Coolier - 新生・東方創想話

ぼっちでもさみしくないっ!

2014/11/18 19:16:42
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 クリスマスである。

 外の世界では既に廃れてしまったのだろうか、幻想郷にも当たり前の行事として受け容れられたようである。

 早くも師走の中頃から、各所が色めきだっている。



「ぶっちゃけどーでもいー!」

 悪魔の妹こと、フランドール・スカーレットはベッドに身を投げうった。
 ふかふかの毛布がぼふっと波打って彼女の身体を包み込んだ。
 ジト目で天井を見つめながら、いかばかりか不機嫌そうに呟いた。

「だいたい! どうして悪魔が基督のお祝いをせにゃならんのか。姉上はどこか始祖たる自覚に欠けているのでは無いか!」


 ペラペラと独りごちてみても、冷たい地下の天井に吸い込まれて消えるばかりで、むなしさは募るばかりだ。


 あろうことか、紅魔館では忘年会のついでにクリスマスパーティが盛大に行われていた。

 おそらく、上の方は今頃それで大盛り上がりだろう。幻想郷で西洋かぶれはうちしかない。
 ますます、フランの不機嫌は募るばかりだった。


 彼女自身もどうしてこうまで気に病むのか、その理由が解らなかった。
 いつも通り地下に潜ってやり過ごせば良い。そう考えてみて、もちろん実行したが、気分は一向に晴れない。

「寂しいのか、ですって? はっ! この私が!? 姉様でもあるまいし、いまさら。私は一人だって平気なんだから! むしろ、せいせいするわ」


 その言葉に嘘は無かったし、嘘をつく必要も無い。
 フランは人がたくさん集まるところが好きではない。居るだけで気が狂いそうになる。

 いや、もう既に狂ってるとかそういうのはひとまずおいておいてだな。


「だいたい、長い事ここに篭っていたのだから、いまさら、人とどう接して良いかなんて、解らないし……」


 自分の匂いがする毛布に顔を埋めて、今度は小さく独り言。


「楽しいお祝いの場に、私が出ていって、わざわざ壊してしまっても悪いしね」


 そう、祝いの席に、私は場違い。
 フランはそう思い込んでいた。

「……魔理沙、来てるかな……?」


 色鮮やかな彼女の翼が小さく振れていた。
 そのうち、何を思い立ったか、ひとしきりベッドの上をのたうちまわった後、

「う~! あ~!」

 立ち上がって吠えた。


「……何やってんだ、あたし」


 情けなくなって、また毛布の引力に引かれて落ちる。
 まるで電気でも通したみたいに手足をビクンビクン痙攣させて、

「……お腹減った」


 力尽きた。


「あー! ぼっちがなんだっていうのよ! そんなの辛く無いやい。うん百年の間、ずっと一人だったじゃないの。慣れてるわよ、そんなの」


 そう独りごちたのを最後に、フランは本格的に動かなくなった。


「寝よ……」


 どうにもならない時はこれが一番だ。
 何より、誰にも迷惑をかけずに済む。

 そうして、聖夜は更けて行く。


「……ねぇ、いい加減、起きなさいってば」


「……?!」


 フランは身体を揺さぶられて、跳ね起きた。


 そして、そこに居た者の姿を確認して……目を疑った。


「……姉、様? 何よその格好! あはは、おっかしい!」


 レミリアは真っ赤な衣装に身を包んでいた。サンタの猿真似を気取っているらしいが、何故かミニスカート着用だった。


「むむむ、そんなに変かしらね、これ。意外と好評だったのよ?」


「いやま、可愛いとは、思うけどさ」


 そういってフランは顔を紅くした。
 レミリアも今更素に戻ったのか、衣装に負けじと頬を紅潮させた。

「……って! なんで姉様がここに居るのよ?! パーティはまだ終わって無いでしょう?! それに鍵かけて置いたのに……って、あ~?!」


 最後まで台詞を言わせてもらえなかったフランは、レディにあるまじき奇声を発した。
 無理もない、自室の扉からグングニルが生えていたら、誰だってそうなる。

「ぶち破っちゃった♪」


 てへっ、とでも言いたげに舌をちまっと出してかまととぶるレミリアに、フランは不夜城レッドだった。


「なにしてくれんのよ~?!」


「まあまあ、後で咲夜に直させるからさ~。今晩だけ赦して、ね?」


「……ふん、まあ良いけどさ、咲夜にまた大目玉喰らうのは姉様なんだからね」


「げ……っ。……ふふふ、だだだ、大丈夫よ、フラン。咲夜だって、自分の主に対してあれ以上の仕打ちは、しないだろうし。うん、耐えて見せるわ、可愛い妹のためとあらばっ!」


「いくつになっても咲夜には頭が上がらないんだね、姉様は」


 レミリアは全身を恐怖で震わせていた。
 何があったか知らないが、以前手酷くお仕置きされたらしい。


「話が大きくそれたけどさ、なんで姉様がここに来てるの? それも主賓をほっぽらかしてさ」

「あ~。うん、それは……ね。……いいじゃない! たまには姉妹二人きりで細々とパーティするのもさっ!」

 しどろもどろになって、レミリアがなにか言い訳めいた説明を考えている隙に、フランはテーブルに小振りなケーキが置かれているのに気が付いた。

「そう、あたし、また霊夢に振られちゃったのよね~。……慰めてぇ、フラン」

「わ、お酒くさいわよ、はしたない」

「フランも呑めばいいじゃないのよ」

「バカ言わないでよ、そんな事して抑えが効かなくなったらどうすんのよ……」

 この力が暴走してしまったら、みんなを傷付けてしまいかねないし、下手したら咲夜を殺してしまうかもしれない。
 姉といつも一緒にいる彼女に対して、もう一人の自分が嫉妬しないとも限らないのだから。

「私が可愛いからって、姉妹で……そんな……困るわっ!」
「本気でモジモジすなぁ!」

 フランは姉に対して全力でツッコミを入れた。

「襲ってくれないの?!」

「どうしてそんなに残念そうなの?!」


「貴女が好きだからよ」

 真顔でそんな事を言われて「ああ、やっぱりこいつ酔ってる」と思う自分と、本気で動揺しにかかる約三人分の自分がフォーオブアカインドで、結果としてフランはそっぽ向いて紅くなった。多勢に無勢では分が悪い。

 そんな事をしている間に、レミリアの腕が背後から回された。
 心臓がビクンと跳ねる。姉の声が、耳元で優しく囁かれた。

「魔理沙、来てたわよ」

「うん……」

「来年は、みんなの前に出られると良いわね」

「うん……」
 どうして、どうして、この姉は、自分より自分の事を理解してしまうのだろうか。

 何百年も離れ離れだったにもかかわらず。
 レミリアの言葉はフランの柔らかいところに突き刺さって、止めどなく涙が溢れ出した。

 姉にはこんな姿、絶対に、意地でも見せたく無かったのに。

「いいのよ、今日くらいは、ね。さ、今日は夜明けまで居てあげるから」

「姉様……?」

「なに? フラン」

「メリークリスマス」

 こんな事なら、悪くはないな、と。
 そう思えたんだ。
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コメント



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10.80aikyou削除
優しいクリスマスの光景ですね。内気なフランが可愛かったです。