Coolier - 新生・東方創想話

歯医者

2015/05/09 23:47:19
最終更新
サイズ
10.32KB
ページ数
1
閲覧数
911
評価数
9/11
POINT
500
Rate
8.75

分類タグ

私がここにいる理由を説明しなければならない。
出来事の始まりは1か月前だ。

一か月前
私は奥歯に違和感を感じた。
大したことはないが若干痛い。
その時はまあ放置した。

1週間後
まだ痛い。
というかこれ歯が痛いんじゃないな。
どちらかというとあの奥が痛い。
舌で痛む付近を触ってみると、何か固いものがある。
奥歯より奥に一段低い歯が生えていた。
うむ、これが噂に言う親知らずか。
私も生えてくることは知っていた。
自然に生えてくるってことは、無視してもいいってことだな。

さらに、1週間後。
親知らずは順調に生えてきている。
若干高くなったような感じもする。
まあ放置だ。

さらに、1週間後。
ほっぺたの裏に違和感を覚えた。
ほっぺたを引っ張って鏡を見てみると、変な顔をしている私がいた。
当たり前だ。
口の中を覗き込むと、ほっぺたの裏に小さな傷があった。
口を動かすたびに、親知らずがほっぺたに当たっているらしい。
この恩知らずが・・・。
せっかく生やしてやったのに。
でも、まあ、我慢できないほどでもない。

さらに、1週間後
うむ我慢できなくはないが、これがずっとだと面倒だな。
でも、歯医者にはいきたくないな。
大体の歯医者とか医者は自分の技術が使いたくて仕方がないに違いない。
魔法使いが魔法を使ってみたいのと一緒だ。
歯医者は抜歯がしたいだろうし、医者は手術がしたいに違いが無いのだ。
どうせ、歯医者にこのことを告げたら、目を輝かせながらこう言うだろう。
「じゃあ、抜いちゃいましょう」と・・・。
くそぅ、そうはさせないぜ。
それだけは断固拒否だ。
でも、歯ってどうやって抜くんだろうか。
わからん。
とりあえず、わからないことがあったらアリスに相談してみるのが一番だ。
ということで今日もアリスの家に遊びに行く。
「ということで、今日も来てやったぜ」
私がいないとスーパー引きこもりのアリスが可哀そうだからな。
私が話し相手になってやるんだぜ。
部屋に入ると、いつも通り、上海がお茶を用意してくれた。
適当にいつものテンプレートを話し終えたあと、さりげなく聞いてみる。
「なあ、アリスは歯を抜いたことがあるか?」
「あるわ、親知らずを抜いたわ、4本ともね」
「ふぅん、どうやって抜くんだ」
「ペンチみたいな道具でぐりっと」
やっぱりか、というかそれしかないよな。
むむむ、強敵だ。
「やっぱり、そうなのか」
「私の場合、抜けなかったから、ノミで割ってから抜いたわね」
「はっ、ノミ?あの大工道具のか」
「まあ、正確にはノミとは違うかもしれないけど、あんな形の奴でトンカチ使ってガンガンやって割るのよ」
「そっ、それって、かなり痛くないか」
「まあ、麻酔すれば大丈夫でしょ」
「そういうもんか」
「そういうもんよ」
ノミとトンカチだと。
ペンチがラスボスだと思っていたら、こんな裏ボスがいるなんて。
ノミとトンカチで、人の顎に生えている歯をかち割って抜くなんて、人の歯をなんだと思っているんだ。
まるで大工仕事じゃないか。
「参考になったぜ」
「魔理沙、虫歯?早く抜いたほうがいいわよ」
「虫歯じゃないぜ」
本当のことだ。
「じゃあ、親知らずか。魔理沙も大人になったわね」
「・・・。」
なぜ、分かるし・・・。
「痛いの、さっさと抜いちゃったほうがいいわ」
「いや、遠慮するぜ」
「あら、魔理沙ともあろう人が、歯医者ごときを怖いの」
「いや、行くのが面倒なだけだ」
「いつも行く団子屋の4つ隣の向かいが歯医者よ」
そのぐらい、知ってるさ!行きたくないって察しろよ。
「まあ、そうなんだけどな」
「ちょっと見せてみなさい」
「いや、いいよ」
何故か、上海の紐が私に絡みつき、一瞬にして拘束された。
「はい、あぁん」
アリスが顔を近づけてくる。
絶対に口をあけるもんか・・・と私は心に誓った。
「・・・。」
「上海、開けなさい」
むう、上海が強引に私の口を開く。
私の誓いは脆く崩れ去った。
私の顔にアリスの顔がさらに近づく。
アリス、まつ毛長いなぁ。
「はい、そのまま。親知らずね。ちょっと曲がってるけど。ああ、ほっぺたに傷があるわね。これが気になってたわけね。はい、おしまい」
「・・・。」
一応上海の拘束は解いてもらった。
恥ずかしかったぜ。
「さて、歯医者に行きましょうか」
「今日は休みじゃないか?」
「大丈夫、定休日は昨日だわ」
「明日でいいんじゃないかな」
「今日よ、思い立ったが吉日って言うじゃない」
「私は思い立ってないぜ」
「私は思い立ったわ」
アリスは席を立つと私に言った。
「じゃあ、行きましょうか」
「・・・。」
「文に電話してあげましょうか」
「さあ、歯医者に行こうぜ。送ってってくれよ」
「ええ、いいわ」
くそ、とんでもねぇ奴だ。
くそぉ、なんでこうなったんだ。
誰だ、アリスに聞いてみようとか言ったの。
私は私に悪態をついた。
もう、どうしようもない。


以上で回想終わりだ。
そして、今、私は歯医者の前にいる。
「じゃあ、私はお団子食べてるから。それともついてく?」
「ゆっくり食べてるといいぜ」
「じゃあ、しっかりね」
「ああ、行ってくる」
私は歯医者に入ると、独特の消毒液のにおいがした。
受付の歯科助手が私を見つけて言った。
「霧雨さんですね。お待ちしておりました。どうぞ」
「ど、どうぞって、どういうことだ」
「奥の、診察室にどうぞ」
「ああ」
何てことだ、待合室で気持ちの整理をしようと思ったのに・・・。
最初から予想外の事態に動揺したままの私は、診察室に案内された。
とりあえず、素直に椅子に座る。
どうも、この椅子が、電気椅子の類に思える。
手を縛られて、寝かせられたら、ショッカに改造されてもおかしくない。
「では、少々お待ちください」
「ああ」
ここで待つのか。
なんだこの生き地獄は。
ここは地獄の一丁目か。
そうに違いない。
待つ間、何か気を紛らわすために考え事をしよう。
そうだ、ちょっと歯を抜く方法のおさらいをしよう。
シミュレーションだ。
まず歯茎に麻酔を打つのだろう。
まずここであり得ない。
なんで、口内に注射なんて打たなきゃならんのだ。
腕だっていやだって言うのに。
私は献血用の注射器を思い浮かべていた。
まあ、いい。百歩譲っていいだろう。
次は何だろう。まあ、ペンチでグリッとするのだろうか。
くそぉ、”グリッ”っかどう考えても痛そうだな。
私は痛いのに、歯医者は嬉々として抜歯に取り組むのだ。
なんという不平等。
私としたことが、嫌なことを想像してしまい、少し取り乱す。
ちょっと落ち着こう。
深呼吸だ。
ふう、落ち着いたぜ。
なんで抜歯のシミュレーションなんて始めたんだ?
ここで私は私の思考回路がかなり混乱していることに気が付いた。
よし、いったん思考停止して、Reboot。
よし大丈夫だ。
これでいつもの魔理沙☆だぜ・・・。
私はなにやってるんだろうか?
だいぶ長い時間、くだらないことに思いを巡らせていたが、歯医者はまだ来ない。
1分が10分程度に感じる。
おそらく、この建物は外部と隔離され、かなり光速に近い速度で運動しているに違いない。
ああ、もう、お医者様が忙しいなら、私は今度でもいいのだが・・・。
そうだよ、アリスを待たせても悪いし、今度にしよう。
それなら、あの受付の歯科助手に言わなくては・・・。
「はい、おまたせぇ」
診察室に歯医者が入ってきた。
おそらく50歳ぐらいの男だ。
なんて悪いタイミング、このタイミングで来るか、ふつう。
「お願いします」
「で、今日はどうしました」
「親知らずが、ほっぺたにあたっているみたいで・・・。」
「ふぅん。上、下」
「上です」
「抜いちゃおうか!」
見てもいないのにか?
もっと診察すべき項目があるんじゃないのか?
「はい」
私は、そう答えるしかなかった。
「まぁ、一応見てみようか」
一応見てくれるらしい。
「はい」
診察台を倒し、ライトをつけた。
もう、まな板の上の魚だ。
どうにでもなれ!
歯医者は私の歯を1秒程度見てこう言った。
「うん、やっぱり抜いちゃおう」
ですよぜぇ
「はひ」
「じゃあ、抜歯の準備お願い、鉗子一番でっかいの」
奥の歯科助手に声をかける。
なにやら、道具が運ばれてきたようだが、私はあえて見なかった。
顔にタオルがかけられた。
前が見えないので目をつぶる。
「はい、口開けて」
何かが奥歯の周りをさわる。
「次は少し苦いですよ」
歯茎に何かが当たるような感覚。
そして、何か苦い液体が口内に少し漏れた。
これが麻酔か。全然痛くないな。
医学も進歩しているようだ。
「さて、じゃあ、麻酔が効くまで、一通り歯のチェックしますからね」
少しうなずく
「うぅん、少し歯垢が残ってるなぁ。糸ようじちゃんとやってね」
やってるよ。
歯医者は、一通り私の口をチェックした。
「じゃあ、抜くから」
その時が来た。
歯医者は口の中に器具を押し込む。
もう口の中は満員状態だ。
「よ、ん、なんか滑るなぁ」
知るか。
歯医者は私の歯を掴んで揺らしているようだ。
「まあ、気長に行くからね」
そういうものか・・・。
まあ、口の中は麻痺しているため、痛みはない。
「くそ、滑るな。これどこ掴めばいいんだよ。くそ、滑るぞ、つかめないな。こっちかな、だめだなぁ」
作業は難航しているらしい。
「ちょっと、残根鉗子持ってきて」
あのペンチは鉗子っていうのか、どうでもいい知識だ。
歯科助手は道具をはこんでくる。
「じゃあ、続けるよ」
言うなり、道具が口の中に差し込まれたのでうなずくこともできない。
「やっぱりすべるなぁ」
医者は何かつぶやきながら作業をしている。
麻酔の効果か、痛みはなかった。
患者としては退屈だ。
「ふう、疲れたよ。いったん休憩だ。もう、15分ぐらいやったかな。緩んできてはいるんだよ。気長に行くからね。君の歯が意外に頑丈でね。どっちに揺らしても動かないんだよ。普通の歯医者ならあきらめてるね、ハッハッハ」
私は少しうなずいた。
ここまでやったのであれば、あきらめないでほしい。
「大丈夫?歯に痛みはないよね」
少しうなずく。
歯は痛くないが、道具と歯の間に挟まれている唇が痛い。
「じゃあ、続けるからね」
歯医者は作業を再開した。
やはりぶつぶつ独り言を言っている。
私は抜歯の作業がもっと短い作業だと思っていたのだが、これだけ長いとどこで緊張すればいいかわからない。
患者としてはやることがないが、口を開けている必要がある為、寝ることもできない。
歯医者が頑張っているところ悪いが、退屈だ。
「滑るなぁ。つかめないのが一番困るんだよ」
そういわれても私の責任じゃない。
「うぅん、こっちじゃないな。滑るぞぉ。こっちかな。こっちか!!はっ!やっぱりだ。これしかないんだよ。くそ、滑るぞ。でもこっちなんだよ。もうすぐだからね、だいぶ緩んできてるから。でも滑るんだよ。」
なんか言っているが、言っている内容が一緒なので、まったく進捗が分からない。
しばらくして、私がぼおっとしていると、歯医者が鉗子を置いた。
ん、ギブアップか。
「抜けた」
「はい?」
「抜けたよ。超大変だったよ」
「そうですか。ありがとうございます」
全然わからなかった。
抜くときに抜くって言ってくれればいいのに。
歯医者が顔のタオルを取ってくれた。
「この歯見てよ。なんで、口の中に出てる部分より根っこの方が太いんだよ。というか、この根っこ。鍵状になってるでしょ。これが引っかかって取れなかったんだよ。分かる?これが顎の骨に挟まってるわけ。どっちの方向に揺らしてもこれが引っかかって取れないわけ。それをね、手の感覚だけを頼りに抜くわけさぁ。でもね、君の歯がつるつるで滑ってつかめないの。だからもう、あまりに抜けないから途中で、八意先生のところに送ろうと思っちゃったよ。ハッハッハ」
「そうですかぁ」
まあ、良くわからんが、大変なことは分かった。
途中で放棄されなくて本当に良かった。
「じゃあ、これあげるから、大切にしてね」
歯医者は私に洗った親知らずをプレゼントしてくれた。
正直、処分に困る。
これもテュースフェアリの対象なのだろうか。
「じゃあ、あまり舌で、抜いたところに触らないように。あと今日は運動を控えて。抗生物質と痛み止め出しておくから、貰って帰っていいよ。ごくろうさん」
「ありがとうございます」
嬉々とした歯医者は診察室を出て行った。
私は診察室を出て、お金を払い、処方箋をもらって、外に出た。

こうして私は解放された。
消毒液のにおいのしない新鮮な空気を吸い、団子屋に向かった。
「アリス、私にも一本くれ」
「ダメ、抜歯した直後でしょ。後で柔らかい、うどんでも作ってあげるわ」

・・・。
やっぱり、抜歯なんてろくなもんじゃない。
(備考:若干の体験談です。山も落ちもありません)

--------------------------------------------------

コメントありがとうございます。

誤記のご指摘ありがとうございます。
訂正させていただきました。

幻想郷での薬(特に抗生物質)の件はなくてもいいかなと思いましたが、
結論として削除しませんでした。
魔理沙の歯茎が膿んでしまうといけないので・・・。

これからもご指導をよろしくお願い致します。
Mini
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.100簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
あ?うん、そうか。
3.50金細工師削除
自分も下の2本は歯肉切開してから割られたなぁ…
嫌なこと思いだしたどうしてくれよう。
4.50奇声を発する程度の能力削除
抜歯は色々ときつい
5.10名前が無い程度の能力削除
見事なまでに東方関係ないとしか言いようがない作品でした。
6.80名前が無い程度の能力削除
途中で素直になる魔理沙が面白かったです
7.10名前が無い程度の能力削除
へえ、そーなのかー。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
下顎の親知らずを抜いたら慢性的な肩凝りが治ったなあ……
まるで血管に差し込まれた堰を外したかのような清々しさ。肩の血管に血が流れているのが感じられるくらいで、同時に出血も治まらず数日寝込んだけど。
9.30名前が無い程度の能力削除
麻酔かけるわ抗生物質を処方されるわで、幻想郷が舞台とは思えなかったのが残念です。
本当にただの体験談だなって。
為すがままの魔理沙は可愛かったけど。
11.90名前が無い程度の能力削除
長文失礼
いや、面白かったよ。
こんな1日もあるって感じでさ
薬とか麻酔とかって言うと永遠邸とかどうなるよって言うね、そこら辺脳内補完しないとさ
与えられたもん食ってるだけじゃなくて読者は自分の頭で味付け加えるのもまた一興じゃないかと
まぁ、楽しみ方は人それぞれだけどさ。
12.70名前が無い程度の能力削除
面白かった
ノミって冗談かとおもったら3番さんのコメント・・・
あ、一か所「ノミ」が「ミノ」になってます