Coolier - 新生・東方創想話

あなたと夜空を見上げるまでに吐いた百万回の嘘

2014/09/19 23:05:32
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 部屋で身支度をしていると、風を感じた。
 春の柔らかな風が体に当たって霧散していく。
 顔を上げると、部屋の奥のカーテンが静かに揺れていた。
 おもむろに立ち上がって、部屋を横切る。数歩も行かないうちに窓際までたどり着いてしまう。
 目の前で、音も無くなびくカーテン。その端に手をかける。そしてそれを、一気に開いた。
 急激に広がる深度に、まるで水の中に飛び込んだ時みたいに焦点が合わずにぼやける視界。
 振り払う様に瞬きをすると、世界が、瞬間に形を成していく。
 開け放たれた窓から続くベランダ越しに見えるのは、山を避けて広がる街と、その果てまで遮られる事無く続く空。
 まるでこの部屋だけがぽつんと空中に浮いているみたいな、そんな現実味の無い感覚に襲われるような眺めだった。
 空の色はもう大分暗い。沈んだ太陽が地平線を淡く照らすその光は、反対側から迫ってくる夜の闇に飲み込まれかけていた。でも、消えかけの残光は闇の中にあってこそ明るくて。
 その拮抗が織りなす空模様は、写真に撮るか、もし可能ならば時間をこのまま止めてしまいたいと思うくらい見事だった。
 撮るのは下手だから時間を止める方がいいかもしれない。それに写真じゃ視覚以外伝えられないから。
 ベランダへと出て深呼吸すると、日向と夜の気配の入り交じった空気が胸いっぱいに広がっていく。
 しばらくの間、そうやって空を眺めていた。
 所々に浮かぶ雲は影になってしまったみたいに黒くて、その間に気の早い星が輝き出している。
 ふと、その風景に不思議なものを見つけた。
 丁度、夜の紺と日の橙の間に、まるでそこだけ塗り間違えたかの様にぽつんと蒼があった。その場からまったく動かないから、風船でもなければ飛ばされた紙屑という訳でも無い。
 それは私には見慣れた違和感で。いつもなら何も感じない。
 けれども、気に留める程でもない正体不明の小さなざわめきは、私の胸の奥まで、波紋の様にして広がっていく。
 そのことを意識してしまうくらいに、今の私は浮き足立っていた。
 部屋の中へと取って返して、机の上に置いてあった携帯を手に取ると、そのレンズを空に、あの蒼い欠片へと向ける。
 携帯の画面に映った空からは、青い欠片はまるで拭い去られた様に消えていた。

 なんたって今日は、私の人生が新しく始まる日、なのだから。



「あなたと夜空を見上げるまでに吐いた百万回の嘘」



 私には子供の頃からそれが見えていた。
 まるでなにかの間違いみたいに、そこだけ世界が抜け落ちてしまったような穴のようなもの。
 つまりそれは、世界が破けた、その裂け目であり、
 つまりそれは、ここではない何処かを映し出している不思議な窓だった。
 そこに映るのは、決まって風景だ。
 鬱蒼と茂る森、静かな湖畔、降ってきそうなくらい奇麗な星空。
 この星のどこかにありそうで、どこにも無さそうな場所たち。
 幼かった私は、現実の世界より、その窓に映し出される自然豊かな風景を眺めるのが好きだった。
 物心ついたときからソレは見えていたから、怖いとは思わなかった。それが当たり前だと思っていたから。
 ただ不思議な事に、お母さんやお父さんに何度そのことを教えても、二人はそれに気付いてくれなかった。
 私が拙い言葉と身振りでどんなに一生懸命に説明しても、見つけられないのだ。
「ほら、おかあさん、あの雲の横、まあるい雲のとなりだよ」
「んー、ごめんね、やっぱりお母さんには何にも見えないみたい」
 両親にはそれが見つけられないんじゃなくて、見えていなかった。その事に気付いた私は、二人に、もうその事を話さなかった。
 話しても無駄なんだと思ったし、幼い自分には特別な秘密があることが、なんだか魔法が使える様になったみたいで嬉しかった。
 自分だけの窓に映る、素敵な世界。それは私がお母さんに怒られて落ち込んでいる時も、お気に入りのぬいぐるみが破けてしまって泣いているときも、風なびく広大な草原や波渡る湖面の姿で私を癒してくれた。
 そうしていつしかそれは、私のなによりの宝物になっていた。
 到底、私の手に負える物なんかじゃなかったのに。
 


 その日は、ここのところ雨や曇りの日が続いていた所でのひさびさの快晴で、ひんやりした空気がとても澄んでいたことを覚えている。
 見上げる空はまっさらに青く高かった。そこに走る一本の飛行機雲。
 カーブミラーに残った水滴は光を反射して煌めいて、道路に残った水たまりが、まるで鏡の様にその青空を映し出す。
 幼い私はその一つ一つに目を輝かせていた。
「ねえ、お母さん、奇麗だね!お空の宝石みたい!」
「ふふ、そうね。でも、あんまり見とれてて中に入っちゃたりしないでね」
 こうやって二人で静かな道を選んで散歩するのが日課だった。
 本当に、なんでもないただの散歩だったけれど、まだ何も知らない私にとって、目に映る物すべてが新鮮で、素敵で、まるで冒険しているみたいにワクワクした。
 その行き先は公園だったり、近くのスーパーだったり、そのまま帰って来たり、かなり平凡な旅だったけれど。
 特に今日はなんだか世界が、雨に洗われたみたいに輝いていて、上機嫌になった私は出来損ないのスキップをしながら道を進んで行った。
 曲がり角に差し掛かり、今度の道は何があるんだろうと期待に胸を膨らませる私は、お母さんの手に引かれてその角を曲がった。
 その小さな道の先に、目が釘付けになる。
 見つけたのは真っ黒な穴だった。
 普通の穴じゃなかった。それは地面に垂直に、まっすぐ私とお母さんにその大きな口が広げられていた。場違いな洞窟みたいに。それか、まるで——怪物の口、みたいに。
「ひっ」
 最初見た時、それなんだか、すぐには分からなかった。でもそれはまぎれもなく、あの裂け目だった。でもそこには、いつもの風景は無く、ただ黒だけが広がっている。
 それが車一台しか通れない、この狭い路地のほとんどを埋め尽くしていた。
 こんなことは初めてだった。何も映っていない裂け目は、まるで闇そのものの様に、淀みない暗闇が溜まっている。
 その時私は、生まれて初めて裂け目に恐怖を感じていた。
 一体、あそこに触れてしまったらどうなってしまうのだろう。
 漠然とした不安は、だからこそ留めようとする指の間をすり抜ける液体の様に心に広がっていった。
 いままで裂け目に近づいた事は無かった。裂け目はたいてい遠い場所にあるだけで、たまに近くにあったとしても、なんとなく近づこうとはしなかった。
 でも。
 その不気味な境い目は、見ているだけで吸い込まれそうな、落ちてしまいそうな、そんな錯覚に囚われる。
 私は思わず足を止めてしまっていた。すぐにそれに気付いたお母さんが、不思議そうな顔をして振り返る。
「どうしたの。疲れちゃった?」
「お母さん、わたし、そっちにはいきたくないの」
 アレが見えないお母さんに、幼い私はそれしか言えなかった。
 もちろん、そんなのでは何も伝わるわけなくて、お母さんは私をなだめすかして、先に行こうと促す。
 それでも私は動かなかった。動けるわけない。あんなものが目の前にあったなら。
 でも、私の体は動いていた。
 宙に浮く感覚。
 あまりにも強情な私を、お母さんが抱き上げてしまっていた。
「ほら、こうすれば大丈夫でしょ?」
 私はしっかりと胸の前に抱きかかえられて、そのままお母さんは通路を進んでいく。
 まっすぐと、黒い裂け目に向かって。
 何か言わなきゃと思った。あそこに飲み込まれてしまう前に、はやく何かを。
 でも幼い私には何も思いつけなかった。目が、釘で刺されたみたいに、裂け目のその湛えた暗さだけをただ見つめることしか出来ないまま、それはどんどんと近づいてくる。
 そのどうしようもなさが、あまりに信じられなくて、現実感が喪失する。まるで自分の体の重さが無くなった様な浮遊感。そんなひどく落ち着かない感覚に支配されていく。
 気付けば、もう裂け目まで十歩も無い位置まで来てしまっていた。
 黒い穴は、今や立ちはだかる壁の様に、目の前にそびえ立っている。
 それが怖くて怖くて、私は目に涙を浮かべながら涙声で言う。
「目の前に、黒い穴があるの。だから、もうこっちに行かないで。そうしないと落ちちゃう」
 もう誤摩化す理由も考えられない私は、必死にありのままをお母さんに伝えた。
 でもやっぱりお母さんはただただ不思議な顔をするだけで、足を止めてはくれなかった。
「え?そんな穴、どこにも無いよ」
 もしかしたら、この道の先に何か用事があったのかもしれない。
 そしてついに、手を伸ばせば裂け目に触れられそうな位置まで来てしまう。
 私はそれを見つめていた。とても目が離せなかった。誰かに目を覆って欲しかった。ここまで近づいても尚、そこにはただ黒だけがあって。
 まるで鷲掴みにされているみたいに胸の奥が痛んだ。喉がカラカラに渇いて、そして裂け目のその黒さに吸い込まれてしまったみたいに、頭の中は真っ白になった。
「——!」
 私は何事かを叫んで、叫び続けながら、固く私の体を繋ぎ止めていたお母さんの手を引きはがそうと暴れていた。
 躊躇も手加減も出来る様な状態じゃなくて、何が何なのか分からなくなってしまった私は、自分を縛り付ける力に全力で抗った。
 そして、振り回した手の指先に熱を感じたその瞬間、体は支えを失って本当に宙に浮いて、落ちた。
 地面に付いた手のひらと膝に痛みが走った。見ると、指先に滲む血。
 てっきり怪我をしたのだと思った。でもそうじゃない事に、顔を上げた時に気付いてしまう。
 お母さんは、私の爪で切り裂かれた頬から血を流しながら、呆然と私を見ていた。

 よほど私のその行動が衝撃的だったのだろう、後日医者の所に連れて行かれることになった。
 そこでの事で覚えている事は断片的だけれど、何が起こったのか正直に話してとお母さんに言われたので、恐らく私は正直に話したのだと思う。
 それからお母さんもお父さんもとても優しくなった。私が何かおいたをしてまっても滅多に怒らなくなった。ただ困った顔をして、唇を真一門に結んでその後始末をするだけになった。
 私はその顔を見るのが、怒られるよりもっとずっと嫌いだったので、やっぱりお医者様にも嘘をつく様になった。
 それからしばらく経つと、お母さんとお父さんはすっかり元通りに戻ってくれた。そのとき私は決意したのだ。もう誰にも、私の瞳にしか映らないこの裂け目の事は話さまいと。
 幸いにも普通に生活する範囲には裂け目はあまり現れる事は無かった。もちろん、どうしても無視出来ない時もあったけれど、一人のときは遠回りをしたりして、誰かと一緒だったならなんとか嘘をついてそれをごまかして来た。
 でも、そんなので万事上手く行くなんて筈は無く、私の吐いた小さな嘘の一つ一つは確かに積み重なって、それは親しい間柄になる程に、付き合いが長くなる程に相手に不信を抱かせていってしまう。
 子供の頃は魔法だったはずの私の瞳は、今度はまるで呪いにでもなってしまったみたいに私を苛む。
 誘いを断った友達の、去っていくその背中を眺めながらそんな風に思った。でもそんなのは、ただ私が勝手にそう感じているだけなのだろう。
 いつだって裂け目は、様々な風景を湛えてただそこにあるだけだ。
 だからそれの見方が変わるのならば、私の方が変わってしまったという事なのだろう。
 それでも。
 不器用な私には、破綻しない言い訳を考えるのが精一杯だったのだから。
 この瞳に映らなくとも、皆が私に向けるその感情は手に取る様に感じられていた。あるいはそれはやっぱり私の負い目が作り出した幻想だったのかもしれないけれど、そんなのはどっちにしても些細な違いも無い様に思えた。
 そしてどんなにそれを弁解したいと思ってもやっぱり私にはその理由を話す事は出来なくて。
 だから大学生になって、晴れて新天地へと赴くことになったら、人に怪しまれる事の無いように、今度こそは上手く嘘を吐こうと決意していた。
 そんな幻想を、夢見ていた。



 日も完全に沈み、春の夜の涼やかな風が吹く中、私は大学を訪れていた。
 街灯に照らされたメインストリートの並木道を、奥へと歩いていく。
 その脇に建っている、未だ煌々と灯りが灯った四角い建物や、それと対照的に疎らな灯りしかない棟を眺めながら進んでいく。
 何故私が夜のキャンパスに出向いているのかというと、サークルの新入生歓迎会の為だった。
 充実した大学生活を送るにはサークルに入っていた方がいいと聞いたので、新学期のガイダンスの後で貰った、いくつものサークルの紹介状から気になるものをピックアップした。その中の一つが、今向かっているカフェ研究会のものだった。
 片手に持ったプリントを改めて眺める。透かしの入った羊皮紙色のその紙には、これまた雰囲気のある書体でその内容と開催場所が書かれていた。
 内容は夜のティーパーティで、開催地は大学構内。これなら気軽に行けるし、ティーパーティなんてお洒落だし面白そうだと思って参加を決めた。
 いよいよ新しい生活が始まる。胸に広がるその待ちわびた希望と、小さくない不安。それを噛み締める様に抱きながら、私はキャンパスを歩いていく。
 絶対に今日のイベントを上手く乗り切ろうと、一人意気込みながら進んでいくと、これまでと雰囲気の違う建物がその先にあるのに気付く。
 色は他と同じ様な無骨な感じの建物だった。でもその大きさは他の建物の子供のような大きさで、真四角に近い形をしている。
 内部は一階しかない吹き抜けで、なんでそんな事が分かるのかというと、なんとその正面は全面ガラス張りになっていたからだった。
 そしてその全体を、室内と建物の周りに設置された淡い光の間接照明が、闇夜に柔らかく浮かび上がらせる。
 場違いな程、雰囲気の良い空間だった。
 結構昼間にキャンパスを見て回ったけれど、こんな場所があったなんて気付きもしなかった。
 それとも、今夜の為に様変わりしたのだろうか。どっちにしても、とても大学の中だとは思えなかった。
 その中には、行き交う人影が見える。室内には既にそれなりの人数が集まっているらしい。
 少し遅れてしまったかなと、私はその柔らかな光の中に、心持ち早足で向かっていった。

 建物の前にはランプが掛けられた小さい黒板が置いてあって、『カフェ研究会のAfterDinnerTeaPartyへようこそ!』の文字と、紅茶のカップを頭に乗せたリスや飛び交う小鳥が描かれているお洒落な看板があった。
 それを眺めながら建物正面の脇に置かれたテラス席を過ぎ、外に開かれた大きなガラス扉から会場に入る。
 近づくにつれ、吹き抜けの天井は一層高く感じられた。それに少し圧倒されつつ入り口からその中を見渡す。
 部屋の中央に大きな長テーブルがあって、その上に様々なものが並んでいた。
 何組もの陶磁器のティーセットが淡い光を受けて、その優雅な曲線を縁取った金細工が煌めく。
 そしてその間を、いくつもの、まるで花の様に色鮮やかなお菓子が色を添えていた。
 大学の中なので簡素な歓迎会だと思っていたのだけれど、これは、想像以上に素敵だった。
 控えめにかけられたゆったりした曲も雰囲気作りに一役買っていて、まるでいつの間にか不思議の国にでも迷い込んだかのような気分だ。
 入り口のすぐ脇にある受付に歓迎会に来た新入生だと告げると、丁寧な挨拶と共に飲食はすべて無料な旨が伝えられた。
 どうぞごゆっくり楽しんでくださいねとの言葉に、なんとも言えない様な気恥ずかしさを感じながら、頭を軽く下げて茶会の中へと入っていく。
 今更だけれども、場違いな所に来てしまった気がする。急に作法とかマナーが心配になってきた。
 とりあえずテーブルの脇の辺りまで、何でもない風を装って歩いていった。そこから改めて周りを見渡してみる。
 ソーサーとカップを持ちながら、数人で談笑しているグループや、壁際の席で取って来たお菓子を食べている人達。
 もうみんなそれぞれに集まって楽しんでいるようだった。
 いまさら彼らの所へ入って行くのは少し勇気がいるし、どうしようかと迷っている時だった。
「あの、すみません」
 突然後ろからそう問いかけられて、驚きながら振り返る。
 そこにいたのは少女だった。
 私より少し背が低い子だった。ブラウス姿のその小柄な彼女は、少し緊張しているらしく固い表情で俯いている。
 一体私に何の用だろう。落とし物でも届けに来てくれたとか。それともまさかドレスコードがあったりするのだろうか。
 そんな突拍子も無い事を考えていると、言葉を探している様だった彼女は、ついに意を決した様に顔を上げた。
「私、少し前に来たんですけれど、もうみんな集まって話していて、どうしようか困ってたんです。それであなたがやって来たのが見えたから……。あの、よろしければ一緒に」
 最後の方の言葉は、萎んでしまったみたいに小さくなってしまう。
 それは願っても無い提案だった。
 まさかお誘いの話だなんて思っても見なかったから、突然の事で数瞬放心していた私は、彼女の言ってる事を理解すると同時に、思わず首を縦にぶんぶんと降っていた。
「あ、ええ!こちらこそ、よろしくね」
 そう言うと彼女はぱぁっと咲いた様に笑顔になる。
「ああよかった!このままずっと一人になっちゃうんじゃないかって、どうしようって思ってた所だったんです」
 それはまるで子供みたいな笑顔だった。



 それから私たちは、一緒にお菓子を取りに行った。
 最初のうちこそ二人ともそれなりに緊張していたけれど、お皿を取ってお菓子を選んでいる間にそれもすっかり無くなっていた。
 彼女はとても親しみやすい人だった。なんというか、ガードがとても緩くて、初対面なのに気を使いすぎたりすることもなく、自然体でいることができた。
「こういうの初めてで、なに来て行くか迷ったんだけれど、案外ラフな格好で来てる人もいるし、そんな気にする必要なかったみたいね」
「あ、私も!結局無難に、着慣れたいつもの服にしちゃいました」
 そんな話をしながら、二人で悩みながらミニケーキやタルトを選び回った。
 少し欲張りかなと考えながらも、その甘い誘惑に抗しきれる筈もなく、純白のプレートの上にはすぐに五つ程お菓子が並んだ。
 どれも宝石みたいに奇麗で、それをプレートに並べると、まるで一揃えの芸術品のようだ。
 最後に先輩にいれてもらった紅茶を手に、席を探す。
 建物手前の角の、ガラス越しに外が見える開放的な席が空いているのを見つけた。まるで半分外にあるみたいな席だ。
 そこに腰を下ろして一息ついてから、私たちはテーブルの上に並べたプレートと紅茶に意識を向けた。
 丸いテーブルの中央に置いてある小さなオイルランプの灯がゆらゆらと揺れるたびに、紅茶の表面を光が渡っていく。
 これがあの、いつも飲んでいる紅茶だとは到底見えなかった。まるで夕日の光を凝縮したかのような液体。
 彼女と一緒に、まずは一口だけ飲んでみることにした。
 ゆっくりと持ち上げたカップの縁に口付ける。
 一口だけ含んだ瞬間に、ふわっと気品のある芳香が一気に広がっていく。想像していたえぐみは無くて、マイルドな苦味はより一層その上品さを引き出していた。
 それは、きっとお姫様はこんな風な物を飲んでいたんだろうなと思わしてくれる程の体験で、このお茶に慣れたら、今までの紅茶はもう飲めなくなるだろうと確信してしまう。
「本当に美味しいこの紅茶。どうやったらこんな風にいれられるんだろう」
「すごいよね、私なんかいれるといつも渋くさせちゃうし、こんな風に絶対できないよ」
 ティーパーティの名に恥じない紅茶に、二人して感嘆するやら、本当に紅茶なのかと疑うやら、子供みたいにはしゃぎながら味わった。
 そうして半分程まで飲み終わって、そこでようやくお菓子に手をつける。まずは正方形のピンク色のミニケーキ。
 底は薄いスポンジで、その上にピンク色のムース、上をルビー色の薄いゼリーが覆っている。
 半分ほどフォークで切り分けて、そのまま掬って食べてみる。
 口に入れた途端、ムースは溶ける様にほどけて、苺の甘酸っぱさとそれを引き立てる控えめな甘みが広がっていく。甘すぎず、しつこすぎず、苺本来の風味が引き立っていた。
 その絶妙さに、またもや彼女と一緒になって驚いてしまう。
 そうして口にするどれもこれもが、今まで食べた事が無い位、本当に美味しかった。
 特にメープルシロップがたっぷりとしみ込んだ紅茶風味のシフォンケーキは歯が溶けるほど甘かったのに、不思議と嫌な甘さじゃなくて、思わず二人して頬を抑えながら絶賛した。
「すごい!美味しい!これだったら何個でも食べられちゃう!あ、でもカロリー高いかもこれ……」
「それ、三つ目を取ってくる時に言っても遅いと思うわ」
 私がそう言うと彼女はまた無邪気そうに笑った。
 楽しかった。こうやって普通に笑い合える事ができることが。
 他の人からしたらありふれた事かもしれないけれど、私にとっては違う。
 あの気後れする視線を気にしなくてもいいことが、こんなにも私の心を軽くしてくれる。



 私と彼女は一通り堪能して、ストレートのアイスティで一休みしていた。味覚に残った甘味を、冷たい苦みが流してくれる。
 未だに灯りが点いている遠くの棟をガラス越しに眺めながら、取って来たプレートの枚数を頭の中で数える。割とシリアスにこの一週間はおやつ抜きで暮らそうと結論を出した所で、私たちの席に人が近づいて来るのに気付いた。
 それは黒い蝶ネクタイとベストを来たウェイトレス風の先輩だった。人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて、先輩は私たちに話しかける。
「初めましてこんばんは。私たちのお茶会、楽しんでもらえたかな?」
 芝居がかったお辞儀をしてウィンクまで付ける茶目っ気たっぷりなその先輩に、彼女が勢い良く答える。
「はい!もうどれも美味しくって、ついつい二人でブタになるくらいに食べまくりました」
「ぶ、ブタって……」
「あはは、それは良かった。部長としても喜ばしい限り。ところでこのあと、締めとして前に集まった人同士で自己紹介してもらおうと思うんだけれど、良かったら来てねー」
そう言い終わると、先輩は軽く手を振りながら近くのグループへと去って行った。
「ねえ、行ってみようよ!皆と仲良くなるチャンスだよ。最初は積極的にいかないと!」
 彼女が目を輝かせて提案する。皆と知り合う正式な口実は、彼女にはとても魅力的らしい。もちろん私にだってそうだ。
 でも、私はすぐには答えられなかった。
 私もこのサークルはとても気に入った。入ってみても良いと思った程に。皆でお茶とお菓子作りを試行錯誤しながら、たまにこんな素敵なお茶会を開く。それはきっと大学生活に素敵な彩りを与えてくれるだろう。
 でも、なんだか怖じ気づいてしまう。
 もしまた、私が嘘吐きだってバレてしまったら?先輩に。皆に。
 ……目の前の、彼女に。
 そんなこと、いまから考えていては駄目なんだろう。これから、新しい世界が待っているんだと信じて進まなければなにも始まりはしないのだから。彼女が私に話しかけてくれた様に。
 だから弱気な自分を押しのけて、無理矢理言葉にした。
「そうね、一緒に行きましょう」
 私がそう言うと、彼女はやっぱり笑顔でそれに答えてくれた。



 集まった十人程の新入生が、部長の指示に従って弧に並んだ椅子に座っていく。
 私たちは弧の中程に、隣同士で腰を下ろした。
 皆が席に着いたのを確認して、まず部長自身が自分の事を紹介した。そしてそれが終わると、今度は部長が司会役になって皆に自己紹介させていく。
「じゃあ端から順番にいこうか。はい、君トップバッターよろしく!」
 中には緊張している人もいたけれど、その都度部長が冗談めかしたフォローで場を和ませてくれるので和やかな雰囲気のまま進行していった。
 そうして彼女の番が来た。彼女も結構緊張していて、少し噛んだりもしていたけれど、趣味とか意気込みとかをなんとか言い終える。
 最後に、よろしくお願いしますと言いながら照れて笑うその表情は初々しくて、誰が見ても好感以外は持たれないだろうと思う。
 それを見届けて、自分の事の様にほっとして、それから少し緊張する。
 次は私の番だ。席に着く彼女と入れ替わる様にして立ち上った。
 噛んでしまわないか、変な事を言ってしまわないか。そういう不安を、強く手を握って振り払う。
 自己紹介なんて高校に入学した時以来かもしれない。
「そういえば、隣の子と一緒にいたよね。友達?」
 私が話し出す前に、部長の方から質問が飛んできた。その有難いフォローに乗っからせてもらう。
「あ、いえ、さっきあったばっかりなんですけどでも」
「でも、もう友達なのね。いやあ若いってのは良いね!」
 茶化す様な部長の言葉に、ノリの良い他の部員と新入生が囃し立ててくる。隣の彼女はというと、くすくすと笑っていた。
 顔が少し熱くなるのを感じたけれど、不思議と全然嫌な気分じゃなかった。どちらかというと、なんだかひどくこそばゆい気分。
 照れ隠しに頬を掻きながら、すこし早口で先を続ける。
「マエリベリーです。入れたら基本参加できると思います。あ、でもバイトが」
 そこまで言って、急に目頭に熱を感じた。
「——え?」
 いっぱいになったコップから水が溢れる様に、感情が染み出していくような感覚。不意に滲む視界。
 溢れ出るそれを抑える暇もなかった。
 溜まった目尻から、それが、涙が、頬を伝い落ちていく。
 空気が凍り付くのを、肌で感じた。そして私の頭の中は、それすら気にする余裕も無いくらい、ただ真っ白になっていた。
 え、なんで私は泣いているの?
 そう思う間も、涙は溢れていく。
 それは今更止めようも無くて、私の気なんか知らずに勝手に流れていくだけで。
 ただただ困惑していた。なんとかしなきゃと思うけれど、みっともなく狼狽する事しか出来ない。
 皆が見つめるその視線に、張りつけにされるみたいに指一本動かせない。
 その顔に浮かんでいるのは驚愕の表情。困惑の表情。疑惑の表情。
 引き延ばされた時間は、性悪にもそれをじっくりと、まるで終わるのを惜しむ様に私に味わわせ続ける。
 何も出来ない私は、もうこのままここで、皆が居なくなるまで石みたいに踞っていたいと、そんな馬鹿な事を思う。だって、それ以外にどうすれば良いのか、分からない。
 腰と膝が、自然と引けていく。絶えられない。ここに居るという事が。その、事実が。
 もう、とても立っていられない。何も言えない。あの時と、同じ様に。
 行き止まりに追い込まれた私には、もう何も出来なかった。
 ただ意識の隅で、頭の中が白く焼けていくのを感じて、そして——
「酔っちゃったかな?」
 そう、部長が言った。
「私たち用にカクテルがおいてあったんだけれど、多分それ飲んじゃったんだと思う。ごめんねー、もっと話聞きたかったけれど、折角の可愛い顔が台無しだから落ち着くまで休んでてね」
 その助け舟に、私はようやく座る事が出来た。力が抜けそうになる膝を必死に抑えて、どうにか椅子にゆっくりと腰を下ろす。
「はいじゃあ次は隣の人ねー」
 すかさず部長は隣の人に順番を回す。
 隣の人が名前を言って、それで何事も無かった様に自己紹介は進みだした。
 それにとても安心して、涙を拭いながら目をつぶって溜息を吐き出す。
 吐き出して、何も考えられず呆然としている私の手に、何か暖かい物が触れる。
 それは彼女の手だった。
「ねえ、向こうで少し休もう」



 私は手を引かれるまま、元いたテーブルまで抜け出す様に戻った。周囲に人はいなくて、さっきまでの賑やかさのせいで余計に静かに感じられる。
 椅子に座る事には私はもう大分落ち着いていて、涙は止まっていた。
 むしろ、あまりにもさっき起こった事が唐突すぎて、まだ処理しきれてなかったのかもしれない。
「大丈夫?」
 水をコップに注いで来てくれた彼女から、ありがたくそれを受け取る。
「ありがとう。もう大丈夫」
 そう言っても、なおも心配そうに見つめてくる彼女。
 つい私は、その視線から目を逸らす様に顔を背けてしまう。
 その彼女の反応は当然だと思った。だって納得出来るわけ無い筈だ。
 彼女は、ずっと私と一緒だった。
 つまりそれは——私が酔っている訳じゃないという事を、彼女は知っているという事なのだから。
「一体、どうしたの?」
 彼女が、本題を口にする。
 自分でも分からなかった。一体何が起こったのか。だから説明することは出来ない。
 でも必要なのは真実ではないって私は知っている。だから嘘を吐いて来た。これまで何度も、何回も。
 ドライアイで涙が出た事にすればいい。それで彼女の心配も無くなってくれるだろう。
 いきなりあんなことになってびっくりしたけれども、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせながら、口を開いた。
「あの、ね。私……」
 そこまで言って、私は思わず胸を手で押さえていた。
 急に、辺りの酸素が無くなったみたいに息が詰まって、言葉が出てこなくなった。
 それを無視して、無理矢理にでも言おうとして、でも、そうするとまた、涙腺がおかしくなったみたいに涙が滲んで来てしまう。
 だから、なんで。
 なんで嘘が、言えない。
「あ、ごめん、無理に言わなくても良いよ」
 困惑する私を察して彼女はそう言ってくれた。その言葉は、私の事を本当に気遣ってくれているのが分かるほど優しくて。
 でも、その声に私は、ほんの少し混ざった、戸惑いの色を見つけてしまう。
「……私、ちょっと風に当たってくる」
 それだけ言って、まだ何か言いたげな彼女の顔を見ない様に、俯きながら席を立った。



 テラスに出た瞬間、冷たい夜風が吹いて来て、体の熱を容赦なく奪っていく。
 空を見上げると、いくつもの星が見えた。
 無感動にそれを眺めながら、考える。
 どうやら自分は、嘘を吐く事が出来なくなってしまったらしい。
 改めてそう言葉にしてみても、良く分からなかった。そんなことって有り得るのだろうか。
 でも実際、今自分は嘘を吐くことが出来ない。それだけは確かな事だった。
「なんで」
 なんで、今更。このタイミングで、よりによって今なんだ。だって今まで散々、嘘を吐くなんて散々して来た。別に平気だと思っていた。だってそれはしょうがない事で、必要な事だ。そうしなければ誰も私をまともだと認めてくれないのだから。
 でも、もしかしたら、そうじゃなかったのだろうか。
 私は、友達の懐疑の視線より、嘘を重ね続ける自分自身の事が許せなかったなんて言うのだろうか。そんな馬鹿みたいな事を、本気で思っているというのだろうか。
 だって、嘘を吐くなんて誰でもしていることなのに。こんな些細な嘘で後悔するなんて、馬鹿馬鹿しくて、ありえない。
 だから、嘘を吐く事になんの抵抗も無い、はずだったのに。
 いつしかそんなのは嫌だと感じていたのか。
 あまりにも眩しい人達を見る間に、そんなことを思ってしまったのだろうか。
 だとしたら私は。一体、どうすれば。
 遠くから聞こえてくる皆の笑い声を聞きながら、私は呆然と立ち尽くしていた。



 それからの事はあまり覚えていない。
 先輩と彼女が私に何事かを言っていた気もする。それに何か受け答えをして、何度も何かを言われて。
 そうして気がつくと、私は駅までの道を一人で歩いていた。
 街は暮れた日を惜しむみたいに光で溢れていて、眩しい。
 まるでそこから逃げる様に早足になる。それがだんだんと早くなって、気付いた時には走り出していた。
 街の光が、揺れる視界の端へと流れていく。私を、通り過ぎる通行人が驚きながら目で追ってくる。その視線を振り払う様に、速度を上げた。
 運動はあまり得意じゃないから、すぐに息が上がって苦しくなった。でも、歯を食いしばってそれに耐えながら無理矢理走り続ける。
 目的の駅を通り越して、それでも構わずに走り続けた。
 大通りを抜けて、人気の無い、寂しい路地まで来た時についに限界が来た。
 地面に投げ出されそうになる体を、寸前の所で膝に手をついて、よろけながらもなんとか支えた。開いた口から、胸の中に詰まっていた熱く湿った息が窮屈な気管を押しのけながら吐き出される。
 体中の酸素を全部交換するみたいに荒い呼吸を繰り返して息を整えようとする。まるで地上で溺れているみたいに喘いで、それでもしばらくその場から動く事も出来なかった。
「はあっ、はあっ、はあっ」
 一体なにをやっているんだろう自分は。こんなことしても、何にもならないっていうのに。
 だって、今までは自分が隠し通せば、誰も自分の事を知らない場所でなら、私だって普通に、皆と同じ様に楽しくやっていけるんだと思い込んでいた。
 それなのに、自分は、たとえ嘘が吐けなくならなくったって、それを心から楽しめる事なんて無かったのだ。どんなに隠し通して、嘘を吐き続けたとしても、自分自身を欺く事は不可能なのだから。
 私はただ、普通に過ごしたいだけなのに。普通に皆と遊んで、喋って、ヘタクソな嘘なんて一つも吐かないで笑い合いたいだけ、なのに。
 不意にまた涙があふれそうになって、それを天を仰いで堪える。ここで泣いてしまったら、もっと惨めになってしまう気がしたから。



 やっと歩けるくらいに落ち着いた私は、重い体を引きずるようにして暗い夜道を再び歩き出した。
 どうしても通り過ぎた駅に引き返す気になれず、隣駅まで歩いていく事にした。
 心をすり減らした私には、なにも考えずに体を動かせるのはとても有難かった。多分、じっとしていたらまた色々考えてしまうから。
 通り過ぎた駅の方角から大体の目星をつけて路地を進んで行く。
 しばらくすると、普通の歩道だった道が消え、土がむき出しになっていた。
 どうやらここから先は遊歩道になっているらしい。街路樹より背が高い木々が辺りを覆っていて、道のすぐ横を小川が微かな音を立てて流れている。まるで深い森の中のようだった。
 突然様変わりしてしまった道に少し不安になりながら、それでも他にあてもなく、前へと進んでいくしかなかった。
 時折聞こえてくるもの悲しい鳥の鳴き声を聞きつつ歩き続けた。昼間だったらともかく、人工光も少なく、月明かりも届かない自然深い遊歩道は、一人で立ち入るには随分不気味だった。
 早く通り過ぎたいけれど、足下の地面は小石があったり、湿っていたりして、滑らない様に気をつけながらだとなかなか速度を出せない。
 そうしてどれくらい歩いただろうか。一向にたどり着かない駅の方角に疑問を持ち始めた頃、ふと顔を上げると視界の先で木々が終わっている事に気付いた。架かった横断歩道の向こう側に小さいロータリーが見える。
 上り坂になっていて、奥の方は確認できないけれど、恐らくあそこが駅に違いない。
 細い道路に車は一台も見当たらなくて、一人で寂しそうに明滅を繰り返す点滅信号の下を渡る。
 疲れて重くなった足に坂道は結構辛かった。上手く持ち上げられずに、何度かつまづきそうにながらも、やっと坂の頂上にまでたどり着く。
 そのこじんまりとしたロータリーの中心には大きな木が植わっていた。かなり背が高くて、過ごして来た年月を感じさせるけれど、風が吹くたびに鳴る葉擦れの音は、新鮮な生命力に満ちていた。
 それを取り囲む様にしていくつかの店が立ち並んでいる。どこも閉店時間のようで一つの灯りも無い。ただ、仕舞い忘れたのだろうか、小さい喫茶店の前で回転看板が風でくるくると回っていた。
 それと大樹の葉以外には動くものも、物音も、何も無い。
 まるで世界に置き去りにされた様な場所だった。誰からも忘れ去られて、隔絶されてしまったみたいに。
 駅はロータリーの一番奥にあった。小さな駅舎は古くて、この円形の世界で唯一灯したオレンジ色の光は、滲んだ様に弱々しい。
 ようやくたどり着いた事に少なからず安心して小さく溜息をつく。ここまで来て、やっと一人になれた気がした。それに見知らぬ街を一人で歩くのは想像以上に疲れる事で、そうでなくても今日は散々にボロボロだった。
 今日は後はもう、帰るだけだ。
 そう自分を励ましながら、小さな待合所と改札しかない駅舎に入って時刻表と時計を探す。
 壁にかかった時刻表を確認してから駅舎の中を見渡して、すぐに改札の上に時計が架かっているのを見つけた。
「あれ?」
 ところがその時計の針は、ありえない時間を指して止まってしまっていた。
 流石に今が夕飯前だったり、ましてや夜が明ける頃という訳は無いだろう。
「故障してるのかな……」
 仕方なく、携帯で時間を確認しようとバッグの中をまさぐったけれど、どこにも無い。
 間が悪い事に、どうやら部屋に置き忘れて来てしまったらしい。
 じゃあ、と駅員に尋ねようとして、今更窓口にシャッターが降りている事に気付く。張りつけられた張り紙にはこの駅が無人駅である旨が書かれていた。
 一瞬、そのあまりにも出来すぎた一連の出来事に言葉を失ってしまう。
 何故か笑いそうになって、そしてどうやっても時間が確認出来ない事に理解が追いつくと、急に不安になった。
 結構遅い時間の筈だし、もしかしたら終電が出た後なのかもしれない。
 もう一つくらい時計が無いかと、少し焦りながら待合所を見渡す。
 外灯と同じくぼやけたような光が照らす狭い駅舎の壁には、焦げ付いた様な黒いシミや、いくつかのポスターと、その周りに残った剥がし損ねた紙片くらいしか見つける事が出来ない。
 と、長机の向こう側、同じ幅の長椅子の上に何かあるのを視界の端で捉えた。淡い希望を抱いて目を向ける。
「……まあ、そんなわけない、か」
 それはただの帽子だった。黒くて唾が短いハットで、ワンポイントにリボンが巻かれている。
 忘れ物だろうか。なかなかお洒落な帽子だ。そんな事を考えながら机を回り込んで、
「えっ!」
 心臓が飛び出しそうになった。
 椅子に、人間が横たわっていた。机の影になっていて、今まで全然気がつかなかった。帽子はその顔を覆う様に置かれていたのだった。
 思わずどこかへ電話しようとし、携帯を忘れた事を思い出して、一旦冷静になろうと自分に言い聞かせる。
 それでも心臓は早鐘のように鳴っていた。
 とりあえず振り返って、もう一度確かめてみるしかない。
 私は意を決して、決した割にはゆっくりと振り返って、薄目で確認する。
 それはおそらく私と同じくらいの年齢の女の子だった。真っ白なブラウスに映える赤いネクタイ、黒いシンプルなスカート。もしかしたら自分と同じ大学に通っている生徒かもと思う。彼女は頭を横にして、その下に折った腕を枕代わりにしていた。
 ブラウスの胸の部分が上下していて、とりあえず生きていると分かった。心からほっとする。
 耳をそばだてれば、微かに寝息も聞こえてきた。
 それにしても、なんでこんな場所で、しかも一人で寝ているんだろう。随分変わった人だ。
 というか、ここに居るってことはもちろん、電車を待っているんだろう。
「まだ、電車があるってことなのかしら……」
 わざわざ起こしてそれを確認するのも気が引けたので、私は少し電車が来るのを待ってみる事にした。



 じっとしているとまた色々考えてしまいそうだったので、私は持て余した時間を、精一杯思いついた暇つぶしをしながら過ごした。
 世界が明日終わってしまう妄想をしてみたり、星の数を数えたり、あげく頭の中でしりとりをしたり。でも、どれもなかなか上手く行かなかった。
 そのあまりの暇つぶしの不器用さに、そんなに経験は無いけれど、自分は待ち合わせに遅れる人とは付き合えないだろうと思いながら線路の方に顔を向ける。
 幾度も見た改札越しの線路は、その度に何も変わる事無くそこにあった。
「……裂け目も、このくらい退屈だったらいいのに」
 電車は、待てども待てども一向に来る気配はなかった。風の音と、時折聞こえてくるサイレンしか変化の無い世界では、どのくらいの時間が経ったのかも分からなかったけれど、故にただ待つのはじれったかった。
 だから彼女に声をかけるべきか否かの逡巡を、六回目にして私はついに決意して、何も訪れなかった線路を後目に改札口に別れを告げる。
 待合所の彼女は、相変わらずぐっすりと眠っていた。まるで眠り姫みたいに起きる気配も無く、こんな場所だというのに、起こすのが一層申し訳なるくらい気持ち良さそうに。
 帽子からはみ出た、緩んだ口元を見て、自分はこんな穏やかに寝れなそうだなと思う。多分、ずっと眉間に皺を寄せて、顔をしかめながら寝ている気がする。
 だから、少し羨ましかった。こんな無防備で、安心しきった表情なんて、今の私には出来そうも無い。
「……」
 そこまで考えてしまってから、頭を振る。やっぱり今日は、駄目だ。考え初めるとまともな事を考えない。
 もしかしたらもう今日だけでは、ないのかもしれないけれども。
 とにかく、彼女を起こさなければ。
 けれど、いざ起こすとしても、どうすればいいんだろうか。肩を叩けば良いんじゃないかと思ったけれど、手を伸ばしかけて躊躇してしまう。いきなりそんなことをして、びっくりさせてしまわないかな。
 色々考えて、迷って、結局声をかけるだけにした。しゃがんで顔を彼女と同じ位置に合わせて、心の中で謝りながら、うるさくならない程度の音量でおっかなびっくり問いかける。
「あの、すみません」
「ん……」
 本当に微かな声しか出なかったのに、私の問いかけから一瞬の間を置いて、彼女から小さな声が上がる。
 今まで起きるそぶりも見せなかったのに。
 そしてぴくりと指先が動く。スローモーションみたいに頭がゆっくりと持ち上がっていき、椅子に広がっていた髪は、その後を追う様に流れていく。
 それは本当に、呪いが解けたみたいに私には見えた。
 最後まで引っかかっていた帽子が、彼女の足の上に落ちる。
 ほんの少し短めの髪を揺らしながら、たっぷりと時間をかけて顔を、横にいる私の正面へと向ける。でも未だに目はつぶったままだ。
 そしてとても緩慢な動作で、その開かない瞼を指で擦る。
「うぅん、すみません駅員さん……。いつのまにか眠りこけちゃったみたいで……」
 頭を下げたつもりなのだろう。彼女の頭がフラフラと上下するのを、私は手と首を振って答える。
「あ、ち違います。私は駅員じゃないんだけれど」
 そこまで言うと、彼女はようやく瞳を開く気になったみたいだ。その瞼が、ゆっくりと持ち上げられていく。
 薄く開かれたそこに見えたのは、宝石みたいに透き通った琥珀色だった。
 奇麗すぎて吸い込まれそうだと、そう思った。
 状況が飲み込めないのか、こっちを見つめたまま目をしばたたかせる彼女に、その瞳に見とれていた私は、まるで何か言い訳するみたいに慌てて状況を説明する。
「あの、少し前にここにきたんですけれど、ここの時計が壊れてるみたいで、電車がいつくるのか分からなくてそれで少し待っていたんだけれども、全然来る気配も無くて、もしかしたら終電が」
 なんだか変に緊張してしまって、私がみっともないくらいしどろもどろに言葉を重ねていると、すっと彼女が立ち上がった。
 その突然の行動に私が驚いて脇に避けると、彼女はその場で一回伸びをしてから、そのまま駅舎の出入り口に向かっていって、外へと出て行ってしまった。
 このままどこかへ去っていってしまうんじゃないかと思ったけれど、数歩歩いてぴたっと止まった。
 呆気にとられて固まっていた私は、彼女の奇行をそこまで見届けてからやっと、その後を追いかける。——少し、躊躇しながら。
 だって、どう見たって変だ。
 こんな人気の無い駅で一人で寝ていたり、あんな唐突な行動をしたり、もしかしたらこの人は、とてもそんな風には見えないけれども、少し感覚がズレた人なんじゃないかと私は思い始めていた。
 あまり関わり合いにならずにここを離れた方が良いのかもしれない。けれど逃げるにしてもここから出るには出入り口に向かうほか無くて、もし変な事になったら走って逃げようと心に決める。
 私は駅舎を出て、彼女と二歩くらい間を空けて止まった。
 ロータリーにはやっぱり人影も無く、どことなく異世界じみていて、彼女への不信感からか、今は少しそれが不気味にも思えた。
「あの、どうかしたんですか」
 私は、さっきとは違う緊張を抱えながら、戸惑いながらそう聞いた。
 彼女は、ただじっと空を見上げているだけだった。私が隣に来ても、声をかけた今でも、その視線を空から外そうともしない。一瞬たりとも。
 やっぱりどうみても普通には見えなかった。
 思わず身構えた私の前で、彼女がようやく口を開く。
「十一時四十九分」
「え」
 驚いて、彼女の視線の先を追う様に空を見上げた。
だってこのロータリーには時計なんてどこにも無かったはずで、ましてや見上げる物なんて中央の木ぐらいしか無かった。
 だったら彼女は何を。
 果たして——時計は、そこにあった。
 数えきれない程の星を湛えた夜空に、大きな時計が浮かんでいた。それは空に突き刺さる様にそびえ立った塔に嵌め込まれた、信じられないくらい大きくて絢爛な大時計。
 そう、それは虚空にぽっかりと口を開けた、巨大な結界の裂け目。その、向こう側の風景だった。
 それを見た瞬間、私の心臓は確かに一瞬止まっていたと思う。
 何かの見間違いじゃないかと目を疑った。だってそれは私以外に見える筈無いのだから。
 本当に、時計は無かったのかと辺りを必死に見渡したけれど、やっぱりここから見える範囲にはそれらしき物は見当たらなかった。ずっと彼女の事を目で追っていたので、携帯で確認したという事も無い。
 なにより、彼女の瞳は、まっすぐとその裂け目の向こう側に向けられていた。そこは普通の人が見れば、空しか見つけられない場所だ。
 とても信じる事なんて出来ないけれど、目の前の状況が、ただ一つの結果を指し示していた。
「あ、なた」
「ん?」
「見えるのあの境目が!」
「わ」
 思わず掴み掛からんばかりの勢いで——実際腕を掴んで私は彼女に迫っていた。
 状況が飲み込めないのか、彼女はただ目を白黒させていた。だから必死になって説明する。
「そこの空に開いた結界の裂け目に映った景色よ!お城みたいに大きな赤い時計塔に、信じられないくらい大きな文字盤!あなたにも、あれが見えるんでしょ?!」
 吐き出した言葉は、まるで今まで溜め込んでいた言葉と感情が一気に溢れ出したようだった。
 とても落ち着いて話す事なんて出来なかくて、怖がられたらどうしようと思った。でも彼女はただ静かに、そんな私の言葉に耳を傾けてくれていた。
 そして、言い終わった私が見守る前で、裂け目を指し示す私の指先を、今度こそ、ゆっくりと目でなぞる様に彼女が視線を上げていく。
 自分の目の前で起こっている事全部がとても信じられなかった。もしかしたら夢を見ているんじゃないかと疑うくらいに。
 そして遂に、息を呑む私の前で、彼女の瞳がまっすぐと裂け目に向けられて。
 そのまま、すうっと通り過ぎていく。
「時計塔……?」
 彼女の視線は辺りを一回りして、そして最後に私へと帰ってくる。
 じっと私を見つめている、彼女の潤んだ瞳を見て、何かがおかしいとようやく思った。
 そして気付いてしまう。
 だってそれは、子供の時に見たお母さんの目と同じだったから。見えない物を必死に説明する私に、ただ困った様な笑顔を向けるだけだったあのときのお母さんと。
 一気に体中の力が抜けて、彼女を掴んでいた腕も離してしまう。
「え、じゃあなんで時間、を……」
 やっと絞り出した声は力無く、彼女に届くかどうかも怪しいくらい小さな声だった。それでも、彼女は聞き取って、答えてくれる。
「ああ。私は、星を見ると時間が分かるの」
 言いながら、彼女は再び空を見上げる。夜空のその奥を見つめる彼女の瞳には、満天の星空が映し出されていた。
 それは有無を言わせない言い方だった。冗談だと思う余地もない位、彼女はこともなげに言い切ってしまう。
 そんな質問はもう慣れっこで、これまで幾度となくそう返して来たとでも言う様に。
 その横顔はまるで、恋する少女の様なひた向きさで——いや、盲信といってもいいくらい、欠片の躊躇さえない態度だった。自分にはとても真似する事は出来ない態度。
 そして私は、そんな彼女に勘違いしてしまったのだ。彼女は自分と同じくアレが見えるのだと。同類だと。同じ穴の狢なんだと。
 そんな訳、なかったのに。
「じゃ、あ」
 よろける様に、一歩後ずさる。
 つまり私は、ひた隠しにしていたこの『おかしな瞳』の事を、わざわざ自分から、洗いざらい話してしまったという事だ。
 冷静になって見てみれば、裂け目の向こうの世界は茜色に染まっていた。夕暮れか夜明けかは分からないけれど、こっちと同じ時間な訳ない。
「ぁ……」
 急に、私は怖くなった。
 どうしよう知られてしまった。多分相手は自分の事をおかしな奴だと思っているだろう。
 どうにかして誤摩化さなければと、頭が嘘を組み立てようとする。
 でも、すぐに考えるのを止めた。もう自分は、嘘は吐けない。そうすればまた自分は泣いてしまうだろう。そうなったら上手い嘘を吐けても、どっちみちおかしい人だと思われるのは変わらない。
 ならもう、いいじゃないか。
 もし彼女が同じ大学だったとしたら、色々言いふらされてしまうかもしれないけれど、もうそれでも、今の自分にはどうでも良いとしか思えなかった。
 そもそも、もしかしたらもう学校なんて行かないのかもしれない。一体、今の自分のどこにそんな気力があるっていうのだろう。これ以上、何を頑張れば、私は幸せになれるんだろう。
 世界の誰とも、理解し合えないのならば。
 もう、違う世界にでも行ってしまいたい。あの境界の向こう側のような。この世界のどこからも消え去ってしまいたい。
 強く、そう願って。
 本気でそんな馬鹿な事を考える自分が、本当に惨めで、涙が滲んだ。
 せめて、目の前の彼女には迷惑をかけたく無かった。こんな私のせいで。
 彼女に背を向けて、震えてしまいそうになる声をなんとか抑える。
「おかしな事言って、ごめんなさい」
 それだけ言うのが精一杯だった。一刻も早くここから離れる為に、何処に向かえば良いのかも分からないまま、逃げ出す様に足を踏み出した。
「ちょっとまって」
 そんな私の背中に、容赦なく彼女の言葉か追いついてくる。
 それに反応して、一瞬体が止まってしまう。でも、私は聞こえなかったフリをして、先の見えない灯りの外へと、再び進み出そうとする。
「あなたには、一体何が見えているの?」
 彼女のその言葉を聞いて、心の何処かが軋む音が聞こえた気がした。
 それは、子供の頃から、私が様々な人から様々な感情を乗せられて、何回も何回も訪ねられた言葉だった。
 両親、同級生、医者やカウンセラー、そして親友だったあの人。
 そしておそらく私は、本当にどうにかしてしまったのだろう。
 私は歩みを止めていた。
 彼女はじっとこちらを見ている。あの透明な瞳でまっすぐに私を。
 それを背中に感じながら、小さく唇を開く。それは小刻みに震えていて。
 息を吸って、私は、私について話し出した。
「——私には、物心ついたときから、皆とは違う風景が見えるの」
 ずっと子供の頃から、自分にしか見えない不思議な裂け目が見える事。その向こうには、ここではない世界が広がっている事。古い神社、鬱蒼とした森、そしてあの赤い時計塔。そんな、まるで物語の舞台めいた光景をそこに見る事。
 私はそんな事を、自分が見てきた事を、ありのまま話した。
 もしかしたら自分は、そんな馬鹿なと、笑い飛ばして欲しかったのかもしれない。
 思いっきり引いてくれてもいい。いっそ、もうどうにもならない自分自身の事を、とことん酷く扱ってやりたかった。
 だから話し終えた私は、彼女はどんなひどい表情をしているだろうと想像しながら、振り返る。
 良い所絶句しているか、呆然としているか、さっき私が考えたみたいに逃げ出してしまうか。
 考えただけで、胸が押しつぶされたみたいに苦しくなる。不快な愉悦に唇が歪む。
 そして——
 目の前の彼女は、あの透き通った琥珀色の瞳を爛々と輝かせて、私の事を食い入る様に見つめていた。
「すごい、すごいよそれ!本当に、本当なの?!」
 さっきとは逆に、私の両肩を彼女が掴んでいた。その勢いに気圧されてしまって、返事もロクに出来ない。
 その反応は、予想とあまりにも違いすぎて、ただただ困惑してしまう。
 だから、素直に思った事を聞いた。
「なんで、こんな私の事、そんな簡単に信じてくれるの?」
「だって自分の事、棚に上げられないし、それに」
「それ、に?」
「そっちの方が素敵じゃない!」
 ああ、と思った。やっぱり、あまりにも突拍子も無くて何にも考えられない。私は彼女に翻弄されるばかりで、ただ一重に驚く。
 驚いて、驚いたまま、ぽろぽろと大きな涙の粒がこぼれ落ちていた。
「あ、あれ」
 びっくりしながら手の甲で拭う。でも、拭っても拭っても涙は一向に止まらない。
「わ、どうしたの、どこか痛いの?」
「違う、そうじゃない、そうじゃないんだけれど」
 溢れる涙を、手で拭い続けながら、言葉に詰まりながら、それでもなんとか喋ろうとする。言葉にしたかった。今までずっと言えなかった事を。今。
 だって彼女は、素敵だと言ってくれたんだから。
「私は、自分がもう、誰とも理解し合えないんだって思ってた。まるで自分が皆と別の世界に生きているみたいで、もう誰も、私の事なんて、相手にしてくれないんじゃないかって、とても不安だった。だから、あなたが私を信じてくれて、とても、嬉しかったの。もう、こんなことありえないんだって思ってた、から」
 それだけようやく言葉にして、そして後は、ただ溢れてくる涙と嗚咽に飲み込まれてしまった。
 嘘を吐く以外で、こんなに必死になって何かを言葉にしたのは生まれて初めてだった。
 身もふたもなく、私は彼女の隣で、子供の様に泣きじゃくる。
 二つの風景を湛えた空から吹く風は、確かに私の心に届いていた。



 私が落ち着くまで、彼女は側に居てくれた。
 風が体の表面を流れていって、涙の残滓も乾かしていく。それがとても心地良い。
「あ、そういえば終電!」
「もうとっくに出ちゃったみたいね」
「そんな、どうしよう」
 歩いて帰れない距離ではないけれど、それなりに遠いし、夜だと迷うかもしれない。
 何か他に方法は無いか考えていると、彼女が言う。
「あなたの住んでいる所、ここから何駅なの?」
「え……、4つ隣だけれど」
「じゃあ私のほうが近いか。行こう」
 そう言って彼女は歩き出してしまう。
「え、行くってあなたの家に!?今から!?」
「うん。嫌?」
「嫌ではないけれども、着替えも無いし……」
「貸してあげる」
 こともなげに彼女はそう言ってくれるけれども、流石に悪い。
 そう伝えると、彼女は笑顔でこう言うのだった。
「じゃあお礼に聞かせて、あなたの事を、もっと!」


<おわりと、はじまり>
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コメント



0.430簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
細かい情景の表現にセンスを感じました
今までどんな嘘で乗り越えてきたんでしょうね
6.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
これから始まる甘い二人の関係を予感させる終わり方が気に入りました。
素晴らしい