Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼異聞(後編)

2003/11/20 22:44:39
最終更新
サイズ
9.04KB
ページ数
1
閲覧数
856
評価数
5/44
POINT
1940
Rate
8.73

「……紫殿」
 後ろから聞き覚えのある声がしたので、紫が振り向くと、そこには妖忌が立っていた。
「…あなたは」
 少し掠れた声で、紫が反応する。
「ひどい顔だな…」
「……女の子に向かって、その言葉は無いんじゃない?」
 精一杯の反論をすると、紫は再び俯いた。これ以上、ひどい顔を見られたくなかったから。
「―――お嬢様」
「!」
 妖忌が、紫の隣にしゃがむ。その手には、大きな白い布。
「お嬢様の、遺言だ…」
 紫の体が、ぴくりと動く。
「………………何?」
「……お嬢様の亡骸を使って、西行妖を封印してくれ、との事だ……」
「封印…」
 紫は、西行妖を見上げた。
「何が…あったの? 教えて頂戴………」
「…分かった」
 妖忌は、語り出す。この屋敷で起こった、惨劇を。


「………そう、だったの」
「ああ……」
 全てを語り終えた妖忌は、拳を握り締めた。そのまま地面を殴りつける。
「くっ…! 私が居ながら、この様な事に……!」
 無念に歪む表情。そんな妖忌の姿を見た紫は立ち上がり、こう言った。
「…今は、悲しんでいる時では無いわ………妖忌、手伝って」
「紫、殿…」
「せめて…幽々子の願いだけでも、叶えてあげなきゃ………」
「………ああ………」


 西行妖の勢いはいよいよ増し、霞の如く花弁が宙に舞っていた。その下に、人一人が入る程度の穴が掘られていた。
「もう、いいかしら…?」
「…ああ。では、お嬢様を……」
「分かったわ…」
 白い布に包まれた幽々子の亡骸を、穴の中へ入れる紫。その上に、幽々子から貰った扇子をそっと乗せて。

「………………」
「………………」
 埋葬が、終わった。しかし、残された二人には、まだやるべき事があった。
「一口に封印と言っても色々あるけど……どうすればいいのかしら?」
「お嬢様は、西行寺家の書架に封印に関する資料があると言われていた……恐らくは、そこに」
「あるのね?」
 妖忌の言葉を聞いた紫が、屋敷に向かおうとする。しかし、妖忌がそれを止めた。
「私が行こう。紫殿は…お嬢様の隣に居て貰いたい」
「………分かったわ」
 そして、妖忌が書架に向かった、その時。


 オオオオォオオオオォォォオオオォォオーーーーーーン―――――――――


「「――――――ッッ!!?」」
 大気が、震えた。びりびりと、地をも震わす、その振動。西行妖が、震えていた。

 ―――西行妖が、鳴いていた。

 花弁が、総毛立つ。
 次の瞬間、花弁が次々と西行妖から零れ落ち、瞬く間に蝶の形へとその姿を変え―――
 辺りを、覆い尽くした。

 放たれた蝶は、白玉楼を飛び交い、敷地の外へ出ようとして、何かに遮られた。

「―――まさかっ!!」
 その蝶の行動に、いち早く反応したのは、妖忌だった。
「…何!? 何なの!?」
「この白玉楼は、西行妖の力を敷地外へと出さぬ様、先々代が結界を施してあるのだ! あの蝶等は、それを越えようとしている…!」
「何ですって!? それじゃあ、あの結界が破れたら……!」
「ああ、西行妖の力が、外に漏れ出してしまうっ…!」
 そうなれば、恐らく更に多くの被害が出る。
「どうするのっ!?」
「案ずるな! この白玉楼の結界は、そんな柔なものでは無―――」
 そう妖忌が言った時、異変が起きた。

 カッ――――――!!

「! 何ぃっ!?」
 西行妖から、一筋の光が放たれた。その光は、白玉楼の結界に当たり、それを歪ませる。
「結界を破ろうとしているのか!? 西行妖が………………………………なっっっ!!?」
 光源の方を見た妖忌が、驚愕する。ややあって、同じく『それ』を見た紫も、信じられない光景を目の当たりにした。

「―――お嬢様っっ!!」
「―――幽々子っっ!!」

 そこに居たのは、紛れも無く幽々子の姿であった。中空にふわふわと浮き、光の筋を発射する。
「何故っ…!? お嬢様が……!?」
 愕然とする妖忌。しかし、紫は『ある事』に気付いた。
「あれは………幽々子の、魂!?」
「!! 何だと……!? 何故…!?」
 地上に居る二人に全く気付く様子の無い幽々子の魂。その表情は、暗くてよく見えない。そしてまた、光を放つ。
「恐らく…西行妖が、幽々子の魂を力として利用しているのよ。元々、西行妖の死の誘いに幼い頃から耐えられてきた幽々子の魂が、西行妖に力を与えた………この結界を破る為の!」
「何っ……!?」
 紫の言葉を聞いた妖忌が、西行妖を睨みつける。
「おのれ…魔性の桜め……! 散々利用してまだ尚、お嬢様を苦しめると言うのか…!!」
 その様子を見た紫が、提案をした。
「今から封印の資料を探していては、とても間に合わないわ…! 妖忌! こうなったら、私が西行妖を封印するわ!!」
「出来るのか!?」
 その言葉に、紫は微笑んだ。
「当然よ………何と言っても、私はあらゆる境界を操る、すきま妖怪なんだから!」
「ふっ…そうか、そうだったな! で、私は何をすればいい!?」
 妖忌が、刀を構えた。
「一瞬でいいわ……西行妖の動きを、止めて。そうすれば私の全力を以って、西行妖を死の世界………冥界に封印する事が出来るわ」
「冥界…!?」
「いくら死に誘う西行妖でも、死の世界に居たんじゃあ、その力は水の中で蛇口を捻る様なものだからね」
「成る程、では―――」
「ただ……」
 不意に、寂しげな顔をする紫。
「何か、問題でも?」
「………ええ。白玉楼全体で西行妖を封印している以上、この一帯ごと冥界に送る必要があるわ……。つまり、あなたも一緒に冥界に送らなければならなくなる……」
「…そんな事か。それならば、問題無い。私は半人半霊の身故、その程度どうという事は無い! それに…冥界には、お嬢様も来られる……私は、そこで再びお嬢様と会う事が出来るのだ………」
「妖忌……」

 妖忌の強い眼差し。それを見て、紫は意を決した。展開したすきまに跨り、空へと舞い上がる。
「私は空から封印を施す準備に入るわ! …西行妖を、頼んだわよ!!!」
 そして、空中で一度止まり、妖忌に向かって叫んだ。
「またいつか―――あの世で会いましょう!!」

「………………………………承知!!!!」
 刀を高く掲げ、妖忌は応えた。


 対峙する、妖忌と西行妖。妖忌へと襲いかかってきた蝶は、妖忌の体から立ち昇る裂帛の気に圧されて、次々と落ちていった。


 オオォオオオォォォオオオォォオオーーーーーーン―――――――――


 西行妖が、鳴いた。まるで妖忌に気圧されんとする様に。


「西行妖よ…まさか、貴様と再び刃を交える事になるとはな……。西行寺家先々代と私で、貴様を封印した時以来か………」


 オオォオォオオォォォオオオォォオーーーーーーン―――――――――


「あの時は…私の未熟さ故、貴様に命を半分『持って行かれた』。そのお陰で、私は今や半人半霊の身………否、私だけでは無い。私の後代も、同じだ。全く、貴様は恐るべき妖怪桜よ………だが、今度はそうはいかぬ!!」


 オオオォオオオォォオオオォォオオーーーーーーン―――――――――


「西行寺家専属庭師兼警備長、魂魄妖忌の最大奥義を持って、貴様に永久の眠りを与えん!!!」


 ダッッッ!!!

 妖忌が、跳んだ。目指すは、西行妖の、中心点。しかし、その少し上には、幽々子の魂。

「お嬢様!! この魂魄妖忌、一度だけ、主君に刀を向ける非礼をお許し下さい――――――!!!」


 オォオオォオオオォォォオオオォオーーーーーーン―――――――――





「六道剣―――――――――『一念無量却』ッッッッッッッッ!!!!!」





          キンッ         !!!





 風が、薙いだ。妖忌が渾身の力を持って振るった刀は、しかし西行妖に傷一つ付けていない。が、それは当然。元より刀は、西行妖を斬ってはいない。


 ―――ぴしっ


 大気が、割れた。
 空間を裂いた剣閃の跡が、西行妖を取り囲む。一本、二本、三本、四本………数え切れない。


「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなどない――――――」


 そして、裂け目から溢れ出す、力。
 その力は形を成して暴れまわり、西行妖を責め苛む。


 オオォオオオオォォオオォォオオオーーーーーーン―――――――――


 その叫びは、西行妖の断末魔か。それは誰にも分からない。
 ただ、一つ。確かな事は、

 西行妖が、止まった。

「今だあーーーーーーっっっ!! 紫殿おおおおおーーーーーーっっっっ!!!!」
 妖忌が、吼えた。その叫びは天を衝き、紫に全てを伝える。

「行くわよ………………破っっっ!!!!!」

 ありったけの魔力を、空に放つ。そして、封印の呪印が白玉楼を包み込み。

 ―――刹那、光に包まれる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!!


 空が、震える。小高い山の上に建てられた白玉楼の上空が、ばっくりと裂けた。
 その裂け目から、光の奔流が迸り―――白玉楼を飲み込む。

 その様子を、妖忌は西行妖の下で見ていた。視界が真っ白に染められてゆく。何もかもが、見えなくなってゆく。

「妖夢よ…私は悪いお祖父ちゃんだな……。お前には、普通の暮らしをして欲しかったというのに……こんな目に遭わせてしまって………」

 妖忌は、沈黙した西行妖にもたれかかり、最後に、微笑んだ。


「紫殿………一足先に………お嬢様と………………待っていますぞ………………」


 そして白玉楼は、幻想郷から、この世から―――完全に、姿を消した。












 白玉楼跡に佇む、一つの影。
「………………………」

 彼女の周りには、何も無い。ただ、荒涼たる大地が広がっているだけ。あの長い階段も、美しかった楼も、目の覚める様な桜の森も、今はもうどこにも無い。

「幽々子………結局、私はあなたを救えずに…こんな事しか出来なかった………」
 がくり、と膝をつく。満開の妖力を湛えた西行妖の近くに居た事と、魔力を全力で使った事が、紫の体に大きな負担となって圧しかかっていた。
「っはあ……流石に、キツかったわ、ね………」
 地面にうずくまり、喘ぐ。その視線の先には、茶色の大地…
「…!!」
 否。何かが、地面から、顔を出している。そして、その物体に、紫は見覚えがあった。
「う、そ―――」
 我が目を疑った。だって、それは、

 紫が、幽々子と共に埋葬した、扇子。

「何で……」
 まさか幽々子の亡骸は、冥界に送られていないのか。そう思った紫は穴を掘ったが、幽々子の亡骸は出てこない。つまり、この扇子だけが、現世に残ったのである。

「幽々子………あなた………」

 つ……

 一筋、涙が零れた。扇子を拾い上げ、抱きしめる。

 紫は、感じていた。

 たとえ肉体が現世に無くても。魂が、冥界にあろうとも。


 幽々子は、ここに居る―――


「あ―――」

 不意に、世界が暗転した。

 全てが終わり、緊張の糸が切れた紫の体は、重力に逆らう事無く、地面に倒れ込んだ。
本来の予定ですと、この話にちょっとしたエピローグを書く事で終わりだったのですが、もう少し書き込みたいのであと一話だけ続けさせて貰います。

それはさておき。
妖忌がやたらと熱いキャラです。紫が全然胡散臭くないです。西行妖が凄いおかしいです。妖忌と西行妖の因縁がでっち上げです。とにかくみょんな設定ばかりです。みょん………

(11/21:追記)手直ししました。使い過ぎと言われた『…』と『―』を出来るだけ削りました。
謎のザコ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1770簡易評価
1.10使削除
それだけ自分で欠点が解っているのであれば、全部克服してから投稿してほしかったです。東方の二次創作と見なければ筋自体は悪くないのですから。あと…と―を使いすぎですね。
2.30ななすぃ削除
妖忌が凄い熱い! 一念無量却を放った辺りが非常に格好良かったです。妖忌燃え~。しかし、使氏が言うようにちょっと『…』が多かった気がしますね。
3.40774削除
中篇の儚く美しい流れとうって変わり、某少年誌の様な暑い展開で来るとは・・・。貴方のみょんな設定、結構好きです。妖忌『 蝶 最 高 !!』    

4.40削除
妖忌がともかくかっこいい!!あと、これ読んでるとスキマ様がとても良い人(人?)に見えてきて不思議wでもこんな紫んも有りかな、と(^^)
5.50すけなり削除
 手直し後に見たのでそれらしい欠点はなかったですね(当たり前<br>
妖忌が格好よかったし、紫も良い感じでした。 あの強力な結界は紫んが創ったものなのかー。そして現世(幻想郷)からは、結界があって入れない&荒野が広がってるように見えるだけ…と(ぇ