。今飲み込んだ一本は封じたとして、あと何本だろうか。
 そう考えていると、咲夜は別の形のナイフを二本持っていた。
 合計十一本。

「そんなわけないですよね」

 咲夜がナイフをあらぬ方向に投擲する。幾度かの跳弾。美鈴が地面にべたりと屈むとその上でナイフがぶつかり合い、甲高い音を立てた。
 地面に伏せていた美鈴が動く。立ち上がり突進。まだ見える速度で咲夜に迫るが、咲夜はその場から消失し、ナイフを構えて美鈴の裏手に瞬間移動する。
 しかし美鈴が急激に踵を返して咲夜の方向を向いた。指先二つを伸ばして額の瞳を貫き、咲夜の額を優しく押す。バランスを崩して後ろに倒れそうになるが、その姿が消え毅然とした態度で立つ咲夜が美鈴と距離をとって出現した。

「さすが咲夜さん、悪魔に憑かれても瀟洒ですねぇ」

 外野にいた小悪魔が感動の声を漏らすと、それに続けて吸血鬼が胸を張った。

「主として鼻が高いわね」
「その従者に反逆されてるって分かってるのかしら?」
「反抗期なんだろう」
「子供のことを甘く見ているから、大人になってから手酷いしっぺ返しを喰らうのよ。この母親失格」
「言い過ぎよ! 心が傷ついた!」

 咲夜が投擲したナイフを両手で持って近接戦を仕掛けてくる。美鈴は足運びや上体を移動させ、最小限の動きで彼女の攻撃を避ける。短く空を切る音が連続する。
 刺突が迫ると、美鈴が皮一枚でそれを躱した。すると大きな隙ができた。美鈴が身を屈め、全身の発勁で咲夜の脇腹へ"打開"を放つ。強い衝撃に咲夜が吹き飛び、再び結界へ激突する。
 美鈴が間髪入れず距離を詰めて、もう一度腹腔に両手を添えた。今度はその両手に虹色の光を灯しながら。

「グランドクロス! 覇ッ!」
 
 美鈴は嘘を吐いた。
 大きな発声とともに光が増し、電光が咲夜の体から迸った。その光に悶えるように咲夜は痙攣し、額の目たちがぐちゃぐちゃに蠢く。
 やがて光が止むと、咲夜は一切の動きを止めた。
 美鈴は一歩跳んで後退し距離を取ると、咲夜は結界を伝って地面に擦り落ちた。

「あーあ、結局食べちゃった」
「食欲だけは一人前ね」
「まさかこれだけで?」

 異形の目玉が再び美鈴を捉え、咲夜が壁を頼りに立ち上がっていく。

「ですよね」

 美鈴は笑う。あれで倒せるなら歯ごたえがなさすぎるし、逆に何かの罠かと勘ぐってしまうほどだ。
 それに何より、倒せてしまっては困る。まだまだ動き足りない。

「お嬢様ー、そろそろご一緒にどうでしょう?」
「相変わらず誘い文句が直球だな美鈴。そんなんじゃデートする前に振られるのがオチだ。レディを誘うときの方法は教えただろう?」
「美しいお嬢さん、あそこで膝をブルブル震わせる子鹿で一緒に優雅なバーベーキューでもいかがですか?」
「ん~ブリティッシュ。100点」
「貴方達の採点基準が解らないわ……」

 レミリアが歩き出す。結界を越えて中に侵入し、懐から血の入った小瓶を取り出して一気に煽った。その小瓶を放り投げて、それまでか弱い少女のそれであった吸血鬼の顔に覇気が戻る。瞳が紅く光り、虹彩は細く獲物を見詰め、その周囲に魔力が漂う。そして静かに、口元に手を添えた。

「うぅ、霊夢の血は美味しいけどお腹痛い……」
「お嬢様頑張れー! 主に愛の力で!」
「根性論で解決しないこともあるのよ、美鈴……」

 悠長な二人とは対照的に咲夜は無感動だった。けれど突然肩を震わせて、消える。
 次の瞬間には咲夜が突進とともに突き出したナイフがレミリアの眼前に迫り、美鈴は手でそれを防いでいた。美鈴の手から飛んだ血液が吸血鬼の頬に付着する。それを拭い、舐め取り笑う。

「苦いな」
「気付け薬には丁度いいでしょ、う!」

 美鈴がナイフごと咲夜の手を握り、逆手で肩を掴んでそのまま押し返す。結界の壁に押し付け抑えこもうとするが、ナイフを残して咲夜は消え、距離をとった位置で出現する。しかしそこには既にレミリアが迫っていた。
 レミリアの掌が咲夜の鳩尾を捉え、そのまま押し倒していく。けれど咲夜は再び消えて距離を取る。今度は美鈴が迫っていた。先ほどと同じように二本指が悪魔の瞳を狙っている。
 それを時間停止で回避しても、レミリアが間髪入れずに迫っていた。
 さらに回避しても、美鈴が迫っている。
 回避する。
 悪魔は困惑していただろう。時を止め攻撃を躱し、もちろんもう一人の動向も見ているはずだった。だのに次の瞬間には目の前に迫っている。
 その不可解さを言葉にすることも、声にすることも、悪魔には出来ない。ただ行動にしか表せない。時間の止まった世界で二人にナイフを投げる。
 どちらが迫って来ても対応できるように布石を打った。そして停止世界から帰還する。

「――!」

 しかしそれでも、美鈴はナイフを指で挟み迫っていた。
 レミリアは左目にナイフを貫かれてなお迫っていた。 
 二つの手が迫る。時を止めて躱し、距離をとって壁を背にして、咲夜は結界の隅でナイフを構えながら停止世界から帰還する。
 そこで美鈴とレミリアは止まり、連携攻撃はようやく終わった。
 
「ふむ、まずまずね」

 外側で見ていた魔女が言う。これは人外二人の連携について言及しているわけではなく、今の攻防で二人が入手したナイフの数のことを指していた。無論コンビネーションアタックに関して文句はない。
 三本、先程美鈴が胃に仕舞い込んだ一本も合わせれば計四本だ。
 悪魔は様子を見ている。すぐには攻撃してこない。
 レミリアは目に刺さったナイフを無造作に抜き取り、それを美鈴に手渡した。美鈴はそれを受け取り、血を拭って再び口に収めていく。手に刺さっていた物、挟んで受け止めた物も同様に胃の中へ。
 さぁ、咲夜の残弾数はいくつだろうか。

「二人共、もうあんまり時間は無いわよ」
「我知道了!」

 美鈴が吶喊する。咲夜がナイフを投擲し、能力で増殖させて迎撃を試みるが、美鈴は気にしない。腕を前方でクロスさせて顔面を守りナイフを腕に差し込みながら接近し、咲夜に体当りした。それを喰らい結界と美鈴に挟まれる形で拘束に成功する。
 
 そして美鈴の背中に十数本のナイフが飛来し、突き刺さった。

「ぐっ!?」
 
 いつの間にか空中に現れていたもう〝一人の咲夜〟がそれを投擲したらしい。美鈴の腕の中の咲夜が陽炎のように消えていく。
 その場にいる誰もが、咲夜の分身を見えてはいなかった。大量のナイフとそれの向こうに気を取られていた。
 お得意のミスディレクション。
 そして別時間の自身を囮としたタイムパラドクス。
 美鈴が徐に横に飛び退くと、その場に追撃で投擲された高速のナイフがいくつも突き刺さる。間一髪の回避だ。
 レミリアも浮いている咲夜に向かって飛び掛かるが、その場から消え吸血鬼の後ろに移動している。レミリアは蝙蝠の羽を大きく翻し、突風でナイフを振りかぶっていた咲夜を薙ぎ払う。

「美鈴!」
「平気です、多分……」

 そう言いつつ吐血してしまう。気道から出血しているかもしれない。口元を拭うが、出血が収まることはなく、唾と一緒に床に吐き捨てた。
 背中に刺さっている本数は五本。とりあえず筋肉に力を込めて挟み込む。
 
 そうして体勢を整えている美鈴の前に咲夜が現れ、腹部にキッチンナイフを突き刺した。

 まだそんな物を持っていたのかと美鈴が驚くが、そんな暇も、休ませる時間も悪魔は与えない。
 咲夜がナイフを捻り、傷口が開く。激痛が走り、血が再び喉元までせり上がってくる。美鈴は吐血を堪え、目の前にいる咲夜に向かって我武者羅に腕を振るった。当然咲夜はナイフを離してその場から消える。美鈴は安心して血反吐を床に吐き出し、それから倒れた。
 
「パチュリー様!」
「あれの心配なら後でしなさい小悪魔……もうそろそろね、レミィ!」
「分かってる!」

 咲夜はレミリアの攻撃を時止めで避け続ける。それを追うレミリアだったが、手数も減ってしまってはイタチごっこだ。
 咲夜が美鈴の後ろに出現し、彼女の背中に刺さったナイフに手をかける。ナイフの補充だろう、しかしそれを抜き取ることができないことに悪魔の眼が驚く。強大な力で挟まれていて抜けないのだ。美鈴は倒れたままで反応しなかったが、ついぞ背中のナイフが抜けることはなかった。

「おい!」

 レミリアが憤怒の形相を浮かべて咲夜との距離を詰め、大きく腕を振るう。彼女の赤い爪が五線を描くが、咲夜はその場から消えてしまう。
 咲夜はレミリアの後方で出現した。
 間髪入れずに吸血鬼にナイフが飛来する。それを腕で受け止めると、五本のナイフは一本になった。床を蹴って空中で翻り、レミリアは無造作に咲夜の服を掴んで床に向かって投げつけた。今まで最高速の飛翔。咲夜の時間停止も間に合わない。
激突した咲夜が消えることはない。能力の使用限界が来たのかもしれない。それでも胸に手を伸ばしていく。

「やっとか!」

 空中で翻りながら上昇し、天井に足をつけて力を貯める。そして跳躍。重力すらも味方にして、吸血鬼はメイドへと迫る。しかしその攻撃は一歩遅かった。
 咲夜が投げる。それが吸血鬼の眼前に迫った時、吸血鬼は自身の失態に気づいた。

 それはよく磨かれた銀の懐中時計。

 それを思わず手にとった瞬間、吸血鬼の時間は凍結する。停止時間領域の込められた時計の弾丸だ。魔女は目を見張り「しまった!」と声を上げる。
 忘れていたわけではない、ただ使えないと思っていた。悪魔にそれほどの知能があると思っていなかったのだ。完全に油断していた。
 咲夜に取り付いた悪魔が、彼女の胸に手を入れて、胸の谷間から一本のナイフを取り出す。
 
 それは磨き抜かれた銀のテーブルナイフ。

 吸血鬼が彼女に送った、自身を傷つけることの出来てしまう"呪いの食器"。
 メイドが隠し持つ、十三番目の武器。秘中の秘。
 それを倒れたまま、震える手で、悪魔は投げた。
 悪魔には分かっていた。そのナイフに破邪の力が込められていることを。それは闇の眷属が忌み嫌う陽光の祈りが捧げられているのだと。
 だから触りたくなかった。だから最後まで投げなかった。
 その様に気品はなく、優雅さもなく、かといって武骨さもない。
 辛うじて――投げつける。
 
 まずいと魔女は思った。あれを喰らえば、さしもの〝吸血姫〟レミリア・スカーレットもただでは済まない。全快ならまだしも、彼女は病み上がりだ。夏の日差しで乾き、それを巫女の血で無理矢理動かしている。回復に何年掛かる。
 どうすることも出来ない。魔女の頭のなかで懸念が高速で渦を巻く。光が深く飲み込まれていく。
 くるくると、銀のナイフが吸血鬼に飛んで行く。

 それを見る悪魔の目が、まるで笑っているかのように細まる。勝利を確信しているかの如く。

 実際、悪魔にそんな思考や感情はない。

 それでもそんな反応をしたのは、この戦いで悪魔に感情が生まれていたのかもしれない。

 それとも元から備わっていたのだろうか。

 
 ナイフが飛んで行く。吸血鬼に向かって。


 まるで時計の針のように。

 
 くるくると回って。



       弾かれる。



 今度は悪魔の目が驚愕に満ちる番だった。
 
 
 薄い、ガラスのような材質の魔法板が、ナイフとぶつかりその軌道を逸らさせたのだ。
 

 弾かれたナイフが綺麗にその弾道を直角に曲げて飛んで行く。
 
 悪魔が魔法板の軌道を目で遡ろうとするよりもはやく、誰かが咲夜の腕を掴んでしまう。

 紅い髪の妖怪がそこにいた。もう時を止めてもどうにもならない。

 動けないと思っていた。あそこまで刺されて動けるはずがないと思っていた。
 
 悪魔は油断していた。そしてそれを疑えるほどの知能はなかった。美鈴はしてやったりと笑う。
 元々知能は低いとパチュリーは言っていた。手合わせして、それも確信していた。
 しかしだからといって十六夜咲夜の能力が厄介なことに変わりはない。そして彼女の持つ〝あのナイフ〟が出されていない間は、迂闊に手が出せない。
 だから多くのナイフを回収して、あのテーブルナイフを引き出させた。
 悪魔が最後までそれを使おうとしないとも、魔女は言っていた。
 正解だ。これだから七曜の魔女は恐ろしい。
 そして、時は動き出す。
 
「――!」

 正しく一瞬。館が震え、地面には亀裂が走る。何よりも速く、吸血鬼の右手は咲夜の腕を掴み、馬乗りで地面と挟んで拘束した。左手が咲夜の顔の横をすり抜け、地面へと陥没している。もう時を止めても動けまい。
 悪魔の瞳の前に、紅い瞳が妖しく煌めいている。
 弾かれたナイフとプレートが、それぞれ地面に落ちて音を立てた。美鈴を見て、吸血鬼が笑う。

「よくやった、美鈴」
 
 美鈴は笑い、首を傾げてそれに答える。
 悪魔は拘束を解こうと必死にもがいているが、人間の体が妖怪に力で勝てるはずがない。どうやった所で彼女たちからは逃れられない。
 悪魔の瞳に手を被せるように、レミリアは咲夜の顔を掴んで首元を露わにさせる。

「さぁ、お姫様を起こしてやらないとな」

 ただし、私は王子ではなく吸血鬼だけどね。そう笑って、その首元に喰らいつく。
 ヴァンパイアキス。
 悪魔の目玉が激しく蠢動し、咲夜の全身に浮かんでいた黒い文様が消えていった。
 咲夜を縛っていた文様が首元へと集まり、レミリアの口から吸い出されていく。  
 目玉から水分が失せ、しなびていく。
 彼女が口を離すと血と唾液が糸を引き、咲夜の首元には二つの痕が残った。

「けふ。ご馳走様」

 咲夜の体から悪魔の紋様は消え、彼女は安らかな寝息を立てている。

「お疲れ様でした」

 美鈴が咲夜の傷口に指を添える。虹色の光が零れ、指を離すとその傷は綺麗さっぱり無くなっていた。美鈴が手に着いた血を舐め取って笑う。

「うーん、なんだか恋人に手を出された気分」
「お嬢様の嫉妬センサーは地底の橋姫ほど鋭くはないようですね」

 結界が消え、パチュリーたちが歩いてくる。その向こうで眠っていた妖精たちがチラホラと身を起こし始めた。外を見れば太陽は既に地平線に沈みかけ、空が黄昏色に染まっていた。

「やーっと日が沈むな。長い休暇だった」
「貴重な経験が出来ました……げふっ」
「貴女は一刻も速くそのナイフを抜いて血を止めなさい。床の染み抜きするのが誰だと思っているの」
「はーい。あぁ背中取りにくい、小悪魔とって」
「うへぇ、痛そ~ですねー」

 レミリアが立ち上がる。そのまま飛び上がり、空中で妖精たちを見下ろしながら手を叩いた。それに全員の視線が吸血鬼に集まると、彼女は手を広げて笑った。

「お前たち、もうすぐ夜の時間がやってくるぞ何をしている! 装いを正してお茶会に備えろ、眠っている者は叩き起こせ、菓子は作ったか湯は沸かしたか? まだしてないのなら今すぐに持ち場にもどれ。日付が変わるまでにお茶会が開けないのなら、私が直々に指導してやることになる。さぁ働け我が従僕たちよ!」

 暗い暗い獰猛な吸血鬼の笑みと共に声が広がり、妖精たちが大慌てで立ち上がる。周囲で寝ている物を文字通り叩いて起こし、てんやわんや右往左往と飛び回る。

「さすがお嬢様はカリスマの権化でいらっしゃる……いてて、小悪魔もっと優しく抜いて! ぐにぐにしないで!」
「無理ですよぅこんなに多いのに~」
「うぅ、パチュリー様回復魔法を……」
「するほどの怪我じゃないでしょう、全く」

 美鈴の腹部に刺さったキッチンナイフを無造作に抜いて、それを翻して美鈴へと差し出す。激痛に涙を零す美鈴がそれを受け取り、刃の血を拭って小悪魔に手渡した。

「う~、小悪魔はメイドたちに指示を出してあげて、あとこれキッチンにしまっといて」
「はーい。これ、背中のナイフです」
「ありがと」

 受け取った美鈴は全身に力を込める。筋肉を使って血管を圧迫して止血。それから淀んだ気を新しい気で押し流して患部を刺激し、傷を治癒させた。
 
「吸血鬼も驚愕の回復力ね。東洋の神秘だわ」
「パチュリー様も魔力で回復なさるでしょう。あれと何の違いが?」
「難しい所よ」

 美鈴が受け取ったナイフの血を丁寧に拭いつつ、一つ一つ並べていく。そこに吸血鬼が舞い戻ってきた。

「美鈴、咲夜を運んで、目覚めたらお茶を準備させなさい。起きなかったら貴女が入れなさい。私とパチェは霊夢達を起こしてくるから」
「人使い荒いですよねお嬢様って」
「私も困ってるのよ、無茶苦茶言うから」
「あらあら貴方達はいつから人になったのかしら? 妖怪のくせに弱音を吐くなんて惨めだと思わない?」
「咲夜さんは人間ですよ」
「ふん」

 吸血鬼は妖怪の言葉を鼻で笑い、人をからかう子供ように笑う。

「咲夜だって十分な休暇は取ったじゃないか。これで足りないって言うなら、この子がお世話させてくださ~いって泣きついてくるまで、たっぷりとお鍋で煮込んでやるだけさ」



 ―――エピローグ―――



 そして咲夜が目覚めたのは、異変が終わってからおよそ三日後の朝のことであった。

「だから咲夜さん、温泉行きましょう温泉!」

 咲夜の部屋の椅子に揚々と腰掛け、自身が入れた紅茶を飲みつつ事のあらましを説明した美鈴が明るく声を張るが、大して咲夜はベッドの上で膝を抱えて鬱々と俯いていた。

「もー落ち込まないって約束したじゃないですか~。咲夜さんがどうしても聞きたいって言うから話したのに~」
「まさか私が原因だとは思ってなかったのよ……巻き込まれたのかと」
「巻き込まれたようなもんでしょう。実際、意識はなかったんですから」
「それでもなんていうか、ショックだわ……」

 はぁと大きく溜息を吐いて、咲夜はベッドのシーツに顔をうじうじと擦り付けている。泣いているわけでもなかろうに、けれどそんな仕草を見て美鈴はふと昔を思い出す。まだこの子が小さかった頃のことを。

「ほらほら、しょげていたって何も始まりませんよ」

 そう言って美鈴は頭を撫でた。咲夜は頭をなでられるのが弱点だった。くすぐったいらしい。

「ふふ、分かったからそれは止めて頂戴」
「はーい」

 咲夜がシーツから這い出てくる。可愛らしい水色の寝間着のまま立ち上がり、姿見の前へ歩いて行く。そして姿見の前に立った瞬間彼女の気が膨張し、寝間着からいつものメイド服へ早変わりしていた。

「館はどうなっているの?」
「いつも通りですよ」
「霊夢は?」
「なんとかご機嫌取りの食事会で丸め込みました。まぁ身内で解決できたのが大きいですね。お土産をたんまり届ける約束をして帰ってもらいました」
「その他に問題はありそう?」
「昨日久々に魔理沙が図書館で暴れてたくらいですかね」
「暴れた? 忍び込んだんじゃなくて?」
「久しぶりの図書館が相当嬉しいと見えました。私の時ですらスペル五枚も使いましたよ」
「なるほど……」

 咲夜が懐中時計を開く。今の時間は朝の十時半ば、日も地平線と頂天の中間辺りだ。

「この時間だとお嬢様もお眠りの頃かしら」
「起きておられますよ。あの方も元気が有り余っておられるようで」
「じゃあ早速謝りに行かないと」

 咲夜の姿が消える。それからしばらく美鈴は紅茶を啜って咲夜の帰還を待った。帰ってこないかもしれないが、それならそれでいい。本棚から適当な本を見繕って読む。そうして待っていると咲夜が帰ってきた。

「どうです、怒られました?」
「うん。ゲーム中だから後にしてって」
「あぁ、結局徹夜だったんだ……」
「どうしましょう美鈴。このままじゃ気が滅入って仕事が手につかないわ」
「故に温泉ですよ! 咲夜さんはこれから温泉宿に連絡して予約を取り、贅の尽くした食事と湯船で嫌な気分を洗いざらい流して、全てを一新して、再び紅魔館のメイド長としてその辣腕を振るうのです!」
「そんなこと出来ないわよ」
「いいえ出来ます。なにせこれはお嬢様からの命令ですから」

 美鈴は懐から一枚のチケットを取り出し、咲夜へと見せつける。それは美鈴が事前に地底の伝手を辿って取り寄せた高級温泉宿の招待状だった。

「こんな贅沢、滅多に出来ません。存分に羽を伸ばしてきてください」
「うーんそこまで言うのなら……でも、一人で行くのもねぇ」
「そう言うと思ってもう一枚用意しています」

 美鈴がチケットの裏から重ねていたもう一枚のチケットを見せる。咲夜はあまりの準備の良さに呆れたように笑った。

「貴女それ、自分用でしょう?」
「そうかもしれません。そうじゃないかもしれません」
「ふふ、いいわ。お嬢様からお許しが出ているなら、思いっきり羽を伸ばしに行きましょうか」
「やった! そうでなくちゃ! 準備はできてるんですよ、期間は三泊四日。咲夜さんもちゃちゃっと準備してくださいね。地底は危ないらしいですからガイドブックにも目を通してください。ああでも咲夜さんなら平気ですかね。万一のことがあれば私が守りますよ! あぁこれ旅館のパンフレットです、この部屋ですよ泊まれるの! すごいですよねこの料理見てください! 普段じゃ食べれないような食材もあるらしいですし楽しみですよね! って咲夜さん聞いてます?」

 あまりに捲し立てる様が面白くツボに入り、咲夜は思わず笑っていた。
 浮かれる美鈴はまるで子供のようだ。

「全く、そんなに浮足立っちゃ、伸びる羽も伸びないわよ」
「温泉に入れば否が応でも伸びますって! じゃ、荷物取ってきますね!」

 美鈴が急ぎ足で部屋から出て行く。笑顔でそれを見送った咲夜が支度を始める。
 休暇だというのなら、まずは時を止めずに支度をしよう。旅行用の大きな革バッグを出して、クローゼットから衣服を見繕う。いざ選ぶとなると迷ってしまう。いつもなら考えられない。
 しかし再度扉が開き、戻ってきた美鈴が顔だけを覗かせてくる。

「咲夜さん」
「なに? 美鈴」
「一つだけ聞かせてください。咲夜さんはお嬢様たちの事をどうお考えで?」

 何故そんな質問をと、咲夜は顎に指を添えて考えてしまう。それからすぐに、今回の異変に何らかの関係があるのだろうと察しを付けた。
 ならば言うべきことは決まっている。

「ん~」

 けれど咲夜は答えを焦らした。改めて自分がどう考えているのかを振り返る。
 だが、深くは考えられなかった。そんな風に考えるのもらしくないし、それほど複雑な事情でこの館でメイドをしているわけではない。
 レミリア・スカーレットのメイドとして服に袖を通し、妖精たちを動かしながら紅茶を入れて、掃除をしてご飯を作って、それを食べてお風呂に入って眠る。たまに体を動かたり、知り合いとお酒を飲んで騒いで、そんな日々。
 それにどんな大それた理由がいるのだろう。
 答えはただ一つ、十六夜咲夜がレミリア・スカーレットの従者だから。
 そこにあるのは忠誠。名を与えられ、家を与えられ、輪に迎え入れられたことへの恩義。そして吸血鬼への信奉。
 だから、咲夜がレミリアに対して持つ考えとは。

「お嬢様はきっと神様なんだわ。私という迷える子羊を導いてくださる、大いなる主。妹様と共に私を見守ってくださっているの。パチュリー様は知恵を授けてくださる大司祭。私はあの人達に感謝し、毎日朝ごはんを食べて夜床に就く」

 ほぅ、と美鈴が感心したように吐息を漏らす。それから咲夜の言葉を待つが、咲夜は微笑んだまま口を開こうとはしない。
 ちょっとした間があり、それで終わりかと思った美鈴がえっ、と声を漏らした。

「私は?」
「貴女は同僚」
「え~!」
「ふふ、宿についたら教えてあげるわ。さぁ早く荷物を取って来なさい、私も準備するから」
「は~い……」

 力なく扉が閉まる。美鈴の気落ちした顔が愛らしく、咲夜はまたふふっと声を漏らして笑う。
 レミリア・スカーレットを神と例えたのはもちろん本音である。けれどそれとは他に思い浮かんだ言葉もあった。
 〝家族〟だとか、〝手のかかる娘〟だとか――〝温かい母〟だとか。
 これは他の面々にも言えることである。それだけの歴史が、この館には詰まっている。
 けれどそんな事を言えるような歳でもないし、気分でもなかった。
 咲夜は鼻歌を唄いながら、まるで〝恋人〟との逢瀬を待ち焦がれるような気分で、〝友人〟との旅行の準備に勤しんだ。



 扉を閉めた美鈴が廊下を歩いていく。懐から魔法板を出して耳に当て、声を掛けた。

「だそうですよお嬢様。本当に〝魔神〟になられたんですね」
『だから言っただろう美鈴、その内なるって』
「お見事です。さすがは運命を編むヴァンパイアクイーン、ミススカーレット・デビル」

 ふん、と嬉しそうな鼻鳴らしが聞こえる。美鈴には魔法板の向こうでレミリアが胸を張ったことが分かった。

『そう褒めるな。ところでお前の旅行を許可した覚えはないんだが……』
「御土産選びは任せて下さい! 伊達に気を使う妖怪は名乗っていません!」
『あのなぁ……まぁいいけど。咲夜も最近説教が多くなってきたからな、これを気に昔の初々しい感じまで戻ってくれると有り難いんだが』
「あはは、子供ですか。これからがお嬢様にとっても本当の休暇になるわけですね」
『精々ゲームと漫画で英気を養うさ。とはいえ美味い紅茶が飲めないんじゃ話にならん。人生メリハリが重要だ。咲夜にもそれを教えておきなさい』
「はーい」
『土産は饅頭と温泉卵と、え、何フラン、イモリの黒焼き? 売ってるのかしらそれ。パチェは魔導書? この魔女っ子どもめ……小悪魔は呪われた装飾品? 地底をなんだと思ってるのよ』
「委細承知しました~」
『ちょっと勝手にミッション受けないでよ! フランったら……あぁそれと美鈴、河童に会ったら〝例の天象儀〟の件でパチェが呼んでるって伝えといて』
「了解です。でもいいんですか? お嬢様たちの分のチケットも用意出来たのに」
『いいんだよ、私の事を神と呼んだ奴だぞ? そんな奴と一緒に温泉とか、気分転換にならないだろうに。だからお前が存分に気を使って癒してやれ』
「……分かりました。お嬢様もゲーム頑張ってください」
『積みゲーはまだまだあるわ。あぁフラン私を車で轢くのをやめなさい!』

 美鈴は通話を切って紅魔館の廊下を歩く。ふと外を見れば、秋の訪れた幻想郷の木々が目に入る。目を閉じれば、あの閉じた夏の休暇の光景がまだ目に浮かぶ。それと比較すれば、息を感じる紅葉の木々のなんと美しいことだろう。

 それでも美鈴は、あの夏が好きになっていた。

 あの世界は、悪魔にねじ曲げられた咲夜の思いが具現化していたのだろうと、魔女は考察していた。
 どんな思いだったのか、そこまでは語らない。それは各々が考えることだ。
 美鈴は考えていた。あの世界は、十六夜咲夜が「彼女たちと長く共に過ごしたい」という思いから生まれた世界だったのではないかと。その思いを利用されたのではと。
 吸血鬼の姉妹と、魔女とその使い魔と、怠惰な庭師門番と。
 そうだったらいいなという美鈴の願望も込められているが。
 そんな風に考えれば、あの世界も悪くはなかったかもしれない。

 美鈴は目を閉じながら紅魔館の廊下を歩いて行く。あの貴重な夏の休暇に思いを馳せながら。

 Fin
 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。前後は合計100kbほどだったので、分割させていただきました。

 何か事件を解決する物を書きたい。それぞれがどう思っているのかを書きたい。そう考えて書いてきましたが、まだまだ書ききれていない、書きたいという事柄は多いです。紅魔館に限らず、それは東方における人物や世界観に言えることだと改めて思いました。
 そして、それらを皆さまに楽しんでいただけるように描写出来るほどの技量がまだまだ不足している事を痛感する次第です。この話が、少しでも皆さまにお楽しみいただけることを祈ります。

 咲夜さんにとってのお嬢様は、きっと三位一体のような存在ではないだろうか。ふとそう考えます。これは忠臣やメイドといった要素に抱く幻想の一つのような物かもしれません。原作では、きっともっと穏やかな物だと思います。

 原作の設定やテキスト、台詞を元にしたキャラクターを意識しておりますが、原作時系列や把握ミス、誤字脱字などの抜けがあるかもしれません。発見された際には、ご指摘のほどをどうかお願いいたします。
泥船ウサギ
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コメント



0.370簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
1ゲット!
2.80名前が無い程度の能力削除
冒頭から既に何かヤバそうな事に巻き込まれていて謎だらけ、と言うのは好きなシチュエーションなのですが、ならば事件の発端や真実を仄めかすプロローグか回想、伏線めいた何かが欲しかったかなー、と
(咲夜が天象儀に興味を示す、霊夢が図書館の気配に感づく一幕を挿入する、等)
事件の謎を引っ張りたかったのはなんとなく解りますが、余りにも謎すぎて、読者としても何を解決すれば話が終わるんだろう、と言う事がさっぱりわからず、解決のメドが立たない内に表フランのぶちギレ、などのイベントも挟まってストレスフルなストーリー進行となり、結果ボスがポッと出の何者かと言う感想しか出ず、困惑してしまいました
文句ばっかりですが、本当にその辺が読みやすくあれば楽しかったと言うか、気を遣って欲しかったと言うか
個人的に登場人物達が何かを了解して読者にはわからぬまま話が進むと言うのは、読者目線のキャラがいてこそ成立する話であり、小悪魔辺りに視点を多く割くとか、いないならある程度事情を読者に了解させる為のイベントを挟むべきだったんでは無いかと…(先に述べた、事件の発端に繋がる回想等)
長文で迷惑な感想ですが、考え方の一つとしてこういう思考もあるって事で許してください、何でもしますから!
3.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
4.80名前が無い程度の能力削除
2番目の方が言いたいことを書いて下さっているので書きませんが、惜しいなと思いました。

でもこのような悪魔憑きのお話は好きなので面白かったです。
長文お疲れさまでした。
13.100名前が無い程度の能力削除
すっごく面白かったです
それだけに最後のバトルが正直くどいのが残念

んでパチェ…