Coolier - 新生・東方創想話

紅魔の騎士ナズーリン!

2014/11/19 19:20:34
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「この長雨、うっとうしいわねー」

「そう?」

「アナタはあまり外に出ないから気にならないでしょうけど、私は面白くないのよ」

「この雨は私のせいじゃないわよ」

 一時期、魔法を使って紅魔館周辺に雨を降らせていたパチュリー・ノーレッジが友人の吸血鬼に言い返した。

 季節柄、雨の日が続く幻想郷。
 レミリア・スカーレットはティータイムに同席した動かない大図書館に軽く突っかかってみただけだ。

「まあいいわ。
 あのね、今夜は気晴らしに吟遊詩人を招いているの」

「ふうん、それはいかにも貴族らしい趣味ね」

 興味なさそうに答える。

「パチェも知っているヒトよ」

「ん? 私、吟遊詩人に知り合いはいないけど?」

「ナズーリンよ」

「……ああ、なるほどね。
 話は上手だし、経験豊富そうだからそれなりに楽しめるんじゃない?」

「パチェも一緒にどお?」

「どうしようかしら、読みたい本があるし……」

 図書館魔女はネズミの賢将をそれなりに認めているが、ある理由から苦手としている。
 もっともらしい理由をつけてエスケープを試みる。

「助手の鴉天狗も一緒に来るみたいよ」

「……そうなの?」

「忙しいのなら無理にとは言わないけど」

 レミリアはニヤつかないように注意しながら言った。
 この友人がツインテールの鴉天狗に御執心であることを知っているのだから。

「そ、そうね、今夜は特に用事はないから、わたヂも聞かせてもらおうかしリャ」

 パの字は全力で平静を装ってみせたが、ちょっと噛んだ。

 はたてが来るなら話は別だ。
 パチュリー・ノーレッジが自身の深層を見られてもかまわないと思う唯一の存在、姫海棠はたて。
 心の機微、特に恋愛に関しては超不器用な学識魔女がようやく巡り逢ったすべてを許せそうな存在。
 つまり、キュンキュンして、ビクッビクンとくる相手だ。
 だが、そのはたてはネズミ妖怪を【ナズーリンデスク】と呼び慕っている。
 彼女がいつも楽しそうに【デスク】の話をするのをパチは我慢して聞いているのだ。
【デスク】と呼ぶようになった経緯は聞いているし、恋愛感情ではなく純粋な敬愛だと理解はしている。
 だが、パッチェさんは面白くなかった。
 ちょいパル、いや、かなりパルパルだった。

 そうは言っても、本人にも責任はある。
 恋愛にヴェリィ・ウブな本虫魔女は、ここ一番で踏み込みが浅く詰めが甘い。
 どフリーの決定機で何度もフカしているぽんこつストライカーなのだ。
 故にこの二人、パチュ×はたは友人以上恋人未満の状態が長く、どーにもじれったい。
 パチュリーとしては、そろそろここらでアフターバーナー全開で一気にカッ飛びたいのだ。

(よし、お風呂に入ってこよう!)

 心を決めるパチュリー。
 万が一に備えるのだ、念のためなのだ。
 この思い込み先行の残念な心構えに関する意見やツッコミは勘弁してあげて欲しい。



 ナズーリンと姫海棠はたてが到着した。

「レディ・スカーレット。
 今宵はお招きいただきありがとうございます」

 ネズミの賢将と鴉天狗が並んでお辞儀する。

「ネズミの騎士どの、いえ、今夜は吟遊詩人だったわね。
 ようこそ紅魔館へ」

 レミリアとナズーリンの【お遊び】。
 レミリアを『レディ』、ナズーリンを『ネズミの騎士』と呼び合い、ロール(役割、立場)を楽しむ【お遊び】。
 だが、この仮初めの立場はいくつかの事柄を経て、洒落ではなくなりつつある。
 紅魔館当主は相変わらず我が儘で子供っぽいが、今までは忘れた頃に示されていた【本当のカリスマ】の現出頻度がここ最近は高いように見えるのだ。
 支配者としての威厳に本物のレディ=淑女の品格と振る舞いが加わりつつある。
 ナズーリンから度々レディと扱われることで性質の根幹に微妙な変化が現れているのか。
 洒落が現実に食い込んで影響を与え始めているのか。

 レディ・スカーレット

 何十年か何百年か後には皆がそう呼ぶようになるかも知れない。



「吟遊詩人としてお招きいただきましたが、実のところ、歌は得手ではございません。
 まぁ、良く言って語り部、楽曲無しの一人芝居がせいぜいです。
 しかしながらこのナズーリンの【話芸】は、これまで誰一人として退屈させたことがありません」

 ネズミの芸人が芝居っ気たっぷりに笑う。

「今宵の余興は貴方に任せているのよ。
 楽しませてくれるのなら内容は気にしないわ」

 レミリアが鷹揚に答える。

「ありがとうございます、レディ。
 かしこまりました、忘れられない一夜を提供いたしましょう」

「まずはディナーね。
 食事の後で楽しませていただくわ」

 本来は食事会がメインだった。

 発端は長雨で退屈をしていたレミリアがナズーリンに手紙を出したことによる。
 その内容をざっくり説明すると……

『退屈なのよ、遊びに来ない?
 ご馳走を用意するから。
 そんで、その時に面白いお話とか聞かせてくれたら嬉しいわ。
 フランもアナタに会いたがっているの。
 お供の方もオッケーよ、どうかしら?』

 同じく雨天続きで暇にしていたナズーリンは快諾した。
 同伴者可とのことなので、主人、寅丸星を誘おうかと思ったが、十六夜咲夜と悶着を起こしそうな予感がしたのでやめた。
 何に対しても心の寛い毘沙門天の代理だが、黒い星五つのハイパーメイドだけは過剰なまでに警戒しているから。
 あり得ないことであるが、寅丸星はナズーリンが咲夜と浮気をするのではと警戒しているのだ。
 これこそ杞憂の世界選手権なのだが、恋する乙女のアイシールドは面倒臭く曇ってしまうものだ。
 感情的になった寅丸星はその剛力も相俟って文字通り手がつけられなくなる。
 そして、そのゴタゴタの収拾はナズーリンが担当することになる、百発百中でそうなる。
 だからやめた。
 図書館魔女のこともあるので【自称:一番弟子】姫海棠はたてを誘うことにした。



 超人メイドの仕切りによる晩餐会は、見た目、質、量、すべてにおいて満足のいくものだった。
 メイド長は最近イタリアンに凝っているそうで、ピザやパスタも供されている。
 正式なコース料理という訳ではないのでこの程度のカオスはご愛敬だ。

「騎士さま、こちらのピッツアも召し上がってくださいな。
【マルグェリィッタ】と呼ばれる定番の一つですのよ」

 フランドール・スカーレットは背筋を伸ばし、顎をひき、澄まして言った。
 いつもと違うフリル多めのオレンジ色のドレスは彼女なりのおめかし。
 ナズーリンの前、淑女っぽく振る舞おうとするフラン。
 なんだか微笑ましい。
 悪魔の妹は、以前、紅魔館で催されたパーティーで姉に贈った細工物を大絶賛してくれた気遣いの上手い洒脱な【ネズミの騎士さま】に憧れている。

 同族からも疎まれるほど強大な力を持った吸血鬼の姉妹。
 流れ流れて今は幻想郷。
 その性質の違いから実の姉妹なのに接点が希だった。
 だが、常に相手を意識していたし、やや歪んでいたものの確かな愛情を抱いていた。
 異変を経て、妹が変わり始めた。
 そして姉も変わろうと思った。
 しかし愛情表現の術(すべ)を知らない姉と妹の間には、歩み寄れそうですれ違うむず痒い時間がだらだらと流れていた。

 その後押し、最後の一歩を踏み出させる切っ掛けを与えたのが賢将ナズーリンだった。
 踏み越えてみれば何と言うことはなかった。
 お互いの愛は正しく純粋だった。
 
 この美姉妹、今ではとても仲が良い。
 フランはレミリアの隣の部屋で寝起きしている。
 その部屋は姉が妹のために自分一人で時間をかけて丁寧に仕度したものだった。

 引っ越し(部屋の)を告げられた日、妹は姉に抱きつき、わんわん泣いた。

『うれしい ありがとう』

 何度も繰り返した。

 その日に妹から究極の宝物【レミリア・スカーレットのバラ】を贈られた姉も繰り返した。

『うれしい ありがとう ……ごめんなさい』

 抱きしめあって涙する少女二人。
 最凶の魔族、残忍で冷酷、そして禍々しくて歪な存在。
 なのに純粋な想いが通じ合った。
 もう、フランが地下の部屋に戻ることはないだろう。
 姉妹愛の永劫の亀鑑はここに生まれた。

 紅魔館が歓喜に包まれた瞬間だった。
 紅美鈴は人目もはばからずボロボロ涙をこぼし、十六夜咲夜はハンカチで顔を覆い静かに泣いた。
 パチュリー・ノーレッジは口元を押さえながら『良かったわね、レミィ、……本当に良かったわね』と呟いた。
 その日から【ネズミの騎士】は紅魔館にとって大恩ある賓客となった。



 そして今。
 博識な賢将がピザ・マルゲリータを知らないはずはない。
 だが、未来のレディに対し、野暮を言うはずもない。

「【マルグェリィッタ】というのですか。
 ありがとうございます。
 ……うむ、これは美味、うむむ……
 チーズの質も良いが、ピザ生地が秀逸ですね。
 それに、これほど香りの良いオレガノは初めてです。
 鼻腔が完全に制圧されてしまいました、実に鮮やかに。
 なるほど、定番メニューにこそ質の違いが現れるのですね」

「でしょー! あっ……でございましょう? うふふ」

 気を張り続けていないとすぐにお侠な地が出てしまうフラン。
 姉であるレミリアが騎士さまから【レディ】と呼ばれていることが誇らしくもあり、羨ましくもある。
 この騎士さまに認めてもらいたい。
 いつか自分も姉と同じように【レディ】と呼ばれたい。
 フランドール・スカーレットの直近の目標だった

「庭で採れたものです。
 当館の庭師(本職は門番)が育てる香草はどこに出しても恥ずかしくない質だと思っております」

 十六夜咲夜が後を引き取りながら説明し、軽く頭を下げた。

「このオレガノ、市場に出せば通常流通品の数倍の値が付くでしょう。
 ……おっと、これは下世話な物言いでしたね、失礼しました。
 しかし困ってしまいましたね。
 この先、私はどんなピザを食べても満足できないでしょう」

 軽くおどけるネズミの騎士。
 それを見て口元に手の甲を当てながらクスっと笑ったメイド長。
 気品があり、且つ可憐であった(これぞ満点)。

「ナズーリンさんのお褒めの言葉は庭師に伝えておきます。
 きっと、とても喜ぶでしょう」

「ねえ、騎士さま、いつでもここへいらしてくださいな!
 お姉さま、よろしいですよね? ね?」

 フランの懇願にゆっくり目を閉じ、軽く頷いたレミリア。
 気品に加え、威厳のある王者の【了承】だった。

「ありがとうございます、レディ」

 ナズーリンは席を立ち、胸に手を当てお辞儀をした。



 晩餐が終わり、広間にはレミリアとフランドール、パチュリーと咲夜、そして部屋着に着替えた紅美鈴、小悪魔も部屋の隅で待機している。

「私、とっても楽しみです!」

 全身で喜びを表現している美鈴。
 こんな大雨の日の門番業務は水系の妖精メイドに代わってもらうことがある。

「今夜は特別よ。
 お嬢様のお計らいに感謝なさい」

 咲夜が静かに告げた。
 
「はい! 
 お嬢様! ありがとうございます!」

 当主は軽く手を挙げて応えた。
 美鈴本人は立場を弁え距離をとっているが、レミリアはこの気だての良い忠義者を気に入っている。
 でなければ【紅】の姓を許置するはずもない。

「座りなさいな。
 お茶を淹れてあげるわ」

「ありがとうございます、咲夜さん」

 妖怪である美鈴が人間の咲夜になんだか遠慮をしている。
 ナズーリンは咲夜の美鈴に対する態度が気にかかっていた。

「咲夜は先達への礼節を弁えているわ」

 レミリアがナズーリンの顔を見、先回りして答えた。
 ネズミの騎士は改めて気を引き締める。

(う、これは迂闊だった、不審が顔に出ていたようだ。
 それを見逃さないレディ・スカーレット、やはり【本物】か)

「……そうでしょうね」

 とりあえず応じたナズーリン。

「だって、咲夜の方が年上だし、先輩だもの」

「それはどういうことですか?」

 人間である十六夜咲夜が妖怪:紅美鈴より年長だとは思えない。

「ふふふ、我が家にはまだまだ秘密があるのよ」

 楽しそうに笑う紅魔館当主。

(むう、やはり咲夜どのには何かあるのか……
 気にはなるけど、今日のプライオは別にあるからね)

 ナズーリンはスイッチを切り替えた。



 立っているナズーリンを半円で囲むように配置された小卓付きの椅子。
 紅魔館の住人たちが座っている。
 たくさんの蝋燭がこれから始まる演し物の雰囲気を盛り上げている。
 お茶も行き渡り、開演を待つばかりとなった。

「さて、今宵、お聞かせするのは【野ばらの冒険】。
 野ばらと呼ばれるこの少女、ヒトではありません。
 妖怪のような魔物のような精霊のような曖昧な存在です。
 ですが、ごく普通に生まれ、ごく普通に暮らしていました。
 そんな彼女が突然巻き込まれた不思議な冒険のお話です」

 ナズーリンの一人芝居が始まった。

『その【石】を探すことが早道みたいね』
 
 野ばらが頼まれたお使いはいつの間にかちょっとしたクエストになってしまった。
 旅の途中で出会った不思議な人物たちとやりとりする主人公=野ばら。

『ねえ、お姉さんはどこに行きたいの?』
 ……
『野ばら、オマエは何も分かっちゃいない』
 ……
『お嬢ちゃん? この先はとーっても危険なのよ~』
 ……
『ならば教えて進ぜよう、泉の水を飲んだ者の末路を』
 ……

 ナズーリンはいくつもの声色を使い分け、少年少女、青年、熟女、老人になった。
 時にあどけなく、時に醜悪に、手振り身振りを交え、たくさんの登場人物を演じ分ける。
 そして所々でナレーションとして【素】のナズーリンが解説を入れた。

「……そう言いながらも野ばらはイヤな気はしなかったのです……」

 姫海棠はたては照明係。
 柔らかい室内履きで音もなく移動し、蝋燭を消し、点け、光量を調節する。
 ナズーリンが合図を送っているようには見えないのに絶妙のタイミングで【舞台】の雰囲気を盛り上げる。
 まさに阿吽の呼吸の師弟。
 それを目で追っているパチュリーは下唇を噛んでいる。
 この娘、ちょいちょい気が逸れてせっかくのお話に集中しきれていない。

『お、重いっ! うぐぐぐ……! も、もう少しっ!』

 腰を落とし、重い物を持ち上げようと踏ん張る【野ばら】=ナズーリン。
 野ばらのクエストはどんどん大事(おおごと)になっていく。
 いつの間にか【伝説の青輝石】を入手しなければならなくなっていた。

 聴衆は一様に拳を握りしめ、同じく力を込める。

『あとちょっとなのに! 
 それ、そこにあるのに!
 今しかチャンスはないのに!
 だれか、だれか、その【石】を拾ってー!』

 苦しそうに手を伸ばす【野ばら】=ナズーリン。

 ガタンッ!!

 思わず立ち上がってしまったのは芝居に飲まれたフランドール。
 駆け寄ろうとして美鈴に抱きとめられた。

「い、妹様、いけません!」

「そう、そのとき野ばらの切なる願いは届いたのです。
 その【石】を拾い上げてくれたのは……」

 ナレーター=ナズーリンが目の前まで迫ってきたフランに語りかける。

「だ、誰だったの? まさか……」

 お話に割り込んでしまったフランが恐る恐る問う。
 たっぷり間を取ったナズーリンが和やかに告げる。

「それは、怪猿【キュルス・トルス】!」

「う、ああーー! やっぱり助けにきてくれたんだ!」

 手を打って喜ぶフラン。

 冒険の序盤で出会った皮肉屋だけど誠実で知的な大猿の妖。
 偶然キュルス・トルス危機を救った野ばら。
 そして少しの間だったが、旅の道づれだった。
 二人はウマがあったようで軽妙洒脱なやりとりが楽しかった。
 いくつかのトラブルや問題もフォローしあって乗り越えた。
 目的地が異なるため途中で分かれてしまったが、短い時間で旧知のように心が通い合った。

 その彼がここ一番で駆けつけてくれたのだ。

「そう、【キュルス・トルス】の信条は?」

 ナズーリンが聴衆に問いかける。

「『受けた恩は必ず返す!』」×2

 フランドールとレミリアが同時に叫んでいた。

「そのとおり!」

 ナズーリンはにっこり。
 嬉しそうに涙ぐむフラン、そして思わず叫んでしまった自分に驚いているレミリア。
 観客がお話に割り込んでくるハプニングも難なくいなし、更に引きつける切っ掛けにしてしまう。
 熟練のパフォーマーにとっては造作もないことだった。

「でも、本当の危機はここからだったのです」

 語り部は低い音調に転じた。
 眉間に皺を寄せ暗い表情。

「え?……」

「【キュルス・トルス】はその【石】を野ばらに渡してくれなかったのです」

「どうして? 早く、早く渡してあげてよ!」

 お話に入り込んだままのフランドールが訴えた。

 ナズーリンは歯を食いしばり、激痛に耐えるがごときの表情で言った。

『……野ばら、すまん。
 今は、今はこうするしかないんだ』

 これは【キュルス・トルス】としての台詞。

「そう言い残し、野ばらをそのままにして立ち去ってしまいました」

 ナレーター=ナズーリンが続けた。

「すまん、じゃないよー! どうしてよ!
 助けに来てくれたんじゃないの!?
 野ばらを放っておくの!?」

 フランはこの状況に食らいついたまま。

「目の前で【石】を持ち去られ、愕然とする野ばら。
 しかもその相手が心を通わせた友人だったとは。
 力が尽き、心も砕けた野ばらは気を失ってしまいました……」

「いやあーーー!!」



 すべての蝋燭が一斉に灯り、部屋が明るくなった。

「さ、小休止とさせていただきましょうか?」

 明るい表情できっぱり告げるネズミの語り部。

「え? ええ!? 続きは!? 野ばらはどうなったの?」

 突然の場面転換が理解できないフランドール。

「幕間(まくあい)でございますよ」

 ナズーリンが微笑む。

「フラン、少し休憩なのよ」

「きゅう、けい? どうして?」

「ナズーリンは、かれこれ二時間近く演じっぱなしなのよ。
 少し休んでもらった方がいいと思わない?」

 姉が優しく諭す。

「……あ、そうか。
 騎士さま、ごめんなさい……」

 すぐに状況を理解した妹が申し訳なさそうに謝った。

「いえいえ、それほどご堪能いただけたとは恐縮です。
 少しお待ちくださいね。
 後半は更に盛り上げて参りますから、どうぞご期待ください」

 今宵一番の聞き手であるフランドールに特上の笑顔を見せた。

「咲夜、お茶を頂戴、皆にもね」

 正式に休憩に入る旨を当主が告げる。

「はぁ……」

「咲夜?」

「……は、はいっ、かしこまりました」

 咲夜もしばし立場を忘れるほど物語に没頭していたようだ。



 十六夜咲夜は少しだけ考えた。
 彼のヒトはずっとしゃべりっぱなしだったのだ。
 熱い紅茶が適しているとは思えない。
 メイド長はネズミの語り部にだけ違う飲み物を供した。
 薄目に作った冷たいレモネードを大きなグラスで。

 わたされたナズーリンは嬉しそうにゴクゴクと呷る。

「ふうーーーー、今この瞬間、最も欲しかった飲み物です。
 咲夜どの、この一杯、貴方の心配りで私の心身は完全に蘇りました。
【最高の】とは貴方に対する接頭語で定着させるべきだと思います。
 ……ん……ありがとう」

 最後は賢将の素のままの木訥な感謝だった。

「おそれいります」

 咲夜はいつものように冷静な応えだったが、その頬は少しだけ赤くなっていた。
 実は紅魔館勢の中でもっともナズーリンに【イカレ】ているのは十六夜咲夜なのだ。



 そして後半の部が開演した。

「さて、この泥棒少年が昨夜、どこにいたか覚えていますかな?」

「あ、橋の下だあ!」

「そう、そのとおり、だからこそ知っていたのですね」

 後半はちょいちょい観客を巻き込みながら話を進める。

『そこの娘さん、これはおいくらですか?』

 美鈴を店の売り子に見立て、品物の値段を聞く【野ばら】=ナズーリン。

「えっと……150、いえ、100で結構です、あはは」
 
『へえー、安い! じゃあ、二つくださーい!』

 一方的に話すのではなく、問いかけ、参加させ、一体感を構築していく。

 そしてクライマックス。
 野ばらの目的地はあと少し。
 決死の行動で【石】を奪い返した野ばらと【キュルス・トルス】。
 彼が一時的に【石】を持ち去ったのには理由があったのだった。
 しかし、奪還時に彼は瀕死の重傷を負ってしまった。

『野ばら、ここでお別れだ』

『どうして?』

『ご覧の通りさ、もう、まともに歩くことさえできない』

『私が背負っていくよ』

『ははは、オマエの足手まといになるくらいなら死んだ方がマシだ』

『そんなこと……そんなこと言わないでよ』

『ここで待っているから、気が向いたら帰り道で拾ってくれよ』

『でも、でも』

『オマエの目的を果たしてこい』

『……わかった、行ってくるね、必ず戻ってくるから』

「野ばらにも分かっていたのです。
 彼の命は尽きようとしていると……」

 ナレーター=ナズーリンの沈んだ声。
 目を潤ませたフランは口に手を当て、必死に堪えている。

『ああ、待っているよ』

「野ばらを優しく見送った【キュルス・トルス】がつぶやきました」

『生き延びろよ、野ばら……』

 穏やかに言った【キュルス・トルス】=ナズーリンは少し間をおいた後、くたっと倒れ、動かなくなった。

「う、うええええーん!」

 フランより先に泣き出したのは美鈴だった。

 そしてエンディング。

「目的を達した野ばらは幾人からとても感謝されました。
 素敵なモノをいくつか得ることが出来ました。
 しかし、大事なモノをいくつか失いました。
 そして、再び独りぼっちになってしまいました」

 ナズーリンが静かにエピローグを語る。 
 
「結果としてあんなことをしてしまったのです。
 もう故郷へ帰ることは出来ません。
 ……野ばらはこれからどうするのでしょう?」

 聴衆に問いかけ、少し間を置く。

「野ばらは旅に出ることにしたようです。
 自分が信じる、信じられる、信じたいモノを探す旅に。
 前より少しだけ他人の心に敏感になり、優しく接することが出来るようになった野ばらです。
 いつか望んだモノを見つけられることでしょう……」

 そして明るい口調で告げる。

「さて、今宵お届けいたしました【野ばらの冒険】。
 これにてお終いでございます。
 ご静聴、ありがとうございました」

 片手軽く胸にあてお辞儀し、終劇を宣言したナズーリン。

 ぱちぱちぱちぱち

 上気した顔で拍手するフランドール。
 それに釣られるように全員の拍手が追いついてきた。





「雨は止みそうにないわね。
 二人とも、今夜は泊まっていきなさい」

「お言葉に甘えさせていただきましょうかな」

 当主の提案に気取って答えるエンターテイナー。

(え、と、とま、とま)

 途端に慌て始めたパチュリー。
 両手を耳や口元や肩や胸に忙しなくパタパタとあてている。
 小悪魔への秘密のサインだ。

『ワタシノヘヤノソウジ、テッテイテキニ。
 シーツモカバーモシンピンニカエテオイテ。
 アト、コノアイダカッタ、フリフリセクシーシタギヲヨウイシテオイテ』

 必死のシークレットアクションだが、普段は動きの少ない病弱魔女が壊れかけのゼンマイ人形のような不気味な動きをし始めたので皆の視線が集中してしまっている。

 受信側の小悪魔は額と両肩をちょんちょんと触った。

『否』のサイン。

「どうしてよ!?」

 パチュリーは思わず怒鳴ってしまった。
 秘密のサインが台無しだ。

「咲夜、客室の支度を」

 紅魔館当主が告げるとメイド長は軽く頭を下げた。

(え、客室? ……そうか……そうよね)

 きょとんとなったパッチェさんだが、すぐに理解できた。
 なんといっても紅魔館は広い。
 客用の部屋などたくさんあるのだ。
 わざわざ誰かの部屋に押し込める必要はない。

「ナズーリンとはたて。
 二人は一緒の部屋でよいかしら?」

「絶っっ対ダメよ!」

「パチェ、アナタ、さっきからどうしたの?」

 分かっていて言っているレミリア。
 笑いを堪えるのに必死だ。

「い、いえ……なんでもないわ、なんでもないのよ……」

 真っ赤になって下を向いたパッチさん。




「お姉さま、今夜は一緒に寝てもいい?」

「かまわないわよ?」

 フランが遠慮がちに聞いてきた。

「【野ばらの冒険】のこと、お話ししたいの」

「そうね、それも良いわね、でも、話し終わったら早く寝るのよ?」

「もちろん!」

 吸血鬼の姉妹は笑いあった。
 アフターを楽しむようだ。



 パチュリーの私室。
 小悪魔がミルキーセピアを用意している。
 ホットミルクに蜂蜜とブランデーを少量加えた快眠を支援する柔らかい飲み物。
 不規則な生活サイクルの学究魔女は寝つきが良くない。
 そんな彼女のために小悪魔は就寝前にこれを飲ますことにしていた。

「それでは失礼します。
 パチュリー様、おやすみなさいませ」

 退出しようとした小悪魔だが、主人は何か言いたそうだった。

「どうなさいました?」

「もしかして夜中にはたてが私の部屋に忍んでくるかも知れないわ」

(……はあ? 何を言い出すんだか、この妄想魔女ッコは)

 目の前の学者魔女は【知】に関しては誰よりも努力する天才。
 そのポテンシャルは魔道の深淵、真髄に踏み込めるかもしれないと小悪魔は思っている。
 彼女に召還されたとき、そのあまりにも鮮やかで洗練された術式に魅了され『このヒトなら』とロクに条件も出さず従属を申し出てしまったくらいだ。
 その能力には素直に畏敬の念を抱いている。
 だが、大魔法使いの素質は十分なはずのこの娘、自分の恋愛については気の毒なほど色々と足りない。
 この問題に限ってはすっかり保護者気分の小悪魔だった。

「いえ、それはないでしょう」

「でも、万が一ってことがあるから」

「ですからありませんて」

「でも、その時のために準備が必要だと思うの」

「取り越し苦労でございますよ」

「でも、備えあれば憂いなしって言うし」

「気の回しすぎですよ」

「でも、でも、やっぱり」

「だから……んなこと、ぜってーねーですから!」

「ふぇ?」

「コホン、はたてさんは節度をわきまえている方です。 ご心配は杞憂でございましょう」

「そ、そうかしら?」

「そうですよ」

「でも、やっぱり鍵はかけないでおくわ。
 あ、私の部屋の場所、知っているのかしら?
 教えていないような気がするわ。
 どうしよう!?」

「心配しすぎですよ、必要ありませんから」

「でも」

「今度『でも』と言ったら、そのちんまい鼻の穴にグリーンピースを詰め込みますよ。
 おとなしくおやすみやがれでございます」

「う、うん」

 あまりに聞き分けのない妄想魔女に思わず語気を強めてしまった。
 しゅんとしてしまったパチュリー。
 その様を見てちょっとカワイそうに思った小悪魔は一転して猫なで声。

「あの、パチュリーさまぁ~? とりあえず機会を改めることにして、いつかはたてさんのおウチにお泊まりに行けばよろしいのではありませんか?」

「あ……そうか……そうね! アナタ、天才?」

 本気で感心している未来の大魔導師(仮)。
 どうしてここまでオツムが弱くなってしまうのだろう。

「そう呼んでいただいても構いませんがね。
 今日はお疲れのはずですからおやすみください。
 特に脳の一番大切な部分がほとんど機能していないご様子です。
 どうぞ速やかにおやすみください」



「お姉さま、野ばらも【キュルス・トルス】のことを愛していたんじゃないかしら?」

 フランがレミリアのベッドで呟いた。

「そうね、きっとそうね」

 二人は顔がくっつくほどの距離で囁きあっている。

「野ばら、かわいそう……」

「愛し合っていても必ず結ばれるとは限らないのね」

 妹は姉を見つめている。
 そして呟いた。

「いつか私もあんな冒険がしたいな」

「楽しいことばかりではないのよ? お話でもそうだったでしょ?」

「うん、そうだよね、でも、いつかもっと外に出てみたい。 ……ダメ?」

 長いあいだ閉じ込めていた妹だが、他者との交流を経て【言語による意思疎通能力】が発達してきている。
 コミュニケーションをとることが出来始めている。
 如何に悪魔と言えど、意思疎通ができなければ単なる【災厄】になってしまう。
 今の傾向は喜ばしいことではあるが、まだ不安は有る。
 何しろフランの小さな体に秘められた膨大な魔力はそのほとんどが破壊のためのもの。
 荒ぶる気持ちのまま力を振るえばそれこそ【災厄】そのもの。
 現状、レミリアはその時のフランの状態や行き先等を慎重に見定めた上で外出許可を出している。

「いつか、必ずね」

 答えた言葉は軽く聞こえるが、問題の先送りやごまかしではない。
 レミリアもフランドールと自由に外出する日を待っているのだから。





 翌朝、パチュリーは食堂に向かう廊下ではたてとばったり会った。

「パチュリー館長、おはようございます!」

「おはよう、昨夜はよく眠れた?」

「はい! とっても快適な寝室でした」

(ここに住んでもいいのよ。むしろ一緒に暮らしましょう)

 妄想モードにシフトしたパッチェさん。

「実はあのあと、こっそり館長のお部屋に遊びに行こうかなーって思っていたんです」

「へ? な……なんですって」

「でも、お部屋の場所が分かりませんでしたからあきらめました。えへへへ」

(う……う、うおー!! どおおおーりゃあああー!!)

 脳パチ(脳内にいるアクティヴなパチュリーのこと)が脳内在住のグロンギ小悪魔型怪人へ、怒りのライジングマイティキックを見舞った。破壊力五十トン、小悪魔怪人の半径三キロが大爆発した(脳内イメージ)。

(だから! だから言ったじゃないのーーー!!)

 砕けそうなほど奥歯を噛みしめるパチュリー。
 小悪魔のデコに【火符「アグニシャイン上級」】を内向きに貼り付けたまま全開発動させてやる、絶対やってやる。

 チュッ

(ほへ?)

 はたてがパチュリーのほっぺに軽いキッスをした。

「えと、朝の挨拶、モーニングキッスです。
 西洋風の場所だから挨拶も西洋風にしてみました……
 なんちゃって、えへへへ」

 少し恥ずかしそうに笑った。

(ふおうむう!)

 途端に怒りのパワーがそのままラヴパワーに強制変換される。

「じゃ、わ、わた、私もお返ししなきゃいけないわね!」

 自分より背の高いはたて。
 爪先立ちで背伸びするパチュリー。
 はたても膝を屈め、顔を傾け【おいでください】ポジション。
 あとちょっと、もうちょっとで届きそう。

「朝食のご用意ができております」

 十六夜咲夜が静かに告げた。

「さ、さ、さ、咲夜! いつからそこにいたの!?」

 びっくりしたなぁー、もおー(三波●介)

「『パチュリー館長、おはようございます!』のあたりからですね」

「ド頭から!? 全然分からなかったわ」

 何故二人ともその存在に気がつかなかったのか。

「気配を殺しておりましたから」

「はあ? いったい何のために?」

 思わず詰め寄るウブブ魔女。

「そのご質問に対し、明快な回答が見つけられません。
 強いて言えば興味本位でしょうか」

 淡々と答えるパーフェクトメイドにパチュリーは頭が頭痛で痛くなってきた。

 十六夜咲夜。

 伝説級の美貌と卓抜した戦闘力、一般常識もあり、的確な判断力をもって献身的に主人に仕える完璧な従者。
 どこを突ついても文句の言いようの無い幻想郷屈指の麗人。
 だが、身内は知っている。
 実はぶっ飛んでいることを。
 百分の一くらいの確率で繰り出されるのは、異常事態に慣れっこな紅魔館住人でさえ受け止めきれない『え? なんで? どうして? 意味分かんない!』な言動。
 普段がストレートに完璧なだけに、突然タイミングを外されたチェンジアップのようだ。
 つまり、手も足も出ない。呆然と見送るか、無様に空振りするしかできない。

「う……もういいわよ。でも、皆には内緒にしておいて」

「かしこまりました」

 まったく表情を変えずに軽く頭を下げる咲夜。
 パチュリーは不安を感じた。
 この忠実なメイド長が約束を破ることはないと知っている。
 なのに漠然と不安が残る。
 だから念のために聞いてみる。

「咲夜、なにを内緒にするのか分かっているわよね」

「もちろんでございます。
 パチュリー様とはたてさんが朝っぱらから乳繰りあって……」

 急に言葉を切った咲夜はポケットからメモ帳を取り出し、真剣にページをめくっている。
 そして『あ、これだ』と呟く。

「……『きゃっきゃ うふふ』だったことを口外しないということです」

 皮を剥いたままで放り出したようなダイレクトで雑な物言いだ。
 だが、パチュリーは不思議なアイテムの方に反応した。

「ねえ、咲夜、そのメモ帳、ほかになにが書いてあるの?気になるわ、見せてくれる?」

 そんなモノがあったなんて知らなかった。
 とても気になる。
 このちょっとだけバグのある完璧超人の思考・行動基準の謎に迫れるかもしれない。
 知識欲旺盛な密室魔女は探求心を刺激された。

「これは職務遂行にあたって必要な事柄や用語を記録しているものです。お見せするようなものではございません」

 きっぱりとはねつけられた。

「咲夜……私は、見せて、と言ったのよ?」

 立場の違いを分からせるように乾いた冷たい声。
 咲夜の眉間に少しだけ皺が寄った。

「パチュリー館長、それは無しですよ」

 それまで黙っていたはたてが割って入ってきた。

「私も取材メモや下書きの原稿は見られたくないですもん。
 館長も研究途中のノートを他人に見られたくはないですよね?」

 頬がくっつくほど笑顔を近づけてきた。

「そ、そうね…… 咲夜、すまなかったわ」

 自分でも驚くほど素直に謝罪の言葉が出た。
 これまで好奇心を満たすためには他人の気持ちなど斟酌しなかったパチュリー。
 今も高圧的な物言いをしてしまっていた。
 はたてと出会ってから少しはマシになってきたと思っていたのに。

(……私って、やっぱりはたてがいてくれないとダメなのかも)

「パチュリー様、お気になさらずに。
 朝食のご用意ができておりますので食堂へお越しください」 

 十六夜咲夜が穏やかに言った。
 今のことは水に流すということだ。
 きっぷの良さも魅力の一つ。

「あの、さっきの続きなんだけど……」

 超レアアイテム【咲夜メモ】は諦めるとしても、このままウヤムヤにしてはマズいような気がする。

「はい、内緒でございますね」

 にっこり。

「そ、そうね、頼むわよ」

(これでいい……いいのよね?)

 パチュリーは特A機密事項のつもりだが、紅魔館の皆さん、いや、幻想郷の誰にバレたとしても『ふーん、それで?』と返ってくるだろう。
『博麗神社のお賽銭箱はいっつも空っぽだそうだ』
『ふーん、それで?』てなもんだ。



 遅めの朝食。
 ナズーリンはすでに席に着いており、隣に張り付いているフランと談笑している。
 当主レミリアは妹に無理やり起こされたのかとても眠そうだ。
 悪魔の妹も基本的には夜行性のはずだが、今朝は元気一杯。
 ちゃんと眠ったのだろうか。

「それでねそれでね、騎士さま! 私が思うに……」

「良いところに気がつかれました。
 実を言えばそこが不思議なところでございますね。
 考えられるのは……」

 フランは昨晩の物語のなかで気になったことについて自説を展開しているようだ。
 ナズーリンは今朝も語り部に扮する【ネズミの騎士】として振る舞っている。

 雨は上がったようだが、外は未だ荒れ模様。
 時折突風が吹いていた。



 朝食後も椅子にもたれ、うとうとしているレミリア。
 今朝はハイテンションガールに『起きて! 起きようよ、お姉さま!』と耳元で騒がれた。
『起きないとくすぐっちゃうよ!』と体中を撫で繰り回され、挙句、最深部のイケナイところにまで手が滑り込んできたので飛び起きたのだ。

(まったく、フランったら……んー、二度寝しようかな)

 寝不足は美容の大敵なのだから。
 ナズーリンとはたては既に辞している。
 その際にフランが何か言っていたようだが、睡魔にほとんど負けていたレミリアは生返事をしただけだった。
 


「お嬢様!! 大変です!!」

 すーかすっかとソファーで寝ていたレミリアは咲夜と妖精メイドに叩き起こされた。

「ふが…… らぁにぃ?」

「妹様が! フランドール様が!」

 何やらただならぬ雰囲気。

「お嬢様! 妹様が!」

 レミリアは緊急起動する。

「落ち着きなさい! 何があったというの!?」

 咲夜はあわあわ言っている妖精メイドを制した。
 当主の冷静な様子を確認した。
 自分を落ち着かせるように小さい深呼吸をひとつ。
 そしてハッキリと告げた。

「三十分ほど前です。
 妹様が橋の上で強い風に飛ばされ、濁流に飲み込まれました。
 ナズーリンさんが後を追って飛び込んだそうです」





 レミリア達のように小柄な魔物にとって普段の生活で最も注意すべきなのは強風なのだ。
 魔力を発動し、自身の位置を固定しない限りは少女の外見相応の体重しかない。
 しかも大きな羽根があるため突風に煽られやすい。

 何故こんな日に外出したのか。
 咲夜の話によるとフランドールは『お姉様は良いと言った』と。
 来客を少し先の小径まで見送りたいとのことだった。
 
(あの時何か言っていたのはこのことだったのか……)

 レミリアは自分の迂闊さを呪った。

 己が不覚を悔やんでいるのは咲夜も同じ。
 天候を見て危うさを感じたが、主人の許可があるなら是非も無かった。
 念のため妖精メイドの中でも比較的優秀な二体(No.6&7)をお供に付けた。
 しかし、今にして思えばナズーリンの言葉をもっと心に留めおくべきだったのだ。

『咲夜どの、本当によろしいのか?』

 時を操れる自分がその場にいればこんなアクシデントは難なく回避できたのに。
 館の雑事など後回しにすれば良かった。
 
「咲夜! パチェを連れてきて! 美鈴も!」

 その命令が言い終わらないうちにメイド長は消えていた。
 そしてレミリアは表門に向かって走り出した。



 レミリアが表門に到着した時には既に咲夜、パチュリー、美鈴が揃っていた。
 フランと同行していた妖精メイド二体もいる。

 妖精たちの話では【お見送り】に出たフランドールはナズーリンの再三の注意にもかかわらず、弾むような足取りではしゃいでいたそうだ。
 そして橋の上で突風に持って行かれ、急流に飲まれた。
 突然のことに驚き凝固してしまった妖精メイドたちとはたて。
 だが、一秒も経たず、灰色の塊が川に飛び込んでいた。

『デスクーーッ!』

 すぐに飛び立ったはたては上空からしばらく濁流に沿って探してみたが、二人共見つけられなかった。
 このままでは手遅れになると判断したはたては橋上に戻り、呆気にとられている妖精メイドたちに指示を出した。

『あなた方はお屋敷に急いで伝えてください!
 取り敢えずここに来てもらうように!
 私は命蓮寺に行きます!』 



 美鈴がパチュリーと妖精メイドを両脇に抱え、力強く走り出す。
 もう一体の妖精は状況説明のために館内に残した。
 咲夜は薄い陽光からレミリアを庇いつつ、少しずつ時を止めながら目的地に向かう。
 この強風ではよほどの飛行能力がなければ宙に浮くのは危ない。



 姫海棠はたては突風を躱し、捌きながら全速力で命蓮寺に飛ぶ。
 川ならば河童かとも思ったが、あの濁流では手も足も出まい。
 千里眼の犬走椛もその所在が分からないのですぐに見つかるとは限らない。
 まずは居場所の確定できている命蓮寺に行くべきだと判断した。

 寺に到着したはたてはナズーリンたちのことを伝える。
 状況を聞いて青ざめる寅丸星。

「そんな……だって、ナズーリンは……ほとんど泳げないんです!
 ムラサ! ムラサーーー!」

 水難事故の第一人者を呼ぶ。

「どーしたのー?」

 駆け回ろうとしていた寅丸の前に当人がひょっこりと現れた。 

「ナズーリンとフランさんが川に飲まれました!」

「よし、詳しい話は後で! まずは出場だ! すぐ行こう!」

 普段はのほほん気味の船長さんだが、緊急時には頼りになる。
 ムードメーカーとラストアンカーの役割を瞬時に切り替えられる。



 命蓮寺組は橋の上で紅魔館組と合流した。
 簡潔な情報交換の最中にも、レミリアは今にも飛び込まんばかりの形相。
 吸血鬼である自分が流水、しかも濁流が相手では何もできないと頭では理解している。
 それでもじっとはしていられない。
 咲夜が当主のお腹に手を回し、がっちりホールドしている。

「流されてから結構な時間が経っているんだよね?
 考えらるケースは三つ!」

 村紗水蜜がこの場を仕切る。
 
「一つ目はいまだに流され続けている場合。
 二つ目は川のどこかに引っかかっている場合。
 三つ目はすでに川岸に打ち上げられている場合」

 キャプテンは指を立てながら説明する。

「一つ目と二つ目は私が確認するよ!
 皆は手分けして川の両岸を捜索して!」

 頷いた一同が行動を起こそうとした時、パチュリーが疑念を口にした。

「ちょっと待って、この濁流の中、アナタ一人で確認できるの?
 もっと川の中に人手を裂くべきなんじゃないの?」

 至極真っ当な意見だ。
 だが、元船幽霊は片目をつぶりながら軽く言う。

「大丈夫、水中は私だけで十分。そこらの水妖と一緒にしないで」

「ムラサ! 頼みます! 気をつけて!」

「アイアイサー!」

 寅丸のエールを受け、ムラサはすぐさま飛び込んだ。
 だが、飛沫はまったく上がらなかった。
 ぬるっと滑り込むように川に入っていった。

 ムラサは水を掻き分けながら進むのではない。
 元舟幽霊である彼女は限りなく水と【同化】するのだ。
 通常の水妖とは違い、水中では【個】ではなくなる。
 自分と水との境界がなくなり、認識の及ぶ水域すべてが自分になる。
 もちろん【個】として存在することもできるが。
 海中で怨霊となり、人々の恐怖と怨嗟を蓄積した分類し難い強大な水の魔物【ムラサ】なのだ。

『私、水の中なら強いんだけどなー』

 いつも軽い調子で言うが、ムラサに本気で水中に引きずり込まれたらかなり力のある魔物でも命はない。
 それが海ならなおさらだ。
 幻想郷に海はないのだが。

 水中で意識体となったムラサは水流を遙かに上回る速度で下流へと進んでいった。

 一方、川の右岸を咲夜と美鈴、左岸を寅丸と妖精メイドが進み始める。
 レミリアとパチュリーは風を避けるように橋の脇にある大木の下に移動した。
 この二人、今の状況では川岸を走って降りるのは無理だから。
 何故か最も機動力のある姫海棠はたても二人と一緒に残った。

 再び雨が降ってきた。



「フラン……無事でいて」

「水の精霊も風の精霊もこの状態では制御できない!
 力が足りないのよ! 私、こんな時に何も出来ないなんて!」

 吸血鬼の姉と魔法使いは大木の下、魔法障壁でとりあえず雨風を凌いでいる。
 それぞれに今の思いを口にする。

 そのクールドライな言動に隠れているがパチュリー・ノーレッジは【家族】に深い愛情を持っている。
 親友の妹の危機に無力な自分を激しく責め立てていた。
 そんな彼女にいち早く気づいた姫海棠はたては捜索隊に加わるより、この場でのフォローを選択した。

「パチュリー館長、落ち着きましょう」

 ぎゅっと抱きしめるはたて。
 少しだけ落ち着いたパチュリーが疑問を口にした。 

「……はたては、その、な、ナズーリンが心配じゃないの?」

 実はしたくはなかった質問。
 しかし、とても気になったので聞いてしまった。

「もちろん心配です、でも今、私が出来ることはありません。
 何かあれば私が一番早く飛べますからここにいるべきだと思います」 

 魔法で出現させた机の上には三つの魔石がある。
 捜索班には対になる魔石をそれぞれに持たせてある。
 強く握って念ずれば片方の魔石が光りだす仕組みだ。
 その時に緊急発進するのがはたての役割である。

「それにナズーリンデスクが無策のはずがありません。
 あの方は知恵と勇気の具現ですから」

 はたては賢将に心酔しているため、ある意味ナズーリンの【強さ】しか目にしていない。
 ほとんどすべてを理解している寅丸より楽観的になるのも仕方のないことであった。

 そんなはたてにちょっとだけ口を尖らせる図書館魔女。



「パチェ、あれは使えないの?」

 レミリアがパチュリーに向かってボールを掴むようなジェスチャーをしている。 

「あれって? 水晶球のこと?」

 水晶球。
 魔女が所有する検索アイテム。
 昔、万が一フランが外に出てしまったときに備え、マーキングをしてあった。
 そのことを今ではすっかり忘れていたのだ。

「あれはとても広域探査なのよ、ここで役に立つかどうか……」

 色々と自信を失いかけているパチュリーが弱々しく答える。

「館長! 今はそれでも必要だと思います! きっと役に立ちますよ!」

「パチェ、お願いよ……」

 はたてが力強く後押しし、レミリアが懇願する。 

「でも、水晶球は紅魔館、私の部屋の隠し箱の中よ。
 分かりにくい場所なの。
 私か小悪魔でないと見つけられないわ。
 いくらアナタでも行って持って帰ってくるには相当の時間が……」

 そう言いながら紅魔館の方角へ顔を向けたパチュリーの目が見開かれる。
 雨の中、小悪魔が小走りでこちらに向かってきていた。

 ずぶ濡れの小悪魔が息を切らせながら到着する。
 
「丁度いいわ! はたてと一緒に紅魔館に、私の部屋へ行って! 水晶球を持ってきて!」

 珍しく大声で命令するパチュリー。
 これで少しは時間が短縮できる。 

「パチュリーさま、ここに」

 小悪魔が手提げカバンから取り出したのは当にその水晶球であった。

 パチ、はた、レミはあんぐり。

「妖精メイドさんから状況を聞きました。
 もしかしたら必要になるかもと思いまして」

 息を整えながらも努めて平静に答えた。

「無断で持ち出しましたこと、お叱りは後ほど如何様にでも。
 ですが、これが必要なら一刻も早くお使いください」

 そして恭しく魔法の珠を差し出した。

「……スペカは無しにしてあげるわ」

「は?」

 パチュリーは水晶球の前で集中を始めた。





 ナズーリンは気を失っているフランドールの髪を撫で付けてやっていた。
 急流に飲み込まれてすぐに意識を失ったことが幸いしたのかフランはほとんど水を飲んでいないようだった。
 目立った外傷も無い。
 さすが吸血鬼、頑丈な体だ。
 じきに目を覚ますだろう。

 橋からかなり離れた川岸、風雨を避けられる木立まで何とか担いできて今に至る。

 フランを追って飛び込んだナズーリンはすぐさま【耐水魔法】を展開した。
 昔、ダンジョンで水責めにあい、死にかけたのでその後に苦労して身につけた魔法だ。
 呼吸は問題ないが元より泳ぐことは苦手の一つ。
 妹吸血鬼を確保するまでにかなり流されてしまった。

(やれやれ、こんなことになるとはね。
 体が勝手に動いていたか…… 我ながら無茶をしたものだ。
 おっと、お姫様のお目覚めだね)

 もぞもぞっと動いたフランドールの目が開いた。

「具合はいかがか?」

「……ネズミの騎士さま? ここは?
 あ! 私! 川に落ちて! 川に!」

「もう大丈夫、助けが来るまでここで待ちましょう」

「騎士さまが助けてくれたの?」

「【騎士】たる者【姫君】のために身を投げうつのは当然のことですよ」

「そんな…… あ、ヒドい怪我!」

 ナズーリンの右ふくらはぎの半分ほどが青黒く変色している。

「大したことはありませんが、歩くことはできないようです」

 激流の中、岩にぶつかってしまった。
 骨にひびが入り、かなり内出血を起こしている。

「……痛いんでしょ? 私のせいで……
 私の力では、こんなとき、なにもできない……」

「フランドールどの、気になさるな。
 痛みは意識から切り離してあるので大丈夫ですよ」

 落ち込むフランの頭を優しく撫でる。
 こんな時まであくまで【騎士】として振舞うナズーリン。



「騎士さまは私を【妹】と呼ばないのね」

 落ち着きを取り戻したように見えるフランがナズーリンに話しかける。

「もちろんレディ・スカーレットの妹君と存じ上げております。
 しかし、フランドールどのはフランドールどのでしょう?」

 事も無げに言った。

「う、うん……うふふ」

 なんだかとても嬉しい。
 今では尊敬する姉。
 その妹と呼ばれることも嬉しいが、やはり続柄ではなく、個人として尊重されると格別の嬉しさがある。

「あのね、私、おかしかったのよ、今もおかしいのかも知れない」

 突然の告白に賢将は慎重に答える。

「私にはそうは見えませんが?」

「今はとっても楽しいの、私、お姉様も皆も大好きだし。
 ……でも、怖いの。
 いつかまた壊れてしまうんじゃないかって。
 ワタシが、ワタシが! 自分で自分を壊してしまうんじゃないかって!」

 フランが縋りついてきた。
 この異常なシチュエーションで感情の振り幅が大きくなっているようだ。


 その狂気ゆえフランはずっと屋敷の地下室に閉じこめられていた。
 閉じこもっていた。
 魔族の生まれながら、純粋で好奇心旺盛。
 しかしながら常識という概念に疎く、加減を知らない危険な存在。
 だが、異変以降、外に、他人に興味を向け始めた。
 それでもこれほどの大きな不安を今でも抱えている。

「大丈夫ですよ。
 こんな、これほど優しい娘さんがおかしいなんてありえない!」

 フランの肩を掴んで真正面から告げる。

「……ほんと?」

 掠れた弱々しい声。

(感情の波長が乱れ、振幅が極端に短くなるため短気を通り越し狂気に至ると聞く。
 この娘の不安定な感情はもう少し修復しなくてはならないだろう。
 もう一息だ、もう少しで【治る】はずだ。 
 狂気に至る波長か……【波長を操る程度の能力】を持っているモノがいたな。
 ふふふ、また一つ永遠亭にお邪魔する理由が出来てしまったな)

「本当です、私が保証します」

「うん……」



「お二人は不思議な対ですね。
 対抗する位置ではない、対照的でもない。
 色彩で例えれば、レミリアどのは純粋な真紅。
 フランどのはたくさんの色が複雑に組み合わさった華麗なコンビネーション。
 比較するものではないでしょう。
 私はフランどのの複雑さも好きですよ」

「ほんと? ほんとに?」

 今この娘に必要なのは自己肯定の後押しだ。

「私は貴方に嘘は申しません。
 ……直にお姉様や紅魔館の皆さんが助けに来てくれますよ。
 もう少し我慢して待つとしましょう」

 そう言って柔らかい金髪を撫でた。

(はたて君がきっと何か手を打っているはずだ。
 待っていて大丈夫だろう)

 ナズーリンは一番弟子を名乗る鴉天狗を信頼している。

「うん……」

 フランは自分の髪を優しく撫でてくれている騎士を見つめていた。
 そしてその服装に違和感を覚えた。

「騎士さま、ペンダントは? 青いペンダントはどうしたの?」

「ん? ペンデュラム? どうやら流されてしまったみたいですね」

(ありゃー、まいったな。
 良い石を探して、削って磨いて、魔力を込めて…… 面倒だが仕方ないか)

「え、そんな……」

「仕方のないことです」

「私のせいで……」

「心優しいフランドールどの。
 気に病む必要はございませんよ」

「でも」

「貴方が無事だったのです、それで良いではありませんか」





「見つけたわ! 左の川岸……一里と少し先!」

 パチュリーの探査網にアタリがきた。
 すぐさま姫海棠はたてが飛び立つ。





 パチュリーが叫んでからは早かった。
 二人はそれほどの時を置かずに救助された。

「レディ、ご心配をおかけしました。
 もちろん妹御には傷一つございませんのでご安心ください」

 こんなになっても小芝居を続けようとするネズミ妖怪。
 自分は支えが無ければ立てないほどの傷を負っているくせに。

「よ、良くやってくれたわ」

 レミリアは本当は抱きついて感謝したいが、こう言われれば意地を張っているネズミに付き合うしかない。

 毛布に包まれたフランを美鈴がしっかりと抱きかかえている。

「騎士さま、ありがとうございました」

 そう言うフランの声は安堵と疲労で小さい。 

「皆も、本当にありがとう。
 いずれ必ずお礼をさせていただくから」

 レミリアは、はたて、寅丸、そしてムラサに向けてほんの少しだけ頭を下げた。
 そして改めてナズーリンを見る。

「【紅魔の騎士 ナズーリン】このたびのこと、まことに大儀でした」

 紅魔の騎士はゆっくり片膝をついて応えた。

「ありがたきしあわせにございます」





「良かった」

「ご主人、心配をかけたね」

 紅魔館組が引き上げた後、寅丸星はナズーリンを抱きしめていた。

「良かった」

「ごめんね」

「良かったぁ」

「うん(いつまでこのままなのかな……)」
 
「あのさー、早く手当をした方がいいんじゃない?」

 キャプテンがたまらず口を挟んだ。
 はっとした寅丸がムラサに首を向ける。

「む、ムラサ、手間をかけさせてしまいましたね」

「いやー、私が見つけたんじゃなくて良かった。
 大事にならないで良かったよー」

「ナズーリンのために、ホント、ありがとうございました」 

「なーに言ってんだよ! 水臭い!
 あら? それこそ今のワタシは【水臭い】ってかー!?」
 
 カラカラと笑った。

 はたては今回の騒動のあらましを頭の中で整理しようとしていた。
 だが、デスクから『私がメインになった事件は記事にするな』と日頃から言われているので諦めた。 

(残念ですが、デスクの武勇伝は私の心の事件簿にだけ記録しますかね……えへへへ)





「お嬢様、あの方、ナズーリンさんは泳ぎが苦手なのにあの状況で飛び込んだそうです」

「咲夜、それ誰から聞いたの? もしそうだとしたら全く無謀、蛮勇だわ」

「え? そんな仰りようはヒドイと思います。
 フランドール様を助けるために飛び込んだんですよ?」

「そうね、あの知恵者が無策のはずはなかったと思うけど、なかなか出来ることではないわね」

「お嬢様……」

「分かっているわよ、分かっているって! そんな顔しないで!
 私はもう認めているし今度お礼もキチンと言うわよ!」

「もう少し素直になられてもよろしいかと」

「さっきは仕方ないでしょ! 【騎士さま】と【レディ】だったんだから」

「あの方が【紅魔の騎士】なのですね」

「そうよ、最初は冗談半分の【ごっこ遊び】だったけど、しょうがないじゃない本物の勇者なんだもの」

「しょうがないって、これもまたヒドイですね」

「だから! あの時ちゃんと任じたじゃない【紅魔の騎士ナズーリン】って!」

「あの、それ、とても……カッコいいです」





 事件から一週間後、命蓮寺を訪れたレミ、フラ&咲夜。
 ナズーリンに面会を申し出た。

「これは皆様お揃いで、いかがなされた?」

 傷の癒えたナズーリンが出迎える。

「先日はどうも。
 フランがアナタにお礼をしたいらしくてね」

 進み出たフランドールが両手を差し出す。

「【紅魔の騎士】さま、どうかこれを受け取ってください!」

 吸血鬼の妹が差し出したのは青い八面体。

「これは……ペンデュラム? いや、これって!」

 ナズーリンはこの正体がすぐに分かった。
 フランドールの宝石羽根を加工したものだ。

「分かったようね。
 もう二度と宝石羽根は使わないと約束させたんだけど、今回だけどうしてもと言うから」

 レミリアがフランの肩を抱きながら言った。

 自分のために騎士さまの大切なアイテムを失わせてしまった。
 フランは半日考えた末、結論を出し、姉に相談した。
 姉は『今回だけよ』と溜息混じりに了承してくれた。

 力を込めた。
 具体的になにをすれば良いのか分からなかったが両手で握りしめ、一心に念じた。

『騎士さまの役に立て 騎士さまの力になれ 騎士さまを守れ』と念じた。

 数日の間、かたときも離さず魔力を込めた。
 極めて短期間ではあったが、青い宝石羽根には純粋で極上の魔力が宿った。

 ナズーリンは珍しくたじろいでいた。

(……これは最上級のマジックアイテムだ。
 よほど注意して使わないとヤバイな。
 しかし、こんなもの簡単に受け取れない…… 
 いや、ここまでの思い、受け取らないわけにはいかないな)

「フランドールどの、ありがとうございます。
 まことに素晴らしい品です!」

 悪魔の妹が花開くように笑った。

「よかったーー!」





「ねえ、ご主人」

 寅丸の居室で新しいペンデュラムを弄びながらナズーリンが声をかける。

「こんな物をもらったらホントに騎士にならねばならなくなるかもだね。まいったなぁー」

 星は少し口を尖らせ眉根を寄せている。

「勝手にしなさい!」

 ぽすっと抱きつくナズーリン。

「ヤキモチ焼きのごっしゅじ~~ん」

「なんです! はなれなさい!」

「もー いつも言っているじゃないか、ご主人以外はすべて泡沫(うたかた)の夢だって」

「そんなこと言って、誰かが困ってたらすぐに飛んでいっちゃうくせに!」

「ヤキモチ焼きのごっしゅじ~~ん」

「それ、ヤメてください!」

 特上アイテムを手に入れて浮かれているナズーリン。
 そして、超-面白くない寅丸星。

 まぁ、たまにはこんなこともある。



                           了
 
お読み下さりありがとうございました。
ナズーリンシリーズ、紅魔館編(?)でした。
ナズの一人芝居、妄想パッチェさん、ムラサの勝手設定、やりたい放題です。
ペースはおっそーーいですけど、まだまだ書きますのでよろしくお願いします。

11/24の例大祭【つ28a】でお待ちしております。
売れ残っている既刊(゚(゚´Д`゚)゚)も持っていきます。
紅川寅丸
http://benikawatoramaru.web.fc2.com
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コメント



0.570簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
ナズが新しい遊びを開発している…(ヤキモチ焼きの〜)
芝居語りで思ったんですが、アリス、良い役者がいるぞ、スカウトするんだ(まだ未登場だけど)
うどんに用事もできたし、幻想郷で主立った連中全員と関わりができるのも遠い日では無い…のか?
(1〜2ボスとの関わりもパルパルとみすちーくらいしか無いですが)
9.無評価紅川寅丸削除
4番様:
 ありがとうございます。
 ナズの「寅丸遊び48手」の一つです。
 アリスはパーティーの時にちょろっと出したくらいですね。
 作り込まれたキャラなので慎重に書きたいと思っています。
 近いうちにリグルが大活躍します(多分)。
10.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズ昔から見てるんだよなぁ。
投稿スピードもっとあげてくれー(わがまま)
11.無評価紅川寅丸削除
10番様:
 見捨てずいて下さりありがとうございます。
 間隔があきすぎてごめんなさい。
 今後の投稿作で挽回しますからこれからもよろしくお願いします。
12.100名前が無い程度の能力削除
面白い。
13.100名前が無い程度の能力削除
パチュはたやフランの成長に目がいきがちだけど、キャプテンの能力や美鈴の設定がいいですよね。
関係ないですが最近ロールの楽しさに目覚めました。特に異性の演技は語り手として楽しみでありハードルの高い部分でもあります。
はたての演出も含めて騎士さまに労いを。GMお疲れ様。
パチュはた応援してます。
14.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの方が年上?
何かあるんですね。
この先が楽しみです。
15.無評価紅川寅丸削除
12番様:
 ありがとうございます。

13番様:
 『キャプテンの能力や美鈴の設定』いやー、ここ見てくれましたか。嬉しいー! ありがとうございます!
 察するにTRPGの経験者様ですかね? 昔、一度だけGMやったんですが「語りすぎだ」と注意されました(トホホ)。

14番様:
 ありがとうございます。
 ウチの咲夜は秘密がイッパイです! 勝手設定を消化できるよう、頑張ります!
16.100名前が無い程度の能力削除
旧地獄のとき変態ブーストしてたせいか今作は終始イケメンナズーですね!惚れる!
大人数が登場しているのにキャラクター一人一人ががっつり濃くてしっかり動いてて誰も埋もれない、紅川様の作り込みにパルパルッ
そしてまた紅魔館の秘密をチラつかせて全裸待機させるおつもりですね…!
勇パルに赤ちゃんできるまで追いかけますよッ……!
楽しい時間をありがとうございました!
19.無評価紅川寅丸削除
16番様:
ありがとうございます。
ちょっとカッコつけすぎでしたかね……
それに伏線張り過ぎで回収できるかどうか、いえ、やりますとも!
のんびりとお待ちください