Coolier - 新生・東方創想話

それは白くて清いもの

2014/12/25 22:08:58
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※ 美鈴と椛が恋仲になっている話です。






   それは白くて清いもの






「かんぱーい!」
 私の背に在る格子の門の、その先に在る扉の向こうから、宴の始まりを告げる合唱が轟く。
 先刻より既に賑やかだった談笑は、それを境に一層の盛り上がりを表し、笑声に怒号に野次に歓声にと、魔女の大鍋みたいな喧騒へと変貌した。
 遊興極まる『静けし夜』。酒に溺れる『清し夜』。
 今宵と明日の祭事の意味など知ったことかと、魔も聖も人も受け入れて、紅魔の館は歌を唄う。
「今晩は」
「こんばんはー」
「今日の宴会、此処で合ってんのかい?」
「はい。もう始まってるみたいですよ」
「…嗚呼、本当。どんちゃん騒ぎが聴こえているわ。魔理沙も霊夢も居るようね」
「あちらの扉から中に入ってもらって、後は係の者が会場まで案内します」
「そうかい」
「楽しんでってくださいねー」
「有り難う、お嬢ちゃん」
 賑やかな室内とは対照的に、館の外観はひっそりしていて、暗い。
 何分、窓が少ないものだから、中の明かりが殆ど外に洩れないのだ。
 今、外から見える光と言えば、門番である私の傍に一つと、中へ入る扉の両脇に一つずつ、合わせて三つのランプが設置してあるばかりである。
 おかげで今宵、宴に訪れたひとの半数近くが、何とも怪訝な顔をして、会場は此処で合っているのかと私に尋ねた。
「中の飾り付けだけで精一杯だったからなぁ…」
 未練げな独り言が白い吐息を伴って、星の海へと消えて行く。
 フランドール様が唐突に「クリスマスパーティがしたい」と駄々を捏ね、お嬢様より命が下されたのが、今日の未明。
 そこから使用人総出で動き始め、食材を含む物資の調達に、会場の装飾などの用意、それから、幻想郷の住人達への周知と、どうにか最低限の準備だけは整えることが出来た。
 我等がメイド長、咲夜さんの能力を以てしても、それが限界…と言うか、お嬢様達が内装の出来映えだけで十分に満足した様子だったので、残った労力は料理に注ぎ込みたい、とのことだった。
「やほー。お疲れさん」
「お疲れー。もう乾杯しちゃってるわよ」
「みたいだね。私で何人目?」
「三十八」
「ひゅい? そんなに? 今日決まったって言ってなかったっけ」
「言った」
 私はパーティの宣伝を担当し、今日の夜明けから夕暮れに掛けて、幻想郷のほぼ全域を走り回った。
 何せ急な開催だったので、あまり客が集まらないのではないかと心配したけれど、杞憂に終わって一安心である。
「皆、そんなにクリスマスが珍しいのかね」
「まさか。どうせ神より団子でしょ」
「あはは。違い無ぇや。そいじゃ、私もお団子を貰いに行こうかな」
「中に入ったら、ホブゴブリンの子が案内するから」
「はいよ。有り難う」



 三十八人目の客を迎えた後、私はすっかり暇になってしまった。
 それまで五分から十分置きに来ていた客足がぱったりと途絶え、誰も通らない門の前に突っ立っていること、約一時間。
 寒さと退屈には慣れているけれど、後方から洩れてくる宴の賑わいと、微かな御馳走の芳香とが、ちくちくと私を刺激する。
「…交代まで、あと何分……。……おろ?」
 何度目か判らない、不毛な独り言を呟こうとした私は、不意に感知した気配に驚き、目を瞬いた。
 気配の主は湖の上をふわふわ飛んで、ゆっくりとこちらへ向かって来ている。
 それは今宵、触れることが叶わないと思っていた、私にとって掛け替えの無い温もり。
「お疲れ様です」
「椛」
 館の門前までやって来た椛は、肩に担いでいた風呂敷包みをひょいと手前に回しつつ、柔らかな微笑みで私を労った。
 私はそれに心から癒される一方で、一つの懸念を抱いていた。
「あんた、今日明日は当番じゃなかったの?」
「そうですよ」
 椛がけろりとして答える。
「ですから、二刻(ふたとき)もすれば帰ります」
「それ仮眠時間じゃない」
 彼女が寝る間を惜しんでまで、紅魔館に来てくれること。そのこと自体は、凄く嬉しい。
 フランドール様だって、椛が来たと知ったら、どんなにか喜ぶことだろう。
 だけど、それで彼女自身に疲れを溜められてしまうことは、決して私の本意ではない。
 …それでも、「今すぐ帰って寝ろ」と追い返す気になれないのは、私がまだまだ精神的に未熟であることの証か。
「明日の哨戒が終わったら長目の暇が有りますから、そこで帳尻を合わせます」
「寝られる時に寝ておかないと、不測の事態に対応出来なくなるわよ」
 自分の居眠り癖を棚に上げて言ってやると、椛は少し申し訳無さそうに、尻尾と両耳を垂れさせた。
 こうやって感情が表に出てしまうことを嫌い、普段はどちらも妖術で隠しているのだけれど、近頃、私と顔を合わせる時だけは、敢えて隠さないようにしているようだ。
 椛がそんな風に、有りのままの自分を見せようとしてくれることは、とても嬉しく、愛おしい。
 もっとも、それには「どうせ顔でバレるから」という、身も蓋も無い事情も有ったりするのだけれど。
「…すみません。日中、貴女が麓の方を駆け回っているのを見掛けて、後で同僚に聞いたら、今日は紅魔館で宴会をするらしいと…。それなのに、ずっと此処でお仕事をしているのが気に掛かったものですから……」
 紅魔館(うち)で宴会する時は、大体こんなものである。元来、私の仕事は門番なのだ。
 とは言え、椛もそのことは解っている筈だから、きっと、千里眼で覗き見た私の姿が、いつにも増して不憫に見えたのに違いない。
 考えてみれば、私は今日、食事も休憩もちゃんと取っていない気がする。夕方に帰って来てからも、飾り付けやら料理の仕込やらを手伝っていたし…。
 ……つまり、疲れを溜めていたのは私の方だったわけだ。
「そっか。それで、心配して来てくれたんだ」
「ええ、まあ…」
 どうにも決まりが悪そうに視線を逸らす椛の顔ときたら、これまた溜まらなく愛らしくて……。
 私は思わず、彼女のことを抱き締めた。
「わ」
「ありがとう。嬉しいわ」
 椛の体は温かい。
 それはもう、このままずっと抱き締めていたいと思う程に。
「………それで、ですね…」
 私が己の欲望に忠実に従っていると、やがて、椛がおずおずと口を開いた。
「もし良ければ、差し入れを……」
「え」
 胸の中で、さっきの風呂敷包みがごそごそと動かされる。
 私はようやく彼女から腕を放し、改めてそれに目をやった。
 のの字…もとい、唐草模様の風呂敷の中には、何かしらの入れ物らしい筒や箱なんかが納められている。
 椛はその中から二十センチくらいの小振りな箱を取り出し、おもむろにフタを開いた。
 その瞬間、真っ白な湯気と一緒に、醤油と味醂と、その他諸々の入り混じった、何とも香ばしい匂いが溢れ出す。
「牡丹の串焼きです。お口に合えば良いのですが…」
 私はもう、目の前に在る幸せに涙すら零れそうで、また彼女に抱き付いてしまいそうになったけれど、折角の差し入れを落としてしまっては酷いので、どうにか自制した。
「ありがとおおぉ!」
 でも、涙は堪えきれなかった。
「今日はみんな、ホントに忙しくて…。いつもは誰か摘まみ食いしてんのを分けて貰ったりしてるんだけど、それも出来なくてさ…」
「そう言えば、随分と急な話でしたね」
「うん。…どっかの黒白がフランドール様に吹き込んだのよ。昨今の外のクリスマスは華やかで、楽しくて…とか何とか。…しかも、よりによって、昨日」
「嗚呼、成る程。それで、レミリアがフランさんの為に聖夜祭を開催したんですね」
 椛は苦笑しながら私に串焼きの箱を持たせ、包みの方をそっと自分の足許に置いた。
 その中から、今度は二つの湯呑みと水筒らしき筒が取り出される。
 よくよく見てみると、箱と水筒にはそれぞれ河童のマークが刻まれている。たぶん、どちらも保温…と防水に優れた特別な容器なのだろう。
「飲み物はお茶で良いですか? 一応、燗を付けた物も在りますが」
「酔って押し倒しても良いんなら」
「…上司に小刀を投げ付けられても知りませんよ」
「あんたは押し退けないってことね?」
「……お茶にしておきますね」
 残念。
 まあ、どうせ、そんなキツい酒なんて持って来てないだろうけど。
「ところで、その串、私も一本だけ頂いても良いですか?」
 ゆらゆらと湯気を立ち上らせる湯呑みを両手に、椛が問う。
 私はすかさず牡丹の刺さった串を一本手に取り、それを彼女の口許へ突き付けた。
「ん」
「………ええ、と…」
 勿論、両手の塞がっていることは重々承知の上である。
 椛は一旦、片方の湯呑みを何処かに置いておくかどうか、半ば真剣に悩んでいたようだったけれど、結局、私の期待に屈して口を開けた。
 そこへ串を差し込んで、空いた右手に湯呑みを貰う。
 すると、今度は椛が空いた方の手を伸ばし、私の持っている箱の中から一本の串を取り上げて、黙って私に差し出した。
 彼女がこうして私のおふざけに乗ってくれるのは、割と珍しい。今のだって、普段の椛なら箱ごと持っていってしまい、肉を食いたければ自分で取れ、という目で見てくる場面だ。
 私は嬉々として差し出された物に食らい付き、甘辛いたれの絡んだ牡丹の味を心行くまで堪能した。



 椛のおかげで、私は心身ともに温まった。
「はふう…。おいしかった。御馳走様」
「お粗末でした」
「これで、交代の時間まで頑張れるわ」
「後、どれくらいです?」
「んーと、五十分くらいかな。出来れば、ちょっと早めに準備したいけど」
「準備?」
 そう。交代したら、私は宴に参加している良い子…じゃなくて悪い子達のために、サンタクロースにならなければならない。
 紅い衣に身を包み、みんなにプレゼントを配って回るのだ。
 残念ながらトナカイは捕獲出来なかったけれど、サンタの衣装とプレゼントの箱はばっちり用意済みである。
 …ただ、ちょっと、プレゼントの中身を担当したのが小悪魔さんだということに、一抹の不安を覚えていたり……。
「彼女の性格からして、吃驚箱を紛れ込ませていそうな気が」
「やめて。言わないで。夕方からずっと、お嬢様達にだけは当たんないよう祈ってんのよ」
「…何方様に?」
「そりゃもう、天に在す神様に」
 悪魔の手先が何を抜かすか。
 誰かの呆れる声を聞いた気がして、私達は揃って笑い声を上げた。
 ……だけど、クリスマスを牛耳る神様っていうのは、案外と懐の深いヤツなんじゃないかって、私はそう思う。
 だって、私みたいな魔族の端くれにまで、こんな素敵な時間をくれたのだから。
「………美鈴さん?」
「ん」
「どうかされましたか…?」
 うっかり、幸福感に浸り過ぎてしまったらしい。
 ふと気が付くと、椛が何だか不思議そうな顔をして、じっと私を見上げていた。
「…ああ、ごめん」
 私は片手をそっと椛の首筋に回し、その雪みたいに真っ白でふわふわした髪の上から、彼女の頭を撫でた。
「ちょっと、貰った幸せを噛み締めてた」
 こんなことを言うと、彼女はきっと、少し呆れたような、だけど照れ臭そうな顔をして、私から目を逸らすのだ。
 案の定、椛は小さく息を吐き出し、顔を緩やかに俯けていく。
 ところが、その首がすっかり下を向いてしまう前に、彼女は急に勢いよく面(おもて)を上げて、再び私のことを仰ぎ見た。
「つまり…」
 その時、私は天使を見た。
 大袈裟なんかじゃない。
 こんなに清かで愛らしい、純白と笑顔の似合う娘が、天使でなくて何だと言うのか。
「美鈴さんはこの後、それを皆に分けてあげるということですね」
 その美しさに心を奪われ、私は彼女にキスをした。





 
お読みいただき、誠にありがとうございます。
拙作に触れてくださった全ての皆様に、心からの感謝を申し上げます。

かつて、今際の時を迎えた作家は、言いました。
「もっと、百合を」

すみません。嘘です。

御託はさて置き、今後も百合を中心に色々書いていこうと思います。
よろしくお願い致します。
昭奈
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コメント



0.350簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
くそっ、いちゃいちゃしやがって
3.100名前が無い程度の能力削除
いい百合だ
4.80名前が無い程度の能力削除
>私は天使を見た
こいつら順調に周りが立ち入れない空気をパワーアップさせていきやがる
5.90名前が無い程度の能力削除
めーもみなんて読んだことなかったけど、全然いけるわ。それにしてもこの二人、らぶらぶである。
7.90奇声を発する程度の能力削除
良い二人
8.90絶望を司る程度の能力削除
39人目「やべぇ……入れない……」
こんな事起きてそうw
11.90名前が無い程度の能力削除
このシリーズ大好きなのでまた出会えてうれしいです
相変わらず椛は健気で可愛いなあ
にとりがちょっと出てましたね。次はもう1人の名物キャラ鈴仙さんの登場もお願いします!
15.100名前が無い程度の能力削除
甘いですね