Coolier - 新生・東方創想話

■緑茶婦人と饅頭亭主の朝■

2014/10/02 19:26:00
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ポスッ



「?ありゃ」


今度は神子が狼狽えた

神子の脚の間で膝立ちになった屠自古が、耳に腕を被せる様に頭を抱き締め胸に抱えたのだ


「んむぁ? 屠自古ぉ? 真っ暗で何も見えませーん 聞こえませーん こわいよーうひもじいよーう」


グダグダ言いながら、脇からキョンシーの様に腕を延ばしてパタパタさせる


(…神子様)


布団がはだけてしまい早朝の寒さが背中を首筋を足首を冷やしていくが、神子の体温が胸を喉を手を温めてくれる

寒さが、暖かさを引き立てていく


「屠自古ぉ? おーい?」


(私は…)


私は、何をたわけた事を


「……ぁやばい すンごい温かいンですけどこれ いい匂いで柔らかいし 眠くなる」


神子が、自分の耳が周囲にはどう思われているか 分からぬ筈があるまい

それについて、何も感じない筈があるまい


「…も、揉んじゃおうかなぁ~ なんて…」


優しいこの人が、その事に負い目を一切感じない筈があるまいに


「…あー、と それでですね? 顔を埋めたままですいませんがさっきの続きを…」


なのに私は、“自分に嘘をつきたくない”なんて綺麗事を免罪符に、彼女を傷付けるだけの酷い事を言ってしまった


「そのですね、屠自古がそうしたいのであれば、夫婦の縁を解消する事も考えておくべきではないかと思いまして…」


人の建前と本音を見抜き、その隔たりに辟易とし、怯えてさえいたであろうに


「…今気付いたんですけど、なんで結婚する事を“契る”って言うんでしょうね? せっかく“結ばれる”って言い方もあるのに“千切る”と同じ音じゃ縁起が悪…ぁ失礼話が逸れました」


例え相手が悪意を抱いていようと、それが自身を慕う者が無意識の内に抱いたものであろうと、彼女はそれを知らないかの様に振る舞わなければならないのに


「この耳の事もありますが…やっぱり女性同士での夫婦生活と言うのは無理があったんじゃないかなぁと」


自分だけでも…妻として、その辺りの苦労を汲んでやらなければならなかったのに


「ほら、屠自古も子供欲しいでしょう?ぃゃ今はそうでなくても欲しくなった時に相手が女一人でそこから男を探すと言うのは…」


貴女は、こんなにも私を気遣ってくれていたのに…


「…あのすいません屠自古 耳、少しでいいから緩めさせてくれませんか?何も聞こえないのって、その、中々怖くて…目も塞がれちゃってますし」



しかし



『やっぱり私は…貴女が嫌いです』



「屠自、屠自古?ね、ぇ?聞こえてる?あの、ちょ 怖い、そろそろホントに怖い やばい、やばいやばい、怖い!ねぇ屠」


ムニッ


「自ッ…」


「お静かに」


平手、とは違う

身を離した屠自古が、神子の頬を両手で挟んだのだ


「腕で塞がれた位で聞こえなくなる御耳ではありませんでしょう…?」


「…ハイ、スイマセン」


ペコリと頭を下げ、上げ、屠自古と視線が合い、外し、また向ける


「えーと…話は戻りますが、屠自古さえよければ離縁」
「『貴女が大嫌いです』」


「んギッ…」


“つまらない心配”を真っ向から押し退け、額同士を合わせる


「『私の欲を御聞きになっていながら、まだその様な事を仰いますか』」


「ッ…」


らしくもなく、視線を逸らす

今の自分の欲に間違いがなければ、神子の提案が不要なものである事は明白だ


「…ですが…」


「それに…私が別れると言ったら、貴女はそれで納得して御別れになるのですか?」


「…… しま、せん したくありません」


…自分で聞いておきながら、胸の奥が暖かくなるのを抑えられない



「まったく…人が恥を忍んで相談をしてみれば茶菓子で例え、挙げ句するつもりもない離縁話まで… 信じられません」


「、ですがっ屠自古も私の耳を…」


「『えぇ嫌いです、忌々しいです ですがそれ以上に…その力で人の欲が聞けるのをいい事に、女の気持ちを弄んで楽しむ助平の様な輩はもっと嫌いです』」


「す、ッ助…!?」


「人里の女児達には大層人望があるそうで…? 毎日仕事の合間に抜け出しては楽しげに話されているではないですか」


と言うかあいつら、同じ女なのに神子の性別に気付けなかったのか
完全に惚れ込んだ顔をしていたぞ


「!!ぁいやあれはその、民の言葉を直接聞きたく…ぁあれは向こうから寄」


「『でしたら』」


屠自古の緩やかな一喝に、神子の髪がじんわりと逆立つ

髪型完成


「『貴女に甘い色目を使う様な輩は不要です… 貴女自身が、既に充分な程に甘い御方なのですから…』」


屠自古の背中付近でうろうろしていた両手を掴み、腰に回させる


「『貴女みたいなお饅頭は…不味い位に渋くて苦い茶と一緒に並んでいるのがお似合いです… そうあるべきなのです』」


(あぁ、もう…)


顔が真っ赤になっているのが感触で分かる

もう、限界の様だ


「『貴女は私と一緒にいたくて、私も貴方と一緒にいたい… それで充分でしょう…?』」

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