Coolier - 新生・東方創想話

浪漫・秘封倶楽部

2015/04/25 17:56:46
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ふと誰かに呼ばれた気がして、私は空を見上げた。
時刻は夕暮れ。
天気は晴れ。
濁った空はオレンジ色と青色が滲んだ様な、それでいて紫色にも似た色だった。

「蓮子?」

立ち止まった私を不思議に思ってか、はたまた不気味に思ったのかもしれない。
ともかく、不意に振り返って空を見上げる私を心配して友人が呼んだ。
マエリベリー・ハーン。
私の数少ない友人の一人で、通称をメリー。
金色のウェーブがかった髪にモブキャップ然とした帽子。
いつも紫色の服を着ていて、彼女のトレードマークみたいになっていた。

「どうしたの? 蓮子」
「誰かの声がした気がして……」

私の言葉にメリーも視線を空へと向けた。
もちろん、そこには太陽が落ちかけた空があるだけ。

「あなたは誰かの声がしたら空を見るのかしら。空を飛ぶ人がいるのなら納得する話なのだけれど、生憎と人間は空を飛べないわ」
「もしかしたら自殺中の人間かも」

飛び降り自殺中の人間の叫び声。

「縁起でも無い」

そのカタカナな名前とは裏腹に、メリーは中々に古風な表現で私を非難した。

「それに自殺中の――飛び降り自殺の人間って悲鳴はあげないわよ」
「どうして?」
「覚悟が決まっているもの。悲鳴をあげるっていうのは、恐怖を感じたから。恐いものに出会ったら悲鳴をあげるわ。例えば――」

ゾンビとか。
メリーは昨夜、一緒に見た古い映画の話を持ち出した。
確かに死人が腐り落ちもせずにノッシノッシと歩いてきたら、それは恐い。
なにか物凄い病気がうつりそうだ。

「でも、ゾンビなんていないわ。キョンシーだって、死体運びの方法って言うじゃない? 仮にゾンビが存在したとしても、人間を襲う理由は無いでしょ」

メリーの言葉に、当人でないとそれは分からないんじゃない、と私は返した。

「う~ん……じゃぁ、蓮子がゾンビになったら、まだ生きている私を見てどう思うかしら?」

メリーの質問に少しだけ戸惑う。
私がゾンビ?
思わず、通りがかったショーウィンドウに半透明に映る自分の姿を見た。
黒い髪に黒のハットがボロボロになる幻視。
一応、それなりに気を使っている肌も腐っていき、私がいつも来ている白のシャツと黒のスカートも破れ落ちている様。
セクシーを超えて不気味な様子は、自分で想像してもやっぱり滑稽だった。
いや、自分で想像しているだけに酷刑なのかもしれない。

「私がゾンビか~。う~ん、メリーも成ってみない? かなぁ~」
「そんな感じじゃない、ゾンビって。仲間を増やそうみたいな」
「感染するのかしら。ゾンビ菌」
「するんじゃないかしら、ゾンビ菌」

非科学的なゾンビ菌に思い馳せた私だが、話を戻す事にした。

「で、自殺で悲鳴をあげない理由って?」
「自殺は恐怖じゃなくて、解放だから」
「解放……」
「生きるのが苦しくなっちゃったから、それから解放される為に逃げ出す行為。それが自殺」
「楽になる為だから、悲鳴はあげない訳か」

たぶんね、とメリーは苦笑する。
まぁ、確証も持てないのは分かる。
何せ私達はまだ自殺の経験が無いのだから。

「以上の理由より、蓮子が空を見上げるのはおかしいと推測されます。反論をどうぞ」
「反論します。だって、何だか空から聞こえてきた気がしたんだもん」
「あら素直」

メリーはそう言って苦笑した。
私も苦笑する。

「じゃぁその声は一体なんなのかしら?」

メリーは私が見上げた空を見る。
私もそれに習って見上げた。
もちろん、誰か飛んでいる訳がない。
精々カラスが飛んでいるだけだ。

「カラスの鳴き声でも聞き間違えたのかなぁ」

少しだけ納得いかない自分の行動に首を傾げつつ、再び私達は歩き始めた。


~☆~


大学内にある数々の飲食店はお昼には学生でいっぱいになる。
もちろん、その中には教授や助教授、大学の職員も含まれるんだけどね。
それは午後の授業が始まっても同じで、席を確保するのは中々に難しい。
込み合うのが嫌いな人間は、素直に大学内から外へ出て済ますのがルールみたいになっていた。
そんな中、私は大学内の喫茶店、"軽茶食《カルチャーショック》"のテラス席でミルクティーを飲んでいた。
サークル棟に近く、人工的に植えられた木々の音が涼しげに聞こえてくる。
まぁ、時折聞こえてくる運動部の掛け声はご愛嬌といったところか。
そこそこ人気のお店だ。

「はふぅ」

優雅な一時に、思わず幸せが口から漏れ出てしまうのは仕方の無い事だ。
もしメリーが居たならば、はしたない、と窘められるかもしれないけど。
でも、絶対メリーだってこの幸せでのどかな空気には耐えられないはず!
根拠の無い自信に、私は核心を持った。

「すいません、お待たせしました」

と、そんな私の向かいの席にやってきた青年は申し訳なさそうに謝りながら座った。

「宇佐見蓮子さんで……間違いないですよね。秘封倶楽部の」
「はい、そうです」

青年は私の名前とサークルを確認して、安堵の息を吐いた。
秘封倶楽部。
それは、私とメリーが所属しているオカルトサークルだ。
といってもメンバーは二人だけ。
いわゆる弱小サークル。
しかも、余り表立って活動していないので、不良サークルなんて呼ばれているけれどね。

「一応、代表者の宇佐見蓮子です」

改めて、私は名前を名乗った。
そして目の前の青年を観察する。
身長は少し高い位だろうか、座ってしまった今は確認する事が出来ない。
髪は染めておらず黒色で少しばかり短め。
だからといって体育会系の匂いはせず、メガネと相まって柔和なイメージだ。
騙そうと思えばコロっと騙せる様な感じ。
簡単に言えば、人が良さそう、だった。

「突然お呼び立てしてスイマセン。えっと、かがくじっけん倶楽部の梅田楚垣(うめだそがき)と申します」

彼は財布から一枚の紙を取り出す。
なんだ、と思いながら素直にそれを受け取ると、なんと名詞だった。
大学生でも名詞を常備するものなのか!?
ちょっぴり驚いたのをミルクティを飲んで誤魔化す。
と、名詞を見て驚いたのはそれだけでは無かった。

「かがくじっけん?」

そこには、ひらがなで『かがくじっけん』と書かれていた。
この際、彼が部長だとかそういう情報はどうでもいい。
彼の自己紹介を聞き、頭の中で『化学実験』を思い浮かべていた私は興味津々に聞いた。

「えぇ、ひらがなでかがくじっけんです。主に小学生相手に科学の実験をしてみせて、科学の面白さを伝えていくという活動を行っています」
「あぁ、道理で」

道理で優しそうな顔をしている。
あと、白衣が似合ってそう。
小学生相手ならば、サークル名もひらがななのは合点が行く。
きっと低学年向けの実験などをやっているのだろう。
頭の上を下敷きでコスって、髪の毛がもちあがるアレ。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

と、ウェイトレスが梅田さんの注文を聞きに来た。
彼はメニューを見る事なくメロンクリームソーダを注文する。
そのチョイスは一体どうなんだ、と思ったけれど、他人の趣向に口を出すのは良くない、とメリーに言われた事を思い出した。
しばらく彼の所属する『かがくじっけん倶楽部』の活動を聞かせてもらい、メロンクリームソーダが運ばれてきたのを見計らって、私は本題を切り出した。

「それで、私が呼ばれた理由は?」

そう。
別に私は彼にデートを誘われた訳ではない。
いやはや、周囲が恋人だらけなこのテラスにおける他人率の低い事は重々に承知しており、誤解を招く恐れも多々あると理解している。
だが、違うものは違う。
尤も誤解されたとしても私には必殺の言い訳があるので大丈夫。

「ほら、私にはメリーがいるじゃない?」

って言っておけば、何故かみんな「あぁ~」と納得するのだ。
なんでだろう?
まぁ、それはともかく。
知り合いの知り合いを通じて、みたいな形で午前中に私にメールが入った訳だ。
『軽茶食のテラス席にて相談がある』、と。

「実は困った事がありまして……」

梅田氏は緑色のシュワシュワしている液体にバニラアイスを溶かしながら声を潜める。
周囲に聞かれたらマズイ話なのだろうか?

「我がサークルが使う、いわゆる実験室に不穏な声が聞こえるのです」
「声?」

思わず私は聞き返した。
そう、これはオカルトな事件の相談だったのだ。

「はい。いつも夕方近くになると低く唸る様な、と言いますか……あ~、という男の声が聞こえてくるのです」

梅田氏はもう一度、低く唸る様に声を出してみせる。

「あ~……あ~……と」
「ちょ、ちょっと待って下さい。それって幽霊的な?」

幽霊。
いわゆる人間の精神体、というべき存在。
エネルギー保存の法則からいって、急速に肉体の活動が失われた場合に起こる現象だ。
人間の意識なるものはエネルギーとして考えられる。
何せゼロから有を生み出す力を持っているのだから。
その意思や意識と呼ばれるものが、なんらかの原因で肉体が失われた場合、すぐに消失する事はなく、精神体と呼ばれる存在になる。
それがエネルギー保存の法則に当てはめた、幽霊の存在だ。
眉唾物だけど。

「それが……」

と、梅田氏は口ごもった。
幽霊という存在を認めるのは、結構な心労もあるのではないか。
なんて思う。
何せ彼は『かがくじっけん倶楽部』なのだから。
幽霊が非科学的とは言わないけれど。
幽霊からは遠いところにいる人なんだろう。

「実は色々なサークルに相談したんです」

梅田氏はそういうと、プカプカと浮かぶバニラアイスを小さなスプーンで少しだけすくって食べた。
う~ん、最初はどうかと思ったんだけど、こうしてみると中々どうして、美味しそう。
今度、機会があれば注文してみようと思う。

「最初はオカルト研究部に相談しました」
「オカルト研究部って、あのオカ研?」

はい、と梅田氏は頷く。
我が大学で最も有名なオカルトサークルといえば、オカルト研究部だ。
その代表はお寺生まれの定架奈留呉(ていかなるご)氏であり、彼の力は本物だとも言われている。
なんでも数々の悪霊を払ってきたとか何とか。
流石、寺生まれのテイさん、というのが彼を褒め称える言葉だそうな。

「えぇ。ですが彼らの力をもってしても原因が分かりませんでした。その後、黒魔術研究会や、オカルト倶楽部、闇色の滲み会、魔女研究倶楽部、サバト倶楽部に超能力開発部や異能研究倶楽部にも相談しました」
「おおぅ」

我が大学の有名なオカルト関連のサークルが列挙された。
つまり、それだけのオカルトサークルが結果を出せなかったという事だ。

「そうだとするなら……もしかして幽霊じゃないとか?」

そう思った私は、素直に梅田氏に言ってみた。
ところが梅田氏は首を横に振る。

「そう思いまして、自分達でも調べてみました。ですが、結果は変わりません。空調か配管等の固有振動かと思ったのですが」

そうだった。
彼らは『かがくじっけん倶楽部』。
普段は小学生が相手でも、やっている事は科学なのだ。
まずは自分達の専門分野で調査するのが当たり前といえば当たり前か。

「このままでは定例のかがくじっけん教室が出来ないのです。出来れば、力を貸して頂けないでしょうか」

メロンクリームソーダを前にして、梅田氏は深く頭を下げた。

「ふ~む」

私はミルクティーを少しだけ口に含んだ。
甘い。
脳の活動に酸素と糖分は必要不可欠。
という訳で、大きく呼吸をしてみる。
はてさて。

「断る理由は無いわ。ただし、私たち秘封倶楽部は不良サークルのレッテルを貼られている。そこは承知の上ですか?」
「えぇ、まぁ」
「それじゃぁ引き受けた。まぁ、期待はしないで、ダメ元でね」

それでもよろしくお願いします、と梅田氏は頭を下げる。
メロンクリームソーダは、今もバニアアイスを溶かし続けていた。


~☆~


大学生活において使わなくなった言葉。
『放課後』。
辞書等で調べると学校の授業が終わった後、という意味みたい。
でも何故か大学に入学してからは使わなくなった。
代わりに使っているのが『授業終わり』だ。
よくよく考えれば文字数も多いし不便なんだけど、どうしてか大学生活において放課後という言葉は似合わない気がする。
どちらにしろ、倶楽部活動、もしくはサークル活動をするというのに。

「というお昼休みだったのよ」
「ふ~ん……まるでデートみたいね」
「いやいや、私にはメリーさんがいるじゃない」

なんて会話をしつつ、大学の三番棟にある共有スペースで私はメリーにお昼に会った梅田氏の話をした。
この共有スペースは少しだけオンボロで薄暗い。
それでいて女子専用なんていう根も葉も無い噂から、あまりに立ち寄る人が少ない事で逆に有名となっており、毎日閑散としている場所だった。
女同士の赤裸々な日常が語られるでもなく、ちょっとした静けさを楽しみたい人間だけが立ち寄る場所であって、社交界とは正反対の暗い秘密裏なスペースでもある。
内緒話にはもってこいな憩いの場、だった。

「それで引き受けたって訳?」
「まぁ、困ってたみたいだし、ダメで元々って感じ」
「私達って霊感ゼロでしょ。どうするのよ」

メリーは苦笑するみたいに肩をすくめた。
まぁ、そもそも霊感があるとしても、オカルト研究部の人達がダメだった時点で私達にはどうする事も出来ない。

「だって私達まで下がってきた依頼でしょ? 藁にもすがるって感じだったし、それに小学生が楽しみにしている実験が中止になっちゃうのは、ちょっと悲しい」
「ダウト」
「あれ?」
「蓮子ってば、いつから聖人君子みたいな思考になったのかしら? ただ面白がっているだけでしょ。好奇心は猫をも殺すっていうわよ」
「あはは、バレた? でも、窮鼠猫をハミハミしてみたいじゃない」

メリーは、まったく、と言う様にため息を吐いた。
むぅ。
だって、こんな身近にホラースポットが誕生していたのだ。
ちょっとぐらい見学してもいいじゃないか、と思う。
まぁ、茶化すつもりはなく、一応は本当に調査してみるつもりだけれど。

「あのぅ、秘封倶楽部の宇佐見さんとハーンさんでしょうか?」

メリーへの一通りの説明と終えたところで、私達に声をかけてきた女性。
身長は私と同じくらいだろうか。
濃い黒の髪に、これまた黒く縁の大きなメガネ。
大人しい感じの淡い色の服に、これまた淡くふんわりとしたピンクのロングスカート。
『市松人形・ザ・洋風!』といった感じの女性が、少しばかり遠慮気味に声をかけてきた。

「はい、そうですけど……」
「あ、良かったです。私は『かがくじっけん倶楽部』の副部長を務めている恵比寿瑠璃理(えびするりり)と申します。今日はお二方に助けて頂けると部長に聞いて……」

どうやら梅田氏の命を受けてやってきた副部長さんらしい。
ひとまず立ち上がった私とメリーは恵比寿氏に自己紹介した。

「早速ですが、みてもらえるでしょうか?」

親交を深める目的でもないので、社交辞令はいらない。
私はメリーを見た。
私の顔を見て、頷くメリー。

「分かりました」
「では、こちらへ」

恵比寿氏の案内で、彼女を先頭に三号棟から出た。
空はそろそろとお昼の時間を終わらせ、夕暮れへと向かう寸前。
あとは陰っていくばかりといった時刻。
それぞれの棟からは、授業を終えた学生がゾロゾロと吐き出されていた。
ここからサークルに向かう者、アルバイトに向かう者、寮や下宿先に帰る者へと別れていく。
そんな中を恵比寿氏に付いて行った。

「こちらです」

そこはサークル棟ではなく、少しばかり離れた場所に建てられた七号棟の一階にある教室だった。
普段の講義で使われている大きな部屋ではなく、高校時代にあった理科実験室と雰囲気はそっくりで、あの特徴的な真四角の椅子が並んでいた。
教室前にあるホワイトボードは旧時代の物らしく、なんとも情緒漂う空間になっていた。

「なんだか懐かしい雰囲気ね」
「メリーもそう思った?」

なんて感想をメリーと言い合っていると、梅田氏がやってきた。

「すいません、お待たせしましたか?」
「いいえ、来たばっかりです」

講義が長引いたのか、はたまた用事があったのか。
恵比寿氏の隣に収まる様にして梅田氏は並んだ。

「それでは……お願いします」

梅田氏と恵比寿氏はそう言って、窓際へと寄った。
さて……

「まずは質問かしらね。その声というのは、いつぐらいに聞こえますか?」

おっとっと。
メリーさんってば、案外とやる気みたい。
梅田氏に質問をするメリーを見て、私は返答を待った。

「夕方に良く聞こえます。ただ昼間にも聞いた人がいて、限定されている訳ではないみたいで……」

法則性が無いからこそ、科学では捉えきれない?
まぁ必ず起きる自称じゃなければ化学とは言えない、とは言い切れないけれど。
不定期に起こる自称、なんていうものも科学で定義されれば科学なのだから。
尤も、実験室前のテーブルに置かれた集音装置らしきものではダメだったという事かな。

「どこから聞こえてくる、とかはあります?」

一応聞いてみた。
その質問には、梅田氏と恵比寿氏がお互いに顔を合わせて、そして視線で示してくれた。
天井近くにある通気ダクト。

「その、換気の為にあるダクトからどうやら聞こえてくるみたいで……」

恵比寿氏の自信の無い言葉。
それを引き継ぐ様に梅田氏が言う。

「声の出所は、確かに通気ダクトです。ですが、その、確認する為に中を見てみましたが、もちろん何もありませんでした。試しに綺麗に掃除してみたのですが、それでも……」

言葉を濁す。
どうやら効果は無かった様だ。

「そうですか……」

私がそう返事した、その時。
部屋の中が薄暗くなる。

「ん?」

窓の外を見ると、どうやら太陽が雲に隠れてしまった様だ。
夜に比べるとまだまだ明るい。
だが、トンネルに入った時のブラックアウトにも似た現象で、私達の目には夜にも近い理科実験室が見えた。

『あ゛ー……』

聞こえた!
低く何か訴える様な男の声だ。

「ひっ!」

怯える様に恵比寿氏は耳を抑えて、しゃがみ込んだ。
それを梅田氏が支える。

「メリー、聞こえた?」
「えぇ。彼の言うとおり、ダクトから聞こえたわ」

まるで反響する様にダクトから漏れ出た声。
私はダクトのすぐ下まで近づいた。
見上げるが、そこに何の変化も無い。
まぁ、当たり前か。
霊感を持つ人の眼を、『見鬼』というらしい。
いわゆる霊を見る程度の能力だ。
私の眼は、ただの時計とGPS。
彼岸の者を視るようには出来ていない。

「でも、ここまで特定できているっていうのに……」

どうしてオカ研の人達は解決できなかったのだろうか?
彼らの中には、それこそ見鬼の能力を持つ人も居たはずだ。
なのに、どうして……

「蓮子、ちょっと抑えてて」
「え?」

振り返れば、メリーがハシゴを持ってきていた。
どうやら掃除した時に使用した物をそのまま置いていたらしい。

『あ゛ー……』
「うわっ」

再び聞こえてきた声に、私は思わず悲鳴をあげる。

「も、もうダメ!」

私の声がトリガーになったのか、それとも限界だったのか。
恵比寿氏が理科実験室を飛び出していった。

「瑠璃理!? スイマセン、よ、よろしくお願いします」

恵比寿氏を追って梅田氏も出て行ってしまった。
残されたのは部外者である秘封倶楽部のみ。
しかし……それにしても……

「メリーさんメリーさん」
「なんでしょう、蓮子さん」
「あの二人、付き合ってると思う?」
「付き合ってるに生八橋を一枚賭けるわ」
「私も付き合ってる方に一枚」

賭けは成立しなかった。

「じゃ、ちゃんと抑えててね」
「うん」

私はしっかりとハシゴを抑える。
ちょっとおっかなびっくりと、メリーはハシゴを登っていった。
登っていくメリーを見上げれば、ぱんつが見えちゃったけど、言わない事にした。
梅田氏がいなくて良かったと思う。
うん。

「あ……」
「何かあった?」
「うん。境界が……」
「え、ホント?」

境界……
メリーの眼は、境界が見える。
見鬼が幽霊を見る事が出来る様に、彼女の眼は境界を見る事が出来る。
曰く、結界の境目が見える程度の能力、だ。
私的には少し気持ち悪い(非難している訳ではない。なんとなくな感じ)。
しかも、最近は見るだけではなく操る事も出来るんじゃないかな、なんて思ってる。

「あ、ちょっとメリー」

メリーはダクトに登りきり、中へと入ってしまった。
意外とスリム……って気にしてる場合じゃない。
境界への接触は禁止されている。
実は、我が秘封倶楽部の活動は、その境界を暴くこと!
しかし、禁止されている行為なものだから表立って動く事は出来ない。
よって不良サークルと思われている訳だ。
尤も、禁止されている事をしようとしているのだから、どちらにしろ不良サークルなんだけどね。

「メリー、ちょっと~」

私もハシゴを登ってみる。
そして通気ダクトを覗き込んだ先には、メリーのお尻があった。

「め、メリーさん。丸見え……」
「うわぁ、蓮子、見ないでよ!」

そうは言っても……
しかし、不気味な光景ではあった。
何せ、メリーの姿が見えているのは下半身だけ。
上半身は見えず、ダクトの先に取り付けられた換気扇しか見えない。
つまり、メリーの体の半分は境界の向こう、という訳だ。

「何が見える?」
「山だわ……それから、カラスね」
「カラス?」

カラスっていうと、あのカラス?

「えぇ。カラスがこっち見てるわ。あら、恐い。でも、声の招待はきっと彼ね。いえ、彼女かしら? 境界を通りダクトを経た事によって人間の声みたいに変換されてしまったんじゃないかしら」

偶然に。
そんな風にメリーは結論付けた。

「なるほど。謎の声の真相はあっけないものね」
「あら?」
「どうしたの、メリー?」
「抜けない……」
「えー!?」

私は慌ててメリーの足を掴んだ。
この際、ぱんつとかお尻とか言ってる場合じゃない。
メリーが向こうの世界に行っちゃったら大変だし、境界にちょっかいを出してたのがバレると厄介だ。

「いたたた! 蓮子、痛い!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

不安定な足場で、私は思いっきりメリーを引っ張った。

「うりゃぁ!」

思い切り引っ張る!
彼女の体が何とか下がってくる。

「うわ、わわわ!?」

だけど、私はバランスを崩してしまった。
体が後ろへと倒れていく。
掴める物といったら、メリーの足だけ。

「ひっ」
「きゃあああああ!」

という訳で、私とメリーは見事にハシゴ諸共、転げ落ちたのだった。

「いたたたた……大丈夫、メリー」
「痛いけど……なんとか……」

私は足がハシゴに引っかかり、尻餅をついた。
ハシゴは教室前にある机にひっかかり、その上に落ちたメリーは少しばかり体を打った程度。
運が良かったのか、悪かったのやら。
お互いの無事を安堵のため息で表現した時、なにやらダクトから聞こえてきた。

『文さまどうします?』
『藍さん、もしくは橙さんに報告しましょう。あっ、そうですね。カラス君には悪いですが、引っ越してもらいましょうか』

二人の女性の声が少しだけ聞こえた。
なるほど。
どうやら、カラスはオスだったみたいね。


~☆~


それからしばらく、私とメリーは打ち身という全治一週間ほどの怪我を負ったという事もあり、"軽茶食《カルチャーショック》"のテラス席の予約を取りやすくしてもらった。
実は恵比寿瑠璃理はこの店のオーナーの娘であり、自由に使える予約席を確保してもらったという訳だ。
尤も、本物の予約には勝てないけれど。

「それで、謎の男の声事件はどうなったの?」

テラス席にて、ミルクティを飲みながらメリーが聞いてきた。

「"自然と収まった"、らしいわ。私達の後にも、幾つかのサークルが呼ばれたみたいだけど、その時にはもう声がしなかったらしいわよ」

梅田氏と恵比寿氏がいない空白の時間は、秘密にしておいた。
なにせ境界に関する事。
言い訳も難しくなる。

「ふ~ん……まぁ、一件落着かしら。それにしても――」

メリーはなんだかジト~っとした感じで私を見た。

「なに?」
「それ、美味しい?」

私は、緑色のシュワシュワしたソーダに、バニライスを少し溶かしながら、ちっちゃなスプーンですくって食べる。
甘さと炭酸の刺激が相まって……う~ん、美味しい。

「子供みたいな表情をするのね」
「そうかしら」
「えぇ。蓮子がこんなに子供っぽいなんて知らなかったわ」
「それよりも聞いて。なんでも今度は傘が――


浪漫・秘封倶楽部 ① おわり
はじめまして! 久我拓人と申します!
東方プロジェクトの素敵なキャラクターにすっかりと惚れてしまい、SSを書きたくなりました!
よろしくお願いします!
好きなキャラクターは蓬莱山輝夜と森近霖之助です!
よし。

今回は某ニコニコ動画で某ARIAの一挙放送を見ていて、そういえば某浪漫倶楽部を思い出して、倶楽部と言えば秘封倶楽部だなぁ、と思ったのが切欠です。
秘封倶楽部についてはホント初心者で、二次設定とかも余り知らず、少しばかり常識から外れているかもしれません。
違和感なく読んで頂けたら、これ幸い。
続きを思いついたら、もっと幸いで、気に入って頂けたら有頂天。

それでは、楽しんで頂ける様に祈っています。


※追記。
誤字修正しました。
アエリベリーは勘弁してください、打鍵ミスです。Mが押せてませんでした。
宇佐美はNewPCにしてからの辞書登録が甘く、確認ミスです。申し訳ない。
軽茶食はもちろん、私の愛するティンクルセイバーからの借用です。気に障ったのでしたら申し訳ない。
文化人気質じゃなく芸人気質でやっております。気に障ったら、苦笑しておいてください。
以上、申し訳ございませんでしたぁ!
久我拓人
http://junit.blog118.fc2.com/
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コメント



0.320簡易評価
2.40名前が無い程度の能力削除
アエリベリー・ハーンとか宇佐美蓮子は勘弁してけろ
マエリベリーと宇佐見だから
3.50名前が無い程度の能力削除
誤字をどうにかしてくれ。読んでいて気になってしょうがない。
4.40非現実世界に棲む者削除
表現の誤字はともかく、キャラの名前は間違えないでほしいですね。前向きな姿勢はよいと思いますが。
頑張ってください。
5.50奇声を発する程度の能力削除
誤字がちょっと…
6.10名前が無い程度の能力削除
後書きのノリが寒い、才能の枯れた一発芸人みたい。
何の脈絡もなく自分で考えたかのように喫茶店名パクるのも気持ち悪い。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
色々と感想が書いてありますが、個人的には面白いと思いますよ
あまり気にしないで、創作活動を楽しんでいただければ同じ東方好きとして嬉しい限りです