Coolier - 新生・東方創想話

酒飲みジャンケン

2014/10/21 22:30:27
最終更新
サイズ
39.49KB
ページ数
1
閲覧数
2460
評価数
14/43
POINT
2720
Rate
12.48

分類タグ

昔々、幻想郷がまだできる前の頃、妖怪の山に鬼がまだ住んでいたころのお話。
星熊 勇儀の四天王就任の祝いの宴が夜通し開かれてたときのことである。
祝いの宴は早三日目に突入し、河童は既につぶれ、天狗にも疲労の色が見え始めていた。
ただ、鬼……歓迎されている本人だけが大酒を喰らい楽しげに大声を上げている。
そしてそんな鬼を遠くから眺めている2つの影があった。
2つの影の目的は星熊勇儀である。
早く会いたかったのに、一向に宴の終わる気配がないので痺れを切らしていた。

「いきますよ。もみじ」
「ほんとに だいじょうぶ ですか?」
「あたりまえですよ。だいじょうぶにきまっています」

椛はおどおどとしている。文はそんな椛の手を引っ張る。
椛の言葉がたどたどしいのは、文よりも幼いせい……だが今は文も幼い。

「おびえるひつようはないのですよ」
「う~……、おわるまで まったほうが……」
「わたしはもうまてないのです!」
「お、おかあさんは……」
「もみじ、あなたもてんぐのいちいんなら、じぶんできめるのです」

文は思わせぶりなため息とともにそんなことを言って、自分の意見を押し付けて押し通している。
今回の二人の目的は単純だ。勇儀の髪の毛を手に入れること。
今と違って、カメラも新聞も、瓦版すら存在しない。
この当時、文達子供の天狗の間で流行っていた事といえば、鬼ごっこに、かくれんぼ、相撲と称した取っ組み合いなどだった。
そして、身体能力がその勝敗のすべてを決める場合、文に勝てる同年代の子供はいなかったのである。
文にとっては、簡単に勝てる勝負などあまり興味が無かった。周りが誰も付いてきてくれないのである。
勝手に一番にされてしまい。和に混ざることができなかった。特に鴉天狗の仲間ではそれが顕著だった。
白狼天狗に混ざっても、結果は同じ……。ただ、周りが言うことをきいてくれることが違ったが……。
思いっきり遊ぶには同年代では力不足なのである。
そんな中、文が熱を上げていた遊びは道具をつかった遊びだった。
独楽等やメンコなどでは投げる力でほとんど勝負が付いてしまうが、
草相撲や紙相撲など技術を要する遊びでは勝率がかなり落ちるのである。(それでもトップグループに入るが……)
特に今熱を上げていたのが髪の毛を使った髪相撲だった。
髪相撲は勝敗が身体能力だけではなく、髪の強さにも相当影響される。
文は勝てる遊びはそっちのけで、そんな勝てない遊びに熱中した。
より強い髪を、より長持ちする髪を、強い繊維を求めて駆け回った。
子供の遊びは大人が止めるまで果てしなくエスカレートする。
あるとき、強い髪の毛は女の人のものだということを知った。
当然のように、鬼がとても強いことも知っている。
そして、最近、鬼の四天王の一角に女の人が入ることを嗅ぎ付けた。
そうなるともう、いてもたってもいられなかった。
女の人で、大人で、髪が長くて、しかも鬼で最強の称号を持つ人……、最強の髪の毛はもう間違いが無かった。
他の天狗の子が手に入れる前に手に入れないといけない……。
そんなデットヒートの中に文はいたのである。
普通に考えて、鬼に物をねだるなんて恐ろしいことは大人の天狗でもしない。
他の天狗の子も(思いついた子はいたが……)恐れてしなかった。
しかし、文だけは違った。文は同年代で最強である。そして、鴉天狗から仲間はずれにされていたことが災いした。
止めてくれるものが誰もいなかったのである。
一応、鴉天狗にも親兄弟などの血のつながりはある……あるのだが、彼らの一般常識では、飛べることが独立の条件である。
つまり、巣立ちに代表される自力での飛翔ができてしまえば後は放任が一般的であった。
驚異的なことに、このときの文は既に飛翔ができ、同年代の誰もがうらやむ中、自在に空を駆けていたのである。
そのため、文の場合はタテのつながりが幼少時にぶっつり切られている。
一応、人で言う寺子屋みたいなもので横のつながりを作ることはできるはずだったのだが……仲間はずれにされていたことが祟った。
文にとっては何の意味も無かったのである。
そうして、文は誰にも止められることも無いまま、勇儀の前に出て行ってしまった。
もちろん、椛はつれている。椛には一つ、文が注目している特技があった。

「ん? 誰だい? この子は?」

勇儀の声に驚いて皆が勇儀のほうを見る。
天狗の顔が恐怖に染まった。勇儀の前に立っているのは問題児の文だ。
この前、鼻高天狗の年長組の子を泣かした。その前には鴉天狗達の髪の毛を抜いて回って大騒ぎを起こしている。
とてもじゃないが、鬼の前に出せる子ではない。

「はじめまして、ゆうぎ……さま?……さん?
 ……どっちですか?」

本当に疑問に思っている顔で文が質問をする。
目上の人には敬称をつける。特に鬼が相手のときは……そんな単純なことさえ、文は理解できていない。
大人の天狗の顔色が紫色になった。呑みすぎが原因ではない。

「はっはっはっは、勇儀でいいよ」

今度は真っ白になった。あわてて、数人が文に飛び掛る。
文がうっとうしそうにそれをかわす。椛はあっという間につかまった。
「早く捕まえろ!!」との怒号を背に勇儀を盾にして文が隠れた。

「まあ、まあ、待ちなよ。お前の名前はなんていうんだい?」
「あやです。しゃめいまる あや です。
 で、そっちが いぬばしり もみじ ですよ」

おとなしく捕まっている白狼の子を見て、勇儀が手で大人に下がるように指示を出す。
何か言いたそうだったが……すごすごと天狗が引き下がった。

「文ちゃんって言うのか……、なんだい? 私の四天王の就任を祝いに来てくれたのかい?」
「ん? ちがいますよ?
 もう、いわいごとはいっぱいじゃないのですか?」

あわてて数人の天狗が立ち上がる。この子はまずい。本当にだ。
素でしゃべっているのが余計にたちが悪い。

「くっくっくくくく、はっはっはっはっは!!! そうか!! 祝い事は十分か!!」
「そうです。だいたい みっかものんでいるのです。
 ながすぎですよ」
「勇儀様、申し訳ありません!! 直ちに連れ帰って厳罰に処しますので……どうか!! ご容赦を!!!」

大人が割って入った。文にはそれが意味不明に見える。
声に出してそれを指摘してきた。

「なにをいっているのですか?
 わたしはみっかもまったのですよ?」
「お前は自分で何を言っているのか……分かっているのか!!」
「わかっていますよ? このうたげはながいんですよ?
 かっぱはのみつぶれているし、みんなつかれていますよ?」
「勇儀様が長いかどうかを決めるのだ!! 我らは勇儀様をもてなす!!
 付いて行くのが礼儀であろうが!!! お前にはそれが分かっておらん!!!」

文が考える仕草をするが、やはり分からなかったようだ。
堂々と勇儀に質問をする。

「ゆうぎ、みんなをふりまわすのがただしいのですか?
 たのしいのですか? みんなたのしいのですか?」
「……ぶっ、ははははは。痛いとこを突くね、この子は……」
「も、もどれ文、戻るんだ文。今なら禁固5年……」
「黙りな! 貴様らは黙っていろ……。
 文ちゃん、もっと率直に言ってごらん。別に文ちゃんの言葉で怒りはしないよ」
「ゆうぎ、みんなつかれています。うたげはみんなでたのしいのがひつようなのですよ。
 みんなでもりあがっておわりにするのがただしいのです」
「くっ!!! はっはっはっはっはっはっはっは!!!
 いや~、想像以上に率直だったね。……文、その通りだよ」

もはや大人の天狗は口から泡を吹いて白目をむいている。
疑問を顔に出した文が立て続けに質問する。……まさに怖いもの知らずだ。

「……なんで つづけたんですか?」
「ふふふ、それは秘密さ。大人の事情って奴だな。やめるにもそれなりの理由が要るんだよ。
 大きくなって、分かるようになったら教えてあげるよ」
「ん……? そうなのですか?」
「ふふ、そうなのですよ。
 早く大人になってごらん。よく分かるさ。
 それより、用事はそれだけかな? 何かありそうだったが……」
「あ、そうです。ゆうぎ、かみのけください」
「……ん? 髪の毛?
 何でだい?」

文はここぞとばかりに椛の母親の髪の毛を取り出した。
椛に早く髪の毛を取り出すように指示をしている。

「みてください。こういうことなのですよ」

勇儀の見ている前で草相撲ならぬ髪相撲が行われた。
勝負自体はこすり切って文が勝った。
文が胸を張って続ける。

「……ということなのですよ」
「……悪い。全然分からんのだが……」
「にぶいですね。あたまわるいのですよ」

大人の天狗が卒倒した。それを完全に無視をして文が続ける。

「だいじなことはですね。わたしは いちばんのかみのけ がほしいんです。
 おんなのひとので、ながくて、おにで、さいきょうの、つまり、ゆうぎのです」
「……あ~、そういうことか……
 つまり、髪相撲で勝てる髪の毛が欲しいってことかい」
「そうです。そのとおりですよ」
「う~ん。そうだな……髪の毛か……う~ん。
 ……だめだって言ったらどうする?」
「そのために、もみじをつれてきたのですよ」
「うん?」
「だめなときはじゃんけんでしょうぶするのですよ。
 かちならかみのけをもらうのです。まけならあきらめるのですよ」
「どういうジャンケンだい?」
「じゃんけんで じゅっかい かったらかちなのです」
「なるほど、10勝したほうの勝ちかい……
 ……嫌だ。と、言ったらどうする?」
「こまってしまうのですよ。
 どうすればいいのですか?」
「ふふふ、そこで困るか……
 そうだな……折角だ。酒に付き合ってもらおうか。
 祝い事の習いさ、大人の付き合いだ。ちょっぴり背伸びをしてみないかい?」
「おとなですか? いいですよ。
 どういう つきあい になるのですか?」
「ジャンケンに負けたら、一杯、私の注ぐ酒を呑め。
 飲めなくなったら負けだ。どうだい? 簡単だろう?」
「……いいのですよ」
「よし、決まりだ。お前らは10勝で勝ち。私は酔いつぶしたら勝ち。
 お前らが飲む杯はこれだよ」

そう言って勇儀は湯呑みを出す。軽く一合は入る器である。そして出される酒は並みの日本酒では無い。
いかな、鴉天狗といえども、子供の体では2杯、どんなにがんばっても3杯飲めば倒れる。
勇儀はたった3勝すればよいのである。
しかし、文には勝てる確信があった。椛はこのときのための切り札なのである。
身体能力ではすべて文が上を行く。しかし、椛にはジャンケンにおいて特異な才能を持っていた。
もともと、椛自身、白狼天狗の中でも上位に入るような体をしていない、言うなら下位である。
しかしそれゆえに発展した能力があった。白狼天狗の千里眼……どこまでも見渡せる……細部まで見落とさない能力があった。
千里眼自体は白狼天狗を見渡せばさほど珍しい能力ではない。
それが、椛には観察眼という点で花開いた。
さらに加えて、子供特有の顔を読む能力を掛け合わせる事で、相手の出す手を読みとる事を可能にした。
意図的に負けない限りはジャンケンのみなら無敵の能力を持つに到った。
そして、その事実を不幸なことに文に見抜かれたのである。
勇儀をジャンケンに巻き込んで、文が幼くほくそ笑む。
知ってか知らずか勇儀は面白そうに幼い天狗の二人組みを見ていた。
恐る恐る椛が文に質問する。
勇儀は文よりもえらい、そのことぐらいは椛には理解できていた。
より上位の者の命令を聞く、そんな本能がある。椛にしてみれば当然の質問だった。

「あやさま よいですか?
 ……あの ……かっても?」
「いいにきまっています。
 えんりょも てかげんも いりませんよ
 じゅうれんしょうで おわりにしましょう」
「……いっかいぐらい まけたほうが……」
「だいじょうぶです。まけるひつようはないのですよ」
「くっくっくっく、手加減はいらないさ。ジャンケンだろう?
 勝敗は時の運みたいなもんさ。
 ……あと、忠告だけど、作戦会議なら聞こえない所でやってくれないかい?」
「だいじょうぶなのですよ。
 さあ、もみじ、でばんなのです。かつのですよ」

そう言われて椛が出てくる。「あ、あの……いぬばしり……もみじ……です」
なんて、聞こえるかどうかの声で言ってくる。
文とは大違いだ。
どうやら恥ずかしいらしいが、こういう自信の無さは気にくわない。
「もういいかい?」なんてせかしてみる。
文がうなずくと、それを見て椛がうなずいた。
真剣にこちらを見ている……のだろうか、視線がかみ合わない。
視線を合わせるというより、わざと視点をぼやかしているように見える。
勇儀が鼻を鳴らして、掛け声をかける―――

「ジャン―――

見る間に椛の目が集中をはじめる。視点はぼけたまま、集中力を挙げている。
おそらく、目と目を合わせて集中するのではなく、千里眼で全身を俯瞰して集中しているはずだ。
……そういう目ができるなら、はじめからして欲しいものだが……

 ―――ケン―――

二人で声をそろえながら手のタイミングをそろえる。
椛の顔自身は無表情である。集中力が増しすぎて、感情や理性が見えない。
故にこちらには何を出すかは分からない。
ジャンケンなら普通そうなのであるが……不思議と気にかかる。
試しにグーを出してみようと思った。

 ―――――ポン!―――」

両者の手が出揃う。勇儀はグーである。
……やられた。
椛の手はパーだった。
まあ、一勝ぐらいは別に良いのだが……ますます、あの集中の仕方が気になる。

「よくやりましたよ もみじ そのちょうしなのです」

文がほめている。椛の顔が赤くなったが一瞬だ。
勇儀が次の掛け声を出す。速攻で相手を崩す魂胆らしい。
即座の掛け声に反応して、あっという間に集中する。

「ジャン―――

今度はどうしようか?
次もグーを出す? いや、チョキだ。
まずは3勝、くれてやる。
全パターンを試してみるのだ。

 ―――ケン―――

勇儀の心の中で既に手は決まっている。もう手の形を変える必要は無い。
振り上げた手は既にVの字を描いている。
みえみえの手を……椛は見ていない。
瞬き一つせずに勇儀の全身を見ている。
椛は一体どんなことを考えているのだろうか?

 ―――――ポン!―――」

「もみじは そんなふぇいんとに かからないのですよ?」

文の言葉通りに椛にはグーを出された。
普通、早だしされたら、裏を読んだりするのだが……裏が無いことまで読まれたらしい。
虚空を見るような焦点の合わない瞳が気になる。

「ふふ、やるね。少しは動揺してくれると思ったんだが……
 次はどうしようかね?」

勇儀が思わず声をかけたのだが、集中している椛には掛け声以外聞こえないらしい。
完全無視を喰らった。
少しは相手をして欲しいものだが……、代わりに文が二人をせかした。

「さあ つづきをやるのですよ?」

文にせかされ3戦目、このままのペースで進むと本当にストレート負けを喰らう恐れがある。
しかし、力比べでも飲み比べでもない。勝負の呼吸がつかめなかった。

「ジャン―――

あわてて、声とともに腕を振る。
まずい、ジャンケンの勝負だから運だけだ、なんて相手を侮った。
少し振る手が遅れる。
それに、椛が合わせる。

 ――――ケ ン―――

先ほどとはタイミングが微妙に異なる。
そういえば、完全に振り遅れたら椛はどうするだろうか?
心の中でパーを出すと決めて、動作を意図的に遅らせる。

 ――――――――ポン!―――」

椛はタイミングが読めないながらも声に合わせてチョキを出す。
半呼吸ほど遅れて勇儀がパーを出した。

……非常にまずい相手を迎えていることにようやく気が付く。
目の前にいる椛には自分の出す手が完全に読まれている。
今のタイミングは遅出しに相当する。
先行した上で最初っから勝てる手を出されている。
一体どうやっているのだ?

「いまのは はんそくですよ おそだしなのです ゆうぎ」

目ざとく文に反則を取られた。
遅出しには納得していたが……続けて文の口から出た言葉に耳を疑う。

「おそだしなのでいまのは にしょうぶんです」
「はぁ!? ちょっと、待て。
 いまのは1勝分だろう?」
「いいえ、ちがうのですよ? もみじがかったぶんと
 はんそくで いちたすいちは になのですよ?」
「……っく!! まさかそんな理屈がなりたつとは……」
「さあ、もみじ あとろっかい かてばよいのです」
「ま、まて、ルールを確認したい。お前らいつもどんなルールでやっているんだ?」
「うん? ふつうのルールですよ? ぐーはちょきにかって、
 ちょきは……」
「い、いや。そこは分かっている。もっと他のことだよ、例えば反則は他にどんなのがある?」
「? おそだしいがいには……ああ ありました。
 ぐーちょきぱーははんそくです。あと ほかのてをだすのもはんそくです」
「反則を使って勝ったときは?」
「むこうなのでまけですよ?」
「反則を使って負けたときは?」
「まけとまけで にかいぶんまけです」
「あいこの場合は?」
「? まけにきまっています」

勇儀が考え込む。
あからさまに負けたときがおかしい。ルールに気が付くのが遅かったのが致命傷だ。
1勝もできないのに一気に4敗させられてしまった。
「さあ、つづけるのです」の声に、待ったをかけた。
このまま続けられたら本当にストレート負けだ。椛の読みの正体がつかめない限り勇儀に勝ち目は無い。
そして、負けた挙句に、髪の毛を取られる。
明日から……四天王就任直後につるっぱげはどうしても勘弁して欲しい。

「待ってくれ、まだ確認したいことがある」
「なんですか? ただのじゃんけんですよ?」
「えっと、作戦タイムはないかい?」
「う~ん、ひつようなのですか?」

なんとしても、椛の勝負の呼吸を乱す必要がある。
間合いを計るためにはどうしても必要なものだった。
必死そうな勇儀の顔を見て文は「ごふんだけですよ」といってきた。
「じゃあ、早速作戦タイムだ」といって勇儀は一人で考え始めた。

……一体何なのだ? あの読みは?
二人を見ればニコニコと幸せそうに笑っている。
見せ付けてくれるものだ。しかし、自分には破る手立てが無い。
しかも、反則でもない。
椛は千里眼で全体を俯瞰して……そうだ! 目潰しするか?
流石に目を瞑って手を出し合えば……いや、いかん 流石にやりすぎだ。
無情にも何の手立ても思いつかない。
鬼の威圧感で手を強制させて……う~ん、これもやりすぎの気がする。
おそらく、椛自身には威圧が効く。
出せと命令すれば、指定した手を出すには違いないのだが……だめだ。それで勝っても嬉しくもなんとも無い。
情けない気持ちが押し寄せるだけだ。
鬼らしくもっとまっすぐに勝つ方法は無いだろうか?
拳一つで……、単純な力のみで四天王になった。どうしても力で勝負したくなる。
そう、鬼のただ単純な力で……ジャンケンでか?
岩を吹き飛ばす腕力も、皆が畏怖する妖力も、全くもって無力である。
殴ったらダメ、蹴ってもダメ、力の振るいようがない……
大地を揺るがす必殺技も……まてよ? ……揺らす?
もしかして……直接攻撃以外なら? 
そう思った勇儀は思わず立ち上がった。
良い手を思いついたのである。
これぞまさしく鬼のジャンケンである。
椛がいかに手を読もうとも、負けることは無い。
ニヤリと笑って二人に向き直る。

「もういいのですか?」
「ああ、最後に確認なんだが
 反則は遅出しとグー、チョキ、パー以外の手を出すこと……
 これ以外には無いな?」
「ないのですよ? ほかにはんそくが あるのですか?」

勇儀がニタっと笑った。

「無いよな。その確認がしたかった。じゃあ改めて、勝負といこうじゃないか。
 椛、立ちな。大人の勝負はこれからって事を教えてやるよ」
「はいっ」

随分と威勢よく椛が立ち上がる。最初とちがって随分小気味良い返事が返ってきた。
どうやら、最初は人見知りしていたらしい。
そして、ジャンケンで勝っても怒らない勇儀を見て「勇儀は安全」なんて判断されたのだ。
いたずらっぽく勇儀が笑う。今からその判断をひっくり返してやろう。
二人の声が響く。

「ジャン!―――

勇儀が構える。
もう既に出す手は決めている……チョキだ。
椛は楽しそうに集中している。
普段の顔はこんな顔なんだと思う。目がきらきらしている。
もう出す手は読まれている。
しかし、ここからがちがうのだ。

 ――――ケン!―――

二人とも立ち上がった姿勢で視線を絡ませる。
椛は楽しそうだ。もう、勝った気になっている。
……ふふふ、今までの相手とは この星熊勇儀、一味ちがうよ?
勇儀が右足を振り上げた。

 ―――――――ポン!!―――」

掛け声よりも早く足を振り下ろして大地を揺らす。
振動に足を取られて立っていた椛が前につんのめる。
両手を地面に突いた椛に向かって……

「ふふふ、ようやく一勝か」

……グーを、グーを出すつもりだったのに、強制的に前に手を付かされてパーを出させられた。
勇儀はチョキである。
表情から態度からもう間違いなくチョキを出すことは分かっていたのに
すべて分かっていた上で負けさせられた。
瞳を大きく見開いて椛が勇儀の顔を見上げる。

「い、いまのは……はんそく」
「ふふん、黙っていなよ文。遅出しもしていないよ。
 反則はさっき確認したとおりだ。文、自分で決めたことを破っちゃいけないな」

文が顔を真っ赤にしてしている。こんな出し抜き方は今までやられたことが無い。
強制的に相手に手を出させるなんて方法今まで見たことが無かった。
口を思いっきりへの字に曲げながら「さ、さくせんたいむです!!」と宣言した。
勇儀がニッコリ笑って了承して背を向ける。それを見て文は椛と相談を始めた。

「あやさま あんなて みたこと ないです」
「なんてやつでしょう。おに、おになのですよ。
 いままでのやつらとは かくがちがうのです」
「どうしましょう?」
「もみじ だいじょうぶですよ。わたしはとべるのです。
 ういていれば いくらゆらされてもだいじょうぶなのです」
「でも あやさまに しがみついたら てがだせないのです」
「わたしがもみじにしがみつくからだいじょうぶなのです」

勇儀の耳には背中にしがみつくとか、椛は勇儀を見ていればいいとか、
聞こえてはいけない情報が次々飛び込んでくるが気にしないことにした。
確かに、浮かばれたら先ほどの手は通用しないだろう。
しかし、もう一個、手立てがある。
今度も驚いてもらおうか……
「さて、約束の5分だが」なんて振り返ると椛の背中に文がしがみついて浮かんでいる。
……もう少し、足を振り上げたら浮かぶとか……どうしましょうなんて顔をしてもう一度技を使わせるなんて、駆け引きみたいなものができないものか……
そしてすっかり、忘れているようなので、文を手招きして一番最初に見せた湯飲みを見せる。
湯飲みにはなみなみと透明の液体が注がれていた。

「飲めなかったら負けだよな?」
「……そ、そのとおりです。わすれてなんていないのですよ?」

勇儀が笑った。忘れていたのを見抜かれて文の瞳が揺れる。
ようやく勝負の呼吸がつかめてきた。

甘い香りがする。が、それは匂いだけである。中身は強烈な度数を誇る酒である。
先程、勇儀が呑んでいた酒だ。
文は覚悟を決めて、乱暴につかみあげると一気に飲み込んだ。
勇儀のほうがあっけに取られる。
別段ゆっくり飲めなんていう気はさらさら無いが、この飲み方は酒の呑み方を知らない奴の飲み方だ。
……天狗は子供に酒の飲み方は教えないらしい……
それと、言っておかなければならないことがあった。

「言わなくても、分かっているとは思うが……
 その酒、噴出したり、あんまりこぼしすぎるようなら、もう一杯だからな?」
「わ、わかっ……」

あからさまにのどに戻ってきている。必死でそれを押さえ込むと、勇儀に向き直った。
目が涙を一杯にためている。

「もみじ……もう、まけてはいけないのですよ?」
「はい こんどはかちます」
「ふふふ、残念だけど勝つのは私さね」

ジャンケンの第5戦目が始まる。
文&椛 4勝 - 勇儀 1勝
勇儀が圧倒的に不利だがここからが鬼の真骨頂である。
文が椛を抱きしめて飛び上がる。
2人の視線をしっかりと受け止めて勇儀が立った。
もう揺らすことは通じない。
勇儀もそんなことは分かっている。
それでも勝負は始まるのである。
勇儀はもう一つの手を使った。

「ジャン!!!―――

あからさまに音量が異なる。
椛と文が目をむいた。
さらに声の質量を上げていく

 ――――ケン!!!!―――

本能的に椛が両手で両耳をふさぐ。こんな音量浴びたら気絶ではすまない。
文もとっさに耳をふさいだ。
二人の見る前で勇儀がさらに大きく息をつなぐ。

 ―――――――ポン!!!!!―――」

両耳を押さえて呆然と浮かぶ二人の前に
勇儀がチョキを出している。

「遅出し……ってことでいいかい?」

文が泣きそうになっている。
椛は驚愕に目を見開いたままだ。
今度だって勇儀が出す手は見抜いていた。
でもグーを出したらそのまま声で気絶……勝負続行不能で負けていた。
掛け声の反則……だが今回のジャンケンでそれは反則に入っていない。
嬉々として勇儀が酒を注いでいる。

「ほら、2杯目だ」
「わかって、いるのですよ……」

震える手で湯飲みに手を伸ばす文を見て勇儀が笑って言葉を続ける。

「別段、手助けをするつもりも無いが、文、あんまり一気に飲むなよ?
 酒は味わって飲むものさ。酒飲みの時間に5分やろう。時間は自分で考えて自分で飲みな。
 これが終わったら旨い酒の飲み方を教えてやるよ」
「あなたはいじわるです。いまおしえてくれればいいのに……」
「ふふふ、そうかもな」

今度は、ゆっくりと湯飲みを傾ける。たっぷり5分をかけて飲むつもりだ。
着実に湯飲みの中身が文の体に入っていく。
甘くて、苦くて、冷たくて、体が熱くなる。こんな体験は初めてだ。
5分のつもりが時間を随分余らせて飲みきってしまった。

「ふはっ、おいしいおさけですね?」
「そうだろう? あせって飲んではもったいないのさ。
 ……じゃ続けようか?」
「いいえ、またさくせんたいむなのですよ?」
「……そうか、別に回数制限はしていなかったな。……いいだろう。5分だからな?」
「わかっています」

勇儀は二人に背を向けると笑った。2杯飲ませた……自分の勝ちである。
じきに酔いが回って文は倒れる。
それに、作戦はまだあるのだ。できうる限り、勝負を長引かせる。
先程の回数制限の話はすべて勇儀の作戦である。
6戦目は負ける。が、それを逆手にとってさらに作戦タイムを取る。
7戦目以降も同じだ。そうすれば二人が残りの6勝をあげるまでに30分は稼ぐことができる。
文はそれまでには倒れるだろう。
そうしたら決着、自分の勝利だ。
子供とは言え、こんなに自分を楽しませてくれるなんて、それも高々ジャンケンで……さすが盟友の一員、侮れない。

「ゆうぎ、ゆうぎ、さくせんがきまったのです」

見れば羽交い絞めの要領で締め上げるようにしがみつき、その上で文が椛の耳をふさいでいる。
文自身は宴で使っていた徳利の栓で耳にふたをし、先程と同じように浮いている。

「さあ、しょうぶなのですよ」
「ああ、いいよ」

椛と勇儀が手を出し掛け声をかける。

「ジャン―――

今度は流石に声も振動も通じない。
手が読める椛には負けるしかない。
……但し、自分だって只で負けてやる気は無い。

 ―――ケン―――

勇儀の手は決まっているパーだ。
但し、文が酔いつぶれるまでパーである。
理由は単純、思いっきり振りかぶってあおってやるのだ。
あおられた文は必死に動き回る必要がある。
きっと、一緒に酔いも回るだろう。

 ―――――ポン―」

椛はチョキを出す。
勇儀はパーだ。
文は勇儀の突き出す掌圧で思いっきりあおられたが、必死に翼を動かし、転倒だけは阻止した。

「ふっ、っは、か、かちなのです」
「あ~、惜しい。こけてくれればよいのに」
「うふふふ、まけないのですよ
 さあ、つづけるのです」
「おおっと、わたしも作戦タイムだ。今の技を破られると次の手を考えないといけない」
「……そうですか? さくせんがひつようにはみえないのです」

……! わずかに頬がひきつく。文にも顔を読まれた。ちょっと余裕綽々すぎたか?
しかし、たっぷり5分、時間を空けさせてもらう。
何とか、違う手が無いものか?……
おおっと! そうだ、今はジャンケンに勝つよりも文を酔わせたほうが早い。
こんな手はどうだろう?

「お~い、次郎坊。新しい酒を頼む、なるべく香りの強いのがいいな」
「こんなときにおさけですか? ざんねんですがまにあいませんよ?」

次郎坊が良くやるもんだと言った顔で倉まで酒を取りに行く。

「ざんねんですが じかんぎれなのです」
「分かってるよ。仕方ないな」

椛と文は同じ体勢、勇儀は先程と構えを変えていない。
さっきと同じだ。椛がチョキで勇儀がパー、文は掌圧であおられた。

「ゆうぎ、やるきはあるのでっすか」
「ぷっ、……いやあるよ。ジャンケンに興味が無いが、勝負には勝つつもりだ」

文の語調がわずかに乱れた。
そんなタイミングを見計らって次郎坊が酒を勇儀に差し出す。
作戦タイムもかけないで時間を引き延ばすにはもってこいだ。
大げさに喜んでみせる。
そして作戦タイムをかける。
仰々しく酒の栓を開け、香りを漂わせる。

「……なんのさくせんですか?」
「ふふふ、子供には分からない作戦さ。それよりも文、いい香りだと思わないかい」
「やめてほしいぐらいのにおいです」

子供だ、正直すぎる。匂いが気になるほど酔っているということだ。
後、2戦もすれば文が倒れる。
……ふ、ふふふ、悪いね。大人のやり方っていうのは手口が巧妙なのさ。
文が気が付かない間に勝負が進んでいく。第8戦も同じ手同じ結果になる。

椛&文 7勝 - 勇儀 2勝

順調に勝ち星を重ねているように見えて、強力な掌圧に対抗していた文の限界が近い。
体温が急上昇し、顔が赤い、呼吸もあからさまに速く、そして何より酒臭かった。
文の異変に抱き付かれている椛が気が付いた。

「さ さくせん たいむです」
「うん? 別にいいよ? でも、必要なのは負けている私のほうなんだが?」
「そ~ですよっ いらないのです よ? もみじぃ? にゃははは」

そんな事を言っている文のろれつがおかしい。姿勢がおぼつかない。
飛んでいるはずなのに、さっきから体重を支えているのは椛の足だ。
文の顔は既に酔いが回って真っ赤っ赤だ。
椛が文の状態を確認する。

「あやさま すこし おかしいです」
「どこ がですか?」
「おかおが まっかっかです」
「もみじは あたまわるいのです じぶんのかをはみれないのですおy?」
「あやさま あやさま ことばが おかしいです」
「もみじのほうがおかしいのです よ」
「あやさま だいじょうぶですか?」
「わたしはだいじょうぶです。 それよりもみじはそんあにぐるぐるでだいじょうぶです?」

唐突に文が倒れた。
あ~ぐるぐるする~なんて言って笑っている、完全に酔っ払った。
それを見届けた勇儀がくすっと笑って立ち上がって背を向けた。
勝負が付いた。文は勝負続行不能、椛は文が戦えないのに続行する勇気があるとは思えない。

「おい、次郎坊、文を寝かしつけてやれ。存分に面白い勝負だった」
「勇儀様、子供相手に少しやりすぎでは?」
「はははは、勝負とあっては手は抜けないさ。さて、文を寝かしつけたら宴を続けようじゃないか」
「……まって ください」
「うん?」

大人の天狗と四天王の視線をひとり浴びて椛が言葉を口にする。
「まだ わたしが います」と。

「ふふん、そうか、まだやるかい?」
「まだ やります まけてないです」

酔いつぶれた文が唐突に叫んだ。

「やりましたよ おにのかみです よくやったのですよ もみじ!!」

無責任に夢の中で椛を褒めちぎっている。
それを見て勇儀が苦笑いした。

「あらまぁ、負けたことにも気が付かないか。ちょっとかわいそうだな」
「まだ まけてないのです」
「ふふ、そうだな、5分は過ぎたし、始めようか」

いきなり勇儀が奇襲を仕掛ける。
大音量の掛け声とともに勝負が再開された。

「ジャン!!!―――

ついさっき受けた音量攻撃だ。
自分の耳は自分で抑えるしかない。
さらに声量が上がっていく。

 ――――ケン!!!!―――

必死に片手で両方の耳をふさごうとする。しかし、白狼の耳は鴉天狗や鬼よりも大きい。
ふさぎ方が不完全だ。
それでも片手を開けて勝負に出る。
そして、無情にも勇儀は足を振り上げているのである。

 ―――――――ポン!!!!!―――」

音と衝撃の2段攻撃を受けて椛が転倒する。
結局手は出せなかった。
鬼は笑ってやさしく声をかける。

「やっぱりな、お前一人じゃ無理だよ。あきらめな」
「……むりでも いいんです あきらめません」
「ん、そうかい」

そう言って、湯飲みに酒をついで椛の目の前に出す。

「作戦タイムを取るのは、勝負を続ける意思を見せてからだ」

無言で酒を受け取って、舌でなめてみる。
文がおいしいといったのは間違いではない。
強いアルコールに負けないだけの甘みがある。
勝負でほてった体には冷たさが心地よい。
飲めると判断するのにさほど時間はかからなかったが、
あわてて飲んだりしない、少しずつ、口の中に含んでは唾液を混ぜて
濃度を下げながら体の中に入れていく。

勇儀はそんな椛を見て内心舌を巻いていた。
……こいつ、文の飲み方を見ていたな? 一気に飲んだら間違いなく倒れる濃度だというのに……
その上、文は味にごまかされて、のめるだけ飲み込んでしまったが椛はそんなことしていない。
鼻が利く白狼のことだ。漂う香りに隠れた強烈な度数を見抜いている。
自分がどれほど飲んだら危険か分かっている。自分の飲み方ができる奴だ。
文よりも早く、こいつに一杯飲ませるべきだった。

たっぷり5分をかけてお酒を飲みきる。
構えようとした勇儀に対して椛が続ける。

「さくせん たいむです」

勇儀は口で「いいとも」とは言ったものの、自分の失敗が恨めしかった。
作戦タイムと酒のみタイム両方合わせて10分も考える時間を与えてしまった。
椛は迷うことなく宴で使われていた手ぬぐいを数枚集めて自分の頭に巻きつけている。
耳を完全にふさぐためだ。酒を飲みながら必死に考えていたのだろう。

「じゅんびが おわりました」
「まだ、少し時間があるけどいいのかい?」
「いいのです」

油断無くもみじが構えた。
勇儀も構えて10回目のじゃんけんが始まる。

「ジャン―――

あれだけ手ぬぐいを巻きつけられたら声は通用しないだろう。
但し振動は別だ。ただで勝負をくれてやるわけには行かない。

 ―――ケン―――

勇儀が足を振り上げる。
しかし驚くそぶりも見せない。
足を振り下ろすと同時に椛がジャンプする。

 ―――――ポン―」

なるほどそういうことか。ゆれている瞬間、地面に立っていなければ転ばされることは無い。
空は飛べないが、一瞬、衝撃を飛び越えればよいのだ。
だが、しかし……ふふん、あまいねぇ。

今回は椛が勝ち、勇儀が負けた。
椛&文 8勝 - 勇儀 3勝

勇儀は当然のように作戦タイムを取る。
自信満々のその顔を見て、椛が質問をする。

「ほんとに ひつようですか?」
「ああ、必要だよ」
「もうすでに さくせんを もっていませんか?」
「そうかもな。ゆっくり、酒でも飲ませてもらうさ」

そう言って、酒を飲む。椛は見ているが本当にただ酒を飲んでいるだけだ。
香る酒が、呼気に乗って撒き散らされる。
白狼はにおいに敏感だ。先程飲んだ酒がにおいにつられてこみ上げてくる。

「ゆうぎさま はやく しましょう においが きついです」
「ふふふ、そうかい。まあ、5分だけさ飲ませておくれよ」

そう言って悪びれない勇儀の顔を見て、椛が勇儀の作戦を悟る。
お酒の匂いで自分を酔わせる気だ。
赤ら顔にショックを隠せないまま、直球で言葉にしてしまう。

「お、おとなって きたないです」
「ふっくくくく、ははははは。 はぁ~、賢いって言って欲しいね
 どうだい? 匂いで酔ってきただろう?」
「はやく してください」
「だめだね。正直、ジャンケンだけじゃお前に勝てないよ。
 だから、ルールを最大限に生かして勝たせてもらうよ。
 作戦タイムの制限回数はなし。1回5分まで。
 遅出し(合図で手が出ていなければ)は負け、グー、チョキ、パー以外は使えない。
 一緒に決めたとおりさ」
「こえと あしをつかうのは……」
「はっ、仕方の無いことさ。お前だって千里眼を使っているだろう?
 もしお前が千里眼を使わないなら考えてもいいがね」

「ふふ、話していたら5分過ぎちまった」勇儀の言葉を皮切りに二人が立ち上がる。

第11戦―――――

「ジャン―――

勇儀が今度は足をいきなり振り上げている。
タイミングをずらしたつもりだろうがそんなものは見え見えだ。
いきなり振り下ろしてくる。
そのタイミングに合わせて椛がジャンプする。

 ―――ケン―――

すかさず勇儀がもう片方の足を振り上げる。
椛の着地を狙って足を振り下ろす。
しかし、体勢が崩れても最後の掛け声までには体勢が立て直せる……

 ―――――ポン―」

勇儀は体制の立て直しを許さず3歩目を踏み込む。
よろけてつまずいた。
全く手が出せない。
椛に2杯目の酒が渡された。

「どうだい? あきらめる気になったかい?」

椛は首を振った。渡されたお酒を見ている。
まだもう少し飲めるはずである。そして、酔いが回るには少し時間がある。
飲み込むまでの5分、作戦タイムの5分、さっきの技の攻略法を見つけるのだ。
勇儀が言ったとおり、ルールを全部使って勝ちに行くのだ。

飲み方は先ほどと同じ、丁寧に体に入れる。
気分に飲まれて一気に飲み込んではいけない。
本能に従って、吐き出してもいけない。
理性を利かせて、慎重に確実に飲み込む。
同時に攻略方法を考える。
あの攻撃で揺れないようにしないと……
でも揺れないようにするにはどうしたらいいだろうか?
自分は文様のようには飛べない。
勇儀様のように力も無い。
四つんばいになっても吹き飛ばされるのが落ちだろう。
振動の外に出てしまえばいいが、それだとジャンケンが成り立たない。
どうすればいいだろう……
勇儀を見れば楽しそうにこちらを見ている。
余裕だ。さすが鬼の四天王の一人、あんな衝撃をはなってびくともしない……?
!!!
揺れない方法があった!!!
ようやく思いついて作戦タイムに切り替える。

「さ、しゃくせん たいむです」
「はっはっは、だんだんろれつが怪しくなってきたね」

勇儀の言葉を無視して、思いっきり勇儀の近くによる。
勇儀が思わず「えっ!!?」と漏らした至近距離である。

「さくせんは おわりました」
「何だって!?」

いきなり、掛け声をかける。
勇儀がしまったと思わず口に出した。

「ジャン―――

そのまま勇儀にしがみつく。
勇儀は地面を揺らしていた張本人、揺れないのだ。
つまり勇儀につかまっていれば揺らされないのである。

 ―――ケン―――

勇儀はあせった。
しがみつかれても衝撃を放てなくは無いがこんな至近距離、手加減ができない。直接攻撃と同じになってしまう。
虚と迷いを突かれた。勝負事はこれだから気が抜けない。

 ―――――ポン―」

奇襲が功を奏し、椛にしがみつかれた勇儀は何の手も打てないままジャンケンに負けた。

椛&文 9勝 - 勇儀 4勝

ついに椛が王手をかける。
勇儀も困った。しがみつかれたままでは確実に負ける。
作戦タイムで引き剥がしておかないといけない。

「作戦タイムだ!!!」
「わかって います」
「いや、だから離れろって。え~っと、その、何だ。聴かれたら困る」
「だめです ゆうぎさま わたしが かてないです」
「だめだ、私も勝ちたい。離れてくれ!!
 私はこういう勝負事は手加減できないんだ!! 怪我しちまうぞ!?
 私の髪がそんなに欲しいか!?」
「わたしは かみのけは そんなに ほしくないです。
 でも あやさまが ほしいんです。
 いっぱい いっぱい ほしがって いました。
 わたしは あやさまの ねがいが かなえば べつにいいです」

勇儀も椛の言わんとすることがわかった。
確かに親友のたっての願いを自分の全力も出さずに手を引くなんてことはできない。
椛と同じだ。
全力を尽くして戦いきらなければ自分が納得できない。
友達面ができない。
そんなことが分かる年なのか……幼いと思っていて侮った。
勇儀が苦笑いする。自分に対して……。

「友達のためか……そうか、それは引けないな……
 最後だ。怪我をしても文句ないか?」
「ないです。けがをするほど がんばっても だめなら あやさまも わかってくれると おもいます」
「ふふ、そうだな。努力をしてもだめなときはある。
 でも、ダメならダメなりに努力したっていう証は必要だな。
 お前の場合それは怪我だが、自分の中で全力でがんばった結果という勲章にするがいい」

言い終わるなり、勇儀が椛の服の襟首をつかむ。
軽く力を入れて無理やり引き剥がす。
そして空中に放った。椛は空中で姿勢を整えようとするがいかんせん酔っている。
着地には失敗した。
そこを狙って勇儀の声が響く。

「作戦タイムは終了さ!!」

椛が立ち上がる前に足を振り上げる。

「ジャン!!!―――

ふらふらと立ち上がるタイミングに合わせて踏み込む。
振動に足を取られて椛が転がった。

 ――――ケン!!!!―――

転がりを増すようにさらに歩を重ねる。
掛け声が終わるまでは立たせない。

 ―――――――ポン!!!!!―――」

結局、椛は何もできずに地面を転がされた。

椛&文 9勝 - 勇儀 5勝

無情の3杯目が椛に注がれている。
もうこれは飲めない。
工夫を尽くして2杯飲みきったが、3杯目は危険水量のはるか上の酒量だ。

「正直、よくやったと思う。文だって納得するさ」
「……」
「飲めないなら負けだよ。飲む時間は5分だ」
「……」

無言にて、手にした湯呑みとにらめっこしながら椛がようやく問いかけてくる。

「……さいごの しょうぶ うけて くれますか?」
「! まだやるかい?」
「さくせんたいむは なしです。
 ……うけて くれますか?」
「……いいぞ、お前の覚悟が見れるなら……。ルールを守って、酒を飲みきってくれるなら。
 但し、お前は強い。ことジャンケンに限っては……手加減一切無しだ」
「おとも しんどうも なしです。
 わたしも めをつかいません いいですか?」
「!! どうするんだい? 目を瞑った程度じゃダメだよ?」
「このてぬぐいで ゆうぎさまが めかくしして ください」

そう言って耳に巻きつけたはずの手ぬぐいをはずす。
自ら耳の防御をはずして、千里眼を封じる。
手ぬぐいが勇儀に渡った。

「ゆうぎさま さきに まきつけて くれますか?」

勇儀が目に疑問を浮かべながら、椛の顔に目隠しをする。
これなら、手ぬぐいの中でたとえ目を開けても見えない。

「……んっ。これで良し」
「ゆうぎさま これを のみおわったら さいごです。
 さいごのしょうぶです。
 まけたら もうのめません おなかいっぱいです」
「ふふ、その前にそれが飲みきれないだろう?
 私の見立てでは半分も飲んだら文みたいになるよ?」
「だいじょうぶです。それより かまえてください」
「!! ふっ、やるきか。 いい度胸だ。
 お前が飲みきったら、私が合図をかける。
 最後の最後はやっぱり運が決め手だな」

勇儀は酒飲みである。椛の酒の処理方法に心当たりがあった。
一応、飲みきれることは飲みきれるだろう。
勝負の間もある。だがその後どうする気だ?
……まったく、文のほかにも飲み方を教えないといけない奴がいるとは……

「……いいぞ。構えた。
 お前も立て。
 私の四天王就任を祝う。お前の飲みっぷり見せてもらうぞ」

椛が立ち上がった。目隠ししても笑っているのが分かる。
口を開く。
一番最初の文の飲み方をそのまま実行する。
酒の強さはいきなり体全体には広がらない。
のどを広げて液体を一気に流し込む。
胃の中に入り、そこからじわじわと全身に向けて広がっていくのである。
時間にしてわずか数分だが、その間を生かして最後の勝負に出る。
湯飲みは投げ捨てた。もう勝っても負けても使うことは無い。
飲みきったことを確認した勇儀が勝負にでる。

「ラストバトル!!!――――勝負開始だ!!! 行くぞ!!!
 
 ジャン!―――

勇儀が構える。声は普通、足も振り上げない。
そうすれば確実に勝てる手を使うことはしない。
椛はルールを、二人で決めたルールを守っている。
自らルールを破って勝つわけには行かない。
……否!! ルールを守った上で、押して勝つ!!!……
勇儀はこの勝負に初めて酔っていた。

 ――――ケン!―――

勇儀は構えから拳を突き出す。
椛は目隠ししている。勇儀の手は読めないのだ。
もう迷うことは無い。勝負において自分が最も信頼している手の形そのままに突き出した。

 ―――――――ポン!」

勇儀の目が点になる。
純粋に運のみ……のはず。
目の前の結果が信じられない。
椛の手の形はパーだ。

「わたしの かちですよね?」

あたかも勝敗を知っているような口ぶりで椛が話しかけてくる。
目隠ししたまま……なぜ? 勝敗が分かる?
目が見えているはずは無い。私が念入りに目隠しした。
そして目隠しは外れていない。

「お、お前はどうやって……私の手を読んだ?」
「ゆうぎさま よむひつよう ないです。
 さいしょから しっていました」
「何? 知っていただと?」
「おにのひとが ……ゆうぎさまが さいごの しょうぶと いわれて
 いちばん たよるのは ぜったい てっけんです」

呆けた顔の勇儀が震える。

「……ぷっ、くくっくく、
 ……は、は、
 ……あ~はっははっはははっは!!!
 見事!!! その通りだ!!! お前の言うとおり、私には鉄拳(グー)しかないな!!!
 張り手(パー)や目潰し(チョキ)など出すわけが無かった!!!
 なるほど!!! 9勝された時点で私の負けだったか!!!」

腹を抱えて大爆笑をしている勇儀が引きつりながら言葉を続ける。

「ふははh、ひっ、しょ、勝者の権利だよ。
 掴み取りだ! 好きなだけ持って行け!!」

そう言って椛の目隠しを取り去ると髪の毛を差し出す。

「では じゅっぽん ください」
「……何? たった10本でいいのか?」
「あやさまが ごほん わたしが ごほん です」
「1人10本でもなく? 二人で10本? くくくく。
 馬鹿者が! 最初に本数を言わないか!! 丸坊主にされるかと思ったぞ!!!」

そういう、勇儀の顔は怒っているのではない。面白すぎて音量の調整ができてないだけだ。
腹が痙攣を起こしているようだが、髪をすいて長そうな毛を引き抜く。

「この程度なら、数を言ってくれればその場でやったぞ?」
「かみは おんなの いのちですよ?」
「お前な、これ以上私の腹を攻撃するなよ? 腹がよじれて死んでしまう」

戦利品の髪に手を伸ばそうとした椛が突然口を押さえる。
何のサインかは、よく分かっているつもりだ。
ようやく酔いが回ってきたらしい。近くにいた天狗に桶を持ってこさせる。
早くも椛が桶の中に頭を突っ込んでいる。
……作戦タイム一つで覆った勝敗だが、むしろ負けたことが心地よい。
負けて惜しくない。勝ちに徹していたら味わえ無かった心境だ。
愛おしく椛の背中をなでながら、宴の参加者たちに宣言する。

「みんな悪いな、今回私の就任祝いだったが、私の友人がご覧の通り酔いつぶれちまった。
 かくいう私も(勝負に)酔ったらしい。名残惜しいが、宴はここまでにしよう。お開きさ」

そう言って、宴の後始末を次郎坊に任せて退場した。
帰り道にて、これからの妖怪の山に思いをはせてみる。きっとこれまでの常識を覆すとんでもない騒動が目白押しだ。
そして、その中心は間違いなく文と椛だろう。
山を見下ろす夜空の月を見上げながら、これから吹く風に期待して、たった一人、高揚を胸に立ち去った。

おしまい
ジャンケンの面をかぶったアルハラの話
知恵 VS 力
相手の出す手が100%分かる VS 反則(1.振動、2.声量、3.酒(匂い)、4.時間の引き延ばし)
小さい子供ががんばる話
勇儀が酒ではなく勝負に酔う話
ジャンケンがどこまで面白くかけるかという実験
絶対に無理からの逆転
お好きな解釈でどうぞ
あまり書きすぎるとダメなのでここまでで

2014/11/04 追記
皆様、高評価いただきありがとうございます。
調子こいていろいろ書きたいですが、書くと自爆するので控えます。
でも、本当に嬉しいです。またアイディアがまとまったら投稿します。
何てかこうか?
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1390簡易評価
2.80沙門削除
おぉ、これは面白かったぞー。
チビ文とチビ椛が鬼とガチンコじゃんけん!!
ごめんね、私も酒がまわってきたので感想を書くことができない。
でもこの作品には愛が有ると述べつつ撃沈。
4.10019削除
まさに酒に酔い、勝負に酔い、意地と度胸と知略に酔う、酔い(良い)お話でした。
それを読んだ私も良い(酔い)気分。少し呑みました(笑)。
6.90奇声を発する程度の能力削除
良いね
じゃんけんについては個人的に色々あってアレだけど面白かったです
7.90絶望を司る程度の能力削除
面白かったです!
10.無評価名前が無い程度の能力削除
二人が大きくなってからの飲み会で、
この話でさぞいじられたことでしょう
11.100名前が無い程度の能力削除
二人が大きくなってからの飲み会で、
この話でさぞいじられたことでしょう
12.90名前が無い程度の能力削除
うん、面白い
二人が大きくなってからの話も読みたいです
13.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
18.100大根屋削除
これは良い…… とてもスカッとする酔うお話。
お酒の話なのに、気分が爽やかになりました
20.100名前を忘れた程度の能力削除
これは面白かった!最後の勝負は本当に見事な落ちのつけかただった。文句なし満点。
22.100名前が無い程度の能力削除
読みやすいのに展開が予想できず、とても面白い話でした
28.100ななな削除
ジャンケン1つでここまで面白くかけるとは…チビ椛とチビ文、可愛くも子ども特有の大胆さで良かったです!
29.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに心踊りました
ありがとう!
30.100名前が無い程度の能力削除
ナイスバトルでした。満点。
33.90名前が無い程度の能力削除
アルハラはあかんでえ。3人の侠気が良かったです。