Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その1 始まりは唐揚げで

2015/01/28 21:38:39
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 ぐにゅぐにゅっ、もっそ、もっそ、もっそ……

 本日のお昼は鶏の唐揚げ。
 昼から豪勢なことだが、この唐揚げ、ムネ肉をがっちり揚げてある。
 がっちりと。
 とにかく硬い、味が染みていない、しかも油切れがイマイチ。

(表面はベッチョベチョで、中身はパッサパサだぜ)

 魔理沙は眉根がギュッと寄ってしまった。
 そんな顔を見ていた霊夢が強い口調で言った。

「言いたいことがあるなら言いなさいよっ」

「火、入れ過ぎ、揚げ過ぎ……だな」

 博麗神社で昼食をお呼ばれされている魔理沙がぼそっと答えた。

「そーんなの分かってるわよ」

 そりゃ作った自分が一番分かっているだろう。
 だが、ここで開き直るのが博麗霊夢。

「なあ霊夢、途中で味見しなかったのかよ」

「してない。面倒だったから」

 この巫女の基本性質の一つがこの“面倒くさがり”だ。
 しかし、ここはひと手間かけて欲しかった。

「あのさ、ムネ肉を揚げる時はコツがいるらしいぜ?」

「つまり、おいしくないんでしょ?」

「んー」

「ハッキリ言いなさいよ」

「あー、あんまりおいしくない、ぜ」

「悪かったわね」

「どうしろってんだよ」

 相変わらず自分の非を素直には認めない。
 良く言えば自由奔放、悪く言えば傲岸不遜。
『私がルールブックよ!(幻想郷の)』を地でいっている素敵な巫女さん。

(私も気をつけなくちゃだな)

 魔理沙にとって大事な反面教師でもあった。

 ------------------------------

「少ないのよ」

 家主が昼食の片付けを終えた魔法使いに声をかけた。

「なんだ? 肉がか?」

「参拝客」

「それは……永遠の課題だな」

「真面目に聞いて」

「いまさらだぜ」

 天気の次に多い話題だった。

「山の方が多いくらいなのよ」

「早苗んとこか?」

「そう、あんな不便なところにあるのに」

「ここも大概不便だけどな」

 博麗神社は里から距離があるし、道中も安全とは言い切れない。

「魔理沙、ハッキリ言ってちょうだい。
 ウチとあっち、何が違うと思う?」

「ええー?」

(また、『ハッキリ言え』かよ……これってパワハラじゃないのか?)

「さあ言って」

「かまわないのか?」

「ええ」

「厳しいことも言うぜ?」

「バッチコイ」

「でも、怒るなよな? 約束だぜ?」

「どすこい、はっけよい」

 よし、それじゃ、と魔理沙は姿勢を正した。

「んーっ、まず、ここのご利益が分からん」

「ウチは【学業成就】【商売繁盛】【五穀豊穣】【家内安全】【厄除開運】【芸能上達】【武運長久】【家門隆昌】【喧嘩上等】【夜露死苦】――」

「まてまてまて! そんなにたくさん? 初めて聞いたぞ」

「ご利益ならなんでも御座れの万能神社だもん」

「そーいうのがダメっつってんだろうが」

「なんでー?」

「あのな、ここは何が祀ってあるか分からないだろ?
 だから、どんなご利益があるかも分からないだろ?」

「私もホントはよくわかんなーい、てへ」

 自分の頭を軽くこづく霊夢。
 魔理沙はそれを見て鼻にしわを寄せた。

「そーいうの、やめとけよ、な?
 らしくないから、な?」

「え~ ダメなの~? ぺろ」

 舌まで出してみせた。

「正直、不気味なんだよ」

「……あ゛? おま、なんつった?」

「うん、そうやってスゴんでる方がお前らしいぜ」

 ------------------------------

「あっちの神社は祀ってある本物の神様に会えて話もできる」

「『信仰しないと祟るぞ』って脅してるだけじゃない」

「さすがにそこまではしてないだろうけど……
 ご利益の内容も神様自身が言ってくれるくらいだからな。
 分かりやすいってわけだ」

「んー、そうかもね」

「こっちは胡散臭いグータラ巫女が一人いるだけ。
 この部分は勝負にならないぜ……おい! その手はなんだよ!
 約束が違うじゃないかっ」

「胡散臭いって何よっ」

(グータラは否定しないんだ)

「うわ! ちょっと待てったらっおい!
 でもっ 巫女さん比べなら霊夢の方がイケてると思うぜ!」

「ホント? 私が?」

「ああ ……ぷっ」

「今、笑った?」

「いや、笑ったんじゃないぜ。
 ホントにそう思うんだ、……ぷぷっ」

「くっ あんた、自分がちょっと可愛いからって――」

「え? 私、可愛いの?」

「ちっ しまった」

 飛びつくように反応してきた魔理沙に霊夢は苦虫を噛み潰した。

「なあ、私って可愛いのか? なあ? なあ?」

 擦り寄ってくる魔法使いを鬱陶しそうに押し返す。

「知らねーわよ」

「いや最近さー『魔理沙、可愛くなったね』って言われたことがあってさー」

 でへでへと照れ笑い。

「けっ」

「しかも二回だぜ?
 私、可愛くなったのかな? なあそうなのか? なあ?」

「うるっさいわね。
 んなこたぁ、どーでもいーのよ」

 昔馴染みのお転婆魔法使いが年々綺麗になっていることは霊夢も認めざるをえない。
 ウエーブのかかった金髪はさほど手入れをしていないくせに思わず触りたくなるような艶がある。
 元より整った造作、愛嬌のある表情が時折女っぽさを見せるようになってきた。
 その金色の瞳で正面から見つめられるとドキドキする。
 あと三年もしたらどれほどの美人になるのだろう。
 だが、それを本人が意識し始めているとなると途端にウザったくなる。

 翻って己が現状を確認してみる霊夢。
 誰かが『霊夢は純和風の美人に見えなくもないような気がしないでもない』とのたまった。
 これはどうやら褒められてはいないぞ、と歴戦の巫女の勘が告げた。

 この差は何だ。
 自分がずば抜けた美人だとは思わないが、この状況で『人は人、自分は自分、気にしない気にしない、私は私で頑張らなくっちゃー』などとギブアップポジティヴになれるはずもない。
 面白くないぞ。いや、ハッキリと不愉快だ。
 このキラキラ可愛いお転婆娘、どうにかして辱めてやりたい。

(力士の肉襦袢着せて里で買い物させようか、それとも鼻フック写真をバラ撒いてやろうかしら?)

 幻想郷の平和を守る正義の巫女様は、気の毒なほどネガティヴなことを考え始めた。

 ------------------------------

「……鼻フック、ヒヒヒヒ」

「おい! 聞かないならもう帰るぜ」

 魔理沙の怒鳴り声で正気に戻った片足暗黒面の巫女様。

「む、ちょっとボーっとしてたわ」

「まったく、お前の相談事だろうが」

「えーと、つまり、早苗より私の方がルックスは勝ってるってことなのよね?」

「霊夢」

「なに?」

「この話題は一旦、保留にしないか?」

「あんたが言い出したことでしょ?」

「検討している今般の問題の根幹部分には些細な影響しか付与しない微視的な項目にすぎないのではと愚考する次第だからだ」

「変な言い方ね。
 些細な影響? 私はそうは思わないけど?」

「でも保留にしよう、頼む」

「いつまで保留すんの?」

「……五年後の今日にもう一度話し合おうぜ」

「あんたがどう思ってんのかよーく分かったわよ」

「いや、デリケートな内容だから慎重に対応したいんだよ」

「なんでお世辞の一つも言えないのよっ」

「そこまで分かってんならもういいじゃないか」

「ぎいいーー!」

「落ち着け! 落ち着けって!」

「こうなったら早苗をイタブリ倒して再起不能にするしか無いわね」

「物騒なこと言うなよ」

「弱いヤツから死んでいく、大自然の摂理よ」

「共存共栄って知ってるか?」

「私と早苗、どっちをとるのよ」

「そーゆーこっちゃないだろ。
 私は泥棒はするがコロシはやらないぜ」

「ふん、ル●ン気取りってわけ?」

「れいむちゃあ~~ん 愛してるよお~~(山田康●っぽく)」

「や、やめてよ、気持ち悪い」

「……どっちをとるって? 霊夢はバカなことを聞くんだな。
 私がなんでいつもお前にまとわりついているのか。
 ……いい加減気づいてくれよ」

 ぐぐっと顔を近づけて囁く魔理沙。

「やだ、急に……冗談はよしてよ、ば、バカじゃないの?」

「そんなこと言って、顔、赤いぜ?」

「え! ウソ!? ホントに?」

 霊夢は慌てて両手を頬に当てた。

「ウソだピョーン! だはははははー!」

 仰け反りながら大笑い。

「ふへ? こ、このっ! このおーー!」

「うわっ! 冗談だろ!? やめろよ!」

「許せ――ん!」

「そ、そんなとこ触んなよ! やだっ! 揉むなって!」

「ふふん、少しは育ってるじゃないの。
 じゃあ、こっちはどうなのかしら~」

「やめろ―! だ、ダメだっ そこは禁猟区だろ!
 指っ!? 指入れんなぁーバカれいむ! マジやめろよー!
 ……おろ? あれは……」

 仰向けで陵辱(?)されていた魔理沙が視線を固定した。
 こちらに向かって飛んでくる何かを捉えたようだ。
 霊夢もつられて空を見上げる。

「ん? ……グッフッフフフ おいでなすったわねぇ~」

「おーい、まるっきり悪党ヅラだぜー」

 ------------------------------

「天気が良いので遊びに来ましたー」

 飛んで火に入る東風谷早苗だった。

「おーう」

 乱れた衣服を直しながら魔理沙が挨拶した。

「あら? お二人、何をなさっていたんですか?」

「な、何でもないぜ」

「あとちょっとだったのに」

 指をしゃぶりながら答える博麗の巫女。

「おいっ霊夢! なに舐めてんだっ」

「塩っぱくて、少し酸っぱいわね」

「バカヤローー!」

 魔理沙は真っ赤になって怒鳴った。

「えーと、ひょっとして、お邪魔しちゃいました?」

「いや、助かった、マジで」

「この体の疼きどーしてくれんのよ、ったく」

 腕を組み、あぐらをかいたまま憮然と答える霊夢。

「お二人とも、冗談ですよね?」

「冗談に決まってんだろ」

「ふふん、そうかもね」

 慌てて否定する魔法使いと薄笑いの極道巫女。

「分かりました、私、誰にも言いませんから」

「ぜーんぜん分かってないじゃないか」

「やはりお二人はそういう仲だったんですね」

「しゃべったら命ないからね」

「は、はひっ」

「だっかっらっ、違うってーー!」

------------------------------

「本日の差し入れは鶏の唐揚げでーす」

 風祝が元気一杯に風呂敷包みをさし上げて見せた。

「…………わーい」

「…………」

 一拍おいてから応えた魔理沙、霊夢は腕組みしたまま無言。

「鶏もも肉の唐揚げです! やっぱりもも肉ですよねー!
 温度に気を付けながら二度揚げしたんです!
 表面はサックサク、中身はジュウスィに仕上がりました!
 冷めても美味しいですからお夕飯にどうぞー!」

 やたらハイテンションな早苗。
 そして彫像のように固まっている霊夢&魔理沙。
 ここまで温度差のある風景も珍しい。

「あのー ……どうしたんですか?」

 さすがに空気がおかしいことに気づいた早苗がおずおずとたずねた。

「いや、別に。後でいただくぜ、ありがとな」

 魔理沙はなんとか場をつないだ。
 早苗は悪くない、まったく悪くない。

「あんた、夕飯も食べてく気?」

(お前がなにも言わないからフォローしてやったんだろうが)

 心の中で怒鳴りつけるが、今の霊夢は二人の善意を素直に受け取るつもりはない。
 したがって、魔理沙が睨んでも小揺るぎもしない。

「こっちは面白いネタはないぜ、なんかして遊ぶか?」

 少しは空気を読むようになった魔理沙が場を和ませようと問いかける。
 これも反面教師のおかげか。

「それでしたら私の相談にのっていただけませんか?」
 
「相談? 恋愛か? それなら【恋のまほうは魔理沙におまかせ】だぜ」

「ぷはっ」

 霊夢が吹き出した。

「おい、今のはなんだよ」

「あんたが恋愛って、うーんと、なんだっけ……」

「なんだよ」

「あ、そうそう、“ちゃんちゃらおかしい”これだわ」

「言ったな?」

「ええ、言ったわ……やんのかゴラァ?」

「ちょ、ちょっと、お二人とも! やめてくださいよっ」

 早苗はチンピラ二人の間に割って入った。

「へ、今日のところは見逃してやるぜ」

「ふん、命拾いしたわね」

 メンチの切り合いの後、小競り合いは終息した。

「もおー、今日のお二人はヘンですよ?」

「いろいろあってな」

「いつもこんなもんよ」

「ちなみに恋愛相談ではありません、そちらは間に合ってますから」

「へえ~、そりゃスゲーな~」

「早苗のくせに生意気ね」

「な、なんです!? その言い草は! 失礼ですよ!」

 こと恋愛に関して言えば、このデストロイドモンスター二体には絶対に遅れを取るはずがないと思っている早苗はトサカにきた、かなりきた。
 実年齢ではこの二人よりややお姉さんのはずなのだ。
 それなのに恋も知らない小娘たちに鼻先であしらわれ、不愉快極まりなかった。

「まあまあ、お前までトンガるなよ。
 で、相談ってなんだ?」

 ケーニッヒモンスターが、とりあえず、と宥めた。
 グッと堪えた早苗は、両手で自分のお尻を叩き始めた。

 パンッ パンッ パパンッパン

「なんだ? 何が始まるんだ?」

「セルフマゾかしら?」

 早苗流の【スイッチング・ウィンバック】だった。
 自分なりの儀式を行うことにより、心のスイッチを切り替える回復法だ。
 そしてもう一度深呼吸、すーーふぃーー。
 よし、通常モードだ。
 
「改めまして相談です」

「はーいはい、なんでも来いよ~」 

「変なコね」

 ぬぐぐっ せっかく心を静めたのにこの娘たちは。
 いえ、ここはカームダウン、カームダァウン。

「参拝客を増やす相談です」

 ------------------------------

「お前、祟られてんのか? いや、今すぐ祟られるぜ」

 この間の悪さ、なんて素敵なアビリティ。

 魔理沙は隣に座る【現人祟り神】をちらと見た。
 無言で腕組みは先ほどと変わらないが、体中から嫌な色の瘴気が湧き出している。
 一方の【正統派現人神】は大きめの地雷を踏んづけたとは思っていない。
 
「ほかの宗教の活動が活発になっているのはご存じですよね?
 信者獲得のために更なる努力しなければなりません!」

 お構いなしに自論をぶちまけている。

(っかしーなぁ? なんで私が何とかしなきゃならない雰囲気になってるんだ?)

 魔理沙はこの状況が納得いかない。
 騒動に首を突っ込むのが大好きで、なければ自分で騒動を起こす役なハズなのに。
 なのに今は極道巫女と天然巫女に挟まれ【物分りの良い常識人】の役が回ってきてしまっている。

(あ~あ、霊夢は破裂寸前じゃないかよ、まいったな……)

 この場合、早苗を黙らせるべきか、霊夢を宥めるべきか。
 早苗に文句を言うのは気の毒に思える。
 だって何も悪くないんだもの。
 ならばこちらの身勝手爆竹巫女を抑えるのが人として正しい道なハズだ。
 まったくもって、気が進まないが。

(はあ~、仕方ないのかよお)

 魔理沙は覚悟を決めて霊夢のお腹に抱きついた。

「な、なによ!? 魔理沙、ちょっとぉ? やめなさいよ」
 
「霊夢~ 好きだぜ~ れいむぅ~」

 霊夢の腹に顔をすり付けゴロゴロ。
 あぐらをかいているところに胴を抱え込まれ、霊夢は身動きが出来ない。

「なによ急に、くすぐったいじゃない」

 そう言いながらも魔理沙の髪の毛を弄んでいる。

「え、やっぱりお二人は……」

 早苗は目を輝かせている。
 魔理沙が捨て身で気を逸らせてくれたことに気づいていない。

 ------------------------------

「だいたい、あんな山の上までえっちらおっちら登ってくのは大変でしょうが」

 いきなり抱きついてきた魔理沙の柔らかい髪を存分に堪能した霊夢は機嫌がなおっていた。

「分社があっても本社に人が来ないんじゃ良くはないぜ」

 荒ぶる【現人祟り神】にその身を捧げた魔法使いの少女は今は普通に座っている。

「本社までの架空索道を設置する予定です」

「なにそれ?」

「んーと、ロープウエイですね」

 谷や山の急斜面に支柱を立てて、空中に鋼製ロープなどを張り、これに運搬器をつるして旅客・貨物を輸送する装置だ。
 早苗は手振り身振りを交えて二人に説明した。

「大掛かりなものね」

「いつ頃できるんだ?」

「天狗たちとの交渉が済みましたので、あとは動力問題だけですね」

「それが一番面倒なような気がするけどね」

「それに天気の悪い日は大変そうだぜ」

「はい、雨の日の参拝はポイント三倍です」

「その“ポイント”ってのはなに?」

「参拝ごとにカードにスタンプをひとつ押します。三十個たまったらプレゼントがあるんです」

「プレゼント?」

「なんと、私、東風谷早苗のブロマイドです」

 霊夢と魔理沙は数秒間見つめあった。
 その後、それぞれ片手を額に当てたまま俯いてしまった。

------------------------------

「単純だけど名物があると人は集まるぜ」

「名物って、例えば食べ物かしら」

「お二人とも、話題が飛んじゃってますよ?」

「神社やお寺で名物料理はよく聞くわね」

「だろ? はじめはそれ目当てでも良いんじゃないか」

「お二人とも、プレゼントのことは?」

「お蕎麦や湯豆腐、味噌田楽なんかは聞いたことがあるしね」

「それもいいけど、食事は大変だぜ? お前、切り盛りできるのか?」

「お二人とも、ブロマイドは? 聞いてます?」

「魔理沙と二人だけじゃ無理そうね」

「おい、私、頭数に入ってんのかよ?」

「お二人とも…………もういいです」

 守矢神社の風祝は肩を落として告げた。

「客用の食事は宴会の肴を作るのとは訳が違うんだぜ、なあ早苗」

「じゃあなんで名物の話なんかすんのよ、ねえ早苗」

 二人は一転して早苗に話題を振り始めた。
 早苗のブロマイドなら欲しがる人間がたくさんいるかも知れない。
 だが、二人共この話題で盛り上がりたくはなかったのだ。

「……やっぱり食事は大変だと思います」

「手軽に食べられてお持ち帰りのお土産にもなる方がいいぜ」

「あっ つまりお菓子ですね?」

「そう、団子、饅頭、煎餅なんかどうだ?」

「なーるほどね」

------------------------------

「串に刺さってる三色団子ってあるじゃないか」

「ピンク、白、緑のやつ?」

「見た目が綺麗ですよね。
 ピンクが桜で春、白が雪って説もありまして冬、緑が草木の緑で夏なんですよねー」

「へー、あれ、秋が無いぜ?」

「ふふん、そこがミソなんです。
“秋無い”を“飽きない”にかけてるわけです」

 早苗はえっへん、ふんむと胸を張った。 

「ふーん、言葉遊びなのか。秋が無いのかー」

「そんなの知ってるわよ、あそうだ」

 対照的な反応の二人。
 すると霊夢が思い出したように続けて言った。

「その秋が入った四色団子ってあるわよ。
 あの御方……ナズーリンが試作品を持ってきてくれたの。
 食べてみる?」

 奥に一旦引っ込んだ霊夢が団子を乗せた皿を持って来た。
 いつもの三色に黄色がかったダンゴが最後に刺さっていた。
 秋が大好きな門前山彦妖怪のおねだりの結果、生まれたらしい。

「命蓮寺のか?」

「そうよ」

「四色って縁起とかどうなんだ?」

「あの陽気なお寺のことだからそこらへんは気にせずカッ飛ばしちゃうんじゃない?」

「あのお寺らしいですね」

「この二本、二人で食べていいわよ。私はもう食べたから」

「珍しく太っ腹だな、霊夢」

「もしかして美味しくないとか?」

「あんたたちねえ……いいから食べてみなさいよ」

 ナズーリンからは試食用として八本もらっていたことは黙っておいた。

 ピンクは苺の果汁で染めてある。
 白はノーマルな白砂糖。
 緑はヨモギ味。
 そして黄色はサツマイモ風味だった。

「旨いなー、どれも品のいい甘さだぜ」

「おーいしーです!」

「でしょー? それぞれ違った甘味でしょ?」

 霊夢が胸を張る。

「なんでお前がエラそうにしてんだよ」

「もう、無いんですか?」

「これだけね、なにせ試作品だから」

 六本は食べっちゃったから。

「こりゃ売れるぜ、名物になるだろうな」

「私もこれなら毎日でもOKです」

「んじゃ、私も含めて三人が“合格”って伝えとくわ」

「いつから売るのかな?」

「楽しみですね」

------------------------------

「……おい、お前たち、ヨソの名物で盛り上がってどうすんだよ」

 一頻り盛り上がったあと、魔理沙が呟いた。

「そうだったわね」

「それどころじゃありませんでした」

 二人の巫女は素直に反省した。

「お前たち、これ以上のダンゴ、あてがあるのか?」

「無いわね」

「命蓮寺はレベル高いですよね」

「あそこのどら焼きは旨いもんなー」

「あれは“とらまる焼き”って言うんですよ」

「行事にしか出さないから稀少性があるんだって言ってたわね」

「蕎麦や稲荷寿司、それに普通のご飯も美味しいぜ」

「あんた、食べたことあんの?」

「ん、まあ、用事があったとき、たまーにな」

 週に一、二回、魔術の訓練に行っていることは霊夢には内緒だ。
 昼飯、夕飯に呼ばれることも多い。
 そしてそれは和食党の魔理沙のど真ん中だった。

「そうめん、美味しかったですよ」

「早苗も?」

 霊夢が睨みつける。早苗まで食べたことがあるなんて。

「行事の時にちょこっと、あははは」

「あんた、商売敵ってこと分かってんの?」 

「じゃあ霊夢はナズーリンの差し入れ断れよな」

「そ、それとこれとは別でしょ? あの御方は参拝客なんだから」

 たまに訪れるナズーリンは完璧な参拝者の演技をする。
 そして賽銭も弾むし、食料の差し入れもしてくれる。

「まてまてまて、まーた話が逸れたぜ」

「ふん、魔理沙が悪いんじゃない」

「ここはハッキリ言うぞ。お前たちと命蓮寺ではこと食事に関しては勝負にならない。凝ったものはムリだぜ」

「じゃあどうすんのよ」

「団子に限ったことじゃあるまい。他、なんでもいいんだぜ」

「寺社の名物お菓子ねえ……」

「そう言えば長命寺の桜餅は平均して一日に千個売れたという記述もあります」

「せ、千個? 千個って言ったら……スゴいわ」

 頭でソロバンを弾いた霊夢がビックリしている。

「今宮神社のあぶり餅、諏訪大社の大社せんべいも有名ですね。
 あ、ウチ、大社せんべいやろうかな?」

「良いんじゃないか? 作り置きできるし土産にも持って来いだ」

「私んとこはどうしようかなあ」

 なかなかコレと言った妙案が浮かんでこない霊夢。

------------------------------

「おやおや、お揃いだね」

 いつの間にやって来たのか声をかけたのはナズーリンだった。

「あらいらっしゃい、何のご用?」

 霊夢の愛想が心なしか良い。
 ナズーリンとウインクし合っている。
 今日は【あの御方】【麗しの巫女様】ごっこはお休みらしい。

「それほど急ぎの要件ではないんだけどね。
 おや? この匂い……お昼は唐揚げだったね?」

「おまっ! その話題はっ」

 魔理沙は慌てる。ようやく沈静化したのに。

「ええ、でも、失敗しちゃったわ。ムネ肉なのに揚げすぎちゃったの」

 恥ずかしそうに答える霊夢。

(はあああ? なんで素直なんだよ)

「唐揚げは寺でもやるよ、もも肉とムネ肉どちらも使う」

「そうなの?」

「頭数が多いからね。ムネ肉の方が安いものね」

「確かに安いですけど唐揚げには向かないんじゃないですか?」

 日頃からナズーリンに良い印象を持っていない早苗が強い口調で聞く。
 
「そう、普通に揚げると水分が飛んでパサつくね」

 霊夢の顔がひきつったのを魔理沙は見逃さなかった。

「しかし、ひと手間でもも肉と同等以上になるよ」

「やっぱ、かなりコツがいるんだろ?」

 霊夢を警戒しつつ魔理沙が聞いた。

「簡単だよ、コツってほどでもない。
 ムネ肉は竹串などで刺しておくんだ。これでもかってくらいね。
 そして三十分ほどきれいな水に漬けておく。 
 あとはいつもと同じように調理すればいい
 肉の間に水が入って揚げてもパサつかなくなる」

「へー、今度やってみよう」

(この霊夢、別人みたいだぜ)

 魔理沙は訝しむ。

「霊夢さん、なんでネズミ……ナズーリン、さんの言うことは素直に聞くんですか?」

 早苗の疑問は魔理沙も同様だった。

「それは、その……」

「普段からお賽銭や付け届けを欠かさないからかな」

 口ごもる霊夢の代わりにナズーリンがしゃあしゃあと答えた。

「それって賄賂じゃないですか!」

「その通りだね、私を逮捕するかい? うん?」

 もちろんそんな権限があるはずもない。
 分かっていて言っているネズミ妖怪の反応がいちいち癪に触る早苗だった。

「で、今日は何の用だったんだ?」

 魔理沙が本日何度目かの場の仕切りを行った。

「命蓮寺四季団子の感想を聞きにね。昨日は急いでいたものだから」

「ここにいる三人、全員、合格ってことで」

「旨かったぜ」

「そうですね、お団子に罪はありませんから」

「そうかい、それは良かった」

 ナズーリンは笑顔満面。
 ことが主人、寅丸星に絡むので邪気のない良い顔だった。
 この性悪ネズミ、こんな顔もするのかと、魔理沙も早苗も驚いた。

------------------------------

「ところで何やら深刻な話だったようだけど?」

 いつもの小生意気な表情に戻ったナズーリンが首を突っ込んできた。

「いや、これはお前には関係がないぜ」

「そうです、ご用が済んだらお引き取りください」

 さすがに話すわけにもいくまい。

「あのね、この団子みたいに神社の名物に何が良いかなって話してたのよ」

「おまっ」

「なんで喋っちゃうんですか」

 どにもこの巫女はナズーリンに対しガードが緩い、緩すぎる。

「ふむ、名物か。凝ったものは人手がないと難しいよ?」

「それはさっき確認したぜ」

 こうなったら内緒もヘチマもない。

「名物は寺社と縁のある物が受け入れやすいね」

「ここの名物はグータラ巫女だけだぜ ほぐっ!」

 魔理沙の腹にスナップの効いた裏拳が炸裂していた。

「ど、どうしたんですか? 大丈夫ですか」

「魔理沙ー、お腹痛いの? 少し横になる?」

 うずくまる魔理沙を介抱するフリをして『よけーなこと言うんじゃねーわよ』とドスを効かせた。

「梅だね」

 少女たちのドタバタを一顧だにせずナズーリンが呟いた。

「梅? でもあれは」

 三人とも反応したが、声に出したのは霊夢だった。

「そう、博麗の梅干しは絶品だが売るほどの量は確保できないよね」

 敷地内には御神木にしている梅の木の他に何本か有り、毎年梅干や梅酒を仕込んでいる。
 この梅干、とても味が良いので関係者に喜ばれるが、確かに販売できる量ではない。

「そこで漬け込んだ時にできる汁、梅酢を使ってはいかがだろう。
 結構薄めることができるけど、やりすぎると信用を失うから注意だね。
 夏場は梅シロップでジュースも良いだろうし、甘酸っぱい味の団子も面白いかも。
 外郎(ういろう)は比較的作りやすいから【お御籤付きの博麗梅外郎】なんてどうだろう」

 賢将の口からスラスラと出てくる数々の案に三人は呆然としたり感心したりと忙しかった。

「お前、そんなにアイディア出しちゃっていいのかよ」

 魔理沙は眉をひそめる。

「良くはないだろうね、一応商売敵だし」

「じゃあ、なんで?」

「だって、幻想郷一の美人、博麗霊夢どのの頼みとあっては断れないさ」

 片目を閉じてニっと笑った。
 その気障な笑みは霊夢のハートを直撃した。

(はーーん、これよ、こう言うのが聞きたかったのよお!) 

 しばし陶然となる。
 普段からのお賽銭や付け届け、そして芝居がかった美辞麗句。
 ナズーリンがやることなすことは霊夢にとって基本、受け入れOKなのだ。
 多少気障な方がツボに入りやすいのかも知れない。

「げえーー」

「薄気味悪いですね……」

 一方、魔理沙と早苗は真逆の反応だった。

「霊夢、お前騙されてるぜ」

「そうですよ、しっかりしてください」

 だが。

「ありがとうございますぅ」

 霊夢は聞いちゃいなかった。



 日に数組の参拝者が博麗神社に来るようになった。

 大抵は調子に乗って大失敗に終わる霊夢の【事業】だが、この梅酢に関してはナズーリン、いや【あの御方】の『ケチるな(材料を)欲張るな(売上を)』の厳命を素直に守り、堅実に勤めたようだ。
 結果、知名度とアガリが少しだけ増え、ややめでたしと言ったところ。
 しかし、何かに付けこき使われた魔理沙は『めでたくなんかないぜ!』とプリプリしていたそうだ。



          閑な少女たちの話    了
紅川です。
主人公たちのことを殆ど書いてないなーと思い当たり、あれこれ考えるうちにバカ話が頭から離れなくなってしましましたので先に書かせていただきました。
本編が苦戦気味なんですが、頑張ります。

ちなみに命蓮寺団子の作成秘話は次回の例大祭の同人に載せる予定です。(あざとすぎる宣伝でございます)
紅川寅丸
http://benikawatoramaru.web.fc2.com
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0.980簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
なんというか…面白くないわけでは決して無いんですけど、山もなくオチも弱い気がします。
流れが唐突で意味がないのは正しく女性の井戸端会議っぽいですが、ただそれを文書にしても作品としてはあまり楽しめないかもしれません。
6.80名前が無い程度の能力削除
確かに評価は分かれるそうかな。
でも私はこういう起伏が小さくふわふわとしたお話は好きですね、話そのものより話にふけるキャラクターを楽しむ感じで。
これは二次創作ならではの楽しみ方かと。

霊夢や魔理沙はサザエさん時空を突破すれば美人になるでしょうねぇ。
魔理沙はこのままだと体格的に"可愛い"を抜け出せないでしょうが、霊夢は身嗜みに気を遣うようになれば"綺麗"になるでしょうね。
7.90名前が無い程度の能力削除
たわいないような感じの二人のやりとりが面白い
11.60名前が無い程度の能力削除
「塩っぱくて、少し酸っぱいわね」
もっと詳しくと思うけどそれ以上はパチュリーさんが出てきそう
13.70奇声を発する程度の能力削除
もうちょっと欲しい感じがありましたが面白かったです
15.100名前が無い程度の能力削除
面白かったですよ
16.70絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。
19.90大根屋削除
②から先に読みましたけど、悪くないと思いましたよ?
会話や地の文に開けられた行間で色々と想像できて、個人的にはとても楽しかったです。
21.90名前が無い程度の能力削除
評価分かれそうだけど、私はこれはアリだと思う。
やばいな、唐揚げ食いたくなってきたよ。
26.無評価紅川寅丸削除
3番様:
 ご指摘ありがとうございます。
6番様:
 ありがとうございます。
 確かに幻想郷はサザエさん時空ですね。
 魔理沙は「将来が楽しみ」霊夢は「ホントは美人なのに……」仰るとおりの設定で書いております。
7番様:
 ありがとうございます。
11番様:
 どうしてもエッチネタを入れたくなる性分です。
 ウチのパチュリーさんは魔理沙争奪戦からおりてしまい、今では某鴉天狗とイチャイチャしてますw
奇声様:
 いつもありがとうございます。
 もうちょっと頑張ります。
15番様:
 ありがとうございます。
絶望を司る様:
 ありがとうございます。
大根屋様:
 そうでしたか、ありがとうございます。
 もうちょっと続けてみます。
21番様:
 ごっつあんです。ではアリの方向で進めますw
 個人的に唐揚げにレモンは「無いな」派です。
27.90名前が無い程度の能力削除
ガールズトーク、ガールズトークです。
32.無評価紅川寅丸削除
27番様:
 ありがとうございます。でも、これってガールズトークなんでしょうかね……?