Coolier - 新生・東方創想話

今度、生まれるなら…

2015/10/24 14:49:14
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※本作品は【ほうじ茶】の描く幻想郷とは世界観を共有しておりません。予めご了承ください。





 ある熱帯魚の水槽に二匹の愛しあっているグッピーがいた。二匹は幸福だった、少なくとも……
 かれらの幸福は狭い50cm四方のなま温い水の中いっぱいに充たされているようにみえた。
 二匹は愛の巣を作ろうと相談した。そして、ある日。契りを結んだのである。
 だが……その時、心無い人間がエサ入れにタバコの吸いがらをおとしたのである。
 ニコチンはみるみるうちに水の中にとけていった。
 グッピーたちはひとたまりも無かった。あの二匹もあっというまに体じゅうを侵された。
 死の直前まで二匹は生きる望みをすてなかった。そして、最期がきたとき、雄がいった――

「生まれかわるなら、自由のきかない水槽の中ではなく……人間の恋人同志に生まれて、ひろびろとした世界で愛しあおう……」と……




 私たちはその後、何度も何度も生まれ変わった。人間として、はたまた広い夜空にきらめく星々で……だけど、一時の『幸福』は必ず一瞬のうちに失われ、私たちが本当の幸福を得られることは、無かった。
 そして、再び決意する。私たちが一度は捨てたあの青い星の……空気の底で生きていこう、と。今度こそ、幸せになるために――








「これでよし、と」
 目の前にある厳重な封印を施された一抱えはあろう大きさの壺を暗闇の深淵目掛けて押しやる導師服姿の女性。そう時間もかからずに先客の壺とぶつかる音が聞こえてくる。外は寒波の厳しい冬真っ只中であり、妖怪の賢者こと八雲紫は冬眠に就いていた――表面上は。紫ほどの妖力を持つ妖怪なら冬眠など必要ない。では、何のために?
 紫は冬眠と称して布団の中に入ると、自身の夢と現の境界を弄る。冬眠している自分を夢、夢の中にいる自分を現実としているのだ。そうして、誰にも干渉されず、自身の力を余す所なく発揮できる世界――スキマの深淵の中で、紫は人知れず『作業』を行うのだった。
 だが、紫とて全知全能の存在ではない。これまで同様の作業を続けてきたが、どうやら『その時』が近づいているようだ。先ほどの音がそれを物語っている。
 紫は、誰にも届かぬ溜息を吐く。その目には憂いの色が浮かべられていた。




 転生の度に彼女は言う。今度こそ幸せになれますように、と。
 だけど、私には分かっていた。ただ転生しただけでは、永久に私たちは幸せを享受することができないことを。だから、私は転生するにあたって、彼女に一つの希望を伝えた――








 外には夜の内に降った雪が積もっている。春になっても寒く感じるのはそのせいだった。だが、そこに夕焼けの光が一面の雪に差し込むことで神社の境内に幻想的な景観を作り上げている。雪だるまの一つや二つが簡単に作れそうな量だったが、そこには誰の姿も無かった。
「う~、寒っ」
 ブルブル震えながら炬燵に入って肩に半纏を羽織っている博霊霊夢は、熱々のお茶の入った湯呑を両手で握ることで少しでも温まろうとしていた。
「こんな日は鍋でも食べたいけど……う~ん、今の備蓄だと鍋じゃなくて水団(すいとん)の小麦粉抜きができそうね」
 それはもはや水団では無い。ひもじさを堪えて空っぽの胃袋に出涸らしのお茶を入れる霊夢。それと同時に、縁側に通じる障子が開け放たれ、部屋に冷たい風が入り込んできた。
「おーす! 霊夢、差し入れ持ってきたぜ」
 両手で大きな籠を抱えながら足で障子を開け放った少女、霧雨魔理沙は自慢げにそれを霊夢の目の前に置いた。だが、そんな彼女に霊夢はジト目を向けている。
「ちょっと、魔理沙。まずはそこ閉めなさいよ。寒いじゃない……クシュッ」
「おっと、悪いな」
 余りの寒さに腕も炬燵に入れて縮こまっている霊夢に言われて障子を閉めて勝手に炬燵に入り込んでくる魔理沙。防寒具を着ているが、帽子以外は室内でも脱ぐつもりはないらしい。少し寒さの和らいできた霊夢は、改めて魔理沙の持ってきた両腕サイズの籠の中を覗いてみた。そこにはどこで見つけてきたのか、瑞々しい山菜と茸が所狭しに詰め込まれていた。何羽かの兎も下の方に入っている。目を輝かせる霊夢。魔理沙は自慢げな顔を向けている。
「どうだ、霊夢。これで一杯やろうぜ」
「そうね、鍋が食べたいと思っていたから丁度いいわ。ありがとね」
「おっ、そりゃ奇遇だな。もしかして、前世からの宿縁って奴か?」
「バカね、そんなわけないじゃない」
 笑いながら軽口でそう返した霊夢は、しんどそうに炬燵から出て、寒さに震える体を擦りながら材料を手に台所に向かうのだった。


 しばらくして……
「あっ、こら! 魔理沙、こっちのお肉ばっかり食べないでよ! そっちに山菜が山のように残ってるじゃない」
「モグモグ、早い者勝ちだぜ」
「あー、もうっ だったら、私も片っ端からお肉食べてやるわ! えいっ」
「そうツンツンするなって。おっ、柔らかいほっぺ。こりゃうまそうだぜ」
 箸で炬燵の右手に座る霊夢の頬を摘まむようにして軽く突っつく魔理沙。霊夢の顔は途端に赤くなる。鍋の熱さだけのせいではなさそうだ。
「な、なにすんのよっ」
「はふはふ……お、そっちのキノコも絶品だぜ」
「えっ、ホント? もぐもぐ……わっ、おいしい!」
 外に負けぬ熱気の中、夜は更けていく。霊夢は、この一時の幸せを心から噛みしめていた。




 希望……それは、愛する彼女を現代に留めて、私だけ先に転生すること。彼女は「また始末書を書かなくては」と、冗談めかしながらも快く私の申し出を受け入れてくれた。
 時間さえあれば、彼女を迎え入れるための『楽園』が作れる……当時の私は、そう信じてやまなかった――








「あらあら、手が止まっているわよ」
 紫はハッとして目の前にいる女性に視線を向ける。そこには、満面の笑みで懐石料理を頬張っている幽々子の姿があった。
 少し離れた所には、妖夢と橙が同じ掛布団の中で眠っている。子供にはもう遅い時間帯だ。また、式神の藍は、紫のすぐそばで顔面蒼白となって倒れ伏していた。先ほどまで二人がかりで吞まされていたことと関係があるに違いない。
「幽々子? やだわ。私、少し呆けていたみたいね」
「紫らしくないわ」
「ところで、何の話だっけ?」
 着物の端を口元に当ててずっとコロコロと笑っていた幽々子だったが、紫がそう聞き返すと、袂から扇子を取り出して顔の半分を優雅に覆い隠す。相手に真意を悟られまい、とする時の癖だ。
「いや、ちょっとね。紫の力が最近衰えてきているなあ、って」
「……なぜ、そう思うのかしら?」
 幽々子の思いがけの無い言葉に絶句する紫。動揺を隠すように質問で返すことしかできなかった。
「あなたが初めて紅白の巫女と戦った時のこと、竹林の月人が起こした異変の際にあなたともあろう者が態々(わざわざ)彼女の助力を求めたこと……これらの判断材料があれば、私にだって簡単に察することができるわ。紫にはもう、かつての力は残されていないことが、ね」
 そこまで言った幽々子に、紫は彼女に一度も見せたことの無い険しい表情を向ける。
「……幽々子、このことは――」
「そう怖い顔をしないの。分かっているわ。あなたは十分に頑張ってくれた。もう無理しなくていいのよ。でも……」
 扇を閉じ、再びいつものほんわかした笑みを浮かべる幽々子。一度言葉を切った彼女は、立ち上がるようにしてふよふよと妖夢のすぐそばに近寄ると膝をついて彼女の銀髪を撫でながら続ける。
「この子のことを考えると、ね」
 相変わらず優しい笑みを浮かべている幽々子。眠っていながらもくすぐったそうな妖夢。そんな二人から目を逸らした紫は、立ち上がってスキマを開くと、そこへ逃げるようにして身を投じるのだった。
 幽々子は、その後ろ姿を、愛する友人の背を、ただ黙って見つめることしかできなかった。




 時は流れに流れて近代。私たちの楽園はもう完成していた。小さな箱庭のようだけど、これまでのように誰かに与えられたものではない。私が、自分の力で作り上げたものだ。後は彼女がやってくるのを待つだけ。
 どれくらい待ち続けただろうか? 彼女はこの世界に――








「ふぅ、酔いを醒ますにはこれが一番ね」
 霊夢は半纏を羽織って縁側に出ていた。夜空には満天の星空と白く輝く満月が、地上には博霊神社自慢の桜の木が咲き誇っている。まさに絶好の夜桜日和だった。
 あの後、魔理沙を帰した霊夢は、中途半端に酔ってしまったのか、なかなか寝付けず、厠の帰りに縁側からふと外を覗いてその景色に心奪われて今に至る。
「こんばんは、元気にしているかしら?」
 背後に開かれたスキマから紫が姿を現す。
「あら、スキマババァじゃない」
「ひどい言いようねぇ。紫お姉様って呼んで欲しいわ」
「だれが」
 軽口を交わして落ち込むそぶりを見せる紫。霊夢は気付かなかったが、その瞳の奥には胡散臭さとはかけ離れた哀愁の色が漂っていた。
「そんなことより、ほら。一杯どう? こんな絶景、見逃す手は無いわ」
 気を取り直したのか、再び胡散臭い笑顔を浮かべる紫は、スッ、と指先で開いた小さなスキマから片手サイズの酒壺と二つの御猪口を取り出す。
「え~、酔いを醒ますつもりだったんだけれどなあ……ま、あんたの言うことも分からなくもないし、こうなったらとことん吞み明かそうかしら。ほら、早く注いで頂戴」
「そうこなくっちゃ♪ ささ、まずは御一献――」
 その後、二人はまだまだ寒さの残る神社の縁側で、少しでも寒さを和らげようとその身を寄り添いながらお酒を酌み交わす。途中、酒の勢いで霊夢を押し倒そうとして、まだ雪の残る縁側の下に蹴落とされる紫。普段通りの光景だ。
 だが、そんな中でも紫はこの一時を、まるで全ての憂いなど無かったかのように、楽しんでいた。




 私は、彼女が生まれてからずっと彼女の成長を見守ってきた。永い時を生きるために『妖怪』として転生した私は気安く彼女の元に行けない。我ながらもどかしい世界を作ってしまったものだ。
 そして、ついに彼女は私の元に来た。長い冬が明け、眠りから覚めたときに。人間として生まれたが為に前世の記憶を失っていた彼女は、私に美しい弾幕を魅せてくれた……








 夏。博霊神社の境内には白い雪が……否、夏に雪は降らない。だが、確かに雪に似た『何か』が、絶え間なくしんしんと降り注いでいた。
「霊夢、寒くない?」
「…………」
 見慣れた縁側で霊夢に膝枕をしながらその痛んだ黒髪を撫で、紫は穏やかな声で語りかける。対する寝間着姿の霊夢は、頬は痩せこけ、言葉を返すこともままならないのか、虚ろな眼差しを庭の散った桜の木に向けながら無言で頷くだけだった。もはや寒さを感じることもできなくなっているらしい。
 神社の鳥居から出れば、そこには一面の焦土が広がっている光景が目に入ってくるだろう。おそらく、幻想郷と出入り口が繋がっている冥界や魔界も同じ状況にあるはずだ。



 事の発端は一週間前に遡る。
 紫は常に外の世界で『幻想』と化した危険物に厳重な封印を施して幻想郷に入らないよう、人知れず苦心してきた。かつて欧州で猛威を振るったペストや天然痘、熱帯地域での脅威、マラリアなどの病原菌も含めて。
 だが、その中でも特に厄介なもの……それは、人間の作りあげる兵器だった。第一次世界大戦で使用された毒ガス兵器、外では旧型として忘れ去られた巨大な鉄のバケモノ、はたまた第二次世界大戦で使られた細菌兵器然り……人間は留まるところを知らないのか、時代が進むにつれて次々と殺傷力のある物を作り上げていった。それこそ、紫の能力では処理しきれない程に。
 現在、スキマの内部は、こうした禁忌の物で飽和状態にある――一度幻想として受け入れてしまったものを外に戻したところで、すぐに幻想郷へ再度入り込んできてしまうのだからスキマに溜め置くことしかできないのだ。
 また、それは同時に、紫の衰弱をも意味していた……そして、ついにその時は訪れた。七十年ほど昔に作られ、たった二発で数十万の人々を惨殺した殺戮兵器――そう、『原子爆弾』が遂に幻想入りしたのだ。優に千を超える規模で。
 核兵器と呼ばれるものは水素爆弾然り、中性子爆弾然り、はたまた大陸をも跨ぐミサイルなど、異常な速度で進化しながら生産されている。それこそ、地球を何度か潰せてしまうほどの量を、だ。
 そんな中で、かつて恐怖の象徴であった始祖、原子爆弾は過去の遺物として追いやられていった。それに加えて、その恐ろしさを自らの身を以て体験した存命の被曝者が少なくなったこと、ネット上でその恐ろしさも知らずに「原爆でも落としてやれ」、「核兵器をもっと生産しよう」といった書き込みが氾濫するようになったこと……これだけの要因があれば十分だった。

 原子爆弾――その脅威――は、外の世界でアポロ計画同様、『幻想』と化したのだ。
 ある日、無縁塚へ一斉に現れた原子爆弾。一日も経たずに、その内の一発が暴発し……その後は連鎖的に被害が広がっていった。それが一週間前――

 幻想郷はひとたまりも無かった。いち早くそれの幻想入りを察知した紫だったが、既にそれを封じる力は残っていない。自分の家族を失ってでも、せめて彼女だけは守ろう。唯一残された一抹の希望に縋る思いの紫は、博麗神社に現れ、残る力の全てを使い果たすことで彼女の作り出せる最高の結界を張ったのだった。
 確かに、その甲斐はあった。博霊神社はきわどい所で大地を蹂躙するエネルギーの嵐から免れることができたのだから。だが、結界の外は……

 紅い悪魔の館は強固な骨組みだけを残して吹き飛び、あれだけ大きかった魔法の森や霧の湖はどこにあったのかすら分からない。人里も大きな屋敷の基部くらいは残っていたが、生存者はまずいない。そのエネルギーは、地表を捲りあげ、地底世界をも余すところなく焼き尽くした。妖怪の山は禿山となり、あれだけいた妖怪の姿はどこにも見ることができない。とある一本の老樹が根こそぎ喪失したことによって冥界の姫もその従者もろとも存在を消した。迷いの竹林も同様、永遠の魔法の解けた永遠亭ごと一面の黒い焼け野原と化していた。二度と誰も迷うことはあるまい……そこを歩ける人間・妖怪の類など、もういないのだから。そう言えば、三人の蓬莱人はどこかで生き返っているのだろうか? だが、それでも事実上、幻想郷は灰燼に帰したのだった。
 せめてもの救いは、一瞬のうちに事が終わったことだろう。紫の愛した箱庭の住人たちは、苦痛を感じる暇も無く焼き尽くされていったのだから……
 大量の核爆発によって空には粉塵が舞い、日の光を遮る。おかげで幻想郷は夏にもかかわらず、真冬に匹敵する寒波に見舞われていた。






 ポツン、と完全な形で残されている幻想郷で唯一の神社、博霊神社。だが、結界をもすり抜ける致死量の放射能がすでに霊夢の肉体を蝕んでいた。二日と経たない内に霊夢の体調は崩れ、一日中寝込む日々が続いている。
 今日はいつもよりも意識がはっきりしているらしく、小さいころから見てきた庭の桜の木を見たい、という彼女の願いを叶えるために紫たちは無理を押して霊夢を縁側に連れ出したのだった。
 時間帯は夜。あの晩のように満月が顔を覗かせているはずだったが、月の光は差し込んではこない。もちろん、桜の木も霊夢同様に大きなダメージを受けたのか、真冬のように葉の一枚も付けていなかった。
 しばらくして、一語一語を絞り出すようにして霊夢は口を開く。
「あの……ね、紫」
「どうしたの、霊夢。苦しい?」
「うう、ん……私ね、思い出したの」
 何を、と聞くまでも無かった。紫は霊夢の顔を覗き込む。霊夢の頬は濡れていた。
「やっと……会えたの、に……なんで、忘れちゃっ……たんだ、ろ……」
「仕方ないわ。霊夢は人間として生まれ変わったんですもの。前世の記憶は削除されてしまったのよ」
「あなた……いえ、紫……ずっと、ありが、と……ね。私、ここに生まれて……し――」
「……霊夢」
 紫の膝にかかる重みが増す。楽園の素敵な巫女、博霊霊夢がその呼びかけに答えることは、二度と無かった。
 冷たくなった霊夢の亡骸をひしと胸に抱きしめ、静かに涙を流す紫。分かっていた、自分に残された時間もあと僅かしかないことを。だからこそ、紫は最期のときが来るまでの間、何度転生しても愛して想い続けてきた霊夢と共に在ろうとしたのだ。ずっと、ずっと……


 夜が明け、弱々しく太陽が粉塵の裂け目から少しだけ顔を覗かせて神社を照らす。そこには、白い灰を被りながらも、寄り添うようにして生を全うした恋人たちの姿があった――




 一度関係を持ってからというものの、私は開き直って積極的に彼女の元へ訪れることにした。時には嫌がる彼女を連れ出して夜の散歩と洒落込んで一緒に異変を解決し、時には肝試しと称して戯れ合い、時には月下の夜桜を見ながら二人きりで吞み明かした……
 短い間だったけれど……私は、本当に幸せだった。だから――








「また、来てしまったのですね」
 二つの霊魂を前に、一段高い所に腰掛けている閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥは悲痛な面持ちでそう口にする。ここは、是非曲直庁内にある法廷である。
「できれば、あなた方には幸せになって欲しかった。だからこそ、できる限りの便宜を図って転生させてきたのですが……残念です」
「いえ、閻魔様には感謝していますわ」
 紫だった霊魂がそう訴えかける。言葉を使えない霊魂である二人は、映姫の閻魔としての力を借りることで念話を使ってやりとりをしていた。
「それにしても、幻想郷が滅びたっていうのに私たち以外にはもういないのね。あんた仕事早すぎじゃない?」
「……これでも二日くらい前までは幻想郷の住人で賑わっていましたよ。ですが、あなた達で最後です。是非曲直庁は幻想郷から隔絶された場所にあるため、公務でこちらに出向いていた私同様にこうして無事ですが、彼岸にいた小町や私の職場は、もう……。ですから、この裁判が終われば私は異動になるでしょうね。蓬莱人達がこれからどうするのか分かりませんが、少なくとも私の担当区域での閻魔の存在は、不要になりますから……」
 周囲を見渡すそぶりをする霊夢だった霊魂の質問に対して静かに答える映姫。連日にわたる裁判でやつれた様子だが、その沈んだ瞳や言葉の端々からも彼女の悲しみが伝わってくる。彼女も、幻想郷を愛する一人だったのだ。
「さて、私の……最後の審判です。八雲紫、博霊霊夢。あなた達はその身に溜まっている罪により浄土へは行けません。ですが、転生することはできます。私の裁量によって、もう一度あなた達の希望を叶えましょう。さあ、あなた達はどうしたいですか?」
 毅然とした態度で真摯な眼差しを二人に向ける映姫。亡者の望みを反映させて転生させるなど、彼女の地位では越権行為なのだが、これは彼女なりの思いやりだった。二人が小さな魚だった時から、何の縁か二人の死後の裁きを毎回行ってきた映姫だからこその。
「お気遣い、ありがとうございます。今度、生まれるなら――」
 一度言葉を切る紫。隣にいる霊夢の霊魂に寄り添うようにして無いはずの手を彼女の肩に掛けるようにする。霊夢も紫にもたれ掛るようにして顔を上げ、愛する者に力強く頷く。彼女の想いを受け取った紫は、霊魂になっていても伝わってくるような晴れやかな面持ちになって、映姫の方を向き直り――


「もう一度、生まれ変わるなら……私たちは、転生を辞退させていただきますわ」


 そう、言ったのだった。映姫は一瞬驚いたかのように目を見張る。なぜなら、閻魔の提示する転生を断るということは、輪廻の鎖を自ら断ち切る、則ち自身の存在を無に帰すことに等しい行為だからだ。その後はどうなるか、永遠に無のままかもしれないし、再び生を受けることができるかもしれない。それとも――
 だが、一瞬の後。映姫は新たな門出を迎える彼女たちを祝福するように、涙の滲む目を閉じ、僅かに頭を俯かせながらも言葉を紡ぐ。悔悟の棒を握り締めるその両手は小刻みに震えていた。
「……分かりました。今度こそ、あなた方が幸せになれますよう……私は、ずっと、祈っています……」
 映姫の言葉を聞き終えると同時に、無数の光の粒子となって一つに混ざり合い、ゆっくりと消滅していく二つの霊魂。


 その行き着く先は――
〈後書き〉
 原案:手塚治虫『ふたりは空気の底に』S49掲載
 ※冒頭の8行は本書より引用

〈ほうじ茶の独り言 20151024〉
 本日発売の東方同人アニメDVDを購入しました(いつになったら永夜抄を買えるのか…)。
 相変わらずの美麗なグラフィックに目を見張るばかりです。
 映姫様かわええ…眼福、眼福
ほうじ茶
Shinryoku-sakura@outlook.jp
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コメント



0.140簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
突っ込み所ばかりでいちいち指摘するのも面倒くさい。
それにしても内容も展開も雑、話に説得力もない。
2.40名前が無い程度の能力削除
グッピーの夫婦と映姫がどうやって知り合ったんだろう。
この夫婦にそういうコネとかつながりなさそうだけど。

もしかして映姫さん喫煙者だったりします?

冗談はさておきこういう悲劇は私個人は好みではないな。
3.無評価名前が無い程度の能力削除
グッピーを飼育する技術がある
その時代から転生紫さん若い
5.20名前が無い程度の能力削除
起結!!
9.無評価ほうじ茶削除
正直申し上げると、こういう結果になることは予想どおりでした。
投稿4作目ということで「4」に因んだ題材に仕上げてみたのがこの作品です。
個人的にも破滅系は心苦しい所があるので、もう滅多なことがない限り出ないでしょう。
さて、敢えて後書きに書かなかった本作品について一言。
原案となった作品を読んでみるとわかりますが、正直自分には幻想郷とどう違うのだろう? と疑問を呈したことから執筆を行いました(お読みいただけると共感されるかと)。
本作の構成としては7パート。1:二匹のグッピー、2:紫の憂鬱、3~5:伏線(や引っかけ)を含んだ日常、6:(唐突すぎる)別離、7:審判…となっています。

それではコメ返しを
1・5さん、言いたいことは分かります。本当は長々と書いてもよかったのですが、どうも伏線をずっと残すことが難しいと悟ったので5さんの申されるとおり、敢えて『起結』式に仕上げてみたものです。なのでこの作りは意図されたものです。それが決していいとは言えませんが。

2さん・3さん
個人的には輪廻は同一の時間軸上にあると考えていません。
何編だったかは覚えていませんが、同氏の『火の鳥』で源平・赤と白に因んだ犬猿の物語をお読みいただくと、時間を遡っての転生シーンがあったのでそれを根拠としています。
つまり、グッピーがいたのは現代。紫はそこから千年近く前の過去に転生し、後に霊夢はグッピーの時代とさほど変わらぬ現代に転生した(この時点で先に生まれていた紫はすでに千歳以上)、ということです。
因みに、そういう想像も面白いですが、映姫=喫煙者ではありません。単に二匹の死後、魂の罪を計っているだけの存在です。
おそらく皆さんが感じるであろう時系列についてはこれでよろしいかと。
ほんぶんでグダグダ語りたくなかったので大幅な説明不足を招きました。今後の改善につなげます。

4さん、コメ無しですが、50点いただきありがとうございます。
十分満足いただけたのか、そこそこ気に入ってもらえたのかは分かりませんが、嬉しく思います。

本作品を書いた目的は予てよりの文体模索はもとより、このような事も幻想郷では起こりかねない、ということを一人でも多くの方に見てもらいたいということです。

今の所、文体についてのご指摘はないので、このまま固めていくことになるでしょう。
なお、今回の苦い作と打って変わって、白と黒の甘いデザートを執筆中ですのでそちらをお待ちください。
ただ、こんな作品でもしっかりコメントを頂けているのはありがたいことです。
もう少し見放さず、自分の拙作にお付き合い下さい。
10.40名前が7つある程度の能力削除
バットエンドは嫌いなので自分で咲夜が時を止めながら核爆弾の爆破スイッチ作って
核爆弾を外の世界に投げて爆破させてハッピーエンドなるのを考えてみたり。
次回は恋愛かな? wktk
バットエンドはしばらくやめてくださいおねがいしますなんでもしますから
11.無評価ほうじ茶削除
おなじみコメ返しです。

名前が7つある程度の能力さん、こちらも読んで下さりありがとうございます。
バッドエンドは当分出す予定はありません。ご安心ください。そういう妄想は大歓迎ですよ。創想話からの創想っていいですよね。
恋愛に近い甘めの話を作ったのですが、いろいろと設定の調整といった問題が浮上してしまったので今は寝かしています。なので、違う白黒の話(こっちはシリーズ物)になってしまうかもしれません(バッドではないですよ)。意外と東方には白黒のカップリングがありますよね。どれになるか想像してみてくださいな。今年中にあと一本は出したい…いや、出します。
ご期待に応えられるよう創作を続けているのでもうしばらくお待ちください。
自分のペンネームが上がっていたら是非読んでくださいね。おねがいしますなんでもしますから(笑)