Coolier - 新生・東方創想話

幽々子と妖夢 今夜は月が丸いですね

2014/08/20 02:15:12
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 彼女のか細い指先によって盃が揺らされる。
 並々と注がれた透いた酒は、その動きに合わせて波立った。

 水面に映っていたまん丸の月がうねって見えて、ああ、と思う。

 ――消えて、しまうのか、と。

 だけど揺れが収まるに連れて、直ぐに月の映し身は戻ってくる。

 私はその動きを瞳で追い、ぽーっとしていた。

 日が沈んで、お仕事も、湯浴みも、夕餉も済ませて、後はもう眠るだけという頃。
 幽々子様に誘われて、私は縁側に腰掛けていた。

 幽々子様は鼻歌を歌っていて、ご機嫌なご様子。
 揺れる両足、着物の隙間から覗く素足、陶器の様に澄んだ色。
 踝や関節、爪の先まで美しい。
 月明かりの下だから、と云う訳ではなく――確かにその淡さは幽々子様に似合ってはいるけれど――寧ろ、月光は幽々子様の美しさを慎ましやかなモノにしている様に感じられた。
 
 盃の縁が口元へと近づき、その紅い口腔へと酒が流れこむ。

 どうして私は他人が酒を呑む様をまじまじと見つめているのだろう。と思うのだが、どうしても目を離す事が出来ない。

 とくりっ、と喉が鳴って、喉が小さく蠢いて、やはりその様子を私は観察していて。
「幽々子様、お酒とは美味しいのですか?」
 などと、無粋な事を訊ねてしまっていた。

「美味しいと云うのとは少し違うのかもしれないわ」と、幽々子様は云う。

「美味しくないのに、呑むのですか?」と、私は子供らしい質問を続ける。

「美味しいとか、美味しくないとか、良く分からないわ」
「幽々子様が分からないだなんて、珍しいですね」
「世の中には『分からない』事がそのまま『正解』だって云う事が、往々にしてあるんじゃないかしら」

 お酒の所為なのか、今日の幽々子様はいつになく饒舌だ。
 いや、饒舌ではなく、何か、彼女の芯の部分に近づいた様な、そんな気がした。

「何と云うか、幽々子様らしい、ですね」
「だとすればきっと、妖夢らしい、もあると云う事よ」

 幽々子様はもう一度、今度は軽く舐める様にして、酒を呑む。

「こう云うモノは、一度、嗜んでみるのが一番手取り早いわ」
「そもそも幽々子様はそのつもりだったのでしょう?」

 私が此処に呼ばれたとき、既にこの場には私の分の盃まで用意してあった。
 つまり、そう云う事なのだろう、と思う。

「そろそろ頃合いかしらと、思ったのよ」

 云いながら、幽々子様は私の是非を確かめず、盃に酒を注いだ。

「頃合い、ですか」
「ええ。父親と云うのは、息子と盃を交わす日を今か今かと待ち望むそうじゃない」
「……それが今の私たちとどの様に関係するのか、私には図りかねるのですが」
「私は貴女とお酒が呑みたかったのよ、と云う部分だけ分かれば宜しい」

 幽々子様そう云って、私にお酒を勧めた。

 私は訳も分からないまま、盃を傾け、一気に注がれていた分を呑み干した。

 途端、苦味と辛味が喉の奥で暴れ、カッと熱くなる様な不思議な心地に包まれ、とにかくありとあらゆる人生の始めてに襲われ、私は盛大にむせ返ってしまった。

「あら、そんなに慌てて呑むからそんな事になるのよ」

 云いながら、幽々子様の顔には微笑みが浮かんでいた。
 きっと彼女はこうなる事を予め予期していたのだろう。
 つまり私は、良い見世物になってしまたっという訳だ。

 私が渡された布巾で口を拭っていると、とくりとくりと次のお酒が盃に注がれた。

「云いながら、注ぐんですね」
「咽たから、はい終わり、と云うのも芸がないでしょう?」
「そりゃあ、そうですが……」


 答えながら、私は重心が小さく揺らぐのを感じた。
 船を漕ぐ様な感じではなく、揺り籠の中で眠る様な、そんな気持ちが良い揺れだ。
 喉の奥に熱が残り続けているような、その熱が、頭の方をじわりじわりと侵食していくような心地がした。

「お酒を呑みながら難しい話はなしにしましょう。折角、妖夢の始めてを頂いたんだから」
「その云い方には悪意を感じます……」

 再び幽々子様に勧められ、私はくいっと酒を口へと流しこむ。今度は自重して半分程の量を。
 少しだけ口が慣れたのか、先ほどの酒がまだ残っていたのか、先ほどの様な衝撃は襲ってこない。

 ただ、苦辛い(としか私には表現出来ない)味が口の中に広がって、喉がまたまた熱くなった。

「どうかしら、妖夢。美味しい?」
「……確かに、美味しいとか、美味しくないとか、良く分からないです」

 幽々子様は私の回答に、今度は緩やかな笑みを浮かべた。

 試しに、ともう一度口に含んでみる。

 ――うーん、やっぱり分からない。

 盃二杯分を呑んだだけで、お酒を語ろうなんて事が烏滸がましいのは分かっているけれど、巧く言葉に出来ない靄々が私を襲う。

 ――あ、でも、ぽわぁ、ってするなぁ。ぽわぁって。

 微睡みの中のあの夢心地が延長されたような、正に夢の様な心地が私を包む。
 これが『酔っ払っちゃった』と云うやつなのかな、と、私の頭はぐるぐる悩む。

「何と云うか、美味しいと云うよりも、面白いって、感じですね」
「云い得て妙、と云うやつね」
「うーん、あとは、何でしょう……気持ちいい、みたいな感じですね」
「私は『面白い』の方が好きよ」

 なら、やっぱりお酒は気持ちいいではなく、面白いなのだろう。
 幽々子様がそう云うのであれば、間違いない。

 私は酒が無くなっている事に気づき、続くお酒を盃に注いだ。

「そう云えば、幽々子様はおつまみとか食べないですよね。意外です」
「太っちゃうじゃない」
「……何を今更」
「あら、おつまみって結構バカに出来なかったりするのよ?」
「バカに出来ないのかもしれませんが、そう思うのなら、普段の量を減らしましょうよ」

 白玉楼の財成の八割が食費で消える現状を、決して楽観する事は出来ない。

「と云うのは冗談で……」
「今更冗談にされても困りますよ……」

 幽々子様は笑って誤魔化した。
 私は自身の盃が空になっている事に気づき、お酒を注ぎ直した。

「おつまみがあった方がお酒は進むけど、濁っちゃうじゃない。味が」
「そう云うものですか」
「強いて云うなら、何だって良い、と云うのが本音かしら。空気が美味しいなら、それがつまみになるわ。華鳥風月を噛み締めれば、ね」

 そう云えば幽々子様は良く、景色を眺めながら――あ、盃が空だ。注がないと、注がないと――で、あれ、何の話をしていたのだったか。

「……そうですね、空気は美味しいです」確かこんな話をしていた筈だ。

 幽々子様を見つめると、少し心配気な顔でこちらを見ていた。
 そんな表情久しく見ていなかった様な気がする。
 つまり、私は幽々子様に心配されない様な、立派な剣士になれたと云う事なのだろう。

 だけど、そんな私を幽々子様が心配する理由とは、いったい何なのだろう。

「どうかしましたか? 幽々子様」
「……少し無粋な事を云いそうになってしまったってだけ。でも、敢えて云わせて貰うなら、あんまり呑み過ぎてはダメよ――って、人が注意してる時に注がないの」

 幽々子様はそんな事を心配していたのか、と私は安心しながら笑った。

「大丈夫ですよ、幽々子様。私は酔っ払ってなんかいませんから。ちょっとだけ眠くなったかなあとは思いますが、ええ、まだまだ晩酌に付き合えるだけの余裕はありますから」

 何だか今日は偉くいろいろな事を喋りたい日だなあと思いながら、幽々子様を見つめ直す。今度は、慈愛の眼差しを向けられていた。

 ――しかし、幽々子様はお美しいなあ。

「幽々子様はお美しいですね」

 と思っていたら、口から本音が零れ落ちた。
 だけど、不思議な事にあまりどきどきはしない。
 云いたい事を云っただけだ。
 思った事を云って何が悪いの?
 と、私の中の何かが居直っていた。

「そう云う妖夢も赤らんだ顔が可愛らしいわ」

 幽々子様が対抗してきた。
 けれど、今日の幽々子様はいつもの様なキレがないようだった。
 だから私にはまだまだ言い返す余裕がある。

「幽々子様は、何かもう、エロいですよね」

 そうそう、私はこれが云いたかったのだ。

 綺麗だし、美しいし、それでいて可愛らしさも備わってはいるけれど、今の幽々子様を表現するにはその単語がピタリとくる。ピタリと嵌る。えろえろというやつだ。

「えろ……ほ、褒め言葉として受け取っておくわね」

 珍しく、幽々子様がたじろいだようだった。
 そんな幽々子様に何やら既視感を覚え、少し考えたところで、普段の私の姿と重なったのだと云う事に気付いた。
 普段は幽々子様が上手であるけれど、今は何故か私の方が上に立っているらしい。
 何故だろう?
 分からない。
 だが、この機会を逃す手はないだろう。

 何を云うべきだろう。

 暫く悩み、云いたい事を云えばいいのだと気付いた。
 それがきっと、答えだ。

「幽々子様、私は幽々子様の事が好きなんですよ」

 どんな顔をされるだろうと思っていたら、呆れた様な顔をされて、溜息を吐かれてしまった。

「いいえ、好きなんて言葉じゃあ語り尽くせないくらい好きなんです」

 もう、途中で止まるのはダメだと思って、続く言葉を一気に吐き出し続ける。

「ちょーっと顔とか見て、可愛いな、とか。ぽわぽわした雰囲気が可愛らしくて好き、とか。そう云う中途半端な好きじゃないんですよ。幽々子様と何十年も一緒にいて、酸いも甘いも噛み締めて、私だったら放っぽっちゃう部分とかもいろいろ見てきて、でも、そう云うのも全部含めてまるまるーっと幽々子様の事が大好きなんです。きっとこれは愛ってやつだと思うんです。ラブ、ラブってやつなんですね、これが」

 そして私は、とびっきりと殺し文句を口にした。

「今夜は月が丸いですね」
「……云いたい事は分かるから深く突っ込まないわ」

 ……漱石は幽々子様に余りウケなかった。

「でも、幽々子様はどうなんですか?」

 幽々子様は一瞬、目を見開いたようだった。

「私の事、どう思っているんですか?」

「いつも云ってるじゃない。私は妖夢の事、好きよ?」
「そうじゃなくってですね……幽々子様も、私が何を云いたいかくらい分かっているんでしょう? そう云う『好き』じゃなくて、私が聞きたいのは、もっと、こう、男と女の好きみたいな?」
「みたいなって、それじゃあ分からないわよ」

 幽々子様のはぐらかすかの様な物云いに、私は次第に腹が立ってきてしまう。

「私は、幽々子様が私の事を愛してるのか、愛してないのかって聞いてるんです!」
「……そんな倦怠期の夫婦みたいな事を訊かれても困るわ」
「じゃあ、愛していないんですね!?」
「い、いや、そう云う事じゃなくて……」

 幽々子様に愛されていないと云う事実が、私の心に大きな傷を付ける。
 その傷は頭をガツンと打ち抜いて、その衝撃に反応して私の涙が瞳を薄く覆った。

「幽々子様の馬鹿ー!」
「ば、馬鹿って……」

 私は走りだそうとして、縁側から庭へと飛び降りた――のだが、巧く立ち上がれず、

「あれっ、あれ……っ」

 と、その場にへたり込んでしまう。

 庭がぐわーん、ぐわーんって揺れていて、何だろう、地震かな、冥界なのにな。
 などと考えていると、幽々子様が私を抱えた。
 お姫様抱っこというやつだった。

「まったくもう。まさか私が酔っぱらいの介抱をする事になるだなんて思いもよらなかったわ」
「酔っ払ってなんていませんて!」
「……酔っぱらいは皆そう云うのよ」

 幽々子様は勘違いをしているなあ、と思っていたら、幽々子様は私を縁側へとそっと置いた。

 幽々子様の温もりと匂いを、名残惜しく感じてしまう。

 取り敢えず立ち上がろうと体を蠢かせるが、何故か立ち上がる事が出来ない。

 数十秒足掻いたが、立ち上がるのが難しそうであった為、私は横たわったまま、幽々子様を見詰めた。

 すると、むくむくと、先ほどの怒りが蘇ってくる。

「馬鹿馬鹿!」
「……妖夢に馬鹿って云われるの、思っていた以上に応えるわね」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって、もう少し怒っている感じ出さないと。私もやり辛いわ」

 困ったように笑う幽々子様を見て、ちょっとだけ怒りが収まった。

「でも、気になっちゃうものはしょうがないじゃないですか。幽々子様でも、私に嫌われたら、嫌だなーって思うんですか?」
「思うわ」

「変なの」
「変って……妖夢は私の事を何だと思っているのよ」

「幽々子様は幽々子様ですよ……あ、私、まだ怒ってますから」
「……いきなり思い出すのね。だったら、どうすれば妖夢は許してくれるの?」

 難しい質問だった。
 いったいどうすれば、私は幽々子様の事を許してあげられるだろう。
 好きだって、大好きだって、愛してるって云って貰いたいけれど、云わせた愛の囁きに意味がない事くらい私にだって分かる。

 いや、きっと、それでも、その響きは私の思考や脳を蕩かすに足る破壊力を持っているのだろうけれど、やっぱりそう云うものは強制するものではない。と思う。

 ふと、私は今の自分の姿勢を思い出す。
 今の私は、俯せになって、首を必死に曲げて幽々子様を見上げている状態だった。
 幽々子様は不思議そうに私のことを見つめている。
 もしかしたら自身の発想が表情に出て、気持ち悪い顔でもしていたのかもしれない。

 ああ、でもこれは我ながら革新的なアイデアだと思う。
 だとすれば、善は急げだ。早急にこのアイデアを幽々子様に伝えなければ。

「……膝枕ですね」
「ん?」

 姿勢の所為で、声がくぐもっていたのだろうか。巧く聞き取られなかったらしい。

「膝枕です!」

 勢い良くそう宣言した私に、幽々子様は、
「……そうすれば、妖夢は許してくれるの?」
 と、そう囁いた。

 これを了承の合図と受け取った私は、尺取り虫の要領で廊下を進み、幽々子様のお膝に頭をダイブさせた。

「あ、こらっ、妖夢――」

 鼻孔を潜って入り込んだ幽々子様の匂いが、私の脳の芯の部分を溶かしていく。
 普段から嗅ぎ慣れている匂いの筈なのだが、距離の所為か、今の気分の所為か、その匂い酷く淫らなモノのように感じてしまう。

 思い切り深呼吸をして、頭を蕩かす。お酒なんかより、初めからこっちを嗅げば良かった。

「……妖夢。それは膝枕とはまったく関係がないと思うのだけど」

 そう云いながら、幽々子様は私の頭をぽふぽふと叩いて、撫で始める。
 その柔らかな手先に、今度は外から頭が絆されていってしまう。

 仕方なく私は、向きをぐるりと変えて、仰向けになる。
 こうすると、匂いは薄くなるけれど、幽々子様のお顔が良く見える。

「こうしていると、昔の事を思い出すわね」

 どうやら幽々子様は私を通して過去を見ているようだった。

「あの頃の妖夢は可愛かった……」
「今は可愛くないという事ですか?」
「そうじゃないわ。そうじゃなくって、手の平サイズだった……みたいな?」
「幽々子様、酔っ払ってます?」
「貴女に云われたくないわ、貴女に……」

 幽々子様はやれやれと呟くと、続きを口にし始める。

「幼かったわ。本当に、自分の子供みたいだって思った」
「私も幽々子様の事はお母様の様にお慕いしていました」
「でも、やっぱり違ったわ。貴女は私の子供じゃなくて、私は貴女の母親でもなくて。かと云って姉や妹と云う訳でもない。何かに例える事なんて出来ない、私と貴女。幽々子と妖夢だった」

「そう……ですね」

「私もね、妖夢の事、好きよ。きっとこれが大好きって感情で、愛してるって感情なんだと思う」
「良いですね、それ」
「と、云うと?」
「好きって云われたり、大好きって云われたり、愛してるって云われるの、気持ち良いです。お酒呑んでるときより、よっぽど気持ち良いです」
「……そう云って貰えて、何よりだわ」

 どくんっ、どくんっ、と胸が高鳴ってしまうかと思ったけれど。
 とくりっ、とくりっ、と心地良い心音が私の内側から響くだけ。

 ――良いなあ、これ。凄い、幸せって感じがする。

 すると今度は緩やかな睡魔が睡眠と云う液体に私の頭を浸し始める。

「……ゆゆこしゃま」
「急にあざとくなったわね」
「ねむいしゅ」
「……眠いしゅって妖夢。うん、このまま眠っていいわ。今日はサービスしてあげる」

 そうして、そんな、ぬくぬくとした幸福に包まれながら、ゆっくりと、ゆっくりと私の思考は落ちていった。




       ◯




 真赤になった半霊が、妖夢の傍らに寝転んでいた。
 この半霊がいれば、半人の方がどれだけ酔っ払っているのか分かってしまう。
 いわゆる指標のような役割を果たしていた。

「まったく。酔った勢いで告白されるだなんて、思ってもみなかったわ」

 酔っ払った妖夢がどんな事になるのか興味はあった。
 笑い上戸になるのか、泣き上戸になるのか、はたまた怒り上戸になるのか。普段の妖夢はいろいろと溜め込んでいそうだから、ちょっと虐められるかも、なんて事も予想していた。

 ――まさかあんな事になるだなんて。

 まだ、胸の高鳴りが収まらない。

 どうやら私は、直接的なモノに思いの外弱いらしい。

 私自身、いろいろな経験を経て歪み切ってしまっているから、きっとそう云うものへの憧れというのもあるのだろうと思う。

 だから、今日の妖夢の言葉は、どんな美しい装飾を施した言葉より、私の心を揺るがした。
 私の心をときめかせた。

「……妖夢、愛してるわ」

 だから思わず、もう一度、そう呟いてしまった。

 妖夢は気持ち良いと云っていたが、これは、云う方も中々に気持ちの良い物である。

 なんて柄にもなく恥ずかしい事を考えていると、私の膝で眠る妖夢が身動いだ。

「なあに、妖夢。起きてるならそうと――」
「う……っ」

 妖夢は私の言葉を遮って、呻き声の様なものをあげた。

「う……っ?」

 私は聞き返すが、妖夢からの返事はない。
 見ると、半霊が青白い色となって、床の上で震えていた。

 ――あっ。

 と思った時にはもう遅く、私の膝の上は一瞬で大惨事と化してしまった。




        ◯




 起きた私をいの一番に襲ったのは頭の鈍痛だった。
「あいたた……」
 と無理やりお布団から体を引き剥がす。

 ――これはいったい何の痛みなのだろう?

 それと、昨日の夜は何があったのだろう。
 確か、幽々子様にお呼ばれして、そのあと一緒に縁側に腰掛けて……そこら辺までは覚えている。だけどそのあと、幽々子様がいったい何の為に私を呼んで、どんなお話をしたのかという肝心のところが思い出せない。

 が、そんな追憶も鈍痛によって妨げられてしまう。

 酷く喉が乾いていて、そんな私の心中を察した様に枕元には水差しとコップが置いてあった。私は二杯の水を一気に飲み干し、もう一度お布団に潜り込みたい衝動を抑えて廊下へと出た。

 太陽の位置を確認すると、既に頂点一歩手前という位置まで昇ってしまっていた。

「寝坊だ……」

 私は慌てて幽々子様の元へと走りだそうとして――頭がズキズキと痛む所為で速度を落とさざるを得なくなってしまう。小走りという何とも間抜けな姿で幽々子様の部屋を訪れる。

「幽々子様、申し訳ございません。私とした事が寝坊を――」
「妖夢、入りなさい」

 私の言葉を遮りながら、入室を促す幽々子様に、私はキツいお叱りを予想したが、幽々子様が発した言葉は、

「大丈夫?」

 と云う、私を心配する言葉だった。

「……幽々子様は私の体調の事をご存知なんですか?」

 私の言葉に、幽々子様は何故か、傷ついた乙女の様な顔をした。
 そして、直ぐにいつもの薄い微笑に戻る。

「ご存知も何も、それって二日酔いじゃない」
「二日酔いってお酒を呑んだ人がなるものですよね? どうして私が?」

 本日二度目の傷ついた乙女の表情が飛び出した。
 今度は暫く待っても、中々微笑が戻ってこない。

「えっと……もしかして、私、お酒呑んだんですか?」

 どうやらその言葉がトドメになったらしく、幽々子様は私から一気に顔を背けてしまう。

「……妖夢はお酒、呑んでなんてなかったわ。ええ、呑んでなんかいなかった」

 幽々子様は何故か、自分に云い聞かせるように、何度もそう口にした。

「でも……私、昨晩の記憶がないんですけど、幽々子様、何かご存知ありません?」
「……ご存知ありませんわ」

 何故か紫様っぽく幽々子様はそう云った。

「取り敢えず……妖夢。今は一人にして欲しいから、部屋から出て行ってくれない?」
「えっ、ええ……はい。分かりました。では、御用があれば呼んでください」

 幽々子様にそう云われてしまっては、断る訳にもいかない。
 私は大人しく幽々子様の部屋を後にした。

 ズキズキと痛む頭の原因が分からないまま、今日の予定を頭の中で組み立てる。
 私は自室へと戻って水を飲み直し、そのあと着替えて、庭の掃除をして――

 と、そんな私の思考を遮断するように、

「妖夢の馬鹿ー!」

 という、そんな幽々子様らしくない叫び声が、白玉楼に反響したのだった。

 残念ながら、私にはいったいその叫びが何に対する叫びなのか、理解する事が出来なかった。
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コメント



0.810簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
「月が丸いですね」がちょっとツボに入りました。
押されてたじろぐ幽々子様こそ至高
2.90奇声を発する程度の能力削除
可愛らしかったです
3.90絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。タイトルからもう笑いました。
>>幽々子様は、何かもう、エロいですよね
なんか凄いわかる。でも幽々子様はエロいんじゃなくてエロ可愛いと思うw
4.100ばかのひ削除
妖夢ちゃんごちそうさま
妖夢ちゃん妖夢ちゃん可愛い
6.100非現実世界に棲む者削除
色々突っ込んだりコメントしたいのですけど、多すぎるので以下のように括ります。

ゆゆみょん最高!ゆゆみょん最高!ゆゆみょん最高!



ありがとうございました。
8.90名前が無い程度の能力削除
>>幽々子様は、何かもう、エロいですよね
凄くよくわかります。
何故か幽々子様とわかさぎ姫には常々綺麗さや可愛さと同居したエロさがあると感じてました。
9.100名前が無い程度の能力削除
二人とも可愛いなあ
10.100名前が無い程度の能力削除
あまーいw
11.100大根屋削除
あぁ、もう!二人ともなんて可愛いんだ!
個人的にツボだったのは、直接的な押しに弱い面を見せた幽々子様ですね。
意外な面を見せることで、逆にそのキャラの魅力を引き立てるっていうのが、もうね……最高ですわー
17.80名前が無い程度の能力削除
酒に飲まれた人が人を飲む
あると思います!
酒で妖夢の思考回路が変わるあたりが素敵でした
21.100名前が無い程度の能力削除
まったく酔っ払いって奴はw
ほのぼのしつつ、愉快で甘い作品でした。
24.100名前が無い程度の能力削除
酔った勢いでやった事の9割はロクな結果にならない(戒め)
次は正々堂々と告白してもらいたいですね
もちろん、お酒の入った二人も素敵でした