Coolier - 新生・東方創想話

あめふり

2015/07/15 03:12:27
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最近の空はあいにくの晴天模様ばかり、雨季は大活躍だった私の出番も今ではめっきり減ってしまった。
誰も私を必要としてくれないの。
昔と違って幻想郷はみんな優しいから、面と向かって要らないとは言われないけど、言葉にしなくてもみんなの気持ちは私に伝わってるんだよ?
居場所がないってそれだけで窮屈なんだよね。
どうにか居場所を得ようと、日傘として売り出すために耐熱コーティングをしてみたり、夏っぽくしてみようと傘にスイカのフェルト人形をくっつけてみたり。
結局はどれも空振りでおわっちゃったけど。
似合ってないと言われて取られてしまったスイカさんは、今はきーほるだーとして生まれ変わり私の腰で元気に生きてたりする。

「あっめあっめふーれふーれかーさんがー」

さっきも言った通り、今日も今日とて太陽は憎たらしいほど燦燦と輝いていて、こりゃもう一発お見舞いしてやらないといけないと決意を固めていたところだったんだけど、なんと、なんとなんと、夕方になっ
てから急に雲行きが怪しくなってきたではありませんか。
青々としたすかいぶるーな空を、さながら渋いおじさまのような灰色の雲がもくもくと覆い尽くしていく。
そういえば聞いたことがある、外の世界じゃこういう雲みたいなのをイケメンって言うんだよね。
それにしてもあまりに急激な天気の変化だ。これはまさか、噂に聞く夕立というやつではなかろうか。
つまり、この後に待っているのは、バケツをひっくり返したかのような雨!
胸が躍る、私も踊る、ついでに蛇の目傘も一緒に踊る。
今日みたいな日はだーれも傘なんて持ち歩かないだろうし、急に降りだした雨に人々は傘を求めて彷徨うだろうし、こりゃああたいの出番でさ!
と意気揚々と飛び出した私は、上機嫌なあまり羽のように軽くなった体で人里へと一直線で駆けていく。

「じゃーのめっでおーむかーいうーっれしーいなー」

傘をさしてくるりくるくる回りながら、軽やかにスキップする私はさながら踊り子のよう。
いつもなら踊ってる所を見られたら恥ずかしいはずなのに、今はご機嫌すぎてむしろ見て欲しいぐらい。
ほらほらオーディエンスのみなさん、私の華麗な舞を見てーって具合にね。
もちろん観客は誰もいない、私を見ているのは、灰色の雲とずっと先の方に見えるお地蔵さんだけ。
それでもいいのさ、だって私はいま楽しんでいるのだから。

「ぴっちぴっちちゃーぷちゃーぷらん、らん、らんっ!」

リズムに合わせていっちにぃさん、と飛んでみる。そして着地。
地面に足が付くのと同時に、頬に冷たい感触が落ちてくる。
思わず嬉しくなって、私は手を広げて天を仰いだ。
しばしその体勢のまま上を見ていると、すっかり灰色に染まった空からぽつりぽつぽつと次々に水滴が降り注いでくるではありませんか。
ほらきた、ついにきた、これこそが私の待ち望んでいた夕立!
私はさらに速度を上げる。
早く早く、急がないと夕立はすぐに止んでしまう、私の出番が終わってしまう。
まだまだ人里は遠いけれど、今の私ならあっという間にたどり着けるはず。

里へと駆けていく途中、ふと雨すら嫌っていた頃の私を思い出す。

捨てられた傘は、どんなに雨が降ってもその役目を果たすことは出来ない。
地面で雨ざらしになって、時折吹く風に飛ばされて、知らない場所でぼろぼろに朽ち果てていくだけ。
人間だったら、両手両足を縛られた状態で雨の下に捨てられて、気付けば誰も知らない、誰もいない場所に捨てられて、そんな感じかな。
そりゃあ怖いよ。怖いし、寂しいし、もちろん体だって痛かった。
でも一番痛かったのは、心。
もう壊れちゃいそうだった。誰も拾ってくれなくていい、いっそ魂なんて無くなるぐらいめちゃくちゃに壊して欲しいって、そう願ってたぐらい。
そんな私にとって、雨はただただ冷たいだけ、寂しさを増すだけの存在だったの。
だからね、今、こうして雨を楽しみに思える、そんな傘として当たり前の感情が私の胸にあることが、嬉しくて嬉しくて仕方ないんだ。

それに――急に私がやってきたら、絶対に驚くに決まってるから。
いわゆるサプライズってやつ、つまり私の大好物。
驚かれるんだよ。もうお腹いっぱいになるよね、なっちゃうよね。
うん、完璧。完璧すぎて思わず踊っちゃうぐらいに素敵な作戦じゃないか!

「かっけましょかーばんをかーあさんのー」

小さかった雨粒はやがて大きくなり、密度もどんどん増していく。
地面の状態は悪くなる一方、その上でぴちぴちちゃぷちゃぷと飛んで跳ねてと動きまわるものだから、もちろん靴は汚れてしまう。
買ってもらった大事な靴。
できれば綺麗に使いたいけど――でもでも、そんなの今の私にとっちゃどうでもいいことだね、だって雨だよ? 雨なんだよ?
そして私は傘なの。傘なんて汚れてなんぼじゃない。

「あーとかーらゆっこゆっこかーねがなるー」

口ずさんでいた歌は、気付けば二番に突入していた。
歌い終わるのが先か、それとも里につくのが先か、どっちも捨てがたいなあ。
自分の意志で、出来ることを選ぶことができる幸せを噛みしめる。

たまーに私のことを勘違いした人が、かわいそうな目で私のことを見るんだよね。
所有物にされて、いいように使われて、自由を奪われてるんじゃないかって。
ちっちっちっ、とんだ勘違いだよそれは。
私たち付喪神は人に使われるために生まれてきたんだから、所有物になることほど嬉しい事は無いの。
むしろ誰かに所有されないと、誰にも使われずに朽ち果てていくだけ。
縛られてるんじゃない、繋ぎ止められているんだ、そうすることで始めて自由を得ることが出来る。
好き勝手に使ってくれていいんだよ、使った結果で汚れてしまうんならそれでもいい、だってそれは使ってくれた証拠だから。
どんなにボロボロになっても、誰かが大事にしてくれるなら、さらに贅沢を言えば絶対に離さないって口に出して言ってくれれば、もうそれだけで何も要らないぐらい幸せなの。
幸せすぎて、その人のことを想像するだけで小躍りしちゃうぐらいなんだから。

ちょうど今みたいに――ぴっちぴっちちゃーぷちゃーぷらん、らん、らんっ、てさ。

「あーらあーらあーのこーはずーぶぬーれだー」

私、この三番からの歌詞が一番好きなんだ。
主人公は男の子だしお母さんと一緒だから私とはちょーっとばかし違うけど、蛇の目傘で喜んでくれてる時点でかなり好感度高いんだよね。
しかも、その傘を雨が降って困ってる女の子に貸してあげるんだもん、まるで私みたいだと思わない?

「やーなぎーのねーかたーでなーいているー」

ちょうどここから見える柳の木の下には彼女は居ない。
さすがにそこまで都合良くは行かないか、ロマンチックな展開だと思ったんだけどな。

でもね、以前一回だけあったんだよ。
その時は今日みたいに雨を期待して外に出たわけじゃなくて、本当に偶然通りかかっただけだった。
今日と同じように夕立が降って、人里の近くを通りがかったらね、あの人は柳の下で雨宿りしてたの。
”ここしかない”って思ったね。
そこに颯爽と私が登場、ヒーロー気取りのしたり顔で胸を張りながら勝ち誇る私の姿を見て最初はぽかんとしてたけど、その後すぐに笑って、頭を優しくぽんぽんって撫でてくれたの。
それでね、「小傘さんが来てくれてよかったです」って言ってくれて。
もうね、私の胸はドキドキのバクバクですよ。顔どころか体中が真っ赤になって、自分でも何言ってるかわかんないぐらいしどろもどろになって。
そんな私の様子を、優しく笑いながら眺めてるの。
その時の笑顔があんまり素敵で私なんかにはもったいない気がしたから、相合傘の帰り道に思わず聞いちゃった、「私なんかがそばに居てよかったの?」って。
我ながら失言だったかな。
誰かに所有される今でも過去の記憶が消えたわけじゃないから。
捨てられる恐怖、孤独のトラウマ、何もかもが癒やされたわけじゃないの、だからまだ完全に自信を取り戻せないでいたんだ。
しかも、里にいるどこかの誰かさんが書いた本には、ださい傘なんて書かれちゃってたしさ、そりゃあ自信もなくすってもんですよ。
でも無駄な心配だったみたい、考える暇も無いぐらいにすぐに即答してくれたから。「小傘さん以外なんて考えられません」ってさ。
えへへ、大好き。
この人以外の所有物にはなりたくないって、その時思ったんだよね。
贅沢だよねえ、誰かに所有されるだけで幸せって言っておきながら、たった一人以外は嫌だなんて。
私達は物だけど、付喪神になった時点で人間と同じように意思を主張する手段を手に入れて、だから少しだけ前よりワガママになっちゃったんだと思う。
良くないとは思うよ、でもこの気持ちは言うこと聞いてくれないの、だからごめんね。私、その時から少しだけワガママになってもいいかなって、開き直ることにしたんだ。
だって柳の下で偶然出会うぐらいに惹かれ合っちゃうんだもん、これは神様がくれた引力に違いないと思わない? ムダにするのはもったいないよ。
それにね、神様がくれた物って言えば、大体の人は”仕方無い”って納得してくれるでしょう? だから問題ないの。

今日も迷わず外に飛び出せたのは、引力の存在を確信してたから。
里に居ない可能性だってある、行き違いになって帰っちゃったかもしれない。
でもそんな可能性は微塵も考えなかったし、見つけられない結末を、その前に雨が止んじゃうバッドエンドも、欠片も想像しなかった。
今の私にあるのは、ただただ彼女を待ち焦がれる思いだけ。
勝手に押しかけて役に立ちたいって思う、道具らしく健気で、人間らしく我が儘な感情だけなの。

「かーあさーんぼっくのーをかっしまっしょかー」

だんだん人里が近づいてくる、雨脚が弱まる様子はない。
この調子なら迎えに行くまで持ちそうかな、空は向こうの方までどんよりとした雲に覆われているし、もしかしたらこのまま長雨になるかもしれない。
それはそれで困るかも、だって食べ物が長持ちしなくなるし、洗濯物が乾かなくなっちゃう。
雨は好きだけどじめじめした空気はあんまり好きじゃない、世の中ってなかなかうまく行かないようにできてるよね。

「きーみきーみこーのかーささーしたーまえー」

そういえば、最近お買い物に行くと、所帯じみてきたってよく言われるようになった。
最初に言われたのは、八百屋さんで野菜を選んでる時だったかな。
まるで本当の奥さんみたいだって。
湿気が嫌になってきたのもその影響なのかも、以前の私なら雨の日は無条件に喜んでたはずだから。
傘としての喜びとはまた違う意味で、人に尽くす喜びを覚えたって言うか、あの場所で暮らすことに慣れてきたって部分もあるんだろうけど。
奥さんなんて滅相もない、なんて謙遜しながらも、実は言われる度に飛び上がりたいぐらい嬉しかったりするんだけど……まあ、実際はさすがにそこまで欲張りは出来ないかな、そばにくっついて尽くせるだけ
で十分幸せだから。
どんなに惹かれたって、心のどこかで一歩引いちゃう自分もいるんだよね。
付喪神だからなのかな、傘だったからなのかな、それとも捨てられていたから?
”奥さん”なんて、それはただの夢物語、私の妄想。
置いてもらえるだけで過ぎた幸福で、まるで家族のように扱ってもらえるだけで胸が一杯になるぐらい幸せで。
生き物の欲望はどうしてこう際限ないのか、現状で満足できる土壌は整っているはずなのに。
本当は、傘として使われるだけでも幸せなぐらいなんだから。
この歌の主人公が男の子であるように、傘は添えるだけの舞台装置に過ぎないの。
それが主役になろうなんて、調子に乗るのもほどほどにしないとだよ、私。
……そうやって、私の中にいるネガティブな私が自分自身を諌めるのです。

「ぼーくなーらいーいんーだかーあさーんのー」

そう、私のことなんて気にしなくていいんだよって。
私の下で早苗と知らない誰かが二人が並んで、幸せに笑ってもらえるなら、それで。
今日だって、実は向かった先で私の知らない誰かと並んで、二人で幸せそうに笑っているかもしれない。
その時は、私がただの傘になって二人を雨から守ってあげよう。
そしたら……そしたら……っ。
ううぅ、うあー! 無理! やっぱ無理! どんなにネガティブでも、以前の私ならともかく今の私にはそんなの無理だって!
だって、ワガママなんだもん。だって、好きなんだもん。
私は今の場所を誰にも譲るつもりなんてない。私以外の誰かがいる所なんて想像もしたくない!
趣味はちょっと変わってるけど、美人で笑うと可愛くて、頼りがいがあって、ちょっといじわるで、でも優しくって――ほら、ちょっと考えただけで好きなこと、こんなに出てくるよ。
まだまだいっぱいある、語らせれば一時間だって、二時間だって、それこそ終わらないぐらいずっとずっと言い続けられる。
こんなの、譲れるわけ無いじゃない。
この傘は二人用で、左側は私って決まってるの。
だから入れるのはあと一人、そこは永遠に指定席だから。
やっぱり誰にも譲れない。
他は全部譲れても、私の隣で歩く権利だけは、絶対に。

「おーおきーなじゃーのめーにはーいってくー」

そして、ようやく私は人里にたどり着く。
いつも通りなら門をくぐってすぐのあの場所に……あ、やっぱり居た。
軒下で雨宿りしてるみたいだけど、雨空を見上げながら眉毛をへの字にしてて、困った顔がなんだかちょっとだけ変だ。変かわいい。
思わず吹き出してしまう。
本当に困ってるんだろうし変だって言い方は失礼かもしれないけど、そう見えちゃうんだから仕方無い。
それにね、変だろうと何だろうと好きな物は好きなわけで、その姿を見ただけで自分で自分の表情がぱあっと明るくなるのがわかった。
鏡なんて見なくてもわかる、今の私はひと目で分かるぐらい幸せに笑ってるだろうから。
タイミングもバッチリだ、歌はもう最後だしね。

「ぴっちぴっち」

距離は結構あったけど、辻褄を合わせるように歩幅を大きくして。

「ちゃっぷちゃっぷ」

さすがにここで汚れるわけにはいかないから、水たまりを巧みによけながらぴょんぴょんと跳ねる。

「らん、らん、らんっ!」

ホップ、ステップ、ジャンプ!
最後の三歩は少々無理があった気もするけど、概ね計画通りに目的地へ到着。
突然飛び跳ねて目の前に現れた私を見て、いつかと同じようにぽかんとしている。

「えへへ、びっくりした? びっくりしたよね?」

おー、驚いてる驚いてる。まさに計画通りだね、その顔が見たくて走ってきたんだから。
んふふ、いいぞいいぞ、世は満足じゃ。
そしてまたあの時と同じように、その顔にはすぐに笑顔が溢れ、私の頭に手が伸びた。
柔らかな感触、そして暖かさ。
飽和した幸福感が更に追加で注がれて、私の器の臨界点を突破した。
幸せすぎて思わずふにゃあと溶けそうになる。犬だったらさぞ全力でぶんぶんと尻尾を振ってるんだろうなあ。
だめだめ、気をしっかり持つんだ私。
私には雨が止む前に相合傘で送り届けるっていう使命があるんだから、ぼけっとしてる場合じゃない。
止んじゃったら、傘としての使命も、私のワガママも果たせなくなってしまうじゃないか。

「さ、一緒に帰ろ?」

私の傘は案外広い、二人を覆うには十分すぎる広さがあった。
とはいえ所詮傘は傘、どうしても肩を寄せ合うことになるし、全く触れ合わずに歩いて行くのは濡れない限り不可能だったりする。
もう何度も送り迎えしてるはずなのに、私はその度に心臓をバクバク高鳴らせてる。
好きすぎるのも考えものだ、いい加減になれなきゃって思ってるのに、気持ちが大きすぎるとそれすらもできなくなってしまう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、肩を寄せあって歩いていると彼女はいつもの様に申し訳なさそうに”ありがとう”とお礼を言ってくる。
違う、違うんだよそれは。
何度も説明してるはずなのに、ただ使われるだけで嬉しいっていうのは人間には理解しにくい概念なのかな。

「お礼なんていいよお、私がやりたくてやったことなんだから」

そう、やりたくてやったこと。
道具として、付喪神として、私の場合はそれに加えて尽くしたいっていう自分の気持ちもあって、こうして役に立てるだけで嬉しくて嬉しくて仕方無い。
むしろありがとうって言いたいのは私の方なのにさ。
これは何度でも根気よく説明しないと、いつまでたっても理解してくれそうにない。

「それにね……」

いつも通りの説明じゃ、どうせまた忘れられるに決まってる。
だったら、少し踏み込んでみよう。
いつもより直接的に、いつもより大胆に、人の気持ちの動きには敏感なくせに、こういう事に限ってにぶちんな誰かさんでもわかるように。

「私は、早苗の物なんだよ?」

言葉通りの意味に加えて、それ以外の意味も含みつつ。

「早苗のためだったら全力で尽くすし、好きに使ってくれていいの。
 望まれれば、私は望まれるがままにしてみせるから」

さすがの早苗も私がただ傘として使って欲しいと言っているわけではない事に気付いたのか、ほっぺたを赤くして何やらそわそわしている。
うーん、いい感じに驚いてくれてるね。
使われる側だけど、たまには手玉に取るぐらいいいよね。

「ぜーんぶ、好きにしていいんだからね」

早苗の手を取って、私の胸に当てたりしてみたり。
自分でもやりすぎたかな、と思ったけど、これぐらいやらないと早苗には届かないよね。
届いてるかな、私の胸の鼓動。
張り裂けそうなぐらいにうるさく鳴り響いてる、これでからかってるわけじゃないってこと、わかったでしょ?



結局、雨は神社に辿り着く前に止んでしまった。



灰色の雲は太陽に追いやられ情けなく退却し、雲間を割いて陽の光が差し込んでくる。
さっきまでの夕立が嘘のように、あっという間に晴天に逆戻りだ。
だけど、私達は傘を差したままだった。
日傘として使ってくれている……わけではなく、”私を使って欲しい”っていうワガママな気持ちが通じたから、それに付き合ってくれてるんだと思う。

色々と心配事はある、悩み事だって沢山。
私達の関係は、以心伝心と呼ぶには程遠い。
互いの理解も、過ごした時間も、そして自信も、なにもかも足りなすぎるから。要するに発展途上なのだ。
だから、あそこまで大胆な手段を取らないと気持ちは通じない。
歯がゆく思っているのは私だけじゃないのかもしれない。私が知らないだけで、早苗にも私に伝えたくても伝わらない気持ちがあってもおかしくはない。
私達が通じ合うにはまだまだ遠そうかな。
けどさ、あんまり先のことを考えてネガティブになってもしょうがないんだよね。
今が良ければそれを喜ぶべきだよ。
そう、たった今、私の思いが少しでも通じんたんだから。
その事実を今は喜ぼう、その結果を今は楽しもう。

「雨……止まないね」
「ふふ、そうですね。ぜんぜん止みそうにありませんね」

早苗は楽しそうに笑ってくれた。
だったら大丈夫。早苗が信じてくれるなら、どんなに晴れても、例えこの世から雨が無くなっても、私達の世界には雨が降り続けるから。
しかも私に都合よく、食料も傷まず洗濯物もカラッと乾く、そんな素敵な雨。
私達の世界なら、相合傘に理由はいらない。肩を寄せ合うのに言い訳も必要ない。
だって、いつだって雨が降っているんだから。
誰にも見えない優しい雨は、私達の世界を潤していく。
明日も、明後日も、私が傘であるかぎり、早苗の隣にいる限り――ずっと。









「小傘さんがさっき唄っていた歌……あめふりですが、あれの三番に柳の根方で泣いている子供が出てくるじゃないですか」
「うんうん、びしょびしょに濡れてて、可哀想に思った男の子がその子に傘を貸してあげるんだよね。
 優しいよねえ、やっぱり蛇の目傘を使ってる子は一味違うね!」
「実はあの子、死んでるって知ってました?」
「へ?」
「柳の木は幽霊の枕詞みたいなものですから、しかもびしょ濡れとなればこれはもう幽霊に決まってますよね。
 この子、母親と一緒に帰る子供に嫉妬して出てきたそうですよ。しかもそのあと、傘を貸した子供は嫉妬のあまり呪い殺されたとか……」
「え、ええっ!? う、嘘だよね? 優しいお話のはずだよね!?」
「ふふふ。そういえば、歌ってるとその霊を呼び出すなんて話もありましたねぇ……」
「こ、怖いよ……そんなの聞いたらもう歌えないよぉ……」
「……小傘さんも一応妖怪ですよね、幽霊怖いんですか? まあ、何にせよ怯えてくれたなら大満足です。
 さっき私を驚かせてくれましたから、そのお返しですよ」
「なっ、やっぱり嘘なんじゃないっ! もう、早苗ったらいじわるなんだから」
「いえいえ、お返しとは言いましたが嘘とは言ってませんよ? 実際、外の世界にそういう都市伝説がありましたからね」
「うわあぁぁぁぁんっ!」
kiki
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3.100名前が無い程度の能力削除
小傘かわゆいですねぇ……
4.80奇声を発する程度の能力削除
可愛くて良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
こがさなは至高
6.100名前が無い程度の能力削除
凄い綺麗なこがさなでした 
7.100名前が無い程度の能力削除
誰だ俺のハイボールに砂糖たっぷり入れたのは
12.90名前が無い程度の能力削除
なんだこの小傘は……。
可愛い。
14.90名前が無い程度の能力削除
あざとさが限界を超えて可愛い
15.100名前が無い程度の能力削除
こがさなはいい…癒される…