Coolier - 新生・東方創想話

一個の輸血パックの中には、全ての書物にある以上の哲学が存在する?

2015/03/14 23:35:44
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「本当においしそうに飲むのね」

高価な家具がそろった紅魔館に於いてもこの一室。パチュリーの個人的な書斎の調度品は飛び切り一級品であった。

「ああ、これは素晴らしいよ。世話好きのメイド長の味がする」
「どんな味よ」
「黒毛和牛の焼肉の美味しいとこだけって感じかしら」
「水、たんぱく質、赤血球、白血球、血小板……」
「最高級の松茸の様な香」
「血生臭いわ。ヘモグロビンの臭いね」
「まさに紅魔館でしか味わえない特産品だわ」
「イギリスで暮らしてみたら?」
「パチェー、悪かったわよ」

レミリアは血痕で装飾された魔道書を、申し訳無さそうに持ち上げる。

「ふん。埋め合わせはしてもらうからね」
「咲夜の血ならあげないわよ」

イギリス製のアンティークデスクに向かい合って座っている二人の間に置かれていたデキャンタを、自分の傍に引き寄せながら言った。

「……でも確かに。吸血鬼の生態には興味があるわ」
「パチェ?」
「小悪魔、いるかしら」
「はい、なんですか?」

日本式の甲冑を身に着けて太刀まで帯びた小悪魔が飛んできた。

「忙しそうね」
「魔理沙さん対策です。パチュリー様の御本には指一本触れさせませんよ」
「頼もしいわ……悪いんだけどこの間、冷凍庫に保管をお願いしたサンプルを持ってきてもらえるかしら。A-2464の棚にあるわ」
「分かりました」

視界が悪いのか何度も本棚にぶつかりながら飛び去った。

「……あんなもの何処で手に入れたの?」
「さあ、紅魔館のエントラスに並んでいたやつじゃない?」
「ちょ、勝手に持ち出さないでよ」
「後で返すように言っておくわ」

不満顔でチビチビとグラスを傾けるレミリア。パチュリーは彼女の脇にある血濡れの魔道書を一瞥してため息をつく。

「嫌みったらしいわね。一寸汚れただけじゃない」
「ふう」
「なに?」
「もういいわ。レミィとの仲をこんなことで壊したくないし」
「悪かったわよ」
「代わりと言っちゃなんだけど一寸ばかし意見を聞かせてもらえるかしら?」
「意見?」
「飲み物の感想」
「それはやぶさかではないけど。何を飲ますつもりかしら」
「あなたの好きなものよ」

透明の箱を大事そうに胸に抱えた小悪魔が戻ってきた。

「ありがと」
「あの、パチュリー様、この兜ってもしかして被り方間違ってます?咲夜さんに前後が逆だって言われましたけど。思いっきり恥かいちゃったじゃないですか」
「そういう被り方が好きなのかと思ってたわ。飽きたらその甲冑はエントラスに戻しておいてね」
「エントラス?」
「あら、展示品じゃなかった?」
「いえ、図書館に落ちていたものです」
「ふう」
「あの、パチュリー様?」
「とにかくその甲冑は図書館の景観を乱すわ。エントラスに置いておきなさい」
「あ、はい」

透明の箱の中には幾つかの輸血パックが入っていた。パチュリーは箱を開け、ラベルを下にして机に置き、そのうちの一つを引き出しから取り出したワイングラスに注いだ。

「玄関に呪われた甲冑なんて飾らないでよ。紅魔館の沽券に関わるわ」
「番犬代わりになるでしょ。さ、これ飲んでみて。それから誰の血か当ててみて頂戴」
「ああ、なるほど。ブラインドテイスティングね」

俄然興味が沸いてきたようだ。勇んで血液が注がれたグラスに手を伸ばす。

「不安じゃないの?誰の血か分からないのに」
「私は好き嫌いの無い方だからね」

それは舌が馬鹿なんじゃないかしら。という言葉は飲み込んで、少し前にした彼女との会話を思い出す。
吸血鬼は血液を味わう時その者の人生を味わうのだと。最高の味を探すことは「人生とはなんぞや」の答えの探求に他ならないらしい。

「全く物好きねえ」

そんな鉄臭いものを。といった感じの呆れ顔に多少気分を害したらしい吸血鬼は、友人を無視してグラスに鼻を近づけ、うっとりとした表情で自分の世界に入っていった。

「ああ、素晴らしいわ。ははは、パチェ。いくら最初だからって簡単すぎよ」
「あらそう。別に紅魔館の者の血じゃないんだけど、臭いだけで分かるものなんだ。で、どんな奴?」
「うー、まあ、一言で言えばチャレンジャーかな?絶壁に挑むクライマーか、絵画で例えるなら墨で描く水墨画」
「ふむふむ、それで?」

一口含むと意外そうな顔をしたと思ったら小さく笑った。

「美味しいわ。水墨画、黒一色で描く黄山ってとこかしら」
「詩人ね。理解しがたいけど」
「あなたも吸血鬼になれば分かるわ」
「ふう。で、誰の血かしら」
「普通の魔法使い。霧雨魔理沙」

パチュリーが輸血パックのラベルを見せる。

「正解」
「よっし」
「黄山……中国の安徽省にある景勝地。多くの水墨画、漢詩などの題材となった。仙人が住む山とも言われているわね」
「いや、詳しくは無いんだけれど。前に見た中国の水墨画に多く描かれてたから。風雨で削られた山肌が印象深くてね」
「ふうん、意外ね。一億年以上の歳月があの断崖絶壁を作り上げたらしいのだけど」
「普通これほど重厚な味わいは数百年生きた妖怪にしか出せない。あの人間の評価をし直さなければならないかもね。これだから人間の血は楽しいわ。わずかな間に劇的に味が変わる。まあ良い方の変化ばかりじゃないけど」
「そうなの?」
「今度あった時はぜんぜん薄っぺらな味になっているかもしれないわ」
「そ……じゃあ次はこれ」

パチュリーが輸血パックを開け新しいグラスに血液を注ぐ。

「うー、今度のは明らかに古酒だわ。うん?手羽先の匂いかしら?焼き鳥屋?……って感じじゃないわね」
「手こずりそうね」

真紅の瞳が蝋燭の光を通して鮮血を見つめる。パチュリーには全く見分けがつかないが色合いの違いでもあるのだろうか。

「相当長生きな奴ね?これは飲んでみないと分からないわ」

意を決した様に一口口に含む

「お、おお……!」

感極まって背もたれにもたれ掛かり天井を仰ぎ見た。

「私ははるか彼方まで続く雪原を飛んでいる。地平線にはまだ見ぬ何かが、地上には雪囲いの中で春を待ち焦がれる人々の営みが見える」

また一口。

「残雪が疎らになってきた。生命の鼓動、植物の息吹を感じる。地平線に何かが見えてきた。それは棺桶の様にも見える。死別の悲しみを感じる。誰か亡くなったのだろうか」

更に一口飲み込む。

「ああ、物語は序章に過ぎなかった。地平線には巨木が立っていた。それは枯れ木に見える。だが中心を貫く鼓動は確かなもので、大切に守られて消えない蝋燭の様に永遠に続いていく。ここは彼岸。生を終えた後の世界を願う全ての者の願い……雪の亡霊、西行寺幽々子の血ね」

レミリアはグラスを置いて友人に礼を言った。

「ありがとうパチェ。柄にも無く語ってしまった。素晴らしい血だったわ」
「ふうん、本当に飲んだだけで誰の血か分かるんだ」
「知り合いだけだけどね」
「じゃ、次は」
「今日はもう終わりでいいじゃない。開けちゃった輸血パック片付けちゃいたいし」
「あら、全部飲むつもり?」
「え、駄目?」
「研究の為のサンプルだったんだけど。良いわよ。面白い話も聞けたし」
「わー、愛してるわ。パチュリー」
「小悪魔、いるかしら」

真っ赤に赤面した小悪魔が飛んできた。

「あーもう最悪です」
「どうしたの?スカートが捲れ上がっているのに気付いたのかしら」
「気付いてたなら言ってください!」
「そういう趣味だと思ってたわ」

小悪魔が立ち去り、パチュリーも研究室に行くと言って退室した。

「あ、もう終わりか」

やがて蝋燭の明かりが消えて書斎は暗闇になる。名残惜しそうにグラスを傾けてほろ酔いの紅魔館の当主も席を立つのだった。
初投稿です。でも投稿しようか迷ってます。この文章をあなたが読んでいるという事はそのころ私は後悔の念にさいなまれているでしょう。本文の元ネタは神の雫です。

すみません。誤字修正しました
ゆらぎ
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コメント



0.550簡易評価
2.70名前が図書程度の能力削除
イギリス勢→イギリス製?
赤面した子悪魔が→小悪魔
日常のひとコマな感じでいいですが何かオチが欲しかったかも
血のテイスティングは面白いアイデアでした。確かにワインの蘊蓄のようだ
3.80奇声を発する程度の能力削除
良いですね、面白かったです
6.80名前が無い程度の能力削除
幽々子って血あるのかな?
発想は好きです
8.100名前が無い程度の能力削除
不思議な感じだったけど面白いです。やっぱタイトルって大事ね。
9.無評価名前が無い程度の能力削除
いいですね
これからに期待します
11.90絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。
15.100名前が無い程度の能力削除
ワインと違って味や匂いだけでその人物の人となりまで分かってしまう、面白いですね
まぁ、私の血はきっと美味しくないんでしょうけど
16.90名前が無い程度の能力削除
後悔、つまりは次回作に期待できることですね!

……なんて冗談はともかく後悔するなんてもったいないくらい面白かったですよ!ましてや今回が初投稿ならば、次回作が本当に楽しみになりますね。