Coolier - 新生・東方創想話

桜の木の下で ~前編~

2005/10/09 17:19:44
最終更新
サイズ
30.73KB
ページ数
1
閲覧数
787
評価数
3/26
POINT
1240
Rate
9.37



※西行寺家と西行妖については筆者自身よくわからないので、独自の設定を使っています。
 いろいろと気にしないでいただけると助かります。

















「よっこらしょ」
 少女を自称する身としてはあまりよろしくない声を出しながら、スキマから体を引っ張り出す。
 吹き抜ける風が気持ちいい。
 眼下にそびえるは冥界の門。
 いつもと違うところといえば、ぴったり閉じているはずのそれが全開で開け放たれているところだろう。
 おかげで冥界の幽霊が巷に現れたりで騒ぎになっているそうだ。
 では早速、修理取り掛かるとしましょうか。


 これをやったのは、確か博麗霊夢といった。
 博麗神社の巫女で、この前、西行妖の封印を解こうとした幽々子に一発お仕置きをしたらしい。
「西行妖に、幽々子ねえ……」
 考えただけで胸が痛む。
 頭の隅に眠っている、古い古い記憶。
 はっきり言って、思い出すのは辛い。
 でも、これは幽々子を死なせてしまった私への戒め。
 だから、あえて思い出してみよう。
 初めての友人と過ごしたあの時間を――。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 幽々子と出会ったのはいつだったか。
 それはずっとずっと昔のこと。
 この冥界がまだこれほど賑やかではなかった頃。
 そもそも西行寺幽々子という亡霊姫が存在していなかった頃……。



 西行妖という桜がある。
 齢千とも二千とも言われている巨大な妖怪桜で、正確な年齢(樹齢?)を知っているのはこの幻想郷の歴史の編纂者くらいだろう。
 なぜなら、西行妖も初めはただの桜だったからだ。
 小高い丘に咲いていて、百年以上を生き、いくつもの戦禍を生き残り、春になれば満開の花を咲かせた。
 一里先からでも見えるその光景は実に見事なものだった。
 昔、歌聖と呼ばれた人物が、自らの死に場所として選んだ理由もわかるような気がする。
 そして、その桜を間近で見ようと多くの人が集まり、陽気に酒盛りを行っていた。
 かく言う私も、桜に惹かれて、人間たちと一緒にお酒を飲んでいたこともあった。


 そして季節が何度か巡った頃、それは起こった。


 初めは小さな諍いだった。
 この巨大な桜が咲けば多くの人間が集まってくる。そして酒盛りを開く。
 そうなれば当然、酔っぱらい同士の喧嘩の一つや二つは起こるもの。それはいつものことだ。
 誰もがそれくらいにしか考えていなかった。
 私もそう考えて放っておいた。
 今にして思えばあのときの私はどこかおかしかったのかもしれない。
 あたりに充満していた妖気に気づくことができなかったのだから。

 ――悲鳴が聞こえた。

 諍いのあった方からだ。
 何事かと振り返った私の目に飛び込んできたのは、息も絶え絶えになりながら殺し合う二人の男だった。
 一人は刀を構えた侍、一人は短刀を持った遊び人風の男。
 片方は首に、もう片方は胸に一目で致命傷とわかる傷を負っていた。
 それでも二人は殺し合うことをやめない。
 まるで壊れたからくり人形のように、ぎくしゃくとした動きで相手の体を傷つける。
 斬り、刺し、抉り、最後は互いに刺し違えて、二人は息絶えた。
 人々が悲鳴を上げて騒然となる中、私は見た。
 二人が流した血が、砂にまかれた水のように地面に吸い込まれていくのを。二人の体が痩せこけて骨と皮だけになっていくのを。
 そして気づいた。
 この一帯に充満する、とてつもなく巨大な妖気に。その中心にある一本の巨大な桜に。

 桜のまき散らした妖気は人々の気分を高揚させ、狂わせた。
 ひとたび狂えば痛みを忘れ、恐怖をなくし、誰彼かまわず襲いかかる。

 半刻と経たないうちに辺りは地獄絵図と化していた。
 老いも若きも子供でさえも、皆が皆手に武器を持ち殺し合う。
 初めは逃げ惑っていた人も、次第に狂気に飲まれていった。
 それは私とて例外ではなかった。人々が争い息絶えてゆく中、徐々にこみ上げてくる高揚感を必死に堪えながら、私はスキマへと逃げ込むことしかできなかった。


 ――それから百年の間、内側から迫りあがる狂気に怯えながら私は眠り続けた。


 目覚めてから一週間が過ぎる頃、私はようやく平静を取り戻していた。
 初めのうちは憤りにも似た感情が心の中に渦巻いていた。

 ――悔しい。

 この私が、八雲紫ともあろう者が尻尾を巻いて逃げ出すしかなかったなんて。

 ――憎い。

 あんな桜、私の力を以て塵も残さず消滅させてやる。

 しかし、それらの感情は一気になくなってしまった。
 そんなものとは比べ物にならない驚きが私を支配していたからだ。
 あの桜を、あの妖怪桜を封印した一族がいるというのだ。
 私でさえ取り込まれそうになった、あの妖怪桜を!



 ――――――



 一族の名は西行寺といった。どうやらこの幻想郷では新参の一族らしい。
 数多の妖怪を調伏し、それ以上の数の妖怪と争っていた人外とも呼べる異能の力を持っていた一族。
 現頭首である、西行寺幽々子。
 人外の中にあって、一際異彩を放っていた西行寺の姫。
 彼女は相手を死に誘うという力を持ちながら、自ら妖怪と争うことはしなかった。
 そして妖怪もまた、彼女の力を畏れて手を出そうとはしなかった。



 話は遡る。

 人間達は黙ってやられていたわけではなかった。
 季節が巡り、花が散って木がやがて訪れる冬に向けて眠りに入る頃、近隣に住む男達が総出で西行妖を退治するため立ち上がったらしい。
 妖を断つ鋼の刀、魔を射抜く破魔の矢、災いから身を護る護符、もちろん油も大量に用意されていた。
 そして、それらを携えた千人にも及ぶ軍団……西行妖が退治されるのも時間の問題と思われた。

 しかし、そこで予想外の出来事が起こる。
 初雪の降る中、西行妖が花を咲かせたのだ。

 西行妖は桜。
 桜は人を惹きつける力を持っている。
 だが、西行妖は惹きつけるのではなく、狂わせてしまう。
 それも常人には逆らえないほどの力で。
 私が眠りについた一件以来、西行妖はその力をさらに増していた。
 彼らは西行妖の一里(約4キロメートル)四方に近づいただけで気が触れ、皮肉にも西行妖を退治するために作り上げた武器で殺し合ったのだ。
 同士討ちの戦は一晩続いた。
 そして、最後の一人が倒れた頃、西行寺は現れたという。
 彼らは一里四方に陣を敷き、幾重にも張り巡らせた結界で西行妖を覆った。
 それから一日二日と経つごとに徐々に陣を狭め、実に三年の月日をかけて直径二百間(一間=約1,8メートル)の結界を作り上げ、西行妖を封じたと言われている。



 以後、彼らはその地にとどまり、屋敷を建て、西行妖を封印する役目を背負い、外界とほとんど交流をせず、暮らしているのだという。



 ――――――



 一ヶ月後。

「よし、決めた!」
 頭まで被っていた布団を勢いよく跳ね上げて私は跳ね起きた。
 太陽が雲の切れ間から顔をのぞかせ、暖かな光で私を照らしていた。
 何を決めたのか? もちろん、西行寺の屋敷に乗り込むことを決めたのだ。
 服を着替えていつも使っている日傘を手に鏡の前に立つ。
 髪の毛には寝癖一つない。枝毛なんてもってのほか。
 日傘を差し、軽く傾けて優しく微笑んでみせる。よし、これならどこぞの令嬢といっても十分に通じるはず。
「……何やってるんですか?」
「何って予行練習よ。人間、第一印象が大事でしょ?」
「はぁそうですか」
 言っている意味がわからないが、とりあえず返事だけしておこうといった感じで頷く。
 この主人に対する敬意の欠片も見せない無礼者が、つい最近私の式にした妖怪で、藍という。
 元は名の知れた九尾の狐で、どこぞの国を滅亡寸前まで追い込んだのだとか。
 過去の名声はさておき、今はただの式……もとい家政婦と化しているけれど。
「で、久しぶりに起きたと思ったらどこへ行かれるのですか? まあ、私としては三日ぶりに布団を干してお部屋を掃除しなければならないので面倒くさいことこの上ないのですが」
 そう言って布団を畳んで持ち上げて庭へと運び出す。
 まったく、今は私の式なんだからもう少し態度を改めて欲しいものだ。
 そのうち誰が主人なのか、もう一度わからせてやる必要があるだろう。
 それまで我慢だ。
「……それにしても、眠ってから三日も経っていたのね」
「ええ。毎日のように無駄にご飯を作っているこっちの身にもなってください」
 布団を物干し竿に掛けて、布団を叩く藍。
 パンパンパンとテンポよく叩いている。
 ……手ではなく尻尾で。
 九本もあるとこういうときには便利そうだと素直に感心。
「そう? じゃ、少しは規則正しい生活を心掛けるようにするわ。留守番お願いね」
「わかってますよ。これでも一応、式ですから」
 行ってらっしゃいの代わりにシッシッと尻尾を振る藍。
 ……こいつは。



 ――――――



「ふぅ……ふぅ……それにしても……どこまで続くのよ……この、階段は!」
 西行寺の屋敷までの道のりはとても長かった。
 周辺一帯の土地をまるまる使って作り上げられたというだけあって、とにかく広い。
 術によって造り上げられた、広大な、山とも呼べそうな丘。その頂上へと長い長い石段が続いていた。
 試しに歩いて登ってみよう。どうせ人間の作った物だ……なんて思った私が馬鹿だった。
 いくつか魔除けの結界を破った後はひたすら階段を上るだけ。
 しかし、進めど進めど頂上は見えず、少しずつ濃くなっていった霧に覆われて、今は影も見えない。
 自分の足元さえよく見えないのだから視界の悪さは推して知るべし。
 スキマを開くか飛ぶかすれば解決することなのに、この時の私は意地になっていた。
 ここで能力を使ってしまったら私の負けのような気がしたのだ。
「ほんと、この屋敷を造った人間はよほどの変人ね」
 毒づいていても状況は変わらない。
 石段を登ろうとしてふと気づいた。
「……私……さっきから同じところを歩かされてる」

 ――やられた! これはかなり初歩的な対人用の結界術だ。
 
 仕掛けはとても単純なもので、霧で相手の周囲を覆い、位置の把握を困難にする。
 そして、あらかじめ張っておいた二つの場を結ぶ結界を起動させる。この階段のように一本道ならさらに効果的だ。
 これで相手が術に嵌っていることに気づかない限り、延々と同じ場所を回り続ける羽目になるのだ。……私のように。
 いくつかの魔除けの結界がやけにあっさり破れたものだから、すっかり油断していた。
 それにしても、こうも簡単に相手の罠に落ちるとは私の勘も鈍ったものだ。
「え~と、ここで空気の流れが変わっているから、ここら辺に……あった」
 霧の中に手を突っ込んで道の脇に生えている木の根本を調べていく。
 場と場をつなぐ結界は、大抵四枚の符を使い、一枚の面――扉のような物を造り上げるのだと相場が決まっている。
 ならば、その面をただの線に戻してしまえばいい。
 そうすれば結界の効果はたちまちのうちに消え去ることになる。
 今は前に進むだけだから、片方だけでいいだろう。
「となると、もう一枚はここら辺に……やっぱり」
 反対側の木の根本にも同じ物が貼り付けられていた。
 それを剥がすと、今まで目の前で途切れていた空気の流れが、奥へ、頂上へ向かって吹き始めた。
「これでよし、と。あとは霧が晴れるのを待つばかりね」
 術で発生させたとはいえ、霧は霧。
 流れ出した空気に押されるようにしてどんどん晴れていく。
 本当のところを言えば、私をコケにしてくれた礼も含めてこの一帯をバラバラにして空間のスキマに落としてやってもいいのだが、さすがにそれは大人げないだろう。
 ……というか、まず一発殴ってやらないと気がすまない。その後どうするかは気分で決めることだ。
 私に必死に許しを乞う人間の体をバラバラにするか、それとも無駄とわかっていて襲いかかってくる人間を一思いに叩き潰すか……考えただけで笑いがこみ上げてくる。
 にやりと、自分でも気味が悪いとわかる笑みを浮かべていた。


 ――気が高ぶっていたからだろうか?


「あら、珍しいわね。こんなところにお客様だなんて」
 私は、開けた視界の上、門の前に立っている一人の少女に気づくことができなかった。
 そして、
「動くな。妙な真似をすれば、即刻その首が落ちるものと思え」
 背後から首に刀を突き付けられていたことにも。



 ――――――



「それで?」
「『それで?』……って藍、何そのつまらなそうな言い方は」
 次の日。
 藍曰く「珍しく私の作った朝ご飯を食べている」状態で、私は体全体で抗議した。
 向かいに座って自分のご飯をよそっていた藍は、それすらも流して大盛りに盛ったご飯を黙々と食べている。
「ちょっと聞いてるの?」
「聞いているから言っているんです。どうしたっておかしいじゃないですか。西行寺といえば、ここ百年の間に幻想郷に入り込んできた一族です。大方、外にいる妖怪をあらかた調伏してしまったからでしょう。過ぎた力を持った者は、敵がいなくなれば身を追われるのが宿命ですから。……ともかく、彼らはあの妖怪桜を封印したほどの力を持っているのですよ? 不意を突かれたのにどうやって逃げ出せたと言うんです? 無理に決まっているでしょう。嘘を吐くならもっとましな嘘を考え――ぉ?」
 異常を察知したときにはもう遅い。藍の体を首だけ残してスキマに落としてやる。
「あの~これはいったいどういう……」
 私はそれに答えず無言で立ち上がった。
 それを見て引きつった顔をする藍。その怯えた様子に少しだけ溜飲が下がった。
 でもこんなことでさっきの暴言を許してやるほど私の心は広くはない。
「式の分際でよくもまあ好き勝手言ってくれたわねえ」
 首だけになった藍の前で指をぽきぽきと鳴らして見せる。


 ――さて、誰が誰の主人か、少し思い知らせてやるとしましょうか。


「え~と、どこまで話したっけ?」
「確か得体の知れない男に刀を突き付けられてピンチになったあたりだと思います。しかも後ろから」
「……そう?」
「はい」
 すました顔をして答える藍に、すっかり赤くなってしまった手を隠してから私は曖昧に頷いた。
 まったく、体ばかり頑丈な式はこれだから嫌だ。

 藍は元々、身の丈百間を超す大妖だ。
 それが今は人間サイズにまで体を縮めているのだから、物体の密度が半端ではない。
 生半可な武器では傷一つつけられずに折れてしまうだろうし、よほどの名刀でもかすり傷を負わせるのが関の山だ。
 私の拳も岩くらいなら容易く砕くが、藍を……となると十回もしないうちに拳が悲鳴を上げてしまう。
 次からは何か別のものを使おうかな……。

 ま、それはそれとして。
 気を取り直して、私は再びあの時の出来事を語り始めた。
「それでね――」



 ――――――



「妖忌。刀を納めなさい」
「「……は?」」
 私と私に刀を突き付けている剛健な初老の男――妖忌というらしい――の声がきれいにそろった。
 それはそうだろう。私が発している気配を感じ取れば何を考えているのかくらいわかるだろうし、仮にも妖怪退治を生業とする人間なら私がどれほどの力を持っているかなんてすぐわかろうものなのに。
 それでも私を自由にすると言うのだ。この人間は。

 ――この私が遊ばれている?

 そう考えた途端、無意識に体に力が入った。
 首に触れていた刃が皮膚を裂き、傷口から血が流れ出すこともかまわず前へ出ようとした。
「動くなと言った。それより前へ出れば斬る」
 妖忌の言葉に足が止まる。
 熱くなっている自分とは別の、もう一人の自分が囁く。
 まだ動くな。主人であるらしいあの小娘がこの刀を引けと言っているのだ。今こんな危険を冒す必要はどこにもないじゃないか、と。
 それに、私だって命は惜しい。一時の激情に任せて殺されるのは、人間に遊ばれるより面白くない。
「……わかったわよ」
 渋々後ろへ下がる。
「ありがとう、わかってもらえてうれしいわ」
 にっこりと笑い、少女は石段を下り始めた。
 しかし男は依然として私の首から刀をどけようとはしない。
「そうねえ。……彼はそうでもないみたいだけど?」
 ちらりと後ろを見やりながら私は言った。

 これでこの男を下がらせたなら、すぐにでもその首を引き抜いてやる……!

 腹の底に渦巻くそんな黒い衝動を悟られまいと、自然さを装う。
「こんな危ない物を突き付けられたままじゃ、ゆっくりとお話もできないわ」

 ……あ。

 しまった。自然さを意識するあまり、いつもの癖が出てしまった。
 これじゃ怪しいと思ってくださいと言っているようなものだ。こんな胡散臭い物言いを信じるやつが――
「それもそうね。妖忌。私の言うことが聞けないの?」
 いた。こんなところに一人いた。
 少女はとんとんと石段を下りながら先ほどと同じことを口にする。
 うまくいったかと思ったが、それはとんでもない勘違いだった。
 無邪気な笑顔とは裏腹に言葉には否定を許さない迫力があった。やはりこいつは見かけ通りの小娘ではない。
 下手に手を出せばこちらがやられる。
「……わかりました」
 妖忌は不承不承頷くと刀を引っ込め、後ろへ下がった。
 しかし、依然として私の一挙一動から目を離してはいない。
 距離を離し刀を納めてもなお、その手に抜き身の刃が握られ、首筋にピタリと当てられているような錯覚を覚える。
 この男も……人間の身で一体どれだけの修行を積んでここまでの力を手にしたというのか。

 ――あれ?

 ふと気が付くと、前には得体の知れない少女、後ろにはこれまた得体の知れない男。
 この状態はまさに前門の虎後門の狼。
 ……もしかして、これは絶体絶命の大ピンチというやつ?
 


 ――――――



「長い」
 唐突に藍が言った。
 我慢が限界を超えたのか、無表情を装ったその顔の上からでもいらいらしていることがわかる。
「何よう。まだまだ話は続くのよ? こんなところで終わったら先が気になって眠れなくなるわよ~」

 ……いやまあ、本当のところはこっちが話したくてうずうずしている、というのが正しいのだけど。

「いいえ。私は不規則な生活を送っていませんから、時間が来れば自然と眠気は訪れるのです――そうではなくて! たったこれだけのことを話すだけで、どうしてこんな時間になるのですか!」
 藍はビシッ!と外を指差す。
 日はすでに天高く昇っていた。
 私が話を続けたのが朝ごはんの途中からだから……。
「時間が経つのは早いのね」
「わかっていただけたようですね。では、これで失礼します。やることが山ほどありますので」
 藍は部屋を出て行こうとする。
「待って~!」
 思わずその足に縋り付いた。
「……なんですか?」
「話くらい聞いてくれたっていいじゃない。ね?」
「……」
 藍は虫を見るような目で私を見ている。
 くっ……我慢、我慢だ紫。
「ね?」
「…………はぁ。わかりました。でも、まずは洗濯物をしまってからです。たった今、近くで嫁入りがあるという報せがありましたから」
 このままでは埒があかないとでも思ったのか、藍が折れた。
 形はどうあれ私は勝ったのだ。えっへん。
 とはいえ、言われてみればなるほど、日は強く照り付けているのに風が湿ってきたようだ。藍の言うとおり、一雨くるのだろう。
「それじゃ、なるべく早くに戻ってきてね~」
「はいはいわかりました。……あぁ、なんで私はこんなのに敗れてしまったのだろう……」
 庭へ出て行く藍の背中はとても疲れているように見えた。



 ――――――



 ここは西行寺の屋敷の中心。
 どうやらこの少女の部屋らしいのだが……。
「それで、貴方のお名前は?」
「八雲紫」
「どこに住んでいるの?」
「幻想郷の境界近くよ」
「家族は?」
「いないわ」
「それじゃあ……」
 なんでこんなことになったんだろう?。
 次から次へと質問を浴びせてくる少女に適当に答えながら、私は思考を過去へ飛ばした。



「これから私の家へ来ない?」
 少女は唐突にそんなことを言った。
 私が目を丸くして固まっていると、
「……嫌?」
 悲しそうな顔でそう言う。
「そ、そうじゃなくて。私は妖怪よ? その私をどうして家に上げようとするの?」
 我ながら至極真っ当な質問だと思う。
 妖怪が人の家に上がり込むことはあるが、人間に招待されるというのは土地神に近い存在でもなければ聞いたことがない。
 こいつ、頭のねじが全部外れているんじゃなかろうか? そうでないとしたらいったい何を企んでいる?
 考えがまったく読めない。
「……じゃあ、貴方はここに何をしにきたの?」
「それは……」
 悩むことでもない。
 私は素直に答えた。
「西行寺っていう人間を見てみたかったから」
 それを聞いた少女の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあやっぱり私を訪ねてきたってことよね! ほら妖忌、彼女は私のお客様じゃない」
「そのようですな」
 やや憮然とした様子で答える妖忌。
 ……まあ私を疑ってのことだろう。無理もない。普通だったら誰でも疑う。こいつが普通じゃないだけだ。
「それじゃ行きましょ」



 ――そうだ。そのまま手を握られてここへと連れてこられたんだっけ。

「次はねえ……」
「待った」
 とりあえず待ったをかけておく。
 すると、お構いなしに質問を続けてくるかと思ったが、意外にも彼女は静かになった。
 代わりに私の顔をにこにこしながら見つめている。……何がそんなに面白いのだろう?
 気になったので私も彼女の顔を観察してみることにする。
 年は十代半ばといったところか。顔つきは幼く、それよりも下に見える。
 髪は珍しい桃色だ。似合っているには似合っているが、こんな髪の色の人間はお目にかかったことがない。
 金や銀の髪をした人間なら出会ったことがあるのだけれど。
 全体的に見れば可愛らしい少女といったところ。
 以上。終わり。
 ……やっぱり面白くない。人間は妖怪と考え方が違うのだろうか?
 観察はやめて質問をすることにした。
 さっきあれだけいろいろなことを聞かれたのだ。こっちが聞いてはいけないということはないだろう。
「ねえ」
「なに?」
「貴方に家族はいないの?」
「ええ。みんな死んじゃったから」
 少女の声のトーンが落ちる。
 いきなり地雷を踏んだか?
 そんな考えが頭をよぎった。

 これだけ広い屋敷を通ってきても、先ほどの妖忌という男以外の気配が全く感じられなかった。
 彼女の言葉を信用するなら、やはりこの屋敷に住んでいるのは彼女と妖忌の二人だけということになるのだろう。
 ただ、どの部屋にも使い込まれ手入れされた家具が置いてあった。人が住んでいた名残のような物があった。確かに、この屋敷には多くの人が住んでいたのだ。
 しかしここにかつての繁栄は見る影もない。精気というものがまるで感じられないのだ。
 盛者必衰。かつては栄華を誇ったであろう西行寺家の成れの果て、とでも言うのだろうか。

「寂しくはないの?」
「……え?」
 少女の目が軽く見開かれる。
 たぶん驚いているのだろう。……ふつうこんなことを聞く妖怪はいないだろうから無理もないか。
 でも、なぜこんなことを聞く気になったのだろう?
 自分でもわからないが、とにかくそれが気にかかった。
「だって、この広い屋敷にあの妖忌っていう人と二人で暮らしているんでしょう? いくら何でも広すぎるわ」
「……なにが?」
「え?」
 言っている意味がわからない。そんな顔をされた。
 今度はこっちが驚く番だった。

 ……というか、

「いるじゃない、みんな」

 なんだろう、

「ほら、貴方のそばにも」

 この得体の知れない寒気は……

 少女が立ち上がった。
 それだけで寒気を通り越して体の芯が凍り付いたような錯覚さえ覚える。
「貴方にも見せてあげるわ」
「……っ!」
 ゆっくりと彼女の手が差し出される。
 怖い。本気でそう思った。
 この手に触れられたらきっと良くないことが起きる――
「お止めなさい」
 私の頬に触れるか触れないか、すんでのところで横合いから伸びた手が彼女の腕をつかんでいた。
 それが誰か、考えるまでもない。妖忌だ。
「……見つかっちゃった」
 彼女はいたずらを咎められた子供のように舌を出した。
「紫様。今日のところはお引取り願えますか?」
 妖忌は私と彼女の間に割って入るとそう言った。
 しかし、私に言ったものの返事を求めている様子はない。
 要は「さっさと帰れ」というところだろう。
 私としても一秒でも早くここから立ち去りたい気分だったので、特に異を唱えようとも思わず屋敷を後にした。



 ここへ来る時に散々私を苦しめた石段を下りながら私はずっと考えていた。
 あの少女から感じた力……あれはいったいなんだったのだろうかと。
「もしかして……」
 最後の一段を下りる時ふと閃いた。

 ――あれが『死』というものなのか――?

 後ろを振り返る。
 この考えが正しければ、あの広い屋敷に妖忌という男と二人だけで住んでいた少女こそが、西行寺幽々子その人だったのではないか?



 ――――――



「……それで終わりですか?」
「ええ、そうよ。だって昨日のことじゃない」
「確かに。では明日もその屋敷に行かれるのですね」
「あら? よくわかったわね」
「まあ、楽しそうに話すということは、それだけ相手に興味を持っているということですから。……夕食の支度がありますから、私はこれで」
 私に反撃の機会を与えないまま部屋を後にする藍。
 食事を人質に取られてはさすがの私も手が出せない。
 ううむ、藍もなかなかやるようになった。
 それに鋭い。
 藍の指摘したとおり、私は明日にでもあの娘に会いに行くつもりだ。
 得体の知れない恐怖はあるものの、私の彼女に対する興味はそれをはるかに上回っていた。
 私を恐れない人間。
 私を恐れさせた人間。
 まるで穏やかな水面に投じられた石のように、彼女という存在は私の心をざわめかせていた。



 ………………



「ねえ、妖忌」
「はい」
「紫は、またここに来ると思う?」
「……私にはわかりかねます」
「嘘。もう来ないと思ってるでしょ」
「わかっておいででしたか。……その通りです。妖怪といえども死は恐ろしいもの。自ら進んでそれに近づこうとは思いますまい」
「わかってないのね、妖忌は。彼女は来るわよ。必ずね」
「ほう? その根拠は?」
「根拠ねぇ――私たちの共通項、かしら」



 ――――――



「ようこそ。お待ちしていましたわ、八雲紫さん」
「それはどうも。西行寺幽々子さん」
 スキマを通って突然現れた私を前にして、彼女は笑顔だった。
 まるで待ちに待った人が訪ねてきたように。
 そして私も笑顔だった。
 心待ちにしていた人に会えたのだから。

 ……彼女を目の前にしてわかったことがある。
 それは、人間と妖怪という違いこそあれ、私たちは似ているということだ。
 彼女は死に誘うというその力ゆえに、
 私は境界を操るという力ゆえに、
 絶対的な力を持つもの特有の孤独を背負っていること。
 それに、若干一名ずつ、そんなものとは無縁の存在が近くにいたりするところもそっくりだ。


 それからは毎日が楽しかった。
 箱庭の世界を二人で駆け回り、日が暮れるまで遊んだ。
 時にはこの屋敷に泊り込んで、夜が明けるまで起きていたこともあった。
 そんな、幼い少女のような生活が、いつまでも続くと信じていた……。


「ただいまー……ぁふ。藍ーお布団敷いてー」
 よっこいせ、とスキマから体を引きずり出す。
 眠い眠いとにかく眠い。
 これも丸一日遊び続けたからだ。
 気だるさも手伝って、気を抜けば倒れて寝てしまいそうなくらい眠い。
「藍ー聞こえないのー?」
「聞こえています。それに、布団ならもう敷いてあります」
 目を擦りながら床に敷かれた布団を確認。藍がどこにいるかはわからないけど。
「あら、ほんとね」
 服を脱ぐのも面倒くさい。皺になっちゃうけどまあいいか。
 ふかふかの布団に倒れこもうとした私は、背中に薄ら寒いものを感じて振り返った。
 藍だ。
 初めて出会ったときのような、冷たい目で私を見ている。

 ――ああ、そうか。
 そういえばそうだった。
 藍は正式に私の式になったわけではない。
 九尾の狐を私が打ち倒し、それを力ずくで従えているだけ。
 もし逆に藍が私を倒すことができればいつでも私の元を離れていい。
 そういう契約だった。

 改めて藍の方へと向き直る。
「確かに最近は弛んでいたわね……。どう? 今の私なら倒せそう?」
「そんなことを口にするとは……確かに弛んでいるようですね」
「?」
「では一つだけ。近頃の貴方はまるで……何かを無くすことを恐れているようだ」
 心臓が一度、大きく跳ねる。
 私も気づいていない、私の心の内を見透かしたような一言だった。

 ――私が、何を、恐れているって……?

「では、これで失礼します」
 それだけ言って、もう用は無いとばかりに部屋を出て行く藍。
 私は奇妙な焦燥感にとらわれて、もう一度スキマの中に身を躍らせた。
 眠気は、欠片も残らず消え去っていた。



 ――――――



「――幽々子!」
 開いたスキマから飛び降りる。
 返事は返ってこない。部屋はもぬけの空だったからだ。
 行き先を間違えるはずが無い。
 ここは幽々子の部屋。
 ……でも、少し前までここで話をしていたはずの幽々子の姿がどこにも無い。
 胸の中で嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
 目が自然と障子に向けられる。
 この向こうは庭。果てしなく広がる西行寺の庭。

 そこに、あの桜の元に幽々子はいる。

 震える手で障子を開ける。
「……なんてこと」
 言葉の先に、黒々と渦巻く妖気が見えた。
 あんなものが溢れ出したらこの屋敷はおろか、この一帯のあらゆるものが死ぬ。
 それほどまでに圧倒的な力だった。
「急がないと――!?」
 一瞬、我が目を疑った。
 スキマを開くことができない……?
 それは呼吸をするように行っていたこと。
 妖怪として生まれて以来、失敗したことなど一度も無い。
 それがなぜ……?
「――そんなことより今は!」
 スキマは開けないが空を飛ぶくらいならできる。
 重たい体を引きずるように、私は飛び上がった。



 いた。
 幽々子はやはり、西行妖の元にいた。
 真っ白な装束に身を包んで、全身に決意を漲らせて。
 その姿はまるで……。
「幽々子!」
 考えるより先に言葉が出ていた。
 疲労は限界に達していて、地面に降り立っただけで倒れそうになったけれど、立ち止まることはできなかった。
「紫……」
 振り返った幽々子は珍しく驚いているようだった。
 瞳の奥で感情が揺れている。
「貴方まさか一人でこれを……」
「――下がりなさい」
 横合いから伸びた手が私の行く手を遮る。
 妖忌だった。
 その手に軽く押されただけで、私は尻餅をついていた。
「そんな体で何をするおつもりですか」
「ぇ……嘘……」
 立ち上がれない。
 呼吸を整えるだけで精一杯。
 疲れてはいたけれど、いくらなんでもこれはおかしい。
 となれば、原因は自ずと限られてくる。
「幽々子……?」
「とても疲れているでしょう? それはね、私が屋敷に結界を張って、貴方の力を奪っていったからよ」
「……なぜ?」
「どうしても貴方の力が必要だったの」
「……それならどうして私に相談してくれなかったの? 二人でやればこんな桜を封印するくらい……」
「本当にそう思ってる?」
「……」
 無理、だと思う。
 百年前ならいざ知らず、今のこれを封印するとなれば、それこそ……。
「だからこそよ。私一人で済むならそれにこしたことは無いわ」
「でも……!」
「――幽々子様。もう、あまり時間がありません。急がれますよう」
 一つ頷いて、幽々子は背を向けた。
 それは私に別れを告げるということ。
 もう会えないということ。
 思わず目を逸らそうとしたその時、妖忌が言った。
「目を、逸らさないでいただきたい」
「私には……」
「あの方が、なぜ御自分一人で事を成そうとしたか、その心を汲んでくださるなら、最後まで……」
 不意に言葉が途切れる。
 きつく握り締められたその手からは、とめどなく血が流れ落ちていた。
 それで悟った。
 彼とて辛いのだ。
 主が死にゆく姿を、ただ見守ることしかできない辛さ、苦しさは私の比ではないだろう。
 その妖忌が目を逸らさず、まっすぐに幽々子の背中を見つめている。
 ならば、私も――目を逸らすわけにはいかない。


「私の曽祖父は、千の男達の魂を使って西行妖を封じた」
 一歩。
 幽々子が西行妖に近づく。
「でも、それだけでは足りなかったの」
 また一歩。
 西行妖が震えるのがわかった。
「結界に封じられながらも、西行妖は力を蓄えていった。紫、境界を操る貴方になら見えるはずよ。西行妖を縛る結界の綻びが」
 見える。
 西行妖を縛る結界の所々に綻びが生じている。
 千の男達の魂を使った強固な結界でさえ、西行妖を縛るには足りなかったのだ。
「だから、次は私たちの番」
 さらに一歩。
 西行妖の震えがさらに大きくなった。
 怯えている。
 あの西行妖が。
 幽々子の力によって封じられることを恐れて。
「この地に眠る魂と、私を以って、今度こそこの桜を封じてみせる」

 ――駄目、幽々子……貴方がいなくなったら、私は……。

 あと一歩踏み出せば、もう取り返しがつかなくなる。
 そう思ったとたんに、私の中での決意が揺らいだ。
 それを、地面を握り締め、歯を食いしばって耐える。
 爪が割れて剥がれる。口の端から血が流れ落ちる。
 でも、目は逸らさない。
「……さようなら……紫」
 最後の一歩を踏み出す。
 刹那、地鳴りにも似た声を上げて西行妖が身を捩った。綻びの生じた結界はその力に耐え切れずに千切れ、霧散する。
 桜の花が一斉に開き狂気という名の毒を撒き散らす――
 しかし、



 ――『封桜結界』



 幽々子がその身を結界と化す方が早かった。



 世界が白い光で塗りつぶされていく。
 その力は、あるいはこの幻想郷を覆う博麗大結界に匹敵するかもしれない。
 白い光の正体。それは、この地に眠る数多くの死者たちの魂。
 死者たちの魂は、怨嗟の声を、歓喜の声をあげて結界へと組み込まれていく。
 彼らの目的はただ一つ。
 西行寺幽々子を寄り代として、西行妖を封じること――。


 散っていく。
 桜を桜たらしめるもの。
 桜の花が。
 薄れていく。
 西行妖から感じる妖気が。


 その時、私は幽々子の声を聞いた。


 ――わたしはね、紫。自分が大嫌いだったの。好きな人も嫌いな人も、善い人も悪い人もみんな死なせてしまう自分が。

 ――わたしが初めて手に掛けたのは、声も知らない母様。私は母様を殺して生まれてきたの。

 ――そのことを誰も責めなかった。むしろ喜んでいたわ。「一族の悲願が達せられる」って。

 ――殺すことしかできない私は、やっぱり何かを殺すために生まれてきたの。私はそれが嫌で嫌で仕方がなかった。

 ――でも、持って生まれた力は次々に人を死なせていった。「後はお前だけだ。お前の命で、多くの人が救われ、
   また、我々の悲願が達せられる。名誉なことだ」最後に死んだ父様はそう言ったわ。名誉なことって言いながら、
   恐怖にゆがんだ顔を必死に隠そうとしていた。あの人は、最後まで私に怯えていたのよ。

 ――他の人の命も、一族の悲願も、私にはどうでもよかった。私の世界はこの屋敷の中だけだったし、悲願を達成した
   ところで、私が死ねば一族も絶える。本末転倒じゃないか、そんなことに何の意味があるのか、ってね。

 ――それでも私はこの屋敷を離れることができなかった。妖忌は私の好きにしたらいいって言ってくれたけど、
   この屋敷中にいる“みんな”がそれを許してくれなかった。

 ――何も言わない。代わりにただじっと私を見ているの。寝ているときも起きているときも、まだか、まだかって。
   ……気が狂いそうだった。そんなときよ、紫。貴方と出会ったのは。

 ――貴方は一緒に遊んでくれた、一緒に寝てくれた、一緒におしゃべりをしてくれた、初めてのお友だち。

 ――私には貴方が輝いて見えた。ありのままの感情を出せる貴方がとてもまぶしかった。私の知らなかったものを
   持っていた貴方が尊いものに感じられた。

 ――だから思ったの。他の人の命も、一族の悲願も、私にとってはどうでもよかった。

 ――でも、貴方を護れるのなら……そう思ったとき、私は初めて自分の力が好きになれた気がするの。
   大切な人を護れる力が自分にはあるって思えたから。

 ――だから……紫……ありがとう……ごめんなさい……。


 一瞬とも永遠とも思える時間が過ぎて、声が消えていく。
 そして、舞い散る桜の中、幽々子は崩れ落ちるように倒れて、動かなくなった――。





 それから先、何があったのかよく覚えていない。
 気がつくと、私は幽々子の部屋で妖忌と向かい合って座っていた。

「紫様、これを」
「……これは?」
「幽々子様の形見の扇です。自分の死後は貴方に、と」
「……そう。それじゃあ貰っておくわ」
「ありがとうございます。貴方が持っていてくだされば、幽々子様もきっとお喜びになるでしょう」
「……そうね」

 扇の重みを手に感じて、形見という言葉を聞いて、私はもう、幽々子がこの世にいないことを知った。



きりがいいのでここで一区切り。
今回は紫が主人公です。
紫といえば幽々子…冥界組の出番多いなあ。
妖忌は妖夢の師匠だから堅物、でも…という感じで。

ともあれ、ここまで読んでくださってありがとうございました。
aki
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1000簡易評価
2.70頼里隹削除
面白かったっす、これからもがんばってください!
18.70おやつ削除
後編読んで戻ってきました。
レートと点数読みしてた自分が憎い!
良いお話でした。
19.100ke削除
え?点数低すぎじゃない?個人的に3000点以上におもしろいんだけど・・・

点数低い、読む人少ない、の悪循環かな?
感想を先に見て読むか決める人は、点数に騙されずに読んでみようw
(勝手なこと書いてますな自分、作者さま申し訳ない・・・