Coolier - 新生・東方創想話

太陽神とお空

2015/11/06 02:03:43
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 呼べ。私の名を。
 神と等しく力を持ちたる者よ。
 我を呼べ。我を求めよ。


 むくり、と、お空は起き上がった。


「知らない男の人が、おくうを呼んでいる?」
「そう。片目を隠してる、なんていうんだっけ……インドの方の人が来てるような、身体に巻くやつ……」
「サリー?」
「そんな感じのやつ。布を身体に巻いてる。きんきらきんの装飾を身につけてて、綺麗だよ……」

 ふむううん、と、さとり様とお燐は、腕組みをして、顔を見合わせた。

「背中のほうで、きら、きら、まぶしいくらい光が走ってて、その人は影になっている……。まるで、光が翼を開いたみたいに見えるんだ。その人の背中に、翼が生えているみたいに」
「鳥の知り合いかしら。お空、あなたと同じ、地獄鴉の……。でも、きらきらの装飾?そんなお金持ちの鳥が、地獄にいたかしら……」
「地獄だけじゃありませんよ。幻想郷にだって、そんな人、いないでしょう」

 ふう、とさとり様は息をついた。
 近頃、お空の様子がおかしいのだ、と、お燐に言われて、お空から聞いてみれば、夢の中に同じ人が出てくるのだ、その人が気になって仕方がないのだ、とお空は言う。

「私を呼ぶんだよ。私の名を呼べ、私を求めよ、って……。私は、あの人がほしいのかな。分からなくて、ぼうっとするんだ」

 これは、様子がおかしいと、お燐とさとり様が思うのも、仕方がないことだった。そして、お空の様子がおかしいというのは、それなりに大問題なのだ。以前、お空が強い力を手に入れた時も、お空の様子がおかしくなった。その時は妙に賢しらになり、盛り上がった気分を抑え付けられないかのように火を付けて暴れ回った。お陰で地底のエネルギーは増えて、色々と良い影響が出たのだけれど、それは結果論として、結構危なかった。それで、今回も同じようなことであれば、気をつけなければいけないのだ。

「お燐、どう思います」
「……恋、ですかね。例えば、一目惚れをして、その人の姿形を凝視するがあまり、場所とか、ほかのことも、全部忘れてしまって、その人のことだけ覚えてる、とか……」
「真面目に考えなさい」

 ぽかり、とさとりはお燐を一発やった。うええ、とお燐は頭を抱えて泣き真似をして見せた。

「でも、さとりさまあ、そのくらいしか思いつきませんよ。それに、夢の中に出てくるっていうのは、相手が惚れているってしるしなんでしょう」
「それは昔の話よ。大昔は、夢の中に出て来た人は、現実で会いたさの故に、夢の中で会いに来るって信じられてたの。お燐の意見で言うなら、好きなのはお空のほうでしょ」

 あれこれ、あれこれと、お燐とさとりは意見を交わし合った。お空はぼうっとしたまま、用意したお茶にも手を付けないのだった。やがて、退屈になったお空は、ふらふら、外へ出て行ってしまった。


 さとり様もお燐も、自分を馬鹿にしている、とお空は思った。これでも恋は知っているのだ。相手は地獄鴉の男の子だったりしたけれど、それはもう以前のことなのだ。だから、この感じは恋じゃない、とお空は思う。
 けれど、恋に似ているかも知れない、とは思う。生きていることそのものが本能、例えば生殖と食事と睡眠でできているならば、この感情も本能的なものだ。あの人は何なのだろう。そもそも、どうして、私には分かるのだろう? 強い目をした人だった。きらきら光る背中の光のせいで、その人の身体は真っ黒の影法師に見えた。だけど、目だけは、開かれた片目だけはきらきら、大きく光っていた……。
 お空は旧地獄を抜けて、空へと上がっていった。地底の空は真っ暗だ。だけど、お空には何となく、外へ出てゆく道は分かる。ふらふら宙へ上がると、街の灯りがちかちか、煌びやかに輝いて見えた。あそこは旧地獄の一丁目、二丁目……それから、一際大きな建物は、河童たちの技術を導入して作られた地熱発電所だ。いまは実験段階だけど、やがて地獄全体を覆う光になる、らしい……それからあそこには地霊殿がある……地霊殿は、一際暗い。さとり様が、明るいのが嫌いだからだ。でも、なんとなく、それがいい、と、お空は思う。明るいばっかりじゃ、疲れてしまうから。お空はふわ、ふわ、身体を宙に浮かせて、地上へと抜ける道を飛んでいった。光たちが遠ざかって、地上の光が、お空を迎えた……。


 外の世界の眩しさったら。お空は太陽神を身に宿しているから、変な話だけれど、地上に出た時は、いつも何となくぐったりしてしまうのだった。それに、外は音でいっぱいだ。風が竹林を揺らす音、木の葉が擦れ合う音、虫たちが羽ばたいたり、鳴いたり、鳥が囀ったり……。地底は生き物が少ないし、風も吹かない。お空は日射しに手をかざした。木々の合間を抜けて、陽光が差し込んでいる。お空は外に出るのに、地下から続く抜け穴のうち、細いものを選んだ。最も大きな穴は、以前の騒ぎ以来温泉が出て、色々と騒がしいから、人目につかないここが都合が良いのだ。お空は穴を抜けて、太陽がいっぱいに当たる草原へと出た。風が、立ち草を揺らして、草原を走って見えた。お空は座り込んで太陽を見上げた。
 むかし、むかし、本当の昔。まだ殿様や王様がいなくて、神様ってことさえなかった頃は、太陽が神様だった。植物が育つのも、動物がいるのも、そもそも人間が生きていられることが太陽のお陰だった。それに等しい存在、太陽ほどの存在感を持つものとして、神様が考えられて、その神様が太陽さえも作ったことになった。太陽を作れるなんて神様はなんて凄いんだ、と皆は思った。皆は、神様を信じるようになった……。太陽はそれほどすごいもので、ずっと地底に暮らしていても、たまにこうしてお日様を見れば、そう言われていたって、信じることができる、と、お空は思った。
 自分の中に太陽神の力があるなんて、信じられない。お空はただの一匹の地獄鴉で、自分の中にある力だって、自分のものじゃない気がする。すごい力なのは分かっている。けれど、それほどの力があったって、何かができるわけでもない。さとり様やお燐が困っている時は、助けられるだろうけれど、太陽神の力を使って助けなきゃならないような力と対抗したら、その余波だけで死んじゃいそうだ。強すぎる力は、無くしてしまうことはできても、生み出すことはできない。そもそも、生み出す、ということそのものが、お空や、さとり様、お燐、友達たち、妖怪や人間たちの領域を超えていて、お空一人でどうこうという話ではないのだ。
 だから、この強い力は、お空が持っていたって、仕方のないことなのだ。お空ができることならば、別の誰だってできるのだ。お空に太陽神の力が、もし、ないならば、持っている誰かがするだけのことで、それはおくうとは関わりのないことだ。
 太陽はとても強い力を、地上に降り注ぎ続けている。きっと、何かを生み出す力というのは、こういうのを言うのだろう。十年二十年、それよりもっと長く、数千年、億年という時間をかけて、命は生まれてゆく。お空が同じことなどできるはずもない。

 もちろんこれらはお空が明確に言語下して頭の中で考えたのではない。なんとなく、本能的に、お空は太陽はスゴイと思った。
 太陽はスゴイものだ、というのが分かった。それで、どうしよう。お空は悩み込んでしまった。ううん、これでは分からないことにうんうん悩んでいる、さとり様やお燐とおんなじだ。元々、何かしら探す目的のあてなんて無かったのだから、当然のことかもしれない。だけど、なんとなく太陽が見たくなったんだ。太陽が導いてくれるように。ああ、そうだ、大昔の人々が太陽を信じたように、私の、お空自身の生命は、植物や動物たちがそうであるように、命は命、自然は自然そのもので、行くベきところへ行けばいい。お空は、立ち上がって、両手を広げた。太陽の光を身体いっぱいに受けた。身体を纏うマントや、服や、太陽神の力も剥がれて、お空そのものの姿が浮き彫りになってゆく。開放感。正しいものに包まれている感覚になって、お空は両手をいっぱいに広げたまま、草の上に、仰向けに寝転がった。


 さあて、満足したし、帰ろう、と思った。何をしに来たのかさえ、お空は覚えていなかった。なんとなく幸福感に浸って、そのまま過ごしてゆく。そういうのが行くべきところへ行く安心感なのだろう。
 ついでに、神社にでも行ってやろう、とお空は考えた。神社は前にも行ったことがある。前に問題を起こした時に、お空は悪さをしないように留め置かれたのだ。霊夢とは友達だ。お空が神社へひとっ飛びすると、神社の境内では白い布が引かれて、その上にはそれぞれ間隔をあけて、色んなものが並んでいた。露店か何かかな?

「やっほー」

 お空が飛び降りると、「よう」と、霊夢と一緒にいた魔理沙が言い、「うわ」と霊夢が言った。

「ちょっと、近寄らないで。壊さないでよ」
「うにゅ? なあに、それ」
「ちょ、ちょっと、来ないで、うわ、わあ!」

 霊夢は白い布ごしに、何かを持っていた。壊れ物を扱うみたいにしていた。石でできた飾り物みたいだ。霊夢はお空が近付くと、足を何かに引っかけてすっころび、それを地面に落として割ってしまった。

「あああ! ああ、もう……」
「あーあ。まあ、気を落とすなよ。値打ち物じゃないぜ。たぶん」
「分からないでしょ! ああもう……! 何よ、何の用なの」

 お空は突然怒られて、びっくりしてしまった。だけど気にしない。霊夢はがっくり来て、賽銭箱前の階段に歩いていって、座った。

「なんとなく。なあに、それ」
「ああ、これな。地底から出てくるんだと。地底は、今じゃ、発掘ラッシュだ。知らないのか?」
「知らない。なあに、それ」

 お空は地底から出て来たという品物を、覗き込んで回った。その後ろを魔理沙がついて、うだうだ喋って回った。

「大昔の人達が暮らしてた証拠なんだと。それが突然、地底の土の中とか、地底湖の底から出てくるようになったんだ。変なこともあるもんだよな。地底と、地上で、交易があるんだが、そうだな、地底は掘って出て来た鉱石なんかを、地上では新鮮な野菜なんかを、それぞれ交換してるんだが、そういうのをしてる地底のやつらが、こういうのを持って来るようになったんだ。ところがだな、これらはここ、この土地、日本じゃあ出てきようもない品物がいっぱい出てくる。例えばこれは……霖之助が調べてくれたメモによると……古代マヤ文明で作られた神様の木像……これは古代中国で作られた鏡、これは日本のものだ、学者が使っていた木簡……それからこれは……エジプトの……ヨーロッパの……ギリシャで……鎧……通貨……器に……武器……それから、まあ、なんじゃかんじゃだ。分かったか」
「ううん、全然」
「はっはっは、まあそうだろうな」

 お空は興味を失って、魔理沙が霊夢のところへ行くので、ついて行った。

「それでな、霊夢は何か値打ち物があるかもしれない、って言って、例えば宝石だとか金塊だとか、そういうのはもう地底の奴らが集めてるってのに、それなら皆が有り難がるやつ、とか言ってな。ガラクタばっかり持ち込んで、どれが一番貴重そうかって見てたんだ。どれもゴミだよ。私だって持って帰りたくない。むしろ私は地底に行って、発掘をしたいくらいだ」
「ふん。やってみなきゃ、分からないじゃないのよ。この中に値打ち物があったって、魔理沙には分けてやんないわよ。見せてもやんない。御利益がなくなる」
「御利益がなくなるだの落ちるだの、そういうことを言うやつのところに、有り難いものなんて来ないんだぜ。ほら、見てやれよ。あれが今のところ一番貴重そうなやつだ。あれを見世物にしようってんだ」
「見世物じゃないわよ」

 賽銭箱の裏、神社の壁に、長方形の石盤が立てかけられていた。下に白い布が引かれていて、図形の文字が石にいっぱい書き込まれていた。ところどころ割れたり痛んでいたりしたけれど、石は綺麗に平らに削られていて、大昔には大切に扱われた品物のようだった。
 お空は近付いて、しげしげ眺めてみた。

「……あ!」

 お空が大声をあげたので、霊夢も魔理沙もびっくりした。「な、なによ。壊さないでよ」「なんだ、宝石でも埋め込まれてたか」

 お空がじっと見ていたのは、石盤のもっとも高いところに刻み込まれていた意匠であった。翼の生えた太陽の図形が、そこに刻まれていた。


 お空がそれに興味を示してじっと見ているので、霊夢も魔理沙も、一緒になって近付いて見た。

「……魔理沙。何よこれ」
「御利益を期待していたものなのに、霊夢は何も知らないんだな。(なによ!)なになに……霖之助が調べてくれたところによるとだな……何、書いてない。この翼の生えた太陽のことは書いてくれてない。こんな細かいところまで見ていないんだな。この石版自体は……エジプトのものだ。紀元前十八世紀のもの。こんな古い時代から、太陽のモチーフってのは信仰の対象だったんだな。王様の墓に、王様の業績を讃えて刻まれた石版らしい。エジプトの王墓ってのは大抵墓泥棒に曝かれたもんだが、これは金にはならないから残ってたんだ」
「ふううん……でも、まるであんたみたいね」
「私のどこが似てるんだ?」
「あんたじゃないわよ、魔理沙。お空のことを言ってるの。翼の生えた太陽のモチーフ。お空みたいでしょ」

 そうかもしれない、とお空は思った。だから、惹かれたのかも。

「今度また霖之助を呼びつけて、調べさせておくか。お空、お前が興味あるなら、調べてやるよ。その代わり……地底で躍起になってるっていう発掘の現場を教えろよ。な。へへへ」
「あ、ずるい。あんた一人で」
「お前は、あの保護者顔してる紫のやつが、許さないだろ。へへ、山ほど宝石が出て来たら、こんな小指の先くらいの宝石くらいなら分けてやってもいいぜ。じゃあな、霊夢」
「ちょっと! この品物、倉庫の中に入れるの、手伝いなさい!」

 魔理沙はぴゅう、と飛んで行ってしまった。霊夢は諦めて、あんたも帰りなさい、とお空に言った。お空は、はぁい、と従って、空に飛び上がった。ああ、いいものを見れた。さとりさまに教えてあげよう。魔理沙がああいうのを探すなら、私も一緒に探して、同じ模様を探してもいいな。お空は楽しく考えながら空を飛んで、地底に帰っていった。


 地底では、お空を探してわたわたしていた、さとりとお燐の二人が、帰ってきたお空を見て、どこ行ってたの、ああ安心した、とよろよろ、お空にすがりついてくずおれた。よくよく見ると、鬼の人とか、蜘蛛の人とか、色んな人を呼んでいた。もう、二人とも、何を慌ててるんだか。

「二人とも、心配しすぎだよ。私は何もないよ。いつも通り。平気。それじゃ、寝るから、それじゃね」

 お空は集まってた人たちをほっぽって、自分の部屋に戻った。鬼の人や蜘蛛の人や嫉妬の人なんかは、なんだよ、何もないのかよ、妬ましいわ、とそれぞれ言い合って、帰ってしまった。それで、お空は自分の部屋で、ぐっすり眠った。


 その夢の中にも、長い布の服を着た、片目の人は来た。心持ち光は抑えめで、どこか哀しげで、何も言わなかった。


 そんな風な顔をされると、困ってしまう。行くべきところへ行く、と太陽は教えてくれた。でも、あんな風にされると、どうしても気になってしまうんだ。
 どうして気になるのだろう、と、お空は考えた。それで、うんうん唸りながら、屋敷の中を行ったり来たりした。私がやるべきことなのかも。でも、何を?
 しばらくして、お空は、さとり様とお燐が、後ろをついてきてるのが分かった。廊下の奥から、顔をちょっと覗かせて。「どうしたのかしら。お空ったら。お空ったら」「ほんと、お空、どうしちゃったの。どうしちゃったの」そんな風に言ってるのさえ聞こえてきた。
 放っておくと、いなくなって、それからお燐がお空を呼びに来た。「なあに」「いいから」お燐はお空の手を引いてずんずん進み、さとり様の待っている部屋へ連れて行った。お燐とさとり様は、二人して、いっぱい写真を並べてきた。地獄鴉、それから鴉の人、それから鴉と人の特徴の混じった人。「誰がいいの。誰か、良い人はいないの。ほら、夢の中に出てくるっていう人に似た人とか」ああ、それで、この二人は、私が誰かを求めて、それで夢を見ているんだって思ったんだろう。「もう、違うってば。そういうんじゃないの。鴉の人とか、探したって、困るんだから」ええ、違うの、とお燐は言い、「じゃあどういうことか、ちゃんと言って、お空」とさとり様は言った。どういうことか、って言われると、困っちゃうなあ……。
 ううん、と首を傾げると、二人は困ったように顔を見合わせた。「それにしても、さとり様、分からないんですか。覚りの力で」「ほんとに、分からないのよ。お空にだって分からないことでしょう。だったら、お空の心を覗いても、仕方ないのよ。分からないんだもの……」どうも、さとり様は、自分の分からないことになると、必要以上にばたばたしてしまうらしかった。むしろ、お燐が大変だ大変だと焚きつけていて、さとり様のほうが、振り回されて慌てているのかも知れないけれど……どうでもいいけど、面白いから、いいか。
 お空は、二人だけで話を始めたので、ふらふら部屋を出て、飛んで行ってしまった。そう言えば、どこに行こうと思っていたんだっけ? 目的を特に思い出せなかったお空は、そう言えば神社で物見市みたいになっていたけれど、あれは発掘がどうこう言っていたんだっけな、と思い出して、地底の発掘現場を探して、ふらふら飛んで行った。


 地底の発掘現場を見つけて近寄ると、鬼の人達がたくさんいて、つるはしやらスコップで、地面を叩いていた。あたりは空中に吊られた電球が並び、壕のように細長く掘られた穴を照らしていた。土を運ぶ人がいて、地図とにらめっこをしている人もいて、一大事業のような規模だった。
 これで飯を食えるわけではない……のだろう。食べられる人もいるだろうけれど、皆が皆儲けられるわけではない。それでも、何かが隠されていて、掘れば出てくる、となれば、それをせずにはいられないのだろう。お空はなんとなくわくわくした。穴の中で、鬼たちに混じって、作業着姿の魔理沙がつるはしを振っていた。上着は脱いで、腰で結びつけられて、上半身はタンクトップだけを着ていた。

「よう、お空。来たのかい」
「うにゅ。やってるね、魔理沙」

 熱そうだなあ、と、お空は思った。あたりにはむっとする熱気がある。身体を動している人達の温度があるのだ。魔理沙も、汗まみれで、全身を濡らしていた。よっ、と、声をあげて、魔理沙は穴から抜け出た。

「いや、熱い熱い。こりゃ大仕事だなあ、ロクに物も出て来ないのに」
「なんでだろうね?」
「そりゃ、金塊が出てくればお金持ちだ。数年は遊んで暮らせる。そりゃ、目の色も変わるってもんだろ」

 そういうものだろうかな? お空は不思議に思ったりもした。魔理沙の意見は、現実的に過ぎる。

「それで、何をしに来たんだ? そう言えばお前、いいところ教えてくれって言ったのに、教えてくれなかったな。結局自分で調べたよ。どこか知ってるか?」
「知らなーい。私だって、魔理沙から聞いて初めて知ったんだもの。意外と、そういうのって、入ってこないのよ。さとり様が全然興味ないんだもの」

 ふううん、と魔理沙は、興味なさそうに答えた。魔理沙は物売りからお水を買って、道端に座り込んでごくごく飲んだ。人心地つくと、労働の疲れからか、魔理沙はぼうっとして、お空は発掘現場を眺めていた。

「ね、魔理沙。あっちでは何かやってるの?」お空は湖の方でも何かをやっているのを見つけて、指し示した。
「ああ。湖の方でも出るんだよ。湖水の底からな。だが、素潜りをしながら掘るのは大変だ。機械で掘ろうにも、そこまでの技術はないし、色々と難しいんだよ。それで、こっちでやってるのが大半だ。どうだ、お前も掘るか」

 ううん、やんない、と、お空は答えた。なんだかお空には、湖の方が気になるのだった。

「あっちの方もな、だいぶ浅いところは調べ尽くしたらしい。あとは深いところらしいが……ピンポイントでここだ、と分かりゃなあ。まだやりようもあるんだが」

 ふうん、とお空の方が、今度は上の空だった。やれやれ、と、腰を上げて、魔理沙は作業に戻った。つるはしを振るって、何か出て来たら慎重に削るのだ。夢中になっている姿が楽しそうだったので、お空は自分もやってみたくなって、そこらからスコップを借りてきて自分でも掘った。鬼たちが、よ、地霊殿の、いいのは出たか、と声をかけてくれたりして、お空は楽しかった。

「う? 何か出たよ、魔理沙」
「なんだと。見せろ、何だ、これ。分からんなあ。もっと掘ってみろ」

 お空が掘っている地面の下から、何かが頭だけを出していた。お空と魔理沙は慎重に、物を壊さないよう、周りから穴を広げて掘っていった。周りの鬼たちが、二人を囲んで見つめていた。
 やがて穴からは、気味の悪い毛むくじゃらの化け物みたいな塑像が出て来た。なんだこれ、はははは、と、魔理沙とお空は笑い合った。

「なんだか分からんが、どうせ神様の像か何かだろ。金ぴかでもないし、大して価値はないな。どうだ、いるか」
「うん、欲しい。さとり様にあげよう。きっと喜ぶよ」
「喜ぶかあ? そんなもの……」

 気持ちが悪くても、お空は自分で掘り出したもので、なんとなく嬉しくなったのだった。お空は持って帰ると、さとり様とお燐は相変わらず、お空がどこへ行ったのか心配して、わたわたしていた。さすがに、もう誰も呼んではいなかった。

「ああお空。お帰りなさい」
「お空、どこへ行っていたの」
「ちょっと発掘してた」

 これおみやげ、とさとり様に像を渡すと、うわっという顔をした。喜んではいなかったけど、「ありがとう。でも、あんまり外をふらふら出歩くんじゃないわ、お空」と言った。地底から外へ出たわけじゃないのになあ、とお空は少し拗ねて、でもさとり様が受け取ってくれたのが嬉しかった。


 夢の中で、お空は鴉になって、空を飛んでいた。湖の上を旋回していて、お空は、あ、私、湖に来たんだ、と、思った。地底湖に探しに来たんだ。でも、何を? それで、お空は地底湖の中に、金色に光る光を見た。水の中で光を放って、その部分だけが円形に色が変わって見えた。何、これ? 水の中からあの光る人が浮かんできて、鴉は片目の、光る人の胸の上へ留まった。片目の人は、鴉を腕に乗せて、立ち上がり、水面の上へ立った。光は湖底から、湖上へと変わっていた。片目の人は、鴉と顔を見つめ合わせて、何かを囁いた。一言、二言、三言……。何を話しているんだろう?

 それで、お空は目が覚めた。あれ、湖にいたんじゃなかったっけ、私……。あれは夢だったのかな、と、起き上がって着替えている時に、ぼんやり思った。湖に行こう。湖が光っているなら、それを見に行こう、と、お空は思った。どうしてか、お空の中の何かが、どきどきと動いている。

 湖上を旋回して飛んでいるお空の姿は、魔理沙たちのいる発掘現場からでも見えた。お空は、真っ暗なところにいると、ほんの少し微光を出して光るのだ。ぐるぐる、ぐるぐる飛んでいるので、何をやってるんだあれは、と、鬼たちは不思議そうに見上げた。魔理沙は作業が一段落すると、箒を拾い上げて、宙に昇った。闇の中を飛ぶのは不気味だし、気味が悪い。だけど、火照った身体には当たる風が心地よかった。魔理沙は速度を調節しながら、お空に近付いた。

「どうした、お空。何か探してるのか」
「あ、魔理沙。光らないの、湖が光ってたのに」
「湖が光ってた? 金か! そんなに光ってたってことは、金塊だな?」
「違うよぉ」

 魔理沙は空中に光を生み出した。対空し、しばらくそこで発光を続ける魔法の瓶である。そして、自分にも魔法をかけて、湖中へ飛び込んでいった。周囲に力場を発生させ、強引に水を弾く魔法だ。だけど、水深が深くなればなるほど、圧力は高まる。力はそう長く保てない。魔理沙はすぐさま、びしょ濡れになって上がってきた。

「お空、コノヤロウ、何もないじゃないか。びしょ濡れだよ、ああもう……」
「だから、違うってば……」
「ええい。まあ、この辺りに何かあるんだな? よおし、調べるぞ。ありがとよ、お空」
「人の話を聞いてってばあ」

 魔理沙は水を振りまきながら、飛んで行ってしまった。それで、お空も目当てのものが見つからなくて、くたびれてしまって、湖上を離れて、魔理沙について行った。
 魔理沙はさっそく、金塊があるらしい、湖の底だ、湖の底をどう掘るか? という話を始めた。机が用意され、図面が引っ張り出された。魔理沙と鬼たちはああでもないこうでもないと言い合いを始めた。橋を渡す。対岸までどれだけあると思ってるんだ。深さも分からん。埋め立てるのはどうだ? いっそ、水を流してしまうとか。水中服の開発だよ。河童どもの捜索隊を組むのはどうだ。人が集まって、騒がしくなってきた。お空はそういう、パワーの塊というか、熱意そのものみたいな空気は、嫌いじゃなかった。でもなんとなく上の空だった。
 湖の底は光らなかった。あれは、やっぱり、夢だということだ。あの人は誰なのだろう? お空はやっぱりあの人のことを考えると、ぼうっとしてしまうのだった。

「ああ、まとまらん。一度帰って出直しだ。お空、お前も来い」
「うにゅ? なんで? 別に行く必要なくない?」
「いま思い出したが、お前にも伝えることがあったんだ。あの石版のことだよ。前、調べておくって言っただろ? 調べたんだよ。教えてやるから、来い」

 ううん。まあいいか。湖は光らなかった。あの石版は面白そうだったし、ついて行ったら、気分転換になるかもしれない。お空は気分の向くまま、うん行く行くと、魔理沙について飛んで行った。


「おい。霊夢、茶だ、茶をくれ。何。ない? 馬鹿なことを言うんじゃない。ああそう。じゃあ教えてやらないぞ。面白いことができそうなのにな。そうそう、素直に聞いときゃいいんだ。これだ。地図を見ろ、ここにどうやら金塊が埋まってる。これを掘り出せたら大金持ちだぞ。ふふん。どうだ、見直したか? じゃ、茶だ。それから、意見をくれよ。こういうのは、一人で考えているのより、素人の意見が突破口になったりするもんだ。ほら、ほら。さっさとするんだよ……」

 あんな上っから物言いをして、嫌われたりしないのかなあ。石版を眺めながら、そういう風にお空は思ったけど、最初は興味なさそうだった霊夢も途中から乗り気になって、「きゃあ、金塊。どうしよう。壊れっぱなしのちゃぶ台の脚も治せるわ。お茶漬けの袋が50袋は買えちゃう。ああ、どうしよう。何に使おうかしら」などと楽しそうだし。でも、楽しそうなのはいいことだ。楽しくなくたって、楽しそうにしてるだけで、なんとなくうきうきしてくるものだ。

「それで、この石版は何なのさ?」
「ああ。忘れてた」

 石版を眺めながら、魔理沙に声をかけると、魔理沙はポケットからぼろぼろのメモ帳を取り出した。ぱらぱら、ページをめくって、当たりを引き出す。

「有翼太陽円盤。分かるか? 翼があって、太陽で、円盤ってことだ(そのまんまじゃない)うるせえ。いいか、これは太陽への信仰のモチーフなんだ。一説じゃ日食時の太陽コロナの光が、太陽を覆う光の翼になったことが……云々……まあどうでもいい。ギリシャなんかでも使われたモチーフなんだが、大本はこれ、この石版と同じ時代、古代エジプトだ」

 ホルス神、という名前を、お空は初めて聞いた。

「エジプト神話にはホルス神という神様がいる。色々説はあるが、父親を殺されたために、片目を戦いで失いながら、復讐を遂げて王になった。その目は、再び天から授けられて、万物を見る目として復活するんだな。これがエジプト神話で言うウジャトの目、死者の蘇生の護符ともなるわけだ。人の目と天の目、一説には太陽と月の両方を持つ目、上空から見下ろす天そのものの神様なわけだ」

 お空は石版を見上げた。最も高いところに、有翼太陽円盤のモチーフがある。ああ、ここ、ここ。これがウジャトの目だよ。魔理沙は石版を指差して何やら解説を続けているが、お空の耳には入らなかった。お空は伸び上がって、太陽円盤を覗いた。

「八咫烏も太陽から下りてくる神様の使い。似てるわね。あんたとそれ」
「ああ、そういうことなのか? お空、随分それにご執心だもんな。だけど、それはお前とは違うよ。お空は鴉だろう? 確かに太陽と翼、モチーフは似てるが、それは隼だ。ホルス神は隼の神様だからな」

 あの人がいる、と、お空は思った。それは確信に近い感情だった。太陽が昇り、沈んでゆくように、太陽が恵みをくれるから、太陽があるうちはそれを信じていられるように、お空は直感で存在を感じ取った。あるべきものはあるべきところに。この円盤はホルス神だ。あの人はホルス神という異国の神様だ。だとすれば、あの人が求めているのは、お空ではなくて、お空の胸の中に眠る、八咫烏の力なのだ。内側にあるものが引き合って、助け出される時を待っているのだ。ホルス神はお空を求めている。助け出されるのを、待っている。


 いや、それは違う、と、ホルス神が否定をする。
 私はこのまま眠っていてもよい。だが、君の中に眠る力が、私を求めている。私を得れば、更に強い力を得ることができる。君が求めるならば、水の底から蘇り、君に力を与えることにしよう。
 ええと、じゃあ、出て来たくないの?
 自分でもよく分からない。存在しているのは確かなのだ。だが、私を求める声はもうない。私は遺物に過ぎない。私の力を感じることができるのは君だけだ。力が必要なのではないか? 君が私を求めているのではないか?
 力なんていらない。八咫烏の力だっていらないくらいだよ。そんなのなくたって、お燐や、さとり様とは一緒にいられる。でも、八咫烏は友達だから、一緒にいる。ホルスも友達になる?

 ……一瞬、ホルス神……片目の人が、小首を傾げたように思った。空気がちょっと弛緩した。ホルス神が困ったような顔をした……。

 友達??

 あ、ちょっとお空、間違えた気がする……。


「ねえ、ねえ、お空。誰と喋ってんの?」

 霊夢はお空の肩をバンバン叩いて、お空を石版から引っぺがした。お空は猫騙しをくらったみたいに、目をしばたかせ、辺りをきょろきょろ見、霊夢を見た。

「あ、あれ? 片目の人は?」
「そんなのいないわよ。石版触ったまま固まっちゃってさ。壊しちゃうかと思った。離れろ、離れろ」

 うううん、と、お空は考えた。霊夢と魔理沙はちょっと距離を置いて、お空を見て、ひそひそ相談をしている。ねえ、なんか変なことになってるんじゃないの。ううん……。困るわよ、こんなところで爆発でもされたら……。さっさと地底に持って帰りなさいよ。ああ、それがいい、そうしよう……。

「地底に行く!」
「うわ! びっくりした。地底に行くの? それは良かった、ほらほらさっさと行きなさい。金塊出て来たらちょうだいね」
「うん! じゃあまたね、霊夢」
「私は明日あたりにいくことにするぜ。それまで用意だ、用意」
「あんたは一緒に行って爆発でもされたら怖いだけでしょ」
「そういうことだ」

 霊夢と魔理沙は、何やら喋っていたけれど、お空には聞こえていなかったし、聞こえていても気にしなかっただろう。何しろ、するべきことが分かったのだ。太陽が昇るように、太陽を信じるように。お空はお空のするべきことが、目の前に、光の道のように見えている。


 お空は再び湖上にいた。鬼たちがさっきと同じように、湖の上のお空を見つめている。お空には見えない。夢の中で見たような光は、お空には見えない。だけど、心の目で見れば分かる。お空の中の八咫烏の目が、ホルスの姿を捉えている。湖上が光る。湖底に沈む光る何かで、湖上に広がる円形の光が見える。
 お空は目を開くと、羽根をたたみ、湖中へ向かって飛び込んだ。潜る時に躊躇はいらない。やり方は知っている。さっき魔理沙がやっていたように、自分に力場を発生させる。ただし、パワーは魔理沙とは段違いだ。力はいらないと言ったけど、こんな風にも役に立つなんて。水中の圧力をはねのけて、お空は水中へと進む。進む。猛進する。湖底に指先が触り。湖底の砂の中へ、指先をどんどん沈めてゆく。土を吹き飛ばし、砂を巻き上げて……。
 何かに指が触れた。石版だ。有翼太陽の円盤。ただそれだけが描かれた、巨大な石版。お空の指が触れた瞬間、それは独り手に浮き上がった。光り輝くそれが地上に向かって吹き上がって、飛んで行った。石版は割れて、光を振りまいた。水中はまばゆい光に包まれた。地底の夜明け。闇の中の昼間。太陽の誕生。光は地上へ向かって飛んで行き、石版の破片は湖底へと再び沈んでいった。
 お空は思わず、力場を解除してしまった。勢い良く水が流れ込む。石版に触れた瞬間、光の中で、お空の手の平の中には、何かがあった。何かは分からなかったけれど、お空はそれをしっかり握り締めたまま、頑張って泳いだ。何しろ泳ぐことなんかない。溺れないことしか考えられなかった。泳いで、泳いで、泳いだ。必死に腕をかいて、水上へ泳ぎ出た。
 ぜは、は、は。足を動かし、片手で掻きながら、握った何かを見た。それは、黄金のウジャトだった。充分そうな値打ち物だ。だけど、そういうことじゃない。
 光は消えた。特に力も感じない。ホルス神のいる感じはしない。だけど、お空の手の中にウジャトは残った。


 それから……地底には、ぼろを着た見知らぬ老人が現れたそうだ。

「地上じゃあ、神様のことなんか、誰も忘れちまった。権力は神様から、政府のものになった。政府は倒れて民衆が支配しようと画策している。世界は荒れている。神様なんてどこにもいないんだァ」

 ぼろを着た老人のことは、誰も知らないまま、老人はどこかへ去って行った。

 結局、金塊なんて出なくって、魔理沙はめっちゃ怒った。「だから違うって言ったのにぃ」と、お空は困ってしまった。
 エジプトのホルス神がどこへ行ったのかは全然分からなかった。遺物にこもった力の残り香のようなものが、お空にあんなものを見させたのかもしれない。地底の光は、地底中で話題になっただけじゃなく、地上まで上がって、空へと消えていったという。打ち上がった光は、真昼でもまばゆく輝いて見えたそうだ。
 それで、お空はさとり様に頼んで、地霊殿の端っこに、博物用のスペースを作ってもらった。お金にはならなくても、文化的に価値のありそうなものや、見た目のきれいなものを集めて、そこに飾ることにした。さとり様にあげた気持ちの悪い、魔理沙が言うにはスパゲッティモンスターの神像じゃないかということらしいが、そういうのも置いた。
 ガラスケースの中でも、見てもらえない土の中よりはましだろう、とお空は思ったのだ。それで、スペースの中央、一番目立つところに、例の黄金のウジャトを置いた。
 お空は、ホルス神を助け出して、どうしようと思ったのだろう。ホルス神は何も言わない。でも、したいようにさせよう、と、お空は思ったのだ。何の因果かここに来たんだから、地上にも行かず、ここに置いておけばいい。ホルス神ほどの強い力を持った品物なら、自然とあるべきところへ行くだろう。ずっとここにいるならば、したいようにすれば良いのだ。

 そういうわけで、お空の夢の中に片目の人、ホルス神は出なくなる。お空も普段通りに戻って、普段と変わらず日々を過ごすようになる。
 元々、力をこれ以上の力なんていらない。ありがた迷惑なのだ。
 ……でも、男の人に何かをもらうのは、嬉しい。お空は人知れず、時々、ウジャトを眺めては、赤くなるのだった。

 山岸涼子先生のツタンカーメンを途中で読んだので露骨に影響が出てます
 あと、有翼日輪の謎って本を資料に読んだんですけど、あんまり創作には使いませんでした 途中で日食のコロナがどうこうって部分だけに使ってます

 有翼日輪のモチーフがお空ちゃんそのものっていうのはいつかネタにしたかったので、ノルマ達成って感じです 興味のある方は一度検索して画像を見てみてください
RingGing
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コメント



0.410簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
お空らしいというかなんというか
12.90とーなす削除
面白かったです。
おくう目線ということもあり、やや読みづらく感じるところもありましたが……。