Coolier - 新生・東方創想話

奥底

2015/04/15 19:37:09
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 卯月も半ばに差し掛かって、一時期狂ったかのように開かれていた宴会も、段々とほとぼりが冷めていっていた。あんなにも爛々と咲き誇っていた桜も、力なく地に落ちる頃合いである。砂利と共に混じる花弁を見ると、なんだか切ない気持ちが込み上げてくる。避けるわけにもいかず、しかしそんなものを気にする素振りすら見せず、少女は不機嫌そうに道を闊歩していた。
 期待通りに行かない時に落ち込んだり、憤慨したりするのは人間の基本的な特性である。教科書通りの反応を彼女に強いたのは博麗霊夢であった。

 時は少々遡って今日の昼。「新しいスペルカードができたから手合せしてくれ」と魔理沙は意気揚々と神社を訪れた。昼食後で動きたくないと渋る霊夢を強引に誘い、否応なしに弾幕ごっこを始めたのだ。縁側で鬼が、魔理沙の繰り出すスペルカードを肴に一杯やっていたのを覚えている。
 結論から言えば完敗だった。寧ろ惨敗と形容した方が的確だった。
 腐っても魔理沙は魔法使いの端くれ、研究や鍛錬は欠かさないし、一時でも手は抜かない主義だ。此度完成させたスペルカードもその例に漏れず、細部の微調整だって完璧にして、かつ自分が運用しやすい弾幕へとブラッシュアップした珠玉の一枚だ。これが霊夢にある程度通用したならば、正式に採用しても遜色ない出来栄えだった。
 それを霊夢は「腹ごなしにもならないわね」と言ってのけたのであった。スペルは一瞬で破壊され、隙を突かれて魔理沙は負けた。霊夢が言い放った言葉は魔理沙のプライドを引き裂き、半ば喧嘩別れのように神社を飛び出してきて、今に至る。

「ちっ、くそっ……」
 胸と腹の中がむかむかして、酒なんて一滴も飲んでいないのに吐き出したい気分だった。小石を蹴り飛ばしても、地団太を踏んでみても、そのもやもやは身体を蝕んで離れない。八方塞がりで、やり場のないこの憤りをどうすることもできず、ひたすらに苦い顔を浮かべていた。
 ふと、道の外れの奥の方から音が聞こえた。がさつに歩いていた妖怪の山の山頂へ続く道から、右にけもの道を見つけたのだ。どうやらその音はその向こうから聞こえてきているようだ。ぎゃんぎゃんと泣き叫ぶような音が耳を刺激して、どうにも気になってしまう。
 気がついたら、魔理沙はそのけもの道を進んでいた。今のむしゃくしゃを解消できるような、おもしろいものがあるかもしれない。もしかしたら、何か生き物でもいるのだろうか。魔理沙の飽くなき探求心と好奇心が、足を動かしたのだ。
 しかし、そこにあったのは大声で鳴いている生き物ではなかった。
「げげ、魔理沙」
 けもの道を抜けると、そこにいたのは河童だった。河城にとり、魔理沙の友人である。山の斜面の影にこさえられた空間には、木造の掘っ立て小屋とちょっとした工場、皆目見当もつかない機械類がひしめきあっている。まるでちょっとした秘密基地みたいだな、と内心魔理沙は高揚した。
 丸太を横に切った切り株に腰かけながら、にとりは金属片を研磨していた。魔理沙の来訪に驚いて、防護用のグラスを上にずらして目を見開いた。
「にとりじゃんか、何してんだ? あとどうして嫌そうな顔したんだよ」
「ちょっと調整だよ、調整。だって魔理沙が来たらなにしでかすかわかんないんだもん」
 狐のように鼻をつんと強調して、目を細めてにとりはぶうたれた。
「でも魔理沙が入ってきたってことは、ちょっとうるさかったかぁ。反省だね。手間はかかるけどやすりで磨くかな」
「にしてもこれ、何の部品だ?」
 傍らにひざを折って屈んで、にとりが磨いていた金属のパーツを指で攫う。どこまでも沈んでいきそうな真黒に、木漏れ日が映って金属光沢が美しい。
「こら! 勝手に触らない!」
 腕を上げて見上げていると、にとりの手が瞬時に伸びてそれを掻っ攫った。薄汚れた軍手で大事そうに握りしめて、傷がついてはいないか、具合は大丈夫かとまじまじと見つめる。幸いにも傷はついていないようだった。安堵したかと思いきや、普段の視線とは打って変わって鋭い目線を魔理沙にぶつけてくる。さすがに非を認めたか、魔理沙も「すまん」と詫びを入れた。
「これは私が造ったボイラーの部品! ちょっとでも具合が変わると火力に関わるから、慎重に扱わなきゃだめなの」
「ボイラー? ボイラーって、あの風呂を沸かす用のか?」
「そ。白玉楼は妖夢からちょっと修理の依頼来ててねー」
 言葉の途中から、にとりは研磨を紙やすりに切り替えた。語尾も作業に集中し始めたからか、ごにょごにょとしてちゃんとは聞こえなかった。
 ふと、魔理沙は丸太の椅子の後ろに目をやる。鮮やかな水色のにとりの作業着が、畳むことなく乱雑に脱ぎ捨てられていた。そこが盛り上がっていることに気づくと、にとりに気づかれないようにそっと持ち上げる。木箱の中に先ほど手に取った、金属片のパーツと思しきものがあった。
(こんなに……これ、全部手で整備するのか)
 なんだか大変そうだが、自分が人の仕事をすると邪魔しかしなさそうだったので無視を決め込むことにした。他人のペースに合わせるのは性に合わないと、昔から知っている。だからこそ余計なことをしたりして怒られる。今回もきっと、それと同じだろう。
 作業着を元の位置に戻そうとした時、作業着の中から振動を感じた。それがなんだかはわからなかったが、にとりが振り返ったおかげで、案の定怒られてしまった。頭をへこへこ下げながら、作業着をにとりに手渡す。いそいそとそのポケットをまさぐると、先ほどの部品のように黒光りするなにかを手に取って、耳に当てがった。
「はいはい河城ですー。あー文さんどうもどうも」
 顔を背け、にとりは立ち上がって魔理沙から離れた。箱だか板だかよくわからない物を使って、にとりは会話をしているようだった。おそらく相手は文だろう。物珍しげに見つめているつもりだが、目の前のにとりは何ら変わらない様子だった。
「また修理の依頼増えちったぁ」
 会話が終わったにとりは肩を上げ、息を噴き出してまた下げた。表情にもどこか疲れが見え隠れしているようだった。年甲斐もなく「どっこらせ」と漏らしながら、にとりはどっかと丸太に座って、前傾姿勢で脱力する。身体を起こして首を左右に傾けて、音を鳴らしてからまた研磨に取り掛かった。
「疲れてんの?」
 わかりきったことと知りながら、魔理沙は横に座って聞いた。にとりが黒い板を仕舞ったのを見て、後で聞いてみようとは思ったが、今聞くのはやめておこうと思った。彼女なりの良心である。
「んー、まあ自分が蒔いた種なんだけどね」
「?」
「外の世界の技術を参考にして、自作のボイラー造ってみたんだよ。使う燃料は少なくて、それでいて出力は落ちないようなのをね。で、それが普及するレベルに達しているかの運用試験中なのさ。一応テストは上々の成果だったんだけど、やっぱり違うね。どうしてもデータで測ったのとは違ってきちゃう」
 少しだけはにかみながら、しかしどこかやるせない表情だった。なんだか先程までの魔理沙と同じ表情をしているような気がした。自分の思い通りにいかないもどかしさと、成果を上げられなかった悔しさで消沈しているような、そんな表情だった。
 少しだけ、にとりは虚空を見つめて溜め息を吐いた。いつもとは違うにとりの素顔に、魔理沙は思わず目を留めてしまう。
「やっぱりさぁ、自分が頑張って造ったものが通用しないってぇのは、ちょっと心にくるものがあるんだよねぇ。私は頑張ったのにどうして駄目なんだろう、どこが間違ってるんだろうっていつも思っちゃう」
「……文句とかつけられるとさ、なんかこう、イラッと来ないか?」
「わかるわかる! お前何も知らないくせに、よく知ったような口利けるな~ってね! こちとら試行錯誤繰り返して形にしてるのにねぇ、その辺のさ、よくわからないもやもやの中から洗練して、こうして形にしてるのを知らないし、考えようともしないんだろうなぁ」
 共感を得、さらにはエンジニアならではのクライアントへの愚痴で盛り上がってはみたものの、すぐさま沈黙が訪れる。二人は肩を落とした。そして段々虚しくなってきて、ついには魔理沙まで溜め息を吐いてしまう。
「ま、やるっきゃないからやるんだけどね。こういうの好きだし」
「好きって、文句言われたり失敗したりするのがか?」
「あはは、違う違う」
 けたけたとにとりは笑って、いまいち文脈を理解できていない魔理沙に言う。
「ものづくりが、ね」
 吹っ切れたような顔で、にとりは笑った。今までとは違う、普段にとりが見せるような、にっこりと眩しい笑顔だ。
「そりゃあ辛かったりすることもあるけどさ、やっぱり好きなんだよね、なにかをつくることが。つくるだけでも十分好きだけど、それが誰かの役に立つならなおさら嬉しい。そこまで来ちゃうと段々と面倒なことが絡んでくるようになるけど、それでも好きだから。好きだからめげずに続けられるんだよなぁ。そこを疑い始めたらもうおしまいだからね」
 やすりで研いで出た粉塵を、ふっと息で吹き飛ばした。具合を確認して是とすると、後ろから別の部品を取り出してまた研磨し始める。先程までの落胆していたにとりは、もうどこにもいない。心の奥底にある「楽」の感情に身を委ね、心満意足の表情でパーツを磨いていた。
「そうだよなぁ、私も楽しいんだよなぁ」
 にとりに聞こえなかったのは、その独り言ちが声になっていないからだった。口だけが形を成して、思った言葉は口から出てこなかった。だがそれでも、魔理沙の表情を煌々たらしめるには充分であった。
 何を憤慨していたのだろう。霊夢の態度だろうか? それとも作り上げたスペルカードが通用しなかったからだろうか? いや、きっとそうではないのだ。自分が楽しくなかったから、自分が楽しめなかったから、それに不満を抱いたのだ。
(霊夢に悪いこと言ったかな……)
 まったくもって、霊夢にはなんの非もない。寧ろ勝手に神社に乗り込んで、スペルカードの相手をしろだのと言っていたのは自分だ。さらにはこてんぱんにやられて、捨て台詞を残して去ってしまった。霊夢からしたら、私は押しかけては罵詈雑言を吐いていった邪魔者だっただろう。そう考えると、なんとも後悔の念が渦巻いてくる。
 「私、ちょっと博――」
 立ち上がって魔理沙が言おうとした時、にとりの上着でまた板が振動した。「ごめん」と言ってにとりがそれを取り出し、また同じ返答で会話をし始めた。
「えーっ!? 急に風呂がつかなくなったぁ!? 橙が凍えてるから早くマヨヒガに来てくれって、ちょっまっ藍さ……」
 折角嬉々とした表情を浮かべていたというのに、にとりはまた渋い顔を浮かべて魔理沙を見つめてきた。すっかり肩は落ち、今にでも魂が抜けそうな力ない顔をしている。なんとも言えない空気の中、とりあえず「おつかれ」とだけ言っておいた。
「困るんだよね、こういうの……どこがおかしいかとか言わないから、あっちでばらして一から確認しないといけないんだよなぁ、はぁ……あーんもうっ! めんどくさーい!」
「……とりあえず送ってやるから、工具一式入ってる鞄持ってきな」
「わざわざごめんよ、後でなんかお礼するからさ」
「じゃあその板、後で貸してくれ」
 魔理沙が指さしたのは、遠隔にいる相手と会話ができる板。手の平に丁度良い具合に収まる黒いそれは、裏に白い棒状のマークが刻印されていた。この辺りの加工も自分でやっているのだろうか。随分繊細なこともできるんだなぁと、にとりの器用さに感嘆した。
「絶対だめ」
「だめ?」
「だめ」
 つれないなぁ、と魔理沙は朗らかに破顔した。その胸中は卯月の晴天のごとく、既にとても晴れやかだった。
お初です
ゆらり
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コメント



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1.80金細工師削除
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2.90名前が無い程度の能力削除
良かったです!
3.80奇声を発する程度の能力削除
面白くて良かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
かわいいw
11.100名前が無い程度の能力削除
b
12.90名前が無い程度の能力削除
エンジニア魂山をも穿つ!