Coolier - 新生・東方創想話

悪邪の即興劇 ~ When I green you and pink your heart, then you'll blue for the yellow scarlet rose.

2015/06/08 03:40:48
最終更新
サイズ
33.98KB
ページ数
1
閲覧数
1004
評価数
1/9
POINT
390
Rate
8.30

分類タグ

「魔理沙! 私、フラン! 今あなたの後ろに居るの!」
 魔理沙が振り返ると、フランが大きく口を開けて肩口に噛み付いてきた。魔理沙は為すがままにされつつ、フランが手に持つスマートフォンに目をやる。魔理沙の肩を甘咬みしていたフランは、魔理沙の視線に気がつくと、嬉しそうにスマートフォンを見せびらかした。
「魔理沙も欲しい?」
「んー、興味はあるな」
「でも、駄目! これはお姉様に買ってもらったんだもん」
「分かってるよ」
 魔理沙とフランがじゃれあう居間に霊夢が入ってきた。卓袱台の上にお客様用の湯呑みと魔理沙用の湯呑みを置いてお茶を注ぎながら、フランの持つスマートフォンに目を向ける。
「随分したんじゃないの?」
 フランに向けた質問だったが、代わりに魔理沙が答えた。
「そりゃそうだぜ。この前、にとりに頼んだらさ、友達でまけにまけても、三十円もするって言うんだ」
 フランがきょとんとした顔で首を傾げる。
「香霖堂? って所で買ったら十円だったよ?」
「香霖堂に? 何だ正規品も流れついてたのか。そういや河童が真似したこいしのやつも外から流れてきたやつだもんな。いやでも十円でも高い!」
「そうなんだ。十円ってどの位?」
 貨幣等使った事の無いフランには見当もつかない。魔理沙は厳しい表情で凄みを効かせ、フランを睨む。
「十円っていうのはうちの今月の売上と同じ位だ」
 霊夢が呆れて肩を落とす。
「魔理沙、それは少なすぎ。よく生活出来るわね」
「今月は特別客が来なくて。ま、とにかくだ。十円でも凄く高い!」
「そうなんだ」
 フランはスマートフォンを両手で握り締めて、姉であるレミリアに感謝する。
「最近、流行ってるの? それ。こいしも持ってたわよね」
 霊夢がスマートフォンを指さすと、魔理沙は首を横に振った。
「持ってるやつは殆ど居ないんじゃないか? こいしは外から流れて来たやつだし、フランのもそうだろ? 一応河童がこいしのやつを借りて同じ物を作ってたけど、簡単に作れるものじゃないらしいな。外の世界は何とかかんとか技術が物凄く発達してるらしい」
「早苗が酷く欲しがってたけど、それ。なんて言ったっけ?」
「スマホ」
「そうそう、スマホ。電話なんでしょ? 霖之助さんのお店で見たのとは随分違うのね」
「最新式らしいからなぁ。いずれにせよ、電話を使う為の電波を飛ばせる場所じゃないと使えないから、妖怪の山でしか使えないらしいけど」
「ふーん、妖怪の山の中でなら、大声出せば届きそうだし、高い買い物の割にって感じね」
 霊夢が呆れた様に、フランの持つスマートフォンに目をやると、フランが不機嫌そうにしていたので、慌てて弁解した。
「あ、ごめん。私には使いこなせないってだけで」
「良いよ。お姉様が買ってくれたのが大事だし」
「いや、ごめんって。あ、それ、その人形、可愛いわね」
 そう言って霊夢がスマートフォンに付いた二つの布製の人形を指さした。犬の形をしていると思しきその人形は明らかに歪で、素人の手作りである事が伺える。だからこそ、霊夢はそれがフラン作であろうと思って褒めた。案の定、フランの顔が綻ぶ。
「本当? これね、こいしとこころが作ってくれたの。永遠亭でね、みんなでお互いの人形を作って。これね、狼!」
 機嫌を直したフランは、霊夢に羨ましいだろうと自慢してから、スマートフォンをいじり始めた。
「何をやってるの?」
 霊夢の問いに、フランはスマートフォンから目を離さずに答える。
「日記」
「日記?」
「何か日記を書けるらしいぜ。っていうか、メモか。それ。他にも電卓だとかも使えるんだってさ」
「へえ、それは凄いわね。私電卓も持ってないわ。あれ、でもさっきは妖怪の山じゃないと使えないって言ってなかった?」
 霊夢が辺りを見回しても、電波なんてありそうにない。
「一部の機能はそれ単体で使えるんだって。他にも写真とか」
「何処にフィルムを。って、ああ、あのデジカメって言うのか」
 霊夢と魔理沙がスマートフォン談義に花を咲かせていると、突然フランが「ああ!」と急に大声を上げた。
 悲痛な叫びに、魔理沙と霊夢は目を見張り立ち上がる。
「どうした?」
「何があったの?」
 警戒する二人に、フランが涙を浮かべてスマートフォンを掲げた。
「分かんない。急に消えちゃった!」
「急に? そんな馬鹿な」
 フランのスマートフォンを覗きこんだ魔理沙は、少し考え、にっと笑う。
「フランさん、私、この事件の真相が分かっちゃったんですよ」
 フランが驚いて目を見開く。
「え? 本当ですか、探偵さん」
「ええ。実は以前にも、私、同じ状況を見た事がありまして、それでぴーんと来たんです」
「真相を教えて! 私のマーシーを殺したのは誰なの?」
 縋ってくるフランの目の前に、魔理沙は指をさし出した。
「電池切れ」
「え? あ、そっか! 電池で動いてるのかぁ」
「前に早苗が来た時も、電池が切れたって暴れたなぁ。懐かしいぜ」
「妖怪の山が洗い流されそうになったもんねぇ」
 沁沁と過去を思い出している二人に、フランが問うた。
「ねえ、その早苗は電池が切れてどうしたの?」
「河童に充電装置を作ってもらってたぜ。行ってみるか?」
 フランが嬉しそうに頷いたので、魔理沙と霊夢は外にでる支度を始めた。

 妖怪の山に向かって飛んでいると、霊夢が香霖堂を見下ろしながら言った。
「霖之助さんのお店にも売ってるんじゃない?」
 霊夢の声は上空に吹く強い風に阻まれる。
「何か言った?」
 魔理沙が尋ね返すと、霊夢は怒鳴る様に言った。
「わざわざ作ってもらわなくても! 霖之助さんのお店に、外の世界の充電装置ってあるんじゃないの!」
 魔理沙が呆れた顔で振り返る。
「きっと早苗の時と一緒! アダプタってのをコンセントに繋がなくちゃいけないんだよ!」
 それを聞いたフランが嬉しそうに言った。
「うち、コンセントあるよ! 太陽光発電とかしてるから!」
「規格が違うから無理! 幻想郷のコンセントは外の世界のとは合わないの!」
「えー! 何でー!」
「河童が独占したいから!」
 フランが残念そうに項垂れる。
「あれ?」
 その視界に、知った顔を見つけて、フランは声を上げた。
「こいしだ!」
 急降下してこいしの下へ向かうフランの後を追って、霊夢と魔理沙も下へ向かった。
「こーいーしー! 私、メリーさん! 今、あなたの上に居るの!」
 急に空から降ってきた声に驚いて、こいしが空を見上げた瞬間、フランがこいしに思いっきり抱き着いて、二人して地面に転がった。
「こいしはどうしてこんな所に居るの? 地底妖怪の癖に」
「フランこそどうして昼間に出歩いてるの? 吸血鬼の癖に」
 そう言って二人はけらけらと笑いながら立ち上がる。
 後から魔理沙と霊夢も降り立ってさとりへ近付いた。
「やあやあ地霊殿の主様、こんな真っ昼間からどうしたんだ?」
 魔理沙の問いに、さとりは来た道を振り返って指さした。
「あすこに香霖堂ってあるでしょ?」
「あった様な気もするぜ」
「外の道具もあるっていうから、こいしのスマホの電池を買いに言ったの。悪くなっちゃってるみたいで」
「知ってるぜ。電池切れっていうんだ。充電すれば直るんだぜ」
「その充電する容量がすり減ったらしいのよ。河童に言わせるとね。河童にお願いしたら一週間で新しいのを作るって言ってくれたんだけど、こいしがどうしてもすぐに欲しいって駄駄こねて」
 それを聞いたこいしが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「違うわ! 私のメリーは死んでなんかない。ほら、まだ生きてる!」
 そう言ってスマートフォンの電源を点ける。
 それに対して、さとりは無情にも首を横に振った。
「残念ながら、あなたのメリーさんは病でもう長くないの」
 するとこいしは目に涙を浮かべて背後へ振り返った。
「そんな事無い! お姉様の馬鹿! この子はきっと私が治してみせる!」
 そうして駆け出そうとしたが、背後のフランにぶつかる。
「痛つ! あ! フラン様! すみません」
「話は聞かせてもらったよ、こいし。あなたの婚約者として僕も協力するよ!」
「フラン様!」
 二人は感極まった様子で抱き合い、愛についての歌を歌い出した。
 そんな二人を眺めながらさとりは隣の霊夢と魔理沙へ尋ねた。
「で、あんた達は?」
「同じだぜ。フランは充電装置を持ってないらしいから、河童の所へ買いに行こうとしてたんだ」
「あら、それならこのスマートフォン屋の私にお任せ下さいな」
 突然道の脇から声を掛けられて、さとりと霊夢と魔理沙は驚いて振り返る。するとそこに、にこにこと笑う青娥の姿があった。青娥はほんの数瞬前まで何も無かった道の傍に、ブルーシートを広げ、そこにあれこれと物を置いている。
「いつの間に」
 絶句する三人を余所に、こいしとフランが青娥の言葉を聞いて駆け寄ってきた。
「スマートフォン屋ってほんと?」
「電池売ってる?」
「二人共、そいつに近付いちゃ駄目!」
 霊夢が慌てて止めようとするが、青娥はもう二人に向けて商品を見せていた。
「勿論、電池も充電器も売ってますわ。こちらの電池は純外の世界製。こちらの充電器は河童印で紅魔館のコンセントにも合うタイプです」
 わあと歓声を上げる二人を抱き締めて、霊夢と魔理沙は青娥を睨みつけた。
「今日は何の企みのつもり?」
 すると青娥は衝撃を受けた様子で口元を抑えながら悲しそうによろめいた。
「そんな、私はただみなさんに笑顔を」
「胡散臭い」
「ああ、私は何の邪気も無く、ただただお困りの皆さんに、そのお悩みを解決出来る様な商品をお売りしようとしているだけですのに」
 霊夢と魔理沙がまだ睨んでいると、その腕の中のフランとこいしはしおらしい青娥の様子を見て、咎める様に霊夢と魔理沙を見上げた。
「どうしたの、二人共!」
「おかしいよ、邪険にして。こんなに優しそうなのに! 私のメリーを治してくれそうなのに!」
 無意識の腹パンが突き刺さり、魔理沙は呻いてこいしを放した。
 フランとこいしを従えた青娥がさとりへ視線を向ける。
「お二人共、そんなにお疑いでしたら、後ろのさとりさんに聞いてみたら良いでしょう。私が本当に害を持って近付いて来たのか」
 その通りだと、霊夢と魔理沙は振り返る。
 視線を受けたさとりは困った様な顔になって青娥とこいしを見比べた。青娥は優しそうに微笑み、こいしは懇願する様な目で訴えてくる。
「お姉ちゃん、どうしても欲しいの。メリーを治したいの。お願い」
 さとりはその視線にやられた様子で呻き声を上げ、そして仕方無さそうに溜息を吐いた。
「電池、あるんでしょう? 買いましょう。お幾らですか?」
 さとりがそう尋ねて、青娥のにこにことした笑みを見た瞬間、叫んだ。
「高っ!」
 霊夢と魔理沙とこいしとフランが、驚いてさとりを見る。
 さとりはそんな視線を気にせずに、青娥へ食って掛かった。
「ちょっと、それはあんまりでしょう。何で、電池一個が三十円もするんですか? 暴利が過ぎる!」
 服を掴まれた青娥はにこにこと笑いながら、ひぃと戦いた。
「暴利とは言いがかりですわ。これは外の純正電池パック。二千円はするものです」
 高っ、と魔理沙と霊夢が声を上げる。二千円あったら何が出来るかと計算し始めた魔理沙と霊夢を無視して、さとりは言い重ねた。
「暴利です! 二千円というのは外の世界の話でしょう?」
「ええ、そうですわ。だから幻想郷では三十円」
「それでも高い。幻想郷の物価と掛け離れている!」
「どうしてもまけなくちゃ駄目ですか?」
「当たり前です!」
 息を荒げるさとりを見ながら、青娥はにこにこと考えこむ様に、顎へ指を当てた。
「仕方ありませんねぇ。地霊殿とは今後共よい取引をしたいですし」
 その瞬間、さとりがまた叫んだ。
「まだ高い!」
「えー、三分の一ですよ? これ以上はまかりなりませんわ」
「でも」
「まあまあ、さとりさん。何度も言います様に、これは外の純正品。河童が作る紛い物とは違います。これは今の幻想郷を探しても私のお店でしか手に入りませんわ」
 青娥の説得にまだ反論しようとするさとりへ、青娥は駄目押しの言葉を放った。
「妹さんが悲しんでいるというのに、あなたの甲斐性はその程度ですか?」
 さとりははっとしてこいしを見た。こいしの顔は眉根が寄り、口を引き結び、まるで悲しんでいる様に見えた。
 実のところ、こいしの表情は言い争っているさとりを心配しての表情だったが、さとりには何だかそれが、十円も払ってやれない自分を蔑んでいる様に見えた。
 さとりはぐぬぅと呻き声を上げる。
「分かりました! 分かりましたよ! 払いましょう! 十円! あいにく今は持ち合わせがありませんので、地霊殿に戻って今日中に払います!」
「それから、おまけしたんですし、私が今日する事を邪魔しないで下さいな」
「おまけって、最初の値段がおかしいのに」
「別に売らなくても良いんですよ?」
「わーかーりーまーしーたー!」
「毎度あり、ですわ」
 商談が成立し、青娥はにこにこと電池パックを拾い上げてこいしへ渡す。受け取ったこいしはおずおずと青娥とさとりを見比べる。さとりが微笑むと、こいしは屈託の無い笑みを見せた。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「別に。どうしても欲しかったんでしょ」
 さとりの顔がふにゃりと溶け崩れたのを横目で見て、青娥はにこにこと笑う。
「私、さとりさんのそういうちょろいところ好きですわ」
「特大級のトラウマ見せてやろうか?」
 嬉しそうに電池パックを交換するこいしをフランが羨ましそうに見つめていると、その前に青娥が立った。
「あなたは充電器でしたね?」
「うん」
 頷いたものの、フランは不安だった。どうやらこのお店はとても高そうだ。三十円どころか十円だって払えそうにない。どうしようと悩んでいると、青娥はブルーシートの上のアダプタとバッテリを手にとった。
「こちらでよろしいですか?」
「多分。幾ら?」
「本当は三十円」
 やっぱり買えないと落ち込むフランに青娥は変わらず笑みを向ける。
「でもさとり様のお知り合いであれば、おまけして十円にしてあげますわ」
 それでもまだ駄目だ。
 そもそもお金を持ってない。
「あら、もしやお金を持っていませんの?」
 図星を突かれたフランは観念した様子で頷いた。
 青娥が嬉しそうに手を合わせる。
「まあ! そういう事でしたら、物物交換でも構いませんわ。この充電器の価値に見合う物と」
 見合う物と言われても、フランは何も持ってない。結局買えない事に気がついて、見下ろしてくる青娥を空目すると、青娥の視線が自分の腰辺りに注がれている事に気がついた。
「その、お人形、可愛らしいですわ。その二つと交換でしたら構いませんよ」
 青娥が言うのは、こいしとこころが作ってくれた人形だ。流石に売る事は出来無い。
「これは駄目だよ!」
 フランが自分のポケットから出た人形を隠すと、青娥はこれ見よがしに溜息を吐いた。
「そうですか。残念ですわ。何も交換が出来無いのでしたらお売りする訳にはいきませんね。ああ、このお店は今日だけの特別で、もうこの充電器を販売する気は無いのですけど」
 うう、とくぐもった声を出して、フランは何か無いかとポケットを弄るが、無い物は無い。
「ねえ、フラン」
 フランが振り向くとこいしが優しい笑みでフランのポケットを指さした。
「それと交換しなよ。私達が作ったものだから遠慮してくれてるんでしょ? でもまた私達作るから」
「でも」
「だってそれが無いと、スマホ使えないんでしょ? ならそっちの方が大事だよ! 人形はまた作れば良いけど、充電器は今日だけじゃん!」
 それでも迷うフランを促す為に、青娥が代案を告げる。
「でしたら、フラン様が作る人形二つと交換でどうですか? 今日のところはそのお友達が作ったお人形二つを私が受け取りまして、後日フラン様が同じ様な人形を二つ作って持ってきてください。そうしたら改めて交換しますわ」
「え? でも私、こいしとこころみたいには上手く作れないよ」
「そんな事無いよ! フランの人形が一番可愛かったよ! ねえ、店主さん! お願い、フランに売ったげて」
「私はフラン様のお人形で構いませんわ。どうします、フラン様」
 フランは迷った末に、こいしの応援を受けて、人形を差し出した。
「私が人形を二つ作って持って行ったら、返してくれるんだよね?」
「勿論! この霍青娥に二言はありませんわ」
 そう言って、アダプタとバッテリを差し出した。それを受け取ったフランはこいしと一緒に喜んで飛び跳ね始める。
 それを優しげな笑みで見つめる青娥の後ろに、霊夢と魔理沙がすすと寄った。
「おい。何か呪いでも掛けるんじゃないだろうな?」
「もしも酷い事をしたら、ぶっ潰すからね」
「酷いですわ。まるで私が悪者みたいに」
 よよと目元に袖を当てる青娥を霊夢と魔理沙は胡散臭そうに見つめる。
「お前が悪者でなくて何なんだよ」
「そんな。フラン様とこいし様は笑顔になっているじゃありませんか」
「何か企んでるでしょ絶対」
 泣き真似をする青娥と睨みつける霊夢と魔理沙。そこへさとりが近付いた。
「青娥さんの目的は私達ではありませんよ。だからフランちゃんもこいしも大丈夫」
「私達がターゲットじゃない? じゃあ誰なんだ?」
「もう来ます」
 その時、遠くから声が聞こえた。
「聖様! 居ました! あそこです!」
 一輪が白蓮の手を引きながら駆けて来て、青娥に向けて言った。
「霍青娥! 見つけたぞ! さあ、仏像を返して下さい!」
 魔理沙と霊夢が慌てて青娥から離れた。
「お前、まさか仏像盗んだのか?」
「白蓮に殺されるわよ」
「濡れ衣ですわ」
 青娥はそう言って、一輪と白蓮を迎え撃つ。
「いらっしゃいませ」
「さっき運んでた仏像はどれ?」
「ここですわ」
 青娥がブルーシートに載った大きな仏像を示す。
「ほら、聖様! 確かにあの仏像でしょう?」
 一輪に問われた白蓮が神妙に頷く。
「そうですね。確かにオカルトボールを封印しようとした仏像の様です。青娥さん、その仏像を何処で?」
「お寺の近くの茂みの中に落ちていたのですわ。明らかに捨てられて雨露に濡れていました。一輪さん、これは捨てていたのにこっちのものです。問答無用で返せとつっかかってくるのはどうかと思いますわ」
「だって元元うちのなのに」
「昔はそうだったかもしれませんね」
 一輪が唸る。
「だから売れという事ですか?」
「そうです。これはうちの売り物ですから買って下さいな」
 すると白蓮が前に進み出た。
「いえ、その必要はありません。仏像が必要でしたらどうぞ。私はその中にオカルトボールが残っていないかどうか確かめたいだけです」
 険しい顔の白蓮に対して、青娥はくすくすと笑う。
「まさか、人の売り物に手を付ける気ですか? 商品価値が損なわれてしまいますのに」
 白蓮は溜息を吐いて、懐に手を入れた。
「そういうとは思っていました。一輪、お金を持ってきて正解でしたね。幾らですか?」
「三十円」
 高っ、と白蓮と一輪が同時に声を上げた。
 笑みの崩れた白蓮が青娥に楯突く。
「馬鹿言わないで下さい! その仏像にそんな価値はありません!」
「馬鹿を言っているのはあなたですわ、聖様。では聞きますが、あなたは信仰に値段は付けられます?」
「つけられません。信仰は物ではない。だから何だというのです」
「聖様、それは間違いです。値札が付いているのではなく、私達が値段を付けるのです。だからこそ、お店というのが成り立つのですわ。聖様、私はこの仏像に三十円の値を付けた。そういう事です」
「私ならそれだけ払うだろうと?」
「いいえ、価値の問題です。実はこれ、他にも買い手が居るんですよ」
「馬鹿な」
「他の方に売っても良いんですよ」
 白蓮はぐぬぬと呻く。
「分かりました。では一度お寺に戻ってお金を用意してきます」
「残念ながら、他の買い手はすぐにでも欲しいと。もしも一度お寺に戻るというのであれば、そちらの方にお譲りしようと思います」
 白蓮は拳を握り締めると、きっと辺りを見渡した。
「その買い手というのは何処にいるのですか? 交渉するので教えて下さい」
「顧客情報は機密ですわ」
 青娥がにこりと笑う。白蓮の笑みがいよいよ薄く、殺気がいよいよと増す。
「そこを何とか」
 白蓮が今にも殴りかからんとする中、突然青娥は態度を軟化させた。
「うーん、仕方ありませんね。お寺とは良い付き合いをしたいですし。ちなみに手持ちはお幾らですか?」
「十円です」
「安! でも仕方ありません。そうまで必要とあれば、十円でお譲りしましょう」
「ありがとうございます」
 白蓮はほっと胸に手を当てて頭を下げた。
「こちらこそお買い上げありがとうございます」
 青娥も頭を下げて、手を差し出す。その掌に、白蓮は懐から取り出した十円を渡した。ただその寸前に白蓮の懐から金属の打ち合う音が響いた。青娥はそれを聞き逃さない。
「どうやらまだ手持ちはおありのようですね」
 青娥の言葉に、聖は舌を出す。
「ええ、あなたの事ですから、三十円位はふっかけてくるだろうと、念の為。ですが安く済んで良かったです」
「まあ! では最初から三十円払えたんですね?」
「値切るのは買い物の基本です」
「もう、聖様の商売上手! 良いんですか? 仏教徒が嘘を吐いて」
「私に仏を説きますか?」
「滅相も無い」
 白蓮は青娥から目を離して、一輪に目配せし、二人で仏像を調べだした。
 そのやり取りを眺めながら、魔理沙が言った。
「流石だな、聖。あの青娥に一杯食わせたぜ」
「甘いわよ、魔理沙」
 さとりがたしなめるので、魔理沙と霊夢が不思議そうな顔をする。
 そこへ、遠くから声が聞こえた。
「あ、こいしとフラン! 本当に居た!」
 声のした方を見ると、こころが駆けて来た。その後ろから神子が歩いてくる。
「おや、何があったんだい? 面妖な集まりだね」
 じゃれあうフランとこいしとこころを無視して、神子は順繰りに、さとりや白蓮達を見回してから、青娥に目を向けた。
「それで、面霊気に何やら吹き込んで、私をここに誘導してきたみたいだが、何が目的だ?」
「まあ、私は何も。ただお店を開いておりますから、何か入用でしたら買って行って下さいな」
「店? 一体何を企んで」
 神子はそう言ってざっと眺めてから、青娥に視線を戻す。
「あのスマートフォンを買って欲しい訳か?」
「あら、別にそんな」
「欲が透けて見えるぞ。だが、まあ、確かに面霊気が欲しがっていたな。値段によっては買っても良いが、幾らだ?」
「百四十円」
 高っ、と青娥を覗く全員が声を上げる。
 青娥に向けて神子が突っかかる。
「おかしいだろ、何だその値段は! 買ってもらう気があるのか?」
「おかしいも何も外の世界では五万円以上しますわよ」
「それは外の世界の話だろ! こっちの価値になおせば数円だ!」
 更に白蓮も加わった。
「これ、神子や! こころが欲しがっていたというのは本当ですか?」
「ああ、あそこのフランとこいしが持っているらしくてな」
「聞いた事があります。最近は友達と同じ物を持っていないといじめられるとか。分かりました。私も協力しましょう! 折半で七十ずつでどうです?」
「構わないが、百四十だぞ? 暴利だ。しかも青娥は我我を困らせようとしている。買うならせめて適正価格で」
「あの目を見なさい! 悪魔めいた目を! あなた、あれが素直に根切りに応える目だと思いますか?」
「まあ、でも、それならこちらが百四十円で買おうとしたらまた値を吊り上げるかも」
「悪魔は嘘を吐かないと言います。一度百四十円と言った以上は、必ずその値段で売らせます!」
 神子と白蓮が青娥の目を見るが、青娥の目は二人に向いていなかった。青娥の目は遠くでじゃれあっているこころ達に向けられている。
「こころ様ー! ちょっとこっちに来て下さいな!」
 青娥が大きな声で呼ぶと、こころ達は不思議そうに駆け寄ってきた。
「たった今、太子様から聞きましたわ。お友達が持っているからスマートフォンが欲しいとか」
「うん。でも作るのに時間掛かるし、高いみたいで。だから流れついたのを見つけようかなって思ってた」
 神子と白蓮が横から割り込んでくる。
「だからお金なら私が出すと言っているだろう、面霊気!」
「そうです。こころ、私を頼りなさい。スマートフォンの一つや二つ買ってあげるわ」
 こころは意気込む神子と白蓮を交互に見やる。
「でも高いみたいだし」
 青娥が口を挟む。
「自分に素直になるべきだと思いますわ、こころ様」
「我儘言ったら嫌われちゃうかなと思って」
「そんな訳あるか、面霊気!」
「私達家族じゃありませんか!」
 神子と白蓮に抱き締められたこころは、しばらく逡巡してから言った。
「欲しい。こいしもフランも持ってて羨ましい」
 白蓮が気勢を上げる。
「と言う事です、神子! 愛がお金で買えるとは言いませんが、出し惜しみしていては我等の名折れです」
「心得た!」
 そうして二人で青娥に向かう。
「良いだろう、青娥! 払ってやろう、百四十円!」
 だが上げた気勢も、青娥の心によって一瞬で折れる。
「即金ですわよ」
「え? 即金? ま、まあ、良い。ちょっと待て、道場に取りに」
「残念ですが、他にも買いたいという方が居ますので、今すぐ頼みますわ」
 青娥がにこりと笑うと、二人の意気込んでいた顔がぐにゃりと歪んだ。
「あなたって人は! さっきと同じ手を! 居る訳無いでしょう! 百四十円即金で出す人なんて!」
「いえいえ、幻想郷も意外と広いのですわ。私も驚いております」
「一瞬だから。ほんの一瞬取りに」
「駄目です」
「神子! あなた、マントの空間にお金を溜めたりは?」
「残念ながら」
「あらあら。それじゃあお売りする事は出来ませんわ」
 歯軋りして悔しがる白蓮と神子にも動じず、青娥はにこにことしている。
 しばらく睨み合いの硬直が続いたが、不意に神子が目を見開いた。
「そうだ!」
 マントの異次元から取り出したるは外の世界の紙幣。聖徳太子の顔が書かれた百円札を神子は青娥に差し出す。
「そう言えば私の肖像画が書かれているというので貰って取っておいたんだ。どうだ、青娥殿? 百円だぞ?」
「外の世界の紙幣ですけど」
「百円は百円だ」
「仕方ありませんわね」
 後五十円、神子と白蓮は血走らせた目を合わせる。
「お前の手持ちは?」
「二十円」
「私は十円」
「そんな大金を何故?」
「お前こそ。私はただ、面霊気と遊ぼうと」
「私を出し抜こうとした訳ですね。まあ良い。私とあなたで三十円という事は、後十円。さっき仏像を買わなければ」
 悔しげに眉を潜めた白蓮だが、その目がかっと見開かれる。
「そうだ! 青娥さん、先程買った仏像! あれを返品します!」
「返品は受け付けておりませんわ」
「くっ! ですが、三十円の価値があるのでしょう? それを十円でお譲りしましょう」
「要りませんわ。一円の価値もありません」
 さっきのは何だったんだ! と白蓮は叫んだ。
「それは計算が合わないのでしょう! 私はさっき十円で買ったのに」
「それはその値段で買う者が居たからです。今はもうその値で買おうとする者なんて居ないでしょう?」
 くうう、と肺の底から悔しげな息を吐いてから、白蓮は神子を見る。
「何か! 何か無いですか? 後十円ですよ」
「しかし、もう何も」
「あら、でしたらこうしません?」
 青娥がにこにこと優しげな笑みで二人に掌を差し出した。掌には、犬の形に見えなくもない布製の明らかに素人が作った人形が載っている。
「何だ、その下手くそな人形は?」
「この二つの人形を格安でお譲りしますわ」
「馬鹿を言わないで下さい。そんな歪な人形なんて要りません。今私達に必要なのはスマートフォンです」
 青娥の笑みが一気に深まる。
「まあまあ、お聞き下さい、お二人さん。私がこの二つを格安で譲り、それを二つ九円で買い取りましょう。しかもこちらからの売値は、そちらの言い値に致しますわ」
「つまり零円と言えば、そのまま九円が手に入る訳か? 美味い話だな」
「あまりにもお二人の様子が哀れなので、施しのつもりです」
 一瞬、苛立ちの表情を浮かべた白蓮は、すぐ笑顔に戻り、尋ねる。
「ですが、九円では後一円足りませんが」
「そこは何とかして下さいな。別にあなた達にスマートフォンを買っていただかなくても良いんですよ、私」
 二人は顔を見合わせて頷き合う。
「良いだろう。じゃあその人形を買おう。言い値で売ると言われて、零円と言うのはどうにも気が引けるが、事が事だし、どうみても下手くそだから、遠慮は要らん」
「勿論只で譲っていただきますわ」
「ええ、ええ! 勿論ですとも! ではお二人曰く、下手くそで只で構わない人形二つを、お二人に零円でお譲りして、九円で買い取らせて頂きます。良いですわね、フラン様とこころ様?」
 白蓮と神子がこころへ振り返る。きっともう少しでスマートフォンを買えるから喜んでいるだろうと思っていたが、二人の予想に反して、こころの反応が無い。無表情で立ち尽くしているこころの様子を不思議がる白蓮と神子に、フランが酷く寂しそうで申し訳無さそうな顔で言った。
「あの、その人形、こころとこいしが私の為に作ってくれた人形」
「は?」
「え?」
 神子と白蓮の表情が硬直する。
「何でそれを青娥殿が?」
「さっき私が充電装置? を買うのにお金が無くて、一時的に預かってもらってたの。ごめんなさい」
「あら、フラン様が謝る必要はありませんわ。何も間違っていないですもの」
 あいつ性格悪っ! という魔理沙の叫びが聞こえたが、誰もそれに反応しない。
 神子と白蓮はしばらくこころと顔を合わせられず唇を震わせていたが、やがてこころに顔を向けた。
「そのー、何というか、すまなかった、面霊気。だがあくまでスマートフォンをお前に買ってやる為の方便でな」
「そうです。さっきの言葉は申し訳ありません。でも本当はあなたの人形はとても素晴らしい出来だと思っていますよ」
 あら悪手という青娥の声を無視して、神子と白蓮が謝りながらこころを励ますと、こころは二人に向かって強く頷いた。
「分かってる。ありがとう」
「分かってくれたか」
「すぐに買ってあげますからね」
 機嫌を直してくれた事を喜ぶ二人だったが、すぐにこころの様子がおかしい事に気がついた。
「分かってる」
 もう一度そう呟くと、こころの瞳から涙が零れ落ちた。
 無表情のまま涙を流すこころに、神子と白蓮は青ざめる。
「分かってるから」
「面霊気!」
「こころさん!」
「分かっているから」
「すまなかった!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
 慌てふためいて混乱している二人を見ながら、青娥は感極まった様に己の身を抱いて悶えだした。
 それを見ていた魔理沙が霊夢に聞いた。
「幾ら持ってる?」
「小銭しか無いわよ。五銭」
「勝った。六銭」
「全然足りないわよね。さとりは?」
 霊夢の問いに、さとりは首を横に振る。
「無駄ですよ。あの方は、こちらの懐具合を完全に把握しています」
「じゃあ、どうしようもないって事?」
「いいえ、そうでも無いみたいです」
 無表情で見つめるさとりの視線を追って、霊夢と魔理沙は訝しみながら青娥に視線を戻す。
 逆効果な慰めを続ける二人を楽しんでいた青娥は、腕時計を確認する素振りをしてから言った。
「ああ、もう時間切れですわ。お金が用意出来ないのであれば他の方に売る事にします」
「待て! 後一円何だろう? 白蓮、何かないか?」
「えーっと、待って下さい、何か」
「ぶー、時間切れですわ」
 それじゃあと言って青娥が背を向けて去ろうとすると、フランとこいしが立ち塞がった。
「待って! もうちょっとなんでしょ? 待ってあげて!」
「ですが、お金が無いのでしたら」
 渋る青娥に、フランとこいしはそれぞれさっき買ったアダプタとバッテリ、電池パックを差し出した。
「これで駄目? 外の何でしょう? 一円位しない」
 こころが慌ててそれを止めようとする。
「駄目。それさっき買ったばっかりなんでしょ? 私はまた後で拾うから」
「河童から買うから大丈夫。それに電池なんかなくたって使えるし!」
 こいしが笑いながら耳にスマートフォンを当てて「もしもし、私メリーさん、気にしなくって良いんだからね」と言った。でもと逡巡するこころだったが、フランとこいしは良いんだよと言って、こころの為に青娥へ訴える。
「ねえ、お願い!」
「何なら人形もっと一杯作ってくるよ」
 そんな必死な二人の様子に、青娥は優しげな笑みを浮かべた。そうしてしゃがみ込み、フランとこいしの頭を撫でる。
「残念だけど、そのどれも私には価値の無い物ですわ」
「そんな」
 泣き出しそうな二人に、青娥は言葉を継ぎ足した。
「ですが、そのお友達を思う気持ちに、この霍青娥、大変胸が温かくなりました。良いでしょう。お三方の友情は千金に値します。スマートフォンをお譲り致しますわ」
「え? 本当?」
「良いの?」
 途端に笑顔になった二人に向かって、青娥はしっかりと頷く。
「ええ、霍青娥に二言はありませんわ」
 どうぞと言って、青娥はスマートフォンをフランとこいしに差し出した。フランとこいしはこころの体を押して、スマートフォンの前に立たせようとする。
「こころ、ほら、スマホ」
 それを青娥が制止した。
「お待ち下さい。これはお二人にお売りするのです。太子様でも白蓮様でもなく、お二人に。ですからあなた達が受け取ってから、こころ様にお渡し下さい」
 フランとこいしは不思議そうな顔でアダプタとバッテリと電池パックを差し出した。
「よく分かんないけど、ありがとう。はい、これ」
「結構ですわ。先程も言った通り、あなた方の友情でお支払い頂きました。ですから、その他の代金は要りません」
「え? 良いの?」
「良いんです」
 そう言って、青娥がスマートフォンを手渡す。更にフランの手に人形も載せた。
「それからお釣りが余りますので、そのアダプタとバッテリはサービスしておきますわ。代金として頂いた人形をお返します」
 フランとこいしは信じられないと言った顔で、受け取った品物に目を落としたが、嬉しそうな笑顔をこころに向けてスマートフォンを差し出した。
「はい! こころ!」
「私達からプレゼント!」
 こころはそれを受け取ると「至上の至福を味わう表情」を付けて二人に抱き着いた。
 そんなやり取りを眺めて呆然としている神子と白蓮に近付いた青娥がこれ見よがしに声を上げた。
「天晴! 友情とは美しいものですわね! 家族なんていういざという時には役に立たない形骸化した関係よりも、ずっとずっと素晴らしいものですわ! ねえ、太子様?」
 神子と白蓮が歯噛みする。
「それはお前が意地悪をするから」
「まともな値段だったらちゃんと」
「あなた達がこころ様の為に買えなかったという事実に変わりありませんわ」
 項垂れた二人の下にこころがやって来た。
「お父さんとお母さんもありがとう。買おうとして頑張ってくれて」
 神子と白蓮がぱっと顔をあげる。
 だが青娥が「流石こころさん。役立たずのお二人にも感謝の心を忘れないなんて」と茶茶を入れたので、二人はくうと喉がつっかえた様な呻き声をあげた。それでも二人は気丈に笑顔を作り、気力を振り絞って声をだす。
「私達の事は良いから、友達と遊んできなさい」
「そうです。折角スマートフォンを買ったのですから」
 するとこころはぴょこりと頭を下げて、友達の下に走っていった。
 二人は、青娥の「良いお友達を持って良かったですわね」との追撃に頷くしか出来ず、そこから青娥の陰湿な言葉責めにも耐える事しか出来ない。二人の表情がどんどんこそげ落ちていったが、遠くで友達と遊び楽しそうにしているこころを見ると、まあ良いかという気持ちになった。
 その時、遠くから声が聞こえた。
「おお、何だ? こころ達、どうしてこんな所に? それに霊夢と魔理沙に、地霊殿の。おお! 太子様まで! それに寺のもか。ついでに青娥殿。一体何の集まりじゃ?」
 現れた布都の背後に、こいしが回りこむ。
「私、メリーさん、今あなたの後ろに居るの!」
「うお! 何じゃ、こいしか! 気付かんかった!」
 更にフランとこころも布都に纏わり付く。
「私、メリーさん、今あなたの前に居るの!」
「私、メリーさん、今あなたの横に居るの」
「こら! 我を取り囲むな」
 そこへさっきからずっと蚊帳の外だった一輪も近付いた。
「物部、あんたどうしてここへ?」
「おう、雲居殿。どうしてって、特に理由は無いぞ。何じゃ、歩いてちゃ悪いのか?」
「悪か無いけど」
「で、何事じゃ?」
 一輪が声を潜める。
「うん、実はね、こころがスマートフォン欲しがってて、それをあの霍青娥が売ってくれるって話になったのよ」
 一輪が声を潜めたというのに、布都はいつも通りのよく通る声で答えた。
「何? そうなのか? そういえば、こころはそのスマートフォンとかいうのを随分欲しがっていたからのう」
 布都は腕を組んで頷いてから、恐縮したこころに向かってにっと笑顔を見せた。
「青娥殿が売ってくれるというのなら、ようやく手に入る訳じゃ。良かったのう」
 その肩を一輪が叩いて振り向かせる。
「ただね、物凄く高値で吹っかけてきて」
「何? そうなのか? あの邪仙め!」
「ちょっと声が大きいって。でね、あんまりにも高いから、聖様も一緒に払おうってなったんだけど」
「む? 解せぬのう。太子様はオカルトボールを手に入れる時にも金に糸目を付けなかったのだぞ? 幾ら吹っ掛けられても太子様なら払うと思うが」
 布都の声はよく響いて、届いた神子の顔を俯かせる。
「だから声が大きいって。とにかく凄い高かったのよ。それで」
 説明を続けようとした一輪だが、布都は聞いていなかった。
「じゃが、安心せい、こころ! 太子様も素晴らしいお方であるし、憎き寺の者なれど、あの聖白蓮というのも中中の大人物! いや大僧正! 二人が組んだのであれば、欲する物等忽ちの内に手に入るであろう! 大船に乗った気で居れ!」
 布都の言葉が神子を更に凹ませ、白蓮の肩も落ちる。
 一輪が慌てて布都を止めようとする。
「ちょっと、静かに!」
「何じゃ、さっきから。弟子の我が太子様を褒めて何が悪い」
「いや、だからね」
 こころが手に持ったスマートフォンを布都に見せた。
「あの、実はもう買って貰ってて。でも」
「おお! そうよな! 二人がそんな機械の一つや二つを買うのに躊躇う訳が無いからのう! さっきから雲井殿の様子がおかしいと思っていたが得心が行ったわ! 既に二人のお陰で手に入れていた訳だな! これは早とちり! お二人を侮っていたこの布都の不覚であった! 太子様! 申し訳ありませぬ!」
「ちょっと、物部! ストップストップ!」
 布都の体にしがみつきながら、一輪が白蓮達を見ると、凹みすぎて地面に這いつくばっている。これ以上落ち込むと地面にめり込みそうな勢いだった。
「天晴じゃ! こころよ! ちゃんと太子様と聖殿に感謝するのじゃぞ!」
「う、うん。一応、さっき」
「こころも類まれなる人徳を持ったお二人が傍に居て幸せじゃのう!」
「死んじゃうから! 聖様、地面にめり込んで死んじゃうから」
 わっはっはと笑う布都にしがみつきながら、一輪が白蓮達を見ると、地面にめり込んでいた。

 そんな様子を眺めながら、魔理沙がさとりに尋ねた。
「あれ、分かってて褒めた振りしてるのか?」
「いえ、本気みたいだけど」
「しっかしあの邪仙も酷いぜ。霊夢、退治しといた方が良いんじゃないか?」
「うーん、大義名分が無いのだけど。でも、そうねぇ」
 話し合う三人の後ろから声が聞こえた。
「もしもし、私にゃにゃん、今あなた達の後ろに居るの」
 ぎゃあと叫んで魔理沙と霊夢がけつまずいた。
 振り返ると青娥が笑顔で立っている。
「全く、酷い言い草ですわ。私はちゃーんとこころ様達を笑顔にしたじゃありませんか」
「そうだけどなぁ」
「次の企みの布石じゃないかと疑ってんのよ」
 酷いですわ、と青娥が袖で顔を覆う。
 霊夢が腰に手を当てて仁王立ちした。
「とにかく、あんまり変な事する様なら退治するわよ」
 すると青娥が顔から腕を退けて薄っすら笑う。
「出来るかしら?」
 霊夢は怯みかけたが、踏みとどまる。
「勿論。私もやるし、幻想郷中からも狙われる。危険分子は排除されるのよ」
 それを聞いた青娥はくふふと笑った。
「幻想郷は全てを受け入れるのよ。ねえ、八雲紫?」
 言い知れぬ迫力に、霊夢と魔理沙が息を飲む。
「あんたの悪事は紫からお墨付きを貰ってるって事?」
「いいえ。でも与えられた役割を逸脱しているとは思えません。そういう事です」
「役割って何? 紫が何か企んでるって事?」
「あの賢者は、関係ありますが、直接には関係ありません。もっと普遍的な話ですわ。幻想郷という舞台で誰もが役割を与えられて踊っている。少なくとも私は、踊りの和を乱した覚えはありません。そういう事です」
 それだけ言って、青娥は去って行った。
 それを見送った魔理沙がさとりに問う。
「今のどういう意味だ?」
「分からないわ」
「心が読めるのに?」
「心を読むというのは、事実を知る事とは違う」
「訳分かんないぜ。とにかく分かったのは、あいつに近付かない方が良いって事だな」
 魔理沙の言葉に、霊夢が同意する。
「そうね。本当、性格悪言ったらありゃしない」
「無駄よ、二人共」
 それをさとりが否定する。
「近付かれない様に祈るしかないわ」
 それを聞いて、違いないと頷く二人。
 その視線の先では、神子と白蓮が蹲っている。
 その一方で、フランとこいしとこころが楽しそうに笑っていた。
 その幸せそうな様子を見ると、今日のところはまあ良いかという気持ちになってしまうのだった。
芳香「御主人様は幻想郷で一番子供好きな人だと思う」
烏口泣鳴
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.310簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
一つ下の作品といいスマホやらiPadやらを幻想入りさせちゃう風潮、そそわで流行ってるの?
6.80名前が無い程度の能力削除
スマホ買うときにバッテリーの話は出なかったのかというのはさておき。真っ直ぐな三人娘と捻くれまくった青娥が素敵。