Coolier - 新生・東方創想話

色、鮮やかに

2015/08/27 16:20:29
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 黒の帽子に、黄色いジャケット、緑のフリフリした袖口、緑のスカートに、青いラナンキュロスの刺繍。体を囲うように、伸びた紫の管は、胸の前にある紫の瞳につながっている。
 カラフルな色した少女――古明地こいしは、縁側に腰掛けたまま、足をばたばたと揺らし、リリカを見つめていた。
「次の問題は?」
 そういって、こいしは手に握っていた煎餅をかじりと音を立てて齧る。
「ちょっと! それ、魔理沙からもらったお菓子じゃない!」
「そうなの? 棚の中にあったからもらっちゃった」
 パリっ! と爽快な音が鳴る。
「もらっちゃった♪ じゃないわよ! 返しなさいよ」
 霊夢は素早くこいしの首に腕を回すとそのまま、首を絞める。
「ははは。霊夢やめてー」
 足を大きくバタつかせながら笑い声をあげるこいし。その表情は満面の笑みである。
 突然現れた謎の少女と、その首を絞められても笑っている姿にリリカは口を開けたまま見つめていた。すっかりと事態についていけなくなっていた。
「え? この子、誰? っていうか、どうしていきなり?」
「あー、こいつは古明地こいしっていう地底の妖怪なんだ。まぁ、いきなり現れたのは――まぁ、そういう能力だ」
 無意識――こいしの能力を説明しようとも思ったが色々と面倒なので、とりあえず、そういう能力ということで、魔理沙は片づけた。
「そ、そうなの……」
 まだまだ変なのがいるのね。と言いながら、リリカはこいしを見つめる。相変わらず霊夢に怒らているのに、気にする様子もなく笑っているあたり、かなりの大物に見えた。
「霊夢、それくらいにしてやれ。こいつに何言っても意味ないぞ」
 魔理沙に言われて、霊夢はしぶしぶ絡めていた腕を離す。
「あれ? もう終わり? せっかく楽しかったのに」
 そういって、不機嫌そうな顔を浮かべるこいしに、霊夢は片手で顔を覆った。
「えーっと、古明地さんでいいのかな?」
 かわいそうな霊夢の様子に同情しつつ、リリカはこいしに声をかける。
「こいしでいいよ! 音楽のお姉ちゃん」
「じゃ、じゃあこいしちゃん。さっきの事なんだけど」
 普段、姉を呼ぶ側なので、お姉ちゃんと呼ばれて妙に、こそばゆいリリカは、照れつつも、こいしに音感テストの事を尋ねた。
「さっきの音以外も当てられたりする?」
「んー。多分できるよ」
「じゃあ、この音を聞いてくれるかな?」
 リリカはそういって、音を鳴らす。すると、悩む間もなくこいしが答えた。
「ファのフラット」
 あまりの速さに、リリカは驚く。
「じゃあ、これは?」
「ラ」
「こっちは?」
「ドのシャープ」
「じゃあ、これ!」
「シー」
 笑顔で答えるこいし。リリカは口元に手を当てて、小石を見ていた。
「全問正解……」
「まじかよ!」
 その結果に魔理沙も声をあげる。
「難しいヤツ、やってもいいかしら?」
「いいよー! どんと来い!」
 そういって笑うこいしに、リリカは頷と、鍵盤をはたいた。音が三つ連続で流れる。
「ド、ファのシャープ、レ」
「あってる。これは?」
「ラ、ミ、ラ、ド」
「じゃあ、これはどうかしら!?」
「ラシドミドシソレ~♪ イェイ!」
 リリカが引いたリズムと全く同じリズムで、歌いながら答えるこいし。最後にはブイサインを出して決めた。
「すごい! すごいわ!」
 全問正解のこいしに、リリカはものすごい勢いで拍手し、それに吊られて魔理沙も霊夢も拍手した。
「貴方、何か音楽やってた?」
「んー、小さいことにピアノやってたよ! お姉ちゃんに教わってた」
「ピアノ……こいしちゃん、絶対音感を持ってるのね」
 その言葉に、首を傾げるこいし。
「ぜったいおんかんって何?」
「えーっと、簡単に言うと、音を聞いただけで、それが音階のどこに当てはまるかわかることなんだけど……」
「じゃあ、わたしは、そのぜったいおんかんとは違うと思う。聞いて音を当てるんじゃなくて、色を見て当ててるから」
 笑顔で答えるこいしに、リリカはまたしても口をあんぐりと開けたまま、彼女を見つめた。霊夢もリリカと同じような顔をしているが、魔理沙だけは、何か神妙な顔をしていた。
「な、なに言ってるのこいしちゃん。音に色がついてるっていうの?」
「うん。虹とおんなじでね。低いドは紫色をしてて、音が上がるたびに青、緑って変化していってね、最後には赤色になるんだよ」
「えっと……」
 反応に困り、霊夢の顔を見るリリカだが、霊夢も私を見るなといった表情を向けてくる。
「まーた、適当ななこといって」
 呆れた口調の霊夢。
「ウソじゃないよ! 本当にそう見えるの! 音が鳴るとね、視界にわぁーって色が広がるの」
「騙されないわよ。大体、音に色が見えるだなんてそんなこと――」
「いや、あり得る話だぞ」
 霊夢の話を魔理沙が遮る。
「共感覚っていってな。何かを感じる時に、本来一つで行うことを二つ以上の感覚で感じることができるっていう話らしくてな」
 音を目で知覚する。手触りを目で知覚する。言葉を味覚で知覚する。といった、普通の人では、対象を知覚する際に、決して使わない感覚で、対象を感じることができる。それを共感覚という。
 魔理沙はそういうと、こいしの目を見つめていう。
「私も話でしか聞いたことないが、音に色が見えるとか、文字に味があるとか、そういう能力らしい」
「文字に味って……じゃあ、こいしもその能力ってこと?」
「かもしれない。まぁ、外の世界の本に書いてあっただけだし、検証のしようがないけど」
「むぅー。本当に見えるんだってー」
 魔理沙の言葉に、すかさず抗議するこいし。少しだけ頬を膨らませた。
「よくわからないけど、すごい才能ってこと?」
「あぁ、生まれながらの才能だ。音楽家にもいるっていうしな」
 その言葉に、リリカは飛び上がり、勢いよくこいしに抱き着いた。
「貴方が、幽霊楽団に入ってくれたら敵なしだわ!」
 キャッキャと騒ぎながら、こいしを抱きついて離れないリリカ。
「はいはい。危ないから、騒ぐなら縁側から離れて頂戴」
 その言葉に、リリカはこいしを抱きかかえるようにして、くるくる回りながら、離れる。完全に自分の世界だ。
「私、すごいの?」
「すごいすごい! 貴方、一躍スターに成れるわ!」
はしゃぐリリカの言葉に、こいしも笑みも見せた。
「本当に? そしたら、みんな、私を見てくれる?」
「もちろんよ! 幻想郷中が注目するわ」
 二人、盛り上がる姿に、魔理沙も霊夢も苦笑する。
「そう、上手くいくとは思わないけどな」
「まぁ、あの子だしねぇ」
 こいしをみながら、霊夢はそう言った。
「ところで……」
霊夢は、魔理沙の肩を肘でつつく。
「生まれながらっていうけど、その共感覚ってのは先天性の能力なの?」
「ほぼ、先天性らしい。何でも、人間はお腹の中に居るときは、一つの感覚しかない。だけど、それが成長し、また生まれてから感覚が分化してく……その時の過程に何かしらの影響があると、感覚がつながった状態になるみたいだな」
「ふーん。でも、あの子、妖怪よね?」
「共感覚には、無意識が働くっていう話もあるみたいだし、無意識っつーのも、掘り下げてけば、胎児の話にぶち当たる。オマケに、スペルカードにも出てくるくらいだからな。何かしらあるのかもしれん」
「そう……」
「なんだ? 興味でも湧いたのか?」
「いいえ。別に」
 霊夢はそういうと、なんとなしに空を仰ぎ見た。

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