Coolier - 新生・東方創想話

私は如何にして彼女を気にかけてきたのか

2015/05/24 15:01:47
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すがすがしいほどにいい天気の昼下がりであった。

参拝者もめったに来ないこの神社で、私は縁側にてもはや習慣と化したお茶の時間を過ごしていた。
その隣には、珍しくもなく射命丸文の姿があった。

ただし、今日のそいつは少しばかり違和感があった。

「………」

大抵口うるさいほどに飛び回っている文だが、今日は柱に体を預けて半目で空を見つめていた。
このように、最近の文は時折ふらっとやってきては死んだように柱にもたれかかることが多々あった。

「あーやーぁ」

へんじがない。ただのしかばねのようだ。
やってきたときに交わした会話によれば、なにやら会議が長丁場になって疲れていると言っていたが。

「tntn!」

すると一羽の雀が文の頭襟帽の上にとまった。
鴉の上に雀、おかしな組み合わせだ。

そのまま文が起きていないのを確認すると、彼女の脇に置いてあったカメラを手に取る。

(ふぃるむ?だったかしら。これを巻くのよね」

操作方法は以前教えてもらった記憶がある。覚えていない部分は、勘だ。

かしゃり。

「ぅへぁ?」

シャッター音に気付いた射命丸のからだがビクンと動いた。
同時に変な声が出たのがおかしっくて、ツボにはまる。

「ぷくく……『うへぁ』だって!はははは!」
「ちょっ……なに撮ってるんですか!?」

お腹を抱えつつその寝ぼけた顔を撮ると、寝ぼけた頭で状況把握をする文。
カメラを取り返そうとして動くと、頭の上に載っていた雀が飛び去った。

「返してください!」
「まぁまぁ、少しは撮られなさいよ。ぷくく……!」

最速は空の上でのこと、座りながらの取っ組み合いは私のほうが上だった。



「まったくもう、許可もなく人を撮るだなんてひどいです」
「姿見でも持ってきたほうがいいかしら」

てんやわんやした後、結局が油断した隙をつかれて文がカメラを取り返した。
私がぶーぶー声を上げるのをよそに、カメラをなでなでする文。

「しかしまぁ、巫女の住まいであるこの博麗神社で昼寝だなんて、最速の烏天狗も落ちぶれたものね」
「私としてはそれを許す霊夢さんのほうに問題があると思うんですが」
「減らず口をたたいてると追い出すわよ?」
「追い出す気もないくせによく言います」

まぁ面倒だし、そうなんだけど。
寝なおすかのように文が縁側にごろりと横になる。

「ちょっと、本気で寝る気なの?」
「いいじゃないですか、ちょっとくらい」
「……紫といい萃香といい、ここを宿と勘違いしているんじゃないかしら」
「少なくとも神社とは思われてないでしょうねぇ。この妖怪の寄り付き方じゃ」

ぐうの音も出ない。
追い払えば済む話なのだが、宴会で飲める酒や重箱は楽しみだ。
しかしやってくるのは大半が妖怪であり、結果的に居座るのを許してしまっているのが現状だ。

「けど、ここまでくつろいでもいいとはいってないわよ」
「二日酔いも会議疲れも同じですよぉ」
「知るか」

ぐだっとした体勢でつぶやく文の嘆きを一蹴する。

「……大体、あんたこんなところで寝てていいわけ?」
「別に今日は予定もありませんし」

予定もない、ねぇ。
お茶をすすりながら、細い眼差しで文を見つめた。

「監視、でしょ?わたしの」
「……はて?」
「とぼけてんじゃないわよ。白々しい」

たはは、と頭をかく文。

「これでもボロは出してないつもりで、まぁそもそも私はそういうつもりではなかったんですが、山としては否定しません。……いつごろお気づきに?」
「アンタはまぁよかったとしても、遠くからずっと見つめられたらねぇ」
「遠くから?」
「千里眼って奴?あのよくアンタと一緒にいるワンコの……楓だか、笹だか」
「ああ、椛ですね」

ああそうそう、はっきり思い出す。

「二人で交代で見張られれば私じゃなくてもわかると思うけど」
「あやややや……」
「天狗様の意図はわからないけど、妙な気を込めた視線はほどほどにしてほしいわ」

感じたことを元にあてずっぽうに話すが、返答から察するに大半が当たっているようで面白い。
まぁ実際に視線というのが突き刺さっているのはよく感じてるし、監視されているのは気のせいじゃない。

「というか監視ならばれないようにやりなさいよ」
「だから私は監視要員じゃないですってば」
「………」

細い目でその顔をじっと、その真偽を問うように見つめてみる。
魔理沙あたりはこれでゲロるんだけど、コイツは結構面が厚いから効くかわからない。

「……まぁどっちでもいいわ」

そんなことどうでもいいという判断を下した。
実際、邪魔が入ったりしなければどうでもいい。監視なんて……慣れている。


「あら霊夢、天狗の口先三寸は信用ならないわよ?」

その監視の張本人、そう言って裂け目から現れたのは紫。
勝手に私の肩に手をまわし、変に甘い声で語りかける。

「少なくとも胡散臭さはアンタよりはマシよ」
「ひどいわ霊夢。私はこんなにもあなたを信用しているというのに」

よよよ、と泣き真似をする紫をこれっぽちも気にしない。
わざとらしい。

「で、何の用よ」
「いいえ、これと言って用はないけどね」
「じゃあかえれ」

グイグイ抱き着き押し返しを繰りかえす。
スキマを使っていたずらをしてくるので鉄拳を飛ばしてみるが、ムカつく別のスキマが邪魔をする。


さらに部屋の奥からもう一人面倒な乱入者が現れた。

「れいむ~のも~」
「うわくっさ!アンタ昼間っからどれだけ飲んだのよ!」
「いやぁ、紫がいいお酒があるっていったからさぁ」

少女にあるまじきゲップをかました後にすり寄ってくる。息が酒臭い。
その手にはいつもの瓢箪ではなく酒瓶があることから、その話は本当なのだろう。

「紫ぃ?」

ほらやっぱりなにか企んでたじゃないこいつ。
……しかし萃香をダシに使うとは、相当いい酒なのかしら。ちょっと喉が鳴る。

「たまにはいいじゃない、こうやって昼から飲むのも」
「お酒に時期は関係ないない。せっかくおいしい酒なんだし飲もう呑もう!」
「妖怪が昼から騒ぐなんて聞いたことないわ、全く」

そう文句を垂れつつ立ち上がる。
結構な頻度でこういうちび宴会が開かれるから慣れたのだ。
決してそのおいしいお酒とやらに釣られたわけではない。

「そ、それじゃあ私はこれで」

ここらで、と冷や汗をかいた文が立ち去ろうとする。
それを紫が先回りして捕えた。それに倣うように萃香が背中に寄り掛かる。

「あらぁ、つれないじゃない。飲み会は人がいないと」
「おぉい文ぁ、お前も飲んでいこうよぉ」
「あややや……」

またやってるわこいつら。
何故かこのメンバーだと文が弄られ役になるのだ。

「霊夢さん助けてくださぁい」
「良いじゃないの、アンタも飲んでいきなさいよ」
「えぇー……」

もはや味方なし、と思ったのか文の顔が諦めに満ちる。
他の奴らは誘わないようだ。誘わなくても一人が見つけたらやってくるから特にその必要もないだろう。

日が傾き始め、いい感じの時間になった。
萃香と紫が早速飲み始める。なんかよくわからないが話で盛り上がってるらしい。
鬼の目の前という気まずい雰囲気なのか、馴染めない文を見やる。

「ほら、アンタも」
「は、はぁ」
「……ほんっと裏表激しいわね。萃香の前じゃその勢いもげっそり削げて」
「まぁ、上下関係の厳しい社会に属するとはそういう顔を持たなきゃいけないってことですよ」
「苦労するのね。もう鬼は地底に行ったんだからもっと気楽でいいんじゃないの?」
「あやややや、それがそううまくできないものですよ。百年単位の慣れというものは恐ろしいものです」

そう言ってまた頭をかいた。
そんなめんどくさい社会にいないでよかったなと思ったりする。

ただ、なんか気に入らない。

「その敬語、どうにかならないの?」
「敬語、ですか?」
「会議にでも出てるわけじゃあるまいし、普通に話してもいいじゃないの」
「いやまぁ、ここには萃香さんもいることですし」
「ここは酒の席」
「いや、でもですね」

ああ、やっぱりむずむずする。
そうだ。もうバチンと言ってやろう。

「この際だから言ってやるわ。アンタが私に敬語使うって、すっごい気色悪いのよ」
「気色っ……!?」
「普段はなんとなく話してくるくせに、取材でもなく敬語使ってくるなんてうすら寒いの!」

丁寧過ぎてむずむずする。
……いや、違う。『私に対して』他人行儀過ぎるのが変にイライラするんだ。

「だから、私と話す時は敬語はなしね」
「別に敬語でもいいじゃないですかぁ」
「ここは私の神社、私が主人よ。主人の言うことに従いなさい」

休憩所から宴会会場としてまで貢献しているのだ。
これくらいの横暴は許されるだろう。

「……はぁ、霊夢らしい横暴だわ」
「そうそう、それでいいのよ」
「何の意味が、あるのやら」

そうそう、それでいいのよ。

お猪口を軽く突合せ、一気に平らげる。

「はぁ……」

壁に背を預ける文を見やる。
そうそう、これでこそ私の知る射命丸文だ。彼女は私に対して、こうでなくてはならないのだ。

私の事情を気にすることなく、勝手にやってくる陽気な妖怪。
趣味で好き勝手に取材と称して突っかかってくる鴉天狗。
妖怪の山の天狗のくせに、気さくで、人間に一番近い奴。

(ほんと、変な奴)


だから、私はこいつが気に入ってるのかもしれない。


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