Coolier - 新生・東方創想話

攻めて、人間らしく

2015/07/28 23:20:21
最終更新
サイズ
19.32KB
ページ数
1
閲覧数
2889
評価数
18/36
POINT
2570
Rate
14.03

分類タグ

「ブレザーをよこせ! 私は女子高生になるんだ!」

 置き薬の交換に向かった先で、いきなりこんなことを言われたら……アナタならどうする?
 私の場合は至ってシンプルだ。懐からルナティックガンを取り出して、狙いを定めるのみ。
 ターゲットはこちらに向かって突進中の上白沢慧音。実戦投入前の試し撃ちの相手としては、可もなく不可もなくといったところか。

「そんな玩具で、この私を止められると思うてか!」
「アンタ程度なら余裕でしょ。まずは右脚を狙うから、ちゃんと避けなさいよ?」
「右!? 右ってどっちだっけおーっと足がもつれたァ!」

 うん、足がもつれて転びよったわ。マヌケめ。
 都合のいいことに、丁度ヤツの後頭部が私の足元に位置してやがる。
 さーて、ワーハクタクの脳漿は何色……って、別に殺す必要は無いよね。もう勝負ついてるから。

「ちくしょおおおおおおおおおォッ! 人殺しが! この人殺しがァァァ!」
「殺しに来てたのはアンタの方でしょ? いきなり襲い掛かってくるとか、正気を疑うわ」
「いや……すまない。ただちょっとブレザーが欲しくて」

 ブレザーとか、ちょっと要求するような品じゃないと思うんですけどねぇ。あとハアハアうっせーぞこの雌牛が。
 そもそも、ミステリアスな薬売り装束(通称:鈴奈庵スタイル)を纏った今の私に、ブレザーを要求すること自体が間違っているのだ。

「何故だ……何故ブレザーを着てこなかった?」
「いや、アレ着てたら素性バレちゃうじゃん」
「今さら何を言う! とっくの昔にバレバレだろうが!」

 おうおう、身もフタも無いこと言ってくれちゃってぇ。
 まあ確かに、里の人間達は薬売りの正体を知っているのだろう。
 そんでもって、私の方もそれを承知で里に来ているわけだ。
 この歪な関係がいつまで続くかは知らないけれど、少なくとも無理に終わらせようとは思わないよ。私はね。

「女子高生になる為には、どうしてもブレザーが必要なのだ……今すぐ帰って取ってきてくれ」
「イヤよ。そもそもアンタ、女子高生になってどうするつもり? 宇佐見菫子とお友達にでもなろうっての?」
「その名をッ! 私の前で口にするなッ!」

 突っ伏していた慧音が勢いよく跳ね起きて、私の胸倉を掴んできた。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
 宇佐見菫子。ここ最近幻想郷に出没している、外の世界の女子高生。
 彼女の名を聞いて、慧音が激昂する理由とは……まあ一つしか無いわな。

「そっかぁ~、慧音ってばアイツに妹紅を寝取られちゃったのか~。あの二人妙に仲良さそうだモンねぇ~」
「そ、そんなコトは無いぞ! 私はただ、彼女の如き不逞の輩が、妹紅に悪い影響を与えるのではないかと危惧しているだけであって」
「んで、本音は?」
「あンの毒虫メガネめ妹紅の周りをウロチョロウロチョロしくさって目障りなんじゃボケがァ! ワレの所為でこちとらもう三日も妹紅と口利いてへんねんでアホンダラァ!」
「今の言葉、録音するからもう一回言って」
「勘弁してくれ。これでも里では人格者の慧音先生として通っているんだ」

 そうだね。こんな発言が公になった日には、寺子屋の教師なんかやらせて貰えなくなるだろうね。
 っていうか、藤原妹紅と話せていないのは宇佐見の所為だけじゃないだろ。アイツだって四六時中幻想郷に居る訳じゃあ無いだろうし……いないよね?
 確か彼女は、眠っている間だけ幻想郷に入ることが出来るのだと聞いた気がする。どういう仕組みが働いているのかは知らんケド。

「そういえば妹紅のヤツ、ちょくちょく永遠亭に顔出してるけど……それについては怒らないの?」
「要はサイクルの問題なのだよ。今までは私と永遠亭だけだから上手く回っていたのだが、例の異物が混入した事によりサイクルが崩れ、私が割を食う破目に陥ったのだ」
「つまり、こういうコト? 妹紅にとって慧音の優先順位は、宇佐見菫子よりもひく……」
「言うな! それだけは言ってくれるな悲しくなるから!」

 悲しくなるっつーか、既に涙目になってまっせ慧音はん。
 まあ無理もないわな。これまで妹紅の数少ない理解者を気取ってた彼女が、ポッと出の女子高生にお株を奪われた挙句、事実上の戦力外通告を喰らったとあってはねぇ。

「ぐすん……女子高生に勝つためには、私自身が女子高生にならねばならんのだよ。妹紅は女子高生が好きみたいだからな……」
「それでブレザーを欲しがったってワケね。これでようやく話が一本に繋がったわ」
「これは私見になるが、アナタはもうブレザーを必要としていない様に思える。どうだろう? ここはひとつ、私に譲っては貰えないだろうか?」

 うーむ……言われてみれば最近ブレザーを着てない気がする。季節の影響もあるだろうけど、戦いの時はブラウスでいることが多かったしなあ。
 里に薬を売る時だって、今みたいな格好をするようになったのはいつ頃からだったか……あれ? 最初からコレだったっけ? もうワケわからん。

「もちろんお礼はさせてもらうよ。あまり大金は用意できないが、いざとなったらカラダを売ることも辞さない覚悟だ」
「そんな覚悟は捨ててしまえ。っていうか、そもそもブレザー売る気無いし」
「何故だ! ろくに着もしないブレザーが、そんなに大事なのかッ!?」

 そうだ、私にはあのブレザーを手放せない理由がある。
 そもそも、アレは私が何者であったかを示す大切な品。言うなれば歴史の一部なのだ。
 それを手放すという事は、己が過去から目を背ける事に他ならない。
 そんな事をするのは……よくないと思う。閻魔様とかも多分そう言う。多分ね。

「私の歴史を、そんなくだらない痴話喧嘩の道具になんてさせないわ」
「何が歴史だ! ちょっとぐらいの歴史モノならば、残さずに全部食べてやる!」
「食べてどーする。そんなに歴史が食べたいのなら、鈴奈庵にでも行きなさいよ。歴史書の一冊や二冊あるでしょうから」
「私はヤギではない! くそっ、女子高生なんか……女子高生なんか、みんな私が喰ってやるううううううぅッ!」
「教師が言っていい台詞じゃねえな!?」

 コイツ……上白沢慧音の場合、「喰う」という単語には三つの意味が存在する。
 一つ目は無論、性的な意味で。いきなりコイツを挙げるのは我ながらどうかと思うが、まあ一般的にはコレだろう。
 二つ目は所謂カニバリズム的な意味ね。ワーハクタクが人を喰らうなんて話は聞かないけど、少なくとも不可能ではない筈だ。
 そして三つ目は……正直言ってよく分からない。歴史を食べるって何なんだろうね? 少なくとも歴史の本とかを食べるのではないらしい。

「……そうか! あのドグサレ女を歴史の表舞台から消し去ってしまえばいいのだ!」
「結局そこに行き着くのね。でもアイツ、なかなかどうして腕が立ちそうよ? あの妹紅でさえ一目置いているみたいだし」
「なにッ、あの妹紅が……ますます生かしておけんな。ヤツに無慈悲なる死を賜って、界隈に安寧を取り戻すのだ!」
「どこの界隈よ!?」

 聞いておいてアレだけど、あまり深く追求するのはやめておこう。
 どんな界隈であれ、新しいモノを拒み続けるなど、到底無理な相談だ。
 柔軟な姿勢で受け入れるのが、我ら幻想郷の心意気というモノよ……私もすっかりコッチに染まってしまったようだ。

「ウドえも~ん! 何か道具出してよぉ~っ!」
「いや、ウドえもんって誰よ?」
「何かないのぉ~っ!? 例えばホラ……ウルトラソニック女子高生破壊爆弾とかぁ~!」
「効果が限定的すぎる!」

 なんということだ。うっかり開発技能なんか披露してしまったばかりに、妙なキャラ属性を付与されてしまった。
 つうかいきなり人に頼るなよ。さっきまでの意気込みはどうした。宇佐見菫子に死を賜るんじゃなかったのか?
 いや、これ以上変に殺る気を出されても困るのだけど。主に宇佐見と、あと妹紅が。

「爆弾はさておき、アレの始末はアナタにお任せしようと思うのだが……勿論引き受けてくれるな?」
「引き受けるわけ無いでしょうが。そもそも私は無関係だし」
「だからイイのだよ。無関係で動機の無いアナタがヤツを殺している間、動機のある私は里でアリバイ工作に励むという算段だ」

 なるほど完璧な作戦っスねェ~っ。不可能だという点に目をつぶればだけど。
 話の流れでつい無関係とかほざいちゃったけど、宇佐見菫子に関しては、あながち無関係とは言い切れなかったりするのよね。
 彼女が先の騒動でバラ撒いたオカルトボールの中に、月の都に関するモノが混じっていたとかいないとか。
 背後関係が詳らかになるまでは、あの女子高生を軽々しく葬り去るワケにはいかんのですよ。少なくとも、今回のような至極くだらない理由ではね。

「これから先も里で商いを続けたいのであれば……答えは決まっているな?」
「それって脅迫のつもり? 馬鹿馬鹿しくて聞いちゃいられないわ」
「無理にとは言わないよ。ただ、私が里においてそれなりの発言力を有している事と、永遠亭にとって大事な顧客の一人であるという事だけ、覚えておいてくれればいいさ」
「くっ……」

 マズイな……想像以上にゲスなやり方で外堀を埋めてきやがった。
 このままでは、なし崩し的に宇佐見を殺すことになってしまう。そんなのはマヌケすぎるし、何より私のカルマに良くない。
 彼女を殺さない理由……いや、殺せない理由が必要だ。オカルトボールの件を持ち出したところで、慧音は納得しないだろうから。

「この期に及んで何を躊躇うことがある? 友人や血縁者というわけでもあるまいし」
「血縁者……それよ! それだわっ!」
「いきなり何だ?」
「彼女は……宇佐見菫子は、実は私の親族だったりしちゃうのよっ!」
「……エエ~ッ!?」

 慧音が驚いている。そりゃそうだ、言った私ですら驚いているんだから。
 とはいえ、一度口にしてしまった以上は取り返しがつくものではない。
 嘘に嘘を重ねて、もっともらしいストーリーを作り上げる……やって出来ない事もあるまい。つうか、やるしかない。

「いやいやいや、流石にそれはありえない。そもそもアナタは宇宙じ……失礼。月の兎ではないか」
「……今まで黙っていたけれど、私の種族は玉兎ではなく、人間だったの」
「ウソだ! じゃあその耳は何だ!?」
「コレは……月の民によって植えつけられてしまったの。脳に直結しているから外せないの。悲しい物語なの」
「そうだったとは……いや待て! 信じられるかそんな話!」

 信じようが信じまいが、そんなコトは重要ではない。
 今、この場さえ切り抜けてしまえば、それで話は済むのだからね。

「では聞くが、アナタにとって宇佐見菫子とは何だ!? 遠い子孫か!?」
「母なの」
「ばっ……馬鹿かアナタは!? どう考えても彼女の方が年下だろうが! 与太話もいい加減にしろ!」

 よしよし。慧音のヤツめ、話が突飛すぎて混乱し始めたようだわ。
 この調子でホラを吹き続ければ、宇佐見に対する嫉妬や殺意も吹き飛んでしまうに違いない。つうか、そういう方向に持って行こう。
 母親に設定したのは我ながらナイス判断だ。子供ができるって事は、妹紅とくっつかないって事だからね。

「与太話じゃないの。私の本名は宇佐見れいせ……れ……れんこ。宇佐見レンコなの」
「いま、ちょっと考えたな? だいたい何だレンコンって。人の名前とは思えんぞ」
「レンコンじゃなくてレンコなの。蓮の子と書いて蓮子なの。蓮子蓮子と連呼しちゃうの」
「うーむ、確かに菫子と字面は似ているが……」

 ふっふっふ、早くも信じ始めたみたいね。そのこと自体が信じ難いけど。
 だが、ここから先が難関だ。最大の矛盾点である年齢の問題を乗り切れなければ、元の木阿弥になってしまう。
 慧音が冷静さを取り戻す前に、一気に畳み掛けてしまうのが正解かもね。よし、やろう。

「女子こ……いや、女子大生になった私は、ふとした切欠で月面ツアーにようこそしちゃうの」
「なぜ言い直したのだ。あとその喋り方やめろ。なんか腹が立ってきた」
「黙って聞けなの。そこで私は偶然にもタイムスリップに巻き込まれて、過去の月の都へと飛ばされてしまったの」
「そして月の民によって改造されてしまった、か……確かに筋は通っているな」

 通っているな、じゃねーよ。
 アンタ頭脳がマヌケすぎないか? それともアレか、私を油断させて一気に突き崩そうって算段か?
 いずれにせよ、もはや後戻りなど出来はしないし、するつもりもない。

「改造手術により長い寿命を得た宇佐見蓮子。そんな彼女のなれの果てがこの私、鈴仙・優曇華院・イナバである……というワケなの」
「荒唐無稽にも程があるが……それだけに真実味があるな。だいいちアナタときたら、今の名前からして滅茶苦茶だからね」
「名前の事は放っておいてほしいの。で、どうなの? 私が宇佐見菫子の娘だってこと、信じてくれるの?」
「まあ、信じてやらない事もない」
「ありえないわ……信じられる訳がない」
「今の誰なの?」
「私じゃないぞ?」
「私だ!」

 いや、誰だよ? この場には慧音と私の二人だけ……じゃない!?
 ふと気づくと、慧音の背後に何者かが佇んでいた。私に気配を感じさせないとは……コヤツ、只者ではあるまい。
 大きくてダサい帽子、赤くてダサい眼鏡、必要以上に襟が立てられたダサいマント、そして女子高生めいたダサい制服……おいおいちょっと待て、まさか!?

「なんだ? 私の後ろに誰かいるのか?」
「け、慧音! 振り向いちゃ駄目よ!? 絶対に振り向いちゃ駄目だからね!?」
「ほうほう、こっちの変な帽子被ってる人が慧音さんか。とりあえずはテレポート成功! って事でいいみたいね」 
「変な帽子とは片腹痛し。美術で赤点取りそうな発言をする悪い子は……誰だッ!?」

 ああッ、振り向いちゃ駄目だって言ったのに!
 私の努力も虚しく、慧音はヤツと対面を果たしてしまった……忌むべき恋敵、宇佐見菫子と!

「自己紹介が遅れたわ。東深見高校一年、宇佐見菫子。泣く子も黙る本物の超能力者よ」
「慧音ストオオオオオオオォップ! ステイ! シッダウン! ブレイク! ブレェ~イクッ!」
「ちょっ、何いきなり発狂してるのよ。ていうか貴方、私の娘を騙るってどういう……」
「……すぞ」
「えっ?」
「私の家に土足で踏み込んだのみならず、お気に入りの帽子まで馬鹿にしやがって……ぶち殺すぞ人間(ヒューマン)!」
「エエ~ッ!? ちょっと待って、何でこの人キレてるの!? ぜんっぜん意味分からないんですけど!」

 意味分かんねえのはオマエのほうだよ。なんつータイミングで現れやがるんだ、この天然トラブルメイカーが。
 私の苦労が全部パーになっちまったじゃねえか。これでは架空にして悲運の女子大生・宇佐見蓮子も浮かばれんわ。
 ……いや、まだだ。まだ蓮子は死んじゃいない。せっかく拵えた設定だ、こうなりゃトコトン使い倒してやるわ!

「鈴仙……いや、蓮子。私がいいと言うまで目を閉じていろ。肉親が肉塊に変わるシーンなど見るべきではない」
「母さんを殺ってはダメ! 未来が変わってしまうわ! タイムパラドックスよッ!」
「いや母さんじゃないし……うわぁ危ない! 慧音さん待って! コレ見てよコレっ!」

 慧音の素人丸出しテレフォンパンチを辛うじてかわした母さ……菫子は、なにやら板状の物体を取り出して、こちらに突き出してきた。
 その表面には竹林と思しき場所の写真……いや、動画が映し出されている。そういえば昔、月の都でこんな感じの品を見た記憶があるわ。
 しばし眺めていると、画面端から見覚えのある人物が現れて、画面中央の石に腰掛け、こちらに語りかけてきた。

“慧音、いいかい? よく聞いてくれ”
「も……妹紅!? どうしたんだ妹紅この板の中に閉じ込められてしまったのか妹紅!」
“原理はわからないが、この板は映像を記録できるそうだ。私が閉じ込められてしまった訳ではないので、まずは安心して欲しい”
「そ、そうか。妹紅が言うなら間違いあるまい。安心したぞ」

 すげえな妹紅……慧音の反応を完全に読みきってたってコトかよ。意外と策士タイプだったりするのか?
 いや違うな。おおかた妹紅のアホも同じようなリアクションをして、菫子に笑われたりしたのだろう。

“この映像を見ているという事は、宇佐見菫子に会えたという事なんだろうな”
「ああ、会えたとも。すぐにサヨナラするのだがな……」
「いちいち返答しなくてよろしい。どうせ妹紅には聞こえてないんだから」
“アイツは……菫子は少々変わり者だけど、悪い奴じゃあない。色々と失礼なことを言うかもしれないが、仲良くして貰えると私も嬉しいよ”
「勿論ですとも! この慧音の目の黒いうちは、誰であろうと彼女に危害を加えさせたりするものかッ!」

 単純すぎる。今の今まで殺そうとしていたヤツの発言とは思えんわ。
 まあ、これで良かったんだろうね。慧音の理性を取り戻すためには、妹紅による説得が必要不可欠だったろうし。

「ど……どうかしら? これで納得して貰えた?」
「ああ……ちょっと待ってくれ! 妹紅がまだ何か言いそうだぞ!」
“それと、最近あんまり慧音に会えてないからさ……だから、その……”
“あらあらー? なんかラブコメの波動を感じるんですけどー?”
「菫子さんッ! 少し黙っていてくれないかッ!」
「い、今のは私じゃなくて! ……いや私なんだけど、音声入っちゃったのよっ!」
“……もしよかったら、今度一緒に……ああ駄目だ恥ずい! なんか気恥ずかしいッ!”
「もっ、妹紅おおおおおぉッ!?」

 妹紅のヤツ、顔真っ赤にして逃げちまいやがった。
 それなりに長生きしている筈なんだけれど、こういう所は子供なのよね。つうか乙女か? 袖破れてるクセに。
 
「……とまあそんな訳で、私はコレをお見せしようと思って、こうしてお邪魔させて貰ったワケよ」
「いやぁ、危うく取り返しのつかない過ちを犯すところだったよ。妹紅の友達は私の友達も同然なので、何かあったらいつでも頼ってくれていいぞ!」
「何はともあれ、これにて一件落着ね。それじゃあ私、置き薬の配達に戻るから……」
「待ちなさい蓮子」

 クールに去ろうとした私の襟を、満面の笑みを湛えた慧音が掴む。
 あれー? 蓮子って誰でしたっけー? 私は鈴仙なので人違いだと思うんですけどー?
 ……なーんて、いまさら言えるワケが無い。どうするよ私?

「まだウチの置き薬を交換していないだろう。取ってくるから待ってなさい」

 そう言い残して、慧音は奥の間へ行ってしまった。
 私の名誉の為に言っておくが、別に忘れていた訳ではない。ただ今日は色々ありすぎたので、後日にしようと思っただけだ。いやマジで。
 さて……期せずして菫子と二人っきりになってしまった。聞いておきたい事は山程あるのだが、そういう雰囲気じゃあないのよね。

「蓮子……だっけ? 貴方、本当に私の娘なの?」
「娘かもしれないし、ひょっとしたら孫かもしれない。いずれにせよ、未来を決めるのは私の言葉ではなく、アナタ自身の意志なのよ」
「それ、タイムトラベラーの常套句でしょ? まさか生で耳にする機会が訪れようとは……!」

 なんか感激してやがるわね。自分の置かれた状況がどれだけ異常なのか分かってるのかしら?
 いや……彼女にしてみれば、むしろ願ったり叶ったりといったところか。先の騒動の“真の黒幕”も、菫子のそういう部分に目を付けたのだろうね。
 そんな事を考えていると、慧音が薬箱を抱えて戻ってきた。特に言うべき事も無いので、私は淡々と自分の仕事をこなすのみだ。

「どうです菫子さん。アナタの娘さんは、立派に人の役に立つ仕事をしていますよ」
「娘かどうかは兎も角として、私には真似の出来ない生き方だわー。なんか将来の事とか考えちゃうなー」

 将来ねぇ……随分と軽いノリで言ってくれちゃったけど、私にとってはシリアスな話題なのよね。
 そんなに先の話でもないが、私には故郷である月の都へと潜入する予定がある。それは言うまでも無く、私自身の過去と対峙することに他ならない。
 ひょっとしたら、私の抱える漠然とした不安感が、宇佐見蓮子なる架空の人物の物語へと反映されたのかもしれないね。
 などと考察している間にお仕事終了。お代も受け取ったので、あとはサッサと立ち去るのみだ。

「もう帰ってしまうのか? せっかく親子が感動の再会を果たしたというのに、それはちょっと味気なさ過ぎるだろう」
「いやいや、再会はおかしいでしょ。本来ならこの人まだ生まれてない筈だし……」
「既に生んでしまったという可能性は?」
「どんな可能性よ!?」
「雄しべと雌しべが……」
「そりゃ受粉でんがな」

 何だこの会話。コイツらアホか?
 まあ、漫才が出来る程度に仲良くなったと思えば、そう悪い事でもないか。

「結局、貴方の事はロクに分からず終いかぁ。ねえねえ蓮子、私達また会えるよね?」
「お互い生きていられたらね……」
「ちょっ、何それ不吉すぎ!」

 ちょっと脅しみたいになっちゃったけど、まあ菫子については心配あるまい。それなりに味方してくれる人もいるみたいだしね。
 私の方は……正直言って全くの未知数だ。宇佐見蓮子の物語と同様に、悲惨な結末が待ち受けていないとも限らない。

「不安になる気持ちも分かるが、何があっても堂々としていなさい」
「慧音……」
「アナタが何者であろうと、私にとって大事な教え子である事に変わりないのだからな」

 隙あらば私を生徒扱いしようとするのはやめろ。でも……今回だけはアリガトウと言わせて貰おう。心の中で。
 地上に来てから様々な人と出会い、多くの繋がりが生まれた。当然ながらその中には、慧音や菫子との奇妙な関係も含まれている。
 実在しない筈の宇佐見蓮子とて例外ではない。本物の彼女が菫子の娘、あるいは子孫として、この世に生を享ける日が訪れるかもしれないのだから。
 これらの繋がりが複雑に絡み合って、今の私という一個人が形成されていると言えるだろう。幻想郷は今や、我が歴史の一部なのだ。

「今度はちゃんと話を聞かせて頂戴ね! 約束よ!」
「ええ、約束するわ。また会いましょう……宇佐見菫子さん」
「娘を名乗る奴にフルネームで呼ばれるのって、なんか新鮮な感覚だわ!」
「菫子さんは人生を楽しんでいるなあ。蓮子も見習うべきではないかな?」
「……言われなくても、十分過ぎるほど楽しんでやるわよ。それじゃあ、また今度ね!」

 二人に笑顔で見送られながら、私は上白沢邸を後にする。
 嘘を吐き通しの別れになってしまったが、新しい繋がりまで嘘で終わらせるつもりは無い。
 この先どんな悪夢が待ち受けていようと、必ずここへ帰り着いてみせる。使命感に燃えるなんて、自分勝手な月の兎らしく無いけどね。
 まあ、それはそれで構わない。今の私は地上に這いつくばって暮らす民なのだから、地上の人間らしく攻めて攻めて攻めまくってやるだけだ。

「……ところで菫子さん。アナタが今着ているソレは……高校の制服だな?」
「ええ、そうだけど……ちょっと! なぜ徐に服を脱ぎ始めるの!?」
「そう興奮するな。我々がこうして出会えた記念に、軽く衣類の交換などを……」
「するわけないでしょ! サッカーのユニフォーム交換じゃあるまいし!」
「いいから黙って制服をよこせ! 私は女子高生になるんだ!」
「何のために!?」
「妹紅のために決まっているだろう! 彼女は女子高生が大好きなのだからなぁッ!」
「ええ~っ知りたくなかった衝撃の事実……」

 後で何か始まったようだが……私は何も見ていないし、何も聞いていない。
 今の私には、振り返っている暇など無いのだ。いざ月の都(ルナティックキングダム)へ!
 メリー「蓮子が兎に改造……? はっ、そうか! 宇佐見だけにウサ耳という算段ね! 宇佐見だけに!」
 蓮子「また入院したいのか」
平安座
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.850簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
面白くて良かったです
2.80名前が無い程度の能力削除
>「そりゃ受粉でんがな」
懐かしくて吹いた
柴田亜美のツッコミ芸ほんと好き
3.100大根屋削除
もーどうしよーもねーんだなこの幻想郷
笑うしかないんですわwww
4.90名前が無い程度の能力削除
タイトルからして阿保でしたが中身も期待を裏切らない阿保でした
ショーも無いネタを力技で牽引する芸風。毎回楽しみです
5.100名前が無い程度の能力削除
鈴仙の無理やりなその場しのぎがまさか蓮子を生み出すとは・・・
6.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
オチがしっかり付いててとても面白かった
10.90絶望を司る程度の能力削除
カオスw
11.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずキレッキレっすねさすが
14.100名前が無い程度の能力削除
いいギャグでした
19.90名前が無い程度の能力削除
笑いましたw
20.90名前が無い程度の能力削除
慧音妹紅菫子で三角関係ネタはフレッシュで楽しかったです
あと、パロディとして引用改変された台詞より改変前の方がパロディギャグみたいに見える彼岸島はすごい漫画だなあと思いました
21.100名前が無い程度の能力削除
一文目で笑ってしまった
24.100名前が無い程度の能力削除
いかにも荒唐無稽な話のようであちこちに原作の設定が練り込まれていて上手い!と思いました
紺珠伝で鈴仙が種族人間になっている、ウサ耳が着脱式など鈴仙が宇佐見蓮子である可能性は否定できませんね!(暑さで意識朦朧)
25.100名前が無い程度の能力削除
すっごいおもろい
26.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
30.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
楽しい感じでした。
32.100名前が無い程度の能力削除
このテンポにやられました