Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その11 忍法、焼き芋の術!

2015/12/29 20:14:31
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「立ち食いそばに行ってきましたよ」

「へえー、里の?」

「はい、一昨日」

 博麗神社に遊びに来た東風谷早苗が胸を張って報告している。

「コロッケそばを食べました」

 そう言って胸の前で両手を組み合わせ、うっとりとした表情で語り始める。

「かけそばに無造作に乗っけられたコロッケ、良いですよね~。一口目はサクッとしていますが、おツユを吸ってだんだんと潤(ほと)びていくんです。おそばをすすりながらも視線は常時コロッケを追ってしまいます。サクサクッからグシュグシュ、そしてモロモロッとほぐれていく感じがたまりませんよ……ソースでいただくのとはまた違った味わいです。七味唐辛子がコロッケに合うなんて思ってもいませんでした。最後にちょっぴり残ってクズクズになったコロッケと一緒に飲み干すおツユ、最高のフィナーレでした……はあああ~~」

 陶然とした表情で一気に語りきった。

「聞いた話だけど、立ちそばの玄人はコロッケそばを頼むらしいぜ」

「そうなんですか?」

「それ、何の玄人よ」

 霧雨魔理沙の情報に首を傾げる博麗霊夢。

「やるな早苗、すでにプロだったとはな」

「でも、私、立ち食いそば屋さん初めてだったんですよ」

「んー、そう言や私も行ったことないぜ」

「女の子ひとりで立ち食いそばって勇気がいるんですよねー」

「今更気にするの? あんたが?」

 霊夢は本気で不思議がっている。
 人里の飲食店では知らぬ者はいないと言われる【快食プリンセス:東風谷早苗】。すでに全店制覇しているものだと思っていた。

「オバちゃんはたまに見かけるぜ」

「そうですけど、乙女にはハードルが高いんですよ」

「乙女のオバちゃんもいるかもだぜ」

「あんたの“乙女”の基準ってよく分かんないのよね」

「霊夢さんには分かりにくいかも知れませんね(フッ)」

「あぁん? 言ったわね」

「おい、二人ともやめろよ」

「とにかく乙女は外聞を気にするんですっ」

「でも食べに行ったんでしょ?」

「そうです。一人じゃ勇気が出なかったので二人で行きました」

「また天子? あいつ、嫌がったんじゃない?」

「ええ、とても」

「だろうな。どうやって引っ張って行ったんだ?」

「私たちだと分からないように変装すれば問題ないと説得しました」

「そこまでして食べたかったのか?」

「変装って、あんたたちの髪の毛、エラい目立つじゃない」

「だよな。緑と青だし」

 自分たちの髪色をバカにされたようで面白くない早苗は口を尖らせる。

「世に緑髪のメジャーキャラは山ほどいると言うのに分かってませんね……ふん、ちゃんと髪も隠せる衣装でしたから大丈夫でしたよーだ」

「へー、どんな衣装?」

「忍者装束ですっ」

「は?」×2

 ―――†―――†―――†――― 

「ウチの蔵に忍者の衣装がありましたからそれを使ったんです」

 守矢神社の蔵にはあちらの世界の物品が山ほど詰め込まれているらしい。役に立つものからそうでもないものまで玉石混淆で。

「やっぱりあんたたちだったのね。これ」

 そう言って霊夢が差し出したのは文々。新聞の最新号。
 第一面は珍しくフルカラー刷りだった。
 トップ記事は『謎の二人組忍者現る!』
 その二人組は蛍光のピンク&グリーンの忍者装束で里の目抜き通りを歩いていた。

「い、いつの間に!」

 食い入るように新聞を睨み、ワナワナと震えている。
 記事を覗き込んでいた魔理沙が呆れた声で言う。

「お前たち、忍者をナメてんなー。コントの衣装か? かえって目立つじゃないか」

 一応覆面をしてはいるが、頭巾には桃と蛙の飾りがついているので、正体を特定するのは割と容易であろう。

「でも、でも、誰も気にとめなかったようですよ」

「関わり合いになりたくなかったってことでしょ?」

「んー、最近忍者ブームだからアリかもな」

「ブーム? そうなの?」

「そうなんだってばよっ」

「なにそれ」

「ニンニン」

「そう言えば里の子供たちが忍者ごっこをやっていましたね。
 駄菓子屋さんに【兵糧丸】ってお菓子が売ってましたし」

 他の店舗も【十字手裏剣せんべい】や【微塵がくれパン】【火遁鳳仙花パスタ】【実写版赤影風変形リーゼント】などを前面に打ち出し、流行りに便乗しようとたくましい商魂を見せていた。
 
「ふーん、忍者ブームねえ」

 腑に落ちない霊夢が首を傾げた。

「女の子たちも忍者遊びをしているみたいですよ」

「女忍者をくのいちって言うじゃない? あれ、なんで?」

「女と言う文字の書き順が、く、ノ、一、だからですよ」

「あ、なーる」

「その納得の仕方やめような? それに、これって割と常識だってばよ」

「くのいちが常識的な存在かは知らないけど、くのいちの装束って妙にイヤラシイわよね。どこかの絵で見た覚えがあるんだけど」

「セクシーってことだってばよ」

「その語尾やめない?」

「お色気で男を誑かすことも重要なスキルだったそうですから必要な事なんでしょうね」

「じゃー、早苗には無理ね。うひゃひゃひゃ」

「あのですね、霊夢さんだけには言われたくありませんっ」

「お前らー、やめろってばよ」

 セクシーの対象となるにはもう少しだけ時間がかかりそうな少女隊の面々。

「んじゃ、咲夜ならどうだ? 様になりそうだぜ」

 魔理沙に言われ巫女二人はその姿を想像してみた。

「アリ、ですかね」

「絶対やらないと思うけどね」

 誤った解釈で過剰なまでにセクシャルな姿を強調された今日(こんにち)のくノ一。だが、投げナイフの代わりにクナイを構え、全身鎖帷子(網タイツで代用可)に超ミニスカの十六夜咲夜……イイじゃないか。
 確かに間違っているが、このような間違いなら許容しても構わない。いや、むしろどしどし奨励すべきであろう。

「大体さぁ、くノ一ってホントにいたの?」

「学校で戦国時代に詳しい先生から聞いたことがあるんですが、戦国時代のくノ一とは、武田ナントカが使っていた【歩き巫女】が元のようです」

「歩き巫女? 巫女が歩くのは当たり前じゃない」

「空飛ぶ巫女は滅多にいないだろうぜ」

「ふん『飛ばない巫女はただの巫女』よ」

「それって豚の話じゃなかったか?」

「お二人とも、私の話は途中ですよっ もう。
 当時は捨て子や孤児が多かったため、武田さんが女の子たちを集め、くノ一として養成したそうです」

「へー、忍者学校か」

「その女性達が巫女の姿をして色んな国へ情報収集をしにいったのです。巫女だとフリーパスでいろんなトコ歩けるからですね」

「ふーん、それじゃ巫女はくノ一なのね」

「お前、話ちゃんと聞いてたか? イコールの話じゃないだろ? いつもそうやってイイ加減に聞いてるからトンチンカン巫女とか言われるんだぞ」

「だ、誰がトンチンカン巫女よっ」

「魔理沙さん、それ言っちゃおしまいですよ。公然の秘密なんですから」

「ぬあーーんですってえー!」

 ―――†―――†―――†――― 

 ようやくトンチンカン巫女の怒りは収まり、今は庭掃除に勤しんでいる。

「まだまだ落ち葉がスゴイな」

「いつものことだけどキリがなくてヤンなるわ」

「こまめに掃除するしかないんですよね」

 霊夢と早苗は竹箒でざっしゅ、がっしゅと落ち葉を掻いている。
 魔理沙は手箕(てみ)と呼ばれる落ち葉を掬う取っ手のないザルのような大きなチリトリで、いくつかのポイントに貯められた枯葉をよっせ、よっせと一箇所に集めている。

「おーっす!」

 やって来たのはチルノ。

「またうるさいヤツが来たわね」

「アイツも暇だよな」

「いらっしゃい、チルノちゃん」

「あそびに来たよっ」

 この季節は絶好調の氷精が元気一杯で言う。

「しかし、冬場のチルノはありがたくもなんともないぜ」

「まったくねー」

「なんだとー?」

 夏場はあんなにちやほやしていたのに勝手な言い草だ。怒るのも無理はない。

「お二人ともいくらなんでもヒドすぎますよっ こんなに可愛いのに」

「さなえ、やさしいね」

 早苗の腕に抱きついたチルノ、その手がむき出しの二の腕を掴んだ。

「うひゃああー」

「どしたの?」
 
「いえ、その、その、その手はちょっとっ」

「可愛いんだろ? 我慢しろよ」

 ニヤニヤにする魔理沙。
 チルノはさらにサワサワッ。

「いっぎゃあああー」

「なーにやってんの?」

「霊夢も触って欲しいみたいだぜ」

「そーなのか?」

「触ったら張っ倒すわよっ。血が出るまで引っぱたくからね!」

「お、あ、……うん」

 博麗大魔神の剣幕にさしものチルノも怯んだようだ。 

 ―――†―――†―――†――― 

「あたいは青影だよ」

 忍者ブームは妖精や小妖たちにも浸透しているらしい。

「ほう、なら赤影役は誰なんだ?」

 口は悪いが妖精たちとしょっちゅう遊んでいる魔理沙。チルノもそんな魔理沙に良く懐いている。

「サニーとルーミアがいつも取り合いしてる」

「赤と言ったら私でしょうよ。主役だし」

「霊夢は甲賀幻妖斎だろ?」

「それって悪役じゃないのっ」

「いっそ、金目像ですかね。へははは」

 金目霊夢様は怪光線が出そうな目で早苗を睨みつける。

「チルノー、忍者なら忍術を使えなきゃだぜ」

「使えるよ。氷の術」

「おまっ、それはデフォルトだろ。いいか、本物の忍術を見せてやるぜ」

 左の親指を右の人差し指と中指で挟んだ魔理沙。

「いいかよく見てろよ~この親指を……『大・切・断!』」

 子供向けの指遊びだ。

「ぎゃあーー! まりさっ まりさーっ!」

 チルノのリアクションに三人ともビックリした。

「ち、チルノちゃんっ 落ち着いて!」

「だ、だって、まりさの指が!」

 半泣きで叫ぶ。
 両手を戻してヒラヒラと十本の指を見せる魔理沙。

「えっ? まりさ……ゆび……わ?」

「これぞ【指切り】の術だぜぃ」

「忍術ナメてるわねー」

「魔理沙さんっちょっと趣味が悪いですよ!」

 早苗に責められるのは気にならないが、ヒグヒグ泣きながら呆然としているチルノを見て少し心が痛んだ。

「チルノ、ごめんな……」

 氷精の機嫌は魔理沙が冷たさを我慢して肩車をしてやってようやく直った。

 ―――†―――†―――†―――

「こんにちわーっ 毎度ありがとうございます!」

 次に神社に現れたのは伝統の幻想ブン屋、射命丸文だった。

「先日の最新刊の反響を聞かせてくださいっ。今回は思い切ってカラー刷りにしたんですよー」

 一方的にまくし立てる鴉天狗。霊夢と魔理沙は関心なさそうにぼんやりしているが、早苗はバタバタと駆け出し、先ほどの新聞を掴んで戻ってきた。

「こ、これって 肖像権の侵害ですよっ」

 一面のカラー写真を差し、猛烈に抗議を始めた。
 だが、文は口元に笑いを乗せ、余裕綽綽。

「おや~? これは早苗さんだったんですか?」

 大げさに驚いてみせる文に何を今更と言いかけた早苗。

「謎の忍者を記事にしただけなんですけどね~。あくまで正体不明の忍者を」

 すっとぼける新聞屋。座右の銘は『面白ければそれが最優先』。

「そ、そう、ですか。い、いえ、人違いです」

「早苗ー、言いくるめられてどーすんだよ」

「そんなんじゃこれからもコイツのネタにされるわよ」

「お二人とも、人聞きの悪いことはやめていただきたいものですね~。ところで最近の忍者ブームはご存知ですか?」

 強引にネタ集めの話題に振り替える自称敏腕記者。

「今日はその話題が多いな」

「ほうほう、どんなお話でしたか?」

「ちょっ 顔近いぜ。そんなに忍者が気になんのかよ」

「忍者と天狗、無縁ではありませんので」

「鞍馬の天狗が源(みなもと)のナントカさんに武術と忍術を教えたとか教えないとか」

 理系早苗のボンヤリ文系知識が溢れ落ちた。

「おや? ご存知でしたか。山伏の修行は忍者のそれと重なる部分が多いんですよ」

「ふーん、それじゃ忍者は天狗なのね」

「霊夢、あのな……さっきも言ったばかりだぜ? 話ちゃんと聞いてたか? イコールの話じゃないだろ?」

 魔理沙が心底悲しそうな顔してみせた。

「いつもイイ加減に聞いてるから―――」

「それ以上言ったら怒るわよっ」

 いきり立つ霊夢だが、魔理沙はため息を返しただけだった。

 会話のテンポが上がるとついてこれないチルノは落ち葉の山を見つめていた。そして思いついた。
 
「ねえ」

 声をかけた相手は文だった。

「ん? なんですか?」

「風、吹かせるよね?」

「ええ、私の自慢の能力ですからね」

「はっぱの術、できる?」

「はい?」

「あ、分かったぜ。チルノは木の葉隠れの術のことを言いたいんだ。おい、文、できるか?」

「んー、あれですか。木の葉を使った目眩ましの術ですよね」

「どうだ?」

 そう言って集められた落ち葉の山を指差す。

「ふふふ、風を操る私にとっては造作もありませんよっ。
 そぉーーーーれぃっ!」

 羽団扇を一振り。

 ぶわわわあー ぐるぐるぐるぐる

 実写版木の葉隠れの術が発動した。

「うわあー、すっごおーーーい」

 ざざざざああー 

 風が止むと、文の姿は消えていた。

「あれ? アイツどこいった?」

「あははははっ ここですよー」

 鳥居の上に立っていた。
 皆が見上げる。見えそうで見えないそのスカートは鉄壁と謳われている。
 それはそれとして。

「見事なものですねー」

「そうだな。お前も【風祝】なんだからできるんだろ?」

「ここまではまだ。もっと修行しなくてはなりませんね」

「ほわあー、カッコイイー」

 感心して自分を見上げている下忍たちに満足そうな文。
 が。

「天狗」

「はい?」

「正座」

「なんですか?」

「せ、い、ざっ」

 一音ずつ区切りながら石畳を指さす大魔神がいた

 ―――†―――†―――†――― 

 文と魔理沙が石畳の上で正座させられている。
(なんで私まで)魔理沙は不平を言いたかったが、目の前の大魔神の怒りが増長しそうな気がしたので口をつぐんでいた。

「これ、誰が掃除すんの?」

 派手に吹き散らかされた落ち葉に向かって顎をしゃくる。

「あの、お芋持ってきますから、落ち葉で焼き芋なんてどうでしょう?」

 文が実に効果的な提案をした。
 ある意味、霊夢のことを最もよく知る文ならではの提案だ。
 霊夢の視線が左斜め上で固定されている。
 おそらくみみっちい計算をしているのだろう。

 やがて腕組みしたまま大きく二度頷いた。
 霊夢基準で納得が言ったのだろう。

「あと、なんか食べ物持ってくんのよ」

「なんか、ですか?」

「焼いて食べたら美味しそうなモンよ」

「お前、タチが悪いなー」

「だからチンピラとかゴロツキとか言われるんですよ」

「早苗、それ言っちゃおしまいだぜ。公然の秘密なんだから」

「ぬあーーんですってえー!」

「今日はそのノリ、もういいいから……」

「それじゃ行ってきますっ と、イタタタ」

 足をさすりながら立ち上がった鴉天狗が舞い上がっていった。

「そんじゃ皆でもう一回落ち葉集めよっ」

「えー? あたい……」

 チルノの文句は大魔神のひと睨みで霧散した。

「そもそもあんたが発端でしょうがっ。なのに正座をさせない私の優しさが分かんないの? 掃除くらい手伝って当然なのよっ」

「……どゆこと?」

「霊夢ー、そんなにポンポン言ったんじゃチルノは理解できないぜ。まあ、私も今の理屈

はよく分かんないけど」

「はああっ?」

「れーむはおこりっぽいのな」

 チルノがポツリと言ったセリフに更に噴火しそうだ。

「あははは、まったくだぜ」

「へははは、そうですねー」 

 二人の気の抜けた笑いに気勢を削がれてしまった。

「……ったく。さっさとやるわよ!」

「はーい」×3

 ―――†―――†―――†――― 

 いまいち納得のいかないチルノだが、おとなしく魔理沙と一緒に落ち葉を集めている。

「チルノ、これから焼き芋やるんだぜ~」

 途端にぱあぁーっと顔が輝いた。 

「あ、たきびで? あたい、栗、拾ってこようか?」

「あのな、このあいだエラいことになったろ?」

「あれはおもしろかった」

「コイツはっ」

「どうしたんですか?」

「このあいだ、焚き火にチルノが栗をいっぱい入れたモンだからバチンッバチン爆(はぜ)て大変だったんだぜ。そして慌てた妖精がぶつかった木に蜂の巣があってさ、ブンブン飛んできて大騒ぎさ」

「それは災難でしたね」

「しまいにゃ臼(うす)が落ちてきたぜ」

「は?」

「ウソばっかり」

「まあ、それはウスだがな、なんつって。へへ」

「ふん、とんだサルカニ合戦ね」

「今の、ちょっと面白かったですよ」

 ―――†―――†―――†――― 

「芋はいいけど、これはなーに?」

 霊夢が文に詰問している。広げられた食材はカオスだった。
 サツマイモが十数本。これはリクエスト通り。
 だが他には白菜とカボチャが一玉、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンがごろごろ。

「えーと、秋の神様が焼き芋向きのおイモをくださったんですが、ついでに持って行けと……」

「焼いて美味しいモノって言ったでしょ? 肉は無いの?」

「すみません、心当たりがなくて……」

「まー、野菜はもらっとくけど、これはどーすんの? 焼くわけ?」

 リンゴが三個、バナナが一房、干し柿が五個、板チョコレートが一枚、マシュマロとゴマせんべいが一袋ずつ。

「取りあえず、片っ端から集めてきたんですけど……」

「センスないわねー、あんた、料理したことないんでしょ」

 痛いところを突かれた文。確かに外食がほとんどだし、たまの料理は恋人である犬走椛がやってくれている。

「はい……」

「いいじゃないか、焼き芋がメインなんだからさ」

「そうですよ。このおイモ、とても美味しそうですよ」

 魔理沙と早苗のフォローが有難かった。
 秋穣子が持たせてくれたサツマイモは最近流行りのしっとりねっとりで糖度の高い系統ではなく、スタンダードな【紅あずま】の原種を何度も改良したもの。甘味と歯応え、栄養素のバランスがとれ、病気や低温、荒地にも強い無骨だが頼りになる古強者の如き品種だった。その名を【はがね丸】。

「分かったわ。まずは焚き火をおこすわよ」

 大魔神の関心は焼き芋に向いたようだ。

「焚き火の注意点はいくつかあんのよ」

「そうですよね」

 早苗が賛同する。この二人は職業柄焚き火を良くするのだ。

「まず風の強い日はダメよ。周りに燃えやすいものが無い場所を選んで、万一のために水を用意すんの」

「基本中の基本ですね」

「場所を選ぶときは湿った地面はダメ、どうしてもの時は丸太や小石を敷いて湿気を防ぐのよ」

「結構科学的なんですねー」

 文が感心している。

「着火には乾いた小枝や松ぼっくり、新聞紙が良いわ」

「新聞紙がベストですね」

「ぇ?」

 文が小さく声を漏らす。

「落ち葉だけだと火が付きにくいんですよね」

「火が付いたら落ち葉を乗せるんだけど、からからに乾いた葉っぱは、燃えると勢いよく舞い上がって危ないのよ。少し湿った落葉を使って火力を調節するの」

「ここが技の見せどころですよね」

「しつもーん」

 魔理沙が手を挙げた。

「なに?」

「芋はいつ入れるんだ?」

「ふふ、それはこれからよ。『慌てる魔理沙は貰いが少なくなって、ひもじさのあまり博麗の巫女に身を委ねる』と言われているわ」

「その格言、生まれて初めて聞いたぜ」

「サツマイモをはじめとするイモ類には澱粉が含まれているのですが、そのままのサツマイモでは焼き芋独特の甘さがありません。この澱粉がイモにある酵素によって分解され、あまーい糖分になるんです。このときの温度は60度前後と思いのほか低いのです」

 早苗の説明に口をパクパクモグモグしている霊夢。イイところを持って行かれてしまった。

「つまりですね、この温度が【おき火】の温度なのです。落ち葉が燃え、全部灰になってしまっても灰の中は60度くらいはあります。
 この状態になったらイモを入れて1時間くらい待ってみてください。とても甘い焼き芋ができますよ。焦りは禁物です。気長に待ちましょう」

 みーんな言われてしまった。

「一つのおイモに対して、新聞紙を二枚程用意すんのよ」

 ここからは譲れない。

「ぇ?」

 文がまたも小さく声を漏らす。

「おイモはよく洗うの、水を含ませるのよ。そして新聞紙をビタビタに濡らして包むの。それを【おき火】に突っ込むのよ。……なに? 文句あんの?」

 ブチブチつぶやいている文に問いかける。

「いえ、読み終わった新聞の運命はそんなものだと理解していますよ、はい」

「ゴミを有効利用してんだから感謝して欲しいわ」

「……ゴミって」

 切なそうな表情の新聞記者。

 ―――†―――†―――†――― 

 落ち葉焚きも一段落し、芋が投入されてからもうすぐ一時間。
 もう食べ頃だろう。

「焼きたては熱そうだぜ」

「あのさ」

 ニヤっと笑う霊夢。

「なんだよ」

「おイモで『あちっ』『あつい』って言ったら罰金ってどう?」

「ふふん、いいぜ」

「ゲーム開始ね」

 そう宣言した霊夢がいー感じで焼けた芋を火バサミでほじくり出し、つまみ上げた。

「魔理沙」

「ん?」

「パス」

「へ? うわっちゃあああー!」

「はい、ワンペナねー」

 いたって涼しい顔の霊夢。

「……まるで鬼ですね」

「経験から言わせてもらえば鬼だってあそこまではしませんよ」
 
 早苗と文が顔を顰めながら囁き合う。

「霊夢さんは魔理沙さんが好きなんじゃないんですか?」

「んんー、彼女の愛情表現は少し歪なようですから……ひっ!」

 その彼女が首を傾け、こちらを無言で睨んでいた。

 ―――†―――†―――†――― 

「ほひひーーっ」

 熱い焼き芋に奮闘しているチルノが頬張りながら声を上げた。

「うん、旨いぜー、ほひほひ」

「甘さとホクホク感が絶妙です! デリーシャス、です!」

「皮と一緒に食べるのがイイのよねー、はふはふ」

「焼きたては久しぶりです。身も心も満たされますね~ むぐむぐ」

 焼き芋を食べている女の子はなんでこんなに幸せそうなのだろう。

 ―――†―――†―――†――― 

「チョコレートとマシュマロどうします?」

 早苗は用意された甘味に未練がある。

「それぞれ普通に食べた方が良くないか?」

「焼きマシュマロって聞いたことありますけど」

「やってみる?」

「おき火じゃダメだろ」

「バナナは? 食べないの?」

 チルノが魔理沙に聞く。

「焼きバナナって……あるのか?」

「なんでも焼けばイイってモンじゃないでしょ」

「いっそ、全部合わせて焼いたらどうですかね」

「……文、あんたの料理センスが知れたわよ」

「焼きチョコバナナマシュマロか」

「名称からして失敗臭が漂いますね」

「どうにかならないかしら」

「こんなときにスイーツ作りの得意な女子がいれば良いんだけどなー」

「魔理沙さん、完全に人事(ひとごと)ですね」

「マシュマロとチョコ。白と黒か……これは魔理沙ね」

「また突拍子もないことを言い出したな」

「どちらも食べたら甘いってことよ。ぐふふ」

 ねっとりとした視線をあえて無視する魔理沙。

「正確には白と茶色ですけどね」

「白と黒。白と黒か……あっ!」

 魔理沙が飛び上がった。

「なんです、突然」

「チルノ、バナナ好きか?」

「大好きっ!」

「よし、じゃあ手伝ってくれ」

「がってんだっ!」

 訳も分からず返事をする。

 ―――†―――†―――†――― 

 バナナの一辺を途中まで剥いた魔理沙は小さめのスプーンで実の端の方を軽くえぐる。

「チルノ、あーん、しろ」

「あーん」

 スプーンでえぐったバナナをチルノの口に運ぶ。

「おいしー」 もぐもぐ。

 少し間隔を開けて再びえぐる。

「チルノ」

「あーん」

「何やってんのよ?」

 霊夢の疑問は早苗と文も等しく感じている。
 その問いを無視し、同じ行為が繰り返される。やがてえぐった跡は六つになった。

「さて、ここからだぜ」

 魔理沙はえぐられた跡に、割ったチョコとマシュマロを交互に詰めていった。黒、白、黒、白と。そして最後にめくられていた皮を元に戻し、濡れた新聞紙に包んだ。

「お前ら、これを軽く蒸し焼きにしたらどうなると思う?」

 なんだか美味しそうだ。
 三人の返事を待たずに同じようあと四本作っていく魔理沙とチルノ。

 焼き芋ほど時間はかからない。
 五分もしないうちに引き上げられた【白黒ポイントバナナボート】が披露された。

「ちょっとグチャグチャになっちゃったぜ」

 チョコとマシュマロが適度に溶け、だらしなく広がってしまっている。

「でも、すっごい、いい匂いですよ!」

 早苗のよだれは止まらない。

「悪くなさそうね」

「こんな組み合わせがあるとは……これ、記事にします!」

「いただきまーす」

 最初にフォークを突き立てたのはチルノ。

「あー、チョコとバナナ、うんまーい!」

「溶けたマシュマロとバナナ、これって危険な甘味ですよー!」

「いろんな甘味が感じられて美味しいわね」

「いやいや、これは香りの勝利でしょう!」

 なんだかバカウケだった。
 主役の焼き芋を食ってしまいそうなくらい。

 ―――†―――†―――†――― 

 それでもメインは焼き芋だ。それぞれが二、三本食べ終わって一息中。緑茶が合うんだなこれが。

「おイモ食べるとその、アレが、その……」

 早苗が小さな声で照れながら言った。

「あ? アレか? まあ仕方ないじゃないか、生理現象なんだから」

「妖怪でもアレは避けられませんね」

「なんの話? おイモ食べるとアレってなに?」

 チルノは霊夢にたずねた。よりによって。

「屁が出んのよ」

 場が静まりかえった。たっぷり五秒間。そして。

「霊夢っ おまっ!」

「ヒドすぎますっ 乙女どころか女性じゃありませんよっ」

「霊夢さ~ん。それはアウトですよー」

「なぁに? 騒ぐほどのこと? 女同士なんだからイイじゃない」

「へって、おならのこと?」

 チルノが誰にともなくたずねる。

「そうだけど、あんまし口にするもんじゃないんだぜ」

「あたいはオナラなんかしないよ」

 再び場が静まりかえった。たっぷり五秒間。そして。

「……そうなのか?」

「だって妖精はアイドルだもん」

「は? あんた何言ってんの?」

「だからトイレにも行かない」

「本当ですか?」

「ホント。アイドルはなぞが多いのさ、ふふん」

 確かに妖精の生態は解明されているわけではない。

「これは興味深いですねー」

「文、このことを記事にしたら相当趣味が悪いぜ」

 そりゃそうだ。



       閑な少女たちの話    了
紅川です。

忍者、掃き掃除の仕方、焚き火、焼き方、用意していたウンチク臭いネタをカットしていったらスッキリしました。
削るって大事なんですよね。
今年はこのシリーズしか書いてないですね。どうなんでしょう?
来年の例大祭には新作長編を書く予定です。
ナズーリンシリーズも書かなくては。待ってくださっている人がいるのだから!
紅川寅丸
http://benikawa.official.jp
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コメント



0.310簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
チルノはかわいい
妖精は物食わないからそういう構造なってないと言う説はよくありますね
3.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.80名前が無い程度の能力削除
てっきりチョコフォンデュかチョコバナナをやるのかと…似たようなモノを食ってはいるようですが
6.7019削除
焼き芋とはまた懐かしいですね。昔は石焼き芋の屋台がこの季節によく出ていたものでした。
話は変わるけど、妖精逹の赤影ごっこで魔風雷丸は誰がやっているのかな?(誰もやりたがらないだろうけどw ていうか今見ても迫力あるしw)
7.90名前が無い程度の能力削除
バナナと板チョコとマシュマロ買ってくるわ。
9.100名前が無い程度の能力削除
一年間通してクオリティが落ちず、ずっと楽しませていただきました。来年も優しい小説を心待ちにしております。よいお年を~。
10.無評価紅川寅丸削除
1番様:
 ありがとうございます。食うだけ食って出さないってのもホントは変な話ですよね……

奇声様:
 いつもありがとうございます。

4番様:
 ありがとうございます。チョコフォンデュは器材がないと意外と難しいのでやめときました、ハハハ。

19様:
 夢堂一ツ目もこの俳優さんでしたよね。ステキな悪役さんです。
 正体の怪獣はいまいちでしたが。

7番様:
 ありがとうございます。ホイルに包んでオーブントースター、ラップしてレンジでも可です。
 グチャグチャにはなりますがね……

9番様:
 一年間もお付き合いいただき感謝です。来年も書きますよ~。
 あ、今日、もう一本投稿しました、年内ギリギリです。
11.100名前が無い程度の能力削除
白影はリリーホワイトですか?
14.90大根屋削除
ちょっと今回は薄味でしたね?と思ってたら、ウンチク諸々削ってしまわれてたのですか。
個人的には、そういうところもとても面白いものだと思っていたのですけどね(苦笑)

焼き芋ですかー 全然食べてませんねぇ 読んでると食べたくなるのですけどw
焼き芋と言えば屋台のイメージですけど、最近は滅多に見かけなくなりましたね……
16.90名前が無い程度の能力削除
赤影とは懐かしい。
しかし木の葉隠れと言ったら風のフジ丸ですね。
17.無評価紅川寅丸削除
11番様:
 白影さんはキャラ的にレティ……ゲフンゲフン。

大根屋様:
 今回は文の初登場なので寄り過ぎましたかね。そうか、ウンチク、ありなんですね。
 幹線道路を80kmくらいで飛ばす焼き芋屋さんの軽トラがシュールでした。

16番様:
 時は戦国、嵐の時代、でっかい心で生きようぜ
 懐かしいですなあ。でも「ワケギの術」ってなんだったんでしょうね?