Coolier - 新生・東方創想話

世にも奇妙な創想話「不幸の伝説」

2005/10/10 05:54:56
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「不幸の伝説?」
「そう、不幸の伝説。あなたはご存じないかしら」
「そういう世俗的なことにはとんと疎いものでして」
「引きこもりなのね。たまには外の空気を吸わないと、心の毒に支配されてしまうわよ」

 そう言うと少女、八雲紫はくすり、と小さな笑みを浮かべた。なんとも気味の悪い笑みで、思わず僕は目をそむけてしまった。ちょっと失礼かとも思い、ちらりと横目で彼女を見る。紫はまったく気にする様子も見せず、僕が出した羊かんを摘んでいた。
 彼女がうちに来たのが昼過ぎ、散歩ついでの日よけと称して僕のところに居座り、茶飲みに付き合えと図々しくも僕に強要し、世間話に付き合わされていたときに、僕は突然この話題を振られたのだ。

「それにしても不幸の伝説とは穏やかではないな。それはどんな類の伝説かな?たとえば世界中の黄金を求めたばかりに触れるものすべてを黄金に変える手を手にした愚王の伝説とか?」
「残念、そういう類の伝説ではないの。簡単に言えばこの伝説は一種の呪いのようなものね。ルールはこの伝説を聞いてから十二時間以内に、十人に同じ伝説を伝えなければならない。そして伝えようとする相手はこの伝説を知っていてはならない。もしもタイムリミットを越えてしまうと恐ろしい不幸が起こるという代物なの」

 ……なんとも胡散臭い話である。話の内容から察するにこの不幸の伝説とやらは物語を媒介にして犠牲者に感染し、しかも犠牲者が物語を伝えることでさらに呪いの感染者が増殖するというある種の風土病のような呪いのようだ。しかし、こんな手の込んだ呪いをかけた術者はいったい何がしたいというのだろう。まさか自分以外の不特定の誰かを単純に不幸にしたいだけだというのか?馬鹿馬鹿しい。そのような愚かしい考え方をする前に己の境遇を楽しむくらいの心の強さを持つべきだと思う。そう、妖怪がいかなる境遇をも楽しむことが出来るように。

「案外、この呪いを考えた術者は楽しんでいるのかもしれませんわ。それはきっと、自分の呪いで誰かが不幸になるのを想像して、酒の肴にしているのでしょう」

 僕の考えを察したのか、紫はそんなことを口にした。なるほど、そういう呪いを思いつくやつにもそれなりに下らない楽しみ方があるというわけか。

「そうそう、ちょうど私の知り合いにも一人、たまたまその伝説を聞いてしまったばかりに不幸な目にあったやつがいてね……」
「ほう……」

 僕が話に食いついたのを見て、紫は満足げな顔をした。誤解がない様に言っておくが、別に僕は紫のいう知り合いの不幸話なんてどうでもいい。一応、僕自身も魔術の心得を霧雨家から学んだ身だ。その胡散臭い呪いが本物なのかどうか、そういうことにはちょっとだけ興味があった。最も、それはあくまで研究の対象としての興味であって、それを誰かに試したいとはかけらも思ってないことは身命に誓わせてもらう。

「彼女は……そう、あれはどの位前だったかしら……」

 僕の思惑をよそにして、彼女は話の続きを話し出した……














□■□■□■□■□■□■□■□■□■□□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□










 彼女はあるお屋敷の門番を勤めていて……そうね、名前は仮に中国に……



「ちょっと待った、何か明らかに特定の人物をさしているように感じるのは気のせいか?」
「ええ、気のせいよ」



 ちょっとつまらない茶々が入ったけど話を戻すわね。
 中国はその話を彼女の上司から聞かされたの。その上司はやたらと強くて中国も逆らうことも出来なかった。上司は彼女に話すことで十人目を達成していた。勿論この時にさっきのルールも説明したわ。
 彼女自身は伝説の存在自体は知らなかった。彼女は門番という立場上、お屋敷の中の事に疎かったの。だからこんな話が広まってるなんて、夢にも思わなかったんでしょうね。
 さあ、彼女は大変焦った。時計塔を見ると八時ちょうど。朝八時までに話を十人に聞かせないとどうなるか想像もつかなかった。彼女はとりあえず屋敷のメイドやら図書館に住み着いた悪魔やら魔女やらに聞かせようとしたけど……



「なあ、そこはやっぱりどこかで聞いたことがあるんだが……」
「だめよ、気にしちゃ」



 続けるけど中国は泣きながら屋敷中の皆に聞いてもらおうとした。けど、かわいそうに彼女の話はほとんどもらえなかったか、もう伝説を知ってる人たちばっかりだったのね。悪いことに彼女は達成できなかった人たちの末路をそのときに聞かされてしまい、ますます焦りを募らせた。それでもどうにか三人に話を聞いてもらうことに成功し、さあ四人目、というところで、上司に見つかってしまい、職務怠慢でお仕置きされた挙句に外に放り出されてしまった。
 困った彼女は屋敷に入れてもらおうとしたけど、屋敷の扉は硬く閉められてしまい、どうにもならなかった。勿論妖怪なのだから力技で入ることは出来たでしょうね。でも、そんなことしたら、その後どうなるか、彼女は伝説がもたらす不幸よりも怖い目に合わされることを百も承知していた。だから彼女は屋敷の中に入ることはあきらめたのね。
 唯一彼女にとって幸いだったのは夜だった、ということ。そう、妖怪の時間だったということなの。
 彼女はまず、手近なところで屋敷を囲む湖の妖精たちに話を聞いてもらうことにした。だけど、妖精にとってそんな話はどうでもよかったのね。ぜんぜん話を聞いてくれなかったの。屋敷の時計を見るともう十二時。あと八時間と焦りは増すばかり。
 そのとき、二匹の妖精が通りかかった。一匹は彼女もよく知っていた、湖の妖精でもとくに馬鹿と有名な氷の妖精。もう一匹はこのあたりの妖精のリーダー格ともいえる大きな妖精。

「ちょっと、そこの妖怪!あたいらの縄張りでなにしてんのさ!」
「ああ、ちょうどいいわ。あなたでも構わないから私の話を……」
「ええ~、長い話ならごめんだよ!どうせならあたいと遊んでいくかい?」

 彼女の提案を聞いて中国は思いついた。それなら、勝ったら私の話を聞いてくれと提案した。妖精の方は大はしゃぎでOKしたわ。
 提案した遊びは勿論弾幕ごっこ。彼女の力量なら、妖精では力不足なことを見越しての提案だったのね。
 詳細は面倒だから端折るけど、結果は中国の勝ち。約束どおり彼女は二匹に話を聞いてもらうことに成功した。
 でも誤算だったのは遊びに時間をかけすぎたこと。手っ取り早く聞かせるつもりがいつの間にか二時を回ってしまっていたの。彼女は幻想郷を駆けずり回った。

「こんな話を知ってるかしら?」
「そーなのかー」

 もうなりふり構っていられなくなった彼女は通りすがった宵闇の妖怪の首を引っつかんで無理やり話を聞かせたの。

「聞いてほしい話があるの」
「不幸の~♪、手紙~♪、ぐるぐる回って元の住所~♪」

 空を飛んでいた夜雀には、歌を聴いてあげる条件で話を聞かせたりもしたわね。

 もう八方手を尽くして中国は伝説を聞いてくれる妖怪を探し回った。そう、まだ彼女は七人にしか話を聞いてもらっていない。もう焦って焦ってしょうがなかったんでしょうね。彼女は周りが見えなくなっていた。そして気がつくと、そこはうっそうと生い茂る竹林の中だった。
 気がついた時にはもう遅い。あたりには妖怪は影もなく、迷いやすい竹林の中、彼女は一人たたずんでいたの。

「誰か……誰かいないの!?誰でもいいから私の話を聞いて!」

 力いっぱいの声で彼女は叫んだ。でも、叫んでも叫んでも人っ子一人近づかない。もう時間の感覚がわからなくなってきた頃、空を見上げると空が赤らんでいる。まずい、もう夜明けだ!彼女はもうパニック寸前。
 そのとき、何か大きな影が動いたかのように見えた。中国は最初獣かとも思った。でも違ったの。それは立派な妖怪兎。

「やったあ……」

 走り去る兎に後ろから彼女は伝説を聞かせた。これであと二人。中国はゴールが近いと確信していたけど、肝心の竹林から抜け出すことが出来ない。

「どうしよう、どうやったら出られるのかな、おなか空いたな、今何時かな」

 もしかしたら、もう八時を過ぎてるかもしれない、もしかしたら伝説なんてただの噂かもしれない、と思い始めた頃、そう遠くない場所から何かの音が聞こえたの。

「この音は……誰かが戦ってる音?ということは……その二人に聞かせれば……」

 思いつくや否や、彼女は一目散に音のなるほうへと駆け出していった。そして竹の間から、確かに二人の人間が互いに殺しあう光景が見えたの。思いがけないラッキーに中国は踊りだしそうになった。現場の距離が近づくにつれ、どんどん心が高鳴る。後十歩、五歩、三歩……

「私の話を聞いて……」

 飛び出した次の瞬間。
 彼女は炎に焼かれ、光に貫かれた。そう、突然割り込んできた妖怪に、二人の人間は思わず彼女に攻撃を仕掛けたのね。かわいそうに、中国は話を聞かせることは出来なかったの。
 
そして彼女は……

 薄れ行く意識の中で、遠くに聞こえる八時の鐘を聞いたそうよ……

















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 気がつくと、外はすっかり夕暮れの朱に染まっていた。
 僕は飲みかけの茶を飲み干す。すっかり冷めてしまっていた。

「……なんとも、不幸な話でしたね」
「そうね」

 ポツリと漏らした僕の言葉に、紫は気のない返事を返した。

「これでもついこないだの話よ。時の流れは速いわね」

 そうですか、と僕は口ではつぶやいたが、腹の中ではいつぐらいの話だ、という疑問が浮かんだが決して口にすまい。

「でも……」
「?」
「その中国の聞いた伝説とは、一体どんな代物だったんでしょうね。その中国とやらをこれだけ不運な目に遭わせたのだからさぞ面白い伝説なのだろう」
「気になるかしら?」
「……さすがに少し気にはなるかな」
「正直ね。中国のように不幸な目にあっても?」
「……さすがに命を引き換えにしてまで聞きたいとは思わないな」
「そう……」

 苦笑交じりに僕は首を振った。紫はその様子を見てさも愉快そうに眺めると、













「でももう手遅れね」

 ポツリとそうつぶやいた。

「……なんだって?」

 紫の言葉の意味が理解できず、僕は間抜けな声を上げた。
 ……手遅れとはどういう意味だ?一瞬何のことだかわからなかったが、すぐにその意味を理解した。

「だって……」

 そう、だって……


























「今話した中国の話こそが不幸の伝説なのだから」
 
……やられた。彼女は最初から伝説を僕に聞かせていたんだ!悔しがる僕を見る彼女の顔には、意地の悪い笑顔が浮かんでいた。その表情は、たとえるならいたずらにかかった間抜けをからかう子供が浮かべた、そんな顔に似ていた。

「さて、私はあなたに話してちょうど十人目。これで少なくとも私は助かったと。ルールは覚えているわね?十二時間以内に十人。ええっと、時間は……あら、ちょうど五時を回ったところね。さあ、リミットは今から朝の五時まで。それじゃあ、せいぜい頑張って」
「…………」

 呆然とする僕を尻目にして、紫はるんるんと店を後にしていった……
ええっと、元ネタは某オムニバスドラマでやってた旧い作品です。
つい最近スペシャルやってたんで面白半分で思いついたネタです。

一応同様のネタで後いくつかストックは考えていますので気が向いたら投稿したいと思います。
奈々氏の妖怪
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コメント



0.890簡易評価
5.80無為削除
美鈴の不幸は既に伝説の域に達していたというのか!!

南無。
6.80まっぴー削除
ちょっと待った。

あえて言わないで置こうと思ったけど、こーりんが聞いた話自体が伝説ならば……
これを読み終わって12時間後、読んでる私たちまで不幸が訪れるんじゃあ?
15.80名前が無い程度の能力削除
なんとも耳袋で世にも奇妙な伝説ですね。ってこの話からすると元凶は某上司ですか?
さて、紫様は果たして誰からこの都市伝説チックな階段を聞かされたのか・・・やはり
巫女だろうか?彼女の式やその式が紫様にこういう話を聞かせるとは思えないし
20.80名前が無い程度の能力削除
GJ!つかめーりんもかわいそうに…

でも、こういう話ってもう一つジンクスがあるんですよね。
つまり…。

「ノルマを達成した人が、それで不幸を回避できたという話」を、とんと聞かないって事…ゆかりんなら可能か。