Coolier - 新生・東方創想話

風が辿り着く場所

2014/08/25 21:54:36
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朝靄の煙る朝の光の中を三人が西に飛ぶ。
目前に迫る妖怪の山、その中心を貫くように山頂に続くロープウェイの索条――ゴンドラを吊るすロープが続く。
「なぁ、どうしてこんなに朝早いんだ?」
風で帽子が飛ばされないようにしっかり押さえながら、魔理沙が先頭を行く早苗に声を掛ける。
「今日も人里からたくさんの参拝客が見えるはずです!」
ロープウェイが運航を開始する前に破壊してしまわないと、里の人たちが巻き込まれてしまいます!
結局、早苗と魔理沙、二人が出した結論はロープウェイの破壊。
二柱の心変わりの原因が分からないなら、その一因であるロープウェイを破壊してしまう他は無い。
もし黒幕が他にいるならそれを防ぎに出てくるだろう。
そこを三人で叩く!
「……ずいぶん単純な作戦ねー」
呆れたように呟く霊夢に、魔理沙が豪快に笑う。
「つまり、いつも通りって事だ!」
どんな異変も、とりあえず出会う妖怪を力任せに排除したら解決してたからな!
そう言われると霊夢も返す言葉が無い。
「でも、こんな距離の長いロープウェイをどこから破壊するの?」
「あそこです!」
と、早苗が指差すのは山の中腹。
ゴンドラを吊るす索条が交錯する、一番大きな支柱。
ここを壊せば、しばらくは再開できないはずだ。
が、先頭を飛ぶ早苗が空中で止まる。
それに合わせて後続の魔理沙と霊夢も停止して、彼女の視線の先を見る。
鉄で作り上げられた巨大な支柱の天辺。
二人の人影……、いや、二柱の姿が見える。
「……向こうも予想済みか」
「……神奈子様、諏訪子様……」
悲痛な表情で二柱を見る早苗に、支柱に座っていた神奈子と諏訪子が立ち上がる。
二柱とも今の早苗と同じ表情。そして、それよりも覚悟を秘めた顔で。
「早苗! 友に別れは済んだのか?」
神奈子の言葉に拳を強く握る。
私は……。私は……。
「私は、元の世界に帰るつもりはありません! たとえそれがお二方の言葉と言えども!」
手にした大幣に指を添えて、二柱に向けて構える。
その姿に諏訪子も表情を歪ませて。
「我儘を言うんじゃない。困らせないでおくれ……」
「何故ですかっ!」
私は幻想郷に来て数年間、ずっとお二方に寄り添ってきた!
お二方の信仰の糧になればと働いてきたつもりです!
「……何が不満なのですか?」
構えを崩すことなく、早苗の強い瞳から涙が毀れる。
その滴に神奈子と諏訪子、双方が顔を背け。
「……別に不満は無い。良くやってくれたと思っている……」
「ならばっ!」
「だけどっ!」
遮って、諏訪子が叫ぶ。
「だけど、ダメなんだ! これ以上、早苗はここに居ちゃいけない!」
「理由ぐらい、言ってやったらどうだ!」
魔理沙の言葉に首を振る。
言っても仕方ない。言ったところで、早苗を苦しめるだけなのだから。
そうなる位なら、純粋に私たちだけを恨め。
「もし、我らの言葉が聞き届けられないというのなら……」
神奈子の背後に巨大なオンバシラが浮き上がり、諏訪子の足元に巨大な白蛇……ミシャグジが湧き出る。
その姿に霊夢は袖口からお札を取り出し、魔理沙も懐からミニ八卦炉を構える。
「先手必勝!」
軽やかに箒の上に立ちあがった魔理沙が八卦炉を構えて狙いを定める。
『恋符! マスタースパーク!』
スペルの宣言と同時に光の魔方陣が展開し、中心から巨大なレーザーが射出されて一直線に伸びる!
狙いは……ロープウェイの支柱!
が、神奈子の腕の一振りでオンバシラが何重にも光線の行く手を遮り大爆発を起こす!
「ちぃっ!」
舌打ちする魔理沙の周りに赤と緑のレーザーが錯綜し、慌てて箒にまたがって空を駆ける。
そのレーザーの中をさらに神奈子の生み出した米粒弾が所狭しと迫ってくるのを早苗と霊夢も掻い潜り。
「私に至らぬところがあったら直します、言って下さい!」
早苗の悲痛な叫びが弾幕の中に響く。
「そんなモノは無い! むしろ……私たちの我侭によく耐えてくれた……」
次々と弾幕を放ちながら、神奈子が叫ぶ。
お陰で……ここまで力を取り戻すことが出来た!
次々と無尽蔵に現れるオンバシラの雨に、早苗が目を見開く。
待ち望んでいた……信仰の力……神奈子様の……本気!
「莫迦、ぼうっとしない!」
霊夢が放ったお札が結界となり、一瞬だけその弾幕の足を止める。
その隙に早苗を小脇に抱えて弾幕をすり抜けて。
「あらよっと!」
天空から魔理沙の放るフラスコが炸裂して、色鮮やかな弾幕で目をくらます。
霊夢の腕の中で、早苗が震える。
「……早苗……」
師とも親とも慕う二人から本気の力を向けられたショック。
悲しい瞳を向ける霊夢、だが。
「神奈子様のバカっ! 大雑把! 無神経!」
「なっ?」
突然の早苗の叫びに神奈子が手を止める。
「何を言ってるんだ! お前だっていつも天然で冷や冷やさせてきただろうが!」
勝手に妖怪退治に出掛けては大きな異変に巻き込まれて!
どれだけ私や諏訪子が気を揉んでいたか!
「こらっ、神奈子! 手が止まってる!」
思わず応酬する神奈子に諏訪子が注意するが。
「諏訪子様もバカっ! 自分勝手! ぐーたら!」
なぁにぃっ?
今度は自分に向けられた矛先に目を向く。
何をいまさら!
「分かってて一緒に暮らしてきたんでしょっ! ズルいよっ!」
「いーえ、この際ハッキリ言わせてもらいます!」
霊夢の腕を振り解き、早苗が二柱の前に立つ。
「お二人は神様です! だからこそ、人間の世界に疎すぎる!」
私生活も無頓着、信仰だって行き当たりばったり!
だからこそ……だからこそ!
「私が、ずっと傍にいないと……いけないんじゃないですか……っ!」
流れる涙、垂れる鼻水を物ともせずに早苗が思いの丈を二柱にぶつける。
お二方は、ただお仕えする神様、というだけじゃないんです……。
「私にとって、家族と言って差し支えないほど……掛け替えのないもの……」
「……早苗……」
その言葉に、神奈子と諏訪子が顔を伏せる。
『霊符 夢想封印』
小さな言葉が響き、辺りに色とりどりの巨大な光の弾が生まれる。
はっとしてその声の主に目を向ける早苗。
霊夢が静かな瞳でスペルカードを構えて。
固まっていた二柱に向かって光の弾が叩きこまれる!
次々と爆炎が巻き起こり、神々がその中に消えていく。
「霊夢さんっ?」
今……お二方を説得……。
「……甘い」
取りすがる早苗に首を振る。
弾幕勝負の中で足を止めるなんて、自殺行為。
「だからって!」

「……良いんだ、早苗……」

立ち込める煙幕の中から、神奈子の声が響く。
直撃、だったはず。やはりこの程度では……。
妖怪の山から吹き降りる風に煙が払われ。
二柱がお互い背を合わせるように現れる。
目に見えるダメージは、無い。
「おいおい、マジかよ……」
ただ唖然と口を開く魔理沙。
以前闘った時とは段違いすぎる。
「そう、これが本来の私たちの力だよ」
「早苗が取り戻してくれた、信仰を獲る神の姿だ……」
だからもう、安心してくれ。
私たちは、もう大丈夫なのだから……。
「どういう……意味です?」
涙に濡れる頬をそのままに問い返す早苗に。
二柱の神々はようやく笑顔を向ける。
「早苗、ありがとう。私たちを家族と言ってくれて……」
これからも、私たちは信仰を獲続けることが出来るだろう。
だけど。
「早苗は早苗で、幸せにならなくちゃならない」
「私は十分幸せです! 神奈子様、諏訪子様の隣で……!」
叫ぶ早苗に諏訪子は穏やかに首を振り。
駄目なんだ、それだけじゃ。

「早苗には本当の家族が待っているじゃないか……」

その言葉に早苗が固まる。
久しく会っていない、父と母の姿が脳裏をよぎる。
結界の外で。消えた娘をいつまでも待ち続ける。
幸せは一人で掴むものじゃない。
「今までよく私たちに仕えて来てくれた……」
「あとは、お前をそこまで育ててくれた親御さんに恩返しするんだよ……」
「でもっ!」
それでも食い下がる早苗に、二柱が悲しい顔を見せる。
そうだろうね。そうだろうとも。
早苗は良い子だ。だからこそ。
私たちの願いを聞き届けてはくれないんだろう。
それが分かっていたからこそ、言い出せなかった……。
「お前、外の世界に親が居るのか……」
魔理沙の言葉に、早苗が俯く。
考えれば当たり前だ。人間、誰しも一人で存在することは出来ない。
「親と、ケンカしてきたのか?」
首を振る。
じゃあ、外の世界では急に娘が消えて……。
「それじゃこいつ等の言う事の方が正しいじゃないか!」
「でも、魔理沙さんだって家を勘当されて!」
「だからこそだ! だからこそ……親を大事にしないといけないだろ……」
いくら勘当されていても、生きているのは分かる。
離れても気には掛けている。それが、お互い分かるからこそ。
「早苗、この神様たちと両親、どっちが大事?」
霊夢の問いかけに、口籠る。
幻想郷にやって来たことに悔いはない。
だけど、改めて問われると……即答は出来ない……。
どちらかを選び取るものでもない。
「でもっ、お二方を想う気持ちに偽りは……!」
ぴっ!
顔を向ける早苗の額に、霊夢がお札を貼る。
これは……。
「弾幕勝負に、一瞬でも迷いがあれば命取りになる」
抱え墜ちなんてもっての外。
そんな弱さで、この世界を生き続けるには限界がある。
だから……貴女は……。
「霊夢……さん……?」
霊夢の口元が小さく動き、早苗が動きを止める。
四肢が力なく垂れ下がり、札の力だけで空中を浮遊する。
「おいっ、何をしたっ?」
魔理沙の言葉を無視して、霊夢は二柱に向き直った。
「早苗が幻想郷から外の世界に戻るなら、その記憶は封印させてもらうわ」
「……お前、何を言って!」
胸倉を掴みあげる魔理沙を手で制して。
静かな瞳を彼女の怒りの籠った強い眼差しに合わせた。
「これが私の、結界の管理者の仕事。幻想郷と博麗大結界を維持するために、必要な措置……」
幻想郷は全てを受け入れる。残酷なほどに。
来る者は拒まず……そして、去る者は追わない。
そして。
「……お互いが哀しみを抱えて離れるよりは……マシだと思うわ……」
ポツリと、呟いた霊夢の瞳が揺らぐ。
その言葉と、表情に神奈子と諏訪子が息を呑む。
「霊夢、お前……」
魔理沙が腕を外し、俯く。
霊夢も、悲しみを抱える覚悟をしている。
早苗の記憶から、幻想郷の全ては失われるだろう。
彼女の、現人神としての力も。
それでも。
守矢の二柱が彼女のヒトとしての幸せを望むなら。
私もその枷を共に負う。
「……お前がそこまで言うのなら……」
その覚悟の表情に、魔理沙も小さく頷く。
たとえ早苗が私たちを忘れたとしても、私は忘れないぜ。
霊夢の腕の動きに合わせて、ゆっくりと力なく早苗の身体が神奈子と諏訪子の前に移動して。
その身体を神奈子が大事に抱きしめる。諏訪子がその髪を愛おしくなでる。
この子は、風。
私たち、滅び行く神々の中に吹き渡った希望の風。
その風のお陰で前を向ける。存在していける。
さぁ、お行き。私たち二人の想いは、常に早苗の傍に。
そこに風が吹く限り、私たちはいつもそこに居る。
神々の祈りが溢れ、早苗の身体が光に包まれて……。

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