Coolier - 新生・東方創想話

芋を焼いてはかく語り

2015/10/13 07:44:23
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「こんなものね、そろそろ霊夢も戻ってくる頃かしら」

 続いていた茹だるような暑さがようやく鳴りを潜め、そろそろ肌寒さを感じ始めてきた曇り空の下、ここ博麗神社で私はひとり境内の落ち葉をかき集めていた。

「ごくろうさまフランドール、今戻ったわ。秋の姉妹からサツマイモを貰ってきたわよ」
「あ、おかえり霊夢。私の方もそろそろ準備出来るわよ。だけど随分いっぱい貰ってきたのね」
「今年は豊作だったらしくて奉納された量がかなりのものだったらしいわよ。これでも奉納された量の一割にも満たないらしいわ。それじゃ、準備出来たら火を付けておいてちょうだい。私は先にこれの余り分を台所に置いてくるわ」

 私の頭をぽんぽんと撫でて、霊夢は溢れそうなほどサツマイモの詰まった袋を抱えて社務所へと向かっていった。
 その姿を見送ってから、予め土を盛って慣らし、そこに日の字の形に添え木が組まれている焚き火の土台へと向かう。土台の脇に置いた桶に張られた水で全体を湿らせてから、桶の隣に準備しておいた古新聞をきつく絞って複数用意して、それを組み木の内側に掘られたくぼみに置いていく。更にその上に竹の枝を等間隔で置いてかき集めておいた枯れ葉を半分ほどかぶせて準備は完了。
 そうして私はレーヴァテインを手元に現出させてその先に火を灯しそれを差し込んで絞った新聞紙に着火する。
 やがてパチパチと弾ける音を響かせて火は勢いを増していく。
 夏が過ぎ、少しづつ冬の足音が近づきつつあるこの時期。肌寒さを緩和するのに丁度良い焚き火に手を翳す。

「お、何やってるんだフランドール?」

 その時頭上から降りてきた声に、私は空を仰ぎ見た。
 そこにいたのは、箒に跨がり私を見下ろす職業魔法使いの姿があった。
「あら魔理沙、いらっしゃい。今は焼き芋の準備中よ」
「おう、お邪魔するぜ。そりゃいいな、私もお相伴に預かってもいいか?」
「霊夢がたくさん貰ってきていたから一個くらいは別に良いんじゃない」
「待たせたわねフランドール。って魔理沙も来たの?」
「来たんだぜ。どうやら焼き芋するらしいじゃないか、私にも一つくれよ」
「まったく、厚かましいわね。待ってなさい、もう一つ持ってくるわ」
「代わりに今度キノコでも差し入れるよ」
「この前みたいに変なもの持ってくるんじゃないわよ」
「自分で試した物だけ持ってくるよ」
「それ、不安しかないんだけど」
「この前魔理沙が持ってきた物を食べた時は大変だったわね」

 霊夢が小さくなっちゃって戻るまでの間てんやわんやの大騒ぎ。まあ、あれはあれで楽しかったけどね。

「そういえばあの時はどうやって戻ったんだ? 私がキノコの効果を中和する薬を持ってくる前に戻ってたろ」
「思い出させないでちょうだい」
「あー、色々やったのよ。色々ね。愛の力は偉大とだけ言っておくわ」

 あの時は私もやり過ぎたわ。霊夢も腰が砕けて息も絶え絶えになってたし。
 魔理沙は首を傾げるがそれをさらっと無視すると、彼女は追求を諦めて肩を竦めた。

「お芋が焼けるようになるまではまだ掛かるから、何か話でもしましょうか」

 追加の芋を取ってくるために戻っていった霊夢から魔理沙へと視線を移して、問いかける。

「ああいいぜ。何なら弾幕ごっこでも」
「却下。そんなことしてたら火の管理が出来なくなるわよ」
「……本当お前は妙に所帯じみてきたよな」

 元々冗談のつもりだったのか、取り出した八卦路を帽子の中に仕舞いつつ魔理沙はしみじみと語る。

「当然でしょう、最近は家事関係は私も大半は手伝っているんだもの」

 ここ博麗神社に霊夢と一緒に住むようになって、私は家事の殆どをこなしている。
 それでも吸血鬼という特質上、流水に関わる流しや風呂周りの清掃等は手が出せないけれど。

「フランドールがこっちに来てからどのくらい経ったっけ?」
「ん、去年のこのくらいの時期だったからそろそろ一年になるかしら。そっか……私が紅魔館からこっちに移ってからもうそんなに経つんだ」

 自身で言ってから時の流れを自覚する。これもまた、恒久的な命を持つ妖怪や妖精ばかりが住む紅魔館では感じることの出来ないものだ。

「たまには帰ってやれよ。レミリアが寂しがってるからな。パチュリーの所で泣き付いてたぜ」
「また? 先週来たばかりよ」

 いつまでも妹離れの出来ない姉に息を吐き出す。

「パチュリーもそんなこと言っていたな」

 クックと魔理沙は笑う。

「でもまあ、帰る所があって迎えてくれる家族がいるのは良いものだからな。大切にするもんだぜ」

 そう言って遠くを見るように眼を細めた。
 その心中を推し量る真似は私もしない。

「そうね、年明けにでも帰ってみるわ。霊夢も一緒にね」
「ああ、そうすると良い」
「あら、年明けには帰って来られるのですか、フランドールお嬢様?」
「誰、って咲夜か」
「ご無沙汰しておりますわ」

 突然の第三者の声に振り向いてみれば、そこには小さな鞄を一つ持った紅魔館が誇るメイド長の姿があった。

「まずはこちらが今月分でございます」
「うん、毎回ご苦労様。空になった小瓶はいつもの棚の上に置いてあるから適当に持って行っちゃって」
「承知いたしました」
「そうそう、さっき聞いただろうけど、年明けには一度紅魔館に帰るからお姉様にはそう伝えておいてちょうだい」
「それはレミリアお嬢様も喜ばれますわ」
「本当、妹離れ出来ない姉を持つと大変よ」

 私の言葉に小さく笑みを返して咲夜は社務所へと足を向けた。

「咲夜は何しに来たんだ?」

 後ろ姿を見送って、魔理沙が口を開く。

「あれ、魔理沙は初めてだっけ? 血液の入った小瓶を届けに来たのよ。私の種族柄どうしても血液の定期的な摂取は必要だから、こうして一月に一度紅魔館から届けに来てるの」
「ほー、そうなのか。私はてっきり毎夜霊夢から頂いているもんだと思っていたんだがな」
「ふふ、とても魅力的な話だけど、流石に毎夜そんなことしたら霊夢の身体が持たないもの。それは偶にちょっと貰うぐらいが丁度良いのよ」

 意地の悪い笑みを見せた魔理沙に言葉を返すと、彼女は気恥ずかしそうにそっぽを向いた。
 私をからかおうなんて甘いわよ。
 でもまあ、嫌がる霊夢を組み伏せて無理矢理。なんてのも悪くないわね。
 そんな素敵な妄想に花を咲かせていると、私の愛しい相手の声が耳に届いた。

「フランドール、あんた何か碌でもないこと考えてるわね」
「あ、霊夢おかえり。ナンノコトカシラ?」

 古新聞と芋を手に戻ってきた霊夢には可愛らしく首を傾げて誤魔化しておく。
 霊夢の眼が疑わしげに細まったけど気にしない。

「そんなことより霊夢、今咲夜が来てるんだけど会った?」
「私ならここにおりますわ。何かご用でしょうか、フランドールお嬢様?」

 背後からの不意打ち気味な声にぎょっとして振り返ると、そこには満足気な顔をする咲夜の姿。

「ちょっと、私をからかってそんなに楽しいの?」
「滅相もありません。お嬢様をからかうなんて私にはとてもとても」
「ふん、どうだか。あ、そうだこれから霊夢が貰ってきたお芋を焼くんだけど、咲夜も食べていく?」
「申し訳ありません。大変有り難い申し出ではありますが、また直ぐに紅魔館に戻らなくてはなりませんので」
「そっか、残念ね。それじゃ、お姉様によろしく」
「承知いたしました、では失礼いたします」

 私に一つ頭を下げて、彼女は境内を後にした。
 それから視線を焚き火へと移すと霊夢が口を開いた。

「準備が出来るまでまだもう少し掛かりそうね。それまでは茣蓙でも敷いて休憩でもするとしましょうか。魔理沙、倉から茣蓙を一枚持ってきてちょうだい。働かざる者食うべからずよ」
「分かった、直ぐ持ってくる」

 霊夢の指示に、魔理沙は片手を挙げて社務所の裏手にある倉へと向かっていった。
 それを見送って、霊夢はさつまいもを水で湿らせた新聞紙に包む。

「ねえ霊夢、咲夜何か言ってた?」
「うん、何よ突然?」
「いや、ここしばらく美鈴が小瓶の交換に来ていたから咲夜に何かあったのかなって。何か聞かなかった?」

 私用の血液の運搬は当初咲夜が持ってきていたが、ここしばらく咲夜ではなく美鈴がその代わりを担っていた。

「そうねえ。一応聞いてはいるんだけど、咲夜に口止めされているから言えないわ」
「何でよ」
「自身の口からあんたに言いたいそうよ。まあ近い内に話があると思うわよ」
「話したくない、じゃないのね?」
「まだ話せない、って言っていたわ」
「そう、ならいいわ」
「あら、意外とあっさり引くのね。あんたのことだからごねるかと思ったんだけど」
「咲夜がそう言ったのなら待っているわ。きっと何か企んでるんでしょう」
「そこまで分かっていても聞かないのね。随分と信頼しているわね」
「当然よ、家族だもの。それに、霊夢が黙っているって事は悪いことでもないんでしょう」
「ん、まあ、そうね」
「なら聞かない。悪い事じゃないなら、その時になって存分に驚いてやるわ」
「そう。だったら私からも何も言わないわ。せいぜい、驚きすぎて呼吸が止まったりしないように注意する事ね」

 不適に笑って見せた私に、霊夢は小さく微笑んだ。

「あら、呼吸が止まったら霊夢が蘇生してくれるんでしょう?」

 熱いベーゼ一つで地獄の底からだって帰還してみせるわ。
 もっとも、私は何時だって大歓迎だけど。

「あーふたりともそういうのは私が帰った後でやってくれないか」
「……もう少し遅く戻ってきても良かったのよ、魔理沙」
「せっかく急ぎ戻ってきたのに酷い言われようだな、っと」

 私の言葉に茣蓙を抱えながら魔理沙は器用に肩を竦めてそれを火から少し離した位置に敷く。
 茣蓙の上に腰を下ろす。
 焚き火の熱に掌を翳しながら暖を取る。
 しばらくして、灰が十分に貯まったのを確認すると霊夢がサツマイモを灰の山の上に載せ、更に灰を被せていく。そうして、時折トングで灰をかき混ぜながら熱が消えないように様子を見る。

「はい、フランドール」
「ん、ありがとう」

 霊夢から差し出された湯飲みを受け取る。熱過ぎず温過ぎず、丁度良い温度の緑茶を一口啜る。

「最近急激に寒くなってきたわね」
「そうね。そろそろどこぞの冬妖怪が夏眠から目を覚ます頃かしら」
「そういえば、チルノがそんなことを言っていたわね。私はその妖怪とは面識が無いからよく知らないのだけど」
「あら、フランドールはチルノを知っているのね」
「よく美鈴に会いに紅魔館に来ていたからね。その時に知り合ったの。私がこっちに移ってからは会っていないけど、元気にしているかしら」

 美鈴がよく構うので時折紅魔館へと遊びに来ていた氷精の姿を思い出す。

「紅魔湖まで足を運べば会えるんじゃない?」
「そうね。今度行ってみようかしら。その時は湖に氷を張ってもらって一緒にスケートでもしましょう」
「それならその時は私も行ってもいいか?」
「いいわよ。その時は魔理沙も誘うわね」

 自身を指す魔理沙に頷く。
 それに魔理沙は嬉しそうに笑った。
 私は湯飲みを傾けながら、トングで灰を突っつく。

「ところで、魔理沙は最近どうなの?」
「どう、ってなんだ?」
「図書館の司書との関係よ」

 美鈴と同じ赤い髪のパチュリーの使い魔。
 魔理沙は以前から魔法を教わりに度々図書館を訪れては、小悪魔と良い雰囲気を醸し出していた。
 その様子を見れば、まあ彼女たちの関係性は一目瞭然。語るまでもない。

「あー、ちょっとな」

 私の言葉に、魔理沙はばつが悪そうに頬を掻く。

「最近パチュリーの研究とやらに掛かりっきりみたいで会えてないんだよ。顔を合わせることはあるが忙しそうにしていて禄に話しも出来ていない」
「そっか、でも多少声を掛けて上げるくらいはした方が良いんじゃないかな」

 普段はいたずら好きでひとをからかうことも多い小悪魔だけれど、あれでいて結構寂しがり屋でもある。なので他者とのコミュニケーションに結構飢えてもいるのだ。

「たまには積極的に行くのも悪くはないと思うわよ」
「そうか?」
「そうよ」

 魔理沙にウインクしてみせる。

「そしたら、今度行った時でも声をかけてみるよ」
「そうしてちょうだい。っと、そろそろ良い頃合いかしら」

 トングで真っ黒になった新聞紙の塊を灰の中から引っ張り出す。
 軍手をはめてそれを開くと、中にはちょうど良い焼き色のサツマイモが出てきた。
 一つを半分に割ると途端に湯気が立ち上ぼり、良い香りが私の鼻腔をくすぐる。

「はい、霊夢。火傷しないように気を付けて」
「ええ、ありがとう」

 半分に割ったうちの一つを霊夢に渡す。

「それじゃ、私はこっちを貰うとするかな」

 そう言って、魔理沙も軍手をはめてサツマイモを一つ手に取る。
 そうして全員が焼き芋を持ったのを確認して、私は息を吸うと口を開く。

「いただきます!」

 私の言葉に全員が唱和した。

END
知らない方は初めまして。知っている方も初めまして。
初投稿です。
過去作?何の事かな?

ここまでお読み下さったあなたに多大なる感謝を。
青水晶
http://koyasiki.seesaa.net/
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ほんわかした百合、ご馳走様でした