Coolier - 新生・東方創想話

Endless night,good morning

2015/02/08 22:04:27
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明けない夜を祈りながら、
明けるその時を、私達は静かに待つんだ。

☆★☆

長い時を生きていると、時に珍しい事もある。

それは永遠を生きる私にとっては薄らいでしまった感情と思ったが、心からそう思えた自覚を持つと、あーまだ私の心も正常なんだな、とふいに浮かぶ事もある。
そんな感情を強く抱いたのは、私の前に現れた、あの出来そこないの蓬莱人を見た時以来か。
偶然と必然が折り重なり生まれるそれを人は奇跡という。
予想だにしない、幾何学的な天文学的数値を出す偶然は、常に規格外、だから藤原 妹紅という存在は、天文学の数値を超えた先にある永遠を驚かせるには容易だった。
そしてやはり今、そんな私を驚かせるのは彼女なんだなとつくづく思い知る。


「私は……誰でしょうか?」
白髪の少女が呟いたのはそんな一言だった。赤のモンペに白のワイシャツ、そこにタートルネックをつけて着飾る姿は女性でありながら、どこかいたずら好きな少年を連想させる服装。
「はっ?アンタ何言ってるの?」
「あっ……いぇ…すいません……、見知らぬ方に不躾な事を聞いてしまって……」
私の言い方がきつかったのか、その少女は酷く怯えた様に頭を下げて私を見つめ返していた。地に膝をついているせいかその姿はどこか弱々しい。
視線はキョロキョロと定まることはなく、時折チラと私を捉えるが私が無言でそれを受け止めると困った顔で視線はすぐに逸らしてしまう。
「………」
それは私がよく知る、この目の前の少女――藤原 妹紅とは似ても似つかぬ素行だった。





はてっこれはどうした事か?
あのがさつで口が悪く、人を見れば即「殺す」、「馬鹿」、「ヒキコモリ」と人を傷つける暴言を心弱い私に投げつけ、殺しにくる彼女。
まったく知性の欠片もない野蛮人とはアイツの事をいう。
そんな彼女が何を持ってこんな風であるのか。


 事の始まりを思い出す。


私と彼女はいつものように暇を持余しながら殺し合いを今日も今日とて行っていた。
殺し殺され和気藹々。
 そんなお遊び。
 始めは私がスペルカードを発動させ、先制で彼女を圧殺。だけど二回目のスペルカードを発動してからはパターンを読み取ったのか、隙間を縫って迫った所を焼き殺される。アイツの攻撃は炎を扱った攻撃が主で、この殺され方はいつもの事だが、焼き殺される痛みはやはり慣れない。蓬莱人といえど痛覚は常人と変わらないので痛いものは痛いのだ。
そんな私も殺されたお返しとばかりに反撃に転じようとするも、いかんせん攻撃はあたらない。
本日何度目になるか分からないスペル宣言も空しく終わる。


「あーもう、少しは当たりなさいよ!」
「バーカ!、そんな攻撃何度もあたるか」
せせら笑う妹紅、どれだけ弾数を多くしようともスイスイと弾幕の僅かな隙間を抜け避けていく。
ちょこまか逃げるハエならまだしも、兆発したその態度には沸々と怒りが浮き出る。
「そんな御決まりじゃ倒せないぜ?」
自分の扱う攻撃のレパートリーも限りがある、そりゃそうだ、もう何度このお遊びを続けてきてるのだ。猿だって学習はする。あいつだって学習はしよう。だけど私の攻撃ばかり避けられて、私が彼女の攻撃に対応しきれていないというのが一番気にくわない、いつもと同じに見えるその弾幕も、軌道を変えては、今までにない形成で私を襲う。
猿だって理解できる……?私があのなんちゃって蓬莱猿に劣ってるとでも言うのか。
「家に引き篭もってばかりだから新しい発展もないんだよ」
「ちょっと強くなったくらいでいい気になって……」
「あぁいい気分だ、このまま完封勝利とくれば酒もさぞ旨い、どうした?泣いて降参するなら今日の遊びはここで終わっても構わないぜ?」
上から見上げるように、その顔はニヤニヤとどこまでも意地汚い面構え。
普段アイツは里の自警団とかで、無愛想ながらも親しみもてる寡黙少女と言われてるらしいが、その化けの皮を里連中に叩き付けてやりたい。それほどまでにあいつのニヤケ面には私を怒らす何かがあった。
「……はは…言ったわね……」
ここまで他人に馬鹿にされたことは彼女除いて一人としていない。
元々私の生まれもあって、人に好意を向けられることはあっても他者に卑下されることなど今まで無かった。どんなに悪いことをしても回りはそれを困った顔ではあったけど、やんわり諭すようにそれを許してくれた。
 あの永林だって私に注意や怒る事はあったけど、それにはちゃんとした意味をもっての好意だ。
決して誰かに悪意や、憎しみを持たれることなんてなかったはずなのだ。
彼女を除いて。
それ故に、人々の好意で形成された私のプライドをズカズカと踏みにじる奴は絶対に許せいない、それは今、この時も!
彼女の態度が腹正しい事この上ない!
 

 ―――――いいだろう……あいつが私よりも、大きく付け上がるサマなんて許しては置けない……。


と威風を立てたのは30分前の話。


それからの戦いは妹紅の言うとおりの完封試合そのものだった。
どんなに意固地に弾幕をぶつけても彼女は舞を踊るように避けていく、私はというと蛙が地べたを這いずり回る虫のような避け具合。まさに圧倒的な戦力差、怠惰に過ごした結果がこれだよという始末。
連コイン宜しくも甚だしく、最後には飛ぶ余力すら残っていなく、地べたに這い蹲り、呼吸を整える。


「もう……無理…」
「なんだ情けない、これだから引き篭もりは」
「アンタみたいな……野蛮人と…一緒にしないで……よ」
「あっそ、とりあえず今日は私の圧勝っと」
皮肉も鼻に掛けずクルッと反転、一瞥を寄越しそれだけを口にすると無様に倒れる私に背を向け去っていく。その姿は、以前どこかで見た映画か何かのワンシーンを思い起こさせるような構図だった。夕焼けの太陽をバックにした、そんな感じの。
そしてそんなワンシーンのやられ役となった私は酷く滑稽で情けない。
「くっ……」
彼女が見えなくなった頃にようやく、体の痛みが引いてくる。


 悔しい……なんで私がこんな思いをしなければいけないのか、いつもの勝負事とはいえ、ここまでのボロ負けは初めてだった。今日のアイツとの遊びで私が倒せたのは始めの一回だけだ、その後、何回殺されたことか。そんな御決まり攻撃は食らわないだって?そこまで言える余裕があるならば手加減位すればいいのに!殺されるのだって堪ったもんじゃないのを知っているくせに、品が無い奴はこれだから困る。きっとそういう奴は今日あった事を誰かに風潮して自分の自慢話を延々と語り継ぐのだろう。嫌な奴!友達だってあの半妖くらいしかいない癖に、それを聞かされるあの半妖も嫌々だろう!あっもしかしてあの半妖もそんな私の事をあざ笑っているんじゃ……。
 一つ嫌な発見をしていくと連鎖的に負の感情が生まれていく。あっても無くても、それは想像という形で私の心を一つ一つ蝕んだ。
 嫌な奴!
 あいつの事を考えるだけで胸がイライラする。
「あーもう!この……!」
 憂さ晴らしに、近くに転がる石をあいつが消えて行った方へ放り投げる。石は奇麗な孤を描きながら林の中へと消えていくが、投げたところで心の靄が消えることなどありはしない。単なる八つ当たり。その意味の無さを浮かべると気分も余計悪くなるので、私はこの場を早々に立ち去ることにする。
「ふん……」
 最後にあいつが去っていった方を一睨みし私は岐路に着こうと視線を外そうとした。
するとその時、
去っていった方角からなぜか、あいつの姿が現れた。
「あっ?」
 だけどそれは、先まで私が知る、あいつであって、『アイツ』じゃない別の誰かだった。



                   ★★


「打撲による脳震盪、それによって起きた記憶喪失ね」
 永琳は淡々とその症状、原因を細い視線で私に告げた。
「いくら不死身とはいえ、脳に受けたダメージが瞬時に戻るわけではない、脳震盪による  記憶障害の症状が出た後、脳の回復は果たしたみたいだけど。記憶などの精神に問題が生じても体に異常が無い以上、蓬莱の効果は発揮されなかったみたいね。脳の怪我を治したことで、それを正常と判断してしまった為に薬の効果は阻害され、彼女の記憶は薬で戻ることが無かったらしいわね」
 淡々と流暢に話す永琳。
 あまりにも淡々としすぎた為、まるで、はい、それは風邪ですねと言われた様な気持ちを抱く。
 けれど数瞬して、それは違うという現実が追いつく。
「え―――………っと……永琳それって?」
「戻らないと言うことよ」
 私の背中はべっとりとした冷や汗で満たされていた。


「いやいや!それってまずいじゃん!」
「ええっまずいわね。輝夜がまた一人の人間の人生を大きく狂わせてしまうなんて……、彼女も輝夜と関わったばかりに……」
「いやっ、それはアイツが蓬莱の薬を飲んだ時点での自業自得でしょ!、てっ――なんで私がやったと思ってるの?まだ何も説明してないじゃん!それにそんな簡単に諦めないでよ!よく小説とかの物語で記憶を失った人が記憶を取り戻すなんてよくある事じゃん!そんな簡単にダメなんて決め付けないでよ」
「医療に関わると全てが現実主体で物事を図ってしまうものよ、それに輝夜、あれは物語だからこそよ。彼女の症状を見るにそれは絶望を塗り固めた物語になるは」

あの後、奇怪な発言と行動をとる妹紅を、取り合えず永琳に診断を行ってもらう為、永遠亭へと連れ込む事にした。
理由としては、再び現れた藤原 妹紅が、なぜか後頭部付近に大きなタンコブと血を流しているのを確認し、怪我人をそのままにしては置けないという私の寛大な心使いと、先とは違う妹紅の奇怪発言と、その行動に私も知り合いであるからには『知り合い』としての最低限の責任を果たさなければなーと思ったのだ。
 決して私が引き起こした事態などということはありはしない。思うところは多々あるが、それを実証する、立証人も証拠もどこにもいないのだ。……うん。


とりあえず、診療を終えると永琳が妹紅に少し席を外して欲しいと言うので、今は客室の居間に待たせている。そして私と永琳、二人だけの空間でその現実を知らされるのだ。
だけど、記憶喪失という言葉を医者である者から言われるまでは、やはり認めきれない物が私にはあった。
記憶喪失……そんなもの本当に起こるんだ、という様な現実感の沸かない物だった。
だって私はあいつが死ぬことが無いことを知っているし、どっかに行ってもいつかは絶対巡り合えるっていう自信もある。別に大怪我を追って見た目が変わることも無い。
外見も見た目も、いつも変わらない、変わることも無い、あいつが私は憎む原因も変わることも、私を忘れることも無い―――――と思っていた。そんな者が急に記憶だけ無くしましたと言っても嘘をついてるんじゃない?と現実味を持てない感情が私の中に渦巻くのだ。
「それに―――」


 そんな私の思考をよそに、永琳は少し間を起き、私の瞳を望みこむ。それはとても冷ややかな眼に見えた。
「あなたにとって、あの子の記憶が無くなって困る理由はあるのかしら?」
 それは聞きようによってはとても酷い言葉だった。
「いや……だって、記憶喪失よ。確かに……私が困ることはないかも知れないけど…アイツが困るというか…」
「あらっあの子が輝夜の事を恨んでいるのなら、好都合と受け取れるのではないのかしら?憎しみだけの縛られた関係なら、むしろあの子も忘れてしまったほうが幸せかもしれないわよ。幸いなことにあの子に身寄りは、あの上白沢の娘一人。さほど他者への人間関係には支障はきたさないわ」
「………」
 永琳の言う事は、確かに私個人での利益を考えるのならばその通りだった。だけどそれに頷くには少しの躊躇いがある。別にあいつが可哀相だとかじゃなく……なんだろうか、うまく言葉にできない何かが、焦燥感を駆り立てるように心を掻き毟る。

「どうしても直らないの?」
「決して直らないとは言わないわ、但し外傷が治ってしまった以上。一緒に取り戻すはずの記憶だけが取り残されてしまったような状態では、ふとしたきっかけや思い出で戻るのは極めて低いの」
痛みを伴った出来事は記憶に残りやすい。それが、大きな痛みで長く続くほど、その痛みを体は覚え、忘れさせないように心に植えつける。記憶を失えど、体の異常、痛みが何であるかを体が覚えていれば、記憶を探すきっかけに繋がりやすいのだと永琳は言う。
そして彼女の口から、希望を持たせる発言を出ないのは、つまり、一番の手立てが無いということなのだ。

 海の深いところ、光も届かない、そんな場所に彼女は記憶という思い出を落としてしまったらしい。


―――どうしよう……、そんな言葉がなぜか脳裏を埋め尽くしいた。

「……」
思考が現実が追いついていない感覚に囚われ言葉がでなかった。
ここに妹紅を連れてくれば、簡単に治るものだと踏んだ自分が嘘のように思える。
永琳に治せないモノなどありはしない―――、そう私は常に思っていた。
医学とは詰まる所、死を遠ざけるための術だ。そして彼女は、その死を超える不老不死を作り上げた。
それはつまり、全ての病、怪我を治す事が出来るものだと私は思っていた。
現に、彼女は今まで、そうして多くの命を救ってきた。彼女が救えなかったものなど、私は知らない。
何かがあっても彼女なら何とかしてくれる―――甘い考えだと思えど、私の隣にはいつも彼女がいた。
だから今回も――そう思えば、全てが何とかなると思いたかった。
永琳に視線を合わせることを避ける様に、視線は下へ。きつく握り締めていた手は、手汗でひどくヌメッていて気持ち悪い。
「……」
沈黙だけが部屋を満たしていく。

永琳はそんな私にため息と同時、問いかける。
「輝夜は、あの子のことがお気に入りなのかしら?」
「はッ?」
「だって、そこまで気に掛けるということはそれだけの価値があるということよ。まあ少なからずの縁はあるかもしれないけど、本当に彼女を治さなければならない理由なんて、永遠を生きる私たちには意味の無い物に等しいは。記憶がなくても彼女は永遠を行き続ける、永い年月で失われ行くばかりの世界なら、その記憶にも意味はあるのかしら」
「それは……、私が記憶喪失になっても直す気は無いって事かしら」
「いいえ、輝夜だからこそ私は治すは。治らなくとも、治る術をその時まで探し求める。あなたは私にとって大事な人なのだから。あなたと永遠は私にとって同義よ」
永琳の瞳が優しく見つめ、そして次の瞬間には真剣みを帯びた眼に変わる。そこには先までの冗談はない。
「記憶を取り戻すのはそれほどまでに容易じゃないの。取り戻すことを安易に望むならそれは諦めてしまったほうが楽かもしれないくらいにね、戻る確証が一切ないのだから。  時間が立てば立つほど戻りにくい、それこそ永遠に戻らないかもしれないくらいに、だから永遠を生きる輝夜に聞くの、それは戻らないと決していけないものか、永遠に戻らない覚悟があるかと」

彼女の言葉に、心臓を貫かれるような意味の重さに、冷たい汗が止まらない。
彼女が戻らないその覚悟、
蓬莱の薬を飲んだあの日から、私の永遠は確約されていた、
それは彼女も、
無くならない、消えない、変わらない確信があったソレ。
彼女と共に永遠を生きる覚悟はあった。
けれどそれを失う覚悟は――。
「私は……」
 
★☆★


とりあえず、現状を伝えるためにも、妹紅のいる居間へと足を進める。
「……正直に直らないかもと伝えたほうがいいのかしら?」
今まで永い時間を生きてきた中では、確かに多くの物事に出くわすことはあった。その物事には大抵、決まったやり取りという流れがあったのだが、いかんせん今回の様な事例は、どう説明を進めていいか分からない。
永琳も私に結果を伝えさせるとは人が悪い。なるべく縁のあるものから説明した方がいいと言うが、今回の責任を私に取らせようという魂胆が見える。
「記憶があるときの話を聞かれて、私とアイツの関係をそのまま言っても色々まずいだろうし…」
記憶がない人間が療護されてる場所が、恨みある元凶の家だと言うのもいささか反応に困られる。記憶を取り戻すに、私が手伝うというのはその関係に無理があるような気もする。
と、そんな思考を進めると、目的の客室へと着く、襖を開けた先には問題の患者が診断の結果を待ちわびているのだろう。
「しょうがない、とりあえず結果だけは伝えるか」
ため息を零しながら襖を開け、妹紅に事の結果だけを伝える覚悟で入る。




するとそこには問題の妹紅がいた。
いつもと変わらない、どこか男勝りな服装の彼女が正座をして深々と頭を下げている。
頭を……えっ?
「なんでアンタ頭下げてるの?」
いつもの妹紅らしからぬその姿に瞬時に疑問が浮かぶ。そしてその疑問は瞬時に形となった。
「私は輝夜様に仕えていた身のものです。記憶が無くなろうとも主がお越しになったら頭を下げるモノと、先ほど来たウサギさんに教えていただきました。先ほどは私などの為にお手を煩わしてしまい申し訳ありませんでした。いたく感謝しています。」
流暢な言葉使い。
妹紅は緩慢に頭を少し上げて私の瞳を捉えるともう一度「本当にありがとうございました」と先まで見せない花の様な笑顔を私に見せ―――てっ……いやっちょっと待て、何、普通に慣れ親しんだ風に彼女は話を進めるのだ?そもそも彼女はこの家の従者などではない。突っ込みどころが多すぎる。そして何よりも聞き捨てなら無い『ウサギさん』なる者の単語。


「いや……アンタ、うちの従者だっけ?」
「そう私は存じていますが」
その瞳は疑うことを知らない澄んだ色をしていた。彼女の言葉の端にあった『ウサギさん』と言うのもこの瞳を見て最高の獲物と思ったのだろうと容易に想像が付き。
そんな優しい『幸運なウサギさん』に私は、妹紅の相手をしてくれた感謝を、いたく、イタく、させて頂きたいなと心から思った瞬間だった。
 「家族のように慣れしたませて頂き、身分の差を感じさせないほどの仲だと先ほど御聞かせいただいたのですが……あっもしかして、普段の私はもうすこし気軽な対応をとっておいでだったでしょうか?この格好からしても少しラフな雰囲気が出ておりますし」
 コロコロと憶測と嘘で塗り固め始まる彼女の風貌。
 そこに一切の疑いも感じられないのだから泣けてくる。脳裏に浮かぶ、あの性悪ウサギは人のいない間になんて事をしてくれたのだろう……余計彼女と私の関係を語るのが億劫になる。溜息を漏らしながら私は、彼女に、
「いや……確かに身分もへったくれもアンタには無かったけどさ…」
アンタ此処の従者じゃなく、私の―――と言おうとした時


「あらっ面白い話をしているじゃない」
「――――!?」
背後、声を出されるまで今まで気付くことなく、そこに永琳が立っていた。急な彼女の登場に鼓動が一瞬高まった。
「ちょっ!ビックリするじゃない。さっきまで診察室にいたのに!」
「輝夜が逃げずに説明をしているか確認しに来たのよ。あなた嫌なことからはすぐに逃げるもの」
「逃げないわよ!」
元教育者である彼女は、こういうところが抜け目ない。いつまでも私を子ども扱いするのもなかなかに信害だ。そんな私の思いとは裏腹に、永琳の視線は妹紅へと注がれる。
「まだ、彼女の素性や診断結果は伝えていないのよね?」
「伝える前に永琳が来たのでしょう」
「なるほど」
と永琳は一度口元に指を携えると、不意に微笑を浮かべた。
永琳は妹紅に強い視線を向け、その視線に妹紅も永琳との視線が重なる。
そして永琳が放った言葉に私は、驚きを抱くのだ。
「そうね、彼女の言うとおり、藤原 妹紅はこの家の従者だったわ」
その言葉に私は「はっ?」と呆気に取られることしか出きなかった。
えっ?永琳何言って?


「元々、身寄りの無かったあなたは、私達のお手伝いとしてここに暮らすことになったの。だけど永い年月を共にした私達はあなたの事を家族と思って接してきたの。覚えてないかしら?」
「残念ながらその記憶は出てこないのですが。皆さんの顔にはどこか懐かしい覚えを感じています!どこか見慣れた感覚があるというか……輝夜様を見たときに、なんていうのでしょう胸にこみ上げる何かを感じました」
「そう、それはきっと私たちが家族だったという事で覚えている既視感ね。記憶はなくとも心はどこかで覚えているものなのよ」
「やはりそうですか!」
妹紅は、自身の記憶に繋がるヒントを得たと思ったのだろう。それが答えだとばかりに普段私に見せることのない笑顔まで携える。
満場一致。
至極円満。
ご都合主義バンザイ。
やったね。
だが待って欲しい。


「いや!ちょっと待て!」
突込みが追いつかない、今日何回目のこの受け答えか、私が原因なのは悪いとは思ってもいるし、反省も少しながらはしている。だけど今日に限っての日常の展開は喜怒哀楽を詰め込みすぎだ。休憩なにそれ?と挟むことないこの急展開に私の心は疲弊してる。
そもそも永琳、一体先の話を踏まえ一体何を言っているのだ!?
「あら輝夜、そんな声を張り上げては、姫としての品格が捉われてしまうわよ。」
「品格よりも、その発言に疑いを抱くわよ!」
永琳の言葉に反論を告げようとすると「ちょっと待ってね」と妹紅に告げ、私を連れて襖で隔てた廊下にでて声を潜めた。
「どういうことよ」
「どうもこうも、彼女を私たちの家に置いた方が何かと便利でしょ?」
「便利って……」
「彼女には身寄りがいない、いるとすれば、あの上白沢の娘くらいでしょう。記憶を失ったあの子をさすがに一人にすることはできないから誰かと一緒に住まなければいけないし、彼女だって記憶を失ってしまったあの子を常に療護することはできないはずよ、それならば診断の進みを見ながら、この家に置かせたほうがあの子の記憶も、早くよくなると私は思うのだけど」
「それならば、患者として預かればいいだけじゃない!なんであんな嘘をつく必要があるのよ。あいつは私を親の仇とも思っているやつよ。それを騙すなんて。記憶も戻りにくくなるのでは……」
「考えとしてはそうだけど輝夜、それをあなたが伝えることができるのかしら?できたとしても今度はそれを知らされた彼女はそんな人間である、私たちを信じることができるかしら。私はそうは思わないは、それならば一時的であれ、嘘であなたとの関係を誤魔化したほうがお互いの為よ。もし、記憶が少しでも戻ってその関係に疑問を抱くようならば、彼女の記憶の戻りも近いと判断することもできる」
永琳の言葉は道理を正すにはあながち間違いではなかった。それは先まで私が悩んでいた、彼女と私の関係をうまくカバーしながらも、彼女の記憶回復を支持できる内容なのだから。


「………」
だけど府に落ちないのはなぜだろう。頭では理解しても、心はそれを望んでいないような、むず痒いこの感覚。だけど永琳が用意してくれたこの条件を断るだけの理由はない。私は小さく「分かった」としぶしぶ頷く事しかできなかった。
なんだか今日の私は流されてばかりだ。
「そうと決まれば、彼女に輝夜のことを紹介しましょう。話し合わせもまだでしょう。」
 永琳はそういうと、不貞腐れた子供をあやす様に私をあいつの元へと導いていく。
 それからは永琳が提示してくれた内容で、妹紅に診断結果と今後の療法を伝えていく。彼女には記憶が治る可能性が低い事は伝えていない。出来る限り不安を感じさせる事を伝えたくなかった。もとい、私自身戻らないことなどあまり考えたくなかった。
あいつはそれを聞くと「へー」と他人事の様に生返事を返すだけだった。記憶がないことに危機感を感じていないのか「じゃあ、時間が立てば記憶も戻るでしょう」とまで能天気に言う彼女。
その言葉にチクッと針を刺す様な小さな痛みを感じた。


「じゃあ改めて紹介しましょう。」
結果を告げ終わると、永琳が間を空けることなく彼女と私の間を埋めてくれる。
「こちらにいるのが、この永遠邸の主にして―――――」
私は永琳が、進めてくれた自己紹介の間、彼女の事ばかりを見ていた。
彼女が私の事をどう思っているのか。どう感じているのか。そんな事ばかり思えてならない。なんで私はこんな事を考えているんだろうか……ばからしい。
「じゃあ姫、挨拶を」
気づけば永琳からの紹介は既に終わり、私が妹紅に挨拶をするよう促す。
私はどこかやるせない気持ちで彼女への挨拶をすます。
「よろしく……」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
釈然としない私の挨拶とは違い、元気よく私に挨拶を告げる彼女はどこまでも明るい。
彼女の表情を訝しみながら伺う自分に、言いようのない怒りを感じるも、それはきっと彼女のせいではない。そんな私の態度に彼女は疑問を持つ。
「どうしました?」
「いいえ」
彼女にそんな自分の内面を悟られたくないと思いに任せ、心もとない笑顔を振りまく。
「なんでもないのよ」
自分のなかで沸固まることのない、この感情をただ押し飲むことしか私にはできなかった。
「蓬莱山 輝夜よ、記憶戻るといいわね……妹紅」
そうして私達の奇妙な共同生活が始まる。



☆★☆★



彼女がこの永遠亭で住み始めてすぐの事だ。
「ねぇ妹紅」
「なんでしょうか輝夜様」
「その……様付けで呼ぶのやめないかしら?」
「どうしてでしょう?私は以前そう呼んでいたのではないのですか?此処の皆様たちも輝夜様に対しては様付で呼んでおりますし、私だけ別の呼び方をしていたとは思えないのですが」
「いや……まあ、それはそうなんだけど……」
「輝夜様と言うと、なんとなく響きがいいんです。あっ、別に悪気はないんですよ。なんて言えばいいのでしょう。字的な響きと、その姿からも一致してそう呼ぶのがなんだかしっくりするのです」
「そっ……そう」
「ええっそれに、周りが言ってる中で、私だけそんな別な呼び方だと、周りの方が不審そうな視線を向けてくるので、いらぬ疑いをもしかしたら抱かせてしまうのかな……と。昨日もそうでした。
私が輝夜様の名前を出すと、兎のイナバさん達が不思議そうに私の方を見てきまして、初めは呼び方を間違えたのかなと思い、試しに輝夜と呼び捨てにしてみると、今度は逃げる様にその場から消えてしまったのです。どうやらイナバさん達は、私が輝夜様の事を呼び捨てにしてしまったのをひどく怒ったのでしょうね。ちゃんと輝夜様の名前を覚えているのかも気になったのでしょう。
 その後もう一度、輝夜様と言い直すとイナバさん達も戻ってきてくれたので、やはり共同生活をする上で、私は貴方の事を輝夜様とお呼びしたいのです」


――それって、イナバたちが単に、私とアンタの関係を知った上で逃げたんじゃないのかしら?


一応、屋敷のイナバ達には、彼女がここで暫く療養することを伝えてある、記憶を無くした妹紅が、私の名前をそう呼ぶのを珍しく感じたのだろう。
仮に呼び捨てして記憶が戻ったと分かれば、そこら一体が火の海にもなりかねないと思ったに違いない。 私達の犬猿の仲を知るイナバたちにとってはいつ破裂してもおかしくない爆弾を屋敷に抱えている様なモノだ。
特に私と妹紅の遊びを知っているモノならば、それが冗談でない事も考慮したんだと思う。
『記憶が戻るまでの間、彼女は私達の家族なんだから、みんな仲良くしてあげてね――』と永琳が普段見せない笑顔をイナバ達に向けたのは記憶に新しい。
つまり、イナバ達にとっては着かず離れずの距離を保ちながら、いつ爆発してもおかしくない爆弾の見張りを命じられたのだ。
そりゃイナバたちも逃げたくなるし、逃げたら逃げたで、永琳のあの時の笑顔がコワイ。
そして事実はよりネジ曲がった方へと修正されていくのだ。
妹紅は、妹紅でそんな事実も知らずに、私の名前をちゃんと言えるようになったのだと、その場で喜んでいる。


「ダメだこれは……」
私は独り言を呟く。
「何か言いましたか?」
「いいえ……何も言ってないは、妹紅、言っていたとしてもそれは心の贅肉よ……」
「?」
「取り敢えず、アンタが私の事をそう呼ぶのは構わないけど、私はアンタの事を妹紅って呼ぶからね!」
彼女が変わるのならば、私は変わらない意思を見出してやらねばならない。
「はい、その呼び方はなんだかしっくりします、というよりも元からそう御呼びだったのでは?」
「確認に確認を重ねてよ!意味はないの、以上!」
そして、私の呼び名は輝夜様という形で落ち着くのであった。
それから彼女は暫く、無意味に私の名前を意気揚々呼び続けた。
なんだか、妹紅と私を知る人物にこの姿が見られたくないなと、私の方がなぜだか恥ずかしく感じてしまったのは秘密だ。



★★★



ある昼のことだ。
「輝夜、今暇かしら」
「今、永遠と須臾の間を怠惰に過ごすので忙しいわ」
「そう、暇なのね」
永琳はそれだけを言うと、私の前に手提げの布袋を渡してくる。
「妹紅と一緒に夕飯のお買い物にいってきて頂戴」
「永琳……私、一応、元姫でもあるのだけれど、それは今でも有効と見てよろしいのかしら?」
「ええ有効よ、姫、けれど今屋敷のモノが全員忙しくて手が離せないから、動ける人材は猫の手でも借りなければいけないの」
「私は猫なの?」
「猫の様に愛しいのよ」
「……というよりなんで妹紅と一緒なのよ」
「あら、記憶を無くしてから彼女、人里へ出向いた事ないでしょ、リハビリも兼ねて彼女にもお使いを手伝ってもらおうと思ったのよ」
「一人でもいけるでしょ、子供じゃないんだし」
「迷いの竹林と呼ばれるここでは子供も大人も大差ないは、道を知る人間が付き添わなければいけないのは分かるでしょ」
「ウドンゲー!ウドンゲー!いるなら返事なさい、私から緊急の命令よ!」
「ウドンゲは先に里へ出て薬の配給に出向いているは、それにウドンゲじゃ、彼女の付き添いに怯えて逃げ出しかねないわ」
「……使えない弱虫ウサギね」
「観念しなさい、彼女と一緒におつかいに行きなさい」
「嫌よ、そもそもどうして妹紅なんかと一緒に里へ出なければいけないのよ!
 想像してみなさい、妹紅と一緒に仲良く里に下りた日には、あそこのお姫様は、達の悪いゴロツキの不良と仲良くしてるのねって指差されて噂されかねないは、そうなったらこの私の品位は地に落ちたも同然よ!」
「今こうして、私の前でゴロゴロしているだけの姫も、従者にとって品位が下がるというものよ」
「それでも嫌なの!」
彼女と買い物など、誰が行くものだろうか。彼女と里に行って知り合いにでも見られたら、それこそなんていえば良いのか分からない。仲良しの様に見られて、あらっ手は繋がなくてもいいの?とか茶々をいれるような奴にでもあったらどうしよう……。
そんな、光景を見られでもしたらその者の生が終えるまで、私は憤りと恥ずかしさを抱えていき続けねばならない。そんなのは死んでもいやだ。……死なないけど。


「いい?妹紅と一緒にいくなら私は此処を動かないわよ、行けというなら一人で行くわ」
「……そう、残念ね」
 ため息を付き視線を外す永琳、そうそう、そうやって諦めてくれれば買い物の一つ私だってしてあげない事はないんだから……。
「聞き分けの悪い子は嫌いよ、輝夜」
外した視線が戻った次の瞬間、その表情が感情のない笑顔の様に見えたのを最後に私の記憶は底で途切れていた。


気づくと私は人里にいた。隣には妹紅がいた状態で。
「なんで……?」
「どうかしたのですか?」
私は人里の市場で棒立ちしながらその場に立っている、右手には永琳に渡された買い物袋、既にそこにはお使いが済まされた後が入っていた。
先までの記憶と何一つ一致しないこの状況に、私はなぜかふいに首元を触れてみる、そこには注射跡の様な腫れを感じると、どっと冷や汗が止まらず足が震えた。
そして、私の空いた片手はなぜか妹紅と手を繋いでいるという事実。
記憶の断片、そこにある永琳の笑顔の脳裏から離れない。
「……記憶喪失なんかより、よっぽど怖いじゃない……」
「大丈夫ですか?」
そんな私に起きた身の上も知らない妹紅は、急にどうしたんだといわない表情で、私の顔を覗き込む少女らしい仕草。
普段のアイツとは似ても似つかない、私の不意な発言に心配を向けるその姿は、実に慣れない。
「肉体的には大丈夫よ……きっと。それよりも一つ聞いていいかしら?先まで私はあなたと何をしていたのかしら?」
「?」
何を言い出すんだと、キョトンとした表情。
「ちょっと気になっただけよ、できたらあなたの口からどうしてたか聞きたいの」
「どうしてたか……ですか」
そう質問を投げかけると、妹紅の頬が少し血色が良くなったように見える。なぜ彼女がそんな表情を向けたのか、なぜだか私は少し嫌な予感がしたのを忘れない。


「えと……その、輝夜様が、先ほど帰りは手を繋いで帰りましょうって私にいってきまして……、その、恥ずかしかったんですよ!手元が寂しいからって急に手を握ってこられて……その、周りの方々の注目が多かったですし……」
「……」
 記憶をこうも操作出来ておいて、記憶の修復は無理かもと言うのは実は嘘ではないのかと、私はあの医者の発言に疑いを感じざるを得なく思う。この世は実は彼女の手の上で出来ているんじゃないのかという陰謀論すら浮かんでくる。
 いや、だがそんなことは今どうでもよい、私の意志とは関係なく行われたその行為が及ぼす影響を瞬時に把握しなければ。
「ねえ……、それって私の知り合いらしいがいたか分かる?」
「魔法使いの格好をした人と、巫女の方が私達の名前を読んで手を振ってたじゃないですか、話しかけてくるでもなく、こちらを見てましたよね」
―――即座に私の未来は終わった。
次に宴会で会おうものなら、それをネタに揺すられる私が目に見える。八方美人を振りまいてきた私の笑顔が凍えつく瞬間である。
もし仮に、これが天狗などの耳に入ったらどうなる、『白昼夢の逢引!犬猿を超えた愛!』などそれこそ、風評被害待ったなしの関係を疑われて……、次第には里の者から指差され、あそこの姫はコジキの様な不良娘から色を買っていたのね、見かけによらずと……下世話な噂と歪んだ好機の視線に晒されて…。


「ふふ……あははっ」
嗚呼……今日も世界は綺麗に残酷だ。
「輝夜……様?」
「あんたも、いつまで私の手を握っているのよ」
「えっ……、だって輝夜様が、握って……」
「そんな事、私は一言も言ってない!」
私はそういうと、妹紅の指と絡めた手を離す、どちらかが、手汗をかいていたのか手の平は滑りを残して離れた。
「あっ……」
それを妹紅はどこか名残惜しそうに見ている。
まるで、大事なおもちゃを取り合げられた少女の様に少し寂しそうな瞳。
まさか、私と手を繋いでいたのを喜んでいたわけではない、きっと彼女も私などと手を繫いで嫌気をさしたはずだ。寂しそうにみえた表情はきっと、私の我侭に対する呆れからだろう。姫である私は自身のやりたいことを我慢する必要がない、つまり彼女の今の心境もそこから出きたのだろう。


「……もう、なんか疲れたわ」
記憶にはなくとも、先まで私は買い物の為に人里まで歩いてきたのだろう、足に倦怠感を感じる、それと無駄に消費した心労。
本当は、彼女と人里なんか来るつもりはなかった。
私と彼女が仲が良いと見られるのが嫌だというのもあるけど、それはなんだか私の知る彼女を否定するようだったからだ。
彼女は決して私とは歩いてくれない。彼女は決して私を認めない。
それを作りえるだけの関係を私は彼女に持っている。だが記憶が無いからとはいえ、それを易々と踏み超えてしまうのを私は心のどこかで顕著していた。
けれどそれも、永琳の横暴に易々と踏みにじられてしまったのだけれど。
私の中の一線を越えるどころか、助走を付けてその先まで飛び越えさせられてしまった。
もう振り返るのも馬鹿馬鹿しいほどに。
里の者にはこんな姿を見せたくなかったのだがもうそれも遅い、一度見られてしまったのなら、それを隠す必要も無い。

時折、こちらに好奇な視線を向ける者もいるが、それは私の容姿もあってと自尊でもしよう。
「あそこの茶屋で休憩よ」
過ぎてしまったことをウジウジト考えていても仕方が無い。
私は彼女を引き連れて店に入る。
始終、コロコロ態度が変わる私の反応に、彼女は戸惑うような表情をしていた。
店内に入ると私たちは座席へと向かい、そこで適当な甘味を注文し、品を待つ。お代は永琳からのお使いで渡されたあまりがあった為、それで支払う。
私は、抹茶餡蜜、妹紅は小倉白玉を頼んだ。
 注文した品が来て、少しして食べると私は、日々の自身の不満を打ち明けながら、自身の餡蜜を食べていく。


永琳の私に対する仕打ち、姫と言いながら私を時折、子供扱いして意地悪する事。
優曇華が時々、自室の部屋の隅で泣いている事がある事、自身がどこまでも一人に感じて悲しいと呟くそんな言葉、寂しいのなら私の所まで来ればいいのに、その寂しさを感じる間、抱きしめてやるのにとか。
妹紅がこうして、私の話を聞きながら、どこか遠慮しながら、私の機嫌を見ているようなのだとか。


「詰まる所、あなたはもう少し、自分に自信を持った方がいいわ」
「自信……ですか?」
その言葉に困ったそぶりを見せる妹紅。
「そうよ、今のあなたって回りに振り回されてどこか弱弱しいのよ、もっと自分に芯をもちなさいよ」
記憶を無くした彼女としばらく生活をして分かった事は、今の彼女の性格は内気な少女その者だという事。良い子であろうとするよく出来た子供の様に、他者の視線に敏感に反応する。
何を恐れるのか、面と向かっているとどこか焦燥した表情を時折見せ、だけどそれが他者に感づかれないように笑みを浮かべ、必死に隠そうとする。
人見知りの少女が、精一杯良く見られようと無理をするそんな姿――それが今の藤原 妹紅に私が抱く印象。


私の知る強気でガサツに見える妹紅とは違う、儚さを残すそんな姿。
けれど、そんな彼女を見ていると、時折もしかしたらと思う事があった、これは、私と会う前の、本来の彼女なのかもしれないと、私は幼少時代の彼女を知らない、彼女は私に求婚を求めてきた貴族の娘であると言うことくらいだ。
あの当時、権威を持つ男には、複数の伴侶を持つことが許されていた。その内の子の一人に藤原 妹紅がいたことは確かだ。彼女が当時、どんな生活を送っていたかを私は知らない、貴族であるからにはそれ相応の、生活をしていたことだろうし、何より彼女が蓬莱の薬を飲むきっかけは彼女の父親、つまり私に求婚を求めたあの男に、私がした事への復讐であるのだから、彼女が父親の事を好いていたのは事実なのだろう。

他者から無条の愛を受け、雛鳥の様に可愛がられた幼少時代、そうして出来た人格は自身を愛してくれた者へ精一杯に答えようとする健気さかもしれない、他者の求めに答えることができるのかとまだ知れない自身の器を図りかねる、そんな優しき少女だったのかも――。

今の彼女を見ているとそう想像することがある。
それが本当なのかを確証を得ることは出来ない。
得られるとするのならば、それら全てを奪った跡にある、アイツであることくらいだ。

彼女は変わったのだろうか?
それとも、私の知る彼女であったのだろうか。
それを知る事は今の私にはできない。
だから――、

「そこまで、今の私って前と違うのでしょうか…?」
「そうやって、小さな事に悩むなってことよ」
妹紅が私に質問したそうに開いた口に、抹茶の掛かった白玉を突っ込む。ンぐっと妹紅は口に入れられたそれを渋々と租借する。
本来の彼女を強く引き合いに出すことはしない、下手にそうだったと言う言葉を使うのは、思い出すではなく、記憶の改ざんとしての刷り込みになりかねないと永琳の言葉からだ。
それにと私は付け加える。
「うじうじ考えても、あんたに良い事なんか何一つないんだから、前を向いてたほうが楽ってモンでしょ」


悩みなんて生きるうえではいつだって生まれる、それこそ、死が訪れるその時まで。
消えない苦悩、見えない不安、それらはいつも私たちを一人だと実感させるセンチメンタルな感情、時折自身の醜さに傷つき、それでいてどこか安堵する。
そんな悩みを抱くのが馬鹿らしいと思いながら、意味がないと思いながらもそれを抱きながら私たちは生きている。
意味のない、繰り返す感情――なら、少しでもそんなモノは無い方が良い。
自らを瑕つけるその感情にいったいどんな価値があるのだろう?
だから私は彼女にそう言う。
「ねっ?そうじゃないかしら妹紅」


だけどそれは言い換えれば、ただ単純に彼女が悩む姿を見たくないとは私のエゴだろうか。
私自身が彼女のそんな表情を見たくないからと悩むそれを、隠すためだけの言葉。
見たくない、嫌だな、どちらに転んでもその先の結果に目を逸らす延命処置。
そして気付く、案外、私はこの状況に傷ついているのかもしれないという感情。
今はこれでいいと願う心、

彼女が再び悩む時、それはきっと――
―――永遠の苦悩を私と歩んでくれる時であって欲しいと思う。
 
私のそんな言葉を、彼女はどう受け取ったのだろう、少し困ったような表情、それは先と変わらない―――けれど、その表情には少しばかりの柔らかな笑みが含んでいた。



★★★

それから一週間が過ぎた。
初めは乗り気ではなかったこの現状も、一週間も経つと幾分の慣れが生じる。
彼女の永遠亭の過ごし方、もとい従者としての働き振りはどうかというと、洒落な従者よろしくの一言だった。
元々、貴族としての生まれ故に多くの教養を受けてきたのだろう。家事一通りに加え、最近は薬の支給金利の帳簿も彼女が行っている。
付き人という名目上、彼女は私の世話もしてくれるが、身の回りを口にせずとも、先んじて行動し準備する姿には当初、私は驚愕を隠せないほどだ。


だってあの妹紅である。
毎日似たような服に、いつものモンペで歩く彼女はどこかイタズラ好きな小僧を連想させる。
口調も、歩き方も、女性としての品を感じさせない。
化粧っけもなく、荒く後ろにまとめられた髪には、少しばかりの痛みが見られる。
 私ほどではないにしろ長髪の髪は、それでも綺麗なストレートな髪を保つのだから、もう少し手入れをいき届ければいいのにな、とはいつも私が心に思うことだ。顔立ちもすっきりとした小顔立ちでいい素材を持っているのだから、女性として着飾り、立ち振る舞えばきっと端正な美少女になるに違いない。
けれど、そんな私の期待とは、うらはらに彼女のあり方は、モンペのポケットに手を入れ、だらしなく歩く姿は、少女というよりは、少しひねくれた少年の様で。
話し方も淑やかさとは外れた、男勝りな口調。汚い言葉も平気で吐ける不躾な態度。女性らしい心遣いなど皆無だ。

そんな女性としてのあり方を自ら否定するような立ち振る舞いは、自らの品を蔑んでいる様にもみえた。
そんな女性らしさの見栄えも、素養も見せない彼女は、だらしなさそうな連想を容易に抱かせる。

彼女が今までどういった生活を送っていたかは知らないが、同じ竹林を住居にしていても、彼女の家というのを私は目撃したことがない。この竹林にも長い事いるのだからそれらを見かけないということはまさか、野宿な生活すら考えられる。
蓬莱の薬で生きる私たちには命の危険などないのだから、どこで生きようが変わりはない。
けれど、人の身で生まれてきたからには、人としての衣食住を持つことは、当然の嗜みだ。それ故の心なのだから。
自身を磨くのは女として生まれたからには捨てきれない。なによりもこの姿形であるからには、その気遣いを最大限に発揮するのが術なのだ。
少女は常に美しく、慎ましやかでなければいけないから。
そしてそんなモノを捨てた、世捨て人とも思えた妹紅がどうだ。


「妹紅―――、あの」
「はい、なんでしょう。湯浴みの準備なら既に整えられていますが」
「……そっそう」
時刻は夕餉を迎え、私がいつも湯浴みに浸かりだす、 大体の頃。
そして私が言おうと思う時点でこれだ。
彼女の記憶を少しでも戻させる為、服装こそ変わらずとも、今では行き届いた髪の手入れに、女性らしい配慮を完璧なまでにモノとしている。
どこぞの紅魔のメイドもびっくりなほど、彼女の配慮は行き届いている。気に食わないと思える程に。
私の名前をいつも呼び捨てで言うあいつは、今では様付で私の名を読んでいる。


そんな事、前の彼女に言われたことすらないのに、今の彼女は皮肉な言葉ひとつ掛けず、私に笑顔を振りまく。
「…………」
やはり何かが違う。
彼女は記憶を戻るまでの間、私の従者としていてくれている。彼女は記憶が戻るのを楽観視しているが、 私はそんな彼女にどこか気を使う始末。元々、彼女との関係はフランクに気を使う必要もないほどの物だ、それこそ憎しみを殺意に変えても、互いが理解し合うようなそんな関係。
けれど今、こうして私の前にいる藤原 妹紅はそんな感情を私に抱いていないことを知ると、彼女との距離をどこかで感じてしまう。
それが私たちの繋がりであり、最も彼女を知ることができたのだから。
と……そんな考えを一人思案する時点で、なぜ私が彼女の事にここまで考えねばいかないのだとふと我に帰る。彼女程度に、この私が心を配慮する必要など、 どこにもないというのに。
そう思うと、先までの気遣いや、答えの出ない思案に も怒りを感じてしまう。
そうだ、何も記憶を失ったからといってそこまでの優しさを彼女に向けなくてもいいのだ。
私は私のやりたいようにしてきたし、彼女も彼女のやりたいようにしてきた。
ならば、それは今だって同じ。


「妹紅!」
嫌な考えも風呂に入ることで、全て洗い流してしまいたい。
「はっハイ!」
先まで無言で佇む私に、彼女は間違いを犯してし まったのかとその表情は幾分硬い。
だが次の私の言葉にその表情を崩れる。
「湯浴みで体洗うの手伝って、あなたも入りなさい」
「えっ……」
妹紅は私の言葉に目を点にさせ、その数瞬に恥ずかしげに顔を赤らめる。
うん、狙っていっただけあり、彼女の反応は上々だ。 普段の彼女ならこんな言葉に「はっ?風呂にも一人で入れないの、馬鹿なの?死ぬの?」と返してきそうではあるが。今の彼女は私の従者であり、私が絶対。
なら、普段の彼女にできない事を私がさせるまでだ。
「何を驚いているの妹紅、湯浴みの手伝いなどいつものことだったじゃない。それに一緒に私と入るのが嫌かしら?」
「あっ……いや……そういう訳じゃなく」


以外にもこの一週間で知ったのは、彼女は初心な性格らしく、そういう相手の裸や着替えなどをする時、 顔を赤らめ、目をそらしたりする場面をよく見かける。
女同士であるのに何を恥ずかしがることがあるか。
弾幕勝負をする時は、服を何度も燃やされ、彼女の前でこの裸体を何度もさらけ出したものではあるが、記憶がないというだけで、そこまで態度が変化するものだろうか。
少し、気になったところもあるので私は彼女をからかってみることにする。
「記憶がないと言っても、私の裸なんてあなたなら見慣れたモノであるはずでしょ、以前言ってたじゃない。記憶はなくても、見慣れた物と思われるのにならそこまで感情に起伏は起こらないって」


記憶を失った彼女に何度かテストとして、彼女が見慣れた光景、知ってはいるがあまり見なれない光景やモノなどを見て、どう感情を抱いたかの判断テストを行った。
それらの感情の起伏を探ることで、彼女の記憶の神経を刺激しようという治療を行ったのだ。
その実験でわかったことは、記憶がなくても見なれたモノや、光景、人物などには感情の大きな起伏は見受けられず、至って落ち着いた精神状態であるということ。
ちなみに、なぜか私を見た時に関して、彼女の感情は曖昧な答えが出されている。
精神は落ち着いているはずなのだが、なんだかモヤが罹ったかの様に時折、精神の小さな起伏が見られるという。それはもしかしたら、彼女が私に抱く無意識の内に抱く、忘れきれない憎しみの感情なのではと思うも、その結果を知らせてくれた永琳はそれがなんで起こっているのか私に明確な答えを教えてはくれなかった。
取り敢えず、そんな微動な感情の起伏を抱かれはするも、不定期に起こるもので常時、それが起こるわけでもないとの事、結局は私も、彼女にとっては見慣れた存在という枠に収まることになったのだ。


そんな、診断の事を思い出しながら彼女に言うのだが、彼女はやはり恥ずかしそうに口元に手を当て、上目遣いで申し訳なさそうにこちらに視線を向ける。
「えっ……えぇ。そうですね、記憶はないのですが、そんな気が……私もどこかします」
やはり見慣れているらしい。少しその事実に恥ずかしみを抱くも、同じ蓬莱人という考えに至れば、その考えもまあ、彼女ならいいかと思う私がいる。
けれど、記憶を失った彼女は何をそんなに恥ずかしく思うのだろうか。
「ですが、なぜか、輝夜様と一緒にそういう……裸でのお付き合いの事を考えると、なぜか、緊張して恥ずかしく思う自分がいるのです……なぜでしょうか?以前の私は、そんな感情を表に出さなかったと言ってましたが。なんだか、そんな気はしなくて」
艶かしくそう言葉を告げる妹紅の仕草に、胸の中でざわめきが立つ。
そう普段の彼女ならば、そんな私の裸を見たところで彼女が顔を赤らめることも、目を背けることもなかった。『いつまでもガキ見たいな体してるな』と嘲り笑われたのも記憶に新しい。
そんな彼女が、恥ずかしがる?
彼女は今、昔の自分がそんなふうではない気がするといった。

それはつまり、彼女は今まで私の裸や、自身の裸体を私に見られることへの感情を表には出していなかっただけと言うのだろうか……。
あの妹紅が……?

「なんだか、私が輝夜様に、変な感情を抱いているように聞こえてしまいますね、申し訳ありません」
「あっいや、別に気にしてないわよ、そんなの」
本音は、すごく気にしているところだが、それを深く追求することができなかったのは。自身の知っている彼女と、今の彼女との発言の違いに、明確な判断を下せないと思ったからだ。
結局は今の彼女が思っただけという事だ、それが、記憶を失う前の彼女がそう思っていたなどと結びつけるのは、やはりなかなかに難しい。
なによりも、その事実を前に、私もなぜか、彼女に見られる事にひどい羞恥心を抱いていたから。
変な感情抱いているようだと彼女は言った。その変な感情というものが嘘だと思えど、深く考えると、こちらも顔に温度が高まってしまう。
まさか……、記憶のある時の彼女が私に、そんな感情を抱くハズがないのに。


「それよりも、妹紅は一緒に入る気はあるのかしら?」
誘った手前、今更一緒に入ることを取り止めるのは憚れる。それならば、もう後は強気に彼女を押し切るしか私にはない。
そうだ、私は姫であり。彼女は私の小間使いなのだ。
そして、そんな私の圧迫に押されたのだろうか、「それでは……一緒に」と静々と、頬を赤らめながら私の誘いを受ける彼女がいたのだ。
その表情はどこまでも私の知らない、もしくは、彼女が隠そうとした、藤原 妹紅の姿だった。


☆☆☆☆


「ねぇ永琳、彼女の治療は進んでいるのかしら?」
「さぁ、それはあなたの頑張り次第ではあるでしょうね」
「医者でしょ、月の頭脳なんでしょ、私の従者なんでしょ。何とかしてよ」
難癖を付ける私に永琳は視線を合わせることなく手元の書類に筆を走らせ、ハイハイと言葉だけを返すだけだった。
妹紅と湯浴みを終えた後、私は火照る体を冷ましがてら、永琳の仕事部屋へと訪れていた。
一週間の経過から、医者視点での感想を聞きたいと思ったのだ。
ちなみに、妹紅は、風呂上がりの後、風の様に私の前から姿を消してしまった。
声をかける間もなかった。
風呂場での中は始終、彼女は無言に近く。
見慣れたと言ったはずの私の裸体を見ると、表情を赤くしては、恥ずかしそうに目をそらしている。
そんな姿に悪戯心で誘った私も、それ以上の手心を加えるのはどこか憚れる。もっとも見られる事に嫌そうな素振りや、抵抗を見せてくれるのならば、いくらでもやりようがあったもの。生娘同然な瞳でこちらを見る視線に私自信が耐えられなかった。
互いに気まづい空気があの空間を占めていた。


「困るのよ。あんなモノ知らずな、小汚い娘を私の近くに置いとくなんて。元々貴族の娘だかなんか知らないけど、やることは大雑把だし、失敗ばかりするし、私が声をかければこっちの話を聞かずにどっかに言ってしまうし」
「あら、私には、能に出てくる、美男優さながらに綺麗になったあの子が、仕事を卒なくこなしてくれて助かっているのだけれど。人里での会計徴収も、人あたりよく接していると、優曇華からも高評価を頂いているわよ」
「そんなのは見せかけよ、あの子は私の前だと、とっても意地悪なのよ」
「それは輝夜の願望なのでは?」
その言葉を気に、視線を一度も合わしてくれなかった永琳がじっとこちらを見つめてくる。
グイっと私の瞳を覗き込むように向けられた視線と瞳は、まるで私の心の中を覗き込むようだ。先までと同じ、涼やかに、筆を走らせた表情で私を見る。
その瞳をジリジリと見続けるだけで、私の胸心は見透かされている事にざわつき始める。
「そっ!そんな事あるわけないでしょ!」
「あらっそうなの?」
永琳はさも知らぬ、という顔をする。
完全に弄ばれているのが嫌でも分かった。


「なんで私が、そんな自分に害意を与えるような奴を望まなきゃいけないのよ!いい!私は同じ蓬莱人として、記憶喪失で、一人哀れに生きる泥臭く、不躾で、口の悪い妹紅でも可愛そうだと思う気持ちから一寸の情を与えているだけよ!早く治って出て行ってもらいたいわ!」
そうだ、永遠を生きる身の上で、どんなに腹が立つ奴でも、こうなってしまっては哀れを感じさせる他にないのだ。決して罪悪感から沸く罪滅ぼしなど、誰が思おうか。
「輝夜は優しいのね」
そんな私の言葉に永琳はニッコリと笑みを浮かべる、 これほどまでに笑顔が似合わない医者も、そうそうはいないと思わせるような作り笑顔で。
「……永琳信じてないでしょ」
「いいえ、信じてるは、輝夜のことだもの、あなたの 事は誰よりも知っているはずよ」
優しげな口調で、だけど悪魔の囁きのように言う彼女は、どこまでも私の知っている永琳だ。
ダメだ……これは。妹紅の記憶の観察結果を聞こうにも永琳が取り合ってくれないでは話にならない。
「もういい」
彼女にちゃんとした診断結果を聞こうと思ったのが間違いだった……なんだかどっと疲れた気がする。私は席を立ち、この場を後にしようとする。
その時、背中越しから呼び止められる声がした。
「輝夜」


永琳が立ち去ろうとする私に声をかけたのだ。なんだろう、これ以上、私を弄るようなら永琳に嫌味の一つを零してやろうかと思い、振り向いたとき。
「あなたは優しい子よ、それは私が保証するわ」
射抜くように向けられた鋭い視線、だけどその瞳はどこまでも優しげな、包容に包む母性の様で。
なぜ彼女がそんな言葉を私にもう一度向けて言ったのだろうか、私はその言葉の真意がわからない。
「だから、今の彼女をしっかり支えてあげなさい。それができるのはきっとあなただけだから、同じ永遠を共に生きたあなただけだから、記憶を戻す希望を与えてあげなさい、きっと彼女、表情には見せないでしょうけど、記憶がないことに恐れを抱いているはずよ」
恐れ?あの妹紅が何かを怖がるなんてあるのだろうか。記憶が戻らない今でも、そんな表情を見せたことなどこの一週間私にはなかった。

記憶喪失の話を出した時も、平然とそれを受け入れる彼女が浮かぶ。
きっといつか記憶が戻るんじゃないかと楽観視しているはずだと私は思っている。
「時間が経てば経つほど、情報は整理される、現在と過去、その違いに疑問を抱けば、今の自分が何者かわからなくなってしまう。きっと彼女の中でも混乱が生じているはずよ」
その言葉に、彼女が私の裸を見る事で以前抱かなかった、羞恥を感じてしまう自身に、違和感を抱いた事も同じことが言える。

「今の彼女は精神的に危険よ、それは輝夜が思っている以上にずっと」
永琳はそれだけを言うと、瞳は先までの優しさが消え、いつもと変わらない、冷たそうなものへと変わっていく。
それは医者として永琳が告げる、私への警告だ。

「…………へえ」
私は突然に告げられたその言葉に、どう言い返せばいいのか言葉が見つからず、取り敢えず皮肉を漏らす、 だがその後に続く言葉は結局浮かばなかった。
だから、
「……ありがと」
と小さく感謝の意を表した。
永琳の向ける視線から目を外して。




襖が閉ざされる音を最後に、この部屋に残る音は自身の呼吸だけだった。
輝夜が去った部屋の一室で永琳は思う。
彼女の記憶を戻させるには、彼女に記憶が戻るという希望を与えなければいけない事を。
彼女が自身の過去に執着を見出さない限り、それらを思い出すことはできないであろう。
精神は体に依存するように、体も精神に依存する。蓬莱人という永遠を生きる身を持つ彼女には、もしかしたら失われた記憶など辛いものでしかないのかもしれない。
けれど、永遠を生きる上で、それはなくては生けないものだと、私自身が理解している。
彼女が輝夜という存在に依存するのもその表れでしかない。
永遠は全てを置き去りにし、ただそこに一人残ろうとする。
憎しみを糧に生きることでしか、残るモノを見いだせない彼女。
それを与えられるのは、輝夜しかいない。
憎しみでしか生きれない記憶など、忘れてしまったほうがいいと思えど。
けれど、輝夜はそれを決して望まない。
二人の蓬莱人は、互いを憎むことで、永遠を生きる共存関係をすでに作り上げてしまった。
それらは既に切り離せない関係だ。
だが、そんな長い関係の上に生まれた、もう一つの感情を輝夜は気づいているのだろうか。

それは、傍から見た第三者だから思う、もう一つの関係。
そう思うとため息に嘲笑が交じる。
彼女の事になると、輝夜の表情の移り変わりを思い出したからだ。
コロコロと変わるそれは喜怒哀楽を一喜一憂するかのように可愛らしい姿だった。
先もそうだ。彼女の悪口をいえど、その表情は怒っているようでありながら、どこか悲しげな表情、かと思えば、自身の本音を暴かれると、その顔に赤みを増し、私に避難の言葉を投げるも、飼い猫が寂しさから甘えるようにその姿は愛くるしい。

天邪鬼という言葉があるのなら、それは輝夜の事を指すのだろうなと永琳はふと思い、笑いを噛み締め―――ふとそれは自分も同じかと苦笑いする。
どこか、今のこの状況を楽しんですらいる自分は、 きっと最低の女なのだろうなと思いながら。
輝夜の可愛らしく、そうやって怒る表情を脳裏に描き。
けれど、そんな輝夜が、藤原妹紅の記憶を戻ることに必死に願う様は悲痛だったと、永琳の心は初めて良心の呵責を抱くのだ。
一週間がたった今、彼女の記憶にも変調が見られるのもこの頃だと永琳は思う。
最後に医師として伝えた言葉に、輝夜が何を思ったか永琳はそこまでの関与をしない。
これは、彼女達二人の関係であり、自身が入り込む内容ではない事を永琳は自覚していた。
永遠を生きる上で、それらは結局全てが無意味でしかないのだから。
全てが消えて、失われ、ただ一つ残る永遠。


けれどその無意味の中で、意味を見出そうと輝夜はしている。
それは永遠の中で決して忘れてはいけない感情。
そんな彼女の為に永琳は、その助力を惜しまない。彼女も同じ蓬莱の身であり、そしてそんな輝夜と同じ時を歩む道を選ぶ意味を見出したのだから。
「頑張ってね」


藤原妹紅の記憶を戻す手段は限られている。その変調が現れるであろう今が、一番記憶を取り戻すであろう時期だった。過去と今の記憶の混乱に、彼女を支え、彼女に記憶を戻ることへの希望を与えねばならない。
それこそが本当の藤原妹紅だと。
蓬莱山輝夜が望む、藤原妹紅の姿だと。
そしてそんな記憶を取り戻す、最後のきっかけを与えるために、彼女が取らなければいけない事とは――


八意永琳はそんな思考に、黒い感情を抱え、再び目の前の書類に目を移していく。





永琳からの診療結果を聞かせてもらった後、私は妹紅を探すことにした。
永琳の見立てでは、この一週間で記憶に混乱が生じ、戻る見通しが生まれ始める頃だと言った。だがそれと同時に、彼女の精神状態も不安定にあるはずだという、そのためにも、私は、彼女のそばにいようと思った。
別に彼女が一人部屋の片隅で、体を震わしていても私は一向に構わないのだけど。それでは彼女の記憶が戻るのにも問題が起きてしまうかもしれないと、寛大な心を持つ私は彼女を探してあげるのだ。決してあの風呂の後、走りさるように逃げてしまった彼女のことが心配だからという気持ちなど微塵もないのだ。
あの後、風のように逃げ出してしまった彼女は一体どこにいってしまったのか。自分の屋敷ながら、広いこの場所ではしらみつぶしに探すしかない。


「まったく……従者を探す姫がどこにいるのよ、従者なら従者らしく私のそばにいればいいのに」
そんな自身の発言に苦笑が浮かぶ。
本当の彼女は私の従者なんかではなく、それどころか、私を恨み、憎しみ、殺意を抱くべき存在なのに彼女はそれを知らない。
もし彼女が記憶を取り戻したら、私の事をどう思うだろうか。記憶がないことをいいことに、憎むべき相手にいいように扱われた事で腹を立てるであろうか。
彼女はいつも私の前では皮肉な口調を惜しげもなく吐き続ける。
それは馬鹿だとか、引き籠もりだとか、一人じゃ何もできないくせにだとか、こちらの心へ平気で入って来ては私の心をかき乱す。
それはいつまでも変わらない彼女の口調だった。長い時間で言われ続けたその言葉にも本当の意味は薄れ、私への挨拶とかわりないモノへと移り変わる。
彼女が抱く、憎悪が薄まることはなくとも、それ以外の感情が生まれたのは、彼女と私がそれだけの多くの時間を過ごしていたことだからだろう。

殺し、殺され、殺し尽くす、そんな関係でしかなかった私たちにも、彼女といることが楽しいと思える時があった。
殺しあいをしているハズなのに、そこには憎しみや 怒り以外の感情が心のうちから湧いていた。
少女同士が仲良く遊戯をとるように、私たちの殺しは気づけば仲の良い遊びでしかなくなっている。


私は笑っていた。
彼女も笑っていた。
言葉は交わさずとも、互いの弾幕が交差し、交わり、 そして弾ける様が私たちの会話だった。
楽しいと、互いの心が通じ合う。
少女同士の遊びは永遠を忘れる程に愉悦で満たされる。


「妹紅」
そしてそんな繋がりを持てるのはきっとこの世界でただ一人だということを私は知っている。
そんな彼女だからこそ、私は彼女が彼女でないことを許さないし、許したくない。
縁側に出る所で、妹紅が闇夜に見えるその端に腰を下ろしているのを私は見つける。
長い髪を一本の束でくくり、湯浴み後の熱冷ましだろう。
視線を外の竹薮に向けているも、その視線はどこかに意識を向けているのではなく、遠くを見るように、心はそこに写していないようだ。
彼女の名を呼ぶことで、その意識も私へと向けられる。


「あっ輝夜様……」
妹紅は私の存在に気がつくと、少し申し訳なさそうに罰の悪い表情を浮かべ、「先程は失礼しました」と軽く頭を下げる。
その時に見えた、まだ湿り気を帯びた髪から除く、彼女の白く細いうなじに心音が一瞬高くなる。
「隣いいかしら」
そんな自身の心音を悟られないように、平常を装いながら彼女が「どうぞ」と言う言葉を後に、隣へと腰を下ろす。
私たちは互いに何かを話すでもなく、ただそこにいた、小さな静寂が二人の間で生まれる。
妹紅は、なぜ私がこうして自身の隣に来たのかを模索しているのか、視線がウロウロと先から落ち着かない。
そんな彼女を横目で見るのが私には少し楽しい。
それは普段見ることのない、彼女の仕草だからだろうか。殺し合いでしか通じ合えないと思った私は今、彼女の一番近いところにいて、その実、彼女とは一番遠いところにもいる。
触れられる距離、だけど、それは触れようと願えば遠くなるものだと胸中で呟く。


「そんなに私と一緒にお風呂入るのは恥ずかしかったかしら?」
今は、私が彼女の姫であり、彼女は従者、このまま黙っていては彼女も可愛そうだと思うと彼女へと話を促す。
「あっいぇっ……そんなわけでは」
初めは否定の言葉を。
けれど言葉では否定するも、それは表情に出ている。次には小さく「はい……」と数泊置いて言葉が続く。
少し悩んだ表情を浮かべ、妹紅は私へと視線を一瞥し、また視線はどこかを見るのではなく、どこか遠くを心の中に映すように、彼女は私に告げる。


「どうしてでしょうか……ここ最近、輝夜様を見ると 気持ちに昂ぶりを生じるのです、先の湯浴みもの時もそうですが、こうして二人だけでいることに、酷い胸の動機を感じるのです……。以前はこんなことがなかったのに。輝夜様の事を目の前にして思うと、なぜか心音が早まる私がいます。記憶が何かを思い出そうとしているからなのでしょうか?ですが私には、何かを思い出す様な物事がチラリとも浮かばないのです」
ポツリポツリとつぶやかれる彼女の心の内面は水面の波紋の様に広がりを始める。
水面が波打つことで、その中に入った感情の水はこぼれ落ちようとする。
「そんな自分が時に怖く感じることがあるのです」
「それは自覚しない感情が湧いてくるようなものかしら?」


例えば憎しみや恨みとか。


「感情……、そうですね、なんて言えばいいのでしょうか。全く思ってもいない事が不意に脳裏に浮かんだり、何かに後押しされるような焦燥感を、どこかで感じているかもしれません。けれど、それが一体なんなのか、なぜそんな感情を自分が抱いているのかが分からなく、どうすればいいのかと思う時があります」
「なら、私にも何かを思ったことはあるのかしら?」
すると妹紅はその言葉に一瞬、肩を震わせる。
何かに気づいているのか。
けれどそのあとに続く言葉は酷く端切れの悪い。「いえ……そんな事は決して……ないはずです」と自分に言い聞かせるような弱々しい言葉だった。


それは自身の理解できない感情に怯え、震える子鹿のようだった。
ああ、本当に私の知る妹紅とは全然違う。
頭は下げられ、目元は彼女の髪に隠れて見えなく、彼女が一体今、どんな表情を浮かべているかは私にはわからない。
けれど、ふと彼女を観察し気づくと、耳元が少し赤みを増し、その項垂れる様に震える事から、もしかして彼女が泣いているのでは私はふと思ったのだ。
そういえばと思う、私は妹紅の涙を一度として見たことがない。
それはあの勝ち気な妹紅には一番似合わなく、そして敵であった私にだけは見せまいとするプライドからか。
けど、それは私も同じか――。



約束したわけでも、話したわけでもない、だけどダメだと思っていた。
きっと彼女だって、生きていれば涙を流すことはあるだろうし、私だって時折無性にその心を焦がす苦しみに、感情を溢れさせることだってある。
ただ、それは私達の知らない世界でなければいけない気がしたんだ。
決して見せてはいけないモノだと思った。
それを見せたら最後、それはどちらかの負けを認めるから。
復讐を望む彼女は、私の泣き顔を見たいと望んだ。痛みに悶え苦しみ、許しをこうそんな私の姿を。
私はそんな事を思う彼女を、より堕とし、全てをまた奪い、頭を垂れて泣かせたいと願った。
互いが、互いの望みを願うために、
それは決して崩れてはいけないモノだった。
だから、どれだけ辛くても私達は泣かなかった。
辛くて泣きそうな時は笑い、自身が幸福であることを私達はしらしめる。
その幸福を奪う為に、自身の幸福を勝ち得るために。
私達は笑い、殺しあった。
永遠を生きる私達の為に。


そして私は気づけばそんな妹紅を見続けている。


彼女は泣いているのだろうか、それとも、ただ、干渉に浸っているだけなのだろうか。
わからない。
「…………」
けれど、彼女の中では、私の事を許しきれない、憎しみの炎がまだ燃え上がっているのだろう。
そして、そんな過去の記憶を持ち合わせない今の妹紅は、どうして自身がそんな感情を抱いてしまうのかと気持ちの整理が付かないことに悩んでいる。
彼女は一人、不安を抱いている。


出口の分からない迷路を進むように、
明かりの見えないお化け屋敷を進むように、
その手を繋いでくれるモノのいない、暗い道を一人で。        
彼女は、今も一人で泣く、私の前で。


                                       ――泣いてはいけなかった。

私の名前を呼ぶことなく、彼女は一人――。


                                      ――呼ばれることのない名前。



一人―――寂しく、孤独に震えながら、永遠に悩もうとし。
一人で泣いて―――。


                                       ――――――彼女は一人だ。


一人で生き――――。

                                      ―――けれどソレは、私も一人
                                           ということで。

いつまでも一人で―――。


                                        一人―――。






























あ―――――、なんか…………やだなこれ。




ザラッ――と
その時、私の心に、怒りに似た感情が浮かび上がった。
それはなぜ感じたのか。その時の私にはよくわからない、感情なんて、自分が思っているほど、あやふやで、適当なものなのか、けれど、私はそんな染みったれた妹紅を見るのが酷く腹正しかった。
そんな泣きそうならもっと前に、私の前で頭を垂れて泣き喚けと、今更泣いた所で、アンタの泣き顔なんて見てもつまらないと、感情が爆発する。
今も私に見せないとするその泣き顔が余計腹ただしい。


ザラザラ――、ガリガリ。
心の皮膚が、感情が、爪で掻かれ剥がれ落ちる。


永琳は一つ勘違いしていたことがある。
妹紅が今、とても精神が不安定な状態だと言った。
うん、それは多分あっているんだろう。
こんな私の前で、涙を見せ、自身の弱さを見せるのだろうから、きっと彼女の心も参っているに違いないのだ。
心はいつだって摩耗する。
それはどうしようもない災難や、不安や、不幸から。
時には幸福と思える日常だって。
心は擦り切れる、弱くなる、見たくないものを見ないでいる。


ガキン―――ッと感情の波に頭が殴られる感覚。


だから、ね、と私は胸中で呟く。


私の心が掻き乱れ、狂わないなんて、いつ誰が言ったかしら?


私の最も見たくて―――だけど見てはいけない
ソレを、彼女は私に見せようとした。
これ以上、腹ただしいことって他にそうないんじゃない?


「ねえ」
私は妹紅の肩を引っ掴み、そのまま彼女を押し倒した。
キャッという、可愛らしい悲鳴が上がった。
アイツには似ても似つかないと思う悲鳴。
木板でひかれた床にぶつかる痛そうな音を気にせず、私は、妹紅の顔を覗き込む。
その瞳には確かに、涙があった。いつもの勝ち気そうな目は潤み、不安に潰されそうな弱々しい少女の瞳。

私は見た。

見てしまった。

見てはいけないソレ。

泣いている、

あの妹紅が、

今まで一度も私に涙を見せたことがない妹紅が泣いている。
その泣き顔を見た瞬間、私の中の何かが切れるのを感じた。
「かっ……輝夜……様」
怯えた瞳がそこにあった。

「何?」
「何をするつもりですか?」
「そうね……何をすると思う?貴方を押し倒して、私は何をすると思う?」
嘲笑と皮肉を混ぜた、冷たい口調が自然と漏れる。
逃げれないように抑えた妹紅の手は酷く震えている、酷く冷たい手の感触。
先までつけていた浴衣は、彼女を押し倒したせいで、胸元が開いていた。
晒された素肌からはガラスのように美しい体躯がチラと見える。
見慣れたはずのソレ、だけど見慣れたソレが、何故かいように愛おしい。無茶苦茶にしてやりたいとドス暗い何かが、私の中で悲鳴を上げる。

「じょっ冗談……ですよね」
先までと違う空気に、妹紅は信じられない者を見るような表情をする。
まるで、私がそんな事をしないとでも思ったかのような驚きと恐怖に引きつった顔。
信頼と、優しさで繋がれた、生ぬるいそれを望む、どこまでも可愛く、情けない姿。
冗談……?ええ、確かに冗談のつもりよ。
私はその表情に、満面の笑みを返してあげる。
「何をそんなに恐れているの?記憶が戻らないのがそんなに恐い?」
「ちっちがいます」
「じゃあ、それとも私の事が恐いかしら?、私のことになると、先から貴方黙ってばかりでつまらないは」
そうだ、彼女は私を楽しませなければいけない。ソレは従者だから。私が姫だから?
退屈は嫌いだ、永遠の中で退屈で生きるなんてまっぴらゴメンだ。

それは彼女も同じはずだ。
私の前で黙る彼女なんて――――ツマラナイ。
「す……すいま……」
「黙っている貴方を見てもつまらないから、私が貴方を楽しませてあげる」
「やっ……」
「強い記憶を刻めば、きっと貴方も何か思い出すでしょ、ねえ妹紅」
「やッ――ヤダ!」


不穏を感じ取ったのだろう、妹紅の腕に抵抗の意思が生まれる。
私は彼女の衣服を奪い去ろうとする。彼女が嫌がるその行動に嗜虐感を得る。最低だ。   死んでしまえ。人でなし。私の中で、聞こえるそんな数々の罵倒が心に反復する。
そうだ、私は最低で、クズで、どうしようもない人間だ。
人の命なんて、自身の愉悦の為だけにあると思う、独裁者だ。
姫である私はソレが許されている。
                                  ――――――ねえ妹紅?そうでしょ。


「なに?さっきまで、私の裸を見ている時に顔を赤らめて興奮していたのでしょう?
私の裸体を見て欲情していた奴が、何をそんなに拒むのかしら?」
強い力で引いた事で、彼女の着る浴衣の絹糸の裂ける音。
抵抗の力がより強まるのを感じる、妹紅が悲鳴に近い叫びを上げるがそれに耳を貸す事はない。逆にその叫びに心地よさすら感じる。
「貴方だって期待していたんじゃないの?」

                                      ――――――答えて欲しい。

「………………」
妹紅は何も言わない、ただ瞳を強く閉じて、現実を見ないようにする。
知りたくもない事は目をそらせばいい。
嫌な事があれば、ソレを思い出さなければいい。
気づくと徐々に彼女の腕から、力が弱まるのを感じる。それは諦めか、それとも受け入れたのか。少なくともその行動は私の予期したものとは別だったという事。
彼女は瞳を開けない、私を見ようとはしない。

なぜ?もっと抵抗すればいいのに、なんで諦める?諦めた所で、何も意味なんてないのに。
ねえ。妹紅。
「答えてよ……」
私がバカみたいじゃない、ねえ?
気に食わない、本当に気に食わない。
興が冷める。
先まで湧いた興奮も、加虐心も萎りを潜めた頃。
「か……輝夜……様」

妹紅が私の名前を呼ぶ。
うるさい、私の事をきやすく呼ぶな、遅いのよ、しかも様付なんかで呼ぶな。
なんでそんな悲しそうな声で私の名前を呼ぶ。
なんで涙を流している。

なんで―――――――――――――――抵抗しない。


頬に手が触れる感触がした。妹紅が私の頬を触ったのだと分かる。気づくと、私の手も彼女の体を拘束する事をやめていた。
妹紅の手は頬を触り、目元へ、すると目元の下、私の瞳を拭うように動かし。
「泣いてる」
そう呟いた。
泣いてる?何を言ってるんだこいつは、私が泣くわけないじゃないか。
泣いているのはアンタの方で、私が泣くはずが――。


漆黒の瞳が私を見ていた。


涙で濡れた今にも壊れてしまいそうな少女が私を見ていた。
その中で、私は、『私』に気づく。
彼女の瞳の先、底に映る、もう一人の涙で濡れたソレを。
「えっ……」
目元に触れる、そこには拭い切れないほどの雫があった。
「えっ、あれ?」
可笑しい、なんで私が泣いているんだ?
泣いていたのはこいつのほうじゃないか。
私が泣く必要なんてどこにある。いやっそもそも、なんで視界がこんなにもさっきから、歪に歪んで……

妹紅の顔に雫が落ちる、ソレは一つ、二つと、数え、 気づけばもう数えることなど出来ないほどの涙が溢れていた。
泣きたくない。
妹紅の前などで涙なんて見せたくないのに、なぜ私は泣いているのだ。馬鹿じゃないのだろうか。
妹紅の見せた涙など、数滴程度の目尻に滲むくらいのモノだった、それがどうして私は今、ソレ以上の物を 流しているのか。

分からない。けれど涙を流す度に、私の中の何かが痛みを伴う。ソレは心臓を締め付けるほどに苦しくて痛い。
嫌だな、この痛みを引きずりながら生きるのは。
痛くて……、寂しくて、仕方がない。
気づけば妹紅の胸の上で、声の無い叫びをあげていた。


☆★★


一刻ほど立ってからだ。
「わっ……悪かったわ」
「い……いえ」
「その…………ちょっと、調子に乗りすぎたのよ!アナタがいかにも、軽く押し倒せそうだからつい、イタズラをして見たくなったの!」
先の私の痴態を見られたと思うと、彼女の目を見て話すことが出来ない。そもそも、彼女に謝るはずが、 彼女に難癖をつけてしまっている。
「だっ……だから、その……」
彼女に言いたい事があった。言わなければいけない、大切な言葉。

「そう簡単に、泣くんじゃないわよ」
一番泣いていたのはどこの誰だと言われてもおかしくない発言。
「わっ、私がさっき泣いたのはその、アンタがあまりに可愛そうで無様に泣くから、もらい泣きしただけだからね。自分の意志とは関係ないからノーカウントよ!」
「ノーカウント……ですか」
「そうよ、先に泣いた貴方の方が悪いんだからね」
苦し紛れの言い訳だが、それでも彼女はソレ以上の事を問うことはなかった。
私が、彼女を襲おうとした事。
いくら記憶が無いからとは言え、このような事をされたら誰だって私に対して敵意を持つだろう。

だが、彼女はそれを詰めることも、非難することもない。
それを何も言わないのは 彼女が従者と言う、今の身分故なのか、それとも記憶が戻るまでの上であえて私との揉め事を避けたいのか。
それは両方とも正解である気がするが、今の彼女を見ると、気持ちはきっと後者だろう、彼女はきっと安定を望んでいる。

記憶が無い彼女に取って唯一の寄る辺になるところなど限られている。それこそ、彼女の記憶に、私の従者などと言う嘘まで植えつけたのだから。結果、彼女は私を頼らざるを得ないのだから。
彼女が私の非道に何も言わないのはそういうことなんだろう。
けれど私が望んだのは、そんな彼女に憎まれたいと思う願望だった。
それはあの時、感情に任せて妹紅を押し倒した時に強く願った事。
自分だけにしか向ける事のない、あの研ぎ澄まされた殺意を。
一度感情の枷を外した思考は、妹紅が記憶を失ってから考えないようにしていた事が泡のように滲みだしていた。
気づいてはいた。
ただそれを見ないようにしていただけ。


それは妹紅が言い様のない不安に恐怖を感じたように、私の心にも見通しのない闇が芽生え、心が震えていた。
何百年ぶりだろう、こんな感情を抱いたのは、妹紅が記憶をなくしてからずっと、胸の奥ではジリジリと炙られる様な焦燥が渦巻いていた。

彼女がもし戻らなかったとして、私はどう彼女と対峙すればいいのか。
その一点だけが怖くて仕方がない。
初めは平気だった。いつか治るだろう、こんなの余興の一つに過ぎない、喜劇見たいなモノだと平静を取り作れていた。彼女が私の従者となり、私が彼女の姫になる、ただそれだけのくだらない喜劇。


長い時を生きていれば、時に珍しいこともある。
ソレは長い時を生きてきた自身が珍しいと思うことで心の正常を保ってきたように、今回はこんな珍しいことが会ったと、いつか腹を抱えて笑える日が来ると信じれた。
だけど時折、妹紅が私の知らない妹紅であると知らしめられる時、その心にも瑕ができる。

彼女は既に私の知らない彼女で。
彼女も私の事を知らない。

それが初めてコワイ物だと気づいたのは、彼女が私の見る目が変わったあの時。
あの血まみれで私に笑顔を振りまく妹紅が、私の知らない妹紅であると初めて理解した時。
世界の方式が逆転して、自分のいる世界は僅か数瞬で書き換わったようにすら思えたんだ。
そして、そんな感情をまだ抱けるだけ、私の心は正常に機能していたみたいだった。


長い永遠を生きることで私はたくさんの物を失ってきたつもりだ。
それは数えることも出来ないほどたくさん。
むしろ今に残る物を数えたほうが早いと思えるほど。
だから無くすことに慣れていると思った。
何度も、何回も、何巡も。それらを見てきたことで、 私の心は無駄に強くなり、悟った態度を装い、他者を馬鹿にする。
それが一番賢い生き方だと言う様に。
世の中の生き方ってそういうものでしょ?

だけど、ソレは裏を返せば、虚勢で塗り固めた強さでしか無い。
必要最低限。ただそれだけに留めた心でしかないんだ。
無くすことに慣れたんじゃない。なくしてもいいモノが多くなっただけ。
多くなっただけで、大切なモノはあった。決して捨てられない。決して無くしてはならない。
永遠のその果て、きっとこの空が消えてなくなるその日まで、私が最後まで心に思える大事なモノ。

それだけがあれば私はきっと生きていけると思った。
愛や平和、優しさ、抱擁を私に教えてくれる人がいる、そしてもう一つは憎しみと、悲しさ、怒り、時に友情、ちょっとばかしの好意。
変わり続ける世界で、私を変わらずに見てくれるそんな奴。
それだけだ、きっと、それらがあることで、私は私で要られるんだと思う。
私が普遍で変わらないものであるように、彼女達も変わることがない。
唯一の安心。
約束された永遠。
それだけが、この身に最後まで残るモノだと知っているから。
私はそれを無くす事を何よりも恐れたんだ。



嗚呼っ―――――。とため息が溢れるように、心の咳が落ちるのを感じる。
妹紅の前でなんか泣きたくなかったんだけどなぁ……と、客観的後悔が私の中にジワジワと込み上げ苦笑する。
そんな感情もきっと自分を保つ為の思考何だろうなと思うと余計に、虚しさが込み上げる。
悪いのはきっと……妹紅だ。
私はポツリと呟く。
そう思い込むことが今の私の最善だと言い聞かせながら。

「妹紅が悪いのよ」
「…………」
「先に泣いたほうが悪い!もらい泣きを誘うのが悪いのよ!」
「私が先に泣いたから……?」
妹紅はその言葉に納得がいかないのか、その言葉を反復する。
妹紅は私の考えなどわからないだろう。ああそうだ、 妹紅なんていつもそうやって私の気遣いや、労りも気づかない鈍い奴だ。
私がここ数日、彼女の為にどれだけのことをやってあげたと思っているだろう。
今だってきっと、記憶が戻らないことに不安を抱き、そんな無防備さに漬け込まれて、押し倒された被害者気分でいるはずだ。
きっとそうだ。
そう思おうとした時だった。

「それは……違う……」
妹紅が言葉を発したその後に続く発言に、私は一瞬、 虚を突かれた表情をする。
それは今の妹紅が私に対して、意を唱えた初めての事だったから。


「えっ?」
妹紅は半場、無意識で言ったのか、私の戸惑いに逆に肩をびくっと震わせた。
「あっいえっ!すみません。輝夜様の言葉が間違ってるという訳じゃなく、えぇと、今ふとそう思いまして」
思う……?
それは根拠のない答えだ、けれど、今の彼女が言う『思う』とはとても重要な意味を指す。
「もしかして……、何か思い出したの?」
「そんな気がするんですけど、その……」
要領の得ない言葉を、申し訳無さそうに涙目で言う妹紅。あれほど、そんな顔をするなと言ったばかりなのにこいつはと思いながら、彼女は私の方を何度か見ながら感慨深げに表情を浮かべ。
「一つだけ、訪ねていいですか?」
思いつめた様に言う彼女。

「え……えぇ……っ」
先からの彼女の反応。永琳の言葉が不意に蘇る、彼女が記憶を思い出すという前兆。
妹紅は、それこそ思い出すように言葉を紡ごうとした。
「すみません、もし間違っていても怒らないで欲しいのですが……。もしかしてですけど、輝夜様、以前どこかでこうして泣かれた記憶がございませんでしょうか?」
「はっ?」
「あっ、だから怒らないで……!」

記憶の片鱗が見え出したと期待した矢先、それは私の想像とはまったく別のモノだった。
私が泣く?しかも妹紅の二度も?そんなことある訳がない。今回のが例外中の例外の一回だとして、妹紅の前でそんなほいほい泣くような安い女ではない。
彼女と出会って、彼女の前で涙を流したことなど、この一回だけのはず。
何を彼女は勘違いしたのだろうか。
「そんな事あるわけないでしょ」
「そう……ですよね」
言葉ではそう言うが、どこか納得のいかなさそうに、私の顔を見ては頭を下げる。彼女の中でそれでも何かが引っかかるのだろうか。
けれど私にはそんな記憶なんてこれっぽっちもない。


「その記憶って私なの?」
「そう言われると自信があまり持てないのですが、以前、こんな風な事があった気がしたんです」
「それってデジャブって奴じゃないの?同じような光景って、以外に何度もあるものだから、それと重なって見えたとか」
既視感と呼ばれる症例。
その時の記憶に強い印象を受けたり、感情を大きく揺れ動かされた時ほど、その瞬間の記憶だけが私達の意識しない所で覚えており。それらが、いつ、どこで、見たのかは無意識で覚えているため、はっきりしないことが大半だという、漠然とした無意識による瞬間記憶を指す物事。
私達が普段生活する習慣でも、まったく同じ光景、場面、動作などをしたりするとそれらを、『ああっそういえば、こんな事があったかも』と思い浮かべるアレ。
それが時折、自分が自覚する、初めての物事の中でも、体験した感覚などを感じる時がある。

記憶を思い出すに辺り、そう言ったデジャブが失われた記憶に繋がり、記憶が蘇る可能性があると永琳が以前言っていた。
つまり妹紅は以前に、誰かの泣く姿を見たということだろうか。
それは小さいながらも、記憶を取り戻し歩む上では大きな一歩。
人が涙を流すことは珍しいことではないが、それでも彼女は涙というものに、何か既視感を感じたのだろう。


「そうなのでしょうか?」
妹紅はまだ記憶に引っかかりを感じるのか、素直には頷かなかった。
「さあね」と私は少しだけ彼女を突き放すような言葉を吐く。
「だけど、少なくとも今、アナタがそう思えるということは、何かを思い出し始めているということよ」
「思い出している……」


この時、私はそう自然に告げるのと裏腹に、胸内では心音が高鳴るのを感じていた。
妹紅の記憶がここに来てようやく、思い出す糸口が見つかったも知れない。そんな小さな変化に、治る希望を感じずにはいられなかった。
この一週間、治らないかもという不安、一寸先見えない闇に小さな光がさした事で、私はどこか若干の楽観視すら持っていた。
取り敢えず永琳に診てもらうのが一番だと、私は提示を上げると、妹紅はそれに頷いてくれる。
彼女の前で涙を見せたからだろうか、私の中で、妹紅の記憶を戻すことは気づけば何よりも優先するものになっていた。


彼女の記憶を取り戻したい。
彼女にそれを直接言うつもりなど毛唐もないが、それでも、私は自分の為に必要だと思える彼女を取り戻したいと思った。
その為の糸口が見つかったと思える事は私の中で素直に嬉しく思えた。
「…………」
だが妹紅はそんな私とは裏腹に、なぜか嬉しそうな素振りを見せることはなかった。
どこか戸惑ったような、悲痛な面持ちをしたままだった。
私はそんな彼女の表情も、きっと記憶が戻り始める初期傾向だと思っていた。
私達が植えつけた記憶と、彼女が持ち合わせている記憶との相違を感じているのかも知れないと思ったのだ。
私はそう楽観視し、そうである事を期待した。
彼女の記憶が戻って、また二人でいつもどおりの日常を送れればいいなと。


★★★


私の期待は半分が当たっていた。
彼女の記憶が戻り始めているという事が、永琳から告げられた事。
そしてもう半分の私の期待は大きく外れることになる。
彼女があの時、記憶が戻ることに喜ばなかった理由。
その時点で、私と妹紅の心はやはり遠い所にあったのだと自覚する。
彼女は変わってしまっていたんだ。
永遠から、別のモノへと。

☆☆☆

あの日を境に、妹紅の記憶は、日に日に回復の道を歩んでいった。
初めは、彼女の持つ、妖術による火を起こす能力。
普段彼女が、私との対峙の時に使っていた、その能力を、彼女はふいに使えるようになった。
彼女にとって妖術は、体が覚えた感覚に近いのか、思い出すというよりは、なぜか気づいたら出来ていたと妹紅は言う。
火を発現させる能力が蘇るに辺り、記憶も同時に思い出し始めていた。
彼女が見知る景色や、光景、最近まで自分が何をしていたのか、里の人間を背負って永遠亭にまで来た記憶など、不明瞭だがボヤけるように断片化した記憶が構築されてきている。
それに辺り、私と、妹紅の関係にも相違が生まれてきそうモノだが、そこは、今だ、変調が起こっていない、だが時折、私との会話の呼び方に違和感を感じるのか、発音を変えたりする試みが見れる。
輝夜様と、妹紅が私の名前を色々な発音で呼ぶが。それは惜しい所で、ズレていると私は心の中で思いながら、そんな彼女の回復を見守る。

そんな中、妹紅が私の名前を呼ぶ度に、時折どこか悲しい瞳を向ける様な気がした。
それは、彼女がこれから思い出す、記憶に関連しだしてきたということだろうか。
彼女が私に抱く、本来の感情の発芽。
いずれ、その呼び方に、『様』がなくなる瞬間が来るのかもしれない。そう思うと、この生活もすこしばかりの寂しさを感じずには言われないかもと思う自分がいた。


☆☆★

それから、幾日か立ち、より事態が好転しだしたのは彼女の知り合いである、上白沢 慧音の名前を上げたことだった。彼女がふと、慧音という人物を知らないかと私に聞いてきたのだ。
その人物の特徴などを妹紅は話すと、自分がその人間と親しい付き合いをしていた気がすると話し始めた。
私は永琳に、すぐその事を話すと、永琳は上白沢 慧音を連れてくるように、レイセンへと使いを出した。
なるべく、彼女の事を知る人物と接触をさせない上で、記憶回復の治療は進めて来た中では、彼女の知り合いを呼び、面談をさせるのは今回が初めてだった。

本来ならば、記憶喪失の患者を治療する上で、患者の身近な人物などと顔を合わせ、その忘れ去られた記憶を思い出させるのが普通の治療法だという。
だが、今回それを取り入れてこなかったのは、私と妹紅の関係にある。
彼女の、知り合いと面談させることで、本来の私と妹紅の関係が知られ、そこで妹紅が 私含めて、永遠亭の者に敵意を向けた時、彼女の治療を行える者がいなくなることを恐れての事だ。
この幻想郷という土地で、最も医療技術が優れた場所があるとするなら永遠亭以外に他ならない。妹紅が人里に出向く時も、永琳がそこらへんの調整を影で図ってくれていたのは後になって知ったことだ。
また仮に、そこまでの事実を知らせることで、彼女の記憶が戻るのならばいいが、戻らないまま、そのまま彼女が私達の前から消えてしまうことは最悪の事態だと永琳は考え、状況を見てからの面談を進めたのだ。


今頃、上白沢 慧音にも、妹紅の今の現状について知らされていることだろう、彼女にはこちらの治療方針と、考えを伝えた上で面談を行うようにしてもらおうとしている。
二刻ほど立つと白上沢 慧音が永遠亭に訪れた。玄関口で眉をひそめ、下から私を睨み上げる視線から、彼女の怒りが容易に想像が出来た。
それは予想した通りの展開だった。
「妹紅はどこだ?」
開口一番の言葉に、私は、彼女に取り敢えず落ち着くことを勧める。
「居間で待ってもらっているは、それよりも、レイセンから話は聞いているのでしょう?」
「ああ、聞いたさ。最近、里で妹紅を見た者が、お前の所の者と一緒に歩いてて、雰囲気が変わったんじゃないかと質問されたが、まさかこうなっていたとは……、どうせまた、お前が妹紅に良からぬ企みをしたせいでこうなったのだろう?」
「それは心外だわ、気づいたらこうなっていたのよ」
企んではいない、そう企んでは―――そんな、子供の言い訳見たいな事を私は、心の中で呟く。


レイセンには、不意な事故で記憶を失ってしまったと伝えさせているが、私と妹紅の関係を知るこの ハクタクにはそれも詮無きことか。
ハクタクは私と、妹紅の関係をあまり良いものとして見ていない。
それは復讐という字面だけでなぞった説明で聞けば、当たり前のことだが。彼女はどちらかと言うとその復讐という意味合いに関しては、理解を持つモノだ。妹紅と私。その長いつきあいの中でそれが言葉以外の意味合いを持つことも理解はしてくれている。
では彼女がそんな理解を持ちながらも、決して認められないものがあるとしたら、私達が遊びと表して行う行為の事だ。

殺し、殺され、殺し尽くされ、笑い合い、悲しみあい、憎みあう。

あれは決して、人として生きてきた人間には理解できない範疇だ。
理解出来たとしても、それが道徳という前では憚られる。彼女は教育者であり、彼女は人としての道を歩むのだから。
そして、ハクタクはそんなバケモノである妹紅を人の道へと導こうとする偽善者だった。
「妹紅の記憶を戻す為に仕方なく、此処に来たが、もし戻らないような結果になってみろ。私はお前を決して許さない」
「嬉しいは、私の事を死ぬまで思ってくれる人がいるなんて、幸せじゃない」
「戯言を」
ハクタクはそれだけ舌打ちをすると、私の押しのけるように真横を抜けて、居間へ繋がる道を進む。いつもならば、私の能力で永遠にも続く長い廊下のはずだが、今回は先が見えて、入り組みの無い襖がハクタクの前にある。


「アイツの記憶を戻すために尽力を尽くしてくれることを祈るは」
「お前見たいなやつに関わった彼女が哀れでしょうがないよ。記憶が戻る、戻らないにしろ、お前は妹紅にとっての害でしかない」
「そうね」
蓬莱の薬を飲んだことが、彼女の自己責任だとしても、それを飲む以前から彼女に取って私は害悪であった。

彼女の父を奪い。
その尊厳を奪い。
彼女の家の名を地に貶めた存在。

それだけで彼女の人としての人生全てを奪ったに等しいだろう。
それが私が望んだ事でないにしろ、藤原 妹紅に取って、私という存在は害悪でしかない。
害悪でなければいけない存在と、初めから決定付けられていた。
不憫な人生、だけど、そんな中でなおも、彼女は生き続ける、死ぬことも、楽になることも出来ない生き方

嗚呼――哀れで可愛そうな彼女。
それは誰の目から見ても。

――――だけどね、ハクタク。
気づけば口元が緩み、それが笑みを浮かべた表情になっていた。

それが不幸だと、彼女が言っただろうか?

もし―――
仮に、私が彼女と同じ境遇だったのなら、思うことはただひとつだった。
「憎い相手を何度でも殺せる愉悦につかれるなんて幸せじゃない」

愛は語ればいづれ陳腐な感傷へと変わりゆく。
憎しみは語れば、より黒い新しい感情へと生まれ変わる。
より強固な思いとなる。
これ以上ない信頼関係。
愛よりも強い思いを一心に受け続けれる幸福。


ハクタクはその言葉に少し、眉を引きつらせ、悲しげな目を一瞬見せる。
「……狂ってるよ」
憐れむようにハクタクはそれだけを言うと、もう私に話すことはないと居間へと足を進めていった。
ええ、とそんな彼女の後ろ姿に、私は心中で呟く、
狂っているなどおこがましい、
それが永遠を生きる最高のコツなのだから。


彼女と狂わなければ、こんな世界生きていけない。




★★★



ハクタクの面談は30分の時間を設けた、二人だけのカウンセリングとして行われた。
私がその場に居合わせることは、現状の妹紅の心理内面を引き出すにあたって、余分な外部情報を与える 可能性があるということで席を外し、ハクタクからカウンセリング後に話を聞く形となった。
一応、永琳にあたっては医師という関係もあり、妹紅には気づかれない様、隣室で会話の聴取を行っている。
そうこうして私はソワソワした気持ちを落ち着かせる為に、一人縁側でイナバの毛づくろいをしていた。
「ハクタクの名前が妹紅の口から出たのだから、もう私のことなんて、思い出してもおかしくないのに、妹紅はいつになったら本当の私を思い出すのかしら」
もう思い出してもいい頃だと思いながら、私は今日の妹紅を思い出す。
ここ最近の妹紅は、私が声を掛けると、どこか言葉を倦ねるような返答をする。
何か思い留まった様な、悲痛な面持ちを浮かべることが多かった。
たぶん、記憶が戻るまでの間、今までの私と接してきた記憶と違いに困惑が生じているのだろう。


少しの申し訳無さを感じはすれど、彼女が自分の口で、私との関係を口にするまでは、私からも何も言わないようギリギリを留めている。
記憶が戻る前に全ての事態を伝えてしまった場合、それは時として思い出すという行為ではなく、そうで会ったのかと認識してしまう場合があるという、そうなった場合、記憶は思い出す行為を『そうあった』という認識に上書きしてしまい、思い出すことを阻害してしまう可能性があるという。
現段階で全てを伝えた場合、彼女の今の回復なら、それも効果的ではあるかもしれないらしいが、やはりそれは早期すぎるという判断から、彼女が思い出すであろう可能性に望みを抱くことにした。
「アイツが記憶を取り戻したらどんな顔をするのかしら、記憶って蜘蛛の巣の様に、幾つもの繋がりで出来ていると言うのだから、大本の記憶が繋がれば全ての 記憶もいっぺんに戻るのかな。それならば、記憶が戻るまで、私がアイツにさせてきた事をどう思うんだろうなあ」


妹紅を従者にしたこと。
妹紅と一緒の屋根の下で寝たこと。
妹紅と一緒にお風呂に入ったこと。
いつもとは違ったアイツの一面が知れたこと。
普通の少女のように笑った時の顔は、普通に可愛くて。
髪も整えれば絹糸の様に柔らかい事。
風呂あがりなどで見せる赤らめた顔は、どこか艶かしかった事。

アイツが記憶を取り戻して、その自身の取った行動にしかめっ面をするのが目に見える。
それだけで、私は胸の打ちが楽しくなる。
そして、そんな馬鹿な事をしたアイツと、話したいとも思えた。
私も、アンタの前で喚き散らした事、泣いたこと。
それらをアイツと一緒にまた、いつもの遊びを交えな がら話せればと。
だから、

「早く思い出しなさいよ……」
私はそう、小さく呟く。

★★★


ハクタクが居間でのカウセリングを終え、私の前に現れたのはそれから10分後の事だった。
「どうだったかしら?」
ハクタクの名前まで思い出し、彼女を前にすることで、抜け落ちた記憶も思い出す糸口が出来たはずだ。
問題ない、きっともうすぐ、妹紅は記憶を取り戻すはずだ。


「ああ、確かに妹紅は記憶をなくしていたよ」
ハクタクは、先ほど会った時とは違い、私に怒りを示す表情をしていなかった。
かといえば、悲しんでいる風な表情でもない、いうなれば能面、感情の読み取れない表情。
それはこれから言う言葉に、極力感情を込めないようにしようという現れ。

「お前との過去の記憶を思い出したくないそうだ」













☆★★☆




世界の終わりを目の当たりにしたようだった。









★☆☆★


胸が苦しい。
息継ぎする暇もなく、私はそこにいるであろう人物の部屋へと駆け足で走り、その扉を盛大に開け放った。
「永琳!」
「輝夜、もう少し静かにできないの?」
「静かにですって?そんなこと言っている暇がアナタにはある訳?」
「ええ、あるは。まずは輝夜を落ち着かせる時間を作らなくちゃいけないからね」
この性悪医者は、私が此処に駆け込んでくることを既に想定していたのだろう。
そして私がこういう態度を取ることも、彼女はいつでも万全を期す。それが私のためであれば尚更。
それでも、今の私は彼女のそんな態度を許せなく思えるほど、込み上げる怒りに収まりがつかない。
「あったことを話して頂戴」
「どこからがいいかしら?上白沢から大体の話は聞いているでしょう?」
「全部よ!」
私がそう叫び、近くの棚を強く叩いたことで、その上に置いてあったフラスコが落ちて割れる。


永琳は私のそんな態度に溜息を一度つく。
開け放して入ったはずの襖は気づけば閉じられており、まるで防音を施したように部屋内の音は静かだった。
万が一にも、ここでの私の癇癪が響き渡らないよう作られた徹底さ。
万全を期す彼女は、誰にも聞かれないその部屋で、私に事の顛末を話し始める。
「白上沢 慧音とのカウセリングで分かったことは、妹紅は上白沢が自身の友人であることを思い出していた。彼女が教育者である事、自身がたびたび彼女の職場に訪れ、子供達と他愛の無い話などをしていた事も記憶していた」


妹紅はハクタクの姿を捉えると、態度こそいつもと違えど、そこに笑みを浮かべていたと言う。それが自分に敵意を向けない気心の知れた人物だと知っていたからだ。
カウンセリングは概ね、順調な流れだと永琳は言った。
ハクタクが自身の友人であるという事を感覚の上、もしくはもうそこまでの記憶を思い出した上で、ハクタクとの対談は、記憶を無くしたことに対する重い雰囲気を抱かせず、気心知れた友人同士の会話の様だったと言う。
初めは、ハクタクからいくつかの質問をとった。記憶をなくした事が本当か、今、妹紅の前にいる自分が誰か分かるかなど、彼女の記憶に働きかける簡単な質問を数点。
その内の殆どの質問を、妹紅は言い当てた。
事象に則った質問になると所々に、記憶の一部に綻びが見られるが、それでも彼女の、上白沢 慧音に対する記憶はほぼ回復していたモノと見られた。
ただ、一部の記憶を覗いて。


慧音はある質問をした。
『お前の主人……、いや、言葉を変えよう、蓬莱山 輝夜と共に過ごしてきた中で、ふいに、怒りや嫉妬、負の感情を抱くことは今までなかったか?』
ソレは、私と妹紅の本質を付く質問だった。
今まで、触れることを躊躇われた問。
彼女がここまでの記憶を思い出し始めてきたのであれば、必然、輝夜の記憶を思い出すのが自然と思われた。
その中で、記憶と相違する物が一番に出るとするならば、輝夜との関係、立ち位置。
その記憶の架け橋となる白上沢 慧音というキーパーソンの存在を思い出す事が出来たのであれば、既に彼女の中で明確な答えが出てもおかしくないのだ。
『私が……』
その問に、妹紅は初めてハクタクとの対談で苦虫を 噛み潰すように暗い表情を見せたという。


『そんな感情を持っているはずが……ない』
それは思い、思いといった感じに出した答えだったという。
聞く人によれば、それは、自分の沸き起こる感情をなんとか押し殺す様にも聞こえる。
そしてそれはハクタクにも同じように聞こえた。
彼女が嘘を付いている様な、なぜそんな苦しそうな顔をしてそんな答えを彼女が言うのか、記憶を失う前の妹紅を知るハクタクには、少しばかり納得のいかない答え。
妹紅の返答もおかしかったのが気がかりだった。
負の感情を持ち合わせていないと言い切る事に、まるで、何かを否定する様な、ソレが失われた記憶を比較したような言い方。
何よりもあの輝夜を庇うようにすら聞こえた答えは、自身が輝夜よりも浅い関係である様にさえ言われた様に思え、小さいながらもハクタクの心に嫉妬心を抱かせる。
慧音は、そんな妹紅に更に質問をする。


『本当にそうなのか?失礼かもしれないが、私が知る限り、蓬莱山 輝夜と藤原 妹紅はそこまで仲の良い存在には見えなかったと思うが。いや、これは私だけの見方だから、そこまで深い意味合いを持ったものではないんだ。そうだな、私が思うに、妹紅と輝夜は互いにライバル的存在の様に互いを高めあっていた様に思うんだ』
『ライバル?』
『そうだ、中がいいわけでもなく、だけど決して中が悪いわけではない、互いの存在を認め合うように、妹紅は輝夜と接していたように私には見えたんだ』
慧音は妹紅の記憶の断片に語りかけるように話す。
『今の輝夜が妹紅の記憶を取り戻そうと必死になっている事は少なくとも知っている。
もしかしたらそのせいで、彼女はいつもの妹紅に接する態度とは違った行動を取ってしまっているのかも知れない』
本質を掴ませるように、真実をギリギリまでに隠した発言。
妹紅はその言葉を一つ、一つ、噛みしめる様に聞いていたという。
記憶を失う前の藤原 妹紅という本質。
それらを聞いた上で、妹紅は、閉ざした口を開き、言う。
『恐縮ですが……』


そこにどれだけの意味を込めたかは私には分からない。
ふと思ったことだけを言ったかも知れないし。
それともあの日、記憶を取り戻しはじめたあの日から、彼女は考えていたのか。
私にはわからない。
けれどそれは彼女の中で何かを決意し、この問で初めて彼女の意思を示す発言だった。
そして、それが今の妹紅が抱く本質の返答だった。
私を裏切る結果になる答えを。


『それは……本当に、思い出さなければいけない記憶なのでしょうか?』


『……どういうことだ?』
『慧音から、輝夜様の話を聞いた上で思ったのです。私と輝夜様は以前、何かで酷い仲違いをしたのでは無いかって……、そんな気が以前から感覚ではありますが、そんな風に思えることが度々ありました。けれどそれを伝えた上で、輝夜様との関係が崩れるのを嫌だと思えたのです』
『それは……いつから思った事なんだ?』
『……あまり、詮索されたくない話しですが、その……私が、彼女の前で涙を見せる機会がありました……その時、ふいに感じる物があったんです。私は、度々、彼女を前にして、こんな風に涙を流しそうになる事があったなと』
『それはさっき言った負の感情から湧くようなモノではなくか?』


『……いえ……』彼女は否定しようとする、だがその否定が明らかに嘘だと自分でもわかると彼女は、正直に答える『いぇ……、すみません、嘘を付きました』
苦虫を噛み潰すように妹紅は言う。
『その時だけ、私はなぜか輝夜様に対して、言い様のない復讐心を持ちました、なんと言えばいいのでしょう、言葉にするのもおぞましいことですが、言葉にしなければいけないのでしょうね。その時、私の脳裏によぎった言葉があるとするならば、彼女が私の前に平気でいる事がなぜか気に食わない』
『ほう……。そんな感情が湧くという事は、自分は、もしかしたら輝夜に恨みがあるんじゃないかと疑うのが普通じゃないのか?私が妹紅と同じ境遇であれば、それが自身の本質、もしくはそういった直感に近いものほど、過去の自分が相手に抱いていたモノだと私は信じ込むものだと思うがね』


『何が言いたいんです?』
『怒らないでくれ』
『怒っていませんよ』
『まあそう言わないでくれ、言葉と感情が一致していないのは目に見て取れるよ、意地悪な質問をしていると私も反省はしている。だけど、私も思うことがあるから、妹紅の現状を知りたくて聞いているんだ。他意じゃない、妹紅の事が心配だからこそ、聞いていることなんだ』
それだけを言うと妹紅は慧音に対して、これ以上の非難をすることはなかった。それは妹紅自身も、彼女がそんな人間ではなく、自身を案じてくれているというのを知っているからだ。
『じゃあ最後に、妹紅の本質を付く質問をさせて欲しい、分からないならば分からないでいいし。答えたくなければ答えてくれなくてもいい、ただできれば答えて欲しい、これは妹紅の友人として、お前を知る私だからこそ聞きたいことなんだ』


本当の自分を知るという上白沢の質問。
それが今の彼女に取ってどれほど辛い質問かはきっと上白沢も知っていたはずだ。それこそ、それを告げるときの彼女の表情は、輝夜に、妹紅のカウセリングの結果を伝えた時と同じ表情をしていただろう。
真実を曲げないために、事実を伝えるために。
だから上白沢 慧音は妹紅に聞く。
本当の想いを。


『どうして輝夜をそこまで庇う?』
『………』
『気づいているはずだ、いや、気づかないふりをしているのか。少なくとも、記憶をなくした妹紅とこうして少し話しただけでもその違和感は感じられた。私は、妹紅とこうして話をする中で、妹紅の過去に触れる話題を度々してきた。その中で、不明瞭ながらも私が出す話題に受け答えが出来る所、記憶はそれなりに回復していると見た。だが輝夜という存在についての話題になるとそれはトンとして沈黙する。別段これが覚えていないだけならば、私も気にもしなかったし、これから、思い出せばいいと、若干の不安を残しながら、それは終わるはずだったんだ。けれど、妹紅が出した答えはそうじゃない、頑なに、輝夜に対する記憶を否定しようとする。感情の発露を出さないように押し殺そうとする。
それが明らかに、妹紅の記憶の最も深い所、根源に位置するかもしないソレを妹紅は否定した』


感情を殺し。
記憶を殺し。
ただソレを否定する。


『記憶が戻ること全てが、いいこととは言わない。だが妹紅。私が妹紅を知るかぎり、その記憶を否定するという事は、お前が培ってきたこれまでの人生の多くを否定している事だと私は思う。積み上げてきたもの、大切にしてきたもの、それらを全て崩しかねないモノだと思っている、記憶とはこれまでの感じた物事、感情の繋がりで構成された物だ。
ならその感情は決して否定しちゃいけないんだ、それは自分自身を否定する事なんだから」
『私に彼女を憎めと言うのですか?』
『そこまでは言わない。だけど、それだけの事があったとだけ私は言っておく』
『酷い言い様ですね、私は今の関係を築ければと思っただけなのに』
『ああ、妹紅が記憶を取り戻す上で必要なことだからな、そのためなら私は酷いことをする、そしてその記憶を思い出すのは他ならぬ妹紅自身だ』
『なら……申し訳ありませんが、その必要は、やはり無いのかもしれません。確かに……認めたくないところですが、私は彼女に対して、そういった感情を持ち合わせているのは否定できません、それが今だ、どういった経緯から起きたことかは存じませんが、それは思い出そうと思えば、いずれ思い出せる記憶だと、私の中でなんとなくな確信があります』
『ならそれを思い出す事を踏み込まない理由は?』
『言わなければ……いけませんか?』
『ああ』

その真実を慧音は知らなければいけない、
それは友人として、
彼女の理解者として、
そして、そんな彼女を悲しませる事のない世界であるためにも。
慧音はその真意を――。


★★★★★


そして私は話の途中、突然永琳から一つの手記を渡される。白い便箋に入れられた、どこにでもある普通の手紙。
「はっ?」
「妹紅からよ」
「なんで永琳がそんな物を持っているのかしら?」
「妹紅が話を終えた後、いきなり私を呼び止めて、これをすぐに渡して欲しいと言ったからよ」
盗み聞きしていることがバレているじゃないと永琳に視線を向けるが、永琳は特に気にするでもなく表情を変えることはなかった。いやっそもそも、なぜ妹紅はそのタイミングで私に手紙など書いたのか。私は手紙を受け取る。


「先に言っておくわ」
永琳はそれを受け取る私の目を見据えて言った。その表情は変わる事はない、ただ、それでも彼女の雰囲気がどこか変わるのを私は感じた。
「彼女は記憶を取り戻してはいる。だけど、その記憶をあえて思い出さないようにもしている。その理由はこの手紙に書いてあるでしょう。けれど、私はその事に対して特に重要視していないの。じゃあ何を私が気にしているかと言うと。これは初めに伝えておくべきことだったかも知れないけれど、記憶を取り戻す事を再優先で考えた上、それを軽視していた事よ。そもそも、記憶が短期的に戻ることで、それが起こる可能性は極めて低いものと想定していたから」
 奇跡と奇跡を掛けあわせて、それが良いことであるとは限らない。時にはそれを悪夢と呼ぶ。つまり今回のような――。


「彼女が記憶を取り戻したとして、藤原 妹紅が輝夜の知る、『藤原 妹紅』でない可能性があるということ」
私の中で広がるのは最悪の事態だ。
「記憶をリセットすることで、藤原 妹紅という存在は一度消えたものとする。そこには何も知らない無知な雛鳥が出来上がる。ただ泣いて、親からの餌を貰う事を本能で知る雛鳥がいるだけ。そこで雛鳥が幾分の時間を経てば、後に空を飛ぶことを覚えるのは必然よね。
だけどその飛び方が、違うものだとしたら?以前は飛ぶまでに助走をつけるのが常だった鳥が、高所から落ちるスピードで飛ぶようになったら?力強く羽ばたく術を知った鳥が、助走なしで飛ぶようになったら?以前の飛び方を思い出したとしても、今の方が効率的だと思えば、きっとその鳥は、覚えた飛び方だけをするようになるでしょうね」
そしてそれは記憶と感情、そして何も知らないからこそ得た、新たな藤原 妹紅という人格にもできていたとしたら?

「人格とは本来、積み重ねた記憶から構成されるものよ、その記憶が無いと言うならば、彼女の人格のベースになる素材もないということ。一からまでとは言わない、感覚として覚えている記憶、体に染み付いた動作などの記憶が以前の人格を出来る限り、引き継ごうとはする。けれど、それでも人格を構成する上で足りない分のモノは、新たな記憶から作らなければいけない。
そうして、突貫工事のように、継ぎ接ぎの状態で出来たのが今の藤原 妹紅。
覚えている一部の記憶と感情、短いながらの現在の記憶で出来た。極めて不安定で、崩れやすい彼女。
それは一時的なモノとして、今の彼女を支えるためには必要なモノ。
要は記憶を取り戻すまでの代替ね。
本来なら、記憶が戻れば、積み重ねてきた経験と、感情、それらが元の人格を思い出すことで、代替である時の人格はいずれ消えてしまう。元々欠陥だらけで作られた人格なんて、本来の自分のあり方に気づけば、そちらの方に移行するものよ、それが記憶を無くしてからの長期的な人格形成でも無い限りは」

様々な強い感情、記憶を抱く事で、記憶は形成される。
二つの人格は本来成立しない、一つの体に人格は本来一つ。
ならその違いを選ぶとしたら、より強い感情と、記憶。
今の藤原 妹紅には記憶はない、なら彼女が今の自分を留めようとするモノは一体?


この世で最も強い感情があるとしたら、憎しみだと私は思う。
そして彼女はそれを私に持っているはずだ。
忘れたくても、忘れ用もない感情。
覚えていてもいいものではない、だけどそれを捨てて、忘れていいものではない事を、私達は知っていたはずだ。
知っていたはずなのだ。
けれど、


「輝夜」
私を呼ぶその声に体は震えた。その目は私に問い言った。
「あなたはこの先、受け止められるかしら?」
それは何を持って受け止めるということか?
「藤原 妹紅という存在が、いなくなった世界で生きる覚悟を」
「無理よ」
そんなのは無理だ。絶対に。
私にとっての藤原 妹紅という存在は確立している。
ソレ以外は偽物だ、精巧にどれだけ似せても、それは贋作でしか無い。

積み重ねてきたそれらを崩し、失い、それを別の何かで補う事は、私にはもう出来ない。
「ええっ、きっと貴方はそう言うでしょうね、だから輝夜」
妹紅から渡された手紙を強く握りしめる。
一つの大きな分岐に立たされているのは嫌でも分かった。
その行動一つで全てが崩れかねないことも。彼女の一言の重みに、私の心は潰されそうになることも。


「本当の藤原 妹紅を見つけなさい、きっとそれができるのは貴方だけよ」


☆★☆

私には分からない。
彼女が記憶を取り戻そうとしない理由が、
記憶を取り戻さない事で得る物が、彼女にはあるのか。
それとも、これ以上、彼女自身が記憶を背負って永遠を生きることから逃れたいと、本能的に思ったのか。


私には分からない。
彼女が記憶を取り戻したくないと思う気持ちが、
一体どんな感情からそれを願ったのか。
それは私の知らない藤原 妹紅という側面。
どれだけの時を同じくして、
どれほどの時間を歩んできて、
そして望んだ答え。
私は、便箋に入った封を開ける。
そこに書かれるのは思い。

憎しみ、復讐以外で綴られる、

もう一人の彼女の気持ち。
それは私の知る妹紅ではない。
だけど、それはやはり、藤原 妹紅の思いであるのは間違い用のない事実で、


彼女の中に宿る、復讐と、憎しみ、僅かばかりの友情と、そして――。


☆☆☆☆


外に出ると気づけば時刻は夜を迎えていた。
ざわめき立つ竹林の音。
静かで騒がしい夜の音。
その音を背に私は足を勧める。


「妹紅」
手紙で指定されたその場所に彼女はいた。
竹林の奥深く、誰も立ち寄ることのない、ザワザワと竹の葉の音だけが響き渡るそこに彼女は私を待っていた。
「輝夜様」
彼女は分かっていた。私が此処に訪れる事を、そして私がどんな表情でこの場に訪れるのかも。
「酷い顔をされています」
「当たり前でしょ……」
「申し訳ありません」
「謝るくらいなら、それをさせる原因を作らないでよ」
「それも……申し訳ありません」
彼女は分かっている。それが彼女の中でどうしようもなく、引くことができない感情であることも。


それは、いつからかなど分からない、けれど気づけばそこにあった原始的な感情。
私は知った。
彼女がどうして、記憶を拒むのかを、その原因を。
今思えば、その片鱗を、私は彼女と過ごす中で何度も見ていた。
「嫌よ、許さないは」
思えばいつでも彼女はそうだ。それは記憶を無くす前からもそうだった。彼女は私の期待をことごとく裏切ってくる。私が嫌だと思う事を、平気で行ってくる。その反応を楽しみながら、笑顔を向ける。楽しいねと言わんばかりに彼女は笑う。
私も笑う。彼女が嫌がるソレを押し付け、私達は互いを憎みあう。
そう、今思えば、それは何も変わらない。
彼女の本質は何も変わっていない。

だから、だろう。彼女がこれほどまでに悲しみにくれた表情の中、その瞳の先は笑っていることが私には堪らなく、腹ただしく、堪らなく、愛おしいと思えてしまう感情。
それを彼女は、私よりも早く、そして記憶と言う壁をなくした彼女が受け入れただけ。
「あんな手紙、私が受けいれると思っているの?」
「無理だとは思っていますよ」


彼女は悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのか。 きっとその両方を彼女は持っている。
彼女が悲しみにくれるのは、自身の気持ちを受け入れられないと知っているから。
彼女が、笑みを浮かべるのは、自身の本質を理解しているから。
それでも彼女は、その本質をギリギリで踏みとどまる。
憎しみと復讐、真っ黒に染め上げられたそれを、別の何かで彼女は染めようとする。

「無理だと知っているから……私は、思い出したくないのですよ輝夜……」
「様はもう言わないのね」
「ええ、もし輝夜がソレを受け入れると言うのなら、私はまたそう呼んでも構いませんが」
「冗談やめてよ……そこまで思い出してるなら。とっとと全部思い出しなさいよ、私の事を。アンタが藤原 妹紅である本質を」
「輝夜は勘違いしています。私の本質はずっと変わっていません。仮に貴方を憎む感情や記憶があったとして、この思いも初めから合ったものだと私は思っています」
「そんな訳……ないじゃない」
「いいえ、本当です」

彼女が記憶を無くす前から抱いていたモノ。
それは、憎しみを抱く上で、邪魔な感情。
「私は貴方を愛している」


その瞳はずっと前から、私を見続けていた。
「記憶を無くした時、私の中にあるものは、漠然とした貴方の姿でした。綺麗な髪、清楚で冷たさを感じる程に整った顔つき、けどその見かけとは違う表情豊かな笑みを浮かべる姿。それだけがあの時の私にあったものです。何も思い出せない、何も分からない、自分が誰かも、分からない不安で押し潰されそうな中、私の中に唯一あった記憶」
どこに向かえばいいかも分からない、その一歩は恐怖以外の何物でないだろう。
そこがどこかも分からない、自分を助けてくれるものもいない世界。
「私があなたを見つけると、胸の内に広がるものがありました。それが記憶を無くし孤独を感じる私の、唯一の寄る辺である事はすぐに理解しました」
自身の全てを奪った憎むべき相手を、唯一の寄る辺と感じる心。
記憶がないからこそ、そう感じてしまったと思えてもしょうがない様な、そんな感情。
「それは別の感情から覚えていたことよ、妹紅」


「いいえ、輝夜、そんなことはありません、私が輝夜を見つけた時に感じた感情から、それは違うと断言できます。私が貴方から感じた感情は憎しみでも復讐心でも、嫉妬心でもい、ただ柔らかな温かみだったのだから」
自身の記憶の中にいた彼女を、初めて目にした時。その時に抱く感情が言い様のない負の感情なら、こんな事はなかっただろうと妹紅は言う。
彼女が抱いたのは、孤独を癒やす暖かさ。世界で自分だけが一人と思える中で、自分の手を彼女なら握ってくれるだろうと確信に似た予感。
そして何よりも、あの時、彼女の名前を初めて聞いたあの瞬間。

―――――蓬莱山 輝夜よ、記憶戻るといいわね……、妹紅

 彼女が不格好ながらも自身に笑顔を向けたことが堪らなく嬉しく、心に熱を抱くあの感情。
 その気持ちに偽りはないのだと感じた時。妹紅は自身の気持ちに、既に気づいていたのだ。

藤原 妹紅は、蓬莱山 輝夜が好きだったんだと。

「そんな感情を抱くことができるのは、輝夜、貴方だけだった。記憶を無くし、たくさんのモノを見てきた中で、その感情を私にくれるのは輝夜、貴方だけだった。記憶を思い出すに連れ、あなたに対する別の感情も抱くようにもなった、貴方に対する言葉にしようもない増悪、理由もわからない理不尽な嗜虐欲、貴方が笑うのが嬉しいと思う一報、その笑みを涙で塗りつぶしてやりたいと思う醜悪心。そんなものが自分の中で、沸々と分けもわからずに浮かび上がるのが堪らなく嫌だった。どうして自分はこんな醜い感情を輝夜に向けたいと思うのか分からない、けれど、分からないからこそ分かることがあった。これもきっと私が抱いていた気持ちなんだと」

憎しみが一番強い感情で、私達を引き離さない唯一の形なんだと信じた。
けれど、憎しみは長い年月、それこそ、私が彼女との遊びに別の意味を見出したように、彼女も別の感情を見出していた。
彼女は――

「私は蓬莱山 輝夜が憎くて、殺してしまいたいほどに大嫌いで、けれど、ソレと同じくらいに私は貴方を……好きでいたいと思っている」
それが全ての答えだ。

「きっと記憶が戻れば……この想いは消えてしまうと思う。いや、私が……今の、この私というモノがなくなってしまう気がするのです。記憶が戻るに連れ、私は自分が何か分からなくなる、こんな話し方をしていたか、こんな風に輝夜と接していたか、きっとそのどれもが、違って、そのどれもが今の私じゃない『私』だと分かっているから……。この今の思いも、そしてこうして輝夜と接した自分がいなくなるのを感じるのです」
一つの体に、一つの人格。弱い生まれたての人格は、元ある人格へと奪われていく。
彼女は藤原 妹紅であり、藤原 妹紅ではない。

「いつか、そう遠くないウチに私は、『私』へと、元の私に戻るでしょう。けれど……できるだけ、それを伸ばしたい。貴方の事を素直に好きでいられる今の『私』で私はありたい……。そんな願いはダメと言うのですか?」
彼女は苦しんでいた。自身の記憶が蘇る事が。
それが私の望みでもある事を知りながら、それをできるだけ思い出さないよう。私の事が好きでいられる今の自分がいなくならない様に彼女は、記憶を押しとどめようとした。

一度でも私と彼女の根本に繋がる記憶を思い出したら最後、記憶を無くした藤原 妹紅であった時の自分が消えてしまうことが分かっていたから。
記憶は濁流となり、今の妹紅を飲み込むだろう、そこに彼女が抱いた想いは、また深い心の闇へと飲まれてしまう。そんな感情があったことを億尾にも出さず、 また私の知る、藤原 妹紅であろうとする。


彼女があの夜、泣いたのも。
私に笑みを浮かべたのも、全ては私の為だった。
全ては私の事を好きでいたいと思う純粋な気持ち。
永遠という長い旅路の途中で、変わり始めた小さな思いの変化。


受け入れるのは簡単だ。けれど私の知る妹紅が戻るのはこれが最後な気がする。
彼女が私を愛したいと思う一方、そこには以前の自分に対する嫉妬が生まれるのだから。
私が望む妹紅は、彼女であって『彼女』じゃない。それを知る彼女だから嫉妬せずには言られない。
嫉妬は強い感情だ。それを抱いたら最後、どちらが強い人格として残るか――。
そして、それを私は―――。
「三枚」
「……受け入れてくれるのですか?」
「勘違いしないで、私はあなたの思いを試すだけよ」
そう、それが普通に断った所で消える思いでない事は彼女も自覚している。なら私が彼女に取る答えはただ一つ。
そしてこの揺れる思いを決めるのも。

「いつもと同じやり方でいきましょう。妹紅」
互いの思いを交え、戦う、少女の遊戯を。
「弾幕ごっこよ」
その時、彼女が向けた表情が、
私のよく知る、あの妹紅と同じ笑みだと思ったのは間違いないはずだ。
彼女は、楽しそうに笑った。心の底から、今にも泣いてしまいそうな程に楽しげに、これほどの面白い事が世界のどこにあるのかと言うように。

彼女は笑った。
永遠を前に彼女は笑う。
「えぇ……ええ!輝夜、始めましょう―――私達の夜を、私達の戯言を、終わりなき夜を!」
そして私も笑う、
勝敗で悩むことなど、意味を成さないと私も笑う。
なぜなら、彼女が楽しそうだから、
それが私の見たかった藤原 妹紅の姿だと知っているから。
私達は、夜を歌い、踊り、舞う。
幻想の夜が始まりを告げる。


☆★


夜の蝶が舞い降りる。


★☆


夜の光が二人の影を作り出す。
月光に照らされ、竹の笹音だけが歓声の様に響き渡るそこは、少女達だけの舞踏会。
何度となく、何万となく、そしてこれからもきっと、 何億と積み重ねるであろう遊戯。
私が彼女の全てを奪い、彼女が私を初めて殺したあの日から、私達の運命は始まった。
光の軌跡で作られた弾幕は私達が生きた歴史。
その歴史の中、私達が永遠という命題に打ち出した答えは何か。
「難題―――蓬莱の玉の枝、夢色の郷」
私と妹紅を囲むソレは、七色の輝きを放ち緩やかな曲線を描きなら妹紅へと狙いを定める。
虹路が導き出す光に浮かぶのは遠い思い出、輝かしい栄光、そこにあったであろう別の未来。


彼女の藤原の名を貶めたのはいつの事、難題に果敢に挑み散った者、難題は誰にも解かれることなく今もなお答えを待ち。
父から子え、
その難題に答えを出せるのは今やただ一人。

「解答――火の鳥、鳳翼天翔」

その言葉を告げると同時、彼女の背から生み出されたのは不死の象徴。火を纏う鳥は、生命の誕生を表す様に、高らかに羽ばたき、そこから生み出された弾幕は私の難題へと果敢に挑む。
七色の輝きは、その光の原点である。彼女の色に染め上げられていく。
赤。
生命の始まり、
血の色。
真っ赤で熱い、熱を灯す光。心の光。
そして、

全てを燃やし尽くす、復讐に燃える火の色。
その身を焦がし、焼きつくす、恋の色。
彼女が出した答えはどちらか、この虹を塗りつぶす、色の意味は――

「それで勝ったつもりなのかしら?私の弾幕をアンタの答えが掻き消したくらいでいい気にならないでよ」
彼女は叫ぶ。
「それは輝夜もでしょう?負けを認めない強情ぶり、私の炎が貴方の全てを飲み込んでいく!雁字搦めに全てを奪ってあげる!その勝ち気な性格も、あなたの心も、全てを私が!」

―――奪われたモノを奪い返す復讐劇。
それが彼女の出した難題に対する答え。

奪われた過去を取り戻すのではなく、奪い返す。
思い出も、
憎しみも、
友情も、
愛も、
過去、
未来も、
そして今も、
生きることは戦いだ。
ただそこでノウノウと生きる事だけを選べば最後。 欲を満たそうとする下劣な奴に奪われる、略奪される。心を侵される。


「私はもう奪われない、ただ手に入れる、貪欲に、薄汚く、自分を捨て、過去を捨て、記憶を捨てて、私は、『私』という自分を手に入れる!貴方も手に入れる!」
「下劣で、品もない、貴族というだけの過去を持つ娘が何を言うのかしら?私を手に入れるなんておこがましい、その言葉だけで私の体が汚された気がして虫唾が走る」
不死の鳥がその翼で包み込む様に私の退路をなくしていく。蓬莱の枝の弾幕は既に、彼女の火玉を抑止する力もなくなっている。

それは彼女の思いが、私の出した難題に正解を見出したという現れか、
難題を見事なしとげた者には、その望みを叶えると、 かつての私は言った。
私の全てを捧げるという褒美、
かつて、世界の誰もが望んだソレを、
そして彼女はそれを打ち破った、今まさに、私を飲み込もうとする火の手は、その視界を覆い尽くそうとして―――。

私は彼女の者になるのか?
けれど、そんなモノは過去の事でしかないのだと胸中で叫ぶ。
その解に対する褒美は今は別のモノで。


「新難題―――金閣寺の一枚天井」


一つの難題を解き愉悦に浸かるその瞬間、私が褒美にするのは絶望と言うなの二つ文字。
与えるのは更なる難題。


希望が絶望に、
喜びが怒りに、
信頼を裏切りに、

そんな絶望や怒り、涙でぬれる表情を見て、真の愉悦に浸かるのはただ一人。
私が愉悦に浸かるその瞬間を見れるなんて、最高の褒美だと思わないかしら?
絶望のベールをその表情に塗りつける為のスペル。
先までのスペルが精巧さを求め、その一つ一つの弾に芸術を愛でる物であるならば、今度のソレはその真逆を行くものだろう。
ただの一枚板に見えるソレは、見た目とは裏腹に黄金の輝きを放つ神具。

その光から生まれる虹色の弾幕は先とは比べ物にならない数の光弾を作り出す。
圧倒的な物量、雨の様に降り注ぐ弾幕は、それだけで理不尽な暴力となる。
そして火は水に濡れれば燃え尽きるように、弾幕の雨と化したそのスペルを火の鳥を似す彼女に防ぐ術はない。

不死の鳥を撃ち落とさんとする矢は、彼女の血肉をも抉り取らんと狙いをすまし。
 ついにその不死鳥への着弾を確認する瞬間、
「ッ―――不滅 フェニックスの尾!」

撃ち落とされてなお蘇る鳥がいた。
いや、違う、それが彼女の象徴とでもあるように、彼女がスペルを宣言すると同時、彼女の不死鳥は息を吹き返したのだ。
不死である鳥は死を許されない。死を寄せ付けぬその輝き燃える姿は、絶望という闇でなお希望をもたらす光のようでもあった。
不死鳥からは、私のスペルに劣らない、火弾が放たれる。
互いの弾幕が均衡を成す。すでに質量が互いに限界をもたらす物量戦は、相殺しあう弾幕の隙間を縫う以外に避ける場所はなかった。


それは妹紅も同じであり、互いに詰将棋の様に一手、一手と、けれど確実に相手の首を噛み切ろうと近まりつつある。
相殺をすることで生まれる光、

しろ、
シロ、
白、
全てが白く染め上げられていく。
虹色の輝きを放つ弾も、
赤く燃え上がる彼女の炎も、
全ては白く染め上げられる。
全ては無へと、零へと回帰する。
永遠が目指すその先へ、そしてそれは、私だけが持つ唯一の光。
限りない零を目指す私だけの力。

須臾と言う名の零を操る程度の力。

一寸とも一瞬ともつかない、その零を集め、私は妹紅の姿を捉えようとする。
意識の外、脳裏で描くその場面、一瞬を渡るその先、
気づけば私の正面には彼女がいて、顔と顔が触れてしまうのではないかと思うほどの距離、彼女の息遣いが肌に伝わる、そして私を認識した時の彼女の表情はどうしようもなく驚いた顔。

全てが初々しいその姿、けれどそれは既に見た別の既視感。
「あらっこの程度で驚いていては後先短いんじゃないかしら妹紅、この前のアンタは現れると同時に私の顔を殴ってくれたけど、今度は私が殴ってあげればいいのかしら?だけど嫌よ私、そんな野蛮な事をして自分の手を痛めたくないもの」
だからね、と一言「一発、この距離で打って見てもいいかしら?多分死ぬほど痛いかも知れないけど、アナタなら我慢できるはずだから――ね?」
既に私が発動したスペルは解除され、相殺で私を守る弾幕はない、けれどそれで十分だった。守る必要はない、必要なのは確実な一撃。
決定的な勝利の一撃。
「詰み」


手の平から放った弾は、彼女の腹部へと着弾する。枯細い苦痛に悶た悲鳴が一瞬漏れる。
全てが一瞬のこと故に、弾自体にそれほどの力を込めることができなかったが、それでも彼女の意識を刈り取るには十分な威力だったと思う。
いつもであれば、そこに追撃の弾幕を放ちその生命を奪おうとするも、敢えて私はそれをしなかった。
それは本能的道徳か、特になんの考えもない無意識に近い判断。
それが私の認識する、藤原 妹紅でないと思えた事に対する一瞬のためらいか。
どうでもいい、そんなこと、けれどその判断が確実な私の勝利を無いものした。
改めるべきだった。


彼女が私の知る藤原 妹紅でないだけで、それが藤原 妹紅であるんだという事を。
彼女の意識が落ちるのは確実だった。それはこの世の決定事項で、今までの経験からもそうだ。そして彼女が最後まで諦めが悪いという経験も。
彼女が私の攻撃を受ける一瞬、その手が私の手を掴んだのを感じた。
それがどうしようもない、間違いだと認識した時、驚きに顔を歪ませたその中、瞳だけが笑っていた事に私は気づくべきだったんだ。


                                             ――――捕まえた。



「――フェニックス再誕」
彼女はそれだけの言葉を残し瞳を閉じ意識を手放す、そして先まで彼女が放ったスペルが残っている事に気づく。彼女のスペルは継続している。それが一瞬の意識を落とした中でも、発動するように消え行くスペルに更なるスペルを重ねた二段構え。
弾幕の厚みはまだ薄い、それは発動者の意思が今そこにないから、避けることはたやすいはずだった。けれどそれを避けるには私は全ての選択を見余っていた。
意識を失った彼女の手が、私の手を離すことは決してなかったんだから。
私がその場を離脱するには既に遅すぎたし、それを許すことのないほどの弾幕が私へと押し迫っていた。

この弾幕を受けることは明らかな敗北を意味していていた。
完全なる全方位、360度、一方向であるそれならばまだ耐える術があっただろう。
だが、身動きが限りなく取れなくなった今、スペルでそれを防ぐ以外の道しかなく、
そして私のスペルの中に、全方位を防ぐスペルは残されていない。
弾幕が一度でも着弾したが最後、認識許容外の暴力が私を襲う。
経験からも分かる、それが私の意識を刈り取るにも十分すぎる痛覚である事。
そして次に目覚めた時には、私の敗北が決しているのだ。

先に彼女が意識を落としたからなど言い訳に過ぎない、なぜなら今もなお、彼女の弾幕、彼女の象徴である不死鳥はその翼を羽ばたかし、力尽きるその最後まで堕ちる事はないのだから。
弾幕耐久。
彼女が私に仕掛けた最後の難題。
絶対の逃げ道を無くし、ただあるがままに、理不尽にソレを受け入れさせる彼女が出したラストスペル。

捨て身の覚悟、このスペルを発動したことにより、逃げ道を無くすと同時に妹紅自身の退路もなくなっていた。元より彼女はそんな退路などきっと眼中にも含めず、このスペルを発動したのだろう。

彼女は言った。この湧き上がる感情が絶対に私に理解されることなんてないと。
今の藤原 妹紅を受け入れられることは無いんだと、彼女は理解していた、そしてそれは言葉ではなく、思いとして、感情として、そしてこの弾幕に全てを込めた。

彼女が彼女であるために。
蓬莱山 輝夜である私に、自身の全てを賭けて知らしめるために。
逃げる場所もない、
進む場所もない、
ただ、この場所に佇み、
この思いに間違いなど無いことを伝えるためだけに、
彼女は思いの意思を放ち続ける。


「馬鹿ねぇ……」
それは自分に言った言葉か、それともこんな彼女に向けた言葉か。
「こんな勝ち方して、アンタは満足するの?」

その目は開かれることはない、
彼女は現実を見ない、
既に彼女の中で勝敗など意味がなかったのかもしれない、

思いの淵をただ伝えたくて、
勝利の美に酔いしれることもなく、
敗北の苦汁を知らしめるでもない、
彼女は夢を見るように、その瞼の裏側に描く幸せを望みながら安らかに目を閉じる。

「勝つだけだったらもっと他の手段もあったはずなのに、あえてこんな手段で私に勝とうとする……期待でもしてるのかしら?」
それはまるで、幾千の敵から倒れる姫を、救い出す英雄のように、
姫は私なのに―――気づけばこのスペルをくぐり抜ける事こそが、彼女を助ける道でもあった。

「…………」
私は目の前で安らかに眠る彼女を見る、全てが計算づくではない事は知っている。それでもこの自体が彼女に泳がされたものなんだと思うと失笑が漏れる。
あぁ――彼女は本当に、

「バカよ……」
 ――――アンタが望んでいたものは初めから手に入っていたんだから。

なぜ、記憶を無くす前の彼女を私が求めたのか、以前のアナタでなければダメだと私が言ったのか。
その真意を探れば、答えなど自ずと出ていた。
言葉は変わる、それを受け取る相手によって、それを伝える者にによって。
けれどその本質、想いは、変わらないまま。
私にとって藤原 妹紅が必要であるという事。
それが全ての答えなのだから。

それすらも気づけず、今もなお、その瞼の裏で夢を見る彼女はきっと幸せものだ。
私は彼女の、体を抱き寄せる、強く、ツヨク、決して離れないように、決して彼女がこの瞬間を心に留めるように強く――。

そして彼女が、今しばらくの夢を見るためにも、強く守り通す騎士であるために。
「さあ、どっちが最後まで立っていられるか根比べと行きましょうか、妹紅?」




夢が眠りから覚めるように、
明けない夜を照らす日である為に、
私は叫ぶ、最後の夜明けを。
目覚めの時を、













「永夜返し――夜明け」
































明けない夜を祈りながら、
               明けるその時を、私達は静かに待つんだ。




























































☆☆★☆★


全てが終わった後だと気づいたのは、ワタシがその両目を開け、緩やかに上る眩しい朝日の中、彼女の姿を捉える事ができたからだ。
「おはよう」
彼女はなんでもないことの様にワタシに言う。
「おはようございます」
「ずいぶんぐっすりと眠っていて羨ましいことね」
「……そう言いながら、膝枕をしてくれる輝夜に感謝しますよ」
彼女はそのことに少し照れたように顔を染め「ちっ……違っ、っこれはアンタがすぐに目覚めるように……」
「良い夢が……見れた気がしました」


ワタシはそれだけを言うと彼女は「なっ……何言って!――っ……」
けれどその言葉の意味を理解したのだろう、ソレ以上に紡がれる言葉はなく。
「……そう」
彼女はただそれだけを言い、ワタシの額をなでた。
柔らかく、温かい指先、指の腹がワタシの皮膚に触れるだけで気持ちいい。
微睡むようなその空間、ただ時間だけが流れる。
けれどそれも、一瞬の夢でしかないのをワタシは知っている。
彼女がワタシにくれた最後の優しさだというのも。

「痛かったのよ、アンタがあんなスペルを最後に使うもんだから、体中傷だらけで何回死ぬかと思ったか」
「それはすいませんでした」
「嫌よ、許さない、勝ったのは私なんだから、アンタが謝ることを私は認めないわ」
「許してははもらえないんですね……」
「ええ、謝っただけで許してもらえるなら、博霊の巫女なんて必要ないじゃない、アンタは負けたことを一生後悔しながら、私を憎むのよ」
敗北の苦汁を噛み締めながら、彼女はワタシに憎めという。
より彼女という存在にのめり込めという。

この心の淵に静まる、醜い感情、それを彼女は受け入れる。
嫌味にも聞こえる様な言葉なのに、けれどそれが可笑しく聞こえ笑えてしまうのはなぜか。
「何笑ってるのよ」
そしてそんなわたしの反応に彼女が怒るのが嬉しく思う。
「いいえ……」
どこか懐かしいと、ふと思う。
こんな風に、私達は笑うことがあったのかな、
いや――きっとあったのだろう。そう思う感情が、今のワタシにあるというのなら、そこにはきっと、彼女と過ごした長い時間の中で、ワタシ達はこうして冗談を言い合い、笑いあい、怒ったり、そいて、憎しみ合ったり、そして――。

「最後に一ついいですか?」
「何よ、最後なんて言っても、アンタにはこの先、まだ私を憎むって仕事が残っていているのよ」
「そうですね……これからも私は輝夜をずっと憎み続けるのでしょうね」
だからと私は一言付け加える。その為に、アナタを憎み続けるワタシでいるために。

「ワタシを殺してくれますか?」
「………そこまで分かってるのに、どうして?」
「輝夜が言ったじゃないですか」
自分が彼女と生きる永遠であるのだと知ったから。
このままでいても、自身の記憶全て蘇りワタシが『私』である本質を掴めることは実感した。
いや、もうそれは、すぐそこまで、脳裏の底でチリチリとその瞬間を待ちわびているのが分かる。


だからこそ、私が最後に彼女に望むのは、思い出でもなく、優しさでもない強い感情。
私が彼女に抱くべき本質、
「アナタを憎むキッカケが欲しいんですよ」
今のワタシにはアナタを憎む理由がない、ないけれど、アナタを愛しい思う理由はある。
それは、この短い時間の中だけで、十分に私は気づけたのだから。
「だからアナタに最後に望むのは、ワタシが私に戻るための裏切りなんです」
ワタシと言う存在を否定して欲しい。
ワタシという存在を裏切って欲しい。
アナタが望む、『私』だけを受け止めて。

「最後の最後まで後味の悪い嫌な事をさせるのね、私、別に人を殺すのが好きなわけじゃないのに」
「嘘、私と戦ってた時は殺そうとしながら笑ってたじゃないですか」
「あれはアンタだからよ、ソレ以外は嫌いよ」
「本当ですか?というよりも、それもそれで酷いような」
「私がアンタに酷くなかった時なんてないでしょ」
「それは……そうですね」
「でしょ」
苦笑が交じる。
彼女は酷い人間だ。
これまでも、これからも、そして今からも。
ワタシの全てを奪っていく。


「じゃあこれが最後だけど何か言い残す事は?私は姫だけど、アンタの為を思って悪役らしく振る舞ってあげようじゃない」
「痛くないようお願いしますね」
「さあ、それは保障できないは、私意地悪だもの」
「ええ、アナタは意地悪です」
最後の皮肉を込めて。
ワタシはゆっくりと再び瞼を閉じる。一面に広がるは広大な闇、けれど瞼の裏側に広がるのはある筈のない小さな星々。
彼女の膝の上で眠るように、祈りを願うように。
私の額に置かれた手の平の柔らかさに意識を向け、その手を持つ彼女の顔を思い描きながら、その最後を。彼女は言う。
「好きよ――――妹紅」
その言葉を最後にワタシの意識はそこで途絶えた。






★☆★☆★




                              ――Free Star
                                 最後の夜は聞かせて欲しい歌がある。




★☆★★☆


「でっ、なんで私はお前に膝枕されてるんだよ」
「あらっ、アンタがして欲しいって私に頭を垂れて、お願いをしたのを忘れたの?」
「取り敢えず殴っていいか?」
「殴っていいかと言われて、はい殴ってくださいなんていう人間がこの世にいると思う妹紅?いたらそれは変態よ、そんなことも分からないでアンタはそんな事を言ったのかしら、やはりあなたは変態ね」
「取り敢えずぶん殴る!」


日常が戻りを告げる。
長い長い永遠。
その短い一時であった須臾の時間は終わりを迎え、彼女は此処にいる。
全てが望んだモノ。
望まれるべくして得た世界。
彼女を否定して得た世界。

「おわっ!しかもやたら髪の毛滑らかだし、肌もスベスベするし、服も……なんでこんな小奇麗なんだ?私は寝てる間に一体何されたんだよっ!ってかいつ私は寝たんだ……そんな記憶無いぞ。……お前なんか私にしたろ」
「私がアンタ見たいな便所娘にそんな事をするとでも思うの?」
「ああっお前見たいな人の事を人と見ないような奴じゃ何をするかやりかねないな、人として一番大事な道徳をお前は習ってこなかったんだから」
「それは間違いよ妹紅。ちゃんとは私は道徳や倫理も習ってはいるし、何が大切で何がダメかもちゃんと理解している。その上で妹紅がダメな方だったという考えにすぎないは。後、妹紅は今、人って言ったけど、アンタもう人の範疇を超えているじゃない」
「私は人だ!」
「そう、妹紅は人なのね」
「当たり前だろ、ちゃんと人としての感情を持ち合わせている。倫理や道徳も持ち合わせてる、これを持たずして何を人じゃないと言えるんだ」
「じゃあ、妹紅が人として私に持ち合わせている感情は何?」


「お前を殺したいという復讐心、シンプルに分かりやすくていいだろ?」
「ええ……そうね。アンタがワタシに抱くものはそうでなくちゃね」
「なんかお前少し変わった?なんでそんな表情するんだよ」
「ばっ――!妹紅相手になんで私がそんな表情をしなくちゃいけないのよ!?」
「うわっ!バカッ、殴るな!」
「うるさい!」
「痛ッ――、てか、もう一つ今ふと思ったんだけどさ。お前とこんな風にしたことってあったっけ?」
「あるわけ無いでしょ、なんで私がアンタ相手に二度も膝枕なんて言う褒美を与えなければいけないのよ」
「いやっ、なんかそんな気がしてさ。そのなんていうかお前が泣きっ面かいて似たような構図を見たような気がしてさ」
「私がアンタの前で泣くとでも?」
「お前が私の名前を呼んで『ねぇ、冗談でしょ。私の名前呼んでよ!思い出してよ!』とかそんな事言ってた気がするんだが……」
「―――」


脳裏で浮かび上がる過去、それに該当する記憶。
彼女の前で泣いたのは一度だけと私は言った。
あの日の夜、記憶の戻らない妹紅に感情が極まったあの時。
ソレ以外に私が彼女の前で泣くことなんて無いと思っていたし、泣いた記憶なんてない。
けれど、それは私が彼女の前で泣くという行為を受け入れてこなかっただけで、それは常にソバにあったのでは――。

あの日の夜の彼女も言っていた、先に泣いたのは貴方の方だと――。

そして涙を受け入れず気づかないでいた私に、ソレを気づかせたのも全ては彼女で。
つまり、私はその時から既にどうしようもないくらいに妹紅の事を―――。

「なんだよ急に真面目な表情になりやがって……、って無言で殴るな!バカ!痛いだろ!っ意味がわかんねえよ!目が覚めたらいきなりお前がいるし、表情コロコロ変えるし、今日のお前っ本当に意味がわからないよ!」
「大嫌い!」
「はっ?」
「大嫌いよ!」
「んなの始めから知ってることだろ、何を言ってるんだ今更」
「大嫌い!」


そう――大嫌い。
そう、これが私達の日常だ。
彼女が私を憎み、私が彼女を嫌う、そんな毎日。
喧嘩して、
遊んで、
時に仲良くして、
私達は憎みあう。
励まし合う。
永遠の中を交わり合う。
そして、そんな無から生まれた感情をなんて呼ぶか。
日常の日々で生まれたソレを、
この朝焼けと共に、眩しく思えるその存在を、



私は息を吸う。
大きく、そして少しだけ吐き、
「妹紅」
「なんだよ」
「おはよう」
「……おはよう」
私はその眩しさに目を眩ませ。
そして小さく微笑んだ。









                                      Endless night,good morning
昔、自分の前で頭打った友人が、記憶喪失になった時、30分ほど演技と思った事がありました。
あーいうのって現実に起こるとあまりにも、その内容が非現実的すぎて、事の重大さになかなか気付けないものですね。(一週間後に記憶は回復しました、ただその一週間の事は覚えてないみたい)

久々の長い話。
雰囲気はいつもどおりで、言い様のないノスタルジックとか切ない感じが出ていればうれしいです。

https://twitter.com/select_answer
感想あったらもっと、うれしいです。(誤字脱字、批判でもいいのよ・・・・・・)

1さん、3さん
指摘いただいた、誤字の修正を行いました。教えていただきありがとうございます。
ニトラス生命保険
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コメント



0.200簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
蓬莱千➡︎蓬莱山
良いかぐもこでした
3.60名前が無い程度の能力削除
永琳の語尾の「わ」がすべて「は」になっているのが非常に読みにくく違和感がありました。いろいろお考えがあっての選択かと思いますが、〜だわ。のほうが読み手的には楽だと思います。
また誤字ですが、前半部の妹紅が紅妹と複数箇所反対になっていました。
及び→お呼び(御呼び)
4.70奇声を発する程度の能力削除
雰囲気は良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
輝夜が葛藤しながら、自分の気持ちに素直になっていくのが可愛かったです
7.100名無しの程度の能力削除
全員がそれぞれに悩みを抱えて生きている様が、妙にリアルで良かったです
9.90名前が無い程度の能力削除
妹紅のために必死な輝夜はいいものですね
10.90名前が無い程度の能力削除
一言、よかった!