Coolier - 新生・東方創想話

泣きっ面に…

2015/11/30 12:56:02
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 夜の闇に塗りこめられた世界に妖獣や獣の遠吠えが響き渡る。どこまでも木々が生い茂り、胞子が其処彼処に漂う深い森の奥。光も届かないのでは、と思いたくなるようなそんな場所にドーム状の建物が隣接する一軒の家が建っている。その玄関口には、お世辞にも綺麗とは言えない字で『霧雨魔法店』、そう書かれた看板が立てかけられていた。

「う、う~ん……」
 年頃の女の子の部屋とは思えないまでに乱雑とした一室、そこに彼女はいた。ベッドの上で普段着のまま何も被らずに横になって唸っている少女、霧雨魔理沙。彼女の寝ているベッドの下には、数々の『借り物』が散らばっている。
 一体何があったのだろう。 一度、事の発端まで遡ろう。










 ある日の夕方。
「魔理沙? 上がるわよ」
 そう言って玄関から入ってくる少女、アリス・マーガトロイド。今日は魔理沙から夕食に招待されているのだ。アリスが声をかけて間もなく、奥にある扉の影からいつもの白黒の服を着て帽子の代わりに三角巾を付けている魔理沙の嬉しそうな顔がひょっこりと現れた。
「お、丁度いいところに来たな。そっちのリビングで待っていてくれ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
 魔理沙の言葉通り、家に上がりこんだアリスは、魔理沙の指差す部屋へと入っていった。そして、アリスは見てしまった。リビングらしき部屋の、惨状を。
「嘘でしょ……。 こんな状態でどうやって食事しろって言うのよ」
 食事をするためのテーブルの上は、魔導書や怪しげなマジックアイテムの類が散乱して埃を被っている有様だった。一応、二脚の椅子の正面だけに申し訳程度のスペースができているが、人はそれを『片付けた』とは言わない。
「はぁ……仕方ないわね」
 このままでは肝心の食事を摂ることもままならないので、アリスは渋々と持ってきた人形数体を使役して魔理沙が来るまでの間、せめてテーブルの上だけでも片付けることにしたのだった。



 すっかり片付いたテーブルの上。そこには、湯気を立てる美味しそうな料理を盛った皿や鍋が所狭しに並べられている。スープやサラダ、パン、乳製品に熱々の肉料理。普段なら、魔理沙の食卓に上がらないようなものまで選り取り見取りだ。料理を作った魔理沙の顔は得意気だった。だが、アリスが机の上を片付けていなかったらどこに置くつもりだったのだろう。
「さ、召し上がれだぜ」
「いただきます……と、言いたいところだけどね」
 何故かアリスは笑みを浮かべながらも、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ここの茸は魔法実験に適していても危ないから食べない方がいいって、あれだけ言ったじゃない」
 アリスは茸が苦手だった。魔理沙には話していないが、魔法の森に住まいを構えて間もない頃にアリスはそれでこっぴどい目にあったようだ。その時の経験からアリスは繰り返し忠告しているのだが、当の魔理沙は聞く耳も持たないのだった。
「そうは言ってもなぁ……美味いもんは美味いんだし仕方ないだろ。それに、ほら。アリスのためにそっちの料理には茸を入れていないぜ。な? だから早く乾杯でもしようぜ」
 そう言って、瓶に入った自前の日本酒を注いだお猪口を差し出してくる魔理沙。その飄々とした態度を好ましく思いながらも、アリスは困った我が子を見る母親のように肩をすぼめる。
「ふぅ、そうよね。あんたには何を言っても無駄なだけだったわ。はい、乾杯」
 アリスも家から持ってきた洋酒を注いでおいたワイングラスを差し出す。カチン、と小さな音を鳴らして二人はそれぞれ美味しそうに注がれた容器を傾ける。外はちょうど夜の闇に覆われ始めていた。


 だが、それは一瞬の出来事だった。魔理沙が手前にあるコンソメスープを匙で掬って口にした途端、彼女の意識は急速に刈り取られていったのだ。
 完全に意識が途切れる寸前、何かに叩きつけられるような音がどこからか聞こえて――






























 次に魔理沙が目を覚ました時、外は既に真っ暗になっていた。火の元が無いので部屋の中も外から差し込む月明かりで微かに照らされているだけだった。テーブルの傍には、夕食会の時と同じ服を着ながらうつ伏せの状態で倒れている魔理沙の姿とひっくり返った椅子が転がっている。気を失っていた(?)のは数刻か、或いは数日が経っているのかもしれない。いずれにせよ、魔理沙の完全に覚醒していない意識では判断が付かなかった。それよりも、床が直接当たっているので体中が痛い。
 何とか起き上がろうと床に手をついて力を込めようとする。途端に、まるで度の強い焼酎を一升瓶丸ごと一気飲みした翌朝のような頭痛に襲われた魔理沙は、その体を支えきれずに再び床に抱かれる形となってしまう。起き上がることを諦めた魔理沙は、そのまま這いつくばるようにして隣の自室へと向かう。

 なんとか時間をかけて自室までたどり着いた魔理沙。片だが、付ける余力は残っていなかっただろう。自室のベッドの上に積み重ねておいたいくつもの魔導書の類を腕で乱暴に払いのけて床へザラザラと落とすと、よじ登るようにしてその身を柔らかいクッションに投じるのだった。
 それからややあって、冒頭の場面に戻る。






 ベッドの上で頭痛に苛まされながらも、魔理沙は自身の記憶を引っ張り出す。すると、夕食でスープを一口飲んだ以降の記憶が丸々抜け落ちていることが分かった。

(グ~……)

 おそらく、それ以降何も食べていないに違いない。人間である魔理沙にとって食事とは欠かせないものである。だが、夕食会の準備で家の食材は底を尽いていた。そもそも一向に痛みが引かず起き上がれない以上、食材があったとしても作る事すらできない。この状態が長く続くようでは先が思いやられる。
 窓の外から見える空は一面の闇に塗り込められている。遠くから妖獣か何かの遠吠えが聞こえてくるが、普段の魔理沙の噂や実力を知っているからか近寄ってくる気配はない。今の状態で襲われたら一たまりも無いだろう。不幸中の幸いというやつだ。
 そんな中、当の魔理沙は自分が倒れる時も一緒にいたはずの『彼女』がいないことへ文句を言いたい気持ちでいっぱいだった。原因となったであろう茸料理を食べていない彼女は、何ともなかったはずなのだから。
 それなのに彼女はいない。ひょっとしてどこかへ薬を貰いに行ってくれているのか、と初めこそ考えていた魔理沙だったが、どうもその可能性は低そうだ。魔理沙が倒れたのは遅くとも日没前後。今日があの日と同じか分からないが、どちらにせよ今は深夜を過ぎているはず。空を自在に飛べる彼女にしては時間がかかり過ぎだった。
「く、くそ、アリスめ。一緒にいたんだから、少しくらい看病してくれたって……いいじゃ、ないかぁ」
 らしくも無く泣きごとを吐く魔理沙。体調不良の中、一人ぼっちになれば誰かへ恨み言の一つや二つ言いたくもなるだろう。
「せめて、上海か蓬莱の一体でも置いていってくれてりゃよかったのに。全く、気の利かない奴だぜ……そんなだからあんまり友達がいないんだよ。普段強がっていても寂しがり屋なんだし、今の私の気持ちくらい……イデッ!」
 アリスへの愚痴と言うより悪口を言い終わらない内に、今も続いている頭痛とは少し異なる突発性の痛みに襲われる魔理沙。人の悪口は言うものではない。






 ガンガンと頭に響く痛みによって、眠りに就けぬまま遅々として夜が更けていく。外から聞こえてくる声の持ち主たちは、魔理沙と対照的にどんどん元気になっていくようだ。
 いくら襲って来ないとはいえ、やはり遠くから聞こえる悍しい声に平気でいられるほど魔理沙は鈍感では無かった。いくら強くても年端もいかない女の子なのだから、それは当然のことだろう。
 念のため護身用として、着替えることもできずに着た切り雀になっているエプロンのポケットからミニ八卦炉を取り出そうとモゾモゾする魔理沙。だが、どこで落としてしまったのだろうか。ポケットを探る手は空を切るばかりだった。また、部屋に光が無いせいで外から差し込む月明かりだけでは愛用の箒もどこにあるのか分からない。このままでは、もし襲われたとしても戦うことはおろか逃げることすらできない。頼れる人だけではなく、物までも無いとなると一気に不安が押し寄せてくるものだ。
 そんな不安の渦中にある魔理沙の脳裏に思い浮かんでくるのは、弾幕勝負で無類の強さを誇る紅白の少女の姿だった。
「うぅ……霊夢も霊夢だぜ。私の周りにいる友人の中じゃあ一番付き合いが長いんだし、見舞いに来て……くれるわけ無いか。霊夢だもんな。ははっ」
 最近は実験に忙しく、中々霊夢のもとに行けない日々が続いていた。あの日の時点で既に一週間は御無沙汰していたのだ。それだけ神社に顔を出していないのだからそろそろ心配して来てくれるのでは、と思った魔理沙。しかし、霊夢の性格を知りすぎていた彼女は、すぐに納得して自身の抱いた淡い幻想を打ち壊してしまう。幻想郷で唯一の神社にいる彼女は、他者への関心が極端に希薄なのだ――と。
 だが、それでも。一番の友が心配してくれないという現実は何とも胸が痛む。それが体調の悪い時なら尚更だ。声だけの乾いた笑いを上げている魔理沙の視界が少しぼやける。だが、誰もその雫を拭ってくれる者はいない。魔理沙は、自分の袖で目元を拭う他なかった。






 いつ眠りに就けたのだろう。次に魔理沙が気が付いた時には、もう既に太陽が地平線から顔を覗かせていた。窓から弱々しい陽の光が差し込み、普段以上に乱雑とした部屋を照らし出す。何故かそこには、昨夜探そうと思っていた愛用の箒の姿が無かった。もしかすると、帰宅時に外へ放り出したままなのかもしれない。
 そんな光景を横目に魔理沙はうっすらと笑みを浮かべていた。あぁ、そういや日光を嫌う友人(やつ)がいたな――と。
「パチュリーも……来てくれるわけないよなぁ。悲しいぜ」
 普段の行為は、魔理沙にも自覚がある。普段から『借りる』と称して大量の本を持って行っているのだ。そんな相手が数日ほど来ないからといって、態々訪ねに来るようなお人好しはいないだろう。ましてや、日の光を嫌っている彼女なら尚の事だ。
 もしパチュリーが来たとしても、魔理沙の家に入った途端に彼女は憤慨するに違いない。魔理沙に持って行かれた自分の貴重な書物が乱暴に放りだされているだけではなく、窓から入ってくる日光に晒されてしまっているのだから。魔理沙の文句通り、本当に殺してでも本を持って帰るかもしれない。いや、このままではパチュリーが手を下さなくとも時間の問題か。
「ああ、本当に死んで返すことになっちまうのかなぁ……こんなことなら、少しずつでも返しておけばよかったぜ。元気になったら、この魔理沙さんがお手ずから読み終えたやつくらいは返しに行ってやるか、な……」
 本を強奪しに行く際に繰り広げられるパチュリーとの弾幕勝負や互いの研究について言葉を交わす時間は、森の奥で一人暮らしをしている魔理沙にとって密かな楽しみの一つだった。そして、自分なんかとは比べ物にならない知識と経験を有しているパチュリーは、魔理沙にとって畏敬の念を持ちながらも憧れの存在であり、いつか辿り着きたいと強く願う目標でもあるのだ。
 しかし、本当に返しに行くことができるのか? そう内心に込み上げてくる不安に突き動かされながらも、魔理沙は自分に言い聞かせるようにして独り言を呟くのだった。

――パチュリーには、ちゃんと『自分の手』で本を返しに行こう。







 太陽はもう高く昇っている。こんな森の中でも一番光の差し込むこの時間帯は、いつもなら洗濯物を干しているはずだった。普段から家を空けていることの多い魔理沙。それなのに無防備に下着なんかも干したままにして遊びに行ってて大丈夫か、と思うかもしれない。だが、こんな森の奥に入り込んでまで下着泥棒をする輩もいないし、そもそも妖怪からは興味すら持たれないだろうから安心して大っぴらに干せるというものだ。里の人間が恐れる魔法の森だが、実は独り暮らしの女性にピッタリの隠れた優良物件だったのだ。嘘です。
「うー、体がベタベタして気持ち悪いぜ……」
 体調が優れず、ひどく汗をかく上に最低でも丸々一日は湯浴みをしていないのだから当然だろう。ずっと着ている服の着心地は、汗でグッショリと濡れているので最悪だ。少し頭痛は落ち着いてきたものの、まだ起き上がれるほどではない。着替えはおろか、湯浴みなどはもってのほかだ。
 そんな現状は、年頃の魔理沙にとって耐え難いものであった。こんな姿を密かに思い慕う男性になど見られたくも無い……はずだが、そうは思っていても本心は求めてしまうものなのかもしれない。
「全く、香霖め……。いつも遊びに行ってやってるんだから、ちょっとくらい心配して見舞いにくらい来てくれてもいいだろうに。チェッ」
 実家とは絶縁状態にあり、事実上身寄りのいない魔理沙にとって唯一それに近い男性の名が口から零れ落ちる。名前ではないが。
 普段から密かに慕っている彼が来てくれればこんな不調など一気に吹き飛びそうなものだが、残念ながら来ないのでは逆効果である。そもそも、この感情が恋心から来るものなのか、兄を慕うようなものなのか……実は、魔理沙本人にも分かっていない。しかし、向こうからすれば完全にそう思っていないことは明らかである。霖之助からすれば、魔理沙は精々年の離れた妹か手のかかる親類の子程度だろう。
「くっそ~、今度行くときは金なんか払ってやるもんか(←いつも)」
 こんな的外れな報復を考えても突っ込んでくれる者はどこにもいない。その声は、魔理沙しかいない部屋に虚しく響き渡るだけだった。魔理沙はただ一人、体調不良で少し痛んだブロンズのお下げを手で弄びながら時間が流れるのを待つばかりだった。






 どれくらい時間を潰しただろうか。ようやく日が沈む。動き回ることもできずにベッドの上でずっと手持無沙汰だった魔理沙からすれば、まるで何日も経ったかのように感じられるのだった。
 痛みも大分治まってきたようだ。余裕も出てきたこともあって、今夜は枕元に置いてあったランプに魔力を絞り出して微かな明かりを灯すことにする。ボンヤリと橙色の小さな光だけが光源の部屋は、まるで怪談をするのにぴったりの雰囲気を醸し出していた。それに加えて魔法の森夜恒例、妖獣らによる遠吠え祭が聞こえてくるのだから不安や恐怖を煽り立てるには効果倍増だった。
 昨夜のように明かり無しの方がマシだったかも、と少しばかり後悔する魔理沙。だが、一度付けてしまった以上はもう明かりを消したくはない、と思うのが人間の心理というものだ。仕方なくこれまで同様に思案に耽ることで時間を潰そうとする魔理沙――だったが。
「……ああ、もういないのか。意外と少なかったんだな」
 視界の先にある天井の見慣れた染みに目をやりながらポツリと呟く魔理沙。その言葉は一体、何を意味しているのだろうか。

 魔理沙は普段から宴会の幹事などを積極的に務めている。それに加えて、異変を解決する度に悪友とも言える妖怪達は増えていく一方だ。それ故、幻想郷での自分の顔は広いとずっと思っていた……そう、思っていたのだ。
 確かに、幻想郷の中で魔理沙の顔は広い。だが、そんな彼女に近しい友――親しく付き合っている友人の数は、思っていたよりも多くはなかったのだ。儚い人間のみならず、妖怪にとっても『親友』と呼べる存在が五指にも達すればこの上ない果報者であることを、毎日のように知り合いに囲まれ、喧騒に満ち溢れた日々を面白おかしく過ごしてきた彼女は失念していたのだ。
 その事にようやく気付いた魔理沙は、自分の言動を、親友たちにどう接してきたのか振り返る。そして、彼女たちに対する感謝の気持ちと同時に、迷惑をかけ続けていることに対する申し訳なさで胸が一杯になるのだった。だが、それと同時に、普段から元気を振りまくことで心の奥に隠し続け――否、気付かないふりをしてきた不安が急に鎌首をもたげてくる。


――どうせ私のことなんて、本当は上辺だけで誰ひとり愛してなどくれないんだ。現に、今まで私が愛していると思っていた人は、皆……


 友人の有り難さを実感した魔理沙。だが、それは同時にこのような状態に陥っても魔理沙が親友だと思っていた彼女たちが誰一人として訪ねてこないという非情な現実に追い打ちをかける結果にもなったのだ。つまり、相手は魔理沙を『親友』とは思っていないのでは――ただ自分で思い込んでいただけなのでは、と。
「うっ、くっ……うぇ」
 どす黒い不安が心を塗りこめていく。そこに生まれた感情は憎しみなどでは無い。只々純粋な……『悲しい、寂しい』という感情だった。
 張りつめていた弦が切れてしまったのか、知らずの内に魔理沙は声を上げて泣いていた。気丈な彼女は物心がついて以来、涙が滲む程度を除いて数えるほどしか泣いた覚えがない。だが今は……ただでさえ弱っていた魔理沙の心は、既に限界だった。一度零れ落ちた心の雫は、止まることを知らずにボロボロと流れて頬にその跡を残していく。
「うぅ、えっぐ、グズッ……」
 孤独に苛まれるか弱き少女の泣き声。だが、それは相も変わらず虚しく部屋に響き渡るだけで誰も答えてはくれない。それがより一層彼女の心を掻き立てる。魔理沙の心は、負の連鎖へと陥っていた。その結果、「病は気から」という言葉があるように一度引いたはずの疼痛が再び、あたかも最後の悪あがきの如く魔理沙に襲いかかる。それが彼女の体力を一層奪い取っていくのだが、それでも魔理沙は肉体的な痛みよりも心の『痛み』に涙を流し続けていた。


 泣きに泣いて泣き続けている内に夜は更け、空には満月が昇る。月明かりが微かに差し込む部屋にはベッドがボンヤリと浮かんでいる。その枕元に置かれているランプの光は、風に吹かれているかのように弱々しく、今にも消えてしまいそうだ。
 それに伴うようにして魔理沙の意識も次第に薄れていく。それは、この世界からの『別離』を意味していた。そして、魔理沙の意識が完全に亡くなる寸前――


――甘ったれるんじゃないよ、魔理沙。あんたには……


 と、頭の片隅でそう聞こえた気がしたのだった。












「…………ん、うぅ」
 
 妙に体が痛い。体中が凝り固まっているようなので、一度大きく伸びをしてから魔理沙は目を開く。突如、視界に差し込んできたオレンジ色の光に庇うようにして目を手で覆う。
 少しして、目が光に慣れてきた魔理沙は周囲を見渡してみた。すると、その視界に入ってきたのは三途の川のサボリ魔でも説教が趣味(?)の閻魔様の姿でも無かった。只々見慣れた、染みのこびりついた古ぼけた天井と妙に小綺麗な自室がそこにあった。
「あ、あれ? 私……??」
 何かがおかしい。さっきまで真っ暗だったはずの部屋にボンヤリとした夕焼けの光が差し込んでいる。きっと時間帯は日暮れであろう。あれからずっと眠っていたのだろうか? それにしても、ベッドの下にどかしたはずの魔道書なんかも見当たらない。それどころか本棚も自分の本以外のスペースが空になっていた。但し、研究用に使っている机の上には数冊の借り物である魔導書が申し訳程度に積み上げられていたが。それ以上に不思議なのが、体がやけに軽いことだった。まるで、先ほどまでの苦痛が嘘のように。
「うーん……空き巣、か? いや、まさかな」
 おまけにその机には探しても見つからなかったミニ八卦炉と箒が――何故か見覚えのあるお札がビッシリと貼り付けられていたが――丁寧に置かれていた。
 先程までとあまりに違いすぎる光景に魔理沙の頭では理解が追いつかない。取り敢えず毛布を捲りながら上体を起こす。すると、胸の辺りがゆったりとしたピンク色の見慣れないパジャマがいつの間にか着せられていることに気が付いた。あれだけ汗だくになっていたはずなのに体もさっぱりしている。額に何かが張り付いていたので剥がしてみると、見たことの無い白くて少しばかりヒンヤリとしたシート状のものが目に入った。
「何だこりゃ? 一体全体、どうなって――」


「あっ 起きたのね、魔理沙」


 すぐそばから聞こえてくる懐かしい声。パッ、と首を動かして横を向いた先には、隣の部屋から来たのか、手に魔理沙の服を持ちながらフリルの付いたクリーム色のエプロンを身に付けているアリスの姿があった。アリスは魔理沙のいるベッドへ歩み寄りながら言葉を続ける。
「ほら、随分綻びていたから縫っといてあげたからね。そうそう、昨夜はずっと泣いていたけど、大丈夫?」
 魔理沙の喜ぶ顔を見て苦笑するアリスだったが、魔理沙の頬にまだ乾ききっていない涙の跡を見つけて思い出したかのように心配そうな顔で覗きこんでくる。そんなアリスに見られまい、と袖で涙の跡を拭って誤魔化す魔理沙。
「な、泣いてなんかいないぜ」
「ふ~ん? ま、そう言うことにしておいてあげるわ。でも、それ私のパジャマだから後でちゃんと洗って返してよ?」
「へ? 何で私がアリスのを着ているんだ? そもそも、何がどうなってるのか教えてくれ」
 自身の身に何が起きたのか、まるで理解していない魔理沙。そんな彼女にアリスは腰に手を当てて溜め息をつくと、手に持っていた服を魔理沙の机に置いてベッドの近くに寄せておいた椅子に腰を下ろした。
「呆れた。本当に何も覚えていないの? 一昨日、夕食を食べようとしたらあんたがいきなりひっくり返ったんじゃない。心配して損しちゃったわ」
 その出来事は覚えていたものの、ようやく時間の流れを知ることができた魔理沙の脳裏に疑問が浮かぶ。
「あ、あぁ、そうだったな……(ん? 待てよ。アリスは『心配してた』と言ったよな。でも、さっきまで私はずっと一人っきりだった……おかしくないか?)」
 顔を少し伏せて顎に手を当てながら考え込む魔理沙。そんな彼女に構わずにアリスは話を続ける。
「取り敢えず台所に行ってみたらあんたの倒れた原因が分かったのよ。それからすぐに紅魔館に行って、パチュリーに薬の調合を頼んでから連れてきて容態も診てもらったってわけ。全く、なんで料理に『一夜茸』なんて入れたのよ。もし、私も一緒に食べていたら二人ともあのまま死んでいたじゃない」


 『一夜茸』――食材としても使えるが、アルコールと一緒に少量でも体内に摂取するとたちまち猛毒へと変貌してしまう危険な茸だ。何でもその効果は、彼のヤマタノオロチをも昏倒させたという(阿求談)。


「え! 私、そんな物入れてたのか?」
 ギョッとした、そしてどことなく気まずそうな表情を見せる魔理沙にアリスは頭を抱える。
「はぁ……。だからこの森のキノコは食べない方がいいって、あれだけ言ったのに。ただでさえ見分けのつきにくいものとかで溢れ返っているんだから。……ま、よくよく考えてみればあんたがどうなろうが私の知ったことじゃないし、余計なお節介だったようね。とにかく、パチュリーに診てもらっている間に私は家や里で準備を済ませて、それからは泊まり込みでずっと看ていてあげたってわけ。少しくらい感謝しなさいよ?」
「そうだったのか。アリス、ありがとな」
「へ? あ、いえ、どういたしまし、て……?」
 いつになく素直な魔理沙の態度に戸惑い、驚きを隠せないアリス。でも、その表情を見れば満更でもなさそうだ。
「ところで、この白いやつは何なんだ?」
 ずっと手に持っていたからか、もう冷たさを感じさせない何かをひらひらさせながら尋ねる魔理沙。
「ああ、それね。さっきも言ったけど、泊まり込みになるだろうって人里へ食材の買い出しに行ったついでに霖之助さんの所に寄ったら魔理沙の話になってね、事情を説明したらそれをくれたのよ。外の世界のものらしいけど、なんでもヒンヤリとしていて熱を下げるのにいいとか。あと霖之助さんから伝言よ。『お大事に』、だって」
「これ、香霖がくれたのか」
 ボソッとアリスに聞こえないように呟き、少し頬が熱くなるのを感じる魔理沙。顔に出ていないかと心配するが、アリスは全く気付いていないようだ。とにかく今は話を逸らそうと魔理沙は視線を動かす。


――あぁ、そうだ。部屋の様子も大分変わっているな。ついでに聞いておくか。


「あ、そうだ。部屋が妙に片付いているんだが、もしかして――」
 魔理沙がそこまで言いかけると、アリスは「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに得意気なドヤ顔で胸を張る。
「そうよ。あまりにも汚かったから私が全部掃除しておいてあげたわ。これで一つ『貸し』よ。でも、何なのよあれ。私の家の大掃除の方が全然楽だったわね。それと、『暇』だったからついでに衣類は全部洗濯しておいてあげたわよ。その間は、私の替えを貸してあげる。でも、そろそろ乾いたころかしら? あんたのとこも日当たり悪いみたいで大変ね」
 ほぅ、と頬に手を当てながらどこか所帯染みた溜息をつくアリス。魔法の森に住んでいる以上、日当たりについてはどうしようもない。魔理沙だけでは無く、アリスや霖之助もその点に悩まされていた。
「ああ、これはアリスのだったのか……って、まさか今付けている下着も!?」
「バカ、それはあんたのに決まってるじゃない。それと、魔理沙。あなた、もうちょっと身の回りのことくらいちゃんとしなさいよ。そんなでも女の子なんだから。これじゃ『お嫁』になんて行けないわよ?」
 顔を真っ赤にして隣に座っているアリスへ身を乗り出す魔理沙。対するアリスはにべもなくあしらう。空回りしてしまった魔理沙は再びベッドに倒れこむと、顔の下半分を毛布で隠すことで誤魔化そうとする。
「むぅ。余計なお世話だぜ。それに、アリスだって私よりも年上なのに独りじゃないか」
「あら、言ってなかったっけ? なんだかんだ私の齢は魔理沙とそう離れていないわよ。そうね、ちょっと上くらいかしら。……それに、私はいいのよ。結婚している魔法使いなんて聞いたことも無いし、どうせしたところで先立たれるのがオチだからね」
「へ? そうだったのか??」
 どこか達観したような顔つきでそう答えるアリス。彼女も元人間の乙女だ。そういうことに関心が無かったわけが無い。何か思う所があるのだろう。尤も、魔理沙としてはアリスの年齢に気が向いているようだが。
「それと、寝苦しそうだったから一日二回は体の汗を拭いたり服を取り変えてあげたのよ。……クスッ、いつもは私のこと馬鹿にしてるくせに魔理沙だって大して無いじゃない」
「――ッ!? う、うるさいっ! 私はアリスと違ってまだまだ成長するんだぜ」
 何に対する気恥ずかしさからなのか、顔を真っ赤にして反論する魔理沙。一方、アリスはどこか勝ち誇ったかのような表情を浮かべている。そう次元の高いレベルの話ではないのだが。
「はいはい、そうだといいわね。それと、もう気付いているだろうけどそこの本棚。昨夜、またパチュリーが小悪魔と一緒に来てあんたに持って行かれた本を一気に回収していったわ。……でも、最近持っていった本は読み終わっていないだろう、って置いて行ってくれたわよ。良かったわね。勿論、私が貸していたのも返してもらったわ」
「あぁ、やっぱり。どうりで妙に部屋がサッパリとしているわけだぜ」
 目に見えて落ち込む魔理沙。自業自得である。そんな困ったちゃんな魔理沙に言い聞かせるようにしてアリスは語りかける。
「全く、私もパチュリーも言ってくれればちゃんと貸してあげるんだから、素直に言いなさいよ?」
「ま、その件については善処するさ(もう一度やり直しだな。ニシシ)」
 口ではそう言いながらも、内心魔理沙に本泥棒を止める気は毛頭もなかった。なぜなら、その際に彼女たちと交わされる会話や弾幕勝負の一時が魔理沙は堪らなく大好きなのだから……こればかりは、いくら迷惑と言われても止められない。


――どうせ、二人に比べれば寿命の短い私だ。これからは時折『返す』から、もう少しの間、私の我儘に付き合ってくれ。


 そう魔理沙は心中で呟いて舌を出していた。
「本当かしらね。……あ、そうそう。珍しく霊夢も来たわよ。一昨日の晩に」
「ふぇ? あ、あの霊夢が!?」
 再び跳び起きるように身を乗り出しながら腑抜けた声を漏らす魔理沙。まさに青天の霹靂と言ったところか。
「えぇ、私も吃驚したわ。どうも、ここ最近神社に来ないからまた何か悪巧みでもしているのかと思ったらしいわよ」
「……ひどいぜ」
 喜ぶのも束の間。あんまりな理由に落胆する魔理沙だった。まあ、魔理沙の場合は『前科』があるので仕方ない。
「普段の行いでしょ。それで、霊夢にも事情を説明したら完治するまで安静にさせた方がいいって言って、そこの箒とかにお札をペタペタ貼るだけ貼って帰っていったわ。今度神社に来た時に剥がすそうだからお金を持ってくるように、だって。当面は妖怪退治もお休みね。ま、ゆっくりと休むのもたまにはいいんじゃない?」
「はぁん、それでか……(どうりで見つからなかったわけだぜ。お金は仕方ない、踏み倒すか)」
 その言葉に思い当たることがあるような物言いをする魔理沙。アリスは何のことか分かっていないようだ。
「?? 何、どうかしたの?」
「いや、何でもないぜ」
「そう? ならいいんだけど――」


「シャンハーイ!」


 アリスの言葉を遮って元気よく二人の間に入り込んでくる上海人形。どうやら別の部屋にいたようだ。
「あ、できたみたいね。いつ目を覚ますか分からなかったし、取り敢えずご飯作っておいたのよ。今食べられるかしら? 卵入りの雑炊よ」
 そう言っている間もしきりにアリスの袖を引っ張る上海。アリスはそんな上海の頭を撫でながらベッドの方へ顔を向けてそう問いかけると、魔理沙は目を輝かせていた。
「おっ、もちろん食べるぜ。丸々二日何も食べて無くてもうペコペコなんだ」
「(寝込んでいる間も少しは食べさせていたんだけどなぁ)そう? じゃ、今持ってくるからちょっと待ってて」
「さんきゅ」
 そう言って部屋から出て行くアリスの背中を見送る魔理沙。どうやらアリスはこの二日間ずっと、魔理沙がいつ目を覚ましても食べられるように体に負担のかからない料理を作り続けていたようだ。当然、魔理沙が目を覚まさない間は健康であるはずの彼女がそれを食していたに違いない。そんなさりげない優しさが、弱り切っていた魔理沙の心に温かく染み渡っていくようで手を口に当てても自然と浮かんでくる笑みを隠しきれなかった。


「うふ、うふふ……」


「なぁにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわね」
 両手で小鍋を持ちながら部屋に入ってくるアリス。熱々の湯気を立てている鍋からはおいしそうな香りが漂ってくる。それをアリスは上海に持たせていた小皿によそる。
「いや、まぁ、随分と美味しそうな匂いだなぁ、って」
「もう、おだてたって何も出ないわよ。フー、フー……はい、あーん」
「あーん」
 思いがけない称賛に頬が弛むのを我慢して魔理沙に匙を差し出すアリス。反射的に魔理沙も素直に口を開けるが――
「……って、いや、ちょっと待て。それは、その、どうなんだ?」
 小さじで掬って粥を冷ましたアリスはそれを魔理沙に差し出すも、それを制されてアリスは怪訝な面持ちになる。
「どうって、何がよ?」
「いや、そのだな、そういうのは、まだちょっと早いんじゃ……」
 連日の看病で疲れているのか、今日のアリスはどうも鈍い。だが、魔理沙が目を逸らしながら頬を赤らめてそこまで言うと、ようやくアリスも自分の行為にハッとしたようだ。一気に顔が真っ赤になるアリス。口をパクパク動かそうにも言葉が出ない。それに、一度言い出した以上は引っ込めるわけにもいかない。否、正直言って引っ込めたくなかった。結果、アリスはこのチャンスを最大限に生かすことにしたのだ。
 決心の付いたアリスは、(錯乱気味に)顔を赤くしたまま魔理沙に強気で攻めにかかる。
「な、何よ! わ、私の料理じゃ食べられないって言うの!?」
「い、いや、そう言うわけじゃないんだがな。落ち着けって……あーん」
 観念したのか、目を閉じて素直に小さな口を開く魔理沙。アリスは震える手でその口に小さじを――



「あっぢぃ!!」
「だ、大丈夫!?」








 美味しそうに、かつ幸せそうにアリスから差し出される特製の卵雑炊を咀嚼する魔理沙。先の火傷など気にならない。もうお替り四杯目だ。
「ハムハム……アリス、もう一杯くれ」
「はいはい、口に入れたまま喋らないの」
 甲斐甲斐しく鍋からお替りを小皿によそい、魔理沙の口に運び続けるアリス。この分では魔理沙も早く元通りになれるだろう。頬に付いたご飯粒を取ったりしながら談笑する魔理沙とアリス。二人は、そんな暖かくも心地よい時間と空間を共有していた。きっと『親友』とは、このような関係のことを言うのだろう。


 窓から見える外には、地上からは直視できない太陽の光を受けて金色に輝く十六夜が浮かび上がり、アリスの胸元には銀でできた星形のペンダントを優しく照らしていた。
 とある神社
「ふぅ、やれやれだね」



〈後書き〉
 体調が悪い時ほど友人からの心配って嬉しいもの。特に病気が治ってから教室に入った時のクラスメートからの反応とか。だから自分も病み上がりの友人に声をかける。こういう和(輪)は本当にいいと思う。


 作品について。
 今作のテーマは、普段は天真爛漫な魔理沙の心を掘り下げて周囲をもう一度見渡してから(ご褒美に?)アリスとイチャイチャさせることです。構成的にはビターチョコの中にミルクチョコ、ですかね?
 一応今回の話は、プロット制作時にアリス側の視点の設定も練っておいたので気が向いたら作ります。誰か一人でも気になってくれるようでしたら間違いなく投稿します。
 

 次回は少し変わった趣向を、ということで未来――約三百年後の幻想郷を描いた物語を投稿します。イメージとしては、劉関張が没した後の蜀ですね。なので、これまでスポットを浴びにくかったキャラたちに活躍してもらいます。なお、原作に近いお遊び要素も盛り込んでいたり……
 もちろん、世代交代等で現役のキャラが何人か出演できなかったり、オリキャラが出て来ることは避けられません。ですが、一人でも多くの方に愛されるよう、特にオリキャラの描写や設定面には細心の注意を払いましたので抵抗の無い方は是非ご覧ください。次の主役も白黒です(←誰だ?)。

※先日、【T-K】時代に投稿した2作もPNを【ほうじ茶】と改めました。
 なお、コメント返しはやっぱり返信期間を設けずに気付き次第返していくことにしたのでお気軽に書き込んでやってください。
 今作ラストの「星形のペンダント」が分からない方は二作目、『ハッピーバースデイ・アリス』をご覧頂ければわかります。文体に失敗した拙作ながら設定としては流用したい箇所が多々あるんですよね。う~ん、困ったもんだ(^。^;)
 ですが、その作品で頂いたコメントのおかげで今のような形に落ち着くことができたのです。当時、コメントを下さった方々にもう一度お礼申し上げます。


〈ほうじ茶の独り言 20151130〉
 やっと『東方永夜抄』を購入! 早速ゆかれいむでクリア後に妹紅にボコされ中…て言うか、『妖々夢』のEXよりボスに辿り着きにくい気がする。
 神主の書く立絵はもちろん、『東方鈴奈庵』のと小説版『東方儚月抄』などを担当されたTOKIAMEさんの絵が好きだなぁ。霊夢は髪を下した方が可愛いと思うのは俺だけじゃ無いはず。


〈有志によるアンケート協力のお願い〉 ※無視しても構いません※
 行間についてですが、地の文と会話で空けるべきか迷っています。①か②で構わないので宜しければご意見下さい。下にサンプルを載せます。

①なし
 アリスの言葉を遮って元気よく二人の間に入り込んでくる上海人形。どうやら別の部屋にいたようだ。
「あ、できたみたいね。いつ目を覚ますか分からなかったし、取り敢えずご飯作っておいたのよ。今食べられるかしら? 卵入りの雑炊よ」
 そう言っている間もしきりにアリスの袖を引っ張る上海。アリスはそんな上海の頭を撫でながらベッドの方へ顔を向けてそう問いかけると、魔理沙は目を輝かせていた。
「おっ、もちろん食べるぜ。丸々二日何も食べて無くてもうペコペコなんだ」
「(寝込んでいる間も少しは食べさせていたんだけどなぁ)そう? じゃ、今持ってくるからちょっと待ってて」
「さんきゅ」
 そう言って部屋から出て行く――


②あり
 アリスの言葉を遮って元気よく二人の間に入り込んでくる上海人形。どうやら別の部屋にいたようだ。

「あ、できたみたいね。いつ目を覚ますか分からなかったし、取り敢えずご飯作っておいたのよ。今食べられるかしら? 卵入りの雑炊よ」

 そう言っている間もしきりにアリスの袖を引っ張る上海。アリスはそんな上海の頭を撫でながらベッドの方へ顔を向けてそう問いかけると、魔理沙は目を輝かせていた。

「おっ、もちろん食べるぜ。丸々二日何も食べて無くてもうペコペコなんだ」
「(寝込んでいる間も少しは食べさせていたんだけどなぁ)そう? じゃ、今持ってくるからちょっと待ってて」
「さんきゅ」

 そう言って部屋から出て行く――


③その他
ほうじ茶
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コメント



0.150簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
ほのぼの!
ありふれた内容でしたが、いい雰囲気でした。
4.無評価ほうじ茶削除
コメ返しです。

2さん、お楽しみ頂けてよかったです。
今後もこのような作品なんかも出していくので見てくださいね。
いつか「ありふれていない」作品を出せるよう精進したいと思います。では、次回も貴殿に見ていただけるよう期待しています。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
本当はグロ書きたいとかそんな人?
8.無評価ほうじ茶削除
コメ返しです。
7さん、グロ…ですか?
少なくともそのような描写は今作では微塵もありませんし、正直グロは苦手です(擦りむいた生々しい傷痕見るのすら無理)。
某大先生に感化されて(技量不足ゆえに)失敗した前作でもその手の描写は(書けないし)上手く省いたはずですよ。むしろ、ほのぼのした幻想郷らしい作品が書きたいですね。

あなたがグロを望んでいるのか分かりませんが、まず自分の作品には生々しいグロが前面に出てくることは今後も通して出てこないでしょうね。
仮に、怪我のシーンが出てきたとしてもオブラートに包むでしょうしご安心(?)を。
本当は、今回の作品に対するコメントが欲しかったのですが仕方ありません。
それでは。