Coolier - 新生・東方創想話

忘れ去られた場所の記憶を見つめて

2015/01/19 01:31:40
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注意:東方成分少なめ(※当社比半分以下)


この守矢神社の境内には、春夏秋冬季節を選ばず落ち葉や砂がたまっていく。
その掃除を休憩している最中、せっかく集めた落ち葉を吹き飛ばしながら魔理沙さんは現れた。

「おう、休憩中か。丁度良かった!」
「その休憩はたった今お釈迦になりました」
「きれいさっぱりなくなったじゃないか。終わったも同然だぜ」

なんというズボラな考えだろう。あきれを通り越してため息が出る。
湯のみを置いて、再び箒を手にして立ち上がる。

「で、どういうご用なんですか?」
「そうそう、この後どうせ暇だろ?ちょっと付き合ってもらいたい」
「どうせってなんですか、この通り掃除が……」
「まぁまぁ」

まともに取り合おうとしないあたり、彼女の自由さがわかる。
霊夢さんが彼女を適当にあしらっている理由が分かった気がした。

「ちょっと前、変な地震があったろ?」
「地震……ああ、ちょっとしたのがありましたね」

地震と言ってもだいたい震度1か2程度のもので、どこも被害がなかったようなものだった。
天界からの使いが無関係を主張していたことで記憶に新しい。
そして魔理沙さんが顔を一段と近づけて囁く。

「天狗から聞いた話なんだが、どうやら地震の原因は外からの転移らしい」
「外から?」
「なんでも、地中に現れたとか」

地中とはいえ、現れただけで地鳴りを起こすほどのもの……かなりの大きさのものようですが。

「それで、今からそこに潜入してみようって話になってな」
「私が行く必要あるんですか?」
「話によれば、結構広い空間でいろんな道具が一斉にまるまる転移しているらしいんだ」

少しばかり話が見えてきた。

「そこで同じ外の世界出身の私に解説を求めたい、と?」
「ご名答!」

器用にウィンクと指ならしをする魔理沙さん。

「それなら別に私じゃなくても、霖之助さんとか紫さんとかがいるじゃないですか」
「あの二人に頼むだって?冗談じゃない。瞬く間に捕まるか説教タイムだ」

そこで私にお鉢が回ってきたというわけですか。
まぁあの店主さんは面倒事を避けるタイプのようですし、紫さんはそういう事を許さない方でしょう。

「霊夢さんはどうするんです?外から入ってくるなんて異変の前兆かもしれませんよ?」
「あいつか?特に事が大きくならないうちは動かないだろうさ」

お茶を飲みつつのんびりしている霊夢さんの姿が脳裏に浮かぶ。
どうしてこう幻想郷の人々というのは緊張感というのを持っていないのだろうか。

「それに、異変になったらその時は私が解決してやるさ!」

胸を張る魔理沙さんに押し負け、私はしぶしぶ誘いを承諾したのだった。





「おっ、来たか」
「まってましたよー」
「あやや、本当にあなたが来るとは予想外でした」

山奥の茂みに隠れるように集まっていたのは個性的なメンバー。
魔理沙さんのほか、射命丸文さんと河城にとりさんであった。
なるほど、好奇心で動きそうな面々である。

「それでは揃ったことですし、さっそく行きましょうか」

文さんがカメラを構えて立ち上がる。

その視線の先には、何やら洞窟のような穴ぽこが開いている。
だがその周りには数人の白狼天狗がすでに周囲を警戒しているようだ。

「これ、入ったらマズイタイプなんじゃないんですか?」
「おいおい今さら怖気づくなって」

心配知る私をよそに魔理沙さんは余裕の表情を見せる。

「大丈夫、策はあるんだ。にとり」
「うん、みんなこれを着て」

大きな背中のバッグから取り出したのは、フードつきの大きなジャケットのようなもの。

「私の特製光学迷彩ジャケット!これを着れば誰にも気づかれない!」
「……ほんとに消えた!」

そそくさと着た魔理沙さんと文さんが手元のボタンを押すと、本当にその姿が消えてしまった。
河童は外の技術を使えるとはいっても、ここまでとは思ってなかった。少し感心する。
しかしジャケットタイプなので、いつもの服特有の袖が突っかかってき辛い。

「なるほど、これであの見張りを欺くわけですか」
「しかしまだ安心はできません。相手にはあの椛がいます」

指さす方向に、見知った顔の白狼天狗がいた。
犬走椛さん。文さんとは犬猿の仲として知られているが……。

「彼は千里眼を持っていますが、それ以上に種族としての本能である嗅覚にも秀ています」
「一応臭わないように処理はしたけど、椛に効くかなぁ」
「気づかれる前にあの中に入れば問題ないさ」

こそこそと話し合う三人組。どことなく楽しそうである。
いや、たぶん楽しんでいるのだろう、普通に。

「さぁお前ら、準備はいいか?」
「ええ、いつでも」
「どんとこーい!」





互いに無意識に歩幅を調節しながら、こそこそと警備の合間を縫って入り込む。
警告されたせいか、椛さんの顔が気になる。

「……む」

スンスンと犬が(椛さんは狼らしいが)臭いを嗅ぐ音がした。
ばれたか、と冷や汗が流れる。

「ん、もみっちどうした?」
「いえ、どこからかあのパパラッチ天狗の臭いがした気がして」

周りをきょろきょろ見渡す警備一同。
幸い足元を見てはくれず、かつ透明な私たちには気付かなかったようだ。

「見える範囲にはいないよね」
「でもこの匂いは……」
「毎回射命丸様の事気にし過ぎだよぉ」

周りになだめられ、警戒を解く警備一同。

ぐいぐいと何もない空間から引っ張られる。
あれよあれよと急かされながら、ぱっくりと地面に開いた空間へと引き込まれていった。





「あやや、ちょっと冷やりとしましたが、このあたりまでくれば大丈夫でしょう」

結構な急斜面をゆっくり奥へ進み、ひと段落したところで透明スーツを脱ぐ。
明かりも入ってこない、暗いトンネルのような場所。

「ここが目的地ですか」
「おいおい、目的はここ全部を巡ることだぜ」

ぽっぽっぽ、と明かりがともり始める。
魔理沙さんが魔法瓶を光らせて、にとりさんと文さんが懐中電灯を手にしていた。
私も、適当に持ち出した手回し発電式のライトをつける。

「わ!なんだそれ!」

興味津々なにとりさんを置いていきつつ、私は前の二人に続いた。
だがそれもつかの間、大きな扉が目の前に立ちはだかる。

「ふんっ!」

鈍い音が響き、魔理沙さんが足を抑える。
蹴りを入れるもビクともしないその扉は、ただの扉ではなく厳重に装甲がされたような扉だ。

「こうなったらコイツで……」
「ここでマスパはダメですって!」

取り出した八卦炉を慌てて抑えた。
こんな狭い一本道であのエネルギーを出されたら、土づくりの部分が崩落するかもしれない。
というか破れなかったら蒸し焼きだ。妖怪は知らないけど。

「わかったかわった。こうすりゃいいんだろ」

ガコン!

魔理沙さんが扉に手を当ててブツブツとつぶやくと、重い音が響いた。
ゆっくりと扉が自重で開き始めた。どうやら今の音はロックが外れた音らしい。

「そんな魔法使えるなら最初から使いましょうよ」
「どうせ使うならでっかく行きたいだろ」

単純な思考回路というか、真っ直ぐすぎるというか……。

「まぁまぁとりえず先に行きましょうよ」
「置いて行っちゃうぞー」





幻想郷に入るということは、それは外の世界で忘れ去られたモノということらしい。

奥に進んでも相変わらず広いとは言えない、トンネル状の道だった。
ただ景色は変わっていて、先のような土掘りでなく屋内のように舗装がされていて、両脇に道やドアがある。
足音が鈍いながらも高く響いている。床も壁も銀色で、ステンレスらしい材質。サビはあまりなく、代わりに埃が積もっている。

「ほ、埃が……」
「風おこしたらいい具合に煙幕ができそうですね」

やめてくださいそこの鴉天狗。

「すごい……すごい!動かないけど!!」

にとりさんがすごく興奮している。
壊れているのにもかかわらずLEDらしい電球や電子ロック用のキーを弄っている。

「この部屋はなんでしょうね」

文さんが覗きこんだのはドアが取れていた部屋。
見た感じ事務室のようで、たくさんの机と朽ちた紙が散乱している。

「むぅ、文字が掠れて全く読めません」
「というか外来語だね、全部」

文さんとにとりさんがお手上げで降参した。
スペカにカタカナ語を多く使っているくせに、なぜだか大半の住人は英語が読めないのが不思議。
魔導書などを読む魔理沙さんならいけるんじゃないかと内心ワクワクしていたが

「私の知っている英語と全然違ぁう!!」

とうなだれていた。
しかし「パチュリーに見せてやろう」とバッグに詰めるへこたれなさには感服する。
転んでもただでは起きないのを見習いたいものだ。

「魔理沙魔理沙!これも持って帰ろう!」
「お、コンピュータとか言う奴か。これくらいなら持って帰れそうだ」
「それ、画面だけですから動きませんよ」
「「へ?」」

意気揚々とにとりさんが持ち出したのはパソコン―――のモニター。
ハードディスクが入っている外付けのアレやキーボードは置いたままだ。
教えてあげたら、今度は二人そろってうなだれた。

「こりゃ流石に難しい。帰りに手が空いていたら引きずっていこう」
「うん!」

そしてこの立ち直りの速さである。
まぁこの環境じゃ動く状態にあるとはとても思えないんですけどね。





「でも、ここは何の建物なんだろうね」

部屋を出て、再び通路を進む。
にとりさんが興味津々にきょろきょろと見渡して呟いた。

「早苗さん、何か分かりませんか?」
「何かの組織施設には間違いないでしょうけど、これだけじゃあ何とも言えないですね……」

まぁ個人の施設ではないかと。ましてや地下施設なんてちょっとやそっとじゃできるものじゃないだろうし。

「案内板らしい標識もボロボロだしなぁ」

壁に張り付けてあった案内図は印刷が擦れているどころか一部が腐食して崩れている。

「進んでいけば、そのうち分かるさ」

魔理沙さんが箒を担いでそのまま進んでいく。
同じように進む文さんがフラッシュを使って写真を取っていて、時折通路全体を明るくする。。

「いい写真撮れますか?」
「ええ、ま、それなりには」

写真はよくわからないけど、そういうならそうなんだろう。

「……?」

フラッシュに照らされた通路の脇に何かの棚とプレートが見えた気がした。
軽く扉を動かしてみると、簡単に開いた。

銃が、中に入っていた。

ライトでプレートを照らすと、相変わらず掠れている文字が浮かび上がる。

「Weapon Cabinet……」

多分ライフルとかそういう類のかも。拳銃とかよりは長い。
いくつかは持ち去られているが、荒らされた形跡というものはない。

「『92番、壊れている』?」

いくつかの銃にタグのようなものがついていて、小さくメモ書きがされていた。
やはりよく使っていた人がいたのだろうか。

「早苗さん?置いてかれちゃいますよー」
「あ、はい!」

どんどん前に進む二人の後ろをにとりさんが付いて行って、その後ろを私が遅れて追っていた。





「こっちのお部屋は……」

文さんがその部屋の奥にあったドアを開けた。
ドアにはなにやらプレートが付いていたようだが、文字はすでに掠れ消えていた。

他より一際広い部屋へと出た。後ろの監督席のような場所より前を、いくつかのパソコンデスクが並んでいる。管制室のような場所だ。

一番後ろのは、どうやら責任者の机らしい。
上にはパソコンに写真立てと、この有様でも小奇麗にものがそろってる。

「……ひっ!」

その椅子の上に座っているものを見て、思わず声をあげてしまった。

「うん?なんだ、ただの人骨じゃないか」

魔理沙さんが普通に近づいていく。
私も全くダメというわけじゃないんだけど、こうやっていきなり視界に入られるとびっくりする。

「まだまだ幻想郷慣れしてないねぇ」

背の低い河童に慰められてしまう。くやしい。退治してしまいたい。
というか同じ人間のはずなのに、魔理沙さんが慣れすぎなんだと思います!



パシャリ、とフラッシュが焚かれる。
文さんが一枚、白骨の写真を撮っていた。

「文さん、それはちょっと無礼じゃないんでしょうか?」
「そうですか?」
「転がってるといっても、こういうものは撮るものじゃないと思います」
「あややや、私はそうは思いませんがねえ」

そう返した文さんは、机にあった写真立てを持ち上げて私に見せた。
恐らく生前の本人だろうと思しき男性と、その娘らしい人が写っている。

「子供さん?」
「儚い人間、死して忘れ去られたからこそ、この一瞬に残しておきたいものです」

骨の横へ置き直し、文さんは再びシャッターを切った。
天狗の考えることはよくわからなかった。

私は脇の棚の上に置かれていた書類をなんとなく手に取ってみた。英語で書かれた書類で、少し読んでみる。

「あれ?読めるんですか?」
「これでも、向こうの学校では優等生だったんですよ」

とはいったものの、これは報告書のような類で単語だけの区切りが多く、私にも読めるものだったというからであって……。
さっきの部屋のような文書は難しい。
この書類はチェックリストのようなもので、日付と一言欄のようなスペースがあった。

「12/6 Key received、12/7 Key received」

Key……鍵とは何のことなのだろう?

「なんて書いてあるんです?」

横から覗いてきた文さんが尋ねてきた。

「業務報告書のようです。12月7日では『鍵』を受け取っていて……」

それ以降は別の語で埋められていた。

「12月8日以降は全部 "No responce" ―――返事がない、と」
「返事、ですか」
「何のことかはよくわかりませんが……」

元の場所に書類を戻して、また部屋全体を見てみる。





一方、魔理沙さんとにとりさんがせわしく壁を辿っていた。
どうやらただの壁ではなく、上に稼働するタイプのようだが……。

「取っ手もないし、構造的に魔法も効かんらしい。どうしたもんか」
「溝もあるし、上に開くとは思うよ。どこかにスイッチみたいなのが……」
「これでしょうか?押しても動きませんが」
「ちょっと見せて」

勝手に壁の一部を分解して、配線を弄り眺めているにとりさん。
それでどうにかなるものなのか。

「……よし!」

バチッ!とスパーク音がした後に正面の壁が動き始めた。
驚いたことに本当にどうにかなってしまったみたい。

「おおっ……!」

魔理沙さんが感嘆の声を漏らす。
壁の向こうには、もう一つ壁があった。
普通より分厚いガラス窓がはめ込んであり、その横にはまた重そうな扉。

暗くてよく見えなかった室内に明かりが灯りはじめた。
見えなかった部分が見えるようになるのと同時に、眩しくて目がしばらく開けられなかった。

「幻想郷に来て、まだ電気が通ってるなんて……」
「さっきまで通電部分が途切れてたんだ。多分、ここでどうにかして自給してるんだと思う」

明かりは窓の向こうも照らし始める。

「魔理沙!あの扉開けよう!」
「おう、任せとけ!」

魔理沙さんが魔法で開錠し、謎の空間へと歩み出る。


「なんだ、こりゃあ……」


広がっていたのは奇妙な円柱状の空間。
中央には、巨大な柱のようなものがそびえたっている。

「あれだ、月に行った時に見たぜ。ロケットとかいう……」

先端を見ると円錐状になっており、下を覗き込むと加速器らしいブースターが設置されている。
魔理沙さんがそう思うのもわかる。

「……違います、これは」

この正体に気付いた私は、呆然としながら息を呑んだ。
歴史の冷戦時代のページに、教科書でこんな発射装置を見た記憶があった。ロボットアニメの中でよく似たシーンがあった。

「核……」

「核?地底の核融合の事?」
「となると、これが発電機ということなんでしょうか?」

既に少しばかり知識を持っていたにとりさんが疑問を投げかけ、文さんが推察する。
だが、彼女たちも推測できないだろう。

「核ミサイル――発電ではなく破壊のための道具ですよ」
「破壊だって?この筒にあの太陽のエネルギーが入っているっていうのか?」
「ふむ……」

驚く魔理沙さんと、否定したいように迫るにとりさん。

「そんな!計算上でも、核融合のエネルギーは幻想郷すら軽く焼き尽くすんだよ!?」
「さながら地上の灼熱地獄……あの地獄鴉の言ってた通りの世界か」
「……やはり人間、内も外も変わらないもんですね」

何かを察したように文さんがペンを躍らせた。

「知恵があってまだ賢くあることができるというのに、その知を自らを滅ぼす方向へと昇華してしまう」

言い返せる言葉もない。
実際外の人間は、エネルギーを生み出す以前に核は兵器として作り、使ったのだから。

地下の基地に秘密の隔壁。そんなことがあって、巨大ロボットだとか期待しちゃってたりしましたが……。

「こんなものが、何で幻想郷に……」

ドアを出てすぐ、そこに簡易なコンソールがあった。
使い方はさっぱりだが「LOCK」や「KEY REQUIRED」といったランプが点灯している。発射の危険はなさそうだ。

「どうするか。こんなもん」
「ぶ、分解してみる?」
「破壊するもんだぜ?間欠泉の発電所とはわけが違うからやめた方がいいと思うな」

射命丸さんがカメラのシャッターを下ろす音が聞こえる。

「まさに藪を突いて蛇、ですね」





その時、後ろの部屋のドアが蹴破られるように開いた。
ゴロンと何かが転がる。

「ゲッ!」

見覚えのあるらしい魔理沙さんが声を出す。
同時に、凄まじい勢いで煙が噴出した。

「けほけほっ!」

咳が出る。涙が止まらない。
袖で口元を押さえていると、目の前に真っ赤な瞳が浮かび上がってきた。

「ひゃ!」

思わず両手をあげて降参の意を示す。
竹林のところの鈴仙さんが、弾幕を込めた指先をこちらへ向けていた。

ガスらしい煙がどんどん染みて来ると思ったが、ちょうど晴れてきたようだ。

「師匠、先行者と発射サイロの制圧完了しました」
「お疲れ。もういいわ」

周りを見ると、皆捕まっている感じだった。
特に文さんは、ガスマスクをつけた椛さんらしい白狼天狗にゲシゲシと蹴りを入れられていた。

再び扉が開き、人が入ってくる。
八雲紫さんとその式、そして八意永琳さん。

「あやややや、幻想郷の名だたる賢者方が勢ぞろいで……あいたっ!もみっ!やめっ!」
「全く、勝手に入って弄って……大事に至らなかったのは幸いだけど」

扇子で口元を隠しながら紫さんが言った。
永琳さんが私の隣にあったコンソールを弄り始める。

「そ、それ勝手にいじって大丈夫なんですか?」
「あら、少なくとも貴方達よりは知識があるわよ?」

彼女はこれが核兵器かもしれないということを知っているのだろうか?

「良く知ってるわね……ああ、あなた外の世界出身だったかしら」

手慣れた扱いで操作していく永琳さん。月と地上の機械は似たような扱いなのか、ただ天才だからなのか……。

「少しばかりは似てるわね。……というか、私本業は薬師なんだけど」
「まぁまぁ、幻想郷に隠れる身としては一大事じゃない?」
「はぁ……」

この人も巻き込まれ体質だったりするのだろうか?

「けど、そんな心配はなさそうよ」

コンソールを弄っていた手を止めて紫さんに見せる。

「どうもこれには核物質は入っていないみたいよ。『これだけ』なら安全に処理できそうね」
「そう、ならいいわ」

思わず胸をなでおろす。
後ろの方で魔理沙さんが見張りをしていた鈴仙さんに聞いた。

「核じゃないなら、やっぱりこれロケットなのか?」
「中身が火薬に変わっただけで、飛ばせば同じ弾道ミサイルよ。かなり遅れた稚拙な兵器だけど」

そういえば、そういうのもあったんだっけ。

「これで遅れてるなんて、お月様はやっぱりちがうねぇ」

にとりさんの言葉に同意する。これ以上の兵器が月にはあるんだろうか?

「処理は後に回すとして、そこの冒険者さん達を先に返してくれるかしら?」
「はい、わかりました」

紫さんの指示にマスクを外した椛さんが返事をする。

「ちょっと椛、あなたは山の哨戒天狗でしょうに」
「大天狗様方も一枚噛んでいるということです。さ、立ってください」
「ああ、もう」


警察に連行されるように退室する私たち。
だがその後ろで、密かにこう話していたを私は聞き逃さなかった。

「ああは言ったけど、多分地下に未使用の核弾頭保管室があるわ。まずはそこをどうにか処理するべきね」
「では師匠、私は先回りして……」
「そうね。うどんげ、お願い」
「全く、厄介なものを持ち込んでくれた……忘れてくれたものね」






「忘れ去られたのよ。その施設ごとね」

あの後、私たちはそのまま紅魔館図書館へとお邪魔した。
魔理沙さんがパチュリーさんに持ちかえった文書を見せるためだ。
私や魔理沙さんが読めなかった文書を、パチュリーさんは難なく読み解いていった。

「孤島、もしくは世界の果てに位置したこの施設は軍事拠点の一部だった」
「それがどうして忘れ去られてしまうんだ?重要だったんだろ?」
「統括していた国が負けたか、大打撃を受けて構う暇がなかったか……。どちらにせよ、連絡が途絶えたのね」

別の資料を見比べつつ、当時の状況を読み取り説明してくれた。

「秘匿扱いだったためか、食糧や水の自給も不可能だった」

書類の「Water」の「Number」欄には長い間バツ印がつけ続けられていた。
私のみつけた連絡の取れない記録とも合致する。

「他の職員は自分で逃げたか、逃がされたか。結局最後に残ったのは、施設の責任者だけだったそうよ」

だから、骨は一つだけだったわけだ。あの広さに一人というのは不自然だと思っていたけれど。

「それで、その方は……」
「自分で命を絶ったみたいね。『ミサイル』を無力化した後に」

そのままパチュリーさんは書類に火をつけ始めてしまった。

「あ!何やってんだパチュリー!」
「これの役目は終わったわ。あとは静かに眠らせてあげなさい」

灰になっていく書類の束。
そのままパチュリーさんは、メモを取り続けていた文さんに目線を移した。

「そこの天狗も、今回はやめておきなさい」
「……ええ、そうですね。この記事は上辺だけにしておきます」

何とも言い難い、といった表情でメモ帳を閉じる文さん・
珍しく彼女が特ダネから手を引いた瞬間であった。




数日後、あの施設の立ち入り禁止が解除された。
その日の文々。新聞にはこんな記事があった。

『外界の巨大な地下空洞出現!八雲紫氏公認で一般開放へ』
『……他の利用者に迷惑をかけなければどのように使ってもよいとのこと。ぜひ一度立ち寄っては……』

紫さんと文さんの間でどういう取引がなされたのか、私は知らない。
時折立ち寄ってみると、確かに妖精や根なし妖怪の遊び場になっているようだった。


ただ、その中にはもう何もない。もぬけの殻となっている。
机も、椅子も、書類も、銃も、ボロボロの掲示板も片付けられていた。

あの巨大なミサイルも、あの遺体も、あの写真さえ、そこにはなかった。
東方少女+現代廃墟ってどうよ?と頭に思い浮かんだので、ちょっと勢いだけで書いてみた話です。
結構活動的で泥や汚れの似合うメンバーが多くて合うと思います。
monolith
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コメント



0.640簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
廃墟はワクワクしますが、その正体が物悲しい
6.100名前が無い程度の能力削除
レベル4の細菌研究施設とかじゃなくてホントに良かった
7.80奇声を発する程度の能力削除
色々面白かったです
9.70名前が無い程度の能力削除
SPCかと思ってヒヤヒヤした
12.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり廃墟探索って良いもんだわ。
15.80名前が無い程度の能力削除
良くも悪くも一本道の作品かなと
せっかくですから何かミスリード(あるいは探索組が施設の正体を誤解するような展開)とか一捻りあってもいいでしょう
オチがありがちな展開だったのも少し残念です
19.80名前が無い程度の能力削除
こういった雰囲気の作品は好き
似たような題材で是非冒険活劇なんか書いてもらいたい

あと、核兵器なら核融合ではなく核分裂の方では?
20.80非現実世界に棲む者削除
面白かったです。廃墟探訪は確かに良いかもしれない。
21.80名前が無い程度の能力削除
とてもいい雰囲気の作品でした
最後の一文がすごく切ない・・・

>>19
細かく指摘すると、兵器としての核融合は実現してたりする
核兵器の一つである水爆は原爆で立派な核融合
冷戦時代にも広く使われてたし、あり得ないことでもない

ただそれを早苗さんがよく知っているなあと思ったり
22.80名前が無い程度の能力削除
合う。すっげぇ合う。
淡々とした描写がかえって情景を鮮やかに想像させてた