Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その6 チャーハンとブラジャー

2015/04/28 20:22:48
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「こんにちわー 遊びに来ましたよー」

 東風谷早苗がいつものように声をかける。
 博麗霊夢は裏庭で洗濯物を干していた。

「お洗濯ですかー、天気、良いですもんね」

「まあね。あんたもこんな日には干さないとダメよ」

「お気遣い無用です、私はひと通りお洗濯を終えてから参りましたから」

「ふん」

 干してあるのはシーツと巫女服の上着と真っ赤なハカスカ(袴風スカート)。
 手を貸すわけでもなく霊夢の作業を見ている早苗。

「なに? いくら待ってても下着は干さないわよ」

「お言葉ですが、霊夢さんの下着にはほとんど興味ありませんからね」

「ああそう」

「でも、下着はどうしたんですか?」

「あのね、ソレを外に堂々と干すようになったら終わりでしょうが」

「へえー、へえー、へええー」

 早苗は〝へ~ボタン〟を連打。50へぇ。

「そこ、感心するとこなの?」

 ちょっとムッとした表情を向ける。
 色々とオッサン臭い言動の多い霊夢だが、一応は年頃の女の子なのだ。

「つかぬことをうかがいますが」

「なによ、今のはスルーしないからね」

「それは、ちょっと置いといてくださいな」

 最近はグイグイくる早苗。この程度の脅しにはへこたれない。

「霊夢さんはそのー、サラシ、ですよね?」

「そうだけど」 

「巻くの面倒じゃありませんか?」

「慣れちゃったからね」

 面倒臭いことを極端に嫌がる霊夢だが習慣とはそんなものだろう。
 木綿のサラシ一反は約10メートル、幅は30センチ強。
 三等分にして半分に折り、胸に巻いている。
 霊夢は腹には巻かないのでこれで十分なようだ。
 緩んでポロリしちゃわないためにはコツがいるが、要は慣れだ。

「それに洗わなくて良いしね」

「洗わないんですか!?」

「買い取ってくれるところがあるのよ」

「なん……ですと?」

「美人巫女の使用済みサラシは高く売れるのよ。良い小遣い稼ぎになるわ」

「それっ それっ それってダメじゃないですか!
 巫女として、いえ、乙女としてやっちゃいけないことですよ!」

 早苗は口角泡をとばす勢いで詰め寄る。

「近い、顔近いって。 冗談よ」

「はえ? じょ、冗談……なんですか?」

「当たり前でしょう。そんなことするもんですか」

「ふーー、私はてっきり……」

「てっきり、なに?」

「いえ、まー、そのー」

------------------------------

「ずーっとサラシだと、胸のカタチが悪くなっちゃいますよ?」

「そうなの?」

「霊夢さん、65のAはありそうですからブラジャー着けるべきですよ」

「たまに聞くけど、それって何の単位なの?」

「うわっ ご存じない?」

 自分の額をぺちんと叩き、あっちゃ~と天を仰いだ。

「腹立つわねー」

「よろしいですか、簡単に説明しますからね。
 トップバストとアンダーバストの差が〝カップ〟です」

「そのトップとアンダーってどこのこと?」

「そこ大事です。まず裸になって直角お辞儀をします」

 そう言って腰を折ってみせる早苗。

「裸になんないの?」

「簡単な説明と言いましたよ」

「まあ、聞くだけ聞くわ。続けて」

「カップとは言ってみれば、お乳の〝量〟です。
 こうしないと正確に測れないんですよ」

「脂肪の量ってことよね」

「……夢も希望もない言い方はやめてください。
 メジャーを回して胸の先端経由の数値がトップです。
 次に指をまっすぐ揃えてその手を腋の下に挟んでください」

「こう?」

「どうして右手を右の腋に入れようとするんですかっ、反対の腋ですよ」
  
「変だと思ったわ」

「その時の小指の位置で測るのが正確なアンダーで、〝サイズ〟です」

「ふーん」

「そしてトップとアンダーの差が10センチならAカップ、以降、2,5センチ単位でB以上になります。Eだと差が20センチですね」

「細かいのねえ」

「それだけ繊細で重要だってことですよ。
 アンダーに金属製のワイヤーの入ったタイプは幻想郷ではまだ出回ってないですね。
 パッドを入れるためのポケットが内側に作られてるのもあります」

「盛り乳よね」

「そんな身も蓋もない言い方、ヒドくないですか?」

「そう?」

「……つまり、そうやって慎重に最適なものを吟味しなければならないということです」

「ほうほう」

「で、問題は勝負下着ですね」

「勝負? なんの?」

「何回かデートを重ね〝よっしゃ今日は行ったろかい〟と言うときに装備する下着です」

「行くって……あー、そーゆーことね。緊褌一番ってわけね」
 
「それ女の子が使う言葉じゃないですけどまあいいです。
 見せること前提でまとう戦闘服です」

「でも、結局は脱ぐんでしょ」

「そうですけど」

「意味無くない?」

「確かに、コトに及んだ男性の実に九割が『そういやどんな下着だったっけ?』だそうです!
 よほどド派手か、ボロボロな代物でない限り記憶に残らないそうなんです!」

「やっぱ、意味無いじゃない。見栄張っても仕方ないじゃないの」

「さにあらずっ 自己満足と言われようと、最高の自分を演出したい女心なんです!」

「ふうーん」

「前から思ってたんですが、霊夢さん、この手の話に食い付きが悪いですよね?」

「そーかしら?」

「男性の目が気にならないんですか?」

「そりゃなるわよ、なにせルックス重視の巫女稼業だモン」

 そう言って横っ腹をポンッと叩く。 

「どうも言ってることと、やってることに整合性が感じられないんですけどね」

「細かいこと気にしてたら早く老けるわよ」

 ------------------------------

「今日、魔理沙さんはどうしたんです?」

「いつもいつも居るわけじゃないわ」

「寂しいですね」

「そお? 静かでいいけど」

「霊夢さん、強がってませんか?」

「別に」

「あ、早苗だー」

「あら、こんにちわ」

 少名針妙丸がとてとて歩いて来る。
 ピョンと早苗の膝に乗った。

「二人とも、なんの話してたの?」

「大きな声では言えませんが、女の子の下着のことです」

「あらー、それは内緒の話だよねー」

「ちなみに針妙丸さんの服や下着はどうしてるんですか?」

「このコは自分で作ってるわ」

「私、針仕事は得意なんだよー」

「売ってはいないでしょうからね」

「近いうちにアリスが針妙丸用の洋装をあつらえてくれるらしいわ」

「アリスさんが? あ、人形のドレスたくさん作ってますもんね」

「私、今までドレスなんて着たことないけど……似合うのかなー?」

 少し不安そうな顔。

「きっと、似合いますよ。絶対です!」

 早苗がニッコリと太鼓判を押した。

「おーーい」

「お待ちかねのヒトが来ましたよ」

「別に待っていたわけじゃないわ」

 霧雨魔理沙が箒に跨って飛んでくるのが見えた。

「魔理沙さんもなんだかんだで霊夢さんに会いたいんですよ」

「霊夢ー、ご飯食べさせてくれー」

「ほらね、そんなところよ。今んとこは」

------------------------------

「なー霊夢ー、おなか空いたぜー」

「しょうがないわね」

 そう言いながらも嫌そうな顔ではない。

「なに食べましょうか?」

「あんたも?」

「早苗も食べるとなればお手軽ってわけには行かないぜ」

「……それはどーゆーことですか?」

「早苗の食べ方はまるで【妖怪二口女】だからな」

「なんですかそれ、ヒドいっ」

 本人は否定しているが、気持ちが良いほど豪快な食べっぷりは人里でも評判になりつつあるのだ。

「へー、早苗は二口女なんだー」

 針妙丸が目を丸くしている。

「違いますよっ」

「女はみんな口が二つでしょうが」

「うわあ、霊夢さん下品」

「あんたのもう一つの口を見せてごら~ん」

「超セクハラですよ、それっ」

「冗談よ、あんたのなんか見たかぁないわよ」

「しっ失礼ですね!」

「霊夢、最近、シモネタがヒドいぜ」

「魔理沙」

「なんだよ」

「あんたの下の口ならじっくり見てみたいわ」

「え? じょ、冗談……だろ?」

 グフフフッ、とにじり寄ってくる霊夢。

「やめろよっ」

「ほーら、見せてちょうだいよ」

「嫌だっ」

 後ずさる魔理沙の足首をガッシと掴んだ。

「やめろよ! やだって!」

 淫魔の手を振り解こうと必死に抵抗する魔理沙。

「いや! いやあ、いやーん」

「いやーん? 今、いやーんって言いました?」

 魔理沙は顔を赤くして両の手で自身を抱き、女の子座りで膝をぴっちり揃え、プルプル震えている。

「い、今の無し、……だぜ」

「魔理沙さん、カワイーー!」

「やべぇ、滅茶苦茶にしてぇわ」

 霊夢の中の獰猛なケダモノが吼えた。

「霊夢さん……乙女のカケラもないんですけど」

「ああん? どっからどー見ても乙女でしょうが」

 ぐいっとアグラをかきなおし、自分の膝をぱあーんと叩く。

「このヒト、どうしたら良いんでしょうかね……」

 助けを求めるように針妙丸をチラと見る。

「ねえー、女はみんな二口って、どういう意味?」

 曇りのない瞳で見上げてくる。

「えっと、あの、んーーと」

 なんと説明すればいいのか。

「宿題にさせてください」

「うん、がんばってねー」

  ------------------------------

「霊夢がいらんことするから余計におなかが減ったぜ」

 魔理沙がぷりぷり文句を言う。

「ちょっとその前に聞かせてください」

「なんだよ」

「魔理沙さんは〝胸〟対策はどうしてます?」

「はあ? いきなりだな。胸って……ブラのことか?」

「その通りです」

「今はしてないぜ。けど、アリスがブラジャー着けろってうるさいんだよ」

「出た、ここでも出やがったわね。アリス」

 霊夢があからさまに顔をしかめる。

「お姉さんかお母さんみたいですよね」

「そんなまろやかな愛情じゃないと思うけどね」

「どゆことです?」

「ハンターの執着に近いんじゃないかしら。
 自分の獲物は他人には絶対譲らない的な」

「お前なあ、言い方ってモンがあるだろ。
 それじゃ私が狩られる子鹿ちゃんみたいだぜ」

「うへー、子鹿ですって……」

「臆面もなく言いやがったわね」

「私はリス、かなー」

 状況が分かっていない小人が割り込んできた。

「針妙丸はリスね、はいはい」

 霊夢が優しく、そして適当に流した。

「そんで霊夢はー、熊なの」

「…………くまぁ?」

「ぶはっ!」×2

 早苗と魔理沙が吹き出した。

「あーんたたち、なに笑ってんのよっ。
 ねえ針妙丸? どーして私が熊なのかしらね~?」

 つとめて平静を保ちつつ聞いてみる。

「でーんっと構えてて、強くて頼もしいからー」

「うはははっ そりゃそうかもなー」

「博麗・ベア・霊夢。 これ、定着しますかね?」

「ふざけんじゃないわよっ」

------------------------------

「キャミ(キャミソール)だけだったんだけど、こう……先っちょがチクチクしてさ」

 軽く胸を押さえる魔理沙。
 何度か脱線しながらも話はブラのことに戻っている。

「あー、そんな時期もありますね」

「魔理沙、それは舐めればすぐに良くなるわよ」

「そうなのか?」

「私がやってあげる、こっちおいで」

「霊夢さん! なに言ってるんですか、いけませんよっ」

「もー、うるさい風紀委員ねー」

「アリスは自分で作ってるから、私のも作るって言ってくれるんだけどさ」

「ダメに決まってんでしょ」

「それは危険ですね。計測時が超危険です」

「危険なのか? なんで?」

「それはいーから」

「なんだよ……まー、洋服は作ってもらうこと多いけど、さすがに下着はなー」

「そうですよ」

「里の洋裁店に一緒に行って柔らかい裏布のいついたキャミやソフトブラを買ったんだぜ」

「結局は一緒なのね」

「魔理沙さん、サイズは把握されてます?」

「ブラのサイズ? 知ってるぜ。
 そんなの常識だろ? 女の子だもん」

「ですってよ、霊夢さん」

「……ぢっ」

 盛大な舌打ち。

「ちなみに私はスポーツブラです。動きやすいですから」

「なんだそれ? 見せてみろよ」

「え? ヤですよっ」

「霊夢っ」

「応っ」

 がしっと羽交い絞めにする。

「や、やめてください!」

 暴れるがビクともしない。

「おとなしくしないとこのまま後ろに投げるわよ」

 名付けてドラゴンスープレックス。

「早苗、これは純粋な好奇心なんだ、分かるだろ?」

「どうして私が聞き分けのない風になってんですか!
 こーゆー役は魔理沙さんじゃないですか!」

「……聞き捨てならないぜ」

「ごめんくださーい」

「あ! ほらっ 霊夢さん、魔理沙さん、お客さんですよ!」

「むっ ここまでかよっ」

「命冥加なヤツね」

 ------------------------------

 博麗神社を訪れたのは寅丸星だった。

 平均を超え大女と呼ばれそうな身長だが均整のとれた長い手足に小さな顔。
 くっきりとした目元は穏やかで鼻梁も美しい。
 小さな唇は上品なのに親しみやすさを感じさせる。
 単に美人と括るには何か勿体ない。あと一つ二つ麗句を加えたい。
 十六夜咲夜や水橋パルスィのようなプラスアルファのある美人だ。
 従者にして恋人のナズーリンが【唯一の至高存在】と讃えるだけのことはある。

「霊夢さん、ナズーリンがいつもお世話になってます」

「いえいえ、こちらがお世話になっているのよ」

 霊夢は見たこともない上品な笑顔で答える。

 ―― おい、霊夢のヤツ、よそいきだぜ ――
 ―― ええ、猫の着ぐるみ完全装備です ――

 魔理沙と早苗のヒソヒソ話。
 霊夢が二人に向かって口だけ動かした。

『キ・コ・エ・テ・ル・ワ・ヨ』

 ―― おっとアイツはデビルイヤーだったぜ ――
 ―― 巫女みこカッターは岩砕きますもんね ――

 ナズーリンに形あるものからないものまで色々と援助してもらってる博麗霊夢はその主人である寅丸に宗教を超えてそれなりの敬意を表すようだ。

「このあいだのシジミの佃煮、美味しかったわ」

「それは良うございました」

「今日はどうしたの? ナズーリンは?」

「二人でお使いの帰りだったのですが、ナズーリンは河城にとりさんの工房に寄っているんです」

「そう」

「近くでしたから私だけご挨拶に上がらせていただきました」

「それはご丁寧にどうも」

「それで、ナズーリンが戻るまでこちらで待たせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん。さあ、上がってちょうだい」

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「貴方が少名針妙丸さんですね?」

「こんにちわー」

「まあまあまあ、なーんて愛らしいんでしょう」

「あなた、とっても美人ー」

 初対面の二人はきゃっきゃと楽しそう。

「GかHはありますよね」

 少し離れた所で寅丸の胸元を凝視していた早苗が呟いた。

「カップのサイズか?」

「それって何かの略なの?」

「Gは〝グランデ〟Hは〝ハイパー〟ですよ」

 そんなの初めて聞いた。

「……他のは?」

「AからDまでは単なる記号ですが、それ以上は尊称が付きます」

「そんしょう?」

「Eは〝エクセレント〟Fは〝ファンタスティック〟です。
 GとHは先ほどの通り、Iは〝インフィニティ〟と呼ばれます」

「それ以上は?」

「Jは〝ジャック・イン・ザ・ボックス〟(びっくり箱)ですね」

「なるほどねー」×2

 すっかり信用している霊夢&魔理沙。 (注:本気にしちゃいけませんよ)

------------------------------

「貴方、お昼は?」

 霊夢が寅丸に尋ねる。

「まだですが」

「よかったら一緒にどお?」

「ありがとうございます。ご相伴にあずからせていただきます」

 合掌して会釈。
 施しはどんなものでも感謝して受け取るブッディスト。

「霊夢さん、ご飯、お米はあるんですか?」

「どーしてあんたが仕切ってのよ。
 ……あるにはあるけど、冷ご飯なのよね。しかも山ほど」

「なんで冷や飯がたくさんあるんだ?」

「昨日、萃香がお腹いっぱいお米が食べたいって。
 たくさん炊いたのに帰って来ないんだもの」

「じゃあ、お茶漬けにするか?」

「冷やご飯は食べちゃわないとですよね」

「ちょっと、お客さんいるのにお茶漬け?」

 さすがに博麗の矜持が許さない。

「じゃあどーすんだよ」

「私、炒飯(チャーハン)作りましょうか?」

 聞こえるか聞こえないかの声でジャカジャカ騒いでいる三人に寅丸が提案した。

「へ?」

「あ、でも、お客様にご飯作ってもらうなんて悪いわ」

「お気になさらずとも結構ですよ」

 そう言ってペカーっと笑う。

「なあ霊夢、寅丸の料理はスゴいんだ、作ってもらおうぜ」

「チャーハン、素敵です。お願いしまーす」

「あんたたちねぇ……」

------------------------------

「良い中華鍋をお持ちですね、鉄ベラもあるんですねー」

 寅丸が博麗神社の台所で道具を確認している。

「これも河童を締め上げて作らせたヤツだな?」

「人聞きの悪いこと言わないで。ちゃんと頼んだわよ」

「命蓮寺の中華鍋も河童のにとりさんに作ってもらったモノなんですよ」

 大所帯を賄うための特注品の特大中華鍋。
 並外れた膂力の持ち主である寅丸星でなければ扱えない代物だ。

「でもさー、パラッとした炒飯は難しいよなー」

 魔理沙が両手を後ろ頭に組んで呟いた。
 そんな魔法使いに寅丸がニッコリ笑いかける。 

「お教えしましょうか?」

 料理はほとんどしない、とおっしゃる向きも『チャーハンなら作ったことがある』のではないだろうか。
 適当な具と飯を炒め合わせるだけなのだから誰でも簡単に調理できる。
 できるはずなのだが、熟練者とビギナーとでは仕上がりに大きな差が出る。
 ムーンとスッポン、天子と地子の差(あ、これはあんま差が無いか)だ。

「ホントか? 覚えたいぜ」

「ぜひお願いします」

「いいの?」

「せっかくの機会でございますからね」

「よーし、〝寅丸星のお料理教室〟スタートだぜっ」

「あ、あの、そんな大層なことではございませんからね? ね?」

 調子に乗る魔理沙とは対照的に狼狽える寅丸星。

------------------------------

「まず十分にお鍋を熱くすることですね。
 このお鍋なら二人前ずつ作りましょう。
 まとめて作ろうとすると火が回りきらないんですよ」

 調理に取り掛かる前に手順の説明が行われている。

「ご飯の水分をいかに早く飛ばすのかが重要ですね」

「あの空中に放り上げるのができないとパラパラにならないんじゃないか?」

 飲食店で見かける鍋やパンを煽るアレだ。

「そんなことございませんよ。丁寧に素早く何度もひっくり返せばいいんです」

「でも、できるようになりたいよな」

「料理上手って感じでカッコイイですもんね」

「あんたらはまた、いらんとこに見栄を張ろうとするわね」

「少し湿らせた布巾を具に見立てて練習すればすぐできるようになりますよ。
 手前に引くところがコツといえばコツですが」

 寅丸が手振りをしてみせる。 

「スっと押して、こう、ヒュッと引く感じか?」

 魔理沙が真似をすると霊夢も早苗もそれに倣った。
 針妙丸も『はっ ほっ よっ』とやっている。
 このコ用の鍋は無いんだけど、まあいいじゃないですか。

「そうですね、そんな感じです」

「ご飯は暖かいのと冷めてるののどっちが良いの?」

「うーん、どちらのご意見もありますね。
 私は冷めてて良いと思いますよ。塊があったらほぐしておきましょう」

「冷めてていいのね?」

「ご飯粒がうまくバラけたら上手くいくんです。
 暖かいご飯は粘りがありますからバラけにくいんですよ。それだけだと思います。
 硬めのご飯なら暖かくても良いでしょうね。
 最初に玉子を混ぜ込んでバラしておく方法もありますよ」

「玉子かけご飯にしておくんですか?」

「その通りです。
 ただこの場合、玉子にかなり火が入りますので玉子本来の美味しさが少し損なわれるような気がします」

「玉子の?」

「ええ、滋味と言いますか、独特の甘みでしょうかね」

「ふーん」

「他に材料は何を使うんですか?」

「レタスがあるわよ」

「レタスチャーハンってどうですか? 寅丸さん」

「いいですねー やってみましょう。
 あと、お肉は何がありますか?」

「豚バラ肉のちょっとした塊があるわよ」

「それは大変結構です。レタス、玉子、豚バラ肉、ネギですかね」

「シイタケはどうだ?」

「はあ? またなの?」

「お約束のネタになりつつありますね」

「あら? お二人はシイタケ、嫌いなんですか?」

「嫌いってわけじゃなくて、すき焼きやカレーには入ってて欲しくないのよ」

「チャーハンにシイタケですか、うーん」

 早苗は腕を組んで首を傾げている。

「微妙ね。あっても良いような気もするけど」

「最近はシイタケをエクスクルージョンすることで成功してますしね」

「むぐぐっ」

 魔理沙の下唇が徐々にせり出してきた。

「一度に作るわけではありませんから入りと抜きの二種類作りましょうか」

「それっ それだぜっ」

 丸く収めたのは毘沙門天の代理だった。

 ------------------------------

「はーい、私も作るの見たいなー」

 針妙丸が手を挙げた。

「肩に乗る?」

 霊夢が自分の肩をちょんちょんと指差した。
 ところが。

「針妙丸さんならここが一番よく見えるでしょう」

 寅丸は胸元を少し広げて手を添えている。

「ん? あ、なるほど、分かったわ!」

 ピョンと飛び上がった針妙丸は、その手を伝って寅丸の胸の谷間に脚を差し入れる。
 そして挟まったまま顔を出した。

「うあー、よく見えるわー」

「ちょっ それ、イイのかよ?」

「まさに特等席ね」

「針妙丸さん、〝そこ〟どんな感じなんですか?」

「あったかくて柔らかーい! ちょっときついけど」

「では、もう少しあけますね」

 グイッ ガバッと胸の合わせを開いた。

「おおうっ」×3

〝グランデ〟の渓谷が顕れる。これぞグランドキャニオン(うそ)。

「あはは、霊夢にゃできない芸当だな」

「あんたもでしょ」

「やはり戦闘力が違いすぎます……神奈子様クラスです」

 三人の中では最もアピールボディの早苗だが、勝負にならなかった。
 幻想郷の乳八仙に数えられる寅丸星ならではの荒技だ。
 ちなみに八坂神奈子も乳八仙の一角である。

「油が撥ねたりしないかしら」

「ホント、心配性だなー」

「私の手が届く範囲ですからご安心ください」

 寅丸がよく分からない保証をしてくれた。

------------------------------

「豚の三枚肉、バラ肉の脂身がいいですよ。これを使えば香ばしい匂いがしますから」

「普通の油じゃダメなんですか?」

「ダメじゃありませんけど豚の脂身を使えば、そうですね~、二段階くらい上級のチャーハンになりますけど。……どうします?」

「脂身ね」

「脂身だぜ」

「脂身ですよ」

「あっぶらみー」

 あっという間の満場一致。

「はいはい、脂身を使いましょうね。
 手の平で軽く持つくらい、これで二人分ですかね。
 脂身を切り取って五ミリ角に刻んでおきましょう、お肉も同じく刻みます」

 タンッ タンッ タタンタンッ

「ネギはみじん切り、スイスイと切れ目を入れてザクザクザクっと。
 玉子は溶いておきましょう、二人分ですから二個、お塩を二つまみほど入れます、ちょいのちょい。
 レタスは手で細かくちぎります、ビリビリッのバーリバリッっと」

 説明しながらリズミカルな動作。

「材料は全て手元に置きます、ここポイントですよ。
 揃うまでは火にかけません」

「なんだか厳しいのね」

「はい、お料理は概してそうですが、チャーハンはキチンと準備が整った段階で成功が約束されますから。
 味付け用の塩コショウも手元に、よろしいですね?」

「炒め始めてから『えーっと玉子はどこだっけ?』とかダメなわけですね?」

「そうです、いけません。一旦火をつけたらスピード勝負です」

「スピード勝負か、私の性に合ってるな」

「お鍋の火力は最初から最後まで常に全開です」

「火力は常に全開か、うん、ますますイイぜっ」

 魔理沙はなんだか嬉しそう。

「それではお鍋を火にかけます」

 ようやく調理開始。

「煙が出てきましたよ」

「まだです、もっと熱く、煙がもうもう上がってからです。
 ……はいっ ここで脂身っ」

 ジャワジュワワーー!

「うわっ!」×4

 予想以上に大きな音に四人ともビックリ。

 ぴちっ 
 
 寅丸は左手を胸の前、針妙丸の前にかざしていた。

「……今の、撥ねた油を防いだの?」

「ええ、まあ」

「反射神経とかってレベルじゃないですね」

「人間業じゃないぜ。 あっ今のは……」

「はーい、人間ではございません。 内緒ですよ? うふふふ」

 魔理沙の少々不適切な発言を軽やかに去なす大妖獣。

「鉄ベラで油を全体にのばしますよー」

「結構油が出るんですね」

「こうしていると脂身が油揚げ色になってきます」

「いわゆるひとつのキツネ色ですね?」

「三十秒くらいか?」

「いい匂いね」

「次にネギをパラパラッ、これも油揚げ色になるまで炒めます」

 ジュオオーッ

「いわゆるひとつのフォックス色ですね?」

「早苗」

「はい?」

「うるさいわよ」

「お、火の通りが早いな、これも三十秒くらいか」

「そしてお肉でーす、炒めまーす」

 ガシャッ ガシャッ ガシャッ

「いよいよご飯です。
 入れたらこうして薄く広げて軽く押さえつけます」

 ジャッ ジャーッ

「これを何度もやりますよー」

 ジャッ ジャーッ

「おー、こりゃなるほど焼き飯って感じだな」

「ご飯がバラけてきたわね」

「パラパラチャーハンっぽくなってきましたよ」

「ここの加減、大事です。 
 焼きすぎるとパラパラがパサパサになってしまいますから」

「なあ霊夢、火の入れすぎはダメなんだぜ」

「……分かったわよ」

 何を作るにせよ過加熱傾向の霊夢は渋い顔で返事をする。

「そして玉子でーす、ぐるーっと全体にかけ回します。
 そして塩コショウをパラリラパラリラ~」

「ぱらりらー」

 これは針妙丸。

「ノってきたな」

「だいたい一分、玉子を絡ませながらサックサックと混ぜまーす。
 最初に炒り玉子を作っておいて最後に混ぜるのもアリですけどね」

「お醤油、入れないんですね」

「んー、最後に鍋肌からジャーっというのもアリですが、全体がお醤油の香りになっちゃいます。
 焦げたお醤油の香りは強力ですから他の香りを圧倒してしまいますね」

「醤油は、最後に出てきて有無を言わさず力ずくで圧倒するのか、まるで……」

 ちらっと横目で霊夢を見る魔理沙。

「なによ」

「なんでもないぜ」

「じゃあ、今回は霊夢さんは無しで」

「あんたたちねぇ……」

「でも、好き好きでございますけどね」

「つまり、好き好き魔女先生ですね?」

「は?」

「今のどう言う意味ー?」

「寅丸も針妙丸も、早苗のネタにいちいち反応しなくていーからな」

「ねえ、レタス忘れてるわよ?」

「ラスト十秒で投入します……はい、今です、バサバサ~」

「ばさばさー」

「レタスは最後の最後か」

「すーぐ火が通っちゃいますし、生でも食べられますからね」

 ジャッ ジャッ ジャッ

「はーい、出来上がりです。 
 熱い鍋に入れたままだと火が入りすぎますからすぐよそってください。
 このままでも良いですし、この大きめの茶碗に……こうしてギュッと詰めてー、お皿にあければ格好良いですよ」

 かぱっ ほわわあ~ん

「わああーー」×4

「まずは霊夢さんと早苗さんの分ですよー、お先にどうぞ。
 次は魔理沙さんと私のシイタケ入りを作りますね」

「寅丸っ 早く、早くぅ!」

 魔理沙がピョコピョコ跳ねながら急かす。

「はいはい、ただいま」

 お先と言われたが、霊夢も早苗も寅丸星の手際をもう一度見たかったので待つことにした。
 せいぜい五分ちょっとの違いだし。

------------------------------

 卓にはチャーハンが盛られた五つの皿、一つは針妙丸用の小皿。

「さあさあ、熱いうちにどうぞ」

「いただきまーーす!」×4

 四人とも、もはっ、もはっと頬張っている。
 寅丸は目を細めて嬉しそう。
 調理人の喜悦はこれに極まる。

「いい香りだぜ~ これが豚の脂の焦げた香りか~」

「レタスがしゃきしゃきよね、良いわー」

「ええ、これならいっくらでも食べれらそうですっ」

「おーいしー」

「シイタケ、やっぱ、正解だぜ」

「そうなの?」

「食べてみろよ、ほら」

 霊夢に皿を渡す魔理沙。

 ぱくっ もぐもぐ

「へえ、悪くないわね」

「だろ?」

「私も私も」

 ざむっ、ざむっと掻っ込む早苗。

「あっああー!? 何でそんなに食うんだよ!」

「ふむ、ひがひと、おいひーですね(もがもが)」

「おまっ ヒドすぎんだろー!」

 今にも泣きそう、それほど美味しかったのだ。

「魔理沙さん、よろしければ私のをどうぞ」

 寅丸が自分の皿を差し出した。

「え? いいのか? ……ありがとな、ぐすっ」

「もー、二人ともみっともないわねー」

 チャーハンだから皆あっという間に食べ終えてしまう。

「寅丸さん、おかわり分を作ってみたいです」

「ご飯は あと二、三人前はあるわね」

「私もチャレンジしたいぜ」

「では一人前ずつ作ってみてください。その方が勝手を覚えやすいでしょう」

「もう一度見たいなー。ねー、寅丸さーん、またよろしく」

「はいはい」

 飛び上がって先ほどと同じポジションに潜り込んだ針妙丸。そして叫ぶ。

「ぱいるだーおーーん!」

「へー、よくそんなこと知ってますね。
 でも、場所的には〝フェードイン〟じゃないですか?」

「いやいや、ここは〝パイ〟ルダーオンが正解だぜ。……なっ?」

 ドヤ顔を向ける魔理沙。

「なに? その〝うまいこと言った〟の顔。バカみたい」 

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「ごめんくださーい」

 ネズミの賢将の声だった。

「よう、ナズーリン」

 魔理沙を始め霊夢と早苗も出迎える。

「これは皆さんお揃いだね、ご機嫌よう」

 いつも冷静で高飛車な態度。下手に突っかかれば、ほんの少し歪めている口元から皮肉や嫌味が容赦なく飛び出してくる。
 頭が切れ、いざとなれば頼りになるが冷淡で取っつきにくい、と言うのが幻想郷での一般的な紹介文だ。

「寅丸さん来てるわよ」

「チャーハンを作ってもらったんだぜ」

「ほう、チャーハンかい、ご主人様のチャーハンは美味しかったろ?」

 そして、主人である寅丸星とは恋人同士と知られている。
 そのベタベタなバカップルぶりは幻想郷で一、二を争うとも言われていて、普段の賢将とのギャップは目を疑うほどとか。

「うん、旨かったぜっ」

「サイコーでした」

「作り方も教わっちゃしね」

 そうだろうそうだろうと、我が事のように嬉しそうなナズーリン。
 そこへ当の寅丸星が姿を見せた。

「ご主人様、お待たせをしました。
 では、そろそろ……え? あー? ああーー!」

 ナズーリンが大声あげて寅丸の胸元を指差している。

「ご、ごしゅじんさまっ それ、それはなんだっ」

「はい? 少名針妙丸さんですよ?」

「そおーーーんなことを聞いているんじゃないよ!」

「針妙丸でーす、こんちわー」

 谷間から陽気に手を振るリリパット。

「キミィ! そこから出たまえっ 可及的速やかに!
 そこにっ そこに挟まって良いのは、この私だけだ!」

 きょとんとしていた針妙丸だが、やがてよっこらよっこらと柔肉をかき分け始めた。

「あん、くすぐったいですよぅ、うふん」

 寅丸の口から色っぽい声が漏れる。

「ご、ごしゅじーーん! 私もそこへっ」

「無茶を言わないでくださいよ」

「そ、その谷間は、私の占有地のはずでしょ!?」

 パムッパムッと地団駄を踏みながら怒鳴っている。

「えーと、ナズーリン? 皆さんが見てますよ」

「へ? は?」 

 呆気にとられている三人にようやく気付いた賢将さん。

「んんんっ」

 ひとつ咳払い。

「あー、ご主人様が世話になったようだね、礼を言うよ。……フン」

 今更気取ってみても色々と手遅れで台無しだった。

 ―― おい、今の……ナズーリン、だよな? ――
 ―― なんだか見ちゃいけないモンを見ちゃったわ ――
 ―― 噂には聞いてましたが、これって弱点丸出しですね ――

 幻想郷の有力者たちを相手に一歩も引かない剛胆な賢将の本性(?)を目の当たりにして勝手な感想を囁きあう有閑少女たちだった。

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おまけ。

「早苗、このチャーハン、美味しいわよ」

「うん、パラッとしていて旨いねぇ」

「私も日々成長しているのです! えへんっ」



もうひとつおまけ。

「チャーハンなの?」

「黙って食べて見ろよ」

「……やだ、美味しい……とっても」

「だろー? シイタケがポイントなんだぜぃ」



          閑な少女たちの話    了
紅川です。
ナズーリン本編はGW勝負。
毎度、ダラ~っとした話です。なんか、シリーズになっちゃってますね。
ちょっと霊夢がヤバくなってる……

例大祭「か41b」です。声をかけてくださると嬉しいです。
新刊は命蓮寺閑話書きおろしです。雲居一輪無双(?)もあります。
リニューアルしたサイトも御覧ください。
紅川寅丸
http://benikawa.official.jp
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コメント



0.690簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
チャーハン食いたくなった。
普通の醤油じゃなくて蕎麦つゆもいけるんだよな。
4.80奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
5.90名前が無い程度の能力削除
霊夢がどんどんおやじになってるのが笑えましたw
ちょっとした疑問なのですが魔理沙の性知識は誰から教わったのでしょうね(まさか霊夢や香霖が?)
キャミソ…確かに香霖堂の挿絵で魔理沙が寝る時に黒のキャミソの様なのを着てるのちらりと見えてましたね

しかしかまどでチャーハンって作れるのかな?囲炉裏でなら姿勢が辛そうだけどいけるか
11.100金細工師削除
キムチ炒飯作ってしまった…
13.90名前が無い程度の能力削除
霊夢が崩壊している~w
針妙丸の無邪気さに心が痛みますw
早苗さんはちゃんと宿題やったのかな?
16.無評価紅川寅丸削除
3番様:
 ありがとうございます。蕎麦つゆベースでは天カスを少し入れると良いアクセントになりますよね。

奇声様:
 いつもありがとうございます。

5番様:
 魔理沙が家を出たのはある程度の年齢になってからと思います。実家なら教えてくれる人がいたかもしれませんよね。妖怪たちの性知識はアテにならないと思いますしww
 かまどは思ったより火力が有ります(調節次第ですが)ね。なんせチャーハンはガス以前からありますから。ありがとうございました。
 
金細工師様:
 キムチ炒飯、なんであんなに美味しんでしょうね……

13番様:
 霊夢には少しブレーキをかけさせましょうかww
 宿題の正しい対処は「相手が忘れるまで待つ」ではないでしょうか(うそ)。
17.100大根屋削除
遅ればせながら読ませていただきました! 今回はいつも以上に腹を抱えて笑わせられる場面が多かった様に思いますw
あと毎度のことですが、料理の描写がホントに巧くて旨い! もしかして、紅川氏は料理人か何かなのでしょうか……?
18.90名前が無い程度の能力削除
ブ、ブラジャー。違う、ブラーヴォ。
21.無評価紅川寅丸削除
大根屋様:
 先日はありがとうございました。オッサンでビックリしたでしょ?
 料理人ではありませんが、まぁその周辺ということで……

18番様:
 もっとブラのこと書きたかったんですが、やっぱやめましたww
23.100名前が無い程度の能力削除
チャーハンは作るだけなら簡単だけど
上手に作ろうとすると難しいらしいですねぇ
文章だけでも飯テロにはなるという事が解りました
24.無評価紅川寅丸削除
23番様:
 ありあわせの物でイキナリ作るチャーハンは調理者の力量がハッキリ分かっちゃいますよね。
 ありがとうございます。