Coolier - 新生・東方創想話

メリー・ロータス・クリスマス

2014/12/25 06:02:29
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メリー・ロータス・クリスマス

吐く息も白く変わる十二月。今日は二十日、世間ではクリスマス・イブと言われる日だ。
まあ、私はさておき蓮子は年末で忙しくてそれどころじゃないだろうけど。
研究室がどうとか、レポートがどうとか、また一人嘆いているんじゃないかしら?
…と思っていたのに。今、私の目の前にいる蓮子は例によってニコニコとしていた。

「ねえねえメリー。今日の予定は…もちろん開いてるよね?」

意地悪に笑いながらそういう蓮子に少々むっとしたが、もちろん予定は開いている。
オールフリーだ。ああ、この寒い日は家でコタツに入りながらビールでも飲みたい。

「…ええ。開いてるわよ。貴女の家で酒盛りでもする?」

「家で酒盛りって…。ちっちっち、メリー?花も恥じらう乙女がそんな事言ってちゃいけないわ」

「…よく言うわよ。万年酒飲みのくせに」

「むー。まあ、とにかく今日はもっと素敵なことをしましょう?」

そう言うと蓮子はポケットからクシャクシャになった紙切れを取り出した。
何でもポケットに突っ込む癖をなおした方がいいと思う。
その大きなカバンはなんのためにあるんだか。

「何よそれ?宝の地図?」

「ふふ、イエス!…と言いたいところだけど、私にもいまいちよく分かんないんだよね」

その紙はボロい地図のようだった。大きく山の地図が書いてあり、矢印の先には何かの建物の絵が書いてある。

「また変なもの拾ってきたわね…。この絵は何?発電所か何かかしら…」

「さあ?まあ何かの建造物よね、きっと」

よく見ると、右下の方に掠れた文字が書いてある。

「なんて書いてあるの…?12…24…?これ、今日のこと?」

「お、鋭いわねメリー!そうなの。この地図に書いてある場所、おそらく隣町にある山ね。そしてこの日付…うん!呼んでるわ!私達を呼んでるのよ!」

「呼んでないと思うけどね」

流し目でそういいやりながら、いそいそと荷物をまとめる。
この寒い中山の上りだなんて、冗談じゃないわ。早く帰ってコタツにはいらないと。

「ねえ蓮子、悪いけど私…」

「じゃ、メリー!一旦帰って…八時くらいに駅前でね!あ、ちゃんと着てこないと寒いわよ!」

「ちょ、ちょっと…私は…」

相棒は風の子のようにひゅるりと去っていった。まったく、自分勝手な相棒である。
…とりあえず、たくさん着込んでいくことにしよう。





さすがに午後八時ともなると、寒さも一段と増してくる。
寒空の下、私は駅のロータリーに立っていた。
周りにはアベックがちらほらと、それぞれクリスマス・イブを満喫しているようだ。
しばらくして、向こうからひょこひょこと見知った影が近づいてきた。

「あはは、ごめんメリー。待った?」

「はい、2分遅刻ね。もう、慣れましたわ」

蓮子は五分遅くやってくることはあっても早く来ることはない。
クリスマス・イブだろうがなんだろうが関係ない。

「って、手袋にニット帽にマフラー…ずいぶん重装備ねメリー」

「私冷え性だから」

「そ、そうなの」

そういう蓮子も、タートルネックのセーター、厚手のダッフルコートにふわふわの茶色い手袋をはめていた。

「さ、気を取り直していざ謎の建造物へ!出発出発!」

「…おー」

やるせない声しか出ない。
そして二人で電車に揺られること十分程。
一つ隣の駅に来ただけだというのに、一気に田舎に来たように感じる。

「うん、おそらくあそこの山ね。登山道もあるみたいだし、ラッキーだわ」

「でも街灯も無いし、結構暗いわねぇ…。登山道の入口に行くのも一苦労何じゃない?」

ちらりと蓮子を見ると、ピカっと手元が光った。

「ふふ、心配ご無用!秘封七つ道具がひとつ、秘封懐中電灯よ!」

「…そりゃありがたいわね」

なんでも秘封つければいいもんじゃないでしょう。ああ、本当にさよなら、私のコタツイブ。





木の根と泥に何度か足を取られそうになりつつも、私達は淡々と山道を進んだ。
途中でたぬきだかイノシシだかよくわからないものが前を走り去った時は流石に焦ったけど。

「と、ところで、蓮子。…地図の…場所は、まだ…なの?」

息切れしつつも声を絞りだす。

「うーん、あと3分の1ってところかな?坂道だし、結構長く感じるわね」

相変わらずケロッとしている蓮子。この子、密かに筋トレでもしてるんじゃないかしら。
時計を取り出すと、もう十時半になるところだった。
駅から麓まで多少歩いたことを考えても、もう二時間は歩いている。

「ちょっと、遠すぎやしないかしら?」

「うーん。もしかして、この山じゃないのかしら…」

「はいい?」

思わず声が大きくなってしまう。

「いや、色々地形とか調べてみて、多分この山だと思ったんだけどなー…」

「…まず、その地図はどこにあったのよ」

「これ?大学の図書館の地域資料のコーナーの本にはさんであったわ。だから近くの山だと思ったんだけど…」

「はあ…とりあえず休憩しましょ」

近くにあった平らな岩に腰を下ろす。ひんやりと冷たく、今にも凍えそうだ。
蓮子は別のローカル地図と例の地図とを見比べている。はあ。寒い。

「うん、やっぱりこの山よ。間違いない」

「…じゃ、出発しましょ」

またしばらく歩き続ける。蓮子はしきりに「あれー…、そろそろ見えてくるはずなんだけどな」とつぶやいている。
ふと空を見上げると、雲がかかり星は見えなかった。
空気は更に冷え込み、手袋のありがたみが身にしみる。

「…ねえメリー、怒ってる?」

「別に怒ってないわ」

あまりに黙々と歩きすぎたのか、蓮子が申し訳無さそうにつぶやく。

「どうせもともと予定なんてなかったし、家にいてもごろごろしてるだけだしね」

「そっか…ありがと」

急にお礼なんてやめてほしい。少し、寒くなくなってしまった。
なんだかんだ、蓮子も私の事を考えてくれてるんだな、とすこしほっこりしていたその時。

「…冷たっ!」

「な、なになに!?どしたのメリー!?」

雪。ふんわりとした雪が、私の頬を撫でた。
ロマンティックなホワイトクリスマス。…なんて言ってる場合ではない。
今、私達は愚かにも山のまっただ中にいるのだ。

「れ、蓮子…これってかなりヤバいと思うんだけど」

「き、奇遇ねメリー。…私も、かなりヤバイと思うわ」

二人並んで回れ右をして、きた道を下る。なんて”とほほ”な登山劇だろうか。
しかし、下り坂のほうが足に負担がかかるし、走って降りづらい。
走行しているうちにも、自然の猛威は容赦なく牙を向いてくる。
ホワイトアウト。あたりがほぼ真っ白になてしまった。

「予報じゃ今日このあたりは晴れなはずだったのに…」

「そんなこと言ってる場合じゃないわ!とにかくはぐれないようにしなきゃ!」

蓮子とピッタリくっつきながら、ゆっくりと進む。吹雪が冷たい耳にあたって痛い。

「あれ?ねえメリー、こんなとこ通ったけ?」

「ほとんど見えないからわからないわ…」

とにかく進む。これはいよいよまずい。この吹雪の中、道もよくわからないとは。
気温は確実に氷点下を下回っている。このままでは凍傷もまぬがれないかもしれない。
必死に歩き続け、気づけば十一時を過ぎていた。

「うわあっ!」

地面に伸びた大きな木の根が、二人の足を絡めとった。
仲良くころげる蓮子と私。

「うう…メリー。秘封倶楽部もここまで…か…」

「笑えないわよ…こんな状況で」

笑えない…笑えないがもう精根尽き果て、凍てつくような地面から立ち上がる気さえ起きない。
もう…やっぱり暖かいコタツのほうが良かったじゃない…。
だんだんと目蓋が垂れてくる。…あ、これが寝たら死ぬぞ!って状態なのね…。
まだそんな呑気なことを考えていられる自分も、大したものである。
視界がだんだんとぼやけて…周りのごうという音がだんだん大きくなっていって…。
……………
………


──いきなり体を揺さぶられた。


「メリー、メリー!寝ちゃだめ!」

「…うん?…うん」

蓮子が必死に揺さぶってくる。

「もうこんなセリフ言うのなんて映画の中だけかと思ってたわ」

「ねえそれより、メリー、聞こえる?」

蓮子が耳に手を当てながら問いかけてくる。聞こえる?何が。

「ほら、あっちの方から…」

蓮子が指をさす方向に耳を傾けると、たしかに、かすかな金属音のようなものが聞こえる。

「いってみましょう、人が居るかもしれないわ!」

雪を振り払って立ち上がる蓮子。蓮子の手を取り立ちあがる私。
ゆっくりと音の方へと近づいていく。一歩、一歩進むうちに音は確かに大きくなっていった。
そして、雪のぶら下がった木々を押しのけて向かったその先には──。





古ぼけた小さな教会があった。音はどうやらその中から聞こえているらしい。
吹雪の中、透き通るような音がクリスマス・ソングを奏でている。

「…ねえメリー、あそこって」

「あの地図にあった…場所?…教会だったのね」

「行きましょ、とにかく建物に入らないと」

積もった雪の上を歩いて行く。靴の中にはもう嫌というほど雪が入り込んでいた。
扉の前へと辿り着く。古めかしい、大きな木の扉。鍵は壊れているようだ。
二人で押すと、扉はギイと軋みながらゆっくりと開いた。
中はあまり広くなく、こじんまりとしていた。
奥の方に大型のオルゴールのが置いてあり、脈々と旋律を奏でていた。

「うわぁ…。ねえメリー、あれ…」

「うん…すごく綺麗ね」

オルゴールは隅々まで細工が施されており、とても高価な物のようだった。
古さびれたこの教会には似つかわしくないほど状態も良かった。

「このオルゴールの音が私達を助けてくれたのね」

「…うん。そうみたい」

確かに、あのままだと死んでいてもおかしくはなかった。でも、なぜ急にオルゴールが流れ始めたのだろう。
ミシ、と天井が鳴る。外は相変わらずひどい吹雪のようだ。

「とってもきれいな音…だけど、なんだか眠くなって…」

一安心したからか、強烈な眠気が私を襲う。

「メリー?…ちょっと…大丈…夫」

蓮子もうとりうとりとしている。
どこかで、ふくろうの鳴き声が聞こえたかと思うと、ねっとりとした夢の世界へ誘われた。





──夢を見ている。
今までのことや、これからのこと。
過去と未来と、そして、そのどちらでもない私達。
前にも、こんなことがあったっけ。あれは確か…電車の中?…いや、喫茶店の中だったかしら。
とりあえず、今はどうでもいいか。


心地よい風に体を任せ、漂う。ほんのりと暖かく、まるでひなたぼっこをしているようだ。

「メリー。メリー・クリスマス」

ふいに、聞き覚えのある声が聞こえた。

「蓮子?」

「なんて、もう届いてないかもしれないけど。…せめて少しだけでも聴いてくれてたら嬉しいな」

「…何言ってるの?ここにいるじゃない?」

「…メリー、クリスマス」

そう言い残すと、その声は静かにまどろみの中に溶けていった。
そして、また過去と未来、そしてそのどちらでもない様々なビジョンが、私の中を駆け巡る。

……………
………



「リー…」

「メリー…!」

「もうメリー、起きてよ」

スヌーズ機能の無い、生きる目覚まし時計が私を現実へと引き戻す。

「え?何?…何事?」

「朝。朝よメリー」

時計を見ると、午前七時。七時間もぐっすりと眠っていたのか。
外は流石に吹雪も止んで、小鳥たちがチュンチュンと縄張りを誇示しあっている。

「いやー、昨日はどうなることかと思ったけど、意外となんとかなるものね」

そう言いながら蓮子はぐっと大きく背伸びをした。

「ほんと。靴の中までびしょびしょになっちゃったけどね」

じっとっと見やると、蓮子はバツの悪そうな顔をして立ち上がった。

「さ、このかわいい教会ともお別れね。早く帰ってシャワーでも浴びましょ」

それとも、と振り返って

「一緒に浴びる?メリー?」

そう言ってにっと笑った。

「か、…からかわないで!」

咳払いして立ち上がり、蓮子の後を追う。
古い大きなドアの向こうは、積もった雪と、快晴の空だった。

「うん、いい天気!これなら雪に気をつければさくっと下山できるわね!」

そういうと蓮子はスタスタと歩いて言ってしまった。
まったく、昨日あれほど必死に探していたのに、こんなにあっさり帰ってしまうのか。
まあ、あれだけイレギュラーな事態に陥ったんだし、無理もないか。
どうせ後で再調査に行く、とか言い出すんだろうし。
なんて考えながら、ふと後ろを向く。奥に、昨日と同じように大きなオルゴールが見えた。
しかし、違和感。
そう、昨日あれだけピカピカだったオルゴールが、ボロボロにくすんでいる。
蓮子は気づいてなかったようだったけど。…まさかね。

「メリー!どしたの?早く行こうよ」

蓮子はもう林の入り口あたりまで進んでいた。
もう。いつも貴女は貴女の探している不思議の一歩手前じゃない。
でも、…いや、だから貴女は毎日楽しそうなのかもね。

「…今行くわ」

それにしても、なんとまあ素晴らしいクリスマス・イブだっただろう。
息を切らしながら弾丸登山し、吹雪にあい命の危機の果てに、不思議なオルゴールと巡りあった。
かと思えばもう翌日、25日である。
来年こそは、コタツで過ごしてやる。絶対。美味しいお酒と鍋でも食べながら過ごすわ。
でも、こんなヘンテコなクリスマスも悪くはないかな、って思うのはあのヘンテコな相棒のおかげだろう。
とりあえず、帰ったら熱いシャワーを浴びて、暖かい鍋でも作ろう。
そうだ、別に来年でなくとも、今日これからコタツクリスマスを開けばいいではないか。
もちろん、ヘンテコな彼女と一緒に。

「はやくー!風邪引いちゃうよメリー!」

「はいはい、今行くわよ」

どこまでもマイペースなんだから。あ、そうだ。鍋パーティーの前にプレゼントも渡さなきゃね。
赤いマフラー。きっと似合うわ。
手編みじゃないけど、大丈夫よね。
ねえ蓮子。ハッピークリスマス。来年も貴女と迎えられるわよね。

両手で古びた大きな扉を閉じる。
歪んだ木の軋みは、当たり一面の雪へと吸い込まれていった。





「──で?結局昨日のあそこは一体なんだったのよ」

「ああ、今日ちょっとまた調べてみたんだけどね。昔あの教会でクリスマスパーティを行ってたらしいのよあの地図はそのためのものね」

「それで?あのオルゴールは?」

「うーん、それはちょっとわからないな。…もしかして、私たちが来る前に誰かが鳴らしたのかも…」

「…」

「それにしても高そうだったよねぇ。あのオルゴール。まだあたらしめだったし」

「…そうだったかしら?」

「あんなに綺麗だったじゃない。メリー、寝ぼけてたのね」

「はいはい。さ、もう良い頃合よ。蓮子、お箸とって」

「ほいほい。うーん!やっぱり冬は鍋と日本酒に限るわね!」

「もう。調子良いんだから」

……………
………


クリスマス。ああクリスマスクリスマス。
秘封スキーの皆さんに、幸多きクリスマスがあらんことを

なお、このお話とリンクしたインストアレンジ曲もありますので、よろしければ是非そちらもどうぞ。
Merry Lotus Christmas
【http://www.nicovideo.jp/watch/sm25198318】
tomo.
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コメント



0.90簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
クリスマスイブの夜に寒い中身を寄せ合った二人。きっと次の日の夜には自分たちの家で2人で暖かい夜過ごすのでしょう。
オルゴールアレンジも良かったです
2.90奇声を発する程度の能力削除
良いお話でした