Coolier - 新生・東方創想話

菫子実体化大作戦

2015/10/28 23:57:22
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「つまりな、何故神様は実体を持っているのか、という話なんだ」
「は?」
 山際に月が大きい黄昏時。
 家に帰って早々にベッドに入り幻想郷にやってきた私に対して、魔理沙さんが唐突に話しかけてきた。
 ので、思わず胡乱な返事をしてしまった。
 これはもしやと思って後ろを向くと、右後ろには霊夢さん。いつものように博麗神社の縁側に正座しており、相も変わらず姿勢が良い。私の出現に驚いたのか、少し眉を上げた。
「あら、菫子。いらっしゃい」
「どうも霊夢さんこんばんわ。魔理沙さんも。お話の途中ですいません」
「全くだ」
 魔理沙さんはやれやれだぜ、と首を振る。そのままこちらへ歩いてきて通り過ぎ、霊夢さんの右手側へ座った。
 どうやら彼女も神社にやってきたばかりだったらしい。
「……お茶を入れてくるわ」
 そういった霊夢さんは急須の乗ったお盆を持ち、足を揃えた状態から腰を浮かし爪先を床につけたかと思うとそこから淀みなく立ち上がった。音もなく障子を開け、建物奥の暗がりへと消えていく。
 魔理沙さんは鼠を捕った猫のような笑みを浮かべたまま座っている。
 どうにも手持無沙汰になって、とりあえず私も縁側に座ることにした。霊夢さんの分だけ間を空ける。
 何も話さないまま傍にいるのはなんとなく気まずいので、とりあえず口を開いた。
「あの、魔理沙さん。さっき話し始めてたことってなんだったんですか」
 そう問うと、魔理沙さんは笑みを深くした。
「まあ待て。霊夢が戻ってきたら話そうじゃないか。それまでは昨日の会話を思い出しているといい」
「はあ……」
 昨日の会話。昨日の会話か。なんだったけか。
 幻想郷の人たちと仲良くなるためにはどうしたらいいのかなあ、だなんて悩んだこともあったけれど、くよくよしてても仕方がないと思い直して会う人会う人に積極的に話しかけてみることにした。
 そしたら、こちらの人たちは想像以上に気安かった。
 なにしろその辺を歩いていて出会う少女たちの半分以上は妖怪なのだ。生物学的に言う所の人は人里以外にはほとんどいないらしい。そして妖怪少女たちはほとんどが長く生きているからか、基本的に好奇心旺盛で目新しいものを歓迎し、結果として私は随分色んな人と知り合うことが出来た。加えて年の功と言うべきか、口を滑らせて無礼な発言をしてしまったとしても、大袈裟に悲しんで見せたり、あるいは軽快に怒ってみせたりとおどけて受け流してくれるので、安心して言葉を口に出せるのだ。
 そんなようなことを霊夢さんと魔理沙さんに話したような気がする。その日あったことを報告する、だなんて幼子のような行為をしてしまうのは、やはりそうしたことを聞いてくれる人がいるということが何より安心できるからなのだろう。それに、幻想郷でのことを現実の人に言うわけにもいかないし。
 ともあれ、わりと色んな人と仲良くなることが出来た、という話をしたはずだ。それがさっきの言葉とどう関係しているのだろうか?
「その調子だとまだよくわかっていないみたいだな」
「お恥ずかしながら。神様の話なんてしたかしら?」
「ああ、いや、そっちじゃない。実体の方が主眼だ。ほら言ってたろう。傘のお化けと仲良くなることが出来たけれど、握手を求められて困ったとかどうとか」
「ああ……」
 そういえばそんなこともあった。肝試しとばかりにお寺の傍のお墓へ行ったところ、暗がりから急に飛び出してきたお化けがいたのだ。咄嗟のことで思い切りサイコキネシスで弾き飛ばしてしまったのはご愛敬。彼女は打たれ強いらしく、多少痛がっていただけでそんなにダメージを負った様子もなかったのが幸いである。そのまま話を始めたが、お化けにしては随分と人懐っこく、あっと言う間にボディランゲージまで求められてしまったのだ。当然こちらは夢の中の身であるからして触れられることなく、互いに気まずくなって話を打ち切りすごすごと別れた、という話。
「その話を聞いて以降、家に帰ってから、どうにも違和感が拭えなかったんだ。なあ霊夢よ。お前も妙だと思ったんじゃないか?」
 いつの間にか湯呑を二つと急須を置いたお盆を持って、霊夢さんが隣に座った。
 衣擦れの音だけが静かに耳をくすぐる。
 魔理沙さんに湯呑を渡し、それから私にも渡そうとした。
 けれど残念ながら私は夢の中なので触れられない。
 ああ、と霊夢さんが声を上げたので、少しの申し訳なさを含んだままありがとうございますと口にする。
 そうする間に、霊夢さんは湯呑と急須を載せたままのお盆を置き、私たちの間に座った。
 どうやったらこんなにも静かに動けるのだろうか。
 霊夢さんはゆっくり魔理沙さんの方を向き、不機嫌そうな顔で言った。
「回りくどい」
「ははは、手厳しいな。まあいいさ」
 魔理沙さんは一口お茶を啜ると、滑らかに語り始めた。
「菫子は言うじゃないか。こちらに来るのは夢の中だけなのだから、こちらのものに触ることができないと。でも本当にそうなのか、実は触ることが出来るんじゃないか、ということだよ」
「え、でもこの通り、触ろうとしてもすり抜けるわよ」
 私は隣の霊夢さんの腕を掴むふりをしたが、当然すかすかと空を掴むばかりだった。先程湯呑を受け取れなかったのも然り。
「そもそもな、それがおかしいんだ。本当に何にも触れられないなら、そうやって縁側に座ることも出来ないはずだろう。そして何より、見えているのに触れないなんて、そんなこと普通あるはずがないんだ。見えているのならそれはそこにいるってことだからな。そこにいるのに触れないなんてことはない。普通はな」
 ずずっと一口。また話し出す。
「まあそこの反則巫女は時々弾をすり抜けたりするがその程度で、ここでは幽霊だって神様だって何もかもがちゃんと体を持っている。奴らもがんばれば物をすり抜けられるかもしれないが、それにしたって体があるのが前提だ。亡霊姫なんてお前は本当に幽霊かと疑わしくなるくらいによく食べる。そうして見ると、体があるのが常態で、ないのは何らかの原因がある、と考えられるわけだ」
 霊夢さんは無言である。私も特に言えることはないので、そのまま黙っていた。
「ここで、最初の話に戻ってくる。つまり、何故神様は実体を持っているのか、という話だ。そしてこれは当然のように答えられる。それが当然だからだ。言い換えれば、誰も神様に実体があることを疑っていないからだ。その神様自身を含めてな。なにせここは幻想郷。豊穣の神がそこらの田んぼで収穫を手伝っているような世界なのだから」
 さっきからちょこちょこ挟まれる例示が知らない人ばかりなので、どうにもこうにもわかり辛い。わかり辛いし、するすると頷くことは出来ない。なにせ現に触れられないのだ。それに、見えていても触れないものもあるだろう。空気とか。ああいや、空気は逆か。見えないけれど存在しているものだ。一応触れなくもないし。あれ、そう考えると、見えているのに触れないものってそんなにないのかな。蜃気楼、とか? でも蜃気楼は遠くてそもそも触れるようなものじゃないなあ。
「そうなると、その触れない原因とは何か、という話になる。まあこれは考えたって必ずしも答えが見付かるわけじゃない。確かめようがないしな。でも推測は出来る。どうして菫子は幻想郷のものに触ることが出来ないのか」
 見えているけれど触れないもの。貧相な想像力では、一つしか思い浮かばなかった。3D映画くらいなものである。映画扱いとは、幻想郷の人たちに申し訳ないなあと思う。
 その考えを知ってか知らずか、目の前に指が突き付けられる。魔理沙さんは悠然と笑って言った。
「お前がここを、夢の中だと思っているからだ。菫子よ。お前が幻想郷での自分の体を信じていないからこそ、お前は幻想郷のものに触れないんだ」
 その言葉を素直に聞き入れることが出来ないのは、それが多少なりとも図星をついていたからだろうか。
「魔理沙さん。それはそうかもしれないけど、でもだからってそんなこと言われたってどうしようもないわよ。どうやったって触れないものは触れないんだし」
 当たり前のことを一々指摘されれば不貞腐れもしよう。
 ついでに風を装ってサイコキネシスで魔理沙さんの帽子を弾いてみた。些細なる意趣返しである。
 魔理沙さんはふわりと頭を離れた帽子を危なげなく掴むと、そのまま膝に乗せた。
「おいおい菫子。まさかお前、この魔理沙さまが現状を指摘するだけで話を終わらせるとでも思ったのか? とんでもない。もちろん解決策を考えてきたに決まっているだろう!」
 どや顔がむかつくので、ろくでもないことを言い出したらサイコキネシスで吹っ飛ばそうと思った。
 魔理沙さんは両手を広げて、声も高らかに謳い上げた。
「体がないなら作ればいい! お前のサイコキネシスは、一体何のためにあるんだ!」
「は!?」
「つまりだな。サイコキネシスというのはつまり何かを押す力とも言えるわけじゃないか。体に触れられたらそこを柔らかく押し返すようにすれば、触っている相手にとっては菫子に触れているようなものだろう? あとはそれを続けて、自分でも意識しないくらいにそれが出来るようになれば、それはもう体があるのと同じようなものになるって寸法だよ。案外そこまでやれば、自分でも幻想郷に体ごと来ているような勘違いをして、本当に実体ごと来られるようになってるかもしれないぜ」
「いやいやいや、簡単そうに言うけど、そんな繊細なレベルでサイコキネシスを操るのってすっごい集中しなきゃいけないのよ!? そんなこと上手くいくわけないじゃない!」
「お、もしかして菫子よ、出来ないかもしれないからって逃げ腰になってるんじゃないのか? 最強無敵の女子高生ってのはお飾りか? 手品代わりが関の山なのか?」
「はああああ!? 何言ってるのよ出来るわよやってやろうじゃないの!!」
「おうよその意気だ! やってやれないことはないってな!」
 だめだ。どうにもこちらに来てから、売られた喧嘩を漏れなく買い占める姿勢が身に付いてしまった。頭では無理でしょ、だなんて思っているのに口が勝手に反応してしまっている。私もすっかり幻想郷に毒されてしまったようだ。
 売り言葉に買い言葉で叫ぶ私と魔理沙さんの間に挟まれ、霊夢さんは耳を押さえて眉間に皺を寄せていた。
 そのまま流れるように両手を広げる。
 私と魔理沙さんの目の前に狐の形の手が置かれた、と見る間に強烈なでこぴんが見舞われた。
 目の前に星が散る。
「いたた……って、え、今霊夢さん触りましたよね?」
 目を白黒させていると、霊夢さんはなんでもないような顔で言い放った。
「弾幕が当たるんだから触れるに決まってるでしょ。何をぐだぐだ言ってるんだか」
 言われてみれば確かに道理だ。……道理なのか?
「でも自分から触ろうとしても上手くいかなくてですね……」
「気合が足りない」
「ええー……」
 こうまで断言されて、それでもそう言われればそうかもしれない、と思ってしまうのは、やはり口にしたのが霊夢さんだからなのだろう。
 幻想郷では身体よりも精神が重視される、とは誰が言っていたのだったか。
 その言葉を信じるのならば、やはり霊夢さんが正しいのだろうなあ、とも思った。
「今後とも精進させていただきます……」
 冗談めかして言うと、うむ、と霊夢さんが頷いた。その奥で、魔理沙さんがくすくすと笑っていた。
 当面の目標は、あのにやけた頭を一発はたいてやることである。
そのあとなんだかんだ試している内によくわかんないけど触れるようになりました、というお話。

深秘録の霊夢さんルートのエンディングでは触れないっぽかったのに対戦で霊夢さんに負けると「夢の中でも肉体ごとこっちに来てるのねぇ」って言われるし、なにより菫子ちゃんが物理的接触出来る方が夢が広がるなあと思った結果がこれです。
無から力(≒エネルギー)を生み出しているわけだしサイコキネシスは実際万能。

あと紅楼夢はD22aにて小説を頒布しているのでご興味の湧いた方は是非。
阿吹
http://twitter.com/hikinikuya
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コメント



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3.80名前が無い程度の能力削除
サイコキネシスと気合があれば何でもできる
だって女子高生だもの