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地底四人娘 4 ― キスメの苗字の巻 ―

2015/11/14 01:11:48
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 このSSは一応独立した作品となっていますが、過去作の『青き笛吹きゆめむすび』で用いたオリジナルの設定やオリキャラが出てきます。ご容赦くださいまし。








 ~ キスメの苗字の巻 ~




 1


 地底の都は大きく分けて北と南で、その雰囲気にだいぶ差がある。
 簡単に言うなら、歴史が古く、鬼を始めとしたより強力な妖怪が根城にしているのが北側。
 一方で、様々な地底の妖怪が都を出入りしていて、より雑然というか混沌としているのが南側。
 建物も住む者の顔ぶれも異なるその様は、いわば旧都版の屋敷街と下町といえるだろうか。
 そうした空気の違いは、旧地獄街道を北から南まで歩いて眺めれば、よりわかりやすく肌で感じ取れる。

 もっとも、釣瓶落としのキスメが旧地獄街道を気兼ねなく歩けるようになったのは、ここ数年の話だった。
 さらにいうなら、仲良しの三妖怪との縁がなければ、永遠にそうした機会に巡り合えなかっただろう。
 ある程度の場数を踏んでいたり相応の実力が備わっていなければ、常に何かに巻き込まれ、時に呑みこまれてしまう。
 それは旧都の本質であり、百年前から……そしておそらくは百年後も変わらぬ摂理だった。

「それでね? 綺麗になった勇儀さんが、その姿でお城の中を歩いてみたら大騒ぎになっちゃって……」
「へー。鬼の城っていうから、荒っぽくて危ない所みたいなイメージだったけど、なんだか楽しそうだねぇ」

 と、キスメの隣で相槌を打つのは、土蜘蛛でも橋姫でも鬼でもなかった。
 歩くと揺れる真っ赤な三つ編み、そして頭に生えた猫の耳が特徴的な妖怪だ。
 グリーンの刺繍の入った黒いワンピースをまとい、頭から足首までを順に黒、赤、白という色のリボンでデコレーションしている。
 深緑の髪を二つおさげにしただけで、作務衣に桶という地味な姿のキスメとは、何から何まで対照的な外見の妖怪だった。
 
 火焔猫燐。
 彼女は以前、キスメが勇気を出して一人で旧都に買い物に来ていた時に、悪い店主に騙されそうになったところを助けてくれた恩人……いや、恩猫だった。
 生まれた時から旧都に住んでいるそうで、都の地理や事情に明るく、通りも歩き慣れている様子。
 だからなのか、キスメと同じく生まれて百年に届いていない若い妖怪なのに、並んで街道を行くとすごく先輩に思えてしまう。

 二人が再会を果たしたのは、ほんの三日前のこと。
 キスメがいつもの三人組と旧都を散策していた時に、お燐の方から見つけてくれたのだ。
 都にほとんど知り合いのいない自分が、誰かに声をかけられるとは思っていなかったので、振り向いて顔を見合わせた時は、ひっくり返りそうになった。
 それから、三日後の今日に二人で遊ぶ約束をし、お茶をしたり買い物をしたりと、今まで楽しい時間を過ごしていたわけだ。
 会話もずっと弾みっぱなしで、もっと旧都が大きくて、帰り道が長ければいいのに、と思うほどだった。

「驚いちゃったよ。まさか、あのお城のすぐ側に住んでるなんてねー。あたいにも、いわゆるセレブの友達ができたってことかなー」
「ううん。ただ泊まらせてもらってるだけで、私が偉いわけじゃないし……それに、お燐ちゃんだって、あそこに見えてる立派なお屋敷に住んでるんでしょ?」
「いやそりゃまあそうだけどさぁ」

 カクン、と首を落とし、お燐は二又の尾でバッテンを作る。

「ここらで地霊殿に住んでるなんて大声で言ったら大変だよ。遠慮のない陰口に冷たい視線。通りの空気は氷点下。時には物まで飛んできて……いやホントだって。前にお空に試させたことまであるんだから」
「そうなんだ……」
「今じゃもう慣れたけどね。腹は立つけど、あたいじゃ、どうもできないし」

 やれやれ、とかぶりを振ってから、彼女はキュートな笑顔に戻って、

「でも、キスメが遊びに来るなら歓迎だよ。うちのご主人様もきっと許してくれるって」
「お……お燐ちゃんのご主人様?」
「うん。あ、ひょっとして怖い?」
「ちょ、ちょっと怖い、かも」
「あのね。さとり様って、本を読むのが趣味なんだ。もしかすると、キスメとも話が合うんじゃないかな」
「えっ」
「地底じゃなかなか手に入らない外の世界の本も、たくさん持ってるらしいって~」
「うう……」

 露骨にエサをちらつかされ、キスメは口元に波線を描く。
 外の世界で書かれた珍しい本。それは、本が好きなキスメにとって、とても魅惑的な響きだった。
 しかしながら、世間に疎い釣瓶落としの子でも、覚り妖怪に関する不吉な噂は頻繁に耳にしている。

 なんでも、他者の心を読むことができるとか。
 読むだけではなく、食べてしまうとか。
 心の読まれた妖怪は衰弱し、覚り妖怪の餌食になってしまうとか。
 旧都の行方不明者には、大抵その妖怪が関わっているに違いないとか。

 もしかすると、お燐が今まで親切にしてくれたのも全部演技で、最終的にそのご主人様への貢物にしようとしていたのでは。
 いざお邪魔したら、扉がたくさんあって、そこに書かれた指示に従っていくうちに、料理の下ごしらえをされて……。

「あわわわわ……」

 キスメの頭は、一度悪い風に考えると、とことん悪い風に考えるようにできていた。
 隣で様子を窺っていたお燐がクスクスと笑い声を立て、

「まぁ、今すぐって話じゃないから。嫌ならそれでもいいし、もし決心がついたなら言ってね」
「……うん」

 キスメはうなずき、頑張って自分の悪い想像を頭から追い払った。
 今日だって、勇気を出して一人で外出したおかげで、経験したことのない素敵な時を過ごせたのだ。
 本のことは気になったし、お燐とももっと仲良くしたかったし、今すぐじゃなくていいとも言ってくれた。
 だからいつか地霊殿に行ってみよう。でも念のため、後で他の三人にも相談してみて、アドバイスをもらっておこう。

 などとキスメが考えを巡らせていると、ちょうど街道が辻に差し掛かり、お燐が足を止める。

「おっと、ここまでだね。それじゃあキスメ」
「うん! お燐ちゃん、今日は本当にありがとう!」
「こちらこそ! じゃあまた三日後、同じ場所で!」
「またねー!」

 手を振って中央街へと消えていくお燐に、キスメも手を振り返して見送った。
 遠ざかる背中の遥か向こう、そびえる丘の頂上に、洋風のお屋敷が小さく見えている。
 確かにここからでも、地霊殿という建物は都の中から浮いていて、周囲と間を置いて暮らしているように映った。

(一つほどこうとすると、他の場所が絡む。絡んでほつれながら肥えていき、所々で病んでいく。それがこの都なんよ)

 昔、旧都を初めて歩いたとき、案内してくれた友達に、そんな風に教えてもらったことがあった。
 北側と南側の上下関係、南側の外様に対する差別意識、そしてお燐の住む地霊殿と残りの都の住人の間の敵愾心。
 まだキスメには、この都における妖怪同士の関係というのが複雑すぎて分からない。
 みんな仲良くすればいいのに、と考えてしまうのだけど、そんなに単純にはいかないものらしい。

 ――私にもいつか分かるのかな……。

 その日が来るのが待ち遠しい。
 仲良しの三人のように立派な妖怪になって、お燐のように旧地獄街道を案内できるくらい都の空気にも馴染んで。
 きっと、今日みたいな体験を何度も重ねれば、そんな未来に巡り合える気がする。
 手本にできる妖怪が身近にたくさんいる私は、本当に幸運だ。

 天を見上げてそんなことを想い、キスメは桶を雲に乗せたような心地で、鬼ヶ城へと続く街道を行き始めた。
 その途中だった。

 ふわっ、とおさげを風に引かれた気がして、首を回す。
 すぐに視線が、脇の裏路地に縫い止められた。
 それは人間であれば、ただ光が届いていない場所、もしくは何だか陰気な場所、と表現するしかない小道だった。
 しかし氷に囲まれて暮らす民が、様々な氷を異なる単語で区別するように、地底の妖怪は闇に様々な要素を見る。
 冷たい闇、温かい闇、黒い闇、白い闇、危険な闇、優しい闇……。

 そしてその裏路地に横たわっているのは、なんとも重たく、静かな闇だった。
 光の届かぬ地底湖、その底に沈んだ岩の中に封じられていたものが、何かのきっかけで外に出てきたような。
 ともかくこの場にそぐわない、独特な空気を有していた。
 しかしキスメはその闇に、ネガティブなものとは異なる、不思議な感情を抱いた。
 愛しいような切ないような懐かしいような。何だかずっと見ていたくなるような。

「……………………」

 自分の感情の正体がわからぬまま、キスメは自然と街道から外れ、その裏路地の入口に桶を進めていた。
 道の幅は細身の妖怪なら二人、大柄な鬼ならやっと一人が通れるくらいで、右も左も変色した石塀が続いている。
 もう何年も掃除されていないのだろう。ひんやりとした空気の中に、黴と埃の臭いがしみついていた。
 そして闇は、キスメが進めば進むほど奥へと引いていき、同時に街道の喧騒はキスメから遠ざかっていく。
 まるで古井戸の底に下りて行くように、一つ一つの音が失せていき、ついには自分の桶が立てる音だけになってしまった。
 突き当たりを右へ、また突き当たったら左という風に一本道だったので迷うこともなかったものの、先に何が待っているかわからない。
 そろそろ引き返そうかな、とキスメが怖気づき始めた頃だった。

 ついに本当の行き止まりが見えた。
 今までの狭い路地から急に、そこだけ開けた場所になっていて、奥に小さくて簡素な……お店があった。
 見たところ細い柱を組んで、藁を載せただけの店で、一人で建てるのに半日、解体するのに一瞬といった感じだ。
 看板の文字はかすれていてよく見えないし、中は地底の暗さに慣れている者でも戸惑うほどの闇が立ち込めている。
 売り物らしき品々は、店内だけではなく、店先にも並んでいた。
 それらの商品に興味が湧いたキスメは、誘われるように近付いていた。

 ぷぅんと気持ちが和む香りが鼻をくすぐる。それは地底では希少な木の匂いだった。
 店の前に並んでいるのは、たくさんの『桶』だったのだ。
 他にも、開いた箱や閉じた箱などもある。上から覗いてみると、包丁や壺などが納まっていた。
 近寄って眺めてみても、何を商いにしているのだか、見当がつかない。
 古道具屋にしては、ちょっと品物の顔ぶれが変わっている気がするのだけど。

 突然、店内の闇が動いたような気がして、キスメはぎょっと身を引いた。
 慌てて目を凝らしてみる。
 すると、店の中にあった小山のような影が、煙管を口に咥えて横を向いた、大きな頭に変貌していた。

 旧都には顔の恐ろしい妖怪がたくさんいる。キスメはそうした妖怪が概して得意ではない。
 そして、店の中にいたその妖怪は、極め付けに怖い顔をしていた。
 頭は毛が綺麗にそられていて筋肉の皺が出来ており、一方で黒々とした顎髭が顔の下半分に茂みを作っている。
 眉はいたちの尾ほどもあり、薄く開いた目の周りに紋様めいた入れ墨が彫られ、瞼はひび割れていて何かの岩肌のよう。
 黒染めの半纏からはみ出た腕は、並の鬼のものよりも太く、手はキスメを桶ごと握りつぶせそうな大きさだ。

 しかし何よりもキスメを圧倒したのは、その巨大な顔の持ち主が入っている『桶』の大きさだった。
 胴回りも深さも重さも、キスメが今入っているものの五倍はあるだろう。
 表面は焦げた飴に傷をつけたような風で、巻かれた鋼は錆びて黒ずんでおり、相当の年期が窺えた。
 そんな桶の横綱ではないかと思うほどの風格のある入れ物に、その髭の男は身を沈めていたのだった。

「あの……」

 キスメは勇気を振り絞って話しかけていた。

「おじさんも、釣瓶落とし……ですよね」

 返事はすぐにこなかった。
 二呼吸程の間を置き、煙管を咥える口の端から、紫煙が音もなく立ち昇る。

『……名前も入れてねぇガキと、一緒にすんな』

 まるで、ふいごを通して語る老人のような声で、何だかよくわからない答えが返ってきた。
 名前も入れてない、とはどういう意味だろう。
 それを説明することなく、怖い顔の店主は目を遠くに向けたまま、また無口に戻ってしまう。

 だが目の前にいる妖怪は、まぎれもなく釣瓶落としであると、キスメは確信していた。
 それも自分のように地底の浅瀬がお似合いの妖怪ではなく、深い場所で長く生きてきた、本物の。

「ここに並んでる桶は、売り物なんですか?」
『……だったら、なんなんだ』

 うう……と、キスメはひるむ。
 旧都はすぐに怒鳴りつけてくる声の大きな妖怪が多いが、こんな風に言葉少なに威圧してくるタイプも苦手である。
 だが、まだこの場を離れる気にはならなかった。
 キスメにとっては、生まれて初めて巡りあえた、大先輩と話す機会なのだ。
 できる限り愛想良く、にこやかに話を続ける。

「売り物なら、一つ欲しいかな、って」
『何に使う』
「え……」
『桶を変えるつもりなら止めとけ。ころころ桶を変える奴は、長く生きん。そのちっこい体に、牛鬼の頭をはめこんで、同じ風に生きられるかどうか、考えるまでもないはずだ』

 キスメはしばし絶句した。
 表情が全く動いていないので、冗談を言っているのかどうかもわからない。
 完全に呑まれていると、店内に浮かび上がる横顔は煙管を口から一度外し、煙と共に言葉を紡いだ。

『別に桶を売ってるわけじゃあない。本職は名入れだ』
「な……名入れ?」
『道具に名を入れる。試しに、そこの桶を一つ手に取ってみろや』

 キスメは目をぱちくりとさせた。
 それから、言われた通り並べられている桶の一つを、うんしょ、と持ち上げてみた。
 少し回してみると、すぐに文字が目に止まる。漢字二文字で、『銀鉤』と入っていた。
 名刀で斬りつけたような鋭い筆致で、見る角度によって涼しい銀の光が目の奥に届いた。
 急いで別の桶を確かめてみると、烏兎、小春、夕霞など、どれも違う文字が入っている。
 そしていずれも、ただの文字以上の何かが備わっている気がした。

『客は釣瓶落としだけじゃなく、料理人や刀鍛冶……。自分で名を入れようとする奴らもいるが、妖怪の道具を扱うのは、時に大虎を手懐けるよりも厄介な仕事になる。勝手にそこらを歩き回るくらいならいいが……勝手に他人の背中に斬りかかったりしかねん。そこで心得のあるものが名前を入れることで、しっかりと主の元に縛ってやる必要が出てくる』

 ふぅー……と煙が渦を巻き、天井の闇に吸い込まれていった。

『特に桶という道具と一蓮托生の釣瓶落としは、名を入れるのに特別な意味がある。桶にそいつの名を彫ることにより 魂の器の形が決まる。言うなれば、第二の誕生ってわけだ』
「……第二の誕生」

 と、キスメは自らの口で繰り返す。
 そんな話は、生まれて初めて聞いた。
 釣瓶落としにとって桶が大切なものだとは解っていたけれど、名前を入れることがそんなに大切だったなんて。

 思わず、自分のつるつるの桶を見下ろす。
 まだそこにはなんの文字も彫っていないし、これまでそうする予定もなかった。
 それに比べて、ここに並べられている桶は、文字が入っているだけで、素人の目にもカッコいいものに映った。
 墨の色合いがそれぞれ違っており、書かれた文字と合わさると、音や香り、その向こうの情景までもが浮かび上がってくるようで……。

 キスメは自分の桶にも同じように素敵な名前が入るところを想像してみた。
 すると必然的に、立派な釣瓶落としになった自分の姿が脳裏に描かれていた。
 さらには成長した自分が、仲良しの三人や、新しく都でできたお友達と、街道を堂々と歩いている眺めも。
 それはなんとも素敵で、まさに自分の理想としていた未来に思えた。
 
「でも高そう……」
『それなりにな』
「おいくらですか?」

 一呼吸、間があった。
 はじめて入道が目玉を動かし、キスメの方を見据える。
 それから瞼で半分戸締りをし、塩気のきいた声で

『その前に、彫る名を見つけてこいや。金の話はその後だ』



 


 2


「苗字が知りたい?」
「うん……」

 風雷邸に帰ってきたキスメは、早速ここに居住している友達の部屋に出向き、相談していた。

 テーブルを囲んでいるのは三種の妖怪。
 共通点といえば、いずれも女で髪の色が同系統なくらいで 顔立ちも服装も雰囲気もまるで異なる三名だ。
 てっきり土産話から始まるのだろうと思っていた様子の妖怪達は、その質問に意表を突かれたようだった。
 実際、キスメの方も本当は、近いうちに地霊殿に行ってもいいかどうかを相談する予定だったのだ。
 けどそれよりも先に、どうしても確かめておきたいことができてしまい、真っ先に尋ねていた。
 私の苗字ってなんだろう、と。

 しばしの沈黙の後、キスメから見て正面、テーブルを挟んで向かいにいた水橋パルスィが呟いた。

「……キスメ・オケンドロス四世」
「ええっ!? おけんどろす四世!?」 

 キスメは吃驚する。
 てっきり他の皆と同じ漢字だと思っていたのに、そんな異国風の立派な名前だったなんて。
 しかも四世。三世より前はどんな人達だったのか。

 ところが左にいた黒谷ヤマメが、立てた指をちっちと振りながら、

「違う違う。あんたのフルネームはね。キスメ・ザ・流星群よ」
「りゅ、りゅーせいぐん……!」
 
 こちらもすごい。
 まるで名前というより自然現象のようで、斜め上から飛来して登場しそうな響きだ。

 とそこで、残った三番目の妖怪――星熊勇儀が、

「全く、けしからん奴らだな。嘘嫌いの鬼達が集う城の側で、堂々とそんな戯言をほざくとは」

 などと、しかめっ面で言う。
 それを聞いて、キスメもようやく、自分が二人にからかわれたということに気づいた。
 さらに、それを咎めていたはずの三人目の鬼までも、

「ところでキスメ。宮本武蔵坊なんて『苗字』はどうだ。宮本武蔵坊キスメ! 強そうだぞ」
「真面目に答えてよ~みんな~」

 キスメは情けない声で訴える。
 しかし三名は、当事者をおいて好き勝手に意見を交換し始めた。
 
「キスメ・ボーンクラッシャーとか、ゴッドスレイヤー・キスメなんてどうかしら。貧弱な見た目で舐められないように」
「それなら長寿を願って海砂利水魚キスメ。いや、グーリンダイ・キスメの方がいいかな」
「桶狭間キスメっていうのはどうだ。桶が入ってるし、縁起もいい。小粒でもピリリと辛そうだ」
「辛い? それでピーンと来たわ。キスメ・ガラムマサーラ! 宣伝文句は、数種のスパイスを使った贅沢な味わい……」
「いやいや何でエスニックなのさ。それだったらまだ、キスメ・ストロベリーショートとかアップルミントとか」
「ならこういうのはどうだ。純米大吟醸キスメ。間違いなく鬼には大人気だ」
「………………」

 みんなやけに熱心だった。
 そして不真面目な方向に大真面目なあたりがどうしようもない。
 しばらくそんな会話の流れが続き、『キスメ・名前を言ってはいけないあの人』、『キスメ・サンダーファイヤーパワーボム』、『キスメ・感謝感激雨あられ』などが出た辺りで、半ば放置されていた釣瓶落としは、ため息をこぼして言った。

「あのね? 今日、ある人から言われたの。私の名前は……まだ本物じゃないって」

 さして大きな声でもなかったのだが、しん、と部屋が静まり返った。
 再びこちらに注目する三人に、キスメは胸に抱えていた不安を明かす。

「でも、前にヤマメちゃん教えてくれた。私にキスメって名前をつけてくれたのは、ヤマメちゃんだったって。私、ずっとそのままの名前でいいんだと思ってた。でも違うの? 私の本当の名前は、別にあるの?」

 名前を見つけてこい、お前の名前はまだ本当じゃない。
 年配の釣瓶落としが告げた言葉は、キスメにとってあまりにも衝撃的で、桶の底が抜けて奈落に落ちたようだった。
 店主が嘘を吐いているのか、それとも……友達に今までずっと嘘を吐かれていたのか。
 前者ならともかく、後者だとは信じたくなかったし、もしそれが真実なら理由を知りたい。

 パルスィと勇儀の視線が、テーブルを囲んだもう一人に向けられる。

「……はっきり言って」

 注目を集めた土蜘蛛――キスメと最も付き合いの長い妖怪が、口を開いた。

「その名前は私も知らない。もちろんパルスィも、勇儀も知らない。この地底にそれを知ってる奴はいない。ただ一人を除いてね」
「ただ一人? 誰?」
「あんただよ。キスメ」
「………………」

 今度もからかわれているのだろうか、とキスメは思った。
 けれども、ヤマメは一片の笑みも浮かべておらず、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。
 瞼を閉じたパルスィも、何を当たり前のことを、と言いたげな顔つきだし、勇儀も至極もっともな話だという風に大きくうなずいている。

「そうだね。いい機会だし、話しておくか」

 そう言ってヤマメが椅子を動かし、体をキスメに向ける。
 久しぶりのお勉強の時間だ。
 キスメはそう察し、桶の中で正座して、先生の話に耳を傾けた。

「さて……妖怪の根幹っていうのは、大体二つの要素で成り立っている。それは個々の能力と、名前」
「能力と……名前も?」
「そ。病気や嫉妬。そのままでは不定形で不安定な力が、名前によって縛られることで形を作り、妖怪化する。もちろんそれ以前に憑代となる土台は存在してて、他にもいくつかの要素が絡んではくるけれども、妖怪としての根っこはその二つと考えていい」
「能力だけじゃダメなの?」
「妖怪でなければ、問題ないんだけどね。はっきり言って、名前のない妖怪はひどく脆い。獣に背骨が必要で、桶に『たが』が必要なように、私達にとって、名前というのはとても大事なものなの。そしてそれは与えられるものでありながら、選ぶものでもある。こう言うと、謎かけみたいになっちゃうけど」

 んー、とヤマメは小休止を挟んだ。
 それから、身振り手振りを交えて、説明を続ける。

「そもそも、名付ける、っていう行為は、簡単なようで奥が深くて、それ自体がひとつの術みたいなものでね。例えば、 『みこ』という名の、ある世界の秩序を保つ風船みたいな存在があったとする。いてくれればありがたいが、放っておくとぷかぷか浮いて、どこに行っちゃうかわからない。何しろ風船だからね。みんなのために、然るべき場所にいてもらわないと困るわけだ。だから『はくれい』だとか、そういう重りをつけた紐みたいな名前というものが必要になってくる。これは妖怪にとっての名づけと、目的は異なれど、本質的には変わらない」
「……………………」
「うーん、もっとわかりやすい喩えの方がいいかね。つまり能力が宙に浮く粘土だとすれば、それを目的に応じた形にすると同時に、土台に縛り付ける仕掛けというのが、名前ってわけ。わかった?」
「うん……」

 言っている意味はなんとなく理解できたものの、キスメにはそれらの摂理に触れている実感がなかった。
 そこは何も未熟だからというわけでもない、とヤマメは説明してくれる。
 実際のところ名前の意味というのは、人間にとっての心臓の働きのようなもので、その仕組みを知らずとも生きることに支障はない。
 よって妖怪であれば全て理解している話でもなく、問題が起こらない限りは意識しないまま過ごすことも珍しくはないそうだ。

「ただね。キスメの場合はちょっと事情が異なる。あんたはすでに一度、名前の力によって命を救われてるわけだから」
「えっ……!」

 まさしく寝耳に水だった。

「というのはね。私が風穴で最初にあんたを見つけた時、あんたはもうかなり弱ってて、間もなくこの世から切り離されようとしているところだった。だから私は、『この世にしっかりと結ぶことで』、生気を取り戻させたんだ。その時に使ったのが『キスメ』という名前。つまり今のあんたの名前というわけ」

 そうだったんだ、とキスメはようやく納得し、息を吐いた。
 安心したと同時に、驚きでもあり、またキスメという名前を与えてくれた目の前の存在には感謝に堪えなかった。

「もちろん、その名前はすでにあんたの体の一部になってるけど、あくまで卵の殻みたいなもので、釣瓶落としとしての中身は着実に育ってきている。そして、いずれ熟しきった時に、あんたという妖怪を完全なものにする苗字が必要になってくるっていうのは、確かにその通りだろうね」
「私の苗字……」

 キスメは小さく呟いて考える。 
 もし苗字であれば何でも構わないというなら、例えば……。

「キスメ」

 それまで静観していた橋姫が、唐突に口を挟んだ。

「私らから苗字を貸してもらおうなんてバカなこと考えてたら、今から勉強の時間が、説教の時間に変わるわよ」

 ドキーンと心臓がジャンプした。
 まさに、黒谷キスメや水橋キスメ、あるいは星熊キスメといった名前にしてもいいかと尋ねようとしていたところだったからだ。
 橋の上で長きに渡り、地底の住人を観察してきた二つの緑の目が、厳しく睨み据えてくる。

「名前っていうのは、いいもんばかりじゃない。そこに染みついた呪いや業みたいな悪いものも全てひっくるめて名前なの。ヤマメの名には土蜘蛛の業が、勇儀のには鬼の業が、そして私の名には橋姫の業が含まれている。そういうことをわきまえずに別の妖怪の苗字を受け入れれば、たちどころに歪み、本来あるべき釣瓶落としから、どんどんずれていって、最後には別の存在に成り果てるか、狂って消え去ることになるわ。都合よく誰かから貸してもらえるなんて考えてたら、冗談じゃなく身を亡ぼすことに繋がるんだからね」

 パルスィの重い忠告に、キスメは縮みあがった。
 そして、うっかり浅はかなこと考えてしまったことを、桶の中で深く反省した。

「そういうことだな。確かに、私らにとってキスメは大事な存在だけれど、軽はずみに名を貸すわけにはいかない。私らの背負ってる業まで背負わせて、苦しんでほしくはないからね」
 
 と、黙っていた最後の一人が言った。
 それから勇儀は、この鬼にしては珍しい、静かでしみじみとした口調で語った。

「真の名前っていうのは、特別な出会いによって、その瞬間はっきりと確信が持てるもんなんだ。というより、どんな名前をもらっても、それがしっかりと自分の魂にはまらなければ外れだと思っていい。己の信念や生きざまが固まっていくうちに、自分から名前を探さずとも、相応しい名前が向こうから引かれるように近づいてくる。そして何らかの出来事をきっかけに突拍子もないタイミングでそいつに宿る。だからその出会いを信じて待つ。名前を持たないうちにできることは、それくらいだな」

 星熊という、その身心にピッタリな名前を持つ鬼はそう締めくくった。

「焦らなくても、そのうち降ってくるもんだよ、名前なんて。くよくよすることはないさ」
「うん……」

 頭に大きな掌を載せられたキスメは、微笑んでうなずいた。

 やっぱり、この三人に相談してよかった。
 洗濯してもらった自分の心は、まだ湿っていたけれど、染みは綺麗に落ちていた。

 だから明日にはきっと乾いていて、元通りの日常に戻れるはず。
 この時のキスメはそう信じて疑っていなかった。






 3


 次の日の午後、キスメは再び一人で風雷邸の外へと出かけていた。
 目的の場所は、昨日お燐と過ごした南街ではなく、中央街の方だ。
 かの地霊殿のお膝下となっているその一帯は、良く言えば古風で悪く言うなら閑散としており、まるで火が消えた後の蝋燭の芯のような空気が漂っていた。
 キスメはそうした中央街の雰囲気を、半刻かけてたっぷりと味わった。

 つまり……早い話が、迷子になってしまったのだ。
 前回、あの店に続く裏路地を見つけたのは、通りの表に見えていた不思議な闇がきっかけだった。
 だからそれを目印にしようと思っていたのだが、今回はそれがどうしても見つからない。
 さらに中央街はどこも似た路地ばかりだったので、どの道があの場所に通じているのか、さっぱり分からなかった。
 これかも。ああ違った。じゃあ、これかな? やっぱり違う。
 そんなことを二十回繰り返して、同じ道を七度も通り、ようやくあの店にたどりつく裏路地を見つけることができた。
 それでも道の途中にあの闇が蔓延っていなければ、やはり確信が持てなかっただろうけど。

「こ、こんにちは。おじさん」
 
 キスメは挨拶する。
 店は相変わらず陰気で、お客はもちろん生き物も妖怪の気配も薄く、商品の並びも昨日と変わっていない。
 そして、闇の中にぼんやりと浮かび上がる店主の巨大な横顔も、相変わらずの凄みがあった。

「………………」

 釣瓶落としは全くの無言。
 だが、これくらいのそっけない対応はキスメも何となく予想していたので、構わず話を続けていた。

「あの、昨日、友達に相談したの。私の名前のこと」

 そして、教わったばかりの知識を懸命に説明する。
 妖怪にとっての名前の役割と、その重みについて。
 それが簡単に貸し借りしてよいものではなく、出会いを待たなければならないということ。
 さらに、自分がまだしっくりくる名前と出会っていないということも。
 向こうはすでに知っているのだろうけれど、ちゃんと勉強してきたということを示したい気持ちが、キスメにはあった。
 何しろ、同じ釣瓶落としの知り合いもろくにいない自分にとって、貴重な先輩だったから。

「だ、だから、またいつか私が、名前をちゃんと見つけた時に、この桶に名前を入れてもらおうかなーって」
「……………………」

 入道は相変わらず黙然としていた。
 しばしキスメが返事を待っても、煙を時おり吹くだけで、何も喋らなかった。
 ここまで立派に人を無視できるのは、よほど性格が悪いか人嫌いか耳が遠いか。
 少しがっかりしたものの、目的はちゃんと果たしたと思ったキスメは、仕方なく風雷邸に帰ることにした。

「それじゃあ……さようならー」



『早くて、三年だな』
「へ?」

 背を向けようとしたところだったキスメは固まる。
 早くて、三年?
 それは何のこと、と尋ねようとしたすぐ後、

『お前が業に呑みこまれて、死ぬか怨霊に成り果てる時間……それが早くて、あと三年ってこった』

 入道は淡々とした、それでいて確信めいた語調で言った。

「そ……!」

 さすがに聞き捨てならない。
 キスメは顔を熱くさせて、言葉をつっかえながら反論する。

「そっ、そんなはずないよ!」
『俺の目に狂いはない。お前の業はすでに目覚めていて、あとはいつ弾けるかだ。膨らみはすれど、しぼむ事はない』
「だって、他のみんなはそんなの一言も……!」
『そいつらは釣瓶落としか?』

 違う。確かに、違うけれども。

『俺は今日まで、業に呑みこまれた奴らをごまんと見てきた。袋の中身を取り出すよりも楽に、釣瓶落としの中身を見通せる』

 不意に、入道の太い腕が持ち上がり、側に並べられていたたくさんの桶を、指で弾き飛ばした。
 それらは、からから、とやけに軽い音を立てて、石の道に転がった。

『そこの桶はな。全て釣瓶落としの骸だ。名前を見つける前に滅びたガキ共のな』

 反論を考えていたキスメの息が止まった。
 一瞬、目の前に転がる桶が、釣瓶落としのしゃれこうべのように見えたのだ。

『俺たち釣瓶落としは、捨てられ、忘れられた命から生まれた妖怪だ。自分を見捨てた命、未来に対する恨みこそが、俺たちの業だ。何の因果か知らんがこの業は、大抵百年も経たないうちに弾けちまう。だから釣瓶落としは幼子が多く、きちんと育つ前に消えちまう奴らばかりだ。俺はそいつらの桶に供養の意味を込めて、名前を彫ってやった」
「………………」
『お前の桶に名前を入れるのも、そう遠くはないと見ている』
「そんな………」

 顔まで上っていた血が、急速に引いていた。
 キスメも知っている。
 釣瓶落としという妖怪の多くは凶暴で、幼くて、名前を見つける前に、自らの業に絞め殺されるようにして滅んでしまう。
 今までキスメは、あえてそうした情報を日常から遠ざけ、考えないようにしていた。
 できれば、そのままずっと考えずにいられたら、とも思っていた。
 意識することなく、問題が起きぬまま、何事もなく時が過ぎていってくれればとも。
 だがこの場で、眼前の釣瓶落としに余命を宣告され、キスメはその宿業と否応なしに向き合わされていた。
 しかもそれは、予期していたよりも遥かに深刻な話だった。
 早くてあと三年。あとたったの三年で、自分は消えてしまうか、元の自分じゃなくなってしまう?

 そんな未来、まともに受け止められるはずがない。


『名前を貸してやろうか』
「えっ……」

 茫然自失となっていたところに、再び店の中から言葉を投げかけられた。

『違う種の妖怪なら話は別だが、同じ釣瓶落とし同士なら、それは十分延命になる。業に呑まれかねないお前の命も助かるだろうな』

 キスメの頭の中の整理が追い付くよりも先に、店主は語り続ける。

『ただしこれは親切じゃねぇ。ただの賭けだ』
「賭け……何の賭け?」

 昨日と同じく、半眼の大きな目玉がこちらを見据えた。
 錐のように鋭い視線が、キスメの……そのお腹の辺りに刺さる。

『俺の名を当ててみろ。それを当てたら、俺の名を貸してやる。だがもし外したら、お前のその桶をもらう』
「……っ!?」

 キスメはまたしても、奈落の底を覗いたような気がした。
 釣瓶落としにとって、長く使い込んだ桶は己の半身に等しい。
 それを寄越せというのはつまり、体の半分を寄越せと言っているのと同義だ。
 すなわちこの店主は、未来へ続く命を伸ばせるかどうかの勝負に、今ある命を賭けろ、と言ってるのだ。

『期限は今日いっぱい。回答の機会は一度だけ。無論、賭けのことを忘れて、明日からいつも通り過ごすのもお前の自由だ』

 入道がゆっくりと瞬きをしてから、視線をまた虚空に移す。

『よおく考えるんだな。そして悔いのない選択をするこった。さもなきゃ、いずれお前も、こいつらの仲間入りだ』




 ◆◇◆




 地底の空は冬を除けば、いつも似通った黒い空。
 天気の移り変わりも月の満ち欠けもなく、四季の風情などはほとんど判らない。
 それでも、夜光虫や鉱石などが気まぐれに瞬く様を眺めるだけで、仰いで酒を呑むには十分と言われている。
 かつては周囲の顔色を窺いながら道を行き、いつからか店の並びにも目がいくようになった。
 そのうちもっと広く、大きく都の景色を捉えられるようになって、近頃は空を見上げながら考えに耽る余裕まであった。
 しかしキスメは今、街道から視線を持ち上げることさえできず、桶を引きずるくらい低く浮いて、通りを進んでいた。

 行かなければよかった。
 知ろうとしなければよかった。
 そうすれば、こんなみじめな気持ちで、ひとりで帰ることもなかっただろうから。
 けどそれでは、もしかすると手遅れになっていたかもしれない。
 だからといって、あんな賭けに乗る勇気も自分にはない。

 キスメは鼻をすすりあげる。
 誰かに桶に蓋をしてもらい、風雷邸まで連れて行ってもらいたかった。
 あの場所に帰って、昨日と同じく三人に相談すれば……。
 きっとヤマメはいつものように笑って心を軽くしてくれるだろう。
 パルスィは笑ってはくれないだろうけれど、厳しい言葉で励ましてくれるだろう。
 勇儀は嘘を吐かない。だからその可能性については認めるかもしれないけれど、けどきっと、全力で支えることを約束してくれる気がする。
 
 でも……それでこの不安が本当に晴れてくれるだろうか。
 自分は昨日までと同じ笑顔を浮かべていられるだろうか。

 帰り道を半ばまで過ぎたところで、突然、キスメの視界に二つの変わった靴が現れた。
 紫色のハートの形がついた、黒い平らな靴。
 しばらくぶりに顔を上げてみると……

「だーれだ」

 キスメは呆気にとられた。
 自らの目元を両手で隠して、「だーれだ」と言う少女に出くわせば、普通は固まる。
 前触れも気配もなく現れたので、幻か何かかと思った。
 だが何度か瞬きしても、その姿は目の前からいなくならなかった。

 唐突に現れた謎の妖怪は、自分の顔から手をどかして、

「じゃーん、こいしちゃんでした」
「………………」

 「こいしちゃんでした」と言われて、その顔と向き合っても、キスメの頭に該当する人物はいなかった。
 黄色のリボンを結んだ黒っぽい帽子。
 その下からはみ出ている毛先のはねた髪は、キスメの髪よりも薄い透き通るような緑色。
 ひし形のボタンで留めた穏やかな黄の上着、そして鮮やかなグリーンのスカート。
 どれも地底では珍しい装いだが、最も特徴的といえるのは、手に載るサイズの球体がついた青い管を体に巻いているところだ。

 彼女は両目のぱっちりした顔立ちに、限りなく透明に近い笑みを載せて、

「じゃじゃん。あなたのお名前は?」
「私は……」

 突然、息が詰まった。
 いつもならするりと出てくる言葉が、喉の奥に引っかかった。
 棘でこすられたような痛みが走り、目の奥が、かぁっと熱くなった。

「私……私……」

 抑えていた感情が、一気に噴き出し、瞼から零れ落ちる。

「私……みんなみたいな名前がほしいよぉ……」

 キスメは両手で目を抑え、しゃくりあげた。

 なんで自分は釣瓶落としなのだろう。
 どうして他のみんなと同じになれないんだろう。
 こすっても、こすっても、涙は止まってくれない。
 こんな道端で泣いていても、旧都では誰も助けてくれない。それがわかっていても、辛くて、哀しくて、苦しくて……。

「あーもー、邪魔っけだなーこれ」

 涙で歪んだ視界の中央。片方の靴が後ろに下がっていく。
 キスメから見えなくなるまで引かれた片足は、一度止まってから、

 ぶん、と音が鳴るほど勢いよく振り抜かれた。

 直後、キスメの背中に空気のハンマーで叩かれたような衝撃があった。
 さらに虫の大群が飛んでいくのに似た、けたたましい音が後ろで起こった。
 驚いて振り向く。
 ざざざざ……と、細かい闇の粒のようなものが散り散りになって、消えていくのが見えた。
 明るさの戻った道の上には、ハートのついた黒い履き物だけが転がっていた。

「あらら、靴まで逃げちゃった」

 少女はけんけんをして自分の靴を取りに行き、それを足にはめると、今度は逆の脚でけんけんをして戻ってきた。
 それから、しゃがみこんでキスメの入っている桶を見つめ、

「これ。貴方のこの桶みたいなのは乗り物? それともすごく大きな靴?」

 と言って、遠慮なくペタペタと手で触れてくる。 
 放心していたキスメは質問に答えられず、逆に尋ねていた。

「今のは……何?」
「さー。なんかあれが覆いかぶさっちゃってて、あなたの顔がよく見えないし声も聞こえなかったら、試しに蹴ってみたんだけど」

 そう言って、謎の妖怪は右から左へと、首を傾げ直した。

「あれ、あなたのお名前ってなんだったかしら?」





 4


 泣き止んだキスメは、街道で出会った不思議な雰囲気の少女に、改めて自己紹介をした。
 それから自己紹介してもらったのだが、彼女の話すことは何だか支離滅裂で、結局のところ何もわからなかった。
 古明地こいし、という名前以外は。
 そして、その名だけで彼女の素性を推察するには十分だった。

 ――この人、お燐ちゃんが言ってた、ご主人様の……。

 地霊殿の主であり、友達の火車である火焔猫燐のご主人様の苗字が、古明地だった。
 そして彼女はどうやら、その覚り妖怪の妹さんらしい。
 キスメはお燐から、お姉さんの方の話は聞いていたが、妹さんがいるとは知らなかった。
 なぜか、行きずりの彼女に、キスメはたった今泣いてしまった事情を自然と話せていた。
 自分の本当の名前がわからず、早くそれを見つけないと手遅れになってしまうということを。
 正直、話すだけで辛い事情だったのだが、こいしの感想は、何というかぶっ飛んでいた。
 
「よかったねー、おめでとー」
「おめっ……!?」

 ガーンと頭に桶が落っこちてきた気がした。
 よりにもよって、「おめでとう」とは、なんたるひどい言いぐさ。
 はっきり言って「ざまぁねぇなぁ!」となじられるくらい傷つく。
 こいしの感想がそれだけで終わっていたら、キスメの心はまた土砂降りになっていただろう。
 ところが、

「名前が最初から決まってないって羨ましいわ。私も古明地こいしじゃなくて、コメット・コイシみたいな名前の方がいいもの。すると、お姉ちゃんはコメット・サトリーヌ? ふふふ」
「…………」

 くるくる回りながら言うこいしに、キスメは言葉を失う。
 覚り妖怪というのは、他者の心が全方位から手に取るようにわかる、というが、もしかすると弄ばれているのだろうか。
 それとも、単に彼女が超弩級の楽天家ということなのだろうか。
 もしそうなら、ポジティブというレベルを超えて、ウルトラハッピーな思考だ。素直に羨ましいけれど。

「そんなに楽しい話じゃないんです。だって、名前が見つからなかったら、私、ちゃんとした妖怪になれずに消えちゃうかもしれないんだもん……」
「自分で勝手に考えちゃダメなの?」
「うん……」

 実際、試しに自分で適当に苗字を考えて、頭の中でキスメという名にくっつけても、どうにも具合がよくなかった。
 たとえ、いくら響きがよかったとしても、何だかしっくりこない気がするのだ。
 これが昨日教えてもらった、魂にしっかりとはまらない、ということなのだろう。
 妖怪としての己がきちんと定まっていない自分には、まだ相応しい苗字というのが存在しないのかもしれない。
 けれども名前がなければ、早くて後たったの三年で生涯が終わる可能性があると知った今、のんびりなんてしていられなかった。
 そんな中で見つけたかすかな光明が、あの釣瓶落としの持ち掛けてきた賭けだったのだ。

 キスメは以上のことを、こいしにしっかり説明してあげた。
 しかし彼女は、名前を当てればいい、という一点だけを理解したらしい。

「それじゃあ私も連れてって。なんだか面白そうなゲームだから」

 ゲームじゃないんだけど……と思ったものの、今は藁でも糸でも謎の少女の手でもすがりたい気分だ。
 断る理由もさして思いつかなかったので、キスメは彼女を連れて、来た道を戻ることにした。

 今日初めて行った時は、さんざん迷子になったというのに、あの裏路地は一発ですんなりと見つかった。
 やがて店が見える辺りまで来てから、こいしは額に掌をかざし、

「おおー。あれがイジワルオヤジか~」
「こ、こいしちゃんってば。聞こえちゃうよ」
「あのおじさんの名前を当てればいいんでしょ? カンタン、カンタン♪」

 止める間もなく、てってってっ、と少女は元気よく駆けていく。
 キスメは慌てて、その背中を追いかけた。

 例の店は相変わらず深い闇と一体化しており、重苦しい雰囲気が漂っていた。
 中に鎮座している主の方も、迫力だけなら地底有数の面構えを保っている。
 しかしながら、こいしにとってはどちらも大した怖さではないようで、

「ん~」

 手を後ろに組んで店の前を右に左にと行ったり来たりしながら、檻の中の動物を観察するように覗いている。
 他方、件の釣瓶落としは煙管を咥えた状態で横を向き、今は瓦版らしきものを見つめていて、現れた二人は眼中にない模様。
 一体どうするのだろう。もしかして、あのおじさんの心を読んで、答えを当ててくれるんだろうか。
 キスメが緊張と期待を同時にはらみつつ見守っていると、こいしはいきなり指を店主に突き付け、

「おヒゲ入道!」

 と叫んだ。
 何とも言えない静寂が、裏路地に訪れた。
 沈黙を貫く店の主を前にして、こいしは帽子を傾け、

「あれ、違った?」
『………………』
「じゃあ桶ダルマ!」
 
 入道はやはりだんまり。
 瓦版をじっと見つめたまま、ピクリとも動かない。
 こいしは臆すことなく、さらに指を縦に振りつつ、

「二頭身マッチョ!」
『………………』
「筋肉ハゲ!」
『………………』
「ギョロ目大臣! タバコくさ蔵! 鼻の穴デカお!」

 初めは戦々恐々としていたキスメも、脱力状態に陥っていた。
 全然、心を読んでいる風じゃない。というか空気も読めていない。
 繰り出す回答は当てずっぽうに聞こえるし、途中からは最早ただの悪口と化している。
 表情のない入道も、さすがにうるさかったのか、煙管を口から外して、

『……そこの帽子の。俺が賭けをしたのは、そっちのガキだ。お前じゃねぇ』
「む~」

 こいしは不満そうにほっぺたを膨らませてから、キスメの方を振り返って、

「どれが当たりだと思う?」
「う~ん……」

 色々と案を出してくれたのはありがたいものの、正直、キスメにはどれも正解に思えなかった。
 というか、こいしが本当に覚り妖怪かどうかも、いよいよ怪しくなってきた。
 むしろ、たまたま同じ苗字の子だったという説の方が納得できる。
 心が読めるなら、出会ったときにもっと早く意志の疎通が取れていただろうし……。
 
 しかし、覚り妖怪の力が借りられないとすれば、改めてこの賭けは、とてつもない難題だ。
 何しろ当てるべき相手の名前が何文字なのか、カタカナかひらがなかどうかも分からない。
 ひょっとしたら外国の言葉かもしれないし、数字の羅列かもしれない。
 見た目相応のごつい名前? それとも裏をかいて可愛い名前?
 いくら考えても思いつきそうになかった。それに、
 
 ――もしかして……。

 キスメはポーカーフェイスを決め込む入道を疑念の目で見つめる。
 正しい答えを導きだしたとして、向こうがそれを不正解だと偽る可能性だってある。
 こちらにはそれが本当かどうかを確かめる手段がない。前提の条件から不利な賭けなのだ。
 けれど、ここは鬼の都。嘘のリスクの高さは、都に長く住んでいる者ほど身に沁みていると聞く。
 いや、相手は小さな釣瓶落としだから平気だ、などと軽んじているかもしれない。
 けど顔は怖いものの、この店主は、約束はきっちり守ってくれそうな雰囲気がある。
 いやいや、自分がそう思っているだけで、本当は裏で冷酷な考えを巡らせているのでは。

「すー……はー……」

 頭がパンクしそうになったキスメは、一度深呼吸して気持ちを落ち着けた。
 こんな時にあの三人がいてくれたら心強いのに。
 例えば、

 ――ヤマメちゃんだったらどうするかな……。

 彼女の交渉力の見事さは、キスメも何度も目の当たりにしている。
 頭の回転も速いし、きっとこの場合でも巧みな話術で、相手の情報や真意を引き出してしまうはず。
 しかしながらこの店主は、必要が無ければ全く口をきこうとしない。
 会話に持っていくだけでも相当な忍耐力が必要だろう。

 ――我慢比べなら、パルスィちゃん……。

 どんな屈辱的な状況においても、血涙を流してでも耐え忍ぶ橋姫。
 心が折れなければ滅びぬ妖怪にとって、それは類まれなステータスといえる。
 橋の上の孤独で磨いた精神力で粘れば、あるいは……。
 いや、交渉の期限は今日いっぱいと定められているのだ。忍耐よりも先に時間の方が尽きてしまうだろう。

 ――じゃあもし、勇儀さんだったら……。

 彼女の名前と実力を、この都で知らぬ者はいない。
 その名を出せば、さすがにこの店主も顔色を変えて、ルールをいくらか緩めてくれるのでは。
 いや、勇儀の性格であれば、それがどんなに困難だろうと相手が初めに出したルールの中で、堂々と勝負するに違いない。
 もしくは、こんな脅し交じりの賭けなどには乗らない。それはほかの二人も同じかもしれないが……。

「トラゴリラ! 人面岩! 奇顔城! ちゃん・こーはん!」

 今、現実に味方になってくれるのは、このちょっと変わった少女だけだ。
 正直どこまで頼りにしてよいかわからない状態だし、今もはっきりいって、遊んでるようにしか見えない。
 キスメは何とか、己にできる精一杯のことを為そうと試みた。
 せめて何が手がかりはないだろうか。手がかり……。


 あ……。


「そ、そっか……! そうだった!」

 重大なヒントに気が付き、キスメは思わず声を上げる。
 隣のこいしが「おおっ」とジャンプして振り返り、

「何かいいこと思いついたの?」
「うん……だけど……」

 手がかりは、あった。いや、きっと『あるはず』なのだ。
 だけど、それを確かめるには一つ大きな障害がある。

「こいしちゃん、こっちに来て」

 キスメはこいしの手を引いて、店から距離を取った。
 手首から先が無いような軽さだったが、こいしはちゃんとついてきてくれた。
 声の届かない距離まで後退してから、キスメは彼女に耳打ちする。
 
「あのね。私と同じで、あのおじさんも釣瓶落としなんだけど……」
「ふむふむ」
「釣瓶落としは、名前を桶に入れて一人前になるんだって。だからきっと、あのおじさんの桶にも、名前が書いてあると思うの」

 どうして今まで頭に浮かばなかったのか。
 元はといえばこの賭けも、この店で桶に名前を入れてもらいたいという話が発端だったというのに。
 キスメの桶はまだすっぴんだけれど、あの店主なら当然、その桶に自らの名をしっかりと刻んでいるはず。
 ただし、

「どうやって見つからないで確かめればいいかな……」

 はたして、桶の裏側を確かめさせてくれ、と言って受け入れてもらえるかどうか。
 忍び込むには店は狭すぎるし、入り口も正面にしか見当たらない。
 迷うキスメは、隣の子に意見を求めようとしたが、

「あれ!? こいしちゃん!?」

 いつの間にやら、こいしが姿を消していた。
 慌てて狭い路地を見渡してみたが、影も形もない。
 飛んで行ってしまったのかと思って上を見たけれど、旧都特有の夜空が左右の建物の屋根で切り取られているだけだった。
 キスメが当惑して視線を戻すと、一瞬、こいしの後ろ姿が見えた気がした。
 そしてまた消えた。
 まるで盲点の陰で、一枚の羽が出入りしているかのように。

 キスメはごしごしと目をこすり、もう一度薄目で通りを眺める。

「あっ……!」

 いた。こいしの姿が、微かに見えた。
 なんと、すでに店の正面に移動していた彼女は、堂々と中に入って行こうとしている。

「あわわわわ……」

 キスメは心配で見ていられず、顔を覆って指の間から様子を窺う。
 今にもこいしの悲鳴か、争うような騒音が聞こえてくるに違いないと思って。

 けれども、しばらく待っても店内の様子に変わりはなさそうだった。
 微かに見える入道の方にも動きがない。
 まさか、気づかれてないのだろうか。
 もしかすると、覚り妖怪じゃなくて、気配を消す能力を持っている妖怪さんだったんだろうか。

 ――どうしよう、大丈夫かな。

 キスメがドキドキしながら見守りつつ、行ってみようかこのまま待とうか逡巡しているうちに、

「ああっ!? つまみ出されちゃってる!?」

 こいしが入道の太い腕によって襟をつままれ、捕まった野良猫のようなポーズで店の前に出てきた。
 自分を放り出した店主に、彼女は何やら文句を言ってから、てってってっ、とキスメの元に戻ってきて、

「ちぇー。おヒゲを引っ張ったら気付かれちゃった」
「ど、どうだった?」
「ゴワゴワだった」
「そっちじゃなくて! 名前は書いてあった!?」
「えっとね。『屋』って書いてあったよ」

 予想もしてない返答に、キスメは面食らった。

「『や』?」
「そう、『屋』。クレープ屋さんの屋」
「八百屋さんの屋?」
「うん。アイスクリーム屋さんの屋」
「……屋って……」

 それが答えなのだろうか。
 店の前まで行って、「正解は『屋』です」と答えて、認めてもらえるのだろうか。
 何か大事なことを見落としているような……。

「あ、でもね。あれって、屋の前に一文字何かあったんだと思う。削れて見えなくなっちゃってたけど」
「………………!!」

 ある考えに至ったキスメは、急いで店の前に戻った。
 中に鎮座している大きな釣瓶落としの姿ではなく、屋根にかかっている看板を見つめる。
 初めここに来た時は、文字がかすれていてわからなかった。
 しかし改めて目を凝らしてみると、確かに●屋と書かれているように見える。
 ヒントは出題者のすぐ近くに存在していたのだ。
 けどここも、●の部分は剥がれ落ちて見えなくなっていた。

『その様子だと、半分まではたどりついたようだが……』

 店内の入道が再び沈黙を破る。
 
『残りの半分が肝心だ。どんな一文字が入るか、お前に見つけられるか』
「………………」

 立ちはだかる謎の大きさは、まだ変わっていない。
 けれど、間違いなく答えに近付けたことで、キスメの気持ちも昂っていた。
 今度は『●屋』の●に入る一文字を、何とかして解き明かさなくてはいけない。それは一体なんだろうか。
 たった一字でも、無限の候補が思い浮かぶ。漢字か、裏をかいてひらがなか。

「わかった! 鯨屋!」
『そんなもん売ったこたねぇ』
「あややや屋!」
『一文字だっつってるだろうが』

 こいしが果敢に挑戦する後ろで、キスメは考えつつ、もう一度、店の内も外もくまなく観察してみることにした。
 桶屋ではないはずだ。ここには桶だけではなく、たくさんの物が置かれているし、第一ここの仕事は名入れなのだから。
 けど名屋……というのもちょっとおかしい。名前を決めるのは店主ではなくて、注文するお客の方だろうから。
 じゃあ、そもそもここは何を売り物にしてるといえるだろう。外から観た図だけなら、小屋というのもしっくりくる。
 問題にするくらいだから、簡単には思いつかない難しい一字か、あるいは意外な一字か。

 難しい。本当に難しい。
 しかも回答権はたったの一度。
 己の生涯を左右する重大な選択だ。出来る限り、今日一日使える時間を全て使って、しっかり考えたい。
 そして、その名前を手に入れるのだ。
 自分だったらどんな名前がいいだろう。自分だったら……。


 自分だったら?


「あ……」

 キスメの目の前が、真っ暗になった。
 胸を焦がしていた熱意が、唐突に消失してしまった。
 謎の答えよりも遥か手前に存在していた、決して避けては通れない深い谷間に落下していた。

 正答すれば、その名は自分のものとなる。
 そして、その名前を背負って生きていくことになる。
 桶屋であっても名屋であっても、なんであろうとだ。
 その名前をもらって、風雷邸に帰ることを想像してみる。そして、それからの自分の未来を想像して……。 

「どうしたの?」

 こちらを向いていたこいしが、不思議そうに尋ねてくる。
 けれどもキスメは、彼女に応じる余裕もなくなってしまっていた。
 ほんの少し前までの集中力も、これっぽっちも残っていない。
 歩いていた道は消え、前も横も後ろもない、闇の中に放り込まれた気分だった。

 結局、キスメが悩んだ末に出した答えは、

「おじさん……」

 俯いたまま、声を絞り出す。

「もう少し考えさせてください……」
『好きにしな。ただし期限は今日いっぱいだ』
「ケチ屋!」
『帰れ』

 入道は団扇サイズの手を一度振り、指を差すこいしを追い払った。




 ほぼ一本道の裏路地。ただしそこを行くキスメの頭は、出口のない迷路をさまよっていた。
 考えることもいっぱい。悩むこともいっぱい。
 答えがわからなければ、答えることがいいのかどうかすらわからなくなってしまった。

 本当にその名前でいいの?
 私が欲しいのは、本当にその名前?

 そう自分の本心が、今も絶えず忠告してくる。
 さらに、自分の桶にもらった名前が入るところも想像してみた。
 胸を張ってあの三人の元に帰る姿や、祝福してもらえる光景も。
 そして、新しく借りた名と共に生きていく自分を。

 できなかった。無理だった。
 そんな風に考えれば考えるほど心が沈み込み、ついには今日一番重たい気持ちになってしまっていた。

「とうっ!」
「きゃあ!?」

 いきなり背後から蹴りかかられて、キスメは飛び上がった。
 たまらず振り返り、

「な、なにするのこいしちゃん!?」
「また黒いのが覆いかぶさってたから、蹴っちゃった」
「また?」
「うん。もしかして、取っちゃわない方がよかった?」

 靴の脱げた片足を持ち上げたポーズのまま、こいしは尋ねてくる。

「えっと……ううん、ありがとう……ね……」

 確かに気分はいくらか晴れた心地だったけれども、その度に蹴ってもらうわけにもいかない。 
 彼女の言う黒いものが一体何のことだかは分からないけれど、それがキスメの悩みに引き寄せられているのだとしたら、きっとまたすぐに戻ってくるような気がした。
 桶の中で小さくなっていると、こいしが側まで来て、しゃがみこみ、

「何だかお姉ちゃんみたいな顔してるわ」
「……お姉ちゃん?」
「悩んでることがあると、そんな顔してるの。そういう時は、お部屋にこもって静かにしてるんだけど……あなたも悩み事?」
「………………」

 反射的に、キスメはこくりとうなずいた。
 すると、こいしは笑顔で立ち上がり、こちらの手を引いて、

「それじゃあ、いい場所に連れてってあげる。静かでとっても落ち着く場所」






 5

 
 こいしに案内されて、キスメは旧都の南端よりも、さらに南の外れにある広場まで来ていた。
 地底にはこのような場所を表現する言葉がない。敢えて外界の用語を用いるなら、公園というのがもっとも近いだろう。
 遊具の類はないものの、丁寧にならされた石の大地に、出来て真新しい小道が設けられている。
 そして、日の光と無縁の世界では非常に珍しい、大きな樹が奥に一つ、ぽつんと立っていた。

 一昨年前に起こった事件の後にできたこの場所は、かつて都に受け入れてもらえず迫害を受けた地底妖怪の慰霊の地となっている。
 店や建物が並んだ通りからは遠く離れていて、とても静かであり、神聖な雰囲気の漂う空間だった。
 実はキスメは、この広場に足を運んだことがまだなかった。
 昨年まで一般の妖怪は立ち入りが禁止されていたことも理由だったが、風雷邸に住ませてもらうようになってからも、赴く気にはならなかった。
 正直、怖かったのだ。そして……今も怖い。

「ねー、いい場所でしょー」
「うん……」

 本音とは逆の返事をしつつ、キスメはこいしの後を行く。
 小道の両脇には、たくさんの造花が植えられていた。
 唯一生きた植物――広場の中央に立つ樹は若葉をたっぷりとたくわえており、涼し気な青の花を咲かせている。
 その下には、地底妖怪達の魂が数知れず眠っており、若くして命を散らした釣瓶落としも多く混じっているそうだ。
 あるいは、キスメもその一員になっていたかもしれない。
 そして、もしかすると三年後には、その一員に……。

「…………!」

 ぶんぶんぶん、とキスメは目を固くつむって、首を振った。

 こういうことを考えてしまうから、来たくはなかったのだ。 
 怖いだけでなく、何だか哀しいような寂しいような、そして自分の境遇が申し訳ないような、そんな複雑な気持ちにさせられる。
 けれど、こいしに嫌とはいえず、結局キスメは、樹の目の前まで連れて来られてしまった。

「あれ?」

 自分達の他に誰も訪れていない、と思ったのだけど、よく見ると、キスメと同じくらい小さな妖怪が寝ていた。
 白髪のおかっぱ頭の小鬼で、頭頂部だけが墨をつけたように黒くなっている。
 袖の大きいゆったりとした和服を身にまとい、樹の根を枕にして、心地よさげに寝息を立てていた。
 何だか、どこかで会った気もした。

「この子は友だち」

 こいしはその妖怪の側に立って、こちらに向き直り、

「夢を描くのが上手で、時々見に来るの。喋れないんだけどね」
「夢を……描く?」

 確かに、その木陰で眠る小さな鬼は、脇に紙と筆を置いている。
 つまり絵描きの小鬼なのだろうか。
 キスメが詳しく尋ねる前に、

「それじゃあ私、あっちにいるから、答えが見つかったら教えてね」

 と、こいしは広場をスキップで去って行き、また姿を消してしまった。
 なんというか、出会った時から、ありとあらゆる行動が突発的な子だ。

 置いていかれたキスメは、樹の根元に桶を下ろし、隣に視線を移す。
 どうやら鬼の子は熟睡しているらしく、ここまで近づいても起きる様子はなかった。
 続いてキスメは背後に目をやり、木肌に手を当ててみる。
 生きた木に触れるのは初めてで、何だか不思議な感覚だった。
 いや、以前聞いた話によれば、これは地上に生えている普通の植物とは違うものだと聞いている。
 下から見上げると、緑の枝の間に青い魂が宿っているようで、甘くて柔らかい香りが鼻をくすぐった。

 確かに、考えに耽るにはいい場所のようだ。
 旧地獄街道のように騒々しくなく、あの裏路地のように陰気でもない。
 樹に背を預けてみるというのも、初めての体験で、心地よかった。
 自分の不安や悩みを吸い取ってくれる感じがする。

「………………」

 キスメは桶の中で胎児のような姿勢を取り、目を閉じて、深呼吸した。 
 時間が経つにつれ、埃だらけだった心が洗われていき、くっきりと姿を現していく。

 ――たった三年なんてやだ……。

 はじめに見えたのは、キスメの心の中で、最も偽りのない気持ちだった。
 あの賭けをしてから今までずっと、それは思考の足場となっている。
 
 ――もっと三人と一緒にいたい。たくさんの友達を作りたい。

 名前はあくまで、未来を約束してくれる手形。
 本当に自分にとって大事なのは、今側にいてくれる者達で、その次にこれから出会うはずの者達。
 じゃあ、名前なら何でもいいのか、と尋ねられれば、やっぱりそうじゃない、と思う。
 けどどちらを取るかと脅されたら、きっと自分は嘘の名前で過ごす未来の方を選んでしまうと思う。
 
 ――私以外の釣瓶落としの子でも、やっぱりそうするよね……。

 それどころか、こんなことで悩んでいるのを責めてくるかもしれない。
 もうすでに、普通の釣瓶落としに比べれば遥かに恵まれた境遇にあるのに、何を贅沢を言っているのかと。

 聞いてみたい。話してみたい。
 この樹の下に眠っているたくさんの魂は、どんなことを思って生きていたのか。
 どんな思いでこの世を去ったのか……。




 ちょん、と鼻の頭に、指で突つかれたような感触があった。
 キスメは思考を中断し、瞼を開く。そして、
 
「へ?」

 と妙な声を上げてしまった。
 
 視界の真ん中を陣取っているのは、水色と白が混ざり合ったような色合いの髪を、片側だけおさげにした女の子だった。
 『桶』の端に頬杖をついて、可笑しそうにこちらを見ている。
 さっき隣で寝ていた子でも、勿論こいしでもなく、全く知らない妖怪だ。
 しかもその子の姿――桶に入っているその格好は、どう見ても釣瓶落としで……。

 呆然としていると、今度は耳に覚えのある音が聞こえてきた。
 ぺっこん、ぺこぽん、という釣瓶落としが移動する時に立てる音。
 それも一つではなく、たくさん……。

「え? え?」

 キスメは慌てて身を起こし、周囲を見渡した。
 そして……びっくり仰天し、口を開けたまま固まってしまった。

 背中の大樹を中心にした広場が、目をつむって考え事をする前とは、まるで違う眺めになっていた。
 寂れた岩の大地ではなく、ふかふかとした草むらが辺り一面を覆っていて、花がまばらに生えている。
 そして都の中で目にする鬼火とは違う、淡く光る綿毛のような明かりがぽわぽわと浮かんでいる。

 けれど一番驚いたのは、右を見ても左を見ても、桶に入った妖怪がたくさんいたことだ。
 大きな釣瓶落とし、中くらいの釣瓶落とし、小さな釣瓶落とし。
 どれも若々しく、桶も新しく、名前の入っていないものばかり。
 元気よく跳ねて、やんちゃに桶をぶつけ合ったりしながら、樹を中心にして円を作っている。

 キスメが瞬きすることも忘れて、その様子を眺めていると、先ほどの女の子が手に触れてきた。
 その小さな手の質感は、夢ではなくて本物。
 そしてまぎれもなく、自分と同じ釣瓶落としの気配。
 彼女の手に引かれ、キスメは円の中に誘われた。

 ぽわわん、こんこん、とっぷん、ぱらぱら

 一人が跳ね、それに応じて違う誰かが跳ね……という風に、釣瓶落とし達はリズミカルに桶の音を奏でていた。
 音色もそれぞれ違っている。 
 小さな太鼓の音、大きな太鼓の音、琴の音、鈴の音、さらには横笛を吹くような音まで立てる者もいる。
 しかも跳ねる高さによって音の高低が変わるので、広場は非常に豊かな音の庭になっていた。

 キスメは音楽に合わせて跳ねながらも、きょろきょろと頭を動かし、周りの様子をうかがう。
 百。いや、もっと。数えていられない。
 跳ねる桶の数は、どんどん増えていて、円も二重、三重と広がっていた。
 桶はともかく、髪の色がみんな違っているので、とてもカラフルな集まりになっている。
 どの子も元気一杯で、のびのびとしているものの、凶暴そうな風には全然見えなかった。
 それにしても、

 ――ここはどこなの……?

 キスメが尋ねると、手を繋いでいた女の子は微笑んで、

 ――『かえる』場所。

 と答える。

 ――帰る場所?

 その意味についてもっと聞こうとすると、突然女の子が手を離すなり、勢いよくジャンプした。
 ぱらぱんたん、と水の中で鳴らす小鼓のような音が間近で響く。
 着地した彼女は続いて、キスメの桶をポンと叩いてきた。
 その意味に遅れて気が付き、慌ててジャンプする。 
 
 ぽぺん

 という気の抜けたような音が、拍子を外して広場に響いた。
 くすくす、という笑い声が聞こえてきて、キスメは恥ずかしくなり、縮こまる。
 けれど、他の釣瓶落とし達は笑いながらも嬉しそうに、その後に続いた。

 しゃん、しゃん、てんつくてん、とんとこぽんぽん、ぴーりゃらら

 音の流れが一周して、またキスメが跳ねる番が近付いてきた。
 今度は絶対失敗しないよう、隣の女の子とも呼吸を合わせる。
 
 どん、どん、でんでこどん、ぽっぱららった……

 今だ……! とキスメは跳ねた。

 ぽっ……ぺん!

 桶の底から、頭のてっぺんを突き抜けて、音が広がった。
 すごい、とキスメは口に手を当てながら、自分の桶を見下ろす。
 ぴったり音がはまってくれた。まるで音符の妖怪になって、楽譜の最後に着地したような気分だった。
 周りのみんなも、大きく跳ねながら、今の音を褒めてくれる。
 キスメの頬から緊張が解け、心臓が喜びで高鳴った。

 順番に跳んでいた釣瓶落とし達は、今度は好きなように跳ぶことをはじめた。 
 できるだけ高く跳ぶ者。宙返りしてみせるもの。隣の子と腕を組んで飛ぶ者。二人の肩を借りて跳ぶ者。
 キスメも大はしゃぎでその輪の中に加わった。
 羽が生えたように桶は軽く弾み、伸びやかな音を奏でる。
 重なり合い、響かせ合う釣瓶落とし達の音によって、樹の周りに瑞々しい力が広がっていく。
 
 高く跳び、音が鳴り響き、桶から生まれる柔らかな鬼火が広場を照らし出していった。
 燐光をまとった中央の樹は、まるで宇宙の中心に立っているようで、その周りを移動する桶の子達は、お星さまのよう。
 ここが地底の楽園だといわれても不思議じゃない眺めだった。

 キスメは勢いよく跳ねながらも、涙をこぼしていた。
 今まで心のどこかで、釣瓶落としじゃなければいいのに、とばかり考えて毎日を過ごしていたことを思い出したのだ。
 都で生きるにはちっぽけで、弱い妖怪の自分が恨めしくて、いつも別の何かに変われないかと思っていた。
 でも今は違う。
 釣瓶落としであることに、心の底から感謝できる。
 だって、まるで温泉の泡の一つになったような一体感の中、同じ仲間と共に生きる音を紡ぐ、この喜びといったら……。
 このエネルギーさえあれば、どんなことだってできそうな気がしてくる。
 旧都中の妖怪が、これを見に集まってきてもおかしくはない気もする。
 まさしく、釣瓶落としにとっての理想郷で、帰るべき場所だと確信できる光景だった。

 ――みんなにも、見せてあげたい……。

 そんなことを考えた時だった。
 キスメの弾む桶の高さが、次第に低くなっていった。
 興奮にとりつかれていた頭に、ここにはいない『みんな』の姿が映る。

 ――みんな、どこにいるの?
 
 その時生じた一滴の喪失感は、キスメの感情にはっきりと変化をもたらした。
 帰りたい、という言葉にすらならぬほどの、ほんのわずかな寂しさが、喜びの一色だった中心に、透明な穴を開けていた。
 天から一筋の光が差し込んでくる。
 それは真っ直ぐに、キスメの桶に注がれた。

「えっ……!」

 光は銀の帯となって、キスメの桶の取っ手に音もなく巻き付き、静かに引き上げようとしてくる。
 釣瓶落としの集まる広場から、連れ帰ろうとするように。

 ああ……とキスメは思い出した。
 そうだ。確かに私は、ここではない世界に、待ってくれているみんながいる。
 だから帰らないといけない。でもまだ、待ってほしい。
 やっとこの場所を見つけたのに。
 
「もう少しだけ……! お願い……!」

 キスメは樹の周りで跳ねつづける仲間達に、手を伸ばした。
 釣瓶落としの子供達は、みんなこちらを見上げながら、何かを叫んでいた。 
 けどよく聞こえない。その姿もどんどん霞んでいってしまう。
 しかも、

「どうして……!?」

 キスメは絶望的な気持ちになる。
 自分の桶が、釣瓶落としの子達が生み出す力によって、押し出されていることに気づいたからだ。
 上昇する力が、ぐんぐん増していく。
 もはやキスメ一人の力では、戻ることができない。

「みんな!」

 キスメは遠ざかる影たちに向かって、精一杯の気持ちで叫んだ。

「私はキスメ! みんなと同じ釣瓶落としで、みんなの……!」




 ◆◇◆



 
 このままずっと目を閉じていたい。
 そうすれば、あの場所に戻れるかもしれない。仲間にまた会えるかもしれない。
 けど息を吸って吐くごとに、現実の感覚は近づき、反対に夢の余韻は遠ざかってしまう。

 みんなは何を伝えようとしていたのだろう。
 どうして私だけが、戻ってきてしまったんだろう。
 もちろん、こちら側に戻りたいという気持ちは、嘘じゃなかった。
 けれども、あの場所から離れるのも、すごく辛かった。
 あんなにたくさんの仲間に出会えたのに。私だけが仲間外れにされちゃった。
 やっぱりみんな、私のことを恨んでたり、妬んでたり、嫌ってたりしてたんだろうか。

 暗闇の中では悪い方に思考が転がる。
 キスメは仕方なく、一度目を固くつむってから、瞼を開いた。

「あ、起きちゃった」

 と言って、すぐ側でこちらの顔を覗き込んでるのは、帽子をかぶった薄緑色の髪の少女。
 そして、

「あ……」

 いつの間にか、隣で寝ていたあの小鬼の子も起きている。
 彼女は得意そうな笑みを浮かべて、すっ、と巻いた紙をキスメに渡してきた。

「それ、あなたの見てた夢だって。よく描けてるわ」

 と、こいしが言うので、キスメは頭がぼうっとしたままの状態で、渡された紙を広げてみる。
 腫れぼったかった眼が、大きく開いた。

「これ……」

 墨絵の中で、たくさんの釣瓶落とし達が樹を囲んでいた。
 大きな桶のものも小さな桶のものもいる。どれも夢で会った仲間達の姿だ。
 しかもよく見れば皆は、樹の真上にいる一人の……髪を二つおさげにした釣瓶落としを祀るように、両手を上げていた。

 ――私……?

 『彼女』は……絵の中のキスメは光を想わせる帯に包まれ、天へと昇っている。
 皆の声援を受けて、新しい世界へと旅立つかのように。
 送り出す釣瓶落とし達はみんな笑顔で、彼女の旅立ちを心から祝福しているようだった。

 眺めているうちに、あの音楽が頭に小さく流れていく。
 その中には、キスメが呼びかけるのに夢中で聞こえていなかった、仲間達の声も混じっていた。
 
「そっか……」

 キスメは誤解していたのが、自分だったことに気づいた。
 あれは恨み節なんかじゃなかった。応援の声だった。
 仲間外れにされたのでもなかった。キスメは皆に選ばれ、託されたのだ。
 そして、あの時教えてくれた、「かえる場所」という言葉は、帰る場所という意味だけではなかった。
 消えていくものだけではない。そこから生まれてくる者がいる。
 そういうことだったのだ。

 弱っていたキスメの心が、強く甦っていた。
 皆の思いが、温かな風となり、桶を包み込み、全身に力がみなぎる。
 それをキスメは心行くまで味わい、巻いた絵を胸元に抱きしめ、

「二人とも……ありがとう」

 そして、みんなありがとう、と心の中で囁いた。

「答えはわかった?」
「うん」

 キスメは目をこすり、笑顔でうなずく。

「やっと見つかった。私の答え」





 6


『いらない?』

 店主が発したその問いは、これまでとはっきり語調が違っていた。
 
「はい」

 凄みのある声に対し、キスメは臆することなく応える。
 都の中央街、その袋小路にある名入れ師の店。そこにキスメは今、お供を連れず一人で出向いていた。
 以前と異なり、入道の大きな目玉は、すでにこちらを見据えている。
 彼はふーっと煙の帯で自らの髭を包み、
 
『釣瓶落としの大半は業に呑まれてそのまま滅びる。お前の残りは早くてあと三年……』
「それは前にも聞きました」

 キスメは首を振って、入道の言葉を遮った。

「それでも、私はもうあんな賭けはしません」
『何故だ』
「名前は欲しいけど、それはおじさんの名前じゃなくて、『私の』名前だって気づいたから」

 入道の目がその発言の真意を探るように細くなる。
 それから彼は、怒りというより、まるで失望したかのような声音で、

『先に逝った連中の気持ちを思えば、どんな形であれ、自分の名前を手に入れて生き延びるべき。そうは考えないか』
「私も最初はそんなことを考えたけど……でもやっぱり間違ってるって思ったんです」
『誰かの入れ知恵か?』
「ううん。私一人で考えました」
『……今日はじめにこの場所から去った時、お前の心はひどく渇いていた」

 店主はお構いなしに決めつけるかのような物言いで続ける。

『そして今もまだ渇いたままのはず。なのにすぐ目の前に見えている井戸を、覗くだけで汲もうともせず、また砂漠を目指すのか』
「砂漠じゃないもん」
『力のない孤独な妖怪にとっちゃ、旧都はどこも砂の山同然だ。金も力も希望も、容易く搾り取られる』
「独りでもないわ」

 キスメは負けじと反論する。

「私にはたくさんの応援してくれる人がいる。消えちゃった釣瓶落としの仲間、今いる友達、そしてきっと、これから出会う友達も」
『………………』
「だから、おじさんも……『夢屋』さんも、私を応援してくれる?」

 緊張の一瞬だった。
 渾身の一太刀が届いたかどうか、不動の入道の顔からは窺い知れなかった。

 しばらく相手の表情を注視していたキスメは、あることに気が付き、慌てて言い繕った。

「あ、これは賭けの答えじゃなくて、私が、そうだったらいいな、って思っただけだから」
『ほう……』
「おじさんは今まで、いろんな道具に名前を入れて、それを使う人たちの夢を助けていたんじゃないかって思ったの」
『……………………』
「だって、私もおじさんから、夢をもらったから」
『何もやった覚えはねぇが』
「私の夢は、立派な釣瓶落としになること」

 キスメは胸を張り、一段強い口調で伝える。

「そして、いつか夢の中だけじゃなくて、この地底に釣瓶落としの子達が楽しく暮らせる世界を創りたい。あの歌を、あの踊りを広めたい。それまで私は、どんな業にも負けない。死んじゃった仲間の願いも、今いる友達の気持ちも裏切らない。そう決めた。だから、借り物の名前はいらない」

 そう宣言する。
 挑戦すべき相手だけではなく、未来に挑戦しようとする己にも言い聞かせるつもりで。

「自分の力で、自分の名前を見つけることができたっていう自信が欲しいの。だってそうじゃないと、これから出会う釣瓶落としの子達に信じてもらえないし、その子達を助けることもできないと思うから」

 キスメが思い描く未来。
 それは昨日までのような、成長した自分の姿だけで完成するものではなくなっていた。
 決して忘れられぬ、仲間たちが見せてくれたあの光景を、この地底に甦らせること。
 そのために成長し、少しでも多くの仲間を見つけ、救い、共に歩むこと。
 己だけで完結することなく、もっと多くの存在の協力によって完成させることのできる、新しい夢だった。

 無謀だと思われても構わない。
 これはきっと、自分にしかできないことだ。
 釣瓶落とし達の願いとその理想の世界を知っていて、その実現の夢をきっと助けてくれる妖怪達が側にいる、自分だけが。
 だからキスメは、もう恐れることなく、挑戦できる。
 
「だからおじさん。もし私に本当の名前が見つかったら、またここに来ていい?」

 自信たっぷりに顔をほころばせ、キスメは改めて尋ねた。
 しばらくこちらを見つめていた目玉が、遥か遠くを向いた。
 彼は瞼を閉じ、呆れたようにぽつりと言う。

『好きにしな』
「やった!」

 キスメは飛び跳ねる。
 ようやく……出会ってからようやく、望んでいた返事がもらえた。
 賭けは成立しなかったけど、ほんの少しでも大先輩に認めてもらえた気がして嬉しかった。

「それじゃあ、ありがとうおじさん! またね!」

 手を振って、キスメは別れを告げ、風雷邸に帰ろうとする。
 その時だった。

 背後で、湯に深く身を沈めるような吐息が聞こえた。


(それにしても、見つけてもらうっていうのはいいもんだなァ……)


「え……?」

 キスメが振り返った、その瞬間だった。
 店の中に立ち込めていた闇が、勢いよく弾け、飛び散った。
 それらは全て、キスメが夢で見たあの蛍火のごとき鬼火に変わり、頭上を彩った。
 
 暴風をまともに顔に受け、おさげも前髪も後ろに引っ張られながらも、キスメは目と口を大きく開けてその光景と向き合う。
 はっきりと姿を現した、禿頭の釣瓶落としが、ぬぅん、と野太い声で呻いた。
 刹那、

 どん

 と、と地底全土に響くかと思われるほどの、大きな太鼓の音が轟き、桶の主は天高く上昇していった。
 それに続いて店の破片が、桶や箱、その他さまざまな道具と共に、天へと昇っていく。
 最後に、温かく、強く、瑞々しい鬼火の群れが、都の空へと舞い上がった。
 茫然とその光景に目を奪われていたキスメはまばゆい程の妖力の渦に吸い込まれ――




 ◆◇◆




「…………?」

 気が付くと、キスメは大きな通りの真ん中に立っていた。
 人通りは少ないが、提灯を掲げた店が四方に何軒も続いている。
 すぐに自分がどこにいるか気づいた。旧地獄街道の五丁目六番通、中央街の入り口となっている辻だ。
 いつも鬼ヶ城から旧都に出かける時は、比較的空気が穏やかなこの場所を通るので、よく知っている。
 けれども、さっきまでキスメがいたはずの裏路地は、影も形もなくなっていた。

 思わず指が自分の頬へと向かっていた。
 力いっぱいつねってみると、がっかりするほど痛かった。
 テレポーテーションか、タイムスリップを体験したような気分で立ちすくんでいると、

「キスメー」

 知った声に名前を呼ばれ、キスメは横を向く。
 赤い三つ編みを揺らし、猫車を押して走ってくるのは、昨日ちょうどこの辺りで別れた少女だった。

「お燐ちゃん……」
「どうしたのさ、こんなところで立ち止まってて。中央街に用事? 住んでるあたいが言うのもなんだけど、そんなに面白いお店はないよ」
「………………」
「あっ……もしかして! そっかそっか! いやー、決心が早くて嬉しいねぇ。それじゃあ地霊殿行き、一名様ご案内~」
「お燐ちゃん! この辺りに、名前を入れる職人さんのお店はなかった!?」
「え?」

 お燐はポーズを取ったまま、きょとんとなる。

「大きな釣瓶落としのおじさんがやってる店なの。表には桶とか箱とかがたくさん並んでて、店の中は真っ暗で、煙管をくわえた怖い顔のおじさんが一人でいて……」

 キスメは記憶を頼りに、なるべく詳しく伝えた。
 けれどもお燐は困ったような顔つきで宙を見上げ、

「そう聞かれても、あたいには分かんないなぁ。少なくとも中央街には、そんなお店はなかった気が……」

 と言われ、キスメは落ち込みかけた。
 今日体験したことは、全部夢に過ぎなかったのか。

 いや違う。そんなはずない。
 キスメは急いで行動に移した。

「キスメ!?」
「ごめん! お燐ちゃん、また後で!」

 と言い残し、街道を飛んで移動する。
 通りにくまなく視線を走らせ、何かあの裏路地につながる手がかりがないかを探す。
 一度見つけられたのだ。きっともう一度見つけられるはず。あれは絶対に、幻なんかじゃない。
 
 と、飛んでいるキスメの桶が、背後から何かにすくわれた。

「そんな必死な顔の『また後で!』を放っておけるほど、冷めちゃいないよ」

 猫車を押しているお燐と視線が合った。
 彼女は片目をつむって、

「まぁ、実際は好奇心なんだけどさ」
「お燐ちゃん……!」
「船長! 指示をお願いします!」

 お燐の操る猫車は中央街を勢いよく駆け巡った。
 人通りが少ないから速度は出し放題。なおかつ操縦士はこの辺りの道を知り尽くしているので、運転にも迷いがない。
 移動をお燐に任せて、キスメは探すことに集中する。
 あの裏路地か、もしくはあの闇のほんの一つかみだけでも残ってないか。
 絶対に見つかる、そう念じる。ただひたすらに念じ続けて……。

 ちょうど中央街を半周したところで、キスメの直感がある一角に反応した。

「お燐ちゃん止めて!」

 猫車が砂煙を上げて急停止。
 そこは一見、何の変哲もないただの石の壁だった。
 裏にはすでに廃屋となっている感じの御屋敷がある。

「ここがどうかしたの? ……ってキスメ! ちょっと! まずいよそりゃ!」

 お燐の制止を聞かず、キスメは考えるよりも先に、塀を飛び越えていた。
 廃屋の屋根を跳ねて移動し、さらに先を目指す。
 使われている建物と使われていない建物。それぞれの石塀の間隙に沿って移動する。
 そうしてキスメは、ようやく『その場所』を見つけ、地面に降り立った。

 しかし、

「そんな……」

 思わず、力ない呟きが漏れた。
 自分の勘違いかもしれない、と思いたかった。
 けれど確信してしまう。探していた場所は、ここで間違いなかった。
 そして……捜していた存在は、そこにはいなかった。

「へー、こんな場所があったんだー」

 後から下りてきたお燐は、感心した口ぶりで言う。

「区画の隙間っていうのかなぁ。上からじゃ塀やら屋根やらに隠れて目立たないんだね。元はこっちの路地と繋がってたのかな」
「………………」

 キスメは応えない。
 その両目には、廃墟とすら呼べぬ瓦礫の山が映っていた。
 おそらく、もう何十年も前に放棄されて以来、そのままになっていたのだろう。
 誰の影もなく、ごみなどの生活の跡もなく、妖気の残り香もなかった。
 都のどこからも見捨てられた……いや、忘れられた場所といってよかった。

「うーん、多分何かのお店だった……のかな? でもこれじゃ、元がどんなだったかもわからないね」
「夢屋さん……」
「ん?」
「……ここには、みんなの夢を名前の中に書き入れてくれるお店があったんだと思う」

 キスメはそう言って、埃と煤にまみれた瓦礫の真ん中へと向かう。
 そこには――不思議とそれだけ全く汚れていない、闇を溶かしたような漆塗りの箱が残されていた。
 さらにその表面には紛れもなく、一度見たあの筆致で、金色の名前が刻まれていた。

 『夢屋』……と。






 7

 
 ちゃぶ台の横に、黒い箱が開かれた状態で安置されている。
 台の上には布が敷かれ、その上には筆やすずり、印刀などの道具が一列に並んでいた。
 膝を揃えて畳に座る土蜘蛛は、それらの道具を神妙な手つきで確かめていた。
 部屋には他に、ここを宿に借りている釣瓶落としと、実質的な持ち主である一本角の鬼。
 もう一人の橋姫は、今自室でお茶を淹れているところであり、この場にはいなかった。

「夢屋……か」

 ヤマメは手にしていた硯を置いて、首を少しひねる。

「ちょっと心当たりがないねぇ。渡りの職人かもしれない。都の知り合いに、そっち方面に詳しいのがいるけど、明日にでも連絡を取ってみる?」

 と、じっとこちらを見つめているキスメに、ヤマメは話を振った。 
 ただ内心では、おそらく空振りに終わるのでは、とも思っていた。
 実際、鑑定を頼んできた当の釣瓶落としも、自らが体験した出来事に確信が持てないらしい。
 
「やっぱり、ただの夢だったのかな……」

 寂しげに呟くキスメの話は、確かに興味をそそるものではあったが、赤の他人に聞かせれば信じてもらえそうにない類のものだった。
 件の釣瓶落としの店の痕跡はほとんど残っていないというし、その場所で同じ体験をしたという妖怪の少女は行方知れず。
 買い物から帰ってきたヤマメ達に、キスメが示せる唯一の証拠品が、風雷邸に持ち帰ってきたこの道具箱だったそうだ。
 あとは『夢屋』という名の職人のことを知っている者が、旧都に一人でもいるかどうかだったが。

「いや、私は信じるぞ」

 ヤマメの仕事ぶりを黙って眺めていた勇儀が、そう言った。

「確かに不思議な話だけど、キスメはこんなことで嘘を吐く奴じゃないからね」
「ありがとう、勇儀さん」

 キスメが救われたような面持ちで感謝する。
 道具の鑑定を終えたヤマメも、勇儀の意見に同意し、

「そうだね。実際この道具は本物、それも間違いなくいい物だよ。道具を見れば職人の腕もある程度わかる。ちゃんと手入れされてるし、質もいい。これなら市で売っても結構なお金になるだろうけど……」

 ヤマメは試すような目でキスメを見てから、口の端を持ち上げる。

「その様子からすると、そんなつもりはないみたいね」
「うん! 私、頑張って修行して、これがちゃんと使えるようになる」

 キスメは満面の笑みで力強く言う。

「そしてこの桶に、自分で名前を入れるの! それから、もっとたくさんの道具に名前を入れてあげられるようになりたい! きっと夢屋さんは、そのつもりで私にくれたと思うから!」

 すっかり元気が戻った様子の小さな妖怪に、二人の妖怪も笑顔となり、そして気づかれないように、こっそりと目配せし合った。
 実は昨日の出来事もあって、彼女らとパルスィは、あのままキスメに元気が出ないようなら、別の元気の出る何かを考えてやろうと相談していたのだ。
 その結果、ささやかな宴を催しては、ということで話がまとまり、都に買い出しに出かけていたのだった。
 ところが買い物から戻ってみれば、キスメは以前の元気を取り戻していたどころか、前より一回り大きくなったよう。
 ここ数日の出来事を通じて迷いが消え、明確な目標を見つけたらしい。逞しいことで何よりだ。

「それじゃあこの道具に負けない腕にならないとな」
「彫るのは難しいから、まずは板か何かに書くことから練習したらどうかな」
「うふふ。実はもう一つ作ってみたの。そろそろ気づいてくれるかも……」

 キスメが意味ありげに口元を両手で隠し、笑いをこらえきれない風に言う。
 まるで地上の子供が、サンタクロースが来るのを待ちかねているような仕草だった。
 そこに廊下を走る音が近づいてきて、襖が音を立てて開け放たれる。

「この『表札』を作ったのは誰だぁ!!」

 現れたのは、断じてサンタではない、緑の目を吊り上げた怒れる妖怪だった。
 なぜか淹れていたはずのお茶ではなくて、両手に載るサイズの細い板切れを持っている。
 パルスィは修羅の顔で、それをべしんと机に置き、

「あんたかキスメ!?」
「は、はい! 私ですパルスィちゃん!」
「何なのよこの『みずはしバルス.』って! 私を呪う言葉か何か!?」
「え! え! 私ちゃんと書いたつもりで……きゃー! 許してー!」

 キスメは自分の部屋の中をぴょこぴょこと跳ねまわり、追いすがるパルスィの手から逃れようとする。
 どたばたとした周囲の騒ぎをよそに、ヤマメが机に置かれた表札を手に取って、

「ありゃ、これはいけない。書いたときはよかったんだろうけどね。墨が滲んじゃってる」
「どれどれ。あはは。確かに『バルス.』にも読めるね。まだ名人の背中は遠いか」
「ひゃー!?」
「妖怪の、しかもよりにもよって私の名前を間違えるとは言語道断ー!」

 パルスィに捕まったキスメは、ヘッドロックと同時に片方のおさげをぐるぐる回されるという謎のお仕置きを受けていた。
 そんな姿を見ていると、とてもではないが想像できないけれど、

「でも、もしかすると……これがいつの日か、幻のお宝になってたりするかもね」

 都でも評判な名入れ師の、最初の習作として。



 それはまだ夢の卵。孵るかどうかは、誰にもわからない。
 けれど確かにその卵は、今日この地底に生まれ、息を吹き込まれたのだろう。

 きっと、都の側に眠る多くの魂と、消えた一人の職人の魂によって。



(おしまい)
 人偏に夢と書いて儚い、というのはよく言われますね。
 それが仮に正しかったとしても、彼女たちなら大丈夫でしょう。人じゃなくて妖怪だし。

 というわけで、ちょっと時間があいてしまいましたが、四作目をお届けいたしました!
 このはずくです! お読みいただき、ありがとうございました!

 今回は四人娘の末っ子であるキスメの物語。
 元々は大昔にチャットで、
「遺憾ながら、キスメという名前に神主の気合不足を感じます」とぶっちゃけたのがきっかけですw
 因幡とか犬走とか秋とか、中ボスに苗字があってもいいじゃない! ただでさえヤマメとまぎらわ(ry
 それから何年かして、口授でその凶暴な性質が明らかにされたときは驚きだったものの、二次創作書きとしては想像力が掻き立てられ、何だか複雑な背景を持つキャラクターに思えてきて、今ではとてもお気に入りです。このキスメは全然凶暴じゃないですけど、まぁそれまで思いっきり純真な性格で書いていたので、今さら変えるのも惜しいというかw これからも他の四人娘と共に応援していきたいですね。

 さて、次のシリーズの主役は地霊殿から。
 クールな覚り妖怪さんのとんでもない受難を描こうかと思います。
 もちろん四人娘もばっちり絡ませて、騒々しいドタバタコメディにする予定でございまする。

 それではまたお会いしましょう! このはずくでした!
このはずく
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コメント



0.1240簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
どうも、水橋バルスさん…
話は綺麗にオチたように見えますが、不安要素も結構残ってるんですよね
彼女が後ろ向きになると出現する黒いのとか…(青き笛吹きの、地底の怨念の残骸?)三年くらい経過するとキスメの存在が危ういとか
キスメの環境ならなんとかなりそうだなと言う安心感もあるにはありますけれども

>予告
今んとこドシリアスな人だったさとりんが地底コメディシリーズで見れるよ、やったねこいしちゃん
3.100名前が無い程度の能力削除
天に帰る場面で一気に感情が引き摺り込まれた
そしてそこに至るまでの隅々まで丁寧な描写の仕方に感服
あとあのオチ方は良い意味で卑怯
17.100名前が無い程度の能力削除
この平和な四人娘シリーズにも終にシリアスが…!?と恐れ慄きながら読み進めました
相変わらずオリキャラが良い味だしてますよねぇ…うーん、良い

あと店主の顔が途中から某妖怪漫画の大翁様が描いたつるべ落としになってきたのは自分だけじゃない筈
22.70名前が無い程度の能力削除
自分の名前について考えました
23.100名前が無い程度の能力削除
これ、実質的には青き笛吹き〜の最終話、又は正当な続編?ですよね。
事件のきっかけだった釣瓶落し生来のの非業さ、実は解決された訳じゃなかったけど、このお話である程度の解が与えられたような、そんな印象を受けました。

ゆめむすび、のタイトルに繋がるのも鳥肌。面白かったです。
25.90名前が無い程度の能力削除
興味深い謎解きかと思いきや、綺麗で幻想的な描写に続いていって、充実感の高い一作でした。
さとりとの絡みがおあずけになってしまったのだけが残念。次作への期待が高まります。