Coolier - 新生・東方創想話

彼女を生み出す夜の股ぐら

2015/07/08 22:54:05
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 箒にまたがって魔法の森をひと飛びに飛んでいたとき、魔理沙は『そのもの』に出くわした。夕暮れに沈む森の瘴気のただなかに、何か血なまぐさいものが混じっているような気がしたのだ。彼女は高度を下げて飛行を止め、すばやく地上に降りていく。

 ぬたぬたという泥に泳ぐような音を頼りに近づいていくと、巨人の傘のようによく育った大樹の根元で、宵闇の妖怪がひとり、死んでいた。お、ルーミアだ……というつぶやきを、魔理沙は即座に引っ込めた。ルーミアは死んでいたというよりも、殺されていたからだ。

 年経て化生した大猪の化け物が、捻じくれた牙を突き出して少女の胸を突き破っていた。あまりに勢いが強すぎたのか、ルーミアの身体はふたつに分かれてしまっていた。水気を含んでごわごわになった猪の毛並みの中からは、もうひとつの歪んだ口が覗いている。その背の口から臭い息を吐き出しながら、猪は少女の足をむしゃむしゃと食んでいるのだった。

 ――が、身体の方が成長しても、獣の常たる警戒心までは変わらなかったらしい。魔理沙という異物が自分を見つめていることに気づくと、大猪はせっかくの獲物を諦めて、どすどすと足音を立てながら森の奥へと逃げ去ってしまった。

 魔理沙は呆気にとられて大猪を見送った。後には、自分と屍体とが残された。
 ルーミアめ、以前から間の抜けたやつだとは思っていたが――と、魔理沙は独語する。まさか、人化もできないような野良妖怪にやられちゃうなんてな。

 仮に相手が人間なら、魔理沙も弔いの気ぶりを起こしたり、屍体を引き取ってくれる者を探したりするだろう。だが、ルーミアは妖怪である。そもそも妖怪に弔いが必要なのかどうかも解らなかった。代わりに、魔理沙の中には好奇心が湧き上がってきた。びりびりに破れ、血に濡れた少女の洋装をていねいに剥がすと、身体のつくりが人間同様かどうか、仔細な観察を試みる。なるほど、ばらばらに引き裂かれた屍体であっても、ルーミアの身体はまさに『人間』そのもののかたちをしていた。魔理沙はポケットから手帖と万年筆を取り出す。医学者がそうするようにルーミアの屍体のスケッチをするつもりだったのだが、相手のかたちが人間同様だと理解した今では、そんな気持ちは薄らいでいった。代わりに簡単な所見のみをメモすると、彼女は再び自身の箒に飛び乗った。妖怪の屍体についての情報。何だか、その筋に高く売れそうだという打算がないでもなかった。


――――――


 魔理沙がルーミアのことを思い出したのは、それから一週間のちのことである。人里にある喫茶店に入り隅の席に陣取ると、待ち合わせていた霊夢と早苗との三人で、別に何か重要なことを語らうでもなく一時間ばかりおしゃべりに興じていたときだ。

「そういえば、こないださ。一週間くらい前の夕方なんだけど」

 チーズケーキをフォークで切り崩しながら魔理沙は口を開く。

「ルーミアが森で妖怪に襲われてたんだよ。でっかい猪の妖怪だ。ありゃ、たぶん“成りたて”の新参者だぜ。知性もないからスペルカードや弾幕の機微も理解できない。ああいうのにいきなり向かってこられちゃ、宵闇の妖怪サマも形なしってやつだな」

 もちろん、ルーミアは大猪に殺されていたとか、身体がばらばらにされていたとか、そういう辺りは場所をわきまえて秘密にしていた。ケーキの甘さに合わせて一緒に頼んだブラックコーヒーを飲む魔理沙を、しかし、向かい側の席に座っていた霊夢と早苗は、何かおかしなものに相対するような目で見ているのだった。

「な、何だよ。その目は」
「魔理沙、あんたってときどき変なこと言うわよね」
「は? どういうことだ」
「ルーミアなら一週間前、博麗神社の周辺を暇そうにふわふわ飛び回ってたわよ、一日中。あんまり邪魔だったから、夕方になってから弾幕ぶつけて追い払ったけど」

 チョコレートパフェのクリームの下からコーンフレークをほじくり出すのに夢中になっていた霊夢は、甘いクリームに濡れたスプーンの先で魔理沙の顔を指す。すると、フルーツあんみつのてっぺんに乗ったさくらんぼのヘタを口の中で結ぼうと悪戦苦闘していた早苗が「ふたりとも言ってることがおかしいですよ。一週間前の夕方といえば、守矢神社でこころさんの奉納演舞がありましたよね。あの子――ルーミアでしたか――は、鍵山様に連れられて、一緒に演舞を見物してましたよ」と、ヘタを懐紙に吐き出しながら告げるのだった。

 三人の少女たちは、互いの顔を見合わせた。
 誰かが嘘をついているのだろうか。それとも、冗談を言っている?

 いや少なくとも、魔理沙にとって自分の体験は嘘でも冗談でもない。
 現にルーミアの屍体について所見を記した手帳は、今も持ち歩いている。
 私のアタマはしっかりしてるぜ、昨晩はばっちり九時間睡眠だから寝不足の幻覚なんてのも有り得ない、と、彼女は心の中でつぶやいた。では霊夢か早苗だが、そのどちらの言葉も本当であるとしか思えない。ふたりは、めったやたらと虚言を弄して楽しむような性格でもないのだ。

 何とも不思議なこともあるものだと三者三様に納得すると、ルーミアについての話はそれきりになった。


――――――


 喫茶店でのおしゃべりもお開きになってから、魔理沙は当てどもなく街を歩く。
近ごろは命蓮寺の門前にどこからともなく人妖たちが集まり商売を始めたのもあって、彼らによる屋台が軒を連ねる様はちょっとした仲見世の様相だ。群がる人波をかき分けるようにして進んでいくと、店々に押し遣られるようにしてぽつんと建っている空き家が数軒ある。それら空き家に囲まれた路地に、ふと魔理沙は眼を向け、そして、息を呑んだ。

 そこにはルーミアが居たからだ。
 一週間前の夕暮れ、確かに最期を見届けたはずのルーミアが。

 唇を尖らせた魔女は宵闇の妖怪へと歩み寄り、何してんだ、とシンプルに尋ねる。何もしてないをしてる、と、ルーミアは答えた。その小さな身体を壁際にぴたりとくっつけ、空き家の影が作り出す薄闇に身を浸すように、彼女はただ立っているばかり。

「不思議なことがあったんだよ。私は一週間前の夕方、おまえが森で大猪の妖怪に襲われてるとこを見た。でも、霊夢は博麗神社の周りを飛び回ってたって言う。早苗は守矢神社の奉納演舞を見物してたと言ってたな。それならおまえ、一週間前の夕方には、本当はどこで何してた?」

 私たち三人の話のうち、どれが本当なんだ?
 まどろっこしい議論が嫌いな魔理沙の性分、衒うこともなくずばりと問う。
 するとルーミアは、どこか白痴の態であることさえ感じさせるような朗らかな笑みを浮かべた。それから、「ぜんぶ本当だよ」と答えた。

「わたしは魔理沙に見られてたし、霊夢に追い払われてたし、奉納演舞も見物してた。鴉天狗に取材を受けてたし、稗田の書き物に墨を垂らしていたずらもしてた。尸解仙の皿を勝手に割ったりもしてたっけ」
「何だそりゃ。それがぜんぶ、おまえが体験した一週間前の同じ時間の出来事だってのかよ」
「そうだよ」
「ばからし。冗談も大概にして欲しいもんだぜ。やっぱみんなして夢でも見てたのかもな。この魔理沙さんまで含めて」

 真相を確かめることなく、魔理沙はその場で箒にまたがった。
 魔法の力が不可視の力場を形成し、箒の尾が風を孕んで魔女を飛翔させる。ルーミアは、その様子を面白そうに眺めているだけだった。


――――――


 大気の壁にぶち当たって脱げそうになる黒帽子をしっかり片手で抑えながら、自らの城へ急ぐ魔理沙である。箒の飛翔はトップスピードに到達して久しく、紅魔館からかっぱらってきた稀覯本の重みも忘れさせる。さて、家に帰りついたら何をしようかと、夜の予定をあれこれと練っていた。頃合いは、すでに夕刻だ。赤々と燃える夕陽も沈みかかかり、空は黒い黒い夜の切れ端をぶら下げていた。

 妖怪の山の近くを通りかかったとき、魔理沙はあることに気がついた。

 河童たちが山に取りつけた電燈の明かりを縫うようにして在る、山際の暗闇に、何かうごめくものが居るのだ。否、暗闇そのものがうごめいているというべきか。うぞうぞと、大小様々な黒い点が離合集散を繰り返し、山全体を覆い尽くそうと『目論んでいる』。そう、目論んでいるのだ。そいつは――そいつらには、明確な意思が介在していることが理解できる。あたかも軍勢であり、隊列である。無数に分列して行進する暗闇の軍勢は、東の果てから昇ってくる夜そのものから生み出されていた。幾つも、幾つも、飽くことなく。

 魔理沙は箒の先を引っ張って自らの飛行に制動をかけると、闇の有り様を観察するためにその場に留まり、ゆるく旋回し続けた。闇たちはその数と勢いをどんどん増していき、ついには妖怪の山とその麓を呑み込んでしまう。あれは、いったい何だろうか。こんなのは今まで見たことがない。魔理沙は、急いで手帳と万年筆を取り出そうとした。だが、高空でのこと、急に吹いてきた突風に煽られて、愛用の二品を取り落してしまったのである。

 うわッ、と、小さな悲鳴を上げたとき、闇たちは行進を止め、空を見上げた。魔理沙を見たのだ。しかし、何をするでもなかった。じいと、ただこちらを見ているだけ。そこに何らかの思惟や企みを感じ取ることは十分に可能だっただろうが、魔理沙はあえてそうした諸々の考えを頭から振り払った。手帳と万年筆を取り戻すことは諦め、魔法の森にある自らの家へと箒の先を巡らした。


――――――


 八卦炉というのは便利なもので、火力を調節すれば生活の用具としても十分に使える。最低火力に設定した炉の上に水で満たしたマグカップを置き、ラベンダー系の精油を数滴ほど垂らすことで、魔理沙の部屋には甘やかな香りが満ちていく。ごく下級の小さな妖精を詰め込み、その翅の光で輝くランプを友としてベッドに寝転がると、魔法図書館の稀覯本を読みふけり始める。三十ページほど読み進めたところで、内容を書写しようと決めた。彼女の魔術書(グリモワール)は、色々な魔術書の“良いとこどり”をした継ぎ接ぎなのだ。万年筆を探したが、しかし、ちょうど帰路に失くしてしまったと思い出す。仕方がないので自分の小指ほどまで短くなった鉛筆を見つけると、それで紙に書きつけ始めた。

 しかし、なかなか作業に集中できない。
 万年筆を紛失するきっかけになった出来事――数時間前、陽の沈みかける山際に見た、あの群れ動く暗闇の軍勢のことが頭に引っ掛かったままでいたから。あれはいったい何だったのだろうか。不気味だったが、とりたてて危険な化け物でもないらしい。夜の闇が固まって、地表に残る昼の残党を駆逐せんとするような勢いではあったけれど。そういえば夜とか闇は、あのルーミアという小妖怪の領分だったが……と、そこまで考えて、ふと、空想する。

 あの夜の闇の軍勢は、すべてがルーミアではなかったか。
 毎日過たずやって来る夜の中から無数の彼女が生まれ、軍勢のようにこの幻想郷に解き放たれ、押し寄せてきているのではないだろうか。それならば、自分と霊夢と魔理沙が、同じ日にまったく別の場所でそれぞれルーミアに出くわしたというのも納得がいく。ルーミアは、この幻想郷にたくさん居るのだ。何人も何人も。

「って、アホか! ……早く寝ろ、霧雨魔理沙」

 くだらない空想は、夜が深まって眠気が高じたせいだろう。こんなときはさっさと寝て、心身を休めるに限るのだ。壁に掛けられた時計を見ると、とっくに十二時を回っている。

 八卦炉を取り上げて火を消すと同時に、魔理沙は大きなあくびをした。
 疲れを自覚すると、急に眠気が昂ぶっきてしまうから人間は難儀だ。読みかけの本を枕元に押し遣ると、そのまま枕に頭を乗せる。本当はシャワーくらい浴びて寝巻に着替えてからベッドに抱かれたいが、とりあえず今はこのまま一時間だけ眠ろうと決める。シャワーはその後だ。

 そんな決意も儚く、魔理沙の寝息は少しずつ深まっていった。まどろみの底に少女の意識は落ち込んでいく。何も意味のあることを考えられなくなり、夢と現実の境が薄れていった。

 ぼんやりと見開かれた彼女の眼は、ベッドの向こう側に置いてある書き物机を見つめている。何かの機会に手に入れた銀の鳥籠がそこにはある。蓋を閉められた鳥籠の中は、さながら古代の闘技場。ルーミアと、ルーミアを殺した大猪が、今また対決のときを迎えているのだ。雄々しく突撃した大猪は、臭い息とともにその捻じくれた牙を突き出す。だがルーミアは動じない。彼女は一瞬にして衣服を脱いで裸になると、脚を大きく拡げ、少女としての自身の『裂傷』を示して見せた。赤黒い肉の裂け目は、確かに裂傷というよりほかになかった。そこには牙が生えていた。鋭い舌が伸びていた。欲望にむせぶ唾液がぽたりぽたりと滴っていた。頭の口と、股ぐらの口とが、同時に嗤う。ルーミアは鳥籠の狭さを忘れたかのように跳び上がると、大猪の鼻先に自身の股ぐらを押しつけるのだ。そして、とても少女のものとは思えない法悦のうめきを長く響かせたかと思うと、彼女の股が、大猪を毛の一本とて残すことなく喰い殺し、飲み込んでしまったのである。

 鳥籠の中の夢はそこで終わる。魔理沙はベッドの上で身震いしていた。なんて、ろくでもない夢なのだろうか。ルーミアは確かに人化した妖怪だが、それにしたって股に口が在るなんてのは、いくらなんでも“妖怪が過ぎる”というものだ。彼女の身体の構造は普通の人間と変わりないと、屍体を検分して確かめているのに。

 しかし、けれど。
 ほんの小さな疑問が、微睡む心の奥に兆す。

 もしも、本当に――ルーミアの身体のどこかに、そういう『口』があったとしたら。自分が屍体を見たルーミアがそうでなかったとしたら、ルーミアが他にも居るとしたら、その中のひとりにはそういう身体の者が居るとしたら。夜の闇の軍勢を形づくるのが本当に無数のルーミアだったとしたら、彼女らがみな霧雨魔理沙には与り知らぬ構造の肉体をした、化生の集団だったとしたら。

 決して答えを知り得ない疑問は、澱のように降り積もり、凝り固まっていく。ランプの火種にされた妖精たちは、自らの翅を燃やし尽くしてすでに死んでいた。徐々にその光が弱まり、真夜中の暗みが我が物顔で魔理沙の部屋に己の領分を拡大していく。尽きせぬ闇の向こう側に、何かが潜んでいてもおかしくはない。得体のしれぬ力と武器を持った者たちが、魔理沙を狙っていても不思議ではない。そいつらは身の丈を大きくし、少女の首筋に刃を這わしているかもしれないではないか。寝床での空想は不用意に大きくなっていく。夜や暗闇というのは鏡なのだ。人の心を投影する鏡。何も見えない空間だから、“虚像こそが真の現実として目の前に立ちはだかってくる”。家の周りはすでに取り囲まれていて、脱出など不可能だ。ルーミアは青い肌をした凌遅の刑吏、つるぎの毛並みを持つ若い豹、土の汗を流す百足として魔理沙をつけ狙っている。溶岩の針が施錠されたドアの鍵穴を壊そうとし、後退しかできない獏の王が懸命に壁を突き破らんとしているのだ。空想すればするほどに、闇は姿と意味とを与えられ、その力を増していく。闇のなかとは、空の鳥籠のことである。何もない虚無は、どんなものの棲み家にでもなる。少女だと思えば少女にしかならないし、そこに居るのだと思えばどんな所にだって現れる。地の果てから大勢で行進していると思えば、それは軍勢となってしまう。ましてやその軍勢を形づくる闇たちが、すべて同じ姿(ルーミア)なのだと考えるのなら。それらを知り、考え、記憶する限り、彼女たちは闇の中に在り続ける。股ぐらに鋭い牙を備えたルーミアの王、恐怖たるものの領導者が、鳥籠の蓋を巧妙に開錠して戒めから脱すると、壁を、床を、天井を、這いずり回り、人型の甲虫のように、ひちひちと牙と牙とをこすり合わせ、魔理沙の首筋を断ち切ろうとベッドに飛び乗ってくる。ぎしぎし、がたがた、少女と怪物の静かな格闘がベッドを軋ませる。
 
 眠ってしまえ、眠ってしまうのがいちばんだと、魔理沙は己に言い聞かせた。
 そうすれば、朝には怖いこともなくなってしまう。
 疲れた身体は求めに応じ、心地よい眠りを与えてくれた。もはや恐怖も空想もともに沈んで消え去っていく。

 ルーミアに率いられた怪物たちがひちひちと牙をこすり合わせ、闇の向こうで悔しがっていたところを、魔理沙はもう見ていなかった。


――――――


 結局、魔理沙が目覚めたのは一時間後どころか、翌朝だった。すっかり寝癖がついてごわごわになった金髪を面倒そうに梳りながら、彼女はまた大きなあくびをするのだった。何か悪い夢を見たような気がするが……と独語し、散らかしっぱなしになっていたベッドの上を片づけようとするが。

「あれ? この鳥籠、蓋が開いてら……」

 書き物机の上に在る銀の鳥籠の蓋が、いつの間にか開いていた。鳥を飼ったことはないから、手に入れるだけ手に入れて、今まで使ったこともなかったのに。それに、何だか血なまぐさい。寝ぼけてどこか怪我でもしたか。

「ま、とりあえずシャワーだな、うん。シャワー浴びよ」

 大きく伸びをすると、浴室へと飛び込んでいく魔理沙。数分の後にはシャワーの水音が家じゅうに響き渡る。いつもと同じ、爽やかな朝の始まり。裸の身体に石鹸の泡をこすりつけながら、気味悪い夢を見たけど何だかひどく“ラッキーな”夜だったって気がするな、と、ぼんやり、ぼんやり、考える。


――――――


 命蓮寺前の仲見世の上空を箒で飛び越え、魔理沙はいつもの喫茶店へ急ぐ。

 今日もまた、何するでもなく霊夢と早苗とおしゃべりをするだけの集まりがある。昨晩は悪い夢にうなされていたような気がするし、魔術書の写しは終わっていない。だが、シャワーを浴びてさっぱりしたので気分だけは爽快だ。この無意味に爽やかな気持ちを幻想郷の人々にも分けてやりたいくらい。

 そう思って地上を見下ろすと、眼下に在ったのは空き家の群れ。空き家と空き家の間には狭苦しい路地が通っていて、そこには相も変わらずルーミアが壁に背を預けて立っているのだ。ヘンなやつだよなあ、と、思いながら、待ち合わせ場所の喫茶店へ向けて魔理沙は降り立つ。すでに店内で席を占めていた霊夢と早苗が、フルーツタルトを三つに切り分けて待ち受けていた。ひと切れは魔理沙の分だが、こころなしか、他のふたりのより、小さい。

「いや、ちょっ……そういうことする?」
「遅刻してきたペナルティと思いなさいな」
「大丈夫、とても美味しいので足りない分も取り戻せますよ」

なんておそろしいやつらだとボヤきながら席に着いて早々、彼女は何か大事なことを思い出したようにふたりに問うた。

「なあ。ルーミアって居るだろ。私、あいつはやっぱりこの幻想郷にひとりだけじゃないと思うんだよな。…………」
ルーミアは生えてる(断言)
こうず
http://twitter.com/kouzu
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コメント



0.920簡易評価
1.100智弘削除
近頃の自分は話の芯より外側にばかり気を取られてる気がします
と思いながらも、この話の女の子三人が集まってきゃらきゃらやってるところがとても可愛いという感想を残します。
3.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアちゃんマンイーター。
闇に恐怖すると闇に飲まれるってことですか。そこの廊下の暗がりにもルーミアがいてくれたら良いですね。
4.100名前が無い程度の能力削除
一人ください、大事にしますので
6.90名前が無い程度の能力削除
生えてる、間違いない(確信)
8.80奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
闇とは未知であり、想像の世界なのかー
11.100名前が無い程度の能力削除
いいね
14.100名前が無い程度の能力削除
ルーミア多人数設定ですね。ルーミアの設定の幅がもっと広がればいいと常々思っています。あと、もっと長く書いてほしかったです。
15.100名前が無い程度の能力削除
作風・解釈ともに素晴らしい。この世界観でのさらなる話も読んでみたいです
16.100名前が無い程度の能力削除
『這いうねる闇』という言葉を思い出してしまった。
17.90名前が無い程度の能力削除
闇はそこらじゅうにあるから。
20.100名前が無い程度の能力削除
闇がどこにでもあるようにルーミアもあらゆる場所に存在する…良いですね
妖精を利用したランプなど世界観も魅力的でした
24.100名前が無い程度の能力削除
見えない闇の中、その先を想像して恐怖が形を得る、という感覚がよくわかる作品でした。