Coolier - 新生・東方創想話

首フライング体験期間

2014/11/06 23:38:16
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今はたぶん、太陽が一番高いところにあるはずなのに太陽の光は黒くて分厚い雲と、そこから降り注ぐ濁った雨粒に遮られてしまってまるで夜明け前のように薄暗い。
今日の雨は大粒で量も勢いもあるかなり強い雨だ。当然雨音も強くて、視界もかなり悪い。
人間はこの雨を疎ましく思うのだろうけど、私は雨が好き。
人は体が雨に濡れて凍えて体調を崩すけれど、血の通わない人形の体を持つ私には関係のない話。人形の体も凍り付くほど冷えるならそれは恐ろしいけど、水に濡れたくらいじゃ何の問題も無い。
人はこの雨に濡れて、髪が傷むことを恐れる。だけど私の髪はそんな程度じゃ傷まない。
もし傷んだとしても、髪のきれいな人間の女の子を一人捕まえて、根こそぎいただいていけばいい。髪を新しくした私がどうなるか、それもとても楽しみだから。
人は雨雲が太陽を隠し、暗くなるのを恐れる。
捨てられてから一人で何もできずに数えきれない夜を過ごした私が、この程度の薄暗がりに思うことなんて一つも無い。この程度で怖がっていたら夜に生きる妖怪なんてやれやしない。
人はこの雨に含まれるわずかな毒素を恐れる。
私が集めるために動かなくても、勝手に空から毒が降ってくる。まさに恵みの雨よ。
私にとっては何の脅威にもならない雨を忌み遠ざけようとする人間を見ていると、私は人間よりもよほど上等で、人間は私の足元にも及ばないくらい愚かな生き物である気がして、とても気分がいい。
だから私は雨が好き。
だからと言って雨に対して思うところが無いわけじゃない。
まず、雨で柔らかくぬかるんだ泥が好きじゃない。
雨でただ濡れる分には我慢できるけど、歩く度靴が泥にまみれて、はねた泥が足や服の裾にこびりつくのが、すごく気分が悪い。
水を吸った服が、髪が、体に張り付いて、まとわりついてとても不愉快で、それに重い。
私の魅力をを最大限に引き出してくれるこの服だけど、びしょ濡れになるのには向いてない。布が多いから、水を吸う量がただ事じゃない。おかげで雨が止んだ後はいつもよりも疲れる。
雨の日に外に出るなら、きっとチルノみたいな簡素な服が合うんだろうな。あんな恰好するのはゴメンだけど。
一番嫌なのは、この視界の悪さと、雨音の大きさ。
雨が強いと周りがろくに見えない。何もない、少し背の高い雑草が生えてるだけのただっぴろい草むらでさえ見通しが利かなくなる。
人間みたいに、見えないのが怖いわけじゃない。ただ、視界が悪くなると自分がどの方向に向かって歩いてるのかわからなくなってしまうからとても困る。
それに加えてこの大粒の雨が地面を叩く音が合わさると、見えない聞こえない。昼中でも夜の暗闇と同じくらい危険な場所になる。
静かで音が聞こえる分、夜の暗闇の方がまだ安全かもしれない。
雨の音が、かき消してしまうから。危険が迫るっていることを伝える風の音を。
普通に考えたらこんな悪天候の中、スピードを出して飛び回るなんて危なっかしいことする奴なんてまずいない。
まずいないけど…いないわけじゃない。
そんなバカのおかげで、私はいま首から上、頭一つで四散した四肢とそれを付けるための胴体を探す羽目に陥ってる。
雨音がかき消してしまった。危険を告げる風の音を。
歩く度、靴越しにぬちょぬちょとした泥の感触が伝わってくるのを我慢しながら、雨中散歩を楽しんでいた私に向かって、あいつは真正面から突っ込んできた。
私に気付かなかったのか、それとも気づいた上でそうしたのかはわからないけど、奴はスピードそのままに私の胸に激突。
怒れる雄牛さながらの突撃を受けた私の体は、まるで爆発したみたいに首が、四肢が体から離れていった。
こんな強い衝撃を受けると、私の体は吹き飛ぶんだ。
私と別れ、雨に中シルエットになった手足を目で追いながら、頭だけの私は妙に冷静にそんなことを考えていた。
胴体から切り離され、回りながら宙を舞った首だけの私は緩やかに回転しながら、背の高い草むらにポトリと落ちる。
舞い上がる中、頭から吹き飛ばずに残ってくれた両目が、犯人が雨の中に消えていくのを見届けた。
顔を泥に沈めながら、首一つの姿で私は考える。
私は今、何を考えるべきなんだろ。
バラバラになった手足胴体を探すこと?
私にぶつかった奴をどうやって探し出して、同じ目に合わせてやるか?
それとも、泥の中に軽く沈んでるこの状態からどうやって抜け出すか?
幸いなことに、雨に含まれる毒素のおかげで首だけになっても当分は活動を続けられる。そもそもこの雨が無きゃ、こんなことにはならなかったかもしれないけど、今はそんなこと考えてもしょうがないね。
頭が地面にあるから、雨粒が地面を叩く音が間近で聞こえてきてすごくうるさい。これじゃ集中できないよ。そんな甘えたこと言ってられる状態じゃないけど。
体が元に戻らなきゃ、犯人を捜せないし、同じ目に合わせてやることもできない。だから体を探すのが先だよね。で、このぬかるみから出られなきゃ体を探しに行けない。
となると、まずはここから抜け出して、次に体を集める。そうしたら犯人を捕まえて、同じようにバラバラにして体をばらまいてあげる。
これで完璧よ。
そうと決まれば、この気持ちの悪いぬかるみからとっとと出ないと。

だけどこれがそう簡単にはいかなかった。
普段自由に空を飛べるんだから、首だけになっても小さく跳ねるくらいはできると思ってたけど、首一つになった私にそんな力はないみたい。
浮いたり飛んだり跳ねたりはできないけど、目も鼻も口もあごも全部動く。特別動かないところは無いみたい。
そうなると、移動するためには下あごを開けるだけ開いて、押し上げる。そうしたら後ろに戻らないように気を付けながら下あごを元に戻す。これを繰り返して芋虫みたいに進むしかなさそう。
当然、一度進むたびに度に口の中に大量の泥が押し寄せてくるし、私の小さな口を精一杯広げても気持ち程度しか進めない。
ほんの少し前に進むだけで、その度に自慢の髪は泥に塗れ、お気に入りのリボンは泥水に汚されていく。
気持ち悪い。辛い。
土砂降りの雨の中、行き先もわからず、何の手がかりも無く勘だけで、かたつむりにも劣る移動スピードで探す。
考えただけで気の遠くなるような話だけど、捨て人形から妖怪に成るまで何もできずにただ待ち続けてた頃に比べればたとえほんの少し、少しずつしか進めなくても自分の意思で動けるだけ何倍もマシに思える。
震えることもできず、ただひたすら自分の意識が終わる瞬間を恐れ、それを待つだけだったあの頃と比べれば。
それに今の私には希望がある。夢がある。人形の解放。私の自由。犯人の追跡、復讐。
成し遂げるまで私は止まるわけにはいかない。だから私は体を探す。だから私は進み続ける。
ほんの少しの毒素と、輝かしい希望、どろどろの復讐心を原動力に私は進む。
当然不安もある。
体の損傷なら、時間はかかるけど治せる。でも、バラバラになった手足を集めたところでまたくっついてくれるかどうかはまだ試したことのない未知の領域。
体の全て見つけ出しても、元通りにならなきゃ意味が無い。可能性の事を今考えても意味は無いけど、無視はできることじゃない。
それにもっと大きな、可能性じゃなくて確実な問題もある。
もし一番最初にみつけた部位が、胴体以外の手足だったら見つけてもどうしようできない。
何かの間違いで頭とくっついたとしても、頭から直接手や足が生えてる姿なんて絶対嫌だ。気持ち悪いし可愛くない。
妖怪としては百点満点な姿かもしれないけど、私の目指す未来図はそんな物じゃない。
四本の手足に対して一つの胴体。確率は五分の一。かなり低い。
どんな確率でも、進むしかないんだけど、どうせなら直感で分かるとか、何か信号を出してくれるとか、何か進む指針になるものがあればよかったのになあ。
私の体って気が利かないなあ。

下顎だけで這い始めてどれくらい経ったかな。
無心で這ってきたけど、一歩が小さすぎるから全然進んでる気がしない。
ひたすら前に進んでくうちに、顔にかかる雨水も、口から出たり入ったりする泥も、気にならなくなってきた。なんだか野生化してるみたいでちょっと嫌だ。
日が沈んで辺りは完全に暗くなった。相変わらず雨は降り続いてて、月明かりはこれっぽちも差さない。気が付けば目の前の草の影も見えない真っ暗闇だよ。
当然だけどいくら雲が太陽を遮ってもやっぱり朝の方が明るいね。
五体満足ならともかく、首だけしかないと目を開いても何も映らない暗闇はさすがに少し心細いけど、日中も似たような状況だったから気にしないようにしよう。
それに雨が降りやんじゃったら、毒素の供給が止まっちゃっていつまで動き続けられるかわからないから、雨が止んで気持ち程度の明かりが差すよりも降り続けてくれた方がいい。
雨が止んだらこの泥も乾いて進みにくくなっちゃいそうだし、この顔についた泥が固まったらもう進めなくなりそうな気がする。
私がこんなことになってる原因はこの雨なのに、止まれたら困るなんて変な話ね。
今の時間も私がバラバラになった時間もわからないけど、あの時かなり高いところにあった太陽が完全に沈んだってことは多分もう4時間以上は経ってるのかな。
長期戦になるってわかってはいたけど、それだけ時間がたってもまだ指の一本も見つかってないのは、ちょっと心が折れそうだわ。
こんなところで止まるわけにはいかないって思ってても、いつまで動けるかわからない。
顎で進むコツは少しずつ掴めてる気がするから、何かモチベーションに繋がるような物、爪の一つでも、服の切れ端でもいいから見つかればいいんだけど。


進む、進む。生首だけの人形は失くした体を求めて這いずり回る。
下顎を開き、上顎を押し上げ、下顎を閉じて、また開く。
失くした右足を求めて。憎い仇の左手を探して。
どしゃ降りの雨の中、泥に沈みそうな身を押し上げて。草むらをかき分けて。
メディスン・メランコリーは進み続ける。


また長い時間が過ぎたような気もするけど、少なくともまだ太陽は登ってない。
目を閉じて、暗闇と一つになるつもりで、何も考えずに進んできた。
探し始めてから、ここまで頭に当たるのは草の変な感触だけだったけど、たった今、何か別の硬い物が当たるのを感じた。
岩とか石の乱暴な自然の硬さじゃない。もっと不自然で人工的な。
細くて、節のある、硬くて、人工的な…私の手。
相変わらずの暗闇だから見て確認はできないけど、間違いない。今私の頭上にあるのは、右か左かわからないけど私の手だ。この硬さは行き倒れた人間の手だったりする可能性は無いはず。
首だけで這いまわって、ようやく私の一部を見つけたんだ。
だけど、素直に喜べない。私の嫌な予想が見事に的中してしまった。
手が最初に見つかっても意味が無いのに。それを繋ぐ体が無いとなんの意味も無いのに。
その可能性はあるって、五分の四で外れるって、考えてはいたけど、わかってたけど。
何も本当にそうなることないじゃない…。
大振りの雨の中、慣れないどころか初めての首だけ移動で何時間もかけて、濡れるのも、汚れるのも、口の中が泥まみれになるのも我慢して進んできたのに、こんなの酷すぎる。
私が一体何をしたっていうのよ。ただ雨の中、人間を見下しながら散歩してただけなのに何でこんな仕打ちを受けなきゃいけないの。
なんかもう、だめ。疲れた。もう、寝る。起きたら体が元通りになってたらいいなあ…。
おやすみ…。

目が覚めると、雨は止んでいて、顔にこびりついた泥が固まってて痛い。口の中も同じで、起きて早々すごくみじめな気分。
寝てる間に体が元に戻ってる訳もなく、私は首一つで無様に草むらに転がっ…てない?
固まった土のせいでうまく開かないまぶたに力を入れて、なんとかかんとか少しだけ目を開いてみると私は見覚えの無い岩屋にいた。
うっすらとした視界の中には、私の手足が転がっているように見える。
「おや、お目覚めですか。これはよかった」
背後、もとい頭の後ろから聞こえてきた声の主を確かめようとしたものの、首から下が無いので目を後ろに流すのが精いっぱいだった。真後ろにいるであろう相手が見えるはずもない
雨の草むらで半日過ごしただけじゃ首だけしかない生活には慣れないみたい。
こっちから相手の正体を確認することはできなかったけど、足音からすると相手はこっちに向かって来てくれてるらしい。
でもよくよく考えたら、相手が私に恨みを持ってたり、変な興味を持ってる相手だったりしたらこの状況ってものすごくまずいんじゃないの。
私の手足と首をわざわざ集めてくれたんだからって安心してたけど、あのうっすら見える手足が私のものだとは限らないし、集めたうえで抵抗できない私に変な事しようとしてる奴の可能性もだってある。
さっきの声は変質者っぽさは感じさせない物だったけど、私で生体実験するつもりだったから、死んでなかったことに安心してる可能性だってあるし、どうしようどうしよう。もう足音が頭の真後ろに来ちゃってるよ!
「いやあ、ホント死んでなくてよかったですよ」
そういえばこの声、聞き覚えあるわね。
この上から下手に出て上から見てるような腹の立つ喋り方。
「衝突事故で誰かの命を奪ったりしたら、さすがの私も目覚めが悪すぎますからね。メディスンさんが簡単に死ぬ方じゃなくて本当に良かったです」
こんな喋り方をして、さらに私の体をバラバラにするほど早く飛べる奴なんてこの幻想郷にも一人しかいない。
幻想郷最速の烏天狗、射命丸文。
私の頭を両手で慎重に持ち上げると、私の顔についた土をこれまた慎重に落としてくれた。
少しきれいになった私を抱きしめたこいつは、犯人候補の一人だった。
「おかげさまで、最高の一日だったわ」
口の中の土が邪魔で喋りにくかったから射命丸の胸に吐きかけてやった。白いからきっとよく目立つ。
「そう嫌味を言わないで下さいよ。私だって悪いと思ったからメディスンさんをここに連れてきたんですから」
ここがどこなのか、私は知らないのにそんなことを言われてもね。
「そもそも、悪いのはあの雨ですよ。大雨で前後不覚の中、大急ぎで飛んでたら何かにぶつかってしまいまして。でも辺りを見ても雨が強すぎて何にぶつかったのかさっぱりわからない。仕方が無いのでその場で探すのは諦め、雨が弱くなってからまた来ることにして引き上げ住処に戻り傘を閉じてみれば、なんとメディスンさんの胴体だけが傘の先に刺さってるではないですか」
なかなか狂気的な絵面だったでしょうね。
「事態を重く見た私はすぐにでも現場に戻って残りのメディスンさんを拾い集めたかったのですが、あの雨です。視界が悪い。無理に探しに行けば私が危険ですし、何より第二の被害者を出してしまう可能性も有りました」
あんたがどうなろうがもう一人被害者が出ようが、私からすれば私を助けることを最優先するべきだと思うけどね。
烏天狗がその気になれば雨ぐらいどうにでもなりそうだし。
「雨が止んだことを確認した私はすぐに住処を飛び出し、ぶつかったと思われるポイントを探しに行きました。しかしあの雨の中飛んだ場所を探すというのはそう簡単なことではありません。ですが私は何とかメディスンさんの左足を発見し、それから周囲に散乱した他の部位を芋づる式に探し出すことに成功しました。そしてここに運んできたのです」
今の語りの間、私をずっと胸元に抱えたままだったけど、こいつはどんな顔をしていたのかな。
語り口は真面目だったけど、顔は、心は別。なんてことこいつならあってもおかしくない。
「で、見つけた私をここに連れてきてどうするの?そもそもここどこ?」
私が質問すると、射命丸は手を伸ばし私の顔を自分の顔と同じ高さに持ってきた。勢いよく頭が動いて気持ちが悪い。
「ここは河童の工廠です。メディスンさんの治療をするのに必要なものがあるかもしれませんから、無理言って借りたんですよ」
なるほど。あの射命丸文が取材でもないのに誰かに頭を下げたんだ。これは本当に私に悪いと思ってるのかも。
私のために頭を下げたって思うと気分がいいわ。しかもわざわざ頭を下げたのにここにある道具は多分だけど必要ないっていうのも面白い。どうせならその現場見たかったな。
「餅は餅屋って言いますから、人形のメディスンさんは人形遣いのところに持っていくべきかとも思ったんですがね。メディスンさんあの人嫌いですからこっちにしたんですよ」
「気遣いありがと。じゃあ、そろそろ私の治療を始めてもらえるかしら」
「どうしたらいいですかね」
「とりあえず平らな所に私の体を綺麗に並べて」
「では奥に行きましょう。ここは所詮工廠なんでベッド何て上等な物は無いんですから作業台で我慢してください。体も先に作業台に置いてあります」
射命丸に連れられ岩屋の奥に行くと、そこには使い道のわからない機械がそこらに散らかっていた。
機械と言ってみたものの、ここの家主意外に使い道がわかるとは思えないような代物ばかり。わかったところでただのガラクタだろうけど。
もし私をなおすのに必要な物があったとしても、ここには無かったんじゃないかなあ。
「あー、あれが作業台と…メディスンさんの胴体です」
射命丸に向けられるまま作業台の上を見てみると、そこには四肢を失い服ごと下腹部に大穴を開けられた私の無残なボディが転がっていた。
「うわぁ…これはひどいなあ…」
私じゃなかったらこれだけで死んでてもおかしくないよ、この穴。
「もちろん服も後で修復新調します」
「はぁ…」
「大丈夫ですよ!腕のいいのを知ってますから!」
「はぁ…」
あの穴に五体バラバラ。ホントよくまだ生きてるな、私。
「元の位置に頭を置けばいいんですかね?」
「私の頭が右腕から生えてた気がするんだったらそうすればいいけど」
「それは見てみたいですが、今日は普通にしておきます」
作業台の横に立つと、ゆっくりと私を胴体の上に置いた。
「これでどうでしょう?」
「うん、いいよ」
「では残りの手足も持ってきますので少々お待ちください」
これで本当に元に戻るのか不安だったけど、胴体と首の合わさってるところが不思議な感触がするからたぶん大丈夫なんだ。どれくらいかかるかわからないけど多分大丈夫。
「持ってきました」
射命丸が私の手足を持って戻ってきた。すごく変な奴に見える。狂気的。人を食べる瞬間だと思えば妖怪的。
「右と左間違えないでよ」
左右間違ってくっついたりしたら、またバラバラにならないといけないけど私の体がもつかどうかわからないからね。
「大丈夫ですよ。この射命丸文、そんな凡ミスをするような無能じゃありません!」
なんか信用できないなあ。信用できなくてもやってもらうしかないんだけど。
「これで全部合わせました。次はどうするんですか?」
すごい。手足の感覚は無いのに、付け根の部分だけさっきの首と同じように不思議な感じがする。
「どうするんですか?」
「後はこのまま放っておけば多分なおるよ。どれくらい時間がかかるかはわからないけど」
でも手足が繋がってもお腹の穴を修復するのは時間かかりそう。
「多分、ですか…」
「仕方ないじゃない。私だって体を切り離したことなんて無いんだから」
「それもそうですね。じゃあ治るまでの世話は私が引き受けますよ」
「えっ、いいの?」
「昨日新聞も一段落ついて、当分暇ですからね。私が原因ですし」
「そうなの。じゃあ、よろしくね」
体が治り次第犯人には同じ目にあってもらおうと思ってたけど、射命丸文が私のために頭を下げて、その上身の回りの世話をしてくれるなんてこんなに気分のいい、面白い話無いわね。
この世話の満足度によっては、羽を引っこ抜くくらいで我慢してあげてもいいかもなあ…。
人形出身だからと、メディスンを何でも屋と思ってるところがあるのは認めます。
ヘルバナナ狸地
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コメント



0.140簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
泥を食んで進むメディの描写が良い。ここがこのお話のメインなのは間違い無い。
ただ最後にもう一枚踏み込んだ展開を入れるか、
さもなくばスッと引くか、スッと引いて落とすかすれば更なる余韻が生まれたかも。
淡々とした語りに合わせるなら残響をこそ気にすべきだった(と、偉そうに言ってみる)
文章は綺麗でした。言葉から作者の感性を辿るのもここ創想話の楽しみ。