Coolier - 新生・東方創想話

二十四時間幻想郷

2014/09/23 12:02:50
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午前0時。
白黒の魔法使いは空を飛ぶ。
ひんやりと冷たい空気を切り裂きながら、幻想郷の空を飛ぶ。
淡い月の光に照らされた幻想郷の上を。
消えてしまいそうな星の光に彩られた夜空の中を。
飛ぶ、飛ぶ、
飛び続ける。





午前1時。
鬼の四天王は酒を飲む。
屋台に居酒屋、酒処。
あちらこちらへふらふらと。
陽気な仲間の鬼たちと共に
騒がしい旧都の道を練り歩く。
夜はまだまだこれからだ。





午前2時。
宵闇の妖怪は狩りをする。
夜の森。
若い男。
これは食べてもいい人間だ。
狙いを定めて、首にガブリ。
肉を食み、血を啜り、
目玉を転がし、内蔵を貪る。
食べきれなくて、少し残した。





午前3時。
蓬莱の薬師は書き物をしている。
もうすぐ、夜が明ける。
明け方までかかって、ようやく書き終わった。
凝り固まった体をほぐすため、ぐっとひとつ大きく伸びをする。
さて、屋根の上で夜明けを待とう。





午前4時。
騒霊の次女はトランペットを吹き鳴らす。
風の冷たい屋根の上、
消えかけた星明かりの下、
明るくなりつつある東の空を見つめながら、
トランペットを吹き鳴らす。
夜明けまで、あと少し。





午前5時。
毒人形は朝日を見つめる。
無名の丘の鈴蘭畑から、幻想郷の夜明けを見る。
風に揺れる鈴蘭。
仄かに香る毒の香り。
幻想郷で最も美しい朝日が見られるそこは、
今日も彼女一人のもの。





午前6時。
守谷の風祝は清掃をする。
自らの最も敬愛する二柱が住まう神社。
境内を丁寧に掃いていく。
二柱が心地良く居られるように。
暖かい朝の光を浴びながら、
爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んで。
ああ、今日も素晴らしい日になりそうだ。





午前7時。
半人の剣客は剣を振るう。
朝の空気を鋭く切り裂く。
大きく気合の声を上げ。
右に、左に。
鋭く、速く。
主の迷いを断てるようになるまで。





午前8時。
有頂天の天人は下界を見下ろす。
農家の息子は鍬を握り、
茶屋の娘は団子を作る。
人間たちが営みを始める。
いつもの日常。
得難き日常。
どうか今日も、幸せな一日を。





午前9時。
花の大妖は水をやる。
柔らかな笑顔を浮かべ、
ときには言葉を投げかけながら、
一本一本丁寧に。
彼女は四季のフラワーマスター。
花をこよなく愛する妖怪。





午前10時。
天狗の記者は空を駆ける。
風よりも速く、何よりも速く。
周囲の景色を置き去りにして。
速く、速く。
今日はどこへ行こうかしら。
個性豊かな紅魔の館か。
人妖集う博麗神社か。
幻想郷中に散らばる、愉快な日常を求めて。





午前11時。
楽園の閻魔は虚空を見つめる。
幽霊が一人もいない、
がらんとした裁判所。
高い高い裁判長の椅子に腰掛け、
ただじっと、真っ白な壁を凝視している。
凝視、凝視。
やがて、はあっと一つ息を吐き、
部下の元へ向かう。





午後12時。
人形使いは料理をする。
野菜を刻み、パンを焼き、
卵を溶き、スープを煮込む。
人形たちと一緒に作り、
出来た料理を一人で食べる。
一人静かな森の生活。





午後1時。
湖の氷精は遊んでいる。
自由気ままに遊んでいる。
カエルを凍らせてみたり。
花びらを凍らせてみたり。
思いの向くまま、気の向くまま、
自然のままに。





午後2時。
無意識の少女は人里を歩く。
人里が最も賑わう時間帯。
人々の合間をすり抜けながら、歩く。
とてもとても楽しげに。
大通りの真ん中でくるりと回り、
スキップなんかしてみたりして。
誰も彼女に気づかない。





午後3時。
紅魔の門番は舟を漕ぐ。
うららかな午後の日差しに照らされて、
こっくりこっくり舟を漕ぐ。
昼下がりの気だるげな空気。
妖精達の喧騒が耳に心地いい。
動けない体をおいて、
彼女の意識は旅に出る。





午後4時。
唐傘お化けは墓場を歩く。
少し傾いた日差しの中。
まだまだ明るい墓場を歩く。
時折人に出会えども、
出会う誰もが驚かず。
うらめしや。





午後5時。
七曜の魔女は本を読む。
西日の差し込む図書館の中。
頁を捲る。
背後に控えるのは司書。
頁を捲る。
時折、司書の入れた紅茶を飲む。
頁を捲る、捲る、
捲り続ける。
いつまでも。





午後6時。
妖怪の賢者は目を覚ます。
日がほとんど沈んだ薄暗い部屋の中、
むくりと起きて、式を呼ぶ。
今日も異常はありません。





午後7時。
邪仙の使いは飛び跳ねる。
ぴょん、ぴょん。
腕も足も真っ直ぐに。
墓地の周りを跳ね回る。
ぴょん、ぴょん。
ぴょん。
今日も、与えられた使命のままに。





午後8時。
蓬莱の少女は殺し合う。
不死鳥の散らす火の粉。
玉枝の放つ七色の光。
スポットライトに照らされて。
竹林の少し開けたそこで行われるのは、
二人だけの舞踏会。





午後9時。
阿礼乙女は編纂をする。
墨の匂いのする部屋の中。
一心不乱に綴り続ける。
幻想郷で起きたことを。
幻想郷の人妖のことを。
綴る、綴る、綴る。
もうあまり、時間がない。





午後10時。
夜雀は屋台を営む。
熱気に満ちた店内。
騒ぎ立てる人間。
酔いつぶれた天狗。
踊り始める深海魚。
人妖問わず酒を酌み交わすそこは、
喧騒に満ち満ちている。
さあ、ここらで一曲歌いましょう。





午後11時。
月の兎は月を見る。
見捨てた仲間たちに思いを馳せ、
光に満ちた月を見上げる。
見つめ続ける。
ただじっと。
それは懺悔か。
あるいは鎮魂の祈りか。
いかに嘆けど、
いかに後悔すれど、
月は何も応えることはない。





午前0時。
黒白の魔法使いは空を飛ぶ。
昨日よりもほんの少し明るい月の下。
箒に跨り飛んでいく。
静かな夜を切り裂きながら。
目的はないが、期待はあった。
きっと誰かに出会うことを。
と、
目の前に紅白の巫女が現れる。
あら、あんたどこに行くのよ
お前こそ、どこに行くんだ?
別に、ただの散歩よ
私も、ただの散歩だぜ。
ふうん、じゃあ―とりあえず、一敗やっとく?
そうして夜空に花が咲く。


初投稿でした。
ほんの少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
アメフラシの街
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コメント



0.510簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
その設定から話を作らないと
4.60名前が無い程度の能力削除
こういうの嫌いじゃない
7.100名前が無い程度の能力削除
とても素晴らしかったです
日常の幻想少女が見れて良かった
日常にこそその人物が何者で何が大事なのかがある気がします
9.50名無しの権米削除
嫌いじゃないです

誤字
一敗やっとく?
一杯やっとく?
かと
10.100名前が無い程度の能力削除
こういうの大好きです

「一敗」は故意的にしたのだと思いましたw霊夢からの言葉ですし、ありえそうだなあと…。
14.70名前が無い程度の能力削除
SSというには少し足りない……
かもしれませんが、雰囲気はとても良かったです。
小傘、阿求のが好き。
17.無評価アメフラシの街削除
読んでくださって本当にありがとうございました。
ご意見、ご感想などとても嬉しいです。
勉強にさせていただきました。m(_ _)m