Coolier - 新生・東方創想話

私は本である。

2015/04/17 00:50:20
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しばらくの間、私は気を失っていたようだ。心地よい感覚がする。これは、この感じは、そうか。私は今、読まれているのか。読んでいるのは?
「あら、お目覚め?」
赤い髪の女である。どうやら森のなかの、大きな岩の上に座っているようだが、女?いや、お前人間じゃないな?
「流石同胞、と言っとこうかしら」
同胞?お前は我々と同じ『本』ではないだろう。
「でも『物』であることは変わりわないわ」
彼女は(本当は何者なのかは分からないが)、意味ありげにニヤリと笑う。
「付喪神、と、人からは言われているわね」
付喪神、ふん。なるほどな。
「あなたも同じようなものだと思うけど?」
違うな。カレーライスとハヤシライスくらい違う。
「同じようなもんじゃない。まぁいいわ。そんなことは」
カレーとハヤシライスは全く違うが・・・。
彼女はフフン、と笑った。
「おかげさまで、あなたの中身、見させてもらったわ」
 そりゃどうも。
「面白いわね。外から来たの?」
外から?何を言ってるんだ?ここはもう外だろう。
「馬鹿ねぇ。この幻想郷から外ってことよ。そうなんでしょ?」
 馬鹿は余計だ。なるほど、ここは、ここら一帯は、幻想郷というところなのだな。
「今さら何言ってんのよ。何も知らないのね」
 フン。なにせ、ずっとあの『ヴワル魔法図書館』の中にいたわけだからな。外のことなど何も知らん。
 彼女は意味ありげに「ふぅん」と言うと
「で、これからどうするつもりなの?」
どうするも、なにもない。私だけではどうにもできん。
「そうね『物』だものね」
 そうだ。付喪神ではないがな。
「あら、この体だっていいものよ?あなたも一度なってみれば?」
なれるものならな。
「ふふ、そうね」
 彼女は座っていた岩から腰をあげて、私を開いたままどこかに歩き始めた。
 どこに行くつもりだ?
「人間の里と呼ばれているところよ。そこなら、今のあなたに丁度いい住処があるんじゃないかと思って」
 ・・・どういうつもりだ?なにか企んでいるのか?
「別になにも企んじゃいないわ。敢えて言うなら暇つぶしね。同じ『物』のよしみ、ということじゃダメかしら?」
 ・・・別に構わん。
 彼女は道無き道と思われる道を、無造作に生える草を踏みしめながら
「毎度毎度そうやって書いていってるのね」
・・・そう言いながら、彼女は
「あー、あー、あー」
・・・なにを血迷ったのか、誰に向かって言っているのか、誰もいない虚空に向かって
「同じような表現さっきも見たわね」
 うるさいぞ!なんのつもりだ!
「ふふ、わかったわよ。ちょっとからかっただけ」
彼女いい加減開いていた私をやっと閉じた。調子が狂う相手である。
本当に彼女を信じていいのかはわからない。しかし、たとえ疑心に駆られたとしても私にはどうすることもできない。ただ身を任せることしかできない。
付喪神になる。ということが私達にとって、つまりどういうことであるのかは残念ながら分からない。人間の体を得るだけなのか。それとも文字通り「神」になるのだろうか。だとしたら、誰に奉られるのか。「物」としての自分はどこに行くのか。
そもそも、「本」はそういう存在になることは可能なのか。私達「本」がそういうものになるという話は今までにも聞いたことがない。「本」とその他の「物」についてはなにか壁でもあるのだろうか。思えば、私は同じ同胞の本の声はわかるが、それ以外の物の声など聞いたこともない。今回の、この付喪神の女、なんの付喪神かは知らないが、彼女が初めてである。
やはり、何か特別な壁でもあるのだろうか?
「待て!堀川雷鼓ぉ!」
振り向くと、少しウェーブのかかった白い髪の少女がこっちに向かって叫んでいる(ここに来てから女性しか見ていないような気がする。まさかここは女性しかいないのであろうか?)。
堀川雷鼓。どうやら、それがこの付喪神の名前らしい。
白い髪の少女の他に、二人似たような服装の少女がいた。その中の一人である茶色い髪の少女が微妙そうな顔で白髪の少女を見ている。もう一人、金髪の少女もいるが、そちらもなんだか億劫そうにしている。
どうやら、こちらに敵意を向けているのは真ん中の白髪だけであるようだ。
雷鼓は呆れた顔で
「またあなた達?一体なんのようなの?」
「なんのようなの?じゃない!今日こそあんたをぎったんぎったんにしてやるんだから!」
「ぎったんぎったんなんて、本当に口にしてる人初めて見たわ」
「私も初めて言ったわボケェ!」
非常に騒がしい娘である。雷鼓はひとつ、溜息をついて
「私としては、使う者と、使われる物とで仲良くしたいところなんだけど?」
「そんなわけに行くかぁ!キャラがかぶってんだよ!」
「意味分かんないわ・・・。私もまだ幻想郷に受け入れられてないということなのかしら?」
雷鼓はそうボヤくと、白髪が動き出した。
「先手必勝!行くよ!リリカ!ルナサ!」
金髪と茶髪は億劫そうに「えぇ」と言った。
「つべこべ言うな!あとでなんか奢ってあげるから!」
 金髪が顔を上げる。
「奢ってくれるってなにを奢ってくれるの?」
「え、それは、わかんないけど」
「考えといてね」
「え」
詰め寄るように、やはり億劫そうに
「考えといてね」
「・・・わ、わかったわよ」
その言葉を聞いた金髪は、はぁ、と溜息を漏らすと
「面倒くさいけど、行きましょうリリカ」
「えぇ、姉さんまで」
リリカと呼ばれた茶髪のそんな言葉を聞く前に、白髪と金髪はどこからともなく、白髪はトランペットを、金髪はヴァイオリンを出して、こっちに突っ込んできた。それに少し遅れて、茶髪もキーボードを出してその後についてくる。
雷鼓は多少呆れたようにだったが、少し楽しそうにして
「しょうがないわね」
と言うと、雷鼓の周りに六角形の薄いプレートのようなものが八枚現れて、同時に巨大な和太鼓が前方に私達を守るように2つ現れた。そしてもう一つ、大きなドラムの太鼓に乗っかると、そのまま宙に浮きながら、周りのプレートを叩き始めた。
 まるで、キャノン砲のように和太鼓から光の弾幕が飛び出すと、それに合わすように、トランペットを吹き、バイオリンを鳴らし、キーボードを叩く。そこから更にまた弾幕が飛び出す。弾幕となった音も、森の木々にリズムよくあたり、まるでオーケストラか、はたまたビッグバンドジャズか、絡み合い、非常に調和的な音が、と思いきや、それは破壊的な音に変わり、変幻自在にこの森に広がっていく。こんな楽しげな演奏をしている本人達が、まさか今現在戦っていて、敵対しているなどとは、聴いているだけでは考えることもできない。
 最初はどちらとも互角に思えた。しかし、向こう三姉妹の方が、雷鼓出す4次元のリズムの波の激しさに乗れなくなってきたのだ。
「ブルーレディー・ショー」
そう言う雷鼓の顔は笑っていた。少なくともこいつは、こいつだけは楽しんでいるにちがいないのだ。いや、敵さんの方もきっと・・・。なんて思うのは、私の気のせいであろう。
三姉妹の標準がバラバラになってきた。どうやら標的を見失っているようだった。
「さぁ、行きましょう」
いつの間にかドラムの太鼓から降りていた。なぜか雷鼓は服ごと真っ青の青色になっていた。それでも、その顔は少し晴れやかにフッと笑っていた。飛び交う音と、それに翻弄される三姉妹(今更だが、本当に三姉妹かどうかは知らない)をあとに、その場を後にする。
不意に雷鼓は私を広げる。
「ふふ、いっぱい書いてあるわね」
良かったのか?
「なにが?」
 随分と、ノリに乗っていたみたいじゃないか。私も随分と楽しませて貰ったが
「確かに、ちょっぴり楽しかったかもね。でも、そうね」
でも?
「うん。やっぱり、誰かに使われてる方が、もっと刺激的ね」
 神になっても物は物か。
「最初から神になんてなってないわ。物は最後まで物よ。人がいて、使われて、初めて物だもの。あなたも、でしょ?」
 まぁ、そうだな。
 会話を区切るように「さてと」と言うと
「もうそろそろで、人里につくわ」
お前まさかその姿で人前に出るつもりか?
「なにかおかしいかしら?これでも、人の中でも結構美人な方に入ると思うんだけど」
違う。そうじゃない。全身、それも服ごと真っ青に染まっている人なんて、見たことないぞ。
「外の世界にはいるわよ」
 ・・・冗談だろ?
 彼女はフフンと笑って
「本当よ」
と、そう言った。

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